The Beginning1
「グシャッ」
22時00分 閑静な住宅街に肉と骨が潰れるような音が響きわたる。
同時に荒い息づかいと水の飛び散る様な音、さらに道路には一つまた一つと白く小さなカケラが転がる。
夜道を照らす街灯の光が音の正体を照らし出す・・・そこには一定のリズムで拳を振り上げては下ろし振り上げては下ろしを繰り返す男の影、彼が拳を振り下ろすたび「グシャッ」という不快な音が響き続ける・・・
ーー1 16時00分 嬉優第一高等学校ーー
4月・・・肌寒さの残る空気に柔らかな日の光がいい塩梅に温もりをくれる午後
桜の花はほとんど散り、所々にできた桜の絨毯が風に乗って舞い上がる校庭
校舎と校舎をつなぐ白い渡り廊下を書類を抱え歩く少女、フワフワと栗色のボブヘアーとスカートを揺らしながら軽快な足取りで武道場へ向かう。
私は嬉優第一高等学校2年B組浅倉マナミ(16)剣道部のマネージャーをしています。
別に元々剣道部だったとか興味があるとかじゃなくて、私がマネージャーを志望した理由は剣道とは全く関係ないことなわけで・・・実は剣道部に気になる男子が居て・・・しかも・・・二人・・・・・。
武道場・・・ぶつかり合う竹刀の音と気合いの入った気勢が道場を満たし、部員達の踏込みが道場全体を揺らす。
そこにマナミが道場に一礼し、そそくさと奥の畳にあぐらをかいて部員たちを見つめる顧問のもとへ向かう。
「先生、言われてた書類持ってきました。」
「おう、わざわざすまんな」この人は剣道部顧問で2年B組担任の鬼塚聡先生(40)担当教科は現国
いつも同じジャージを着て筋肉質な体に短髪のもみあげからそのままつながった顎鬚、毛深い胸毛や腕毛などの体毛からついたあだ名は『鬼ゴリラ』または『学名ゴリラゴリラゴリラ』基本大雑把で頼りになる良い先生だけど、顔の怖さと威圧感のせいで他の生徒からは怖がられています。
そして、私の気になる二人の男子生徒というのがクラスメイトの白金竜馬君(16)と山城闘気君(16)
白金君はすごく人懐っこくて誰とでも分け隔てなく気さくに接するクラスの人気者、すごく純粋でちょっと抜けてるところもあるけど、みんなそんな彼のことが大好き
私はそんな白金君の無邪気で屈託のない笑顔がたまらなく大好きで、彼の笑顔を見るたびに癒されてしまいます。
山城君は白金君とは真逆で、いつも一人でいることが多くて近寄りがたいオーラがあります。
でも一部の女子からは人気があって『影があるところがいい』とか『顔だけならクラスで1~2を争う』と言われていて
かくいう私も山城君の影のある感じや、愁いを帯びた瞳で外を見つめる彼から目が離せなくなることがよくあります。
そして、そんな一見真逆な二人は小さい頃からの幼馴染
二人の家は隣同士で白金君は山城君の唯一の友達と言われています・・・(ただ、誰も山城君とまともに会話したことがないので詳細は不明ですけど・・・)
無邪気な笑顔で私の心を癒してくれる白金君と不思議な魅力を持つ山城君・・・私が本当に好きなのは一体どっちなんだろう・・・
「休憩」書類に目を通し終えた先生が声をかけ、部員達が防具を外してそれぞれに休憩を取ります。
白金君はジュース片手に友達と談笑
嗚呼、あの屈託のない笑顔が今日も私を癒してくれる・・・
山城君は鬼塚先生と裏口から外の草むらに出ていきます・・・タバコ片手に・・・・・
鬼塚先生は教師でありながら生徒の喫煙を黙認しています。というか喫煙する生徒を見つけると他の先生にバレないスポットを教えて「ここ以外では吸うな!!」と指導する不思議な先生です。
そんな先生だからなのか山城君は鬼塚先生の言うことだけは黙って従います。
他の先生からの注意や警告は完全に無視するのに・・・だから他の先生達からの印象は悪く、不良扱いされています。
山城君は無口な性格で、鬼塚先生と一緒にタバコを吸うからと言って何か話すわけでもなく、ただ無言でスマホをいじりながらタバコを吸います。
山城君は左利きなので左手でスマホを操作しながら右手でタバコを吸います。
鬼塚先生がどんな風にタバコを吸っているかは興味ありません。
「休憩終わり~!」先生の掛け声とともに部員達が防具を着け練習を開始、私もマネージャーの仕事に戻ります。
ーー2 18時00分 名楠町内ーー
放課後・・・名楠町を流れる鈴井川の河川敷を歩く帰宅途中の竜馬と闘気、家が隣同士の二人は自然と帰り道も同じため毎日一緒に帰る。
だが、それはただ帰り道が同じだからという理由だけではない。
「闘気、今日の夕飯何かな?」ボクらはいつもこんな感じ・・・
「・・・知るか」闘気は空返事して吸ってたタバコくわえて煙を吐きながら歩く
だいたいこんな感じで、ボクの言葉に適当な返事だけしてお互い違う方向見ながら同じ方向を歩く。
ボクらは生まれる前、母さんのお腹にいる頃からの付き合いらしい
それは母さん同士が仲良しで、家が隣ということもあってよく遊びに行っていたと母さんから聞いた。
妊娠中もお互いのお腹をくっつけて会話したりしていたらしい、ボクらが生まれてからもその関係は続き、そのままずっとこんな感じで一緒にいる。
そんなボクとは趣味も嗜好も全然合わない闘気が、何故ボクと一緒に帰っているかというと、それはボクの家で晩御飯を食べるため・・・
閑静な住宅街に隣建つ2軒の家、むかって右側(東)が白金家、左側(西)に建つ『山城工務店』と書かれた建物、一階が工場で二階が山城家になっており工場には数人の従業員が仕事を終え帰り支度をしている。
そこに竜馬と闘気が従業員や近所の住人達と軽い挨拶をかわしながら帰宅する。
「ただいま〜」
「おかえりなさい、りょうちゃん・とうくん」この人はボクの母さん白金麻美(42)
母さんはボクのことを『りょうちゃん』闘気のことを『とうくん』と呼ぶ、愛情深く料理好きでボクだけじゃなく闘気のことも自分の子供のように思ってる。
今日の晩御飯は肉じゃがとサラダと卵焼きに味噌汁、母さんはご飯に必ず卵焼きを作る、少し甘めの味付けでホッとする味だ。
食事中、母さんはその日あったことを話す、何か意見を求めたりボクらに何か聞いたりせずに一人でしゃべり続ける。ボクらは半分聞き流しながらご飯を食べる。
これもずっとこんな感じ、母さんはおしゃべりだ。
闘気はご飯を食べ終わるとすぐに換気扇の下へ行ってタバコを吸おうとする。すると母さんが
「とうくん!タバコやめなさいっていつも言ってるでしょ!!」母さんの言葉を無視して吸い続ける闘気
これもずっとこんな感じ、母さんももうあきらめたのか毎回注意はするけどそれきり何もしない。
食事の後の一服を終えて帰る時、いつも母さんが晩御飯を乗せたおぼんを闘気に持たせる。
「あいつに言っといて、食べるなら一口ずつじゃなく全部食べろってね。」
「・・・へいへい」母さんからの伝言に軽くうなずきながらおぼんを受け取ると闘気は自分の家に帰る。
山城工務店の二階にある家、玄関には無造作に散乱する靴に埃だらけの床、暗い雰囲気の廊下を抜けリビングに入ると、そこには机の上に散らばる酒瓶と吸い殻でいっぱいの灰皿に囲まれた闘気の父 山城工務店社長山城翔路(42)が机に突っ伏し眠っている。
そしてリビングの端には闘気と同じ瞳をした女性の遺影と小さな仏壇が置かれていた。
この遺影の女性は闘気のお母さんで山城愛生さん(享年37)科学者だったんだけど、闘気が12歳の時に亡くなりました。
おじさんは突然の奥さんの死を未だに受け入れられず、気力を失い酒浸りの日々を送っています。
闘気はご飯の乗ったおぼんをおじさんのそばに置いた後、遺影に手を合わせ無言のまま自分の部屋に戻ります。
おじさんと闘気はもう何年も口を聞いていません、おばさんが生きてた頃のおじさんは無口で無愛想だけどなんだかんだ頼りになる立派な社長さんで、従業員の人たちにも慕れ、おじさんとおばさんは近所では有名なおしどり夫婦でした。
でも今のおじさんは酒浸りで仕事が手につかず、山城工務店は古巣の従業員の人達が支えています。おじさんがいつでもお酒から抜け出して戻ってこられるように・・・
ニュース番組・・・こんばんは、この時間までに入っているニュースです。
本日午後7時頃大阪市内にある雑居ビルの一室が爆発、爆発の衝撃で破片が飛び散り周囲の建物のガラス・壁などを破損させる被害がでました。
幸いケガ人は出ておらず、目撃者からは爆発した部屋から武器のようなものを持った人影が飛び出し走り去っていったということで、警察はその人物を捜索中だそうです。
次のニュースです。
指定暴力団鏑木組傘下の事務所が襲われる被害が出ました。このことで鏑木組構成員数名が死傷したとのことです。
警察は暴力団同士の抗争と考え警戒を強めています。なお、周囲の住民への聞き込み調査によると事件当時、銃声などの音は聞こえなかったとのことで、詳しい犯行の経緯について事務所に居た構成員の治療が済次第、聴取するとのことです。
ーー3 21時00分 白金家竜馬の部屋ーー
白金家の二階にある6畳ほどの部屋
フローリングの床にベッド、テレビやゲーム機などの娯楽アイテム、勉強した形跡の全くない勉強机、壁に立てかけたコルクボードには友人たちとの写真を貼り付け、棚には友人たちとの思い出の品々が置かれている。
西側の窓からは隣に立つ山城家が見え、向かい合う窓の先は闘気の部屋
普段は互いにカーテンを閉めているが、用事があるときは声をかければ聞こえる、そんな距離・・・
竜馬は右手でベッドのシーツを握り締め、左手で胸を押さえ苦しんでいた。
「うっ・・・・あっ・・うぅぅ・・・・」熱い・・・胸の奥が焼かれてるみたいに熱い・・・のどがカラカラで声が出せない!・・・水!誰か水を・・・・・そうだ闘気!ここからなら闘気が気付いてくれるかも・・・
竜馬は苦しみながらも這って西側の窓に手をやり力任せに開けた
『ビッシャッ!!』っと大きな音をたてて開いた窓から涼しい風が部屋に入ってくる。
だが先に見える闘気の部屋の明かりは点いていない、恐らく風呂に入っているのだろう。
それを見て落胆する竜馬に追い打ちをかけるように胸を焼く熱が上がり、叫び声も上げられないほどの激痛が竜馬を襲う。
たまらず着ている服を破って自分の胸を見てみると胸の中心から炎が上がり、瞬く間に全身を覆った。
そしていつしか全身を焼いた炎は竜馬から離れていった。
苦しみから解放された竜馬はその場に這いつくばり大量の汗を垂らしながら荒い呼吸を繰り返す。
朦朧とする意識の中で顔を上げるとそこにはバスケットボールくらいの大きさの火の玉が宙に浮いていた。
驚くリアクションをする余裕もない竜馬に火の玉は語りかける。
「「さぁ、覚醒の時だよ!白金竜馬!!」」
突然のことで訳が分からなかった・・・さっきまで焼かれて無茶苦茶苦しかったのに、いつの間にか炎は消えてて助かったと思ったら、今度は火の玉が話しかけて・・・もうわけわかんないよ・・・・・
「な・・・何?」
「「あんたに力をくれてやるつってんだよ!」」威勢のいい女の人の声だけど・・・火の玉だしな・・・幽霊?
「「簡単に説明してやる!いまからあんたは騎神に覚醒する。その力を使ってあんた以外の全ての騎神を倒しな!あんたが最後の一人になったとき、あんたの望む願いを一つ叶えてやろう!!」」
「・・・・・へ?」
「「つべこべ言わずにさっさと覚醒しな!!あんたの力は『火』『龍』『剣』だ!!!」」そう火の玉が勢いよく言ったとたん、火の玉は炎の龍に姿を変えて僕の体を焼きながら胸に入っていった。
でも体を焼きながらっていっても今度はさっきみたいな熱さは感じない・・・それどころか身体の中に力を感じる・・・なんていうか今度は身体の中に炎みたいなもの?がある感じ・・・
ボクが身体の内側にある炎を感じ取った瞬間、体を焼いていた炎が胸の中に吸い込まれていった。
すべての炎を吸い込んだ瞬間、パッと意識というか身体が覚醒するのを感じた。と同時に腰のあたりに何か重みを感じる。
腰のあたりに手を伸ばすと何かでっかい板のような物を触った。
「何だろうと?」と恐る恐る腰のほうに目をやると腰のところにでっかい剣がくっついてた!
その剣は紐にぶら下がっているわけでも、鞘に収まっているわけでもなく、ただでっかい剣の刀身がお尻あたりにくっついてる。
恐る恐る剣をとってみると何の抵抗も無く外れたから、じっくりこの剣を見てみることにした。
持った感じ柄は驚くほど手に馴染む、刀身の大きさの割に重さを感じない、というか扱いやすいちょうどいい重さって感じ。
見た目は、刃渡り120㎝くらいで刀身の厚さは3~4㎝くらい、一番大きい幅が30㎝くらいでそこから先端まで弧を描くように伸びてて、刃先は鋭利に尖ってる。刀身自体は透明でうっすら向こう側が見えるぐらい、刀身の中は空洞になってるみたいで中に柄から真っ直ぐ黒い棒みたいなのが50㎝くらい伸びてる。
試しにお尻あたりにもう一度当ててみると吸い付くようにくっついた。
というか・・・焼かれる前に来てた服と今着ている服が違うことに今気付いた・・・剣がくっついた先に履いていたのは袴だった。
手を見れば黒い皮の指ぬきグローブ、足にはゴツい黒のブーツ、袴は白地に炎のがら入り、上半身は赤いブルゾン?のようなものを着てた。
そしてお腹の周りをベルトというよりリングに近いものが巻き付いて、バックルの所に宝石のような丸い石がはまってる。まるで仮面ライダーのベルトのように・・・
石が気になって指でつついたりしていると、なんだか後ろに視線を感じる。
咄嗟に振り向くとそこには闘気がタバコをくわえたまま自分の部屋の窓からこっちを覗いていた。
「あっ・・・」思わず顔を背けるボク。
ヤバい・・・笑われる・・・・・バカにされる・・・・・・・なんか心なしかニヤけてる?なんか言ってよ闘気ぃ~~~・・・・・
「竜馬!!」
「はいぃぃぃーーー!!!何でショ?」テンパり過ぎて何故か敬語になってしまった。
「お前も・騎神だったのか・・・」
「・・・も!?」恐る恐る闘気の方を振り向いてみると、さっきまで部屋着だった闘気の服が変わっていた。
黒い袖なしの服に、白くて裾がボロボロの袴、細身の靴に、巻き付いているのか・描かれているのか黒い線が両腕の数か所についている。
そしてボク同様、お腹に丸い石の付いたベルト、背中には黒い刀のような武器も見えた。
お互いが騎神であることを確認した瞬間、竜馬と闘気の間の空気が変わった。
目を合わせる二人の表情は徐々に緩み、互いの口角は上がっていく・・・
二人の瞳はこれまでになく輝き、嬉々とした表情で階段を駆け下りて行った。
そう、ボクらの関係はずっとこんな感じ・・・
『どっちが強いか』・・・それがボクら二人の唯一の共通点!
お互いが求める答え・・・『勝ちたい!』『負けたくない!!』
それがボクらが一緒にいる『理由』で『目的』
外・・・4月の冷たい夜風が吹くなか隣り建つ家の玄関が開き、そこから勢いよく飛び出した二人は武器を手に取り対峙する。
竜馬は大剣を八相に構え、闘気は左手で背中についた直刀を取り竜馬に突きつけるように構えた。
その時、構えた剣から力が伝わっていくのを感じた竜馬・・・次の瞬間、透明な刀身内部の黒い棒が燃え盛り、刀身が熱を帯びた。
それと連動するように服の胸部から発火、肩からバックルの石にかけて炎を纏った。
驚いた様子の竜馬だったが、覚醒直後同様この炎に熱さは感じない、それを確認すると頼もし気に笑い再び構え直す。
両手持ちの竜馬と片手持ちの闘気
構えからも二人の性格の違いが見て取れる。
八相に構える竜馬は、剣を両手でしっかり持って全身全霊を一撃に込めるいわば『豪の剣』正々堂々、小細工一切無しの真っ向勝負しか知らない竜馬らしい戦い方。
かたや左手で剣を持って相手に突きつけるように構え、右手をフリーにする闘気の構えは、相手の攻めをいなしながら徐々に自分のペースに引き込むいわば『後手の戦術』
闘気はあくまで冷静沈着、剣道の試合でも決して先に攻めることは無く、相手の次の動きを読んで隙を突いたり、わざと攻めさせ体力を削るなどのトリッキーな戦法を得意とする。
張り詰めた空気の中、静寂を破ったのはやはり竜馬!
前述の通り、全身全霊大きく振りかぶって斬り込む竜馬に対し、冷静に躱しながらカウンターの一撃を繰り出す闘気
だがそれを大剣で受け止めはじき返す竜馬
その勢いに乗って後退し、距離をとって構える闘気
しかし隙を与えず再度横薙ぎに斬りかかる竜馬だが、闘気は竜馬の剣筋を読み一瞬速く体制を低くして斬撃を躱しながら竜馬の脚を斬りつける
が、竜馬は咄嗟に飛び上がり間一髪刃を回避する。
その後も竜馬の猛撃に対しそれに合った回避・カウンターを繰り出す闘気、それを持ち前の反射神経と勘で防御・回避する竜馬
二人はしばらくの間このような殺陣を繰り返す。
一方その頃、近所の建物から二人のチャンバラを見つめる人影・・・・・
「ヘへッ能力の使い方も知らない素人が!いいカモだぜ!!」