真実の愛 美姫だけに残された伝言
男共は驚き、声をあげているようだが、この重たい空気の中では小男以外の声は伝達されないようである。
「わかりましたでしょうか。それでは又、彼女を先ほどの姿に戻します」
またも奇妙な発声をしたかと思うと、美女は醜い姿に変わっていた。
「それでは私はこれにて……」 小男は泡沫のように消えた。
小男の姿が消えゆく中、彼女の頭の中にのみ声が聞こえる。
(大丈夫でございます、貴女の姿は一ヶ月で元に戻ります。 しかし、貴女が誰かにそれを教えてしまうと貴女は永遠にその姿のままでございます。真実の愛を知ってくださいね)
水泡がパッと割れるように緊張した空気は弛緩し、動き出した。
不思議と彼女を含め全員は混乱していなかった。
あの小男になんらかの説得や理解に関する魔術、能力があったのかは分からないが、ありえない事態を強烈に納得していた。
彼女は間もなく家を追い出された、所属していた事務所はクビになり、どうしようも無くなった。
彼女の収入源も財産も全て彼女の外見を前提として成り立っていたモノだった。
要するに彼女は愛玩動物でしか無かったわけである。飼われていたのだ。
自分の美貌にかまけ、自発的な行動も、努力も、知識も何もつけてこなかった、つける必要が無かったから。
彼女から、唯一無二の取り柄が無くなった。
残ったのは、絶望だった。