3話:『第一の刺客』
アンディとリタは、充実した逃走ライフを送っていた。
となりの国に移動し、
人間同様に暮らしている。
カフェでコーヒーを飲みながら新聞を読んでいることに、
アンディは幸せを感じた。
新聞の目に留まった記事等の話を
リタに投げかける。
リタ:「しっかし、人間って愚かだと思わない?」
投げかけられた質問に対して、
そんな感想を漏らす。
記事の内容は、政治家の汚職事件とか、
芸能人のスキャンダルとか、
そんなありふれものだ。
リタ:「私は、ここでコーヒーを飲んでいるだけで幸せ」
:「だってそうでしょう。誰に拘束されているわけでもないし、歩きたいと思えば街を歩ける。空気だってほら、綺麗とは言わないけど、少なくとも薬品の匂いはしない」
:「それでいいじゃない」
アンディ:「僕もそう思うよ」
:「でも、そう思わない人が多くいる」
:「それが事実だ」
:「きっと満たされていることに気づいたりすることがないんだろうなあ」
そんな風に言葉を漏らす。
ずっと拘束生活が続いていた彼らにとって、
自由な生活は、とても心地が良かった。
地震発生から、すでに3か月が過ぎている。
あちこちで調べた結果、
サーカス場での生存者はいないとされていた。
世界で魔女が死んでしまったことを惜しむ声が後を絶たない。
天才溝口博士の研究データはロックされており、
新たな魔女の誕生は難しいとされた。
2人は死んだことになっていることを知って、
とても喜んだ。
戸籍上に存在しない人間になってしまったが、
追われる心配がないということはとても良いことだ。
この3か月間の間、
何も起きていないので2人は安心しきっていた。
今は、如何にかして戸籍を入手し、
仕事を手に入れ、
人間の世界に混じって生きようと模索している。
2人は今、街中の路地を歩いている。
アンディ:「はっくしょん」
大きなクシャミをして前屈みになった。
すると、
後ろショーウインドウのガラスが割れた。
2人は固くなった。
間違いない、誰かに狙われている。
嫌な汗が2人を襲う。
リタ:「もっと人通りの多い場所へ行きましょう」
アンディ:「ああ」
少し早歩き気味で移動した。
いきなり走るともっと危なく感じたからだ。
人混みに入りはしたが、
安心は出来なかった。
誰も彼もが刺客に見えた。
狙われているの?誰に?
でもさっきのは、あまりにも不自然。
疑心暗鬼は人の心を蝕む。
もし人通りが少なくなったら?
人混みでも構わず撃ってきたら?
正体不明なものに狙われるというのは、
とても不気味が悪い。
緊張状態が無限に続き、精神が疲労する。
人は考えることを続けると、
嫌な方向にしか向かないのだ。
だってそうでしょう?
実は狙われていなかったという幸福な考えより、
誰がどう狙っているのかを考える最悪なものは、
無限に考えられるのだから。
2人は24時間営業している、
ファミレスで一夜を過ごした。
1番窓際でない場所で。
結局のところ2度目の攻撃は起こらなかった。
2人はこの穏やかな生活に、終わりがきたことを
なんとなく感じたのであった。