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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ぺうれう棒のパブロフ

作者: ぽっくん

以前、おれはとある女と頻繁に会っていた。女との記憶は所々に黒点が混じる8ミリフィルムのように、頭の中できわめてノスタルジックに再生された。公園を散歩したり、遊園地に出かけたり、笑顔でハンバーガーを頬張る女の姿がそこには在った(すべてのシーンは3秒ずつほどで別のシーンへと変わっていった。)おれはその頭の中のフィルムを、通勤電車や就寝前などに繰り返し観ていて、ある日自覚したのだが、その女に恋をしていた。


近頃はめっきり音沙汰がなかったのだが、昨夜、同級の友人から電話があり「あの女ならこの間、S市の繁華街で見たよ。ピンク色のサングラスを掛けたヒッピーみたいな装いをした男と一緒にいたな。男が女の腰に手を回したりして、いやに親しげだったし、おそらくは男女の仲だろうな。」そう聞いた。俺は直ぐに電話で職場に休むことを告げ、急いで身支度を整え、車でS市へと向かった。


馬鹿げている、と思った。あの賢い女が、そのようないでたちのろくでもない男と付き合っているなんて……。俺は、男と女を殺す事を決意し、道中にあるホームセンターに寄り、ナイフをしたためた。レジの店員、19か20くらいのステンレス製の眼鏡をかけた細身の男が俺を一瞥した。細い目を更に細くして「あーー、〇〇〇〇レジおねがいしやす。」と内線マイクに呟いた。


繁華街に着くと、やたらと動き回るより、ひとつの同じ場所に長くとどまる方が奴らを見つけられる可能性が高いと踏み、繁華街の出口付近に敷設してあるベンチに腰掛けた。そして隣に、ナイフを忍ばせたセカンドバッグをそっと置いた。先ほど車のなかでセカンドバッグにナイフを入れた瞬間、俺とナイフは一体となり同時刻的にドクンドクンと脈打つようになった。しかしそれも顕著が過ぎたようで、そばを通り過ぎる人からの視線を痛痛と感じた。セカンドバックから放たれる殺人兵器の禍々しい覇気が漏出していると感じ、次第にそれが気になってきた。なのでバッグの外ポケットに、さっき路上で受け取ったばかりのポケットティッシュを緩衝材として入れた。その行為を隣に座っている老夫から視認された「気がした」。俺自身がその行為を特別視しているから尚更そう感じた。


十分ほど経った頃、隣のベンチに女の二人組が座った。「〜にしても、さっきの男、面白い格好だったよね。ピンクのサングラスの」二人組の一人がそう言ったのが聞こえた。俺はすかさず、男の居場所を尋ねた。すると、やはりカップルらしく、繁華街のアーケードを抜けた先の公園で二人して、煙草を吸っていたらしい。俺はセカンドバッグを手に取り、走ってそこへ向かった。


いた。公園内の喫煙所ではなく、ベンチに腰掛けている。のうのうと談笑していられるのもあと僅かだ。公園での談笑を、人生の通過点としようとしているが、どうしようもないほどの日常の一端は終着点となる。


おれは人気を気にせず、バッグからナイフを取り出し、二人のもとへ、近づいた。前方、五メートル程で男が気づき、悲鳴をあげた。女は恐怖や驚きともとれない、怪訝な面持ちでおれを見ている。その瞬、男を引っ張り、逃げ走った。おれも間髪入れず後を追った。煙草なんて吸っているからか、持久力が希薄で、一分足らずで、目の前に近づいた。おれは三段跳びみたく、ダッシュ、掴む、刺すの要領で、男の後ろ首にナイフを突き刺した。血が恐怖映画のようにぶしゅうと、勢いよく四方八方に飛び散った。おれも鮮血を大量に浴びた。女は逃げるのを止め、瞳孔を開き八の字眉の懸命な顔でおれに話しかけてきた。


「ねえ、お願いだから殺さないで……」

おれは命乞いに耳を貸さず、ナイフを女の胸に、突き刺した。

女はおれにもたれかかる形で正面から、おれごと地面に倒れた。俺の耳元で、最期にかすれ声を振り絞るようにしてこう言った。

「あんた……やっぱり頭おかしいね……」


その言葉のよく意味が解らなかった。おれは人間2人を殺してしまったら死刑になるのかどうかを知りたくてスマートフォンで調べようとしてセカンドバッグを弄った。そこにはポケットティッシュがあった。

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