6. 業務終了
水汲みの仕事はあまり順調ではない。
瓶の水がなかなか満タンにならないとと思ったら、見れば薄くヒビが入っている所があり少しずつ水が漏れていた。元々運ぶ量も少ないこともあり、目標を達成する事が困難に感じてしまい不平を漏らす。その目標も何を持って達成とするのかは怪しい所でもあるが。それが仕事をやりたくないものだと勘違いされてしまったようで、ツチメは「たくさん運ぶ」と苦言を呈する。食事当番らしきお姉さんが昼食を持ってきてくれなければ彼女の怒りは収まらなかっただろう。ありがとうお姉さん。名前は知らないけれど。
昼食はおにぎりのような穀物を丸めたものが2つと塩漬けの大根が数切れ。それぞれ笹の葉でくるまれていてお弁当のようだった。小屋の外、カマオを除いた4人向かい合って座る。自分が座った途端食事が始まり驚く。いただきますの挨拶は無く食事中の会話も無かった。
昼休みは気温が高い時間帯を避けるようにとっているようだ。だいたい昼の12時から2時までの間で2時間位はある。食べ終わったツチオを見ると木陰に移動し寝ている。ウツメはどこかに行ってしまい、起きているのはツチメと自分。なんとなく気まずいが、他に行く場所もなかった。元々行動を制限されていた身分ではあるので、勝手にあちこち出歩くわけにはいかない。仕方がないので昼寝でもしようと、木陰に座ったところで冷たい視線を感じる。誰の視線かはわかるが反応したら負けな気がしたのでそのまま目をつぶる。風が心地よい。
昼休みが終わり、また水くみが始まる。しかし生産性が悪すぎる。運ぶにしてもこんな小さな桶では労力に見合った結果を出せない。どうせツボを作っているのなら、大きい水運び用のものも作って欲しいと思う。でもあまり大きすぎると持ち運べないか。難しい。
10往復もすれば飽きもする。あとどれだけはこの作業を続ければいいのだろう。今日だけではなく明日明後日と続くのだろうかと思うとげんなりする。さらに何度か往復すると足も痛くなってくる。なぜこんなに歩いてばかりなのだろう。いっそ水場から窯まで水路を引けばいいんじゃないかとごちる。今までもこんな作業を繰り返していたのだろうか。誰が・・・きっとツチメだろう。あの子もこの単純作業に飽きていたんじゃないだろうか。そう思いながら小屋に戻ると、そこに誰も居なかった。インディアンの人形を探すがそんなものはどこにも無いし、そもそもここに7人のもの人間はいない。神隠しか
「カタメ、終わりだ」
と思いきや、まぁそんな事はなく、ツチメから作業の終了を告げられた。空はやや赤くなっているが陽が沈むまではまだまだ時間はある。今日は自分の体調を考えて早めに切り上げてくれたのだろうか。それともいつもこの時間で終わりなのだろうか。水瓶の中の水は7割程度、やはり効率が悪い。達成感は無いが終わりは終わりだ。天を仰ぎ大きく深呼吸をし意識を切り替える。
土組2人がやってきて手を引くので身を任せ歩いていく。今朝まで居た家の側まで近づいた時に「あの家に戻されるのか」と思ったのだがそのまま通過し、やがて川へとたどり着いた。突然服を脱ぎだ2人。目を反らして1分後、裸になった2人に服を脱がされる。脱がし終わった2人は一糸まとわぬ姿で川に飛び込む。唖然と見守っていると手招きされた。なんというかおおらかだ。
水浴びの時間はそれほど長くなく10分も経っていなかった。水から上がったあと2人は服を使って体を拭き、水を絞ったあとそのまま着だす。そりゃバスタオルのようなものは無いか。慌ててそれに習う。帰りも2人に手を引かれて歩き、そのまま窯の小屋まで戻ってくる。中に入ると小屋のカマオが囲炉裏の火の様子を見ている所だった。そういえばカマオはどこで何をしていたのだろう。
囲炉裏には土鍋が乗せられており中から湯気が立ち込めている。入り口近くに腰を下ろすと、紫色をした何かの木の実みたいなものを渡される。首をかしげると、ツチメは木の実を割り中身を手でほじくり出して食べ始める。つられて食べてみると何か甘い味がした。
カマオが柄杓のようなもので鍋のお湯をすくい上げ椀に入れて渡してくる。何事かと思い周りを見渡すと皆はゆっくりお湯を飲んでいる。よくわからないが真似して飲むと薄く塩の味がした。いいタイミングと思い、本日の業務に思いついた懸案事項をぶつけてみることにする。
「・・・一つ提案がある」
皆の視線が集まる。慌てて目を伏せる。
「・・・水を運ぶ仕事、効率が悪い。一度にたくさん運べるようにしたい」
自分を咎めるような視線を感じたが無視して話を進める。身振り手振りで、水を運ぶのに今までよりも大きな入れ物を求めている事を伝える。上手く会話をつなげる事ができず右往左往するが、根気よく続けることでどうにか意図が伝わった。うなずいているのは大人二人。ツチメの方は見ない。
「わかった。カタメ、お前がやれ」
つまり、何かしたいのであれば自分でなんとかしろと。ひとまず許可を得ることには成功した、と思う。ここで伏せていた目を上カマオの表情を伺うと、うっすらと笑みを浮かべているように感じた。横から感じる冷たい視線は気にしない。やれやれと、ふと横を見ると隣でツチオが横になって寝ていた。
空はすっかり陽が落ち暗くなっていて、夜の虫の音が遠くから聞こえてくる。そうか、夜はもう寝る時間か。囲炉裏の小さな炎を見つめていると、じわじわと睡魔が訪れてくる。そう言えば囲炉裏の子は今は1人でいるのだろうか?
カマオ「食事中は静かに」
ツチメ「えー、あの子の家じゃおしゃべりしてるのにー」
カマオ「他所は他所、家は家」
というか、ここのリーダーであるカマオさんが食事中に話をしないだけです。食事中も頭の中で色々と考え事をしてたりします。




