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32. 日々

話がまとまった。

丁度船は2艘あり片方がタケルの捜索へ、片方がアベの元へ向かう事となる。タケル捜索チームに深く同情しつつ、アベの元へ向かうのに船を使うのかと疑問に思い尋ねる。なんでも目の前の川は少し下流でまた別な川と合流しており、下流で合流する川は目的地の北の山から流れてきているらしい。アベ達は陸路で賊を追いかけたので船を置いて行ったが、真っすぐ山へと向かうなら歩きより船の方が早いとの事。早いといっても、遠く見える山までの距離を考えると最低でも2日はかかるだろうとの予想だ。それに対してタケルの捜索は何日かかるか分からないとお供の方々もウンザリした表情を隠せない。余計な荷物はアベの住んでいた家に置き船を軽くし、保存食の調達や諸々の準備をし、昼前にはこの村を発つ事になった。


ここで自分に選択を迫られる。タケルの元へ向かうかアベの元に向かうか。できればこの村で待機するか山の村へと戻りたかったのだが、隣から「どちらでも良い」と余計な事を言う子のお陰で選ばねばならなくなった。少し考えるもタケル捜索は見通しが立たないためアベの元へ向かうと答えた。少し残念がるも仕方ないと諦めるタケル捜索チーム。アベの元へ向かうチームは、ならばとカマオにオールの漕ぎ方をレクチャーしようとする。戸惑うカマオにお供は説明する。行き違いが無いようにこの村に1人残る事になるが、その人の代わりにカマオに漕ぎ手をやって欲しいという事だ。ここでカマオはツチメを睨むが、本人は気にしていない様子。その後一度解散となり、自分は出発までの間アベの住んでいた家で待機する事に。自分の後をついてこようとしたツチメは「話がある」とカマオに捕まり少々暴れるも断念、河原で分かれる事となった。


アベの住む家で何をすればいいのか分からずキョロキョロしていると、お供の方々からアベに届ける荷物を選んで欲しいと願われる。長い間戦地を転々としているのであれば不足するものもあるだろうから、普段どんなものを好んでいたか教えて欲しいとの事。アベと親しくしてはいたが、プライベートの事など分からない。何とか記憶を探りそういえば果物を食べていたなぁと口にすると、家の中から干した果物を掘り出した。一見干しブドウのように思えたが、この時代の日本にブドウはあったのだろうか。


準備は着々と進み出発の用意が整う。自分も河原へと戻るもツチメの姿が見えない。あの子どこをフラフラしているんだと少し頭に来ながらカマオの顔を見ると険しい表情。何事かと聞くと「ツチメが穢れた」と口にするので一瞬驚愕するも事情を察した。女性特有のアレだ。ツチメはこの村の女衆の元に預けられ身の回りの世話をして貰っているらしい。預けられる直前も少し暴れたと聞きカマオと2人頭を抱える。そうなるとまた事情が変わってくる。ツチメを連れていくことはできないが置いていくわけにもいかない。居残り役としてアベとタケルの事を知る人間が1人残る必要があるが、それをカマオが代わるとしても子供たちだけで川の村へと帰るわけにもいかない。結果この村から動けなくなってしまった。どうしてこうなったと思わなくもないが、ここでツチメを恨んでも状況は変わらない。さらに深く2人で頭を抱えた。


さすがに子供一人を遠くまで連れ出す事は無く、出発するお供の皆様を満面笑みで見送った。ツチメの体の事も心配だが、この先この村でどれだけ待てばいいのだろうか。幸いアベの家にはある程度食料の備蓄もあり飢えることはない。だが、タケルはともかくアベがいつ帰ってくるか分からないとなると途方に暮れてしまう。ただ待っているのがつらいのはカマオも同じで、彼は近所の人に「何か仕事はないか」と聞いて回る。真面目だ。自分も別な人に同じ事を聞いたのだが困ったような顔をされてしまった。村の中で働いている同い年位の子供はいるのだが、自分には任せてもらえないのだろうか。夜になり荷運びの仕事が決まったと話すカマオにその旨を伝えると、なにやら悲し気な笑みを浮かべて「気にするな」と言われた。いや、気になるから。


2日目。

朝からカマオは仕事へと向かう。食べ終えた器を洗う為河原へと降り目の前の大きな川の流れを眺める。目線を上へと上げると例の大きな山の上に雲がかかっていた。とりあえず手を合わせ拝んでおく。器を片付けた後村の中をふらふら歩く。やはり人が少ない。人手が無いのであれば自分にもできる仕事があるのではないかと思うがどうなのか。村の外れ、川の下流側までたどり着き手ごろな石に腰掛け川を眺める。複数の荷物を積んだ船が行き交っており荷運びの仕事ならすぐに決まるのだなと納得する。下流の方と行き来している船が多く、あの遥か先にも大きな村があるのではないかと想像する。アベ達はどれだけ船で旅を続けていたのだろうか。昼にカマオと合流し昼食を共にするが、その後はまた夜まで単独行動する事となる。


3日目。

今日も状況は変わらない。ツチメはどこに行ったのかと気にはなったのだが、あまり人に見られたくない状況だろうし出向くのも悪いと思い探すのは止めた。この時代の女性はきっと色々大変なのだろう。そういえば、上手くいけば今日あたり北へ向かったお供達はアベと合流している頃だ。戦況がどうなのか分からないが、5名とはいえ増援があれば少しは状況が変わるのではないだろうか。


4日目。

ツチメが手を振りながらやってきて、途中で女衆に連れ戻されるという事件があった。少しは落ち着いて欲しい。村の様子もカマオの仕事も相変わらず何も変わらない。さすがに暇を持て余してくる。村の中を流れる小川を上流へと辿っていき、途中で雲行きが怪しくなり慌てて村へと駆け戻ったという事件もあった。自分もどうかしている。


5日目。

雨が降り出し、カマオも仕事が休みになる。やる事がない。このままではまずい、外に出て何か体を動かさないと駄目な人になってしまう。自分はあれだけ人と会うのが怖くて外に出る気も起きなかったのに今ではこの変わり様だ。いや、いつと比べているのか。しかし外は雨で仕事もない。そんなこんなで外が暗くなる頃、やつれた顔でツチメが戻って来た。その夜ツチメは、いつもより自分の近くで眠りについた。


6日目。

雨が上がるも雲行きは少し怪しかったがカマオは仕事へと向かった。体がなまっているのはツチメも同じだったようで腕を引かれ村中を連れまわされた。村の中を流れる小川の上流へと行こうとするので、やんわりと別な場所へと誘導した。


7日目。

ようやく状況が動く。昼過ぎにタケル達が戻って来たのだ。遠くからすごい勢いで川を下ってくる船がいると眺めていたらあの大男が乗っているではないか。ツチメと一緒に河原へと駆け下りタケル一行を迎え入れる。自分の姿に気付いたのか船の方向を変え、勢いそのままに突っ込んできて河原へオーバーライド、あやうく下敷きになる所だった。少し遅れてもう一層の船も到着したのだが、疲れ果てたお供の顔は正直見られたものではない。「てては居なかった!」と言い放つタケルに「当たり前だ」とツッコミを入れ、お供の方々から苦笑いされてしまう。事情を聴いていなかったのか「いづこか!」と聞いてくるタケルにゆっくり北を指さすと「まいるぞ!」と言いながらまた船に乗り込もうとする。慌てふためくお供達を見て、これなんのコントなのと心の中でもツッコミを入れつつ「皆、疲れている。泊まれ」と諭す。タケルは少し冷静になり周りを見渡し、不承不承(ふしょうぶしょう)といった趣で提案を受け入れた。


夜になりとんでもない事を聞いた。ハンの民と思われる集団が居たため、まとめて征伐してきたと言うのだ。タケルが向かった先にも残党がいたらしい。その際に短剣が折れてしまったらしく見れば腰から下げているのはただの棒きれだった。お供の方々の心労を察した。成敗された人々に心のなかで哀悼の意を表し、やはりこの男を特攻させるのは無慈悲だし危険だと思い直す。討伐された人の中に例の逃げた男がいたかどうか気にはなったが、興奮して話すタケルにとても聞ける雰囲気ではなかった。


8日目。

タケルが昼過ぎまで起きなかった。お供の方々もゆっくりを休養と取ることができたようで笑顔が輝いて見えた。しばらくして飛び起きた猪はバタバタと出かける準備をし出すも、飯の匂いに釣られてどかりと腰を下ろし食べ始める。食べ終わりまたバタバタし始めたので「剣は要らないのか?」と聞くと困ったような顔をして動きを止める。顎に手を当ててしばし考えた後「剣をもてーい!」とお供達に無茶振りをする。やれやれと村中へ散って行くお供達。様子を見ると、村人一人一人に剣を持っていないかと聞きまわり余っていれば譲ってくれとお願いしていた。なんというか不憫だ。そもそもこの村の人々は剣なんて持っているのかどうか怪しいもので、かろうじて槍なら見た事はある。結局この日は剣を得ることはできず、ものすごい不満気な顔をしたタケルはそのまま横になり寝てしまった。


9日目

この日も昼過ぎまで剣を得る事が出来なかったためタケルは不機嫌なままだった。そんなタケルに絡まれるのもウンザリしていたので、ツチメと村の外れの方まで散歩をする。遠くを見つめているとまた船が1艘近づいてくるのに気付く。どこかの誰かと違って優雅に川面を進む船に見覚えがあった。タケル達と同じ型の船の上にアベが乗っていた。


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