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28. 忌子

翌日の朝になる。

村の広場まで出かけると大人たちが何やら相談している。タケル達が乗ってきた船の1(そう)に問題が生じているらしい。見事に岩に激突していたわけで、あれで無傷だったら常識を疑わなければならない。幸い船に修理する道具は積んであり材料の木はそこら中に生えている。村人たちも協力し船の修繕活動を行う事になった。交換条件と言うわけではないが、タケルに賊がいるかもしれないとの話をすると付近の警戒を行う事を約束してくれた。子供たちは修理も討伐も関係ないのだが、大人たちの手が塞がった分大量の雑用を言いつけられてしまう。仕方のない流れか。


主に修繕を行うのはお供達でタケルはそこら中をフラフラしている。パトロールというよりは興味が湧いたものを見て回っているだけようにも見えるが何か意味があるのだろうか。いや、多分ない。畑のそばでおしっこをして近くにあった芋の山にかかって女衆に怒られていたし、森の奥まで入り迷子になって遠くから助けを呼んだりしていたからだ。助けに行った自分も二次遭難しそうになり、なぜか背後から声を掛けてきたツチメに助けられるまで泣きそうだった。


森の中で迷っている最中にふと思う事があった。この山の向こう側には何があるのだろうか。並んで歩いていたツチメに聞いてみたが、そんな所まで行って帰ってこれなくなったらどうするつもりかと睨まれてしまう。これは聞く相手が悪かった。村に戻った後、改めてツチオに聞いても知らないとの返答、トソの子も村の女衆も答えは同じで、男衆に聞かないとダメだったと反省する。だが、男衆は船の修理をしているか少なくなった人数で力仕事をしているかで大変忙しい。夜になるまでダメだと諦め、日が暮れるまでは雑用に明け暮れた。


日暮れが近づきそろそろ走り回るのも終わりかと思っていると、森の奥からタケルが笑いながらやってくる。昼間迷ったのにまた森へ入ったのかと憤慨していると、その奥からお供が二人イノシシを担いで現れた。そこまで大物では無いらしいが村の人々は大騒ぎで、手を叩いてタケルの雄姿を褒めたたえていた。これにタケルも調子に乗ったようで、明日はもっと大物を捕ってくると豪語、慌てふためくお供の2人。よく見ればタケルよりもお供二人のケガの方が多い。おそらくトドメを刺したのはタケルだが、ギリギリまで弱らせたのはお供なのだろうと推測する。お供の説得で何とか思い留まったタケルは、ならば川の主を捕ってこようぞと息を巻く。これにはお供だけでなく村の面々も一同苦笑い。この男は勇敢だが頭の回転が悪いように思える。将来王様とかになったら周りが苦労するだろう・・・いや、なれるわけがないかと自己解決。なお、イノシシは明日解体するようで、紐でしばり外の河原で水に着けておく事になる。


日が暮れる。

さすがに今日は宴会を行わなかった。タケル達は村の大きな建物に泊まり、避難生活をしていた女衆は各家へと戻ることになった。ウツメとツチメも同様で、住み慣れた家に帰れるのが嬉しいのかツチメは終始ニマニマした顔をしながら家路を急ぐ。確かに男3人だけの家は少し寂しい気もしていた。賊に対する防犯体制はお供の皆さまが交代で夜通し村中をパトロールするそうだ。昼は船の修理で夜は警備。本当にご苦労様とすれ違ったお供の一人に手を合わせナマステと礼をすると非常に驚いた顔をされた。タケルの一族では礼の仕方が違うのだろうか。いや、自分だけか。


昼間に疑問に思ったことをカマオへに尋ねる。さずがのカマオも山の向こう側の事までは分からないようで、主に山の中で作業をしているトソに聞いてみろと助言をもらう。ただし話を聞いても行こうとするなと釘を刺されてしまった。横のツチメも大いに頷く。ツチオは少し興味があるようだが、目の前でダメ出しされれば強くも言えない。明日聞いてみようと思いながら眠りについた。


---


次の日、早速トソの元に向かい話を聞く。トソも一度しか行った事がないらしいが、東の山の上には海があるそうだ。辿り着くまで時間はかかるそうだが2つ3つ山を越えれば眺める事はできると。山に海とはどういう事か。誰かが北の果てに塩の湖があると言い、目の前で東の山の向こうにも海と言われる。ここは山奥にある盆地かと思っていたが、実は海に囲まれていたのだろうかと少し混乱する。まて、東の山の先に海があるならば、わざわざ賊が住む北の果ての塩を求める必要が無いのでは。そう言うとトソは山の海では塩を取れないとこれまた変な事を言い出す。山の上にある塩が取れない海。それって湖じゃん。まぁ、トソに海と湖、塩水と淡水の話をしても仕方がなく、そのような場所がある事だけを頭の片隅に入れておく。


昼前に村でひと騒ぎがあった。またあの男が大物を村へと運んできたのだ。今度は1m越えの大(なまず)。どこにそんな大物が居てどうやって捕まえたのかは分からない。タケルは川の主でも捕まえたのかと褒める村人達に大笑いで手を振っていた。もちろん運んだのはお供の人たちだ。この様子だと、明日には山の主でも捕まえてくるのではないだろうか。


---


夜。月明りでかなり明るい。

小用をするため川へと歩く。途中お共の方に会い・・・一瞬槍を向けられたが・・・軽く挨拶をしその場を後にする。そろそろ川が見えてくるという所で背後から「(わらし)、お前も(はばか)りか!」と大きな声。夜中なんだから静かにしてくださいよタケルさんと思いつつ軽く挨拶し合流、一緒に川で並んで用を足す。途中でタケルから「ところで」と会話を切り出され、「この村には()子がいるのか」とやや小声で質問を受ける。何の事かよくわからないでいると、川から少し離れた小さい家、囲炉裏の子のいる家を指指す。「あの家に住む子の名は?」と聞かれ、困りながらも「ない」と答えた。なんでも宴の時にも食事の時にも姿を現さない子がいたので気になっていたそうだ。自分は気にした事はないが確かに村からそんな扱いを受けていると話をすると「そうか」と言って黙り込んでしまった。


()子、または(いみ)子。災いを呼ぶと恐れられる子供で村外れなどに隔離される。理由はその地域によって異なるが、生まれに何か問題があったか本当に災いを呼んだのか。災いを呼ぶなど迷信だとは思いたいが、自分はあの子に取り憑いた何かと会っている。村の誰かもアレと出会ってしまい、恐れられ、あのような外れの家に隔離される事になったのだろうか。普段はあんなに可愛いのに少し不憫に感じる。なお、時代を下ると忌子の扱いは変わり、珍しい、貴重な子として祭事等で重要な役割を担うようになる。


用事はとうに終わっているが気まずい沈黙だけが続く。なんとなく2人で並んで歩いていたが、突然タケルが走り出す。なんだこの人、躁の()でもあるのかと納得していると近くからお供の人も飛び出しタケルの後を追いかける。こんな夜更けに鬼ごっこをするとは変な人たちだ・・・とは思っていない。あのお供の人は先ほど会った見張りの人だ。タケルの向かう先で何かが起こったのだ。


思い当たる事はある。賊だ。お供の人もそいつらを見張るために巡回している。川の村から帰ってきた男は何と言っていたか思い出す。確か殆どが北へと逃げたが何人かはどこかへ逃げ出してしまったと。山や森に隠れているかもしれないから注意しろと言われてなかったか。タケルの向かった先に逃亡者がいる可能性は高いだろうが、他にも村へと侵入しているかもしれない。今は夜道に自分一人、その辺の茂みから突然飛び出して来たら抵抗する間もなく襲われてしまうだろう。命の危険性が迫っていると考えた途端背筋がヒヤリと冷たくなり足に力が入らなくなる。窯の小屋はまだ遠く、身を隠すとすれば囲炉裏の子の家の方が近い。悩む間もなく囲炉裏の子の家へと走る。突然の訪問に驚かせてしまうかもしれないが、事情をはなして匿ってもらおう。


囲炉裏の子の家へと飛び込むと、あの子の口を塞ぎ後ろから羽交い絞めにしている見知らぬ男の姿がそこにあった。


タケル「川の主を打ち取ったりー」

お供1「岸まで追い込んだの俺らだけどな(若~、天晴(あっぱれ)~)」

お供2「おま、本音漏れてる」

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