20. 不穏
昼食を食べながらの情報交換。
自分からはアベと再会した話をする。自分が神の化身だという話は伏せたのだが、トソの子は空気を読まず「片目は不幸を呼ぶのではないか」とか「神とは何だ」とか口を挟む。トオと含めた面々はツマラナイといった顔で適当にいなす。一人慌てるのは彼女の父親。トソの子は不満げな表情で口を閉ざした。
河原で作業していた男は、アベが乗っていた船の造船技術が素晴らしいと褒め称える。詳しい事はよくわからなかったが、沢山の荷を積んでも倒れにくいとか何とか。これには数人の男が頷きながら同意していた。
トオからはきな臭い話題が飛び出した。北の果てに住む人々がこの村の近くで略奪行為をしていおり、アベを含む有志が出向いて追い払っているようだが、近く戦になるかもしれないとの事だった。そう言えば最近山の村でも収穫を行った。北の果てがどのような状況か不明だが、不作だったのだろうか。今後、定期的に川の村へと人を出し情報収集を蜜にすると結論付け話は終わった、
帰りの船旅は順調そのもの。天候こそやや不順だったが特に大きな問題もなく村へと辿り着く。河原には大勢の男達が出迎えており、筏が上陸するやいなや荷を村の中へと運び込む。今回の搬入作業には自分も参加する事になり、籠のようなものを持って何度か往復した。搬入先は村の中にある大きい2軒の木造の建物の片方だった。その後、荷のなくなった筏を村の中へと運ぶことになるのだが、流石にこれは免除となり自分とトソの子は自由の身に。
窯の小屋へと戻ろうとすると背後からトソの子に呼び止められる。面倒な事になりそうだと思いながらも軽く笑顔を作り対応する。
「汝はアベの話がわかったのか?」
「・・・半分は」
やはり昼間の話だった。下から見上げ、どこか戸惑ったような視線を向けてくる。髪が長い。ツチメと比べるのもどうかと思うが体つきに女を感じる。
「汝はカミがわかるのか?」
「・・・半分は」
神という概念を説明するのは難しい。世界中にはいろいろな宗教があり考え方も違う。大きく分けても創造神と八百万の神という2つの概念がある。トソの子に「この世は神が作った」と話をしても理解できまい。ましてやアベからは自分が神の化身だとか言われている。馬鹿にしながら「お前にこの世界を作れるものか」と言われておしまいだろう。ならば話をするのは日本の神々の話が良いだろう。
「万物には神が宿っている、と言えばわかるか?」
「ば・・・?」
すぐには理解できないだろう。あちらこちらにあるモノを指差し、さらには身振り手振りを交えて説明を試みる。途中から「何コレ、新たな宗教勧誘?」と思いながらも話は空が暗くなるまで続いた。
「我にもカミがいるのか?」
「・・・いる」
「そうか。そうか・・・」
それは学会の方で仏教だ!とツッコミ入れたくなるが堪える。納得してくれたのであればそれでいい。暗くなったら子供は家に帰らねばなりません。今日はお家へ帰りましょう。
しばしの沈黙の後「またな」と言ってトソの子は背を向け、ゆっくりとした足取りで山・・・いや、家へと向かった。軽く溜め息をつき自分も帰ろうと振り向いた先、木の陰から怪しい視線が自分を見つめていることに気付く。もっと早く出てきてくれればと思いながらツチメに近づくと「カタメの家はこっちだ」と言って腕を引かれる。心配してくれたのだろうか。
小屋で出迎えてくれたのは、難しい顔をした大人2人と笑みを浮かべたツチオ。「帰りました」と言いながら定位置に腰を下ろす。こう見るとまるで家族のようだ。
トソ「カタメが強そうなヤツと話をしてた」
トオ「アイツ、何企んでいるんだ?」
神の話
トオ&トソ「なんだそれ」




