14. 邂逅
敵、敵とは何だ?
他人の3倍のもの仕事を振って来たのにもかかわらず、残業時間を認めない元上司の事か?「タイムカード押したのにまだ帰らないんですか」と言われた時のあの感情は形容しがたい。いや違う、そんな上司はここにはいない。
村の防衛体制はどうなっているのだろうか。見た限り武装している人はいなかった。敵が武装していたら対抗できるのか心配になる。そういえば、弥生時代に入り各地では土地を巡って戦争があったらしい。鈍器のようなものでで殴られた形跡のある頭蓋骨の遺骨がどこかの遺跡で発掘されたというニュースを見たことがある。もし敵の目的が土地であれば、この村の住人ではない自分たちは逃げてしまえばいい。いやその前に、仕入れた荷物はどうするのだろう。筏に積む時間はあるのだろうか。鳴り止まない鐘の音を聞く限りそんな時間は残されていないように思える。
どこか他人事のように思考を巡らせていると、手を引かれどこかに連れ出される。補助役の人が先頭、次に自分とツチメ、最後にカマオという並びで河原沿いに山の村へと向かって歩き出す。筏は放棄するようだ。
逃げなければいけないのはわかっているが、もっと詳しい状況が知りたい。敵に機動力があるとすれば無闇に逃げても捕まってしまう。敵の規模、武装、速度、方角。そういえば古代日本に馬はいないはず、なので騎馬兵という事はないだろう。鉄が貴重な時代に重装歩兵というのも考えられないが槍兵はいるかもしれない。ファランクスという戦術が考案されたのは紀元前のメソポタミアだ、槍を持った集団が襲ってくる可能性はゼロではない。弓兵もいるだろう。日本でも縄文時代の遺跡から弓と矢尻が出てきている。歩兵の武器はどうだろう。ファンタジーの世界で出てくるような剣や盾を持った兵士はまずいないと思う。まだ石の斧や棍棒を持っている姿の方が想像しやすい。
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歩き始めてから10分、いや20分は経過しただろうか。気付けばあれだけ鳴っていた鐘の音は聞こえなくなっていた。補助役の人とカマオが立ち止まり背後の状況を確認する。敵は村に火を放ったりはしなかったようで煙などは上がっていない。
それから数分後、息を切らしながらトオと他の補助役の面々が追いついてきた。全員でないのは筏をなんとかしようと頑張っている人がいるのかもしれない。
大人たちが集まり話し合いが行われる。こっそりと聞き耳を立てようと近づこうとすると背後から両肩を掴まれる。特に声をかけるつもりもなかったが、彼女はそのまま無言で後を付いてくる。電車ごっこか、と心で軽くツッコミを入れる。
断片的だが状況を知ることが出来た。
敵らしき正体不明の船が複数村に近づいてくる。船の中には武装した人が乗っていた。ここで見張り役が敵襲と判断、鐘が鳴らされる。正体不明の船は村の近くに上陸するも攻めてくる気配はない。しばらくすると、また正体不明の船がやってくる。それを見た先の船の乗員は降伏。事態が収束した事を確認したトオ達は、カマオたちを呼び戻すべくこちらに向かった。
なるほど。どこかの部族の内乱に巻き込まれた感じなのだろうか。大人たちは後から来た船の乗員が友好的かどうかの判断までは付かないようなので、これからどうするべきかを検討している。安心はできないが警戒レベルを下げても大丈夫なようだ。危機は去った。
話し合いが終わるまで子供たちはやる事がない。しばらく休憩していても問題ないだろう。河原の大きな石を見つけ腰を下ろす。ここで肩が軽くなる。自分の左に座るツチメ。無言の時間が続く。川はゆったりと流れている。頬を撫でる風が心地よい。陽は真上に登っている。そろそろ昼ごはんの時間だが、食べ物の持ち合わせはない。川面で魚が跳ねる。
方針は決まった。
荷物を取りに戻る事になった。補助役の方々は急いで村に戻り状況を判断。カマオと子供2人はゆっくり戻り筏の近くで待機。あとはケースバイケースだが、運べるだけ荷を積み山の村へと戻る。そうか、全員で戻る事になったのか。まぁ、河原の真ん中で放置されるよりはその方が良い。
パンと手を打つ音で行動開始。
と行っても、小走りで去っていくのは補助役の方々。何度も走らされるのも大変だ。片や自分たちは急ぐ必要はない。カマオが先導し子供の歩くペースで村へと引き返す。
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村は平穏を取り戻していた。
先程の喧騒が嘘のように落ち着き日々の暮らしが戻っている。まぁ、初めてきた村なので実際はどんな暮らしをしていたかは分からないのだが。
筏も周りの船も無事だった。先に到着していた補助役は既に筏へと荷を運び始めており、忙しそうに村との間を往復している。それでもやや表情が暗いのは、昼抜きで労働させられて力が出ないのか、遠くに見知らぬ船が見えるせいなのか。
自分たちは筏の近くで作業の終わりを待つことになった。なんと、カマオまで荷運びの手伝いをすると言って村へと向かってしまった。補助役達も荷運びでここに戻ってくるし、周りに大人がいるから大丈夫だろうとの言なのだが、待ってくれ、その周りの大人たちはみんな知らない人なのだ。それだけ急いで出発する必要があるのだろうか。詳しい事情は話してもらえなかった。子供はいつもこういう扱いを受ける。何かあったらどうするつもりだろう。
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フラグは立てるものではない。ちょうど周りに誰もいないタイミングで、髭を生やしたオッサンがやってきたのだ。
筏に寄り添う子供2人を見つけ珍しく思ったのか、まっすぐにこちらに向かってくる。途中、周りの船をチラチラ観察しているようだが、確実に距離を詰めてくる。
自分達から2mの距離でオッサンは立ち止まる。兵隊さんのような出で立ち・・・いや、武人と言うべきか。体格はガッシリとしているが手足は長い。細マッチョか。胸を覆うような質素な鎧を付け、右手の槍を杖代わりにし、左手には大きい袋を持ち、腰には5~60cm程度の剣のようなものをぶら下げている。首には勾玉のような石が3つ繋がった首飾りをしている。鎧の下に見える服の色は白、上品な生地で作られているようで光沢をはらんでいた。ひょっとしたら絹なのかもしれない。靴は革製か、足を覆い足首の所で紐で結んである。
太い眉毛をひそめながら自分たちを覗き込む。この時代の大人の事はよくわからないが、顔の皺から30代から40代ではないか。固まる2人の子供。1分程度の無言の時間が続く。
「童、親はどうした?」
思っていたより声が高かった。見知らぬ人から声を掛けられても返事をしてはいけない。早く何処かに行ってしまうか、山の村の誰かが戻ってきて欲しい、と思いながら顔を伏せる。
「知らない。汝は何?」
余計な事を口にする隣の子。鼻息が荒い。
「んん? 我か? 我はアベという」
あまり聞かない名前だ。もっとも、山の村の人の名前すらほとんどわからないのだが。
「腹を空かせているか?」
「いる」
即答。なんて素直な子なんだろう。アベは袋の中から何かを取り出しツチメに渡そうとする。だめですよ、見知らぬ人からものを貰ってはいけません。チラリと横目に見る。小さな桃のような形をしている木の実、初めて見る。訝しげるツチメにアベは優しく言葉をかける。
「モモという。うまいぞ」
恐る恐る手を伸ばし受け取るツチメ。半分に割ろうと試みるが、固いらしく上手くいかない。何をやっているのか。その姿を見て笑いながら2個目を取り出し「1つずつだ」と言いながら自分に渡すアベ。そうか、ツチメは自分と分けあおうとしていたのか。アベはさらにもう一つ取り出し自らかぶりつく。毒の心配はしなくても良さそうだ。つられて自分もモモにかぶりついてみる。わずかに甘みを感じるが記憶の中の桃とは全然違う。どちらかというと梅の味に近いがエグみは少ない。
モモを食べる2人の姿を見て満足したのか、アベは笑顔を見せる。
「当分この里に居る。遊びに来い」
そう言い残すと彼は去っていった。いい人、だったのかもしれない。少なくとも彼はこの付近の住人ではないと思う。どこか遠い所からやってきたのだろうか。遠い山々を超え、ようやくこの開けた土地に辿り着き、この地で一休みでもするのだろうか。何をしに来たのかは謎なのだが。彼の言う当分がどの位の期間かは分からないが、また会ってみたいと思った。自分の知らないこの時代の知識を得られるチャンスだと感じた。
子供の目から見たら40歳を越えたおじさんは、大体30~40歳位と感じるでしょう。




