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12. 時代錯誤

カマオが手招きをする。良かった、このまま放置されたらどうしようかと思っていたところだった。場所的なことではなく人員的な話で。カマオは河原を歩きながら今後の話を始める。積んできた荷物は補助役達が運ぶため任せてしまって良く、自分たちは今から泊まる場所へ行くのでついてこい言われる。大きな村だ、宿泊施設もあるのだろう。さすがに布団は無いだろうけど柔らかい寝床で眠れるのかもしれない。どんな所だろうかと期待を膨らませる。


ワクワクしていた心は砕かれた。土手の手前にいくつかテントのような家があり、その1つに案内されたる。囲炉裏の子が住んでいた家と大きさはそう変わらない。(すだれ)をくぐり中を見る、囲炉裏すら無く本当に寝るだけの場所だった。


---


寝る前にカマオから警告を受ける。この村では(かどわし)が出ると。どうやら子供が何人か居なくなる事件が起こっているらしい。この時代、いやこの村に警察なんて組織があるとは思えない。こんな所で(さら)われたらどうなるか想像したくない。特にツチメは()から離れるなと。自分はいいのかと聞くと曖昧な返事が返ってくる。つまり、いや、どういう意味なのだろうか。ツチメもよく分かっていないようで2人で首を傾げることになった。


---


夜、ツチメに起こされる。

手を引かれ川辺へと連行、小用に付き合わされる。動くなと何度も厳命され肩をすくめる。そりゃ怖いだろう。誘拐事件、最近の事なのだろうか。前から多発しているのであれば村まで噂の1つは届いているのではないだろうか。この時代の情報伝達速度がどの位なのかは分からないが、前もって目的地の状況を把握しておくことはできなかったのだろうか。知っていたとしたら、なぜ2人を連れてきたのか疑問が残る。となれば知らなかったのか。TVやインターネットは偉大な発明だったんだなと、過去か未来か分からない時代へと思いを巡らしていると、ツチメの怒号が聞こえ意識が戻る。頬を膨らませながら「2回返事が無かった」と怒り心頭。これには素直に頭を下げる。


ズンズンと歩いていくツチメの後ろを付いていく。寝床の場所はどこか覚えているのだろうかと、疑問に思った瞬間振り向くツチメ。月明かりに照らされたその表情はどこか不安()。ため息を1つ。自分が先導して寝床まで戻る。ほんと、なぜこの子を連れてきてしまったのか。


---


朝。この村にも鶏がいるんだなと感心しつつ体を起こす。

目をこすりながら外を見るとまだ陽は登りきっていない。昨日はずっと水の上だったからか体が揺れている気がする。ツチメも何やら難しい顔をしているので同じような状況なのだろう。


テントを出る。

河原をを見渡すと既に煮炊きが始まっているようで、あちこちで煙が立ち上っている。横目で眺めながら自分達が乗ってきた(いかだ)のある場所へと歩く。


何艘か船を見つける。筏ではなく、船、である。筏が平坦だとしたら船は立体的な作り。うまい例えが見つからないが、バウムクーヘンを3分の1に千切ったような形状か。丸太や板を組み合わせた作りとなっており、中にを覗いてみれば数人の人間が漕ぐ為のオールのようなものもある。


筏の場所へとたどり着くと、村から同行した人達が食事の準備をしていた。あれ、何人か足りないぞと思い腰を下ろしながら記憶を辿・・・ろうとしたが、香ばしい匂いに意識を奪われた。火で炙られた魚の干物が、なんとも言えない匂いを醸し出している。村で食べている魚と比べてもやや大きい。雑炊のようなものが入った椀と一緒に渡され堪らず口に運ぶ。うまい。脂も乗っており食べる手が止まらなかった。周りを取り囲む大人たちは、そんな子供2人を微笑ましく眺めていた。


あっという間に食べ終わる。

椀に注がれた湯を飲みつつ景色を眺める。どこを見ても山、山、山。四方は山に囲まれている。北に見える山並みは遥か遠く、頂上に見える冠雪は前にも見たことがある。それに比べると東西の山々は近くに見えた。南側には自分たちが住んでいる村があるのだが、ここからは山の影に隠れて見えない。そうか、ここは盆地の中心地なのか。


あの山並みを歩いて超えるのは大変だと思う。どの位街道が整備されているかは分からないが、大量の荷物を持って山道を歩くのは現実的とは思えない。こうやって川の近くに大きな村があるということは、物流は船がメインとなる。街道の発達には馬や車の存在は欠かせない。


昨日見つけた一際高い山を改めて眺める。山の村にいた時には見えなかったが盆地の中なら何処からでも拝む事ができるだろう。朝日に照らされ神々しく見える御山に手を合わせていると、首を傾げて覗き込むツチメ。こちらも首を傾げてみる。見つめ合って1分、ツチメがそっぽを向く。


パンと手を打つ音が聞こえてくる。

大人たちが器を片付け始める。行動開始。今日どんな商いを行うかは不明だが、とにかくカマオから離れないようにしよう。


---


村は大きかった。

土手を超えると大きな広場があり各地から運んできたような品々が所狭しと並んでいた。市でも開かれているのだろうか。いや、そんな事はどうでもいい。それより驚いたのが広場の向こう側にならぶ建築物だ。いわゆる木造建築というやつで、家は数本の柱で支えられており一軒一軒が広く屋根が高い。流石にすべて平屋なのだが山の村とは建築様式がまるで違う。山の村で住んでいた小屋は低い土壁だったのだが、ここでは木板(きいた)の家がほとんど。区画整備まではなされていないが、とにかく建物の数が多い。さらに遠くには、物見(やぐら)のようなものまで確認できた。あっけにとられているとポンポンとカマオが肩を叩く。そうか、こうしてはいられない。


目的地はすぐ近くにあった。見覚えのある大人が、並べた土器の両脇を挟むように座っていた。カマオが挨拶をすると2人はどこへ立ち去る。見張り番だったのか。ひとまず腰を落ち着ける。


周りを見ると、同じように地面に商品を並べて座っている人がチラホラいる。ちゃんと数えたわけではないが、ぱっと見で10以上の店はあるようだ。(さなが)らフリマのようだ。


しばらくすると、(かご)を抱えた人が訪ねてくる。カマオが中を確認し軽く(うなず)くと客に手のひらを向ける。客はカマオに籠の中身を渡し代わりに5つ程土器を見繕いどこかに持ち去る。客が置いていった籠の中身は今朝食べた魚の干物だった。やはり物々交換なのか。


客の入は良くは無かった。何度か商談はまとまったが、まだ半分以上商品は残っている。どうするのかと様子を伺っていると見知った一人の男が近づいている。ツチメと一緒に筏にのっていた男だ。カマオと軽く話を済ませ何処かに出かけると、すぐに見知らぬ人達を連れ戻ってきた。


代表して商談に望むのは、なんというか裕福そうな出で立ちの男。ややふっくらとした体格で、上下白い服の上に黒いレザーのジャンパーのようなものを身にまとい、宝石のようなものが3つ繋がった首飾りをしている。木製の靴を履いており側面には何やら絵のようなものが描かれている。カマオが立ち上がって応対、2~3分後には双方の表情に笑顔が浮かぶ。男は革袋の中から小銭を数枚取り出しカマオに渡す。


貨幣あるんかい!と目を見開きながら心の中でツッコミを入れる。薄茶色の硬貨で、真ん中に穴が空いており、その両脇に2つ文字が刻んである。文字は潰れて何と書いてあるかは読めない。それよりも硬貨が使われているとしたら、今いるのはどの時代なのかと必死に記憶を辿る。


日本で初めて流通したのは確か和同開珎(わどうかいちん)だったはず。和同開珎が出回るのは飛鳥時代。手にした硬貨は違うようだが、弥生時代に貨幣なんて使われていなかったはず。じゃぁ、弥生時代じゃないのか。ならば山の村の文化レベルが低いのが気にかかる。どういう事だろう。


頭で情報を整理できず、ウンウン唸っているとトントンとツチメが左肩を叩く。また笑われるのかと思いきや、ちょっと心配そうな表情。多少引きつっていたとは思うが笑顔を向ける。それを見て隣に座り込むツチメ。こっちを向いてはいないが、心配してくれた・・・のだろうか。


捕捉

いい子にしてないと鬼に食べられちゃうぞー、っていう躾をされた子供って、今の日本にはいないんでしょうね。

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