第九話 戦争終結!和平案は「みんなでいっしょに赤ちゃん作ろ」
第九話
「だからー 私は城とか分かんないんだって……」
「そ、そうは言っても、見捨てるのか!? この、かよわい皇女の余を見捨てるのか!?」
旅は道ずれとはよく言うが、この小うるさい皇女様が最初のお供とはハードルが高すぎる。
「見捨てるわけじゃないけど……」
「ほーれ、こんな年端も行かぬ乙女をこーんな森の中に置いていくなぞ、鬼畜の所業じゃぞ?
そち、責任をもって余を城まで連れ帰るのじゃ」
責任とは。
「はぁ……その、こーんな森の中に何の用があって来たの、皇女様が」
「ギクッ」
口に出して言うのか……。
「そ、それは庶民には関係のないことじゃからして……」
「ワイには分かるで!!! 妖精魔法・真実の眼で!!!」
「妖精魔法? 何だそれ」
「妖精にのみ許された、便利な魔法だ!! 真実の眼・発動!!!」
カッ、と肉坊が目を見開く。
「な、なんじゃ、余をそんなに見て……」
「じー」
「うう……」
「分かったッ!!! この皇女様、魔女を退治しにやってきたんだッ!!」
「ッ!」
今度はアニエスの目が見開かれる。
「ど、どうしてそれをっ!?」
「魔女? なんだってそんなものを」
「この皇女様なー!! 末っ子なもんだから全然お父様が褒めてくれなくてなー!!
褒めてほしくて、悪名高いこの森の魔女を退治しに来たんだってさー!!!」
「あああああああああああ!!!」
頭を抱えて転がる皇女。
秘密を暴露されたことがよほどショックだったのだろう。
「……まあ、なんだ…… がんばれ……」
俺は無責任に励ますしかなかった。
しかし、どうしても気にかかることがあった。
「魔女……? 魔女が棲んでるのか? この森に」
「そ、そうじゃ! とーっても恐ろしい"流血の魔女"が潜んでいるのじゃ!」
「流血の魔女? なんだか物騒だな……」
「そうじゃろ!? 恐ろしいのじゃ! きっと、血をダラダラ流す魔女なのじゃ!!」
「……血を流す、のか? 流させる、じゃなく?」
「そうなのじゃ! ああ恐ろしい! でも、でも余はその魔女を打ち倒し、お父様に褒めてもらうのじゃ!」
今度は元気を取り戻し盛り上がる皇女様。
その流血の魔女、とやらがいるのなら、あまりこの森に長居はしたくない。
「なあ、そろそろここから離れ……」
ガサ、と音が響いた。
「っ……シッ」
アニエスの口に手を当てる。
にわかに辺りに緊張が走る。
何か、いる。
ガサ
茂みから顔を出したのは……大人の女性だった。
メガネをかけて、タンクトップをはだけさせた、どことなく危なっかしい女性……。
「……あえ?」
向こうがこちらに気付く。
「あれぇ? 人だ。 めずらし」
メガネの奥のトロンとした目をこちらに向けながら、気の抜けた声を出す女性。
ひとまず、挨拶だ。
「あ、あー、こんにちはー、 あ、あの、私たち、森で迷っててぇ、流血の魔女?が、出る前に、家に帰ろうって、」
「ンゴボ」
メガネの女性の口元から、血が垂れる。
「え」
「ぼぐェボぁ」
女性の口から大量の血が溢れ、流れ出した!
「流血の魔女だああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
俺とアニエスは抱き合って叫んだ。