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第八話 まさかの「子作り早い者勝ち競争」勃発! 美少女たちに迫られまくり!

 

第八話


 

「どこだ!?」


「もっと奥やで!!!」


 森の中はとかく枝だの岩だの走りにくい。

 何度も転びそうになりながらも奥へ奥へとひた走る。

 股間の肉坊が光を纏い、周囲を照らしてくれている。

 それでも鬱蒼とした森の奥は次第に闇が深まってくる。


「こんなに暗いのかよ! 森ってのは! 声の方はこっちだよな!?」


「ああ! もう少しのはずや!」


 顔で蜘蛛の巣を受け止めながらの俺の叫びに肉坊が声を返す。

 いったん引き返すことも脳裏に浮かんだ時……


「おっ……」


 突然、視界が開けた。

 森の一角にある草むらのスペースへ出たらしい。

 周囲がにわかに明るくなり目がくらむ。


「で、あ」


 息を整える……間もなく、息をのんだ。


 ひとりの少女──恐らく、叫び声の主だろう──がうずくまっている。

 そして、それに対峙しているのは三人の……いや、三体の、ゴブリンだ!


「っ……」


 場面を完全に飲み込めた訳じゃない。

 主人公を気取ったわけじゃない。

 それでも、言うことは決まっていた。


「や、やめろォ!」


 若干裏返った声を張り上げて、俺は奴らを制止する。

 短絡的だが、女の子が被害者で、ゴブリンが加害者なんだろう。違ってたら申し訳ないが。


 ゴブリン達は虚を突かれたように呆然とこちらを見ていたが……。


「キシャァッ!」


 先頭の一匹が鬨の声を上げてこちらへ向かって来る。

 手にはトゲの付いた棍棒。

 一方こちらは、丸腰の乙女だ。


「え、ちょ、待っ……」


 考えなしに煽ってしまったことを後悔する。

 自分は勇者でも戦士でもない。

 ただ股間に妖精の生えた……


「そうだ!! 肉坊!!」

 

「合点だ!!!」


 例の山賊をやっつけた時の要領で、奴らを爆殺させれば……!


「……あ?」


 目の前のゴブリン。それが迫っているのは分かっている。

 しかしその視界の端に、別のゴブリンが少女へ襲い掛かっている姿が見てとれた。


「イヤアアアァァッ!!」


 少女の悲鳴。

 

「肉坊!!? あっちも爆発……」


「無理や!! 爆発には一体一体時間がかかるッ!!」


 肉坊の叫びにも焦りが感じられる。

 目の前にはこちらへ襲い掛かってくるゴブリン。

 一方で少女もピンチだ。

 どうする。 どうする。


「ど、どうし、たら……」


「リキや!! リキ入れろォ!!!」


 肉坊が叫ぶ。

 俺はパニックになりながらも、股間に力を込める……!


「で、でもどうする!? どっちを攻撃したら……」


「そんな時は……」


 カァァ、と肉坊が熱く、煌々と輝き出す!


「白魔術や!!!」


「白魔術!?」


 魔術、と聞いて思い浮かぶのは何かを飛ばす遠隔攻撃だ。

 そうか……! 魔術のビームとかで攻撃すれば、遠くの敵も一掃……!


「奥義……!!」


 肉坊が雄々しく、硬く前方へ突き出される。

 そしてその先端に聖なる光が神々しく煌めく……!


「白濁魔砲……ッ!!!」


 ビュルーッ!!

 びゅるびゅっ… ビューッ! びゅびゅっ… びゅるるッ!

  びゅびゅーっ! ブビュッ… ビュル… ぶびゅービュッ!


 肉坊の先端から何やら白い粘液が大量にほとばしった!!


「うおおおおおおおおおオオオォ!!?! 何だこれェ!!?」


 びゅーっ! ドビュッ! どぴゅーっ! ドクドク…

  びゅるるっ ピューッ! どびゅどびゅ… ドピュピュ…


「あ、あ、あぁああ、あああああああぁあ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」


 俺は白目を剥きながら、ガクガクと腰を痙攣させていた。

 頭は電流が走ったように痺れて真っ白だ。

 ただただ、溢れてくる粘液を吐き出す不思議な感覚に脳を焼かれていた。


 ビュビューッ…! びゅっ…


  ピュッ…… ピュピュッ…  ぴゅるっ…


   たぱっ…タパッ…



 ようやく粘液の排出が止まった頃、俺は膝から崩れ落ちた。

 

「お、おい!! 大丈夫かアネゴ!!!」


 形状を取り戻した肉坊が耳元で怒鳴る。


「……なに、これ」


 全身が……特に脳が痺れて言うことを聞かない。

 俺は息も絶え絶えになりながら問うた。


「これが、奥義・白濁魔砲だ!! 聖なる魔術を粘性の液体に変えて放つ、秘伝中の秘伝の白魔術さ!!!」


 胸を反らしてエヘンと鼻を鳴らす妖精。

 

「なんか……すごく……つかれた……」


「ああ!! 秘伝の魔術だからな!! 依り代の負担もデカいんだ!! すべてを浄化する白魔術の副作用で、モノスゴい快感がほとばしるんだ!!」


 なかなか話が入ってこないが、要は魔術の副作用で、こんな倦怠感に襲われているらしい。

 そうだ、あの女の子……

 俺が地面に突っ伏したまま顔を上げると、目の前にゴブリンの半壊した頭があった。


「うおッ!?」


 思わず体を起こして飛び退く。


「な、なんで半分潰れてんだ……?」


 震える声でそう聞くと、


「これが白魔術の効果だぜェ!! 粘液が闇のモンスターに触れると、そこから溶けちまうんだ!!」


「……ってことは、さっきの粘液で……」


「ゴブリンたちは皆ドロドロのボロボロよ!」


 薄目で周囲を探ると、確かに頭やら腕やら足やらが半壊したり溶解して飛び散っている。

 さっきの白魔術の威力というのは相当なものだ……。


 ん? 相当な威力?


「あっ……! さっきの女の子……!」


 俺が慌てて見渡すと、


「……」


 いた。

 切り株の隅に隠れるように、涙目の顔をそっと覗かせている少女がいる。


 俺はゆっくりと彼女へ近づいていく。


「!」


 少女は慌てたように顔を引っ込める。 年は10歳程度といったところか。


「もう大丈夫、怖くないよ」


 精いっぱいの優しい声を出してみる。

 元の男の体なら怪しまれるかもしれないが、幸い今は女の体だ。

 少女がおずおずと顔を覗かせ、俺のツラをまじまじと眺める。


「……そちは、人間か」


 そち?

 こっちの人間は随分雅びな言葉を遣うものだ。


「ああ、人間だよ。 お嬢ちゃんは?」


 と、少女は切り株から飛び出すと、俺の前で腰に手を当てて胸を張る。


「お、お嬢ちゃんではない! 余はオープニア皇国の第六皇女、アニエス・サトルーチェなるぞ!」


 突然鼻息を荒くした少女に正直どうしていいか分からなくなった俺は、「はあ」と気の抜けた返事をした。


「ま、まあ良い。 そちのおかげで助かった…… 従者ともはぐれてしまった故……」


 くるくると金髪をいじくる少女を見下ろしながら俺がどうしたものかと思案していると、


「そうじゃ! そち、余を城へ送るが良い。 褒美をつかわすぞ!」


 いきなり元気を取り戻した皇女様(自称)が指をさしてはしゃいでくる。


「あの、城って……」


「分からんのか! 城じゃ城! 余の住処であるオープニア城じゃ! 無事に送り届けてくれたら、たっぷりと褒美をやるぞ?」


 どうやらこの世界ではメジャーな城のようだ。

 俺は股間の妖精へ話を振る。


「どうする? 肉坊」


「俺はどっちでもいいぜ!!!」


 スカートから顔を出す肉坊。


「な゛っ!? なんじゃそれは!?」


 のけぞる皇女様。


「おう!! 俺は妖精の肉坊ってんだ!! よろしくな!!!」


「よ、よろしくなのじゃ! 妖精か……こんな形の妖精は初めてじゃのう」


 そう言ってアニエスがつんつんと指でつつく。


「あっ、あっ」


 思わず声を出してしまう。


「何じゃ、おぬし」


「いや、何か……腰のあたりに変な感じが……」


「おう!! 魔術を発動した反応だな! ワイとアネゴの感覚がリンクしてっから、敏感になってんだ!!!」


 なんだかよく分からないが、いつの間にか肉坊と感覚を共有しているらしい……。

 

「んー、表面はツルツルとしていて、それでいてドクドクと脈を打っとるのう。不思議な妖精じゃ」


 そう言いながら手のひらで撫でてくる。

 肉坊のちょうど頭のあたりをグリグリと撫でる少女の手の平の感触が俺にも伝わってくる。


「あっ、あっ、あっ、まずい……」


 思わず呻く。


「何じゃ、何がどうまずいのじゃ」


 言いながら皇女様は手の動きを止めてくれない。


「なっ、なんか、また何か出そう……」


「ああ!! さっきの反動でビンカンになって、魔術が出やすくなってんだな!!」


 肉坊が能天気に叫ぶ。


「ビンカン? どういうことじゃ?」


 皇女の手の動きが複雑になる。本人は遊んでいるつもりなのだろう。

 肉坊の首の周りをコスコスと指でいじるように撫で回してくる。


「あっ、あっ、まずいッ!! 出るっ!! 魔術出るっ!!!」


 俺の腰から脳に電流が走った。


「えっ?」


  びゅるーっ!! びゅるびゅるっ! びゅーっ!

 ビュクッ びゅくっ ドクドク…

  びゅびゅっ… ピュッ… ぴゅるっ…

 たぱっ… タパッ…


「きゃあっ!?」


 少女の顔面へ盛大に白魔術がぶちまけられる。

 少女は思わず顔をしかめた。


「はぁ……はぁ……」


 腰砕けになった俺はヘナヘナとその場に崩れ落ちる。


「あ、ご、ごめん……」


「な、なんじゃこれ……変なニオイじゃのう……」


 くんくんと粘液の匂いを嗅ぐアニエス。


「いやー!! また大量に(魔術)出したな!! まあ、闇のモンスター以外にはただのヨーグルト味の粘液だけどよ!!!」


 肉坊がはしゃぐ。


「……そうなのか?」


 なぜ味付きなのかと問う余裕もなく、ぐったりと寝そべる俺。


「……」


 じっと、自分の手に付いた粘液を眺める少女。


「……ふむ」


 何やら決心すると、ぺろりとそれを舐め取った。


 俺が足元から彼女を見守っていると……


「おいしい」


 少女は口元に魔術を付けたまま、にっこりと微笑んだ。

 

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