第五話 だけど「正妻は誰か」で一触即発!全員と平等にデート&キス!
第五話
どれだけ時間が経っただろう。
ふらりと立ち上がると、俺は血生臭い洞窟を後にした。
股間の奴は満足したのか、手頃なサイズに落ち着き俺のスカートの中に納まっている。
「いやー、ワイの活躍見てくれました?」
ウキウキした声が股下から響く。
「見たよ……目に焼き付いたよ」
俺は恐らく死んだ目をしながらそう答える。
「そうでっか……! いやーワイの活躍がマスターに認めてもらえてほんと……」
「……お前、呼び名統一しろよ。 いい加減混乱してきた」
「ほうでんなー あっ!! というか、名前教えてくださいよ!! 名前!!」
「名前……」
俺は、こっちでの名前がまだない。
というか、そんなこと考える余裕もなかった……。
何かかっこよくて、素敵な響きで、センスがキラリと光る名前……。
「そうだな…… 俺は……」
「あっ!」
素っ頓狂な女の声。俺は思わずビクンと震えた。
「えっ、えっ」
後ろを振り向くと、メガネをかけた黒髪の少女が口元を抑えてこちらを見ている。
不穏さの露わなその姿に俺はとっさにひきつった笑顔を見せる。
「あ、あの……どうも~……」
我ながら間抜けな対応だが、ここは相手のいかにもな警戒を解くのが第一だ。
そりゃ、こんな草原に一人女がフラフラしてれば不審かもしれないが……俺はただ、この妖精の暴走に巻き込まれただけで……
「大変!! 大丈夫ですか!? ケガは!?」
メガネ少女はこちらに走り寄ると、心配そうに俺の肩に手を置いた。
「えっ、あっ」
予想だにしない行動に俺は次の言葉が出てこない。
と、自分の手に目をやる。
……乾いた血がこびりつき、一部何かの欠片も引っ付いている。
「転んだケガじゃない、ですね…… 山賊ですか!? 山賊に襲われたんですか!?」
……そうか。 血まみれの少女が草原でフラフラ……。
山賊に襲われたと勘違いしても不思議ではない。
「あ、ああ……ええと、ちょっと、その、ちょこっと襲われたというか……」
我ながら意味が分からない。
「襲われたんですね!! 分かりました! 私が村まで案内しますから、付いて来てください!」
どうやらメガネ少女は何かの使命感を感じてしまったようだ。
不自然にならないよう、提案に甘えることにする。
「あ、ああ……よろしくお願いします……わ?」
慣れない女言葉を使いながら、少女に肩を貸してもらう。
「さ、行きましょう」
しばらく大人しくしといてくれよ……。
俺は少女に悟られないよう、そっと股間を握った。