第四話 身が持たないからとりあえず提案。「日替わり恋人」制度導入。
第四話
「あ、いや……」
俺はどうにか声を絞り出す。
「こ、ここは……相手を刺激せず、穏便に……」
聞いたことがある。
犯罪者を目の前にした際は、まずこちらがパニックにならず落ち着くことが重要であると。
そして、相手の心情を刺激せず場を穏便に収めることで自身の生存確率を上げ
「オラァ!!! 山賊どもォ!!! かかって来いやァ!!!」
俺は顔を覆った。
終わった。
その証拠に山賊たちは怒りに顔を歪め、一斉にこちらへ走り始めている。
もし次生まれ変わるなら、今度こそ職に就こう。親を泣かさない人生を歩もう。
それで、もし、もし、出会いがあるなら、彼女を作って、童貞を……
「お嬢!! リキ入れろ!!」
突如、妖精が叫ぶ。
「は、はぁ?」
「早く!! ワイにリキ入れるんや!!」
「リキ?」
「こう……股ぐらに力を入れるんや!! 元男やったら分かるやろ!!」
分からん。分からんが……
「もう……どうにでもなれッ!!」
とにかく、力を込めた……!!
「う、う、お゛……おオ゛おお゛おぉお゛ォン!!」
妖精の顔が歪む……いや、悶えている……?
恍惚ともとれるアンニュイな表情を浮かべ苦悶に呻いている。
そして、その身が煌々と光り出した!
「ええ……ええ……?」
そして光が一段と強く輝いた瞬間……!
「うりァあ゛ァ!!!!」
一叫したかと思うと、目にも止まらぬ速さで洞窟内を縦横無尽に駆け巡っ……もとい、その身を伸ばしまくる。
「な、何、いったい、な、……」
俺は暴走する自分の股間に慄いた。
みるみるうちに洞窟の中を奴の軌跡が埋めていく。
「いィイ゛やっほーぅ!!!!」
と、奴は突然向き直ると、茫然とする山賊たちの一人に向かって突っ込んでいった。
文字通り、突っ込んでいった。
「ンしょらァあ゛!!!!」
奴の頭部(先端?)は、山賊の尻の割れ目へ一直線に突進する!
ドッボォ!!!
何だか嫌な音が響いた。
と、突っ込まれた山賊は「エ゛ン!!!」という猿叫を上げて、白目を剥き背筋をピンと伸ばした。
「何してるんだ!!?」
俺は思わず顔を覆った指の隙間からそれを眺めていた。
「ま、まさか……入ってるのか!? 中に!? 穴から!?」
「そんなわけないやろ!!!」
山賊の腹の中から声が聴こえる。
「これは穴から入っている訳ではないで!!! どこでもドア方式で、ワープホールを用いて体内に入ってるんやで!!!」
「ワープホール……?」
つまり、奴の先端が山賊の尻のあたりの服に触れた瞬間、妖精の力でワープの入り口を生成。
そしてそこから5-6cm体内に出口を生成。
そのワープホールを通じて体内に潜り込んでいると。
つまり、決して穴に突っ込んでいる訳ではないのだ。
「そのワープホールで中に入ってどうするんだ」
「こうする!!!!」
すると、山賊の腹から光が一筋、二筋と漏れた。
次第に光が強くなり……大きく輝いたかと思うと……!
「んぶ」
山賊がわずかに呻いたかと思うと、その身が爆散した。
「ッひィ!!?」
洞窟中に血肉と内臓と様々な欠片が飛び散り、降り注ぐ。
例外なく俺の頭上にも赤いシャワーが遠慮なく浴びせられる。
俺はその凄惨な状況に思わず絶叫した。
「ああぁあ゛ああぁいいいぃぃいやあああぁああ!!!」
「お前らもだ!!!」
妖精は次々と山賊たちの尻に突進しては、体内にワープし、爆発させていった。
その度に洞窟の壁に、天井に赤ペンキの前衛美術が塗りたくられていく。
鉄の臭いが充満した洞穴は、赤黒く変色した地獄の門へと早変わりだ。
気付けば俺は知らずに涙を流していた。
人はキャパを越える情報量を脳に叩き込まれると、ストレスに耐え切れず代償反応として涙を流すという。
「ああ……あぁぁ……」
俺は呻いた。 ただ、この悲惨な状況を生み出したのは俺の股間から生えるモノだ。
そいつは半分赤くなった顔を近づけて嗤う。
「姉御!! 片付けやしたぜ!!!」
俺はうなだれながら呟いた。
「俺の初めてが……」