支配者
~前回のあらすじ~
監禁室を脱出したジンだったが、出口の階段を前にジンの背後で女の声がした。
女の正体が使用人の麻里亜だとわかり、ジンと麻里亜は脱出を試みるが……
他の監禁室から音がするものの、麻里亜は無視してジンを助けようとする。
ジンはそんな麻里亜に納得がいかず、ジンは他に閉じ込められた人を助けようと麻里亜に訴える。
そして、出口の階段から手りゅう弾が転がり、麻里亜は手りゅう弾を避けるために音がした監禁室へ飛び込む。
~支配者~
その時、階段から手りゅう弾がゴロゴロと転がり落ちてきた。
麻里亜は咄嗟にすぐ側の階段手前の音がした鉄扉を蹴破り、中に駆け込んだ。
次の瞬間、手りゅう弾が爆発。僕たちが逃げ込んだ監禁室に爆風が舞い込む。
麻里亜の身体が爆風で浮き上がり、麻里亜の身体が反って爆風で吹っ飛ぶ。
僕は怖くなって、思わず目を瞑る。
爆風で振り落とされないように、僕は両手で麻里亜の背中を握り締める。
僕の鼓動が高まり、緊張で息が荒くなる。
僕はそっと眼を開け、部屋をゆっくりと見回す。
部屋は壁際にベッドが置いてあるだけの殺風景な部屋だった。
確かにこの部屋から音がしたんだけど、何故か誰もいない。
変だな。僕は不思議に思い首を傾げる。
でも、今は麻里亜が心配だ。
麻里亜の左肩越しを覗くと、麻里亜の左手が伸び、麻里亜は壁に左手の掌を突いていた。
麻里亜の掌の周りに、蜘蛛の巣の様に罅割れている。爆風の凄まじさを物語る。
僕は恐る恐る麻里亜の横顔を覗くと、麻里亜は無表情で紅い眼を見開いている。
僕は麻里亜が心配で生唾を飲み込み喉を鳴らす。
「麻里亜、大丈夫?」
僕は麻里亜の無表情の横顔に声を掛けてみた。
麻里亜が無表情で僕に振り向く。
「ワタシは大丈夫です。ジン様、大丈夫ですか?」
麻里亜が壁から左手を離す。
僕は生きている実感が湧き、力強く頷く。
「僕は大丈夫。それより、閉じ込められてる人はどこ?」
僕は狭い部屋を見回す。
麻里亜は傍のベッドに顔を向けた。
「彼女は爆風に巻き込まれ、ベッドの下にいる模様」
麻里亜はベッドの下を透視する様にベッドを見つめている。
その時、ベッドの下から口元を白い布で縛られ、身体をロープで縛られた少女が床をもぞもぞと這って出てきた。
少女は肩までの金髪ミディアムヘアでカールを巻き、豪華なコルセットドレスを着て、黒いブーティを履いている。
格好からして、どこかの貴族だろうか。
髪と肌に艶があるから、まだ彼女は拉致されて間もないんだろう。
女の子にとって不潔は辛いだろうな。僕は彼女を見下ろして、そう思った。
麻里亜は黙って僕を下ろし、屈み込んだままワンピースのポケットからナイフを取り出す。
麻里亜は立ち上がって彼女の元に歩み寄り、少女を縛っているロープを切って、頭の後ろで結ばれた白い布を解いてあげた。
僕は麻里亜の行動に呆気に取られ、壁に凭れて呆然と立ち尽くす。
驚きで僕は目を瞬く。
束縛から解放された少女が咳き込みながら、顔を上げて必死に口許を動かして何か言おうとしている。
「た、助け、て……わ、私は、る、ルビナ姫……」
少女が麻里亜にしがみつくように、麻里亜の胸で気絶する。
何かの薬が効いたのだろうか。当分、少女は目を覚まさないだろう。
ルビナ姫?
どこかの王女かな?
いや、それより、何で麻里亜は彼女を助けたんだ?
僕は壁に凭れ、腕を組んで首を傾げて考えていた。
僕は黙って麻里亜の行動を見守っていたが、やがて僕は不思議に思い麻里亜に訊いた。
「麻里亜、何で助けたの?」
僕は屈み込んで、少女の顔を覗き込む。綺麗な顔だ。
あっ、僕不潔だから、あんまり近づいたら、彼女に悪いよね。
僕は少女に遠慮しておもむろに立ち上がり、彼女から離れて壁に凭れた。
屈んで、何故かため息を零す。
少女を見ていると何故か胸がドキドキして、僕は顔が火照って胸を手でぐっと押さえる。
麻里亜は少女を支えながら、くるりと少女に背中を向けた。
「ワタシが彼女を助けた理由。リアン様は、彼女の存在に気付いてなかったようです。これより、ワタシは彼女を助け、新たな任務を遂行します。ジン様、歩けますか?」
数秒遅れて、麻里亜が僕の質問に答えた。
麻里亜が少女を背負っておもむろに立ち上がる。
僕は壁から離れて姿勢を正し、胸の前で必死に両手を振った。
「あっ、僕は大丈夫。男の子だし、平気だよ。歩けるから」
麻里亜が背負う少女の顔を見ていると、何故かまた恥ずかしくなり、僕の顔が火照る。
僕は少女から顔を背ける。何故か鼓動が高まる。
僕は瞼を閉じて、気持ちを落ち着かせるため、胸を手でぐっと押さえる。
深呼吸して手を下ろし、ゆっくりと目を開ける。なんか僕、変だな。どうしたんだろ。
「よぉ、姉ちゃん。強いじゃねぇか、手りゅう弾でも死なねぇとはな。気に入ったぜ。よく見りゃ、姉ちゃんいい女じゃねぇか。ちょうどいい、店の女に飽きてたとこだ。俺の相手してくれねぇか? 高い金払うぜ? どうだ?」
その時、麻里亜が蹴破った鉄扉の所にいつの間にかマシンガンを片手に持ち、壁に凭れる男が立っていた。
男は短髪で黒いシャツを着て革ジャケットを羽織り、ジーンズに黒いブーツを履いている。
男は額から血を流し、煙草を吹かしながら、麻里亜を厭らしい目つきで舐める様に見ている。
男は不気味な笑みを浮かべた。
僕は恐怖で棒立ちになり、瞼を閉じて瞼に力を入れる。
両手の拳を握り締めた。麻里亜、助けて。
ダメだ。僕は首を横に振る。
麻里亜は僕が守るんだ。
僕は意を決して瞼を開ける。
麻里亜が微かに動いて、男は驚いて身構え、マシンガンを構えて銃口を麻里亜に向ける。
麻里亜は両手が塞がって思った以上に動けないらしく、男は安心したようにライフルを下ろした。
僕は両手の拳を握り締めたまま、生唾を飲み込み喉を鳴らす。
動かなきゃ。僕が動かなきゃ。
僕は咄嗟に麻里亜の腰のホルスターからオートマチック銃を抜き、男にオートマチック銃の銃口を男に向ける。
麻里亜は動けない。僕が麻里亜を守らないと。
男はふざけて自分を片手で指さす。
「俺を撃つのか?」
男は肩を竦め、可笑しいように腹を抱えて笑っている。
初めて人を撃つ。僕の手が恐怖で震えている。
寒気がして、オートマチック銃を落としそうになる。
「ジン様、お止めください。ワタシに任せてください」
隣に立つ麻里亜の感情のない声が振ってくる。
麻里亜の声が遠くに聞こえる。
やっぱり駄目だ、撃てない。僕は怖くなって瞼を閉じる。
落ち着け。震える手で、ゆっくりと引き金を引いてゆく。
ごめん、麻里亜。やがて一発の銃声が響く。
男に銃弾が命中したのか、男が呻いてマシンガンを床に落とす音が聞こえた。
僕は男を撃った罪悪感で瞼を開け、鼓動が高まり息が荒くなる。
オートマチック銃が手の汗で、僕の手から滑り落ちる。
「こいつやりやがったな!」
男の怒声が聞こえたかと思うと、男がオートマチック銃を構えるのが見える。
その後、一発の銃声が響く。
「うっ」
僕の脇腹に激痛が走り、僕は声を漏らしコンクリートの冷たい床に跪く。
男の高笑いが聞こえる。
僕は脇腹を手で押さえ止血する。
脇腹を見ると血が噴いていた。
「くそっ」
僕は呻き声を漏らして、よろめいて床に倒れ込んだ。
僕の意識が遠のく。
僕は悔しくて、歯を食いしばって男を睨む。
その時、男の背後から革の手袋を嵌めてナイフを握った手が伸び、男の首筋にナイフが刺さった。
「がふっ」
男が口から血を吐き、喉を片手で押さえる様に男が横に倒れるのが見える。
男の背後から、大男が現れた。
大男は肩にかかるエメラルドグリーンヘアで、顔が白く塗ってあり、目許が黒く塗ってある。
口許を覆う様に不気味な金色の歯型マスクを装着し、鼻まで銀色のマスクが覆っている。
マスクの両端から銀色のホースが伸び、背中の機械に繋がっている。
緑のシャツを着て、黒いネクタイを締め、紫のコートを羽織り、両手に黒い革手袋を嵌めている。
紫のストライプのスーツズボンを穿き、黒いブーツを履いている。
大男のマスクから不気味な呼吸音が聞こえる。
「!?」
僕は驚いて目を見開く。
この人、誰だろう。
大男は壁に掌を突いて、僕たちを見て笑った。
「オレが留守の間に大事な人質が逃げようとしている! 部下どもは役立たずばかりだ! 取引が台無しだ!」
大男が悪魔の様な声で、怒りを露わに壁を拳で叩く。
拳で叩かれた壁が砕けて、瓦礫が床に落ちる。
大男は倒れた男の死体から乱暴にマシンガンを奪い取って、麻里亜に銃口を向けて構える。
「彼女を下ろしてもらおう。抵抗するなら、お前を撃つ」
大男が勝ち誇った様に笑い、荒い呼吸音が聞こえる。
僕は麻里亜を心配して、麻里亜を見上げる。
麻里亜は僕に答える様に、僕に振り向いた。
麻里亜は大男に顔を戻して否定する様に首を横に振る。
「出来ません。ワタシは任務を遂行します」
麻里亜は無表情で大男を見つめている。
僕は脇腹を手で押さえながら、何も出来ない自分が悔しくて拳を握り締める。
「くそっ」と呟いて、僕は大男を睨み据える。
大男は麻里亜の答えを気に入ったかの様に掌を壁に突き、マシンガンを肩に担ぐ。
「フハハハハッ、頑固な女だ。いいだろう。お前を殺してでも、彼女を取り戻すぞ!」
大男は不気味に笑いながらマシンガンをぶっ放す。
僕はべっとりと身体に汗を掻いていた。
もうダメだ。僕は瞼を閉じる。
僕は何も出来ないんだ……
麻里亜、死なないで。お願いだ。
最後に謎の新キャラ登場です。彼が、今後どう物語に関わってくるのでしょう。それは、作者にもわかりません……今回も麻里亜が活躍してます?