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女の正体

~前回のあらすじ~


ジンが何者かに拉致され、監禁室に閉じ込められて何日か経ったある日。

銃声や悲鳴が聞こえ、何故か監禁室の扉が開き、ジンは意を決して脱出を試みる。

出口の階段が近づく中、ジンの背後で女の声がした。


~女の正体~


「銃を蹴ってください」

 僕の背後の女が、冷たい声で促す。


 僕は緊張で生唾を飲み込み、喉を鳴らす。

 女に言われた通り、手を上げながらオートマチック銃を向こうに蹴った。

 蹴ったオートマチック銃はコンクリートの床を滑り、やがて壁に当たって止まる。

 もうダメだ。僕は手を上げたまま絶望に駆られ、諦めて瞼を閉じる。

 頭の中で一六年という短い人生の出来事が走馬灯の様に流れる。

 悔しくて涙が滲んだ。溢れた涙が頬を伝う。


「ジン様、安心してください。麻里亜が助けに来ました」

 僕の背後で女の冷たい声が背中に突き刺さる。


 僕はその声で我に返り、瞼を開け、思わず背後の女に振り返る。

 麻里亜だ。麻里亜が僕を助けに来てくれたんだ!

 僕は麻里亜の顔を見上げる。

 麻里亜は薄青いストレートヘア、眼が紅く、黒いワンピースを着て、黒いニーソックス、黒いブーツを履いている。

 麻里亜は全身黒ずくめで、冷たい眼で僕を見下ろす。


 僕と麻里亜の視線が合う。

「麻里亜ぁ……怖かった。怖かったよぉ」

 僕は子供の様に嗚咽し、滲んだ涙を手の甲で拭う。

 僕は堪らなく麻里亜に抱き付き、麻里亜のワンピースのスカートを握り締めた。


「どうかしましたか? ジン様」

 麻里亜の声が降って、僕は麻里亜を見上げる。

 麻里亜は無表情で不思議そうに首を傾げ、子供をあやすように僕の頭を撫でてくれた。

 数秒後、麻里亜は屈み込んで、僕を優しく抱き締めて僕の頭を何度も撫でる。


 麻里亜は僕からそっと離れ、僕の両肩に手を置き、僕の顔を見る。

「ジン様、ご心配お掛けしました。ジン様は酷く衰弱しきっています。さぁ、ここから逃げましょう」

 麻里亜が安心させるように僕の頭を撫でる。


 麻里亜は、僕の母さんなんだ。

 麻里亜は、病気で死んだ母さんの代わりなんだ。

 麻里亜は不器用だけど、一生懸命に僕の母さんになろうとしてくれてる。

 僕も麻里亜に応えないと。


「うん」

 僕は泣きながら頷いた。


 麻里亜は僕の肩から手を離し、麻里亜はくるっと背中を向ける。

「ジン様、ワタシの背中に乗ってください」


 僕は黙って麻里亜の背中に身体を預ける。

「ごめん、麻里亜……」

 僕は泣きながら麻里亜の背中に顔を埋めて呟いた。


「何故、謝るのですか?」

 麻里亜の不思議そうな声が降る。


「だって、父上や麻里亜に迷惑掛けてしまったから。その、ごめん……」

 僕は麻里亜の背中に顔を埋めたまま。


「気にしないでください。ジン様のためなら、ワタシは命を懸けてジン様を守ります」

 麻里亜がおもむろに立ち上がる。


 僕はしっかりと麻里亜の背中に身体を預ける。

「僕が大きくなったら、麻里亜を守るから。父上も守る」

 僕は意を決して、麻里亜の背中に顔を埋めたまま拳を握り締める。


 麻里亜が踵を返して、階段に向かう。

 麻里亜のブーツの靴音がリズミカルに硬い音を響かせる。

 僕は麻里亜の背中ですっかり安心してうとうと眠ろうとしていた。

 僕が眠い目を擦った時、階段手前の鉄扉の向こうから、重い物が落ちた様な大きな音がした。


 その音に反応する様に麻里亜の動きが止まり、僕は思いっきり額を麻里亜の背中にぶつけて目が覚めた。

「どうしたの? 麻里亜」

 僕は欠伸が出て、眠そうに目を擦る。眼を擦ったら瞼が痒くなった。


 麻里亜は音がした鉄扉を、紅い眼で冷たくじっと見ている。

「なんでもありません。失礼しました」

 麻里亜は首を横に振って、前を向いて歩き出した。


 麻里亜は音がした鉄扉の横を通り過ぎる。

 僕は音がした鉄扉に振り向き、僕の頭に疑問が浮かぶ。

「ねぇ、麻里亜。もしかして、僕の他に閉じ込められている人がいた? 何で助けないで無視したの?」

 僕は麻里亜に訊いた。拳を握り締めて、語尾が強くなった。


 麻里亜が僕の質問に答える様に立ち止る。

「ワタシの任務は、ジン様の救出です。それ以外の命令は受けません」


 僕は麻里亜の背中を拳で小さく叩いた。

「何で? 父上は? どうして、父上は僕を助けに来ないんだ!?」

 僕は大声を出したせいで息が乱れた。


 いつもそうだ。

 父上は仕事で忙しく、いつも家にいない。

 たまに父上が家に帰ったと思ったら、すぐに仕事で家を出る。

 麻里亜が僕の面倒を見てくれていた。

 麻里亜に父上の仕事を訊いても答えてくれなかった。

 父上に会いたい。

 僕は動揺して目がさざ波の様に揺れている。


 麻里亜は僕を背負い直した。

「リアン様は、他の任務に就いております。ここに閉じ込められている人たちは、リアン様が救出します。安心してください」

 麻里亜は何事も無かったように歩き出す。


 僕は麻里亜に呆れてため息を零す。

「麻里亜なら、僕をわかってくれると思ってた。もういいよ。僕一人で閉じ込められてる子を助ける。僕を下ろしてよ」

 僕は必死に両手でぽかぽかと麻里亜の背中を叩いた。


 その時、階段から手りゅう弾がゴロゴロと転がり落ちてきた。

 麻里亜は咄嗟にすぐ側の階段手前の音がした鉄扉を蹴破り、中に駆け込んだ。

 次の瞬間、手りゅう弾が爆発。僕たちが逃げ込んだ監禁室に爆風が舞い込む。

 麻里亜の身体が爆風で浮き上がり、麻里亜の身体が反って爆風で吹っ飛ぶ。

 僕は怖くなって、思わず目を瞑る。

 爆風で振り落とされないように、僕は両手で麻里亜の背中を握り締める。

旧キャラ、麻里亜の登場です。麻里亜は個人的にお気に入りのキャラです。これから、麻里亜を登場させたいですね。


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