港町キリカ
☆前回のあらすじ☆ ナレーション:ジン
ルビナ姫がバンを運転しようとするが、IDカードが見つからずにバンを運転できなかった。
僕たちはバンの車内でIDカードを探したけど、IDカードは見つからなかった。
ひょんなことから僕は隊員の家族写真を見つけてしまい、哀愁に浸る。隊員のジャケットから免許書が見つかった。
免許書でバンを運転できたが、ルビナ姫の運転は荒く、バンのオートドライブに切り替わった。
☆港町キリカ☆
バンが突き破った玄関門を踏んだのか、がくんとバンが小さく跳ね、正門まで続くレンガ道を下る。
レンガ道の周りは広大な敷地が広がっており、草地でスプリンクラーが回っている。
フロントガラスから眺める海沿いの街並みが宝石の様に綺麗だ。天気もいい。
背の高いビルやオレンジ色の屋根、高架や鉄橋、港に停まった船やヨットハーバーが見える。
高架上では小さい車が縫い目の様に走り、鉄橋上で貨物列車が走っている。
街の向こうには青い海が広がり、陽光でキラキラと海が光り、大きな貨物船や小さな船やヨットが見える。
港町キリカ。前に父上と麻里亜と僕の三人で旅行で訪れたっけ。
どうりで見覚えがある景色なわけだ。
キリカは景色はいいし、魚介類が新鮮で美味しい。遊ぶ所もある。
けど、お金持ちしか住めないんだろうな。キリカを旅行して思った。
ジョーの屋敷は丘の上に建っていた。
ジョーの屋敷に振り向くと、まだ屋敷の残骸が燃えて白煙が上っていた。
バンが自動で両開きした正門を抜けて左ハンドルを切り、エンジンブレーキを効かせながらゆっくりと丘を下る。
僕はシートベルトのベルトに手を伸ばし、ベルトを両手で引っ張って伸ばす。
「後ろに来ないの?」
シートベルトを締め、シートベルトから顔を上げてルビナ姫に訊く。
ルビナ姫が運転席から顔を出して、口を結んで首を横に振る。
「ジンの隣に座るなんて御免だわ。はしたない、不潔よ」
ルビナ姫が肩を竦め、両手で身体を擦って身震いした。
僕はため息を零して、窓の外を見る。
「そう。運転下手って言われたくせに、なんだよ」
僕はふてくされて愛想笑いして、窓の縁に頬杖を突く。海沿いの街の景色をぼんやりと眺める。
横目でルビナ姫を見て、鼻と喉を鳴らして不敵に笑う。
ルビナ姫が運転席から身を乗り出して拳を振り上げる。
「なによ! ちょっと運転にブランクがあっただけじゃないの!」
悔しそうに助手席のシートを両手の拳で叩いている。
僕を悔しそうに指さし、「ジン、覚えてなさい!」と捨て台詞を吐く。
鼻と喉を鳴らし、運転席に腕を組んで凭れて右手の人差指が落ち着きなく上下に動いている。
ジョーの屋敷に続く丘を下り、一般道と合流して信号待ちで、横断歩道前でバンが止まる。
横断歩道をサングラスを掛けた女性がベビーカーを引いて歩いている。
黒縁メガネを掛けてスーツを着て鞄を下げて歩くビジネスマン。携帯電話を耳に当てて手さげバックを腕に掛けた若い女性。
子供と手を繋いで歩く母親。丸帽子を被り杖を突いて歩くおじいさん。
目の前に駅のロータリーが見え、タクシーが何台も客待ちして、車が停まり、バスや車がロータリーを回っている。
液の周りにコンビニや銀行、スーパーがあって、様々なお客さんが出入りしている。
その時、運転席のモニターからノイズ混じりの無線が入る。
「こちらA班! 現在ジョーを追跡中! 至急応援を頼む! ジョーの追手に追われてる!」
モニターが車内映像に切り替わり、運転席に乗った黒い帽子を被り黒い制服を着た男性が映る。
車内に一気に緊張が走る。
僕はシートから身を乗り出し、運転席のシートに手を突き、運転席のモニターを凝視する。
ルビナ姫も運転席から身を乗り出し、モニターに手を突き、モニターを凝視している。
モニター越しにハンドルを握り、運転席の窓から後ろを振り向く男性。
男性が前を向いて叫び、クラクションを何度も鳴らしている。
映像がかくかくして乱れる。
あれ、音声を拾わなくなったのかな? 声が聞こえない。
僕はモニターを凝視したままシートに凭れ、屋根の手摺を掴む。
緊張して生唾を飲み込み喉を鳴らす。
ルビナ姫が運転席のモニターの縁を手で叩く。
「変ね、壊れたのかしら。ルビナ姫よ! ジョーはどこ走ってるの! 状況を教えてちょうだい!」
ルビナ姫が運転席のモニターを叩いて怒鳴る。
運転席のモニターから、さっきより酷いノイズ混じりの無線が入る。
「ル、ルビナ姫ですか!? ジョーの屋敷の地下牢に閉じ込められてたんじゃ……」
カメラ目線で明らかに戸惑い瞬きする男性の姿が運転席のモニターに映る。
ルビナ姫が運転席のモニターに手を突いたまま、顔を上げてフロントガラスを見たりしている。
「話は後よ! 私もジョーを追いかけてるの! あなたはジョーの屋敷に行ってちょうだい! 殉職した隊員がいるわ……」
ルビナ姫が拳を握り締めた腕を下げ、俯いてモニターに突いた手の甲に額をつける。
ノイズが直ったのか、さっきよりもクリアに無線が聞こえる。
ルビナ姫が顔を上げてモニターを見る。
「了解です。自分はジョーの屋敷に回ります。ルビナ姫、気を付けてください」
隊員がモニター越しに敬礼して、サイレンを鳴らしてハンドルを右に切ろうとした時だった。
助手席の窓に、黒いバイクに跨り、黒いヘルメットを被って黒いライダースーツを着た男がマシンガンを撃ってきた。
隊員のこめかみに銃弾が貫通し、運転席にべっとりと隊員の血がつく。
黒いバイクは加速してモニターから消える。
隊員の額がハンドルに伏せ、車がバランスを失ってふらふら運転になり、数秒後に車が爆発してそこでモニターが消えた。
信号が青になったのかバンが左に曲がって走り出す。
ルビナ姫が口許を両手で覆って絶句している。
「なんてこと……」
ルビナ姫は滲んだ涙を手で拭い嗚咽する。
僕はシートから身を乗り出して、ルビナ姫の肩に手を置く。
「……僕たちで仇を討とう。全て終わらせるんだ」
僕はルビナ姫に微笑んで、フロントガラスを見た。
ルビナ姫は洟をすすり、涙を手で拭う。
「ええ……もっとスピードは出ないの? これじゃジョーに追いつけないじゃないの……」
ルビナ姫が顔を上げて、洟をすすり涙を指で拭う。
バンのスピードが上がる。
僕はスピードメーターを覗き込みと、ぐんぐんと速度が上がっている。
「安全運転では目標に追いつけないと判断しました。今から危険な運転を行いますので真似しないでください。間もなく脇道に逸れます」
感情のない女性の機械音声が車内に響く。
バンが急に右ハンドルを切って、雑草が生えた茶色い土をタイヤが踏んで下ってゆく。
がたがたとバンが大きく揺れ、ルビナ姫が慌ててシートベルトを締めて運転席の手摺に掴まる。
土の道を下り、下の道路と合流した。
下の道路は高級住宅街だった。
道の両端に豪邸が建ち並び、軽装でウォーキングやジョギングをしている人たちがいる。
サングラスを掛けた女性が荷物を掲げて道を横断しようとしていたので、バンのクラクションが鳴る。
道の脇にはスポーツカーや高級車が何台も停めてある。
キリカは裕福な街だ。ジョーによって苦しんでいる人たちには目もくれないだろう。
僕は窓の外の高級住宅街を見て思った。
その時、曲がり角から黒いジープの装甲車が飛び出し、屋根からガトリング砲が現れてガトリングを撃ってくる。
バンの車内に警告音が響き、モニターに上から見たバンの映像が映り、バン全体が赤く点滅している。
「車体の損傷を確認。ダメージ回避のため、路地裏に逸れます」
感情のない女性の機械音声が車内に響き、急ハンドルで左に切り車体が大きく右に揺れる。
僕は屋根の手摺に掴まるが、遠心力で窓に押し付けられ頬が窓に張り付いた。
ルビナ姫は遠心力で窓に思いっきり頭をぶつける音が聞こえた。
バンは車一台が通れるくらいの狭い路地裏を猛スピードで走ってゆく。
小さなバーの裏口にゴミ箱が置いてある。空を仰ぐと洗濯物が干してあり、洗濯物が風で靡いていた。
僕はシートに手を突いて後ろを振り返る。
「撒いた感じ?」
僕は運転席のルビナ姫に振り返る。
ルビナ姫は運転席から僕に振り向いて肩を竦める。
「さあ。待ち伏せしてるかも? 諦めるとは思えないけど?」
ルビナ姫は額に手を当てて後ろに目を凝らす。
その時、数メートル先に曲がり角から出てきた、乳母車を引いたお婆さんが歩いていたので僕は慌ててルビナ姫の肩を叩いて前を指さす。
「あ、危ない!?」
僕はシートから身を乗り出して運転席に手を突き、鼓動が高まり乳母車を引いたお婆さんから目を離せずにいる。
ルビナ姫が慌てて前に振り向く。
「お願いだから事故は避けてよね!」
ルビナ姫が悲鳴を上げて瞼を閉じ、顔の前を腕で遮る。
僕も顔の前を手で遮り、ぎゅっと瞼を閉じる。
バンのクラクションが鳴り、お婆さんの乳母車を撥ねた音が聞こえた。
僕はそっと瞼を開け、何事も無かったことに安心してシートに凭れ瞼を閉じて胸を撫で下ろす。
額の汗を手の甲で拭い息を吐いて振り向く。
お婆さんは驚いて背筋が真っ直ぐ伸びて曲がり角の傍の壁に張り付いていた。
乳母車が横に倒れ、乳母車の中身が散らかり、野菜や果物が地面に転がっていた。
お婆さんが腰を曲げて、地面に転がった野菜や果物を拾っている。
顔を戻すと、ルビナ姫が後ろに振り向いていた。
ルビナ姫が後ろに振り向いたまま、手を合わせて舌を出す。
「お婆さん、ごめんね。私たち急いでるの。それにしても、危機一髪だったわね」
ルビナ姫が額の汗を手の甲で拭い息を吐く。
僕はもう一度お婆さんに振り向く。
「今のは僕もひやっとしたよ」
顔を戻して、僕とルビナ姫は顔を見合わせ、可笑しくて笑い合った。
僕とルビナ姫はシートに凭れた。僕は後頭部で手を組む。
それにしても、長い路地裏だな。
その時、前から二台の黒いバイクが猛スピードで、僕たちのバンに近づいてくる。
黒いバイクに跨った奴は黒いヘルメットを被り、黒いライダースーツを着て黒の革手袋を嵌めて黒いブーツを履いている。
後ろからもバイクのエンジン音が近づき、僕は後ろを振り向く。
後ろからも二台の黒いバイクが猛スピードで、僕たちのバンに近づいてくる。
後ろの黒いバイクに跨った奴も、やっぱり黒いヘルメットを被り、黒いライダースーツを着て黒の革手袋を嵌めて黒いブーツを履いている。
一台のバイクが前輪を浮かせてウイリー走行でパフォーマンスをして僕たちを威嚇した。
こいつら、隊員を殺した奴らだ。
このままじゃ挟み撃ちだ、どうすればいい。
☆続く☆ 港町キリカ終了後のおまけ 出演:ジン・ルビナ姫
とある日の休日。
僕は近所のゲームセンターに一人で遊びに来ていた。
最新のリズムゲームをプレイしていたら、目の前のレースゲームコーナーに現れた一人の不審人物。
サングラスを掛けてマスクをし、ワンピースを着たいかにも怪しい女の子。
彼女はレースゲームが始まるなり、いきなり発狂していた。
「私の運転が下手だからって、なんで機械に怒られなきゃいけないのよ!」
「ジンと車内で二人っきりなんて、空気が持たないわよ!」
「私は王女よ! なんでジンなんかにドキッとするわけよ!」
「あの狭い車内でいつジンに襲われるか、わかったもんじゃないわよ!」
「やってらんないわよ! 今日は遊びまくるわよ!」
僕は確信した。ルビナ姫だ。まだ根に持ってたのか。周りのお客さんに見られているし。
ルビナ姫に見惚れていると、僕のゲームがゲームオーバーで終わった。
ルビナ姫はレースゲームが終わると、大股で不気味に笑いながら僕の後ろを通り過ぎパンチングマシンに向かった。
僕はルビナ姫を眼で追う。
ぶつぶつ文句を言いながら、ルビナ姫は渾身のパンチをパンチングマシンに食らわす。
派手にファンファーレが鳴り、スコアランキング1位になりはしゃぐルビナ姫。
大喜びしたあと、ルビナ姫はスキップしながらプリクラコーナーに向かった。
何が楽しいんだか。って僕もか。一人でプリクラ撮るのかな?
僕はルビナ姫の背中を見て思う。黒いルビナ姫を見た気がした。王女も大変なんだな。☆END☆
今回のおまけは短編仕立てにしてみました。