ジンの決意
☆前回のあらすじ☆ ナレーション:ジン
ルビナ姫の緊急発信でパトロール隊がジョーの屋敷の入り口にやってきて、ジョーを取り囲む。
しかし、ジョーの権力で何もできないパトロール隊。ジョーは見せしめに隊長と部下を殺した。
そして、ジョーは恐ろしい計画を企てていた。その全貌は新型ミサイルのテストで街を滅ぼす計画だった。
そんな時、何故かジョーが降伏した。パトロール隊のバンにジョーが連行される時だった。
上空からパラシュートを付けたジープの装甲車が現れた。
☆ジンの決意☆
その時、噴水の傍の石畳に影が現れ、少しずつ影が大きくなる。
「なんだあれは?」
隊員たちが不思議そうに空を見上げる。
隊員たちの顔が影で翳る。
ルビナ姫が額に手を当てて空を見上げ、僕もルビナ姫を見習って空を見上げる。
空から四つの黒いパラシュートを付けたジープの装甲車が風に揺られながらゆっくりと落ちてくる。
ジープの屋根にはミサイルが二発積まれ、しっかりとベルトで固定されてある。
ジープの装甲車が地面に近づく時、運転席の窓から銀色の筒が落ちてきた。
地面に落下した銀色の筒は転がりながら、筒の穴から白いガスが噴出された。
数秒後に隊員の悲鳴が聞こえる。
「ぐあああああ!」
次々に隊員が地面に倒れる重い音が聞こえる。
僕はパニックに陥り、なんとなくルビナ姫を見る。
ルビナ姫が慌てて口元を手で覆いながら、スカートのポケットから二枚のハンカチを取り出す。
ハンカチで口元を覆い咳き込みながら、ハンカチを手に持ってスカートの裾を持ち、慌てて僕の元へ駆け寄る。
僕はルビナ姫を見習い、慌てて袖で口許を押さえる。
白いガスに目を凝らす。また毒ガスなのか? それとも、ジョーの新しい兵器か?
こんなの惨すぎる。罪のない人を殺すなんて。
許せない。僕は片手で拳を握り締める。
ルビナ姫が僕の傍に来ると、僕はルビナ姫からハンカチを受け取り、口元をハンカチで覆った。
ルビナ姫は僕と手を繋ぎ、パトロール隊のバンに顎をしゃくって駆け出す。
ルビナ姫の足元がおぼつかずこけそうになり、慌てて僕がルビナ姫を抱いて支える。
ルビナ姫が僕から離れて頷き、僕たちはパトロール隊のバンに向かって再び駆け出す。
ガスが生き物のように辺りに満ちてゆく。
ガスが僕たちを死の世界に誘うために白い手を伸ばす。
ガスから逃げるため、僕たちがパトロール隊のバンに向かう途中。
近くでジョーの不気味な呼吸音が聞こえる。
「シェリア、遅かったな。五分遅れだ。輸送機の離陸が遅れたか?」
不気味に喉の奥で笑う声が聞こえる。
僕の横を一人の少女が通り過ぎる。僕は驚いて少女に振り向く。
ルビナ姫は少女を無視している。そんな状況じゃないんだろうな。
少女は紅く長い髪と目許を覆う黒いバイザーを装着し、戦闘スーツを身に包んでいた。オレンジ色の瞳が黒いバイザー越しに鋭く光る。
僕は思わず立ち止まって少女の背中を見送る。
やがて少女の影がガスの中に吸い込まれるように消えた。
ルビナ姫が僕の手を引っ張って僕は我に返る。
僕はルビナ姫に振り向くと、ルビナ姫はハンカチを口許で押さえたまま首を横に振る。
ルビナ姫の意思が伝わり、僕は頷く。
僕たちは手を繋いだまま、パトロール隊のバンに向かって駆け出した。
僕は走りながら首を傾げる。
あの子、どこかで見た様な……紅い髪、オレンジ色の瞳。どれも特徴的だ。
そうだ。麻利亜の空間移動の時に、映像に映ってた女の子だ。
あの子、麻里亜と似てたから印象に残ってる。
名前はシェリアだったかな。でも、あの子はジョーに撃たれて死んだはずじゃ……
僕は否定するように瞼を閉じて首を横に振る。まさかね。
ガスの中でオートマチック銃の銃声が聞こえる。僕は動揺して振り向く。
数秒後にドアが閉まる音が聞こえて、エンジン音が遠ざかる。
くそっ。何が起こってるんだ。僕は動悸で息が荒くなる。
ガスが晴れないと見えない。麻里亜を助けないと。
でも、今はガスを吸うと危険だ。ガスが晴れるまでバンの中で待たないと。
ルビナ姫がパトロール隊のバンのスライドドアを開けて、僕を片足で蹴って乱暴に中に押し込む。
ルビナ姫が乱暴にスライドドアを閉め、僕はドアを閉める音に驚いて両耳を両手で塞ぎ、片目を瞑る。
ルビナ姫が運転席のドアを開け、運転席に座り、運転席のドアを勢いよく閉める。
僕はハンカチを乱暴にシートに投げつけ、シートから身を乗り出す。
「何する気だよ! ガスが晴れるまで待つんだ、麻里亜を助けないと」
車内の上にはショットガンやマシンガン、さらには弾や手りゅう弾が金属ベルトで固定されている。
ルビナ姫は僕を無視して、ハンドルの傍のエンジンスタートボタンを押す。
ぴっと機械的な音が鳴ってエンジンが掛り、警告音が車内に響く。
運転席のモニターが赤く点滅している。
「警告。車内に異常な神経ガスの侵入を察知しました。これより空調システムを起動します」
感情のない女性の機械音声が車内に響く。
運転席のクーラーやエアコンの通風口から、掃除機の様な音とともに車内に漂うガスが吸い取られてゆく。
ルビナ姫が運転席から振り向く。
「ガスが晴れるまで待ちましょう。ガスが晴れたら飛ばすわよ!」
僕は窓の向こうの濃いガスの中、目を凝らして運転席の背もたれを拳で叩く。
「ふざけるな! 麻里亜を置いていけない! 麻里亜を助けないと……」
僕はスライドドアを開けて、今すぐにでも麻里亜を助けに行こうとする。
ルビナ姫がドアをロックしたのか、ぴっと機械的な音が鳴る。
スライドドアを開けようとしても開かない。ドアにロック解除も見当たらない。
「警告。外は神経ガスが満ちているため、外に出るのは危険です。死亡率100%」
感情のない女性の機械音声が車内に響く。
僕はシートから身を乗り出して、歯を食いしばってルビナ姫の襟首を掴む。
「ここから出せ! なにしてるんだ!」
狂ったようにルビナ姫の横顔を睨み据える。
ルビナ姫が僕の手を払いのけ、僕に振り向いて僕の肩を掴んで必死に揺らす。
「あなた、どうしちゃったのよ!? まだ彼女に執着してるの!? 彼女はもう戻らないのよ!? 今やるべきことがあるでしょ!? 彼女なら隊員が弔いしてくれるわよ……他の隊員は恐らくガスにやられたでしょうね……」
ルビナ姫が僕の肩から手を離し、俯いて首を横に振る。
僕は怒りが込み上げ、またルビナ姫の襟首を掴む。
「そんなことはどうだっていいんだ! 父上の研究所で麻里亜を修理してもらえば、なんとかなるかもしれないだろ!」
僕は歯を食いしばってルビナ姫を睨み、片手の拳を握り締める。
ルビナ姫がまた僕の手を払いのけて、僕の頬を平手で思いっきりぶつ。
肌と肌が触れる鈍い音が響く。
「甘えてるんじゃないわよ!? 逝ってしまった人は戻らないの。たとえ彼女がアンドロイドでも。目を覚ましなさい! これで、あたなに説教された借りは返したわよ? おあいこよ」
ルビナ姫はそっぽを向いて腕を組み、窓の外を寂しそうに見つめている。
運転席の窓にルビナ姫の悲しい顔が映る。
僕の眼が動揺でさざ波の様に揺れて、ルビナ姫にぶたれた頬を指先で擦る。
やがてやるせなくなり、シートにゆっくりと腰を下ろして俯く。
「な、なにするんだよ……あ、ありがとう、ルビナ姫。おかげで目が覚めたよ、僕が間違ってた。もう麻里亜は戻らない。僕たちができることを、今やろう……」
僕は滲んだ涙を手の甲で拭い、洟をすすった。
その時、窓を叩く音がして、僕は顔を上げて窓に振り向いた。
「た、助けてくれ……」
手や顔の皮膚が溶けて焼けただれ、変わり果てた隊員の姿。
やがて隊員が苦しそうに眼を剥いて喉元を掻き毟って、その場に血を吐きながら倒れた。
これは現実だ。ジョーが描いたシナリオなんだ。
僕は気分が悪くなって吐きそうになり、慌てて口許を押さえて窓から顔を背ける。
ルビナ姫が気分を紛らわすために小さい音量で音楽を掛けてくれる。
「これがジョーのやり方よ。ジョーを倒さない限り、深い闇は晴れない。こうしている間にも、西のアルガスタに危機が迫ってるわ。なんとしても、私たちでジョーを止めるわよ」
ルビナ姫が振り向いて、僕に拳を突き出す。
僕はルビナ姫の拳に自分の拳を重ねる。小さな涙を拭って。
「ジョーはズール砂漠に向かったはずだ。ガスが晴れてからジョーを追いかけよう」
ルビナ姫から拳を離し、車内に二人きりという状況に僕は急に恥ずかしくなって顔が火照る。
慌てて両手を振りルビナ姫から顔を背ける。
気を紛らわすために人差指で頬を掻き、ルビナ姫を横目で瞬きしながら見る。
ルビナ姫が額に手を当てて瞼を閉じて首を横に振る。
「私、ちゃんと運転できるかしら。一応、訓練で運転はしたことあるけど。操作を覚えてないのよねぇ」
ルビナ姫が腕を組んで顎に人差指を当てて天井を仰ぎ、心配そうに首を傾げながら唸る。
僕はわざとらしく咳払いする。
「あ、あのさ。僕はあなたじゃないから。ジンって名前があるんだ。今度から名前で呼んでよ……」
僕は後頭部を掻きながら、恥ずかしそうにルビナ姫を上目遣いで見る。
ルビナ姫の顔が狐に頬を摘まれたような顔をしてきょとんと瞬きしている。
「えっ? あっ、ああ、そうね。でも、ジンこそ王女である私を気安くルビナ姫って呼んでるじゃない? ま、まあ、しょうがないわね。特別に私のことをルビナ姫って呼んでいいわよ」
ルビナ姫は顔が火照って、慌てて運転席に向き直る。
運転席に向き直る際にハンドルに肘をぶつけたらしく、ルビナ姫は痺れた肘を手で擦っている。
しばらく気まずい二人の沈黙が続く中、ガスが少しずつ晴れてきた。
僕はゆっくりと後部座席から身を乗り出して、ルビナ姫に振り向く。
「あのさ、本当に運転できるんだろうね? なんか心配なんだけど?」
ルビナ姫の胸を見て、僕は唾を飲み込んで喉を鳴らす。
ルビナ姫が僕に振り向いて手刀打ちで僕の頭を軽く叩く。
「そんなに心配? じゃ下りる? ジンは大人しく後部座席で座ってればいいのよ。助手席に座ったら邪魔になるだけ。いい? 私が運転するわ」
ルビナ姫が呆れたように額に手を当てて瞼を閉じ、首を横に振ってため息を零す。
僕はルビナ姫から目を逸らし、不安でため息が零れた。
ルビナ姫の胸を見て、僕の鼓動が高まって胸を手で押さえる。
「わかったよ。僕は後部座席で大人しく座ってる」
僕は口を尖らせて訝しげにルビナ姫を見ながら、後部座席に腰を下ろして後頭部で手を組む。
ルビナ姫が窓を一瞥して、瞼を閉じて肩を竦めてため息を零した。
「ガスが晴れてきたわね。これでも非常時に運転できる免許を持ってるのよ? まあ、免許は私の部屋にあるけど。これでも色んな訓練を受けたんだから」
ルビナ姫は瞼を閉じたまま額に手を当て、首を横に振っている。
僕はルビナ姫の肩に手を置いた。
「早くしないとジョーに追いつかなくなる。運転頼んだよ」
ルビナ姫は僕に振り向いて僕の肩に手を置き、僕に優しく微笑む。
「ええ。ジンの力が必要だわ。ご協力感謝します」
その時、運転席のモニターから映像と音が流れた。
「緊急速報。街中をジープの装甲車が暴走中。現在、ヘリで追跡中です。ナビゲーションしますか?」
感情のない女性の機械音声が車内に響く。
遠くでヘリコプターの飛ぶ音が聞こえる。
ルビナ姫は慌てて運転席のモニターに振り向いた。
「了解。ナビゲーション開始」
ルビナ姫が両手でハンドルを握り、気合充分に手を動かしている。
僕は後部座席に腰を下ろし、シートベルトを締めて天井の手摺を掴み、生唾を飲み込んで喉を鳴らした。
運転席のモニターの映像と音が消えて真っ暗になる。
「登録外のため、あなたは運転できません。スロットにIDカードを通してください」
感情のない女性の機械音声が響き、警告音が車内に鳴り響く。
ルビナ姫が両手でハンドルを叩く。
「どうなってんのよ! IDカードなんて持ってないわよ!」
ルビナ姫はやるせなくなり、ハンドルに頬をくっつけてぶつぶつと文句を言っている。
どうするんだよ。
このままじゃ、ジョーに追いつかなくなる。
僕は腕を組んで唸った。
☆続く☆ ジンの決意終了後の雑談 ゲスト:ジン
作者:ジンくん、お疲れ様でした。ちょっとナレーション硬くない?
ジン:そ、そうですかね? 僕は普通にナレーションしたつもりだったんですが・・・
作者:次回はもうちょっとくだけた感じでお願いするよ。せっかく、ジンくんにナレーションをオファーしたんだから。
ジン:は、はい。わかりました。
作者:で、ジンくんはルビナ姫のこと好きなの?
ジン:えっ? ええっー? い、いきなりですか? ま、まあ、そうなんですけど・・・
作者:私がルビナ姫とうまくいくように展開を考えるよ。フフフフフ。
ジン:お、お願いします! ☆END☆
ジンくんの物語も、ナレーションと雑談を作ってみました。