プロローグ
処女作となります。
よろしくお願いします。
幾度となく彼女の死を見た。
彼女の持つ圧倒的なまでの生への欲求。そしてそれすら霞む暴力。彼女はその前に屈し続けた。
終わることのない地獄。輪廻する魂。再生する肉体。未来永劫消えることのない惨劇の記憶。
それでも尚、彼女は立ち上がった。
誰か救ってくれと、聞こえない程小さな声で、圧倒的な熱量で、蚊が羽音よりも小さな声で叫んだ。
それが聞こえただけ。それを知ってしまっただけ。それを理解しようとしただけ。
そして不相応にも救ってしまいたいと思っただけ。
彼女は言った。
「世界は私が観測した姿で成り立っている」
それはあまりにも傲慢な考えで。
「私が死ねば、世界は消える」
それはあまりにも残酷な思考で。
「世界はそれを許してくれない」
それはあまりにも醜悪な願望で。
「だから私は世界を観測し続ける」
それはあまりにも強靭な意思で。
「そんな私をあなたは救ってくれる?」
それはあまりにも絶望に満ちていて。
初めは逃げた。彼女の背負う枷の大きさに恐れをなして。
次はそばにいようと思った。彼女の日常がせめて安らかであればいいと思い。
次は離れないと誓った。笑っている彼女がとても綺麗だったから。
次は諦めた。もうどうしようもないと。せめて苦しまず、刻限の間際己の手で。
次は諦めたくない。死に瀕する彼女がそう囁いたから。
―――ああ。そうだ。次は必ず。必ず君を救う。
その先に己の幸せなどなくとも、君の笑顔を胸に留め、忘れないように大事にして。
―――それだけで俺は幸せだ。