人間はおいしいっす!
「何だあれは! 大きいクジラ? 何で陸に?」
「そんなことはどうでもいい! 起きろ皆! 敵襲だ!」
たき火の周りで起きていた二人が俺に気付き、臨時体勢を取る。
二人の声で、他の奴らも起きる。
四人が男で二人が女だ。
さてどいつから食べるか。
決めた! 一番近い奴だ!
俺は焚火の周りで見張りをしていた一人にターゲットを絞り、舌を伸ばす。
「うおっ」
そいつは腰に下げていた剣で俺の舌の先っぽを切り裂いた。
「ボエエエエエエエエエエエエ(痛ぇぇえええええええええええ!)」
「うるさっ!」
「大丈夫かバルカ!」
「大丈夫だ! 逆に奴の舌を切ってやった!」
「ボエエエエエエエエエエエエ(根畜生が! 全員食べ尽くしてやる!)」
俺は俺の舌を切った奴に重力魔法をかける。
「うおっ、こんにゃろ!」
が、弾かれた。なんていうか抵抗されて効かない感じだ。
効かないとかそんなのありっすか!?
「気をつけろ! こいつ重力魔法を使うぞ!」
「ウインドカッター!」
後ろの女が何か叫んだ。次の瞬間体の一部が痛む。
まるでカッターで指を切った時の様だ。
「ボエエエエエエエエエエエエ(いてぇ! 全然効かないがいてぇ!)」
「くっ、いちいちうるさいわね! ウインドカッター!」
さらに風の刃が俺に降りかかって来る。
「ボエエエエエエエエエエエエ(痛い痛い、痛いですって!!)」
他の五人も展開し、俺に攻撃を仕掛けてくる。
俺は舌で薙ぎ払ったり、食べようと絡ませようとするが全部躱される。
逆に舌を切られたり、肌を炎の魔法で焼かれたり、散々だ。
「ボエエエエエエエエエエエエ(痛いって言ってんだろうがぁあああ!)」
俺は跳ねた。
十メートルはある木を飛び越えて奴らの後ろに着地する。
さらに重力魔法で俺の体重を増やしてやった。
するとどうだ。
まるで地震みたいに地面が揺れた。
人間の内魔法を使う女が二人、男が一人倒れた。
俺は魔法を使う奴を厄介だと感じ、女に舌を伸ばす。
それを他の男が盾を持ってカバーする。
愚直に伸ばしてやるものか。
俺は伸ばした舌を上に掲げ、上から盾を持った男に叩き付ける。
しかしそれも盾で防がれた。
そうだ。
何も人間自身に重力をかけなくていい。
そいつの装備にかければいい。
そうすればレジストされない。
俺は舌で攻撃している人間の盾に重力魔法を使った。
「なっ、盾を狙って!?」
盾がガシャンと下に落ちる。
その間に俺は女に舌を伸ばす。
「しまった! 逃げろメリー!」
メリーと呼ばれた魔法使いは倒れてまだ立てていない。
かばってる男が剣を俺の舌に突き立てる。
我慢だ。痛いが我慢だ。
ここでひるんでいるようじゃ、人間は食べられない。
俺は強引にメリーさんを下で絡めとる。
そして俺の上空に放り投げる。
「きゃぁああああああああ」
「メリィイィイイイイイイ!」
バクン。
メリーさんは俺の口に放り込まれた。
ばりばりむしゃむしゃ。
残酷な音が辺りに響く。
『レベルが上がりました』
『グラビティホエール
レベル9/10
高さ3.6メートル
横幅3.6メートル
長さ10.8メートル
強さC+』
おお! なんていうか力がみなぎる! 重力魔法で消えた精神力が補充される感じだ。
それにうまい。とてもうまい。今まで食べた中で一番好みの味だ。
「ボエエエエエエエエエエエエ(うまし! 人間うめぇえええええええ!)
吠える俺。
それに激高したバルカと呼ばれた男が俺に切りかかって来る。
「このクソやろぉおおおおおお! 良くもメリーを!」
切りかかられるが、その傷は浅い。
確かにどれも人間の攻撃は痛いが致命傷にはならない。
つぎはどいつを食べるか。
激高しているこいつは放っておこう。一番舌が切られて痛いのだ。
肌に刺されるのなら何とか我慢できるから。
こいつが俺を切っている間に他の奴を狙おう。
まず盾を持った奴らは、運動能力が高く。舌を盾で塞いでくる。
なら残るは魔法を使う、女だ。
弓を持った男がいるが、そいつでもいい。
いや、弓を持った奴は矢が矢筒からこぼれているな。
何もできまい。
決めた、もう一人の女だ!