自己嫌悪の予感
(そうだよね、うん! 付き合おう。俺も如月のことが好きだ!)
ほんの三十分前のことを思い出す。
初カノ...できてしまった。
家に着き、ただいまも言わずに上がった。
母がなにか呼びかけたような気がしたが、自室へ直進した。
部屋のドアを開け、ベッドに転がり込む。
やばいぞ。如月のことはもちろん気になるといえば気になるのだが、好きかと聞かれれば多分好きじゃない。
綺麗な子だなとはしょっちゅう思っていたが、所詮俺には縁のない子だと割り切っていた。だから放課後、いきなり呼び止められ告白された時もまったく非現実的だった。
まるでアニメの萌シーンを見ているかのように、どこかで自分とは関係ないことのように思えた。
振るべきだったんだ。
少なくとも、君のことをまだよく知らないからもう少し待ってくれと正直に伝えるべきだった。
それが誠実な対応だ。
中途半端な気持ちで付き合い始めても、悲しい思い出になるだけだと分かってはいるのに。
懺悔しよう。
本気で告白している如月の前で俺は、友達の反応を妄想していた。
自分も好きだと彼女に嘘を付いてまで、もっと優越感に浸れる関係を求めた。
最低だ、わかっている。
でも...でも俺のような普通の男に、こんなチャンスは2度と来ない。
ちゃんと好きになりますから!だから見逃してください、神様。ついでに教えてください!今何をすべきかを!!
「メールするよな、普通...」
そう呟き、可愛らしい字でメアドの書かれた紙切れをポケットから取り出す。
でもなんて送るよ?...わっかんねーっ!
「家着いた?...いやなんか違うな」ぼそぼそ声に出しながら考える。
無難に送るか?...いや、付き合っているのに逆に気まずくなるかも。
ならば馴れ馴れしく送るか?...でも引かれたり、白けたら怖いしな。
5分ほどベッドの上でのたうち回っていると携帯がピカピカと点滅した。
山崎からのメールだった。
山崎とは同じクラスで、割と仲良くしている友達だ。
メールを開く。
「駅前のラーメン屋で待ってる。奢るから来いよ」とだけ書いてあった。
ラッキー!と心の中で呟いた。
ナイスタイミング。そうさ、山崎に相談しよう。
如月を待たせるのは申し訳なかったが、なにせ俺には女子とメールなんてした経験が無い。
なんて送ればいいのか検討もつかないのだ。
「今行く。相談したいこともあるし」と返信して、すぐジャージに着替え家を出た。
(あれ?)
ふと罪悪感が胸を引っ掻いた。
俺、相談と称した自慢をしたいだけだ...