人生、フツーが一番。
俺の名前は佐藤ヒロシ。
顔も普通、身長も普通、成績もスクールカーストも普通。
名前はまあ、親から授かったものだし置いといて。
そう、普通の高校生なのだ。
偏差値50の高校に通う、普通すぎる一年生だ。
勉強をしてもしなくても、テストの点数は学年の平均点ちょうどだ。
俺の50m走タイムが、同学年男子の平均タイムと小数点2ケタまでピッタリ一致したこともある。普段しかめっ面の体育教師までも、この時ばかりはクラスメートと一緒になって、逆に凄いと驚いていた。
何をどんなに頑張っても、普通の壁は超えられない。
だがなにをしても、平均値まではいけるのだと楽観的に考えている。
兎にも角にも....俺は普通なのだ。
だからこそ、今こんなにも落ち着いていられる。俺は今、普通じゃない状況にあるが、それがまったく現実味を帯びていないように感じるのだ。
「ごめん、よく聞こえなかったわ。....今なんて?」
ハッキリと聞こえていたが、一応訊き直した。
「佐藤くんのことが好きです!!私と付き合ってください」
如月香織はもう1度言った。
聞き間違えてない...今確かに告られた。学校のアイドル如月から。
俺はきっと、普通の女の子と結婚するんだろうな。
漠然とそう考えていた。
まず女子から告白されるようなことは、一切期待していなかった。.....妄想はしてたけど。
神はよほど暇だったのか、俺をおちょくることにしたらしい。
だが如月だ。なぜ如月なのだ。
せめてちょっとだけ可愛い位の女の子が良かった。
ちょっと背伸びすれば、どうにか釣り合える程度の女の子になら告白された瞬間、即恋に落ちる自信がある。
如月と同じクラスの男子、つまり1年1組の男子は呪われている。
1組以外の全男子生徒から、呪われているのだ。
俺も一緒になって呪った。
みんな同じことを考えていた。
あいつらさえいなければ、俺が1組だったはず....と。
とあるイケメンを中心に、2組から4組の男子は校庭のグランドに、1組男子への恨みを石灰で長々と綴った。
この一件は学校で大問題となった。
犯人を血眼で探す教師とビクつく生徒。
そんな中イケメンは、自分から全責任を背負い、2週間の停学処分を一人で受け止めた。
親指を立て職員室へ向かう、その後ろ姿は正真正銘の漢だった。
彼の背中からは哀愁など微塵も漂わず、ただ岩のように硬い覚悟だけが見て取れた。
「..........」
如月は顔を真っ赤にして返答をまっている。
上品にウェーブがかった銀髪までもが、赤く染まっていきそうだ。
「ごめんよく聞こえなーー」
「ーー本気なの!!! ふざけないで答えてよ...」
「嘘つけい! 罰ゲームか何かだろ、そういうのはひどいぞ! 傷つくぞ!」
とっさに言っちゃマズイやつを言ってしまった。
俺の知っている如月なら、まずそんなことしないだろうに。
「ひどいのは佐藤くんだよ!本気だって言ってるでしょ!!」
「じゃなんで俺なんかを...俺のどこがいいのさ!」
逆ギレのように口調を強めて言った。
如月は髪の先をもじもじと指で弄びながら、少し考える素振りをみせた。
「あなた並に普通な人は、きっと佐藤君だけだから」
...うん?
「今、さらりとバカにされた気がすんだけど!? 」
しかも答えにすらなっていないぞ....如月
「要するに....この人だ!って思ったの」
要するに? 一体何を要約したというのだ。
下を向いていた如月がふいに顔を上げ、俺を見つめる。
やばい!むっちゃ可愛い...
如月が何か言おうと息を吸う。
「ただ好きなの!! 好きに理屈なんてつけられないよ!」