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壊れた英雄は世界を護る  作者: 江藤直哉
第1章 隠れ里の住人
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第1章 第7話 ノアの交流

 まだまだのんびりスローライフが続きます。

 第1章はもうすぐ終わり、人間関係と年数がそれなりに変わる予定です。

 過程ものんびり飛ばしていくわけですね、HAHAHA

 皆と出会い、あれから何度も食事をしてきたことで、俺にも美味しいという感覚がどんなものであるのかがわかってきた。また、本にもあったが、香りというのは美味しさを演出する重要な要素であることも、知識だけでなく自分の感覚で理解できるようになってきた。

 ゆえに、漂ってくる肉の焼けるにおいと、サクラ、ワカナ、サーシャの3人と一緒に食事ができるという思いが、俺に楽しみという感情を与える。


 俺は今、年に数回ある祭りの日のように、多くの里の住人と一緒に食事を取るために待機している。以前祭りに参加したときと違うところがあるとすれば、今回の発端が俺の狩ってきた猪であることと、俺に話しかけてくる人間がそれなりの数いるということか。

 彼らは口々に「どうやって狩ったんだ?」「すごいじゃねえか!」「こんな大物は初めてだ」「目は大丈夫なのかい?」「怪我とかしてない?」「猪ありがとう!」「可愛い!」「お肌きれいね」「付き合ってください!」などと言ってくる。

 サクラやワカナ、サーシャそして彼女達の家族以外とはめったに話すことがないため、一体何と受け答えしたらいいかわからない。一応そばにいるサクラとサーシャが会話を手伝ってくれているが、それにしても人数が多い。料理が完成すればそれなりに落ち着くのだろうか。


 そんなことを考えていると、他の住人より大きな魔力を持つ人間が近づいてくるのを感じた。この魔力には覚えがあるが、最後に感じたのはもう1年近くも前のことだ。サクラ達によると学園に通っているはずなので、休暇で帰ってきたのだろう。


「これはまた一体どうしたのかしら?今日は何もない日だと思ったのだけれど」


 その大きな魔力を持つ少女ミルフェは、近づいてくるなり疑問を口にした。理由は狩ってきた猪だが何もない日であることには変わりないため、なんと答えるべきかと考えていると代わりにサクラとサーシャが答えてくれた。


「ノアが猪を狩ってきてくれたんだけど、思ったよりも大きかったから里の皆で食べることにしたの」

「そーそー、せっかくだからミルフェ姉も食べていきなよ!」

「ノアくんが?すごいじゃ…あら、目はどうしたの?まさか怪我でも…」

「いや、怪我はしてないぞ。目は単純に見えないから閉じているだけだ」

「何でまた…「め、目のことは心配ないわ。ね、ノア!」」

「ああ、見えないだけで生活には困っていない。今もミルフェの位置は感知できているし、近づけば指の動きも感じ取れるぞ」


 ミルフェが目について聞いた瞬間、サーシャが大きく震えたのを感じたが、俺が何かを言う前にサクラが心配ないことをミルフェに伝えた。


「あら、そんなにわかるものなの?お姉さんをからかってるんじゃない?」

「からかう必要性はわからないが、証明してやろう。1m以内に近づいて指でも立ててくれ、俺は後ろを向いておく」


 そう言えば、こんな風に周囲が感知できることを証明するのは初めてだ。サクラ達は普段の生活で納得していたため、こんな形で証明する必要はなかった。


「わかったわ、それじゃあいくわよ。これは何本?」

「3本だな」

「あら正解!じゃあこれは?」

「2本だ」

「なかなかやるわね、じゃあこれで最後よ」

「両手合わせて8本だな」

「へぇ、本当にすごいわ。どうやってるの?」


 どうやら納得したようだ。なぜわかるのかは、気配や魔力によってだということを彼女に説明する。


「魔法を使わなくてもそんなことができるのね。なかなかに興味深い話だったわ」

「へー、そうやって周りのことを確認してたんだー」

「第6感とかじゃなくて、ちゃんとした技術だったのね」

「訓練すれば誰でも使える程度の技術だ」

「それはないわね」


 そんなこんなで話をしていると、とうとう料理が完成したようだ。広場の真ん中には大きな鍋が複数設置され、そこで料理が受け取れるとのこと。たくさんの具が入った鍋にシンプルに焼き上げた厚みのあるステーキ、野菜と一緒にパンではさんだもの、野菜と一緒に炒めたもの、それ以外にも飲み物やフルーツが所狭しと並べられているとサーシャが楽しそうに説明してくれた。


「あら、想像以上にすごい量ね。一体どんな猪を狩ってきたのよ」

「どんなもなにも猪は猪だ」

「えーっとねー、こーんぐらいの大きさだったかな!」


 猪の何について問われたかわからない俺に代わり、サーシャが猪の大きさを身体を目一杯使用して表現した。なるほど、大きさを問われていたのか。


「サーシャちゃんは相変わらず小さいわねぇ」

「違ーーう!」

「うふふ、可愛いわね。それで、どれぐらいの大きさだったの?」

「大きさはわからないが、重さならわかるぞ」

「じゃあ重さでお願いするわ」

「480kgだな」

「え?」

「480kgだ。細かいところでは多少違うが」

「え、なにそれ?山のヌシでも狩に行ってきたの?」

「ミルフェ、言葉遣いが変になってるわよ」

「ゴホンッ!それで、どなたと一緒に狩に行ったのかしら」


 なにやら言葉遣いが変わったと思ったが、サクラがそのことに触れると元に戻った。

 どうやらミルフェは俺が他の人と一緒に猪を狩ってきたと思ったようだ。猪程度を狩るのに人数は必要ないと思うが、もしかしたら違うのだろうか。それにしても普通の人間なら魔力で身体を強化できるはずだ、強化なしの自分に狩ることができるなら問題なく狩れそうなものだが。


「普通に1人だぞ?別に魔物を相手にするわけじゃないしな」

「あのねえノアくん、普通の猪でも大人が2人以上で狩に行くものよ?しかも今回は普通の猪の倍以上もあるのよ、下手したら軽い怪我じゃすまないわ」

「もしかして狩とは危険が伴うのか?俺が知ってる狩は、一方的に殺すことだと記憶しているが」

「…サクラにサーシャちゃん、この1年ノアくんに何を教えてきたのかしら?」

「何を教えたというか…」

「魔法を教えてもらったというか…」


 なにやらミルフェが、この1年でサクラ達が俺に何を教えたのか質問した。それに対して2人は俺に魔法を教えてもらったことのみを告げたが、実際には俺も多くのことを教えてもらった。この1年だと服の種類や着付け、それから様々な遊びと言ったところか。そのことをミルフェに伝える。


「もっと教えることがある気がするのだけど…それに魔法を教えてることもちょっと気になるわね。けど、まずは狩の常識を教えるわ。いいことノアくん…」


 こうしてミルフェによる狩の常識についての講義が始まった。その間、サクラとサーシャは料理を取りにいくようだ。常識らしいので彼女達が聞く必要はないのだろう。

 どうやらミルフェによると、狩とは一方的な虐殺ではなく生活のために生物を殺すことであり、危険が伴うため複数人で行うのが普通らしい。狩が危険な理由は、一般に魔法を使える人間は使えない人間よりも少なく、狩に有効な魔法を使える人間があまりいないからとのことだ。それに、身体強化の魔法を使わない場合、魔力で身体を強化したとしても劇的な能力の向上は望めず、普通の人間は魔力のみの強化では480kgは持ち運べず、100kgから200kgまでが限界のようだ。人間は意外と弱い生き物だな。

 しばらく話を聞いていると、サクラとサーシャそれに手伝いを終えたワカナが料理を持ってきたようだ。


「ノアくん、お料理を持ってきましたよー。あら?お久しぶりですミルフェさん」

「久しぶりねワカナちゃん、元気にしてたかしら」

「はい、特に大事もなく皆さん元気ですよ。あ、ミルフェさんもお料理いかがですか?」

「相変わらずいい娘ねぇ。ありがとう、頂くわ」

「よーしノア、あたしたちも食べよ!」

「そうね、ノア食べましょ」


 俺とミルフェが座っている長椅子に、料理を持ってきた3人も腰かけ食事を開始する。俺の右側に座ったワカナに対して、なにやらサクラとサーシャが「ずるい!」「不公平!」などと言っていたが、「私は料理のお手伝いをずっとしてたんですよね」と言われた後は何も言わなくなった。


「それではノアくん、食べましょうか。はいノアくん、あーんです」

「ありがとう、あむ」

「このシチュー、私も手伝ったんですがいかがですか?」

「うん、美味いよ」

「うふふ、嬉しいです!」

「「あーーーーーっ!」」


 ワカナが俺の口元に料理を乗せたスプーンを近づけたためそれを食べると、サクラとサーシャが大きな声を上げた。何か問題でも発生したのだろうか。


「あらあら、ワカナちゃんとノアくんはそういう関係なの?」

「違うに決まってるでしょ!」

「そーだそーだ!」

「ふーん、成る程…ノアくんは人気者ね」

「ノアは弟みたいなものであって、そういうのじゃないわ!」

「うんうん、あたしの可愛い弟分よ!」

「もう、むきになっちゃって、本当に可愛いんだから」


 弟は同じ親から生まれた人間の、年下の男を表す言葉だったか。彼女達にとって俺は弟のような存在らしいが、弟であることが一体どのような影響を与えるのかがわからない。それに人気者と言われたが、こんな戦争のために作られた兵器が人気になるのだろうか。いや戦時中なら人気になる可能性もあるか。


「ノアくんは別に気にしなくていいんですよ。あーん」

「そうか、ワカナが言うなら気にしなくていいな。あむ」

「だーかーらー!ワカナ!抜け駆け禁止!」

「むー、そーだ!ノア、こっちのパンもおいしーよ!」


 今度はサーシャが口元にパンを近づけてきた。それを俺が一口食べると、サーシャが嬉しそうな声で美味しいか聞いてくる。しかし、俺が答える前にサクラが俺にステーキを一切れ差し出してきたため、次はそっちを食べる。彼女達に食べせられるこの状況は、意外に楽しいかもしれない。


「私もノアくんに食べさせてあげたほうがいいのかしら?」

「必要ないわ、わたしたちだけで十分よ!」


 ミルフェも俺に料理を食べさせたほうがいいか聞いてきたが、すぐにサクラが必要ないと断った。確かに料理を食べさせるだけなら人数は必要ないし、サクラの言い分は正しいと思うが、3人も多いのではないだろうか。

 そのことを彼女達に聞くと、「わたしたちは別にいいの」と言われた。そういうことらしい。


「そうだノアくん、皆に魔法を教えてるのよね?」

「教えているな」

「教えることができるぐらい魔法のことを知ってるなら、回復魔法について聞きたいのだけれど」

「中身がわからなければ答えようがない、なんだ?」

「ミルフェ姉も、適性は回復属性だっけ。ワカナと同じだねー」

「あら、もう適性を知ってるの?まあいいわ、それでね、病気を治す魔法って万能ではないじゃない。どうしても治せない病気や、魔法薬と併用する必要がある病気があるのだけれど、過去に魔法だけで治された事例はあるの。何が違うのかわからないかしら…って魔法が教えられると言っても回復属性が専門ではないわよね。ごめんなさい、気にしないでちょうだい」

「あら、神童ミルフェでもわからないことがあるのね」

「もう、からかわないでちょうだい」


 どうやらミルフェは、現状回復魔法によって治せない病気を治せるようにしたいようだ。回復属性だけに頼っていてはそうなるのも仕方がない、病気の原因を知りそれにあった属性を付与して対応しなければならない場合もある。


「魔法は回復属性だけで行っているのか?別の属性も併用すればそれなりに対応できるはずだぞ。限界はあるが」

「別の属性を…成る程、混合魔法ね。でも回復魔法に混合魔法なんてあったかしら?」

「病気に合わせて調整するんだから、自分で作るに決まっているだろ」

「うぅん、なかなか難しそうね…でもありがとう、これで研究の目標が一つできたわ。それに、ちょうどいい研究友達がいるからいろいろ試してみるわ」

「ミルフェさんは何か研究されているのですか?まだ初級部ですよね?」

「そうだけど、普通の授業って退屈なんだもの。それに先生方に聞いても、誰も知らないことが多々あるし…」


 回復魔法の話から学園の話に会話は移っていった。サクラ、サーシャ、ワカナの3人も学園のことは気になるらしく、いろいろなことを質問している。

 あと1年で彼女達は学園へ通うことになるが、ミルフェと同じなら会うことができるのは1年の中で2週間ほどになるだろう。そのとき、俺は一体どうすればいいのか…またそのときに考えよう、今考えても仕方のないことだ。

 いつもとは違う喧騒の中、今日も終わりへと近づく。



 ミルフェはこれから世界でも屈指の治癒師に上り詰める。

 それは計らずも、ノアの教えがノアを助けることになるのだった。

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