第1章 第5話 定めと決意
割り切って主人公視点と第3者視点を混ぜていこうと思いますが、そのせいで少々わかりづらい書き方になってしまいました。
これからはいい書き分け方を模索していき、読みやすくなるようにしたいです。
あれから訓練は順調に進み、2ヶ月が経過した。
冬の寒さは厳しくなったが、彼女達は欠かすことなく訓練を続けていた。もちろん週にいくらかは訓練が休みの日を設けているが、休みの日であっても魔力操作の訓練や魔法の勉強を行っていた。
そしてそれは、彼女達にとっては突然、彼にとっては必然に訪れた。
朝、サクラがいつものようにノアの部屋を訪れる。最近彼の起きる時間が遅くなっている気がするが、彼女にとっては彼の寝顔を見ることができる楽しみの時間でもある。特に深く考えることなく、彼に近づき呼びかける。
しかし、一向に彼が起きる気配はなく、どうしたものかと考えていると母親が呼ぶ声がする。どうやら朝食の準備が終わったようだ。仕方なくリビングに戻り、両親に説明するが父親がそんな日もあるだろうと言ったため、ノアに申し訳ないと思いつつも久しぶりに3人での食事を楽しんだ。
その後、ワカナとサンサーシャが家に来るがノアはまだ起きてこない。両親が仕事のために家を出ても起きてこず、心配になり始めて3人でノアを呼びに行くことにした。
「ノア、入るわよ」
「おじゃましまーす」
「失礼します」
3人が声をかけながら部屋に入るも返事はない。
「おーノアの寝顔だ!えへへー可愛いなーもう」
「久しぶりに見ましたが確かに可愛らしいです…」
「ほーらノア、朝だよー!」
2人は滅多に見ないノアの寝顔を見たことに頬を緩めつつ、サンサーシャがノアを起こすために身体をゆすった。そしてサクラのときとは違い、ようやく反応が返ってくる。
「ん、もしかして朝か」
「おはようノア、今日は随分とお寝坊さんね」
「ワカナとサーシャもいるのか、だいぶ遅い時間みたいだな」
「ノアも寝坊することがあるんだねー、意外かも!」
「ふふっ、おはようございますノアくん」
「すぐに準備する、ちょっと待っていてくれ」
俺は起き上がり、服を着替え髪を結び仕度を終わらせる。普段と違うところがあるとすれば、その間ずっと目を閉じたままなことか。とうとう身体にがたが来てしまったため、目の機能を切ることにしたのだ。これで魔眼の魔力消費を抑えることができるが、欠点として視覚を失ってしまう。まあ、それだけだ、普段の生活にそこまで影響はない。
そう言えばせっかく3人がいるのだ、久々に服装の意見を聞いておけばよかった、そう思い彼女達に話しかける。
「3人とも、今日は着て欲しい服とかあるか?」
「…ねえノア」
「どうした?」
「何で目を閉じてるのかしら?」
「魔力の消費を抑えるために目の機能を切って、目が見えなくなっているからだな」
「なぜ、魔力の消費を抑える必要があるのですか…?」
「魔力が足りないからだな」
「どーして?」
俺の身体のことについて話したことは今までなかったな、いい機会だついでにいろいろと話しておこう。
「魔眼は知ってるか?」
「はい、本で読んだことがあります。強力な『スキル』を所持している場合、身体の一部に影響を及ぼすことがあり、その影響が目に現れた場合の名称だったと思います。目や腕といった既存の部位意外にも、角や翼といった本来は存在しない器官が追加される場合もあるとのことですが」
「ノアの目は魔眼なの?」
「そうだ、そしてこの魔眼の燃費が悪く、力を使わなくてもどんどん魔力を消費するんだ。その消費を抑えるために目の機能を切ったわけだな」
「なんで…突然消費を抑えよーとしたの…?」
彼女達の声が震えている。これは良くない感情を持ったときの反応だが、ひとまず説明を優先する。
「この身体は、すでに生物としての機能が壊れている。いわゆる生命力を生み出す力がほとんどなくてな、衰弱死する一歩手前の状態というわけだ。いや、本来ならすでに衰弱死しているはずだが、魔力を生命力の変わりに利用して生きながらえている。これがまた厄介でな、魔力の消費が非常に大きいと来た」
「あ…ああ…」
サンサーシャが弱々しい声をあげる。彼女は知ってしまった、ノアは生きるために魔力が必要なことを。そして気付いてしまった、ノアに最も魔力を使わせていたのが自分であることに。
「成長するにつれその消費は大きくなるが、加えて魔力を別に消費していたからな、本来の予定よりも早く魔力が足りなくなってしまった。睡眠時間を増やすことである程度対応もしていたが、それも難しく目の機能を切ることにしたわけだ。普段の生活には…」
「あああああああああああああああああああああああ!!!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいあたしがあたしがあたしがあたしがごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」
突然サーシャが謝りだしてしまった、一体どうしたのだろうか。こんなことは初めてで、どう対処すればいいかわからない。
「どうしたサーシャ、何を謝っているんだ?」
「あたしが…あだじがノアに魔法をいっぱい使わせだがら…あだじのぜいでノアが…うう…ひっく…目が…」
「俺の目が見えないことが悲しいのか?サーシャが悲しむのは困るから、目を見えるようにしよう。なに、それでも後1年は生きられ…」
「い、1年…」
「だめだめだめだめだめ!それはもっといや!ノアとあと1年でお別れなんて絶対にいや!」
「そうですよ!そんなのは私も嫌です!」
「そうなると目は見えないままだがいいのか?」
「う、うう…」
「何か治す方法はないのですか…?」
「今のとことはない、あればとっくに治している」
「あたし…魔法の訓練やめる…」
「なぜやめるんだ、サーシャ」
サーシャが訓練を止めると言い始めてしまった。せっかくここまで訓練してきたのにもったいない、それに今の訓練が完了すればようやく新たな魔法の習得に移行できるのだ。
「訓練しなければ…ノアは魔法を使わなくてすむでしょ…?そしたら…」
「言っただろ、予定よりも早くなっただけだと、いずれ同じようになってた」
「それじゃー…あたしはどうしたら…もうわかんないよ…お願いノア、嫌いにならないで…」
「嫌いになんてならないが、そうだな、どうしたらいいのかわからないなら…サーシャは最初に会ったとき大魔導師になると言っていたな。なら大魔導師になれ、これからも訓練してな」
「でもノアが…ノアは…」
「俺は今まで通り訓練を手伝おう。それに、ここで訓練をやめてしまったら、今まで俺がやってきたことが無駄になるだろ?無駄にするぐらいなら、最後まで利用して大魔導師になってくれ」
「ノア…」
「…それでは私がノアくんを治す方法を見つけてみせます!そのために訓練を続けます!」
「ならわたしは、治すときに必要なものが集められるだけの力を手に入れるわ!」
「ワカナ…サクラ…うん、あたしも、あたしも訓練を続けて最高の大魔導師になって見せる…!それでノアの変わりにあたしが魔法でなんでも解決するんだから!!」
「そうか、楽しみにしている」
どうやら訓練を続けるようだ。しかもいずれ俺の身体を治すと来た。おそらく不可能だが、彼女達が俺のために何かすると言ってくれることが非常に嬉しい。
「さっそく今日の訓練をしないとな」
「そうね、行きましょうか」
「あ、でもノアくん、目が見えないのは大丈夫なんですか?」
「あたしが手を引っ張ろーか?」
「問題ない、半径1m以内なら大体のものの位置がわかるし、それ以上離れていても生物であれば意外とわかるもんだ」
「そんなこともできるのね…」
「だからこそ、目の機能を切っても問題ないと判断したわけだな」
「いーからいーから、ほら!ノア!」
いつものように4人で訓練に向かう。
普段なら1人で先に行ってしまうサーシャだが、今日は俺の手を引っ張りながらゆっくりと歩いている。彼女達と触れ合っていると、それだけで喜びを感じる、たまにはこういうのもいいかもしれない。
そんなことを考えていると、いつもの広場に到着した。
「よーし、今日も気合入れていくよ!」
「頑張りましょう!」
「力みすぎて失敗しないようにしなさいよ」
彼女達が訓練を開始したので、俺はそばの木に腰掛けて読書を始める。今行っている訓練は、魔力を属性に変換して好きな形を作るものだ。皆、多少であれば複雑な文字を作ることができるようになり、特にワカナは新しい魔法の練習も始めている。
「そーだノア、魔力が見え…あ…」
「どうしたサーシャ」
「…んっ!ノア!魔力が見える魔法お願い!」
「そう言えば今日はまだかけてなかったな、ほら」
サーシャも魔力操作はだいぶできるようになったが、まだ魔力を見ることはできないようだ。多少は感覚で形状を判断できるみたいだが、まだまだ不安なのだろう、はっきりわかるようにするために可視化の魔法を毎回かけている。
「サクラとワカナも何かあったら呼んでくれ」
「そのときはお願いね」
「あ、それではお願いしてもいいですか?新しい魔法なんですけど…」
どうやら、新しく教えた魔法の発動が上手くいってるかわからないようだ。回復魔法は、発動してもそれで効果が発揮されているかどうか判断するために、本人がその魔法を構成部分から理解したうえで魔力を感知する能力に長けていなければならない。魔法の訓練を始めて日が浅い彼女にはまだ難しいだろう。
「魔法が上手くいっているか俺が見よう。失敗した場合は次に俺が魔法を手伝うから、どこが違ったかを感じ取るといい」
「はい、よろしくお願いします」
ワカナに頼まれて魔法を見る。彼女は他の2人よりも魔力操作や魔法の習得が早く、今回の魔法もまだまだ力は弱いが、ほぼ完璧に使いこなしている。しかし完璧ではない、そこを修正できるのであれば、彼女の魔力感知能力は本物だろう。
「いいな、上手く発動している」
「ふふ、ありがとうございます、嬉しいです」
「失敗したらと言ったが、手本を見せることにする。違いがわかるかな」
俺はそう言って彼女の手に自分の手を添え、完璧な魔法を発動させる。彼女の魔法との違いは、魔法を構成するプロセスと効力だ。彼女は1,2,3,4と順番に魔法を構成しているが、俺は2と3を同時に構成し4で完成させている。また、発動された魔法も、彼女の魔法は11の効力があるが、俺の魔法は10の効力になっている。回復魔法にはこの余計な部分は必要ない。
実際の差はもっと小さく、数百分の一程度の差だが、この差で魔法を使うことができる回数が変わってくる。俺が教えるのだ、目指すなら完璧だ。
「うう、すみません…わからないです…」
「気にしなくていい。これがわかるならもう教えることはないからな」
「いつか…必ずわかるようになって見せます!」
いつか彼女達に何も教えることがなくなったとき、俺との関係はどうなるのだろうか。いや、彼女達が笑顔であるのなら、そこに俺の存在は必要ない、どうせ俺のほうが先に死ぬ。むしろ、彼女達に教えることがなくなるまで身体が持てばいいが。
今までは考えもしなかった、誰かと一緒にいるために身体の機能を切り詰めて生きながらえることなど。壊れた人形の俺にも変化があるというのだろうか、自分のことなのにわからないことがあるとは…
彼女達は光へと進む。
いずれノアと共に光を歩めると信じて。