第1章 第4話 日常は暗闇に向かって
会話以外の文章を、主人公視点にするか第3者視点にするか試行錯誤中です。
いっそ気にせず混ぜ合わせようかと思ったりしますが、読みづらくなりそうなのが心配です。
やはり文章を書くのは難しい…
新たな訓練が開始した次の日、いつものようにまだ薄暗い中俺は目を覚ました。今までとは異なりほんのわずかながらも倦怠感を感じるのは、昨日の訓練の影響であることに間違いはないだろう。
ひとまず起き上がり、髪を後ろで一つに結び朝の準備を終えると、身体の調子を確認していく。昨日よりも魔力量が0.256%少ない。
このままではいずれ魔力が枯渇し身体が動かなくなってしまう、どう対策するべきか。そう言えば睡眠をとらずに活動していた昔と比べて、今はそれなりに時間がある。ならば睡眠時間を増やすのが対策としては1番妥当だろう。
しかしこれから寝るのは中途半端だ、瞑想でもして剣の型でもなぞろう。今日はどの流派にしようか。
そうやって朝の時間を過ごしていると、ドアがノックされ返事をする前に開かれた。サクラがいつものように朝食ができたことを伝えに来たのだろう。
「ノアー、朝ごはんの準備できたわよー」
「ああ、すぐ行く」
彼女とともにリビングへ向かうと、いつものようにサクラの父親がすでに席に着き、母親がテーブルに食事を並べている。俺も教えてもらった挨拶をしつつ席に着くと、少ししてから準備が完了し一緒に朝食をとり始める。
ここでワカナの母親が、ワカナに話しかけた。
「サクラ、今日もまた魔法のお勉強をするの?」
「そうよ、新しい訓練も始まったし、ねっノア!」
「あらあら、楽しそうにしちゃってもう」
「はっはっは、この分ならわしもすぐに追い抜かされるかもしれんな!」
サクラと老夫婦の仲は非常に良いのだろう、一緒にいるときは笑顔が絶えることはない。そんなことを考えつつ彼女達を見ていると、俺にも声がかけられた。
「ノアくん、サクラが迷惑をかけたり無茶なんてしてない?」
「ふむ、サクラはしっかりやれているよ。話も素直に聞いてくれるし」
「それならよかったわ」
「サクラは誰に似たのか、なかなかに頑固だからな。はっはっはっは」
「母さんも父さんも何言ってるのよ!心配しなくても問題なんてないわ!」
こうして緩やかに朝の時間は流れ、食後少し本を読んでいると、玄関のほうから元気な声が聞こえてきた。いつもと同じだが、いつもより少しだけ勢いがない。
サクラが老夫婦に声をかけ、俺と一緒に外に出るとワカナとサーシャが立っていた。
「よーし、2人とも来たね。今日もはりきって行こー!」
「おはようございます、ノアくん、サクラちゃん。サーシャちゃんも待ちきれないみたいですし、わたし達もいきましょうか」
俺たちの姿を確認したサーシャがさっさと移動し始めたので、ワカナと挨拶してその後ろを追いかける。これもまたいつもの風景だ。
目的の場所に到着すると、皆はさっそく訓練を開始しようとするが、ここで俺はサーシャに声をかけた。
「サーシャ、昨日魔力を枯渇させただろ?」
「そそそそんなことないよ?」
「うん?違うのか?まあ、魔力量の一時的な減少と軽度の疲労から推測しただけだから違うこともあるか」
枯渇してしばらくは似たような症状が出るため魔力切れを起こしたかと思ったが、サーシャは否定しているので別の要因なのだろう。この症状がイコール魔力切れではない。
しかし、サクラとワカナはそう思わなかったのか、サーシャに詰め寄っていた。
「サーシャ、あんたもしかして試したんじゃないでしょうね?」
「ノアくんも言っていましたが危険なんですよ?大丈夫なんですか?」
「えっと、ええっと…その…あの…ごめんなさい!」
なにやらサーシャが謝り始めたが、どうしたのだろうか。話を聞くと、好奇心に負けて魔力切れによる魔力量の増加を試したらしい。
今回はよかったが、これから先どうなるかわからない。万が一サーシャが命を落とすことは許されないため、手を打つ必要がある。手間はかかるが、魔法薬を使うのが無難か。
ともあれ、本人にどうするか聞くべきだろう。それにせっかくだ、全員に聞いておこう。
「サーシャ」
「ご、ごめんなさい…」
「いや、謝る必要はない。しかし聞いておきたいことがある」
「な…なに?」
「これからも魔力切れによる魔力増加を行いたいか?」
「…うん、これが1番いい方法なんでしょ?だったら…」
「サーシャちゃん!?死んじゃうかもしれないんですよ!!」
ワカナがやめさせようとするが、目の届かない場所で無茶をされるよりは、対策をした上で実行してもらうほうがいい。手間はかかるが不可能ではない。
「やりたいなら止めはしない」
「ノ、ノア!?」
サクラも大声を出すが、気にせずに話を続ける。
「ただし、俺が作った魔法薬を服用した上で魔力切れを起こすようにしてくれ。これならショックによって命を落とすことはない、疲労は防げないけどな」
「そんなのがあるの?」
「今はないが明日までに用意しよう。それと、魔力切れは3日に1回程度にするように。これ以上回数を増やしたところでほとんど意味はないからな」
「ありがとうノア!あたし、魔法が下手だから魔力を多くしてたくさん練習しなきゃって…」
「向上心があるのはいいことだ。2人はどうする?」
サーシャが続けることを確認した後、サクラとワカナに同じことをするかをたずねる。
「えっと…大丈夫なの?」
「魔力切れを起こしてしばらくは疲労感を覚えるが、命に別状はない」
「その、ノアさんは大変じゃありませんか?」
「1人分も3人分も大して変わらない」
「じゃあ、最近お願いばかりしてる気がするけど、お願いするわ」
「気にするな」
こうして3人分の魔法薬を調合することが決まった。材料は森にあるだろうし、調合の難易度なんて時間がかかるかどうかの差でしかない。この程度でリスクを抑えることができるのなら、やらない手はないだろう。
それに、魔力量が増えればこれからの訓練もより捗るはずだ。
「それじゃあ、この話はここまでにして訓練を行おうか。魔法薬に関しては任せてくれ」
「「「はーい!」」」
昨日に続き、今日も新しい訓練が始まる。一晩たったせいか、少々感覚を忘れてしまったようだが、何度か手伝うことで3人とも感覚を取り戻していた。
しばらくして、皆を手伝う回数が減ったころに、俺は魔法薬を作成する準備に取り掛かる。まずは素材の探索だ。魔力を薄く広く延ばしていき、周辺の情報を取得していく。大まかな形状さえわかればいいため、わざわざ魔法を使う必要もなく消費が少ないというのは今のこの身に適している。
程なくして材料の位置が判明した。上級の魔力回復ポーションを作成する程度の材料なのが、今回作成する魔法薬の利点だろう、材料もすぐに見つかる。
ノアは知らないが、上級ポーションの入手難易度はかなり高い。材料を探すことも大変ならば、調合の手間も非常にかかる。
この世界の通貨は石貨、鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨、であり石貨100枚で鉄貨と同じ価値になるように、100毎に繰り上がる。4人家族が1年生活できる費用は金貨1枚と言われており、上級ポーションの値段は金貨約3枚。とてもじゃないが一般人には手が出ない代物である(ちなみに1年は10ヶ月、1ヶ月が4週間、1週間が9日がこの世界の周期になる)。
その上級ポーションと同レベルの材料と、それ以上の製作難易度の魔法薬を作ろうというのだ、本来なら金貨何枚かかるかわかったものではない。
そんな魔法薬の製作を安請け合いするこの非常識さは、今までに買い物をしたことがない、いつも通りのノアと言えるのかもしれない。
材料を取りにいくのは明日の朝、皆の様子を見ない時間でいいだろう、魔法薬の作成もそのときだ。それなら次は入れ物の用意か、小さめの丸薬だから蓋付の木の容器を作れば問題はない。
そう思い、そばにあった手ごろな木を手刀で切り倒す。この程度の作業に魔力を使う必要はないし、わざわざ武器を取り出すこともない。
しかし、細かい作業にはナイフが必要か、仕方なくいつも使っていた武器の形状をナイフに変化させ容器を作っていく。この武器の利点は、あらゆる場面で使用できるように、使用者の魔力を消費することなく形状が変化できることだ。普段は3人にプレゼントされた、髪を結ぶための紐に装飾品としてつけてある。
そんな風に容器を作っていると、彼女達が自分を見つめていることに気づいた。どうしたのだろうか。
「ノア、今どうやって木を切ったの?」
「うん?素手だな」
「えっ魔法じゃないの!?」
「この程度に魔法なんていらないよ」
「ノアくんは本当にすごいですね…」
「そうね…」
説明をしたからか、彼女達は納得したように訓練に戻っていった。普段何かを教えたときとは表情が違ったが、理解したのなら問題ないだろう。
手早く容器を作り終え、いつも通り彼女達の訓練を手伝いながらの読書をする。そして、彼女達の魔力が少なくなった頃に今日の訓練は終了し、それぞれ帰路につく。一応帰る前に、今日は魔力を枯渇させないように注意しておく。
次の日、少しばかり疲労を感じながらも、普段と同じ時間に起床する。今日は材料を集め、魔法薬を作成する必要がある、長めの睡眠時間をとることはできない。
さっそく窓から飛び出し、森へ歩いて向かう。他の人にペースを合わせる必要がないため、いつもより早く移動できる。大体10倍ほどか、身体に負担のないペースだ。
あらかじめ位置を把握していたおかげで、30分もかからずに採取が完了し部屋に戻る。ここからは魔法薬を作成していく。
と言っても、ただ比率と順番を間違えずに混ぜていくだけだ。1時間程度で調合を終えると、ちょうどサクラが呼びに来た。後は乾燥させるだけなので、そのまま木の器の上に並べると、サクラとともに朝食に向かった。
その後、ワカナとサーシャが家に訪れ一緒に訓練にいくが、始まる前に彼女達に魔法薬の説明をする。渡すのは帰る前だ。
「これが魔法薬だ。魔力を枯渇させる10分ほど前に飲むように」
「へー、これがノアの言ってた魔法薬かー。ポーションじゃないんだね」
「ポーションの方が即効性はあるが、今回は必要ないからな。それに嵩張らない」
「なるほどねぇ、水で飲むのかしら?」
「水はどっちでもいいぞ」
「わざわざありがとうございますノアさん」
「必要なことだ、気にするな。帰るとき皆に渡そう、今渡しても邪魔だからな」
ほぼ味も無いし、飲みづらいこともないだろう…俺が味を気にするのは不思議な気分だな。これも皆と過ごすことによる影響か、多彩な味のあるものなどここで暮らすようになるまで食べたこともなかった。
彼女達が食事を取るときも随分と嬉しそうにしていたし、訓練の間読む本に料理の本を加えておくか。いずれどんな要求をされても作れるようにしておこう。
やがて彼女達の魔力も少なくなり、今日の訓練が終了する。そしてしばらく談笑した後、彼女達に木の容器に入った魔法薬を渡した。
「3日に1回使用するとして、1か月分の魔法薬が入っている。なくなりそうになったら言ってくれ、また作成しよう」
「ありがとーノア!今日さっそく試してみるね!」
「そうですね、あ、何か他に注意することはありますか?」
「魔力ポーションなどと一緒に服用しなければ問題ない。それと過剰摂取はお勧めしない」
「たくさん飲んだらどうなるの?」
「軽い頭痛と吐き気だな」
「そもそもたくさん飲む必要はないですから、心配ないですね」
「わたしも今日試さないと、ありがとうねノア」
「今日もありがとうございました、ノアくん。それではまた明日」
「ああ、また明日」
これで彼女達に万が一が起こることもないだろう。
また明日、この3人と一緒に…
彼女達の光のために、今日もノアは闇へと歩む。
彼女達が闇へ着いて来る可能性など一切考慮せずに。