第1章 第3話 初めての魔法
口調が安定しない、特徴が出せない、と苦戦しております。
キャラ付けがこんなにも難しいものだとは思いもしませんでした。
「よし、早速はじめようか」
「じゃーあたし!あたしからやる!」
「何言ってるのよ、わたしに決まってるでしょ!」
「わ、私は後でもかまいませんよ…?」
俺が彼女達に声をかけると、サーシャとサクラが我先にと返事をした。わかりやすさを考えると火属性がいいだろうと考え、俺はサクラに魔法を使わせることにする。
「見た目でわかりやすい火属性のほうが参考になるだろうから、今回はサクラからはじめよう」
そう俺が答えると、サクラは目を輝かせたが、サーシャは目に見えて落ち込んでしまった。落ち込む姿を見たくない俺は、とっさに別の案を提案する。
「ふむ、2人同時もできるがそれでもいいか?」
2人までなら特に問題はない。それに、新たな提案によってサーシャも嬉しそうに目を輝かせている。そう、これでいい…
「でも、ノアは大変じゃない?」
「無理してないわよね?」
「何も心配することはない。俺の腕はちゃんと2本あるからな」
「そ、そう…?それじゃーお願いするね!」
「わたしもよろしく!で、どうするの?」
「まずはだな……」
俺は、2人に隣同士で並びそれぞれ腕を前に突き出すよう指示をする。そして、2人の後ろに立ち彼女達の腕に手を添える。サーシャが左利きだったおかげで、手を添えることは難しくなかった。
手を添えたとき、彼女達の顔が少し赤かったのは、これから魔法を行使することに緊張しているのだろう。
「2人とも、魔力操作の訓練をしているときみたいに手に魔力を集めてくれ」
そう指示すると、彼女達の手にゆっくりと魔力が収束していく。
「よし、それじゃあいくよ。サクラはファイアーボールで、サーシャはインパクトだ。魔力の流れをしっかり感じるんだぞ」
そういって、彼女達の手に集まった魔力を、俺の魔力を用いて操作する。まずは属性を変化させ、次に形状を変化させる。そして最後に魔法を放つ。
2人の手からそれぞれ、俺が彼女達に見せたものよりも小さな火の玉と透明な玉が発射される。今の彼女達の魔力ならこんなものだろう。
「どうだ?これが無詠唱での魔法の行使だ」
添えていた手を離しながら彼女達に尋ねると、2人とも魔法を放った先を見つめていた。魔力の使いすぎによる疲労もないはずだが、一体どうしたのだろうか。そんなことを考えていると、サーシャが大声を発した。
「す…すごーーーい!これが無属性魔法!!これが大魔導師への第一歩!!!ノア!もっと、もっといろんな魔法教えて!!」
「喜んでくれて嬉しいよ。でも、ほかの魔法はまだ先だ。まずは1人でこの魔法を行使できるようにするんだ」
「すぐに習得してみせるんだから!」
ああ、こうやって喜んでもらえると教え甲斐がある…いや、俺は喜んでいる姿が見たいだけだ、教えると言う行為はその手段に過ぎない。さて、サクラはどうだろうか?そう思い彼女に目を向ける。
「どうだいサクラ?」
「本当にできるなんて…でもノアと比べてずっと小さな火だったわ…」
「サクラ自身の魔力を使っているからな、もっと訓練すれば同じような魔法が使えるさ」
「そうね、追いついて見せるわ!」
「楽しみにしている」
2人とも喜んでいるようで何よりだ。よし、後はワカナだな。俺は見学していたワカナに声をかける。
「それじゃあワカナもやろうか」
「は、はい!よろしくお願いします!」
普段よりも声が大きい、彼女も緊張しているのだろう。俺はワカナにも右腕を前に突き出してもらい、後ろから抱きかかえるようにして彼女の腕に自分の右腕を添えた。
彼女はいよいよ魔法を行使することに更なる緊張を覚えたのか、さらに顔を赤くして声も震えていた。
「そ、それじゃあ魔力を収束しまふえ!」
彼女の手に魔力が収束する。俺はその魔力を操作して、前の2人と同じように魔法を行使する。しかし今回は手から魔法が放たれることはなく、手のひらに淡い緑の光がとどまっている。しばらくして、光が治まるのを見届けると俺は彼女から手を離した。
「どうだ?これが回復魔法のヒールだ」
「は、はい、これが無詠唱で魔法を行使する感覚なんですね。詠唱して生活魔法を使うときは、魔力が勝手に引っ張られるみたいでしたが、今回はまったく違う感じがしました」
「そうだ、感覚が違うだろ?これからはこの感覚を覚えていくんだ」
どうやらワカナは魔力の動きに敏感らしく、感覚を掴み始めているようだ。この様子なら訓練も問題なく進められるだろう。
ちなみに、本来なら手伝ったところで詠唱と同じような感覚になってしまうが、訓練のために無詠唱と同じ感覚が得られるように調整してある。王宮に仕える魔導師ですらできないこの技術は、まさにノアの言う裏技といったところか。
「あたしはまだよくわかんないかも…」
「わたしもちょっと不安ね」
サーシャとサクラは未だ掴みかねているようだ。
「なに、感覚が掴めるようになるまで何度でも手伝うから問題はない。徐々に慣れていけば良いさ」
「ワカナとのきみたいに手伝ってくれるの?」
「もちろんだ」
「そ、それじゃあ早速お願いしてもいい?」
こうして、無詠唱での魔法行使の訓練が始まった。
実際は訓練の前準備にすぎないのだが、まあ彼女達ならすぐにでも感覚を掴むことができるだろう。昔は(自分の周りにいた)多くの人間が使えていたのだ、大した技術ではない。
無詠唱で魔法が使えるようになれば、魔力を属性へ変換するときの感覚も覚えられるはずだ。そうすれば晴れて本来の訓練を行える。
ちなみに以前の訓練は続けてもらうつもりだ。魔力操作の訓練は疎かにできない。
「ノアノア!」
多少の考え事と手伝いをしていると、サーシャが俺に呼びかけてきた。
「どうした?」
「無属性の魔法なんだけど、ものすごく見づらくて上手くいってるかわかりにくいの。どーにかなんないかな?」
そう言えば、彼女達はまだ魔力の感知や視認ができなかったか。確かに無属性は他の属性と比較すると見づらい。
「ちょっといいかい」
俺はそういうと、サーシャのおでこに軽く触れて、魔法を行使する。一時的に魔力が視認できるようになる不属性の魔法だ。似た効果を持つ魔道具も存在するが、あいにく必要としたことがなかったため所持していない。まあ、訓練中に使用するだけなら問題ない。
「これで見えるようになったはずだ。もう一度魔法を使ってみるといい」
「ありがとーノア!」
サーシャは訓練に戻ってインパクトの魔法を行使しようとするが、なかなか上手くいかない。今日からはじめた訓練だ、仕方がないだろう。
「手伝おうか?」
「う、うん。お願い」
今日何度目か、彼女の魔法を手伝い行使させる。少し慣れてきたのか、最初のときと比べると多少スムーズになっている。
「おお!魔法が飛んでいくのが見えたよ!」
「これで魔法が行使できたかわかりやすくなっただろ?今日中は効果が続くし、必要なら今後も同じ魔法をかけてあげよう」
「えへへ、ありがとうノア!頑張るね!」
サーシャが再び訓練に戻る姿を見て俺も読書に戻る。離れて彼女達が訓練をしている姿を見ていると、習得の程度の違いがよくわかる。サーシャはまだまだ慣れておらず、1,2回上手くいったかと思うと、そこからまた失敗するようになり数回に1回ほど聞きにくる。サクラはそこそこ慣れたのか、数回連続で成功させるが、それでもその後失敗するようになり、手伝ってくれないかと尋ねてくる。ワカナは他の2人よりも精度が高く、少し失敗してもしばらく考えるそぶりを見せ再度魔法の行使を成功させるが、続けざまに上手くいかなかった場合などは俺に助けを求める。
ワカナの習得が想像以上に早く、魔法の習得難易度を考慮すると丁度いいかもしれない。どうしても、形状や密度の調整が主になる火や無属性の魔法と比較すると、回復属性の魔法はヒール系統以外は複雑なのだ。
「無詠唱が上手くいくようになったら人から、予定していた魔力を属性に変換する訓練をしよう」
習得までの時間の差がそれなりに大きくなると予想し、彼女達にあらかじめ宣言しておく。本当は失敗しないようになるまで練習するべきだが、9割がた成功するようになればいいだろう。現状、失敗しても命の危険が訪れるわけでもないのだ。
「よーし、最初にノアから認めてもらうもんね!」
「あんたじゃ無理に決まってるでしょ…」
「あはは…皆で頑張りましょうね」
「無理はしないように。それに今日は後数回したら帰ろう」
彼女達はまだ魔力量がそこまで多いわけではない。1番多いサーシャですら一般的な魔法使い程度だ、後10回も魔法を使えば魔力が底をつくだろう。
「えー、まだまだいけるよ!」
「魔力が切れて倒れてしまうからな、続きはまた明日だ」
「ノアがそういうなら仕方ないわね」
「サーシャちゃんは特にいっぱい魔法を使ってましたからね」
「うー…わかった」
「それじゃあ最後にもうひと頑張りましょう!」
その後、彼女達が数度魔法を行使したところで今日の訓練は終了した。ここまで魔法を行使した経験がないせいか、なかなかに疲労している様子が見られる。魔力も残り少ない。
「疲れたろう?明日からは魔力操作を少ししてから今日やった訓練を行うからな」
「うん、終わったと思ったらなんか一気に疲れちゃった…」
「でも魔法を使えたのは楽しかったわ」
「明日からも皆で頑張りましょうね」
そうして帰路に着こうとしたとき、ワカナが質問してきた。
「そう言えばノアくん、魔力量はどうしたら増えるのですか?」
成長とともに増えるほか、魔力を消費することが挙げられるが、魔力の消費は魔力切れを起こすまで行うことが1番効率がいい。しかし、魔力切れは体への負担が大きく、次の日に影響が出たり、幼いうちは枯渇によるショックを引き起こし命にかかわりかねない。
それゆえ彼女達が無茶をしないよう話さなかったが、聞かれたのであれば注意を交えて教えることにする。
「成長や魔力の消費および魔力切れだな。ただし、魔力切れは体への負担が大きいし、下手をすると命にかかわるからやめておくように」
「わかりました、ありがとうございます。それではまた明日もよろしくお願いしますね」
「あたしも帰るね、じゃーまた明日!」
「魔力切れって意外に怖いのね…さてノア、わたちたちも帰りましょ」
今日も日が暮れる前にサクラとともに帰路に着く。大切な人たちと一緒に過ごす時間を幸せというのだろうか、訓練の時間を思い返す。こんな日々がいつまでも続くといいが、しかし俺には過ぎた願いだ。
新たな訓練を行うことで実感した、いや魔法を使うことで実感したと言えるか、魔力を使う度にこの身体は衰弱していく。同じことを続けていけば、今のままでは1年しないうちに俺の身体は動かなくなる。死ぬことは気にしないが、彼女達と離れることを考えると悲しい気持ちになる。1000年前も同じ感情を憶えたが、なぜこの感情をがわくのか理解できない、別離は必然だというのに…
誰かがノアを止めなければならない。
だが止められる人間は、止めるだけの力を未だ持たない。




