第1章 第2話 先生の魔法講座
あまり書き直しに時間をかけないようにしたいところですが、つい気になってしまいます。
文章を書くことに慣れていないのがわかりますね。
少女達が訓練を始めてから1ヶ月ほど経ち、ようやく簡単な文字が形作れるようになったと言ったところか、生活魔法を使用した際に成長の実感が湧いてくる。今までよりも遥かに早く楽に魔法が使えるし、何よりも実用に耐えられる性能が発揮できるようになっていた。
本来なら8歳程度の子供が生活魔法を使ったとしても、暗がりで本を読むための小さな明かりが灯せるかどうかだ。間違っても、小さいとは言え部屋全体を明るくする光を生み出すことは到底できず、彼女達の親もその成長ぶりに大変驚いていた。一応、英才教育を施された貴族であれば近いことが可能だが、比較にならない費用がかかっていることは間違いない。
そんなある日のこと、今日も今日とて3人の少女サクラ、サンサーシャ、ワカナが魔法の訓練をしている間、傍らで俺は倒木に腰掛け本を読んでいた。
ちなみに、俺の格好は伝統的な”女性用の”森人族の衣装である。女性用であるらしいが、彼女達が絶対に似合うから着て欲しいと言ったことと、女性用であっても男性が着ることに問題はないと判断したこと、それに着替えた後、彼女達がとても嬉しそうに楽しそうにしていたことから何も問題はないだろう。
魔力操作の訓練は順調に進んでいるし、皆もだいぶ慣れてきたはずだ、そろそろ新しいことを始めても良いだろう。そう思い俺は彼女達に声をかける。
「そろそろ皆がどの魔法に適性を持つか調べてみようか」
すると、興味を持ったのか、すぐに反応してくれた。
「あら、面白そうね。でも、どうやって調べるの?」
「ふふーん、あたしはもう知ってるもんねー」
「サーシャちゃんは住民登録のときに判明しているのでしたっけ」
「驚くことなかれ!なんと無属性に適性があるのだ!」
「別に知ってるわよ」
「ノアに言ってるに決まってるでしょ!」
無属性の適性を持っている人間は確かに少なく、俺も今まで他に2人しか見たことがない。それに身近な人間が適性を持っているのはこれが初めてだ。教え甲斐がある。
「へえ、無属性か。これからが楽しみだね」
「意外とあっさりしてる!?…あんまりすごくないのかな?」
「国に1人いればいい方だと本にありましたから、とても凄いことだと思いますよ」
「この場合はノアが例外じゃないかしら。で、適性なんてどうやって調べるの?」
どうやら適性の調べ方が気になるようだ。今回は簡単で、それなりに精度の高い方法を使う。
「簡単だよ。俺の手を握って魔力を流せばいい」
「あら、本当に簡単ですね」
「それでわかるもんなの?」
「ノアが魔法に詳しことは知ってるけど、ちょっと信じられないわね」
「確かに、そのような方法があるなら里でも見かけていそうではありますね」
どうやら現代ではこの方法は一般的ではないようだ。魔道具でも調べられるし、習得の難易度が高いこの方法は廃れてしまったのかもしれない。
「すぐに済むけどどうする?」
「まー試すだけただだし、やってみよっかな」
「それもそうね」
「それではお願いしますねノアくん」
俺は1人ずつ手を握って魔力を流してもらい、順に解析していく。素質はおおよそ普段から感じていた通りの結果だ。
「よし、大体わかったよ。サーシャは言っていた通り無属性で、サクラは火属性、ワカナは回復属性だ。それと素質だけど、魔力量はサーシャが一番多くて、魔力強度はサクラが1番強い。ワカナは魔力の収束が上手だね」
「あら、属性だけじゃなくてそんなこともわかるの?」
「見ただけでも大体わかるけど、魔力を流してもらったからより詳しく解析できたよ」
「あ、見ただけでもわかるものなんですね」
適性に関しては、それなりに高い適性を持つ属性がないと見ただけではわかりにくい。それ以外の素質については見ただけでも意外とわかるものだ。まあ、魔眼を用いればどうにでもなってしまうが。
「ふーん、それにしてもサクラが火属性でワカナが回復属性かー…にゅふふ、勝った」
「…何気持ち悪い笑い声出してるのよ。それに勝ち負けなんてあるわけないでしょ」
「そうだな、結局は適材適所だ」
結局、場合によって有用な魔法は異なる、珍しいから強いわけではない。まあ、無属性は汎用性が他の属性と比較して非常に高いため、訓練しだいでは様々な場面で使用できるが。
「むぅぅ…ところで魔力強度ってなんなの?魔力量はわかるんだけど」
そう言えば今まで説明したことがなかったな。魔力操作を訓練する上でも知っておいて損はないし、説明しておこう。それに、彼女達に聞かれて説明しない選択肢は端からない。
「魔力強度は魔力の強さだな。同じ量の魔力を使用して同じ魔法を行使した場合に、魔力強度が高いほうが威力の高い魔法を使える、と言う認識でいい」
「では、サクラちゃんが最も強い魔法を使えると言うことですか?」
「絶対ではないな」
確かに魔力強度が高ければ威力の高い魔法を使いやすいが、威力を高める方法は他にも存在する。
「どういうことかしら?」
「魔力強度が少ないなら、その分魔力を多く使って魔法を行使すればいい。そこで
重要なのが魔力の収束だ。ただ魔法に込める魔力を多くしても、魔力が拡散してしまいあまり威力は上がらない。しかし、魔力の収束が上手ければ拡散させることなく魔法に魔力を込めることができる」
「魔力量が多いだけじゃだめなのかぁ…あれ?てことはあたしが1番弱…」
適性以外は他の2人の方が優れていると感じたのか、なにやらサーシャが落ち込み始めてしまった。実際問題、魔力強度に関してはほぼ先天的なものであり改善することは困難ではあるが、それを補うための訓練だ、そこまで気にすることはない。
「魔力の収束は魔力操作の訓練で鍛えられるよ」
「よーし、燃えてきたーー!早速練習する!」
訓練で改善できることを伝えると、サーシャは元気を取り戻しすぐに訓練を再開しようとする。うん、やはり笑顔が一番だ。と、そこでサクラに襟をつかんで止められてしまった。なかなかの動きをしている。
「ぐえっ!?」
「待ちなさい、なんのために属性を調べてもらったのよ」
「そうですよ。それでノアくん、これから何をするのですか?」
「今までは、もとからあった水を魔力で操作していただろ?それを水ではなく、魔力を適性属性に変換したものを操作するんだ。魔力操作だけでなく、魔力を属性に変換する効率の向上や高速化が主な目的になる」
難易度は高くなるが、今の彼女達なら可能だろう。それに、より大きな成長が見込めるはずだ。
「属性に変換ってどーするの?」
「そもそも、魔法として発動することで初めて魔力が属性を持つのではないのですか?」
なにやら勘違いしているようだが、結局は魔法を使うことと同じだ。それとも現代では、決められた魔法を使うように教えられているのだろうか?生活魔法もわざわざ詠唱していたし、もしかしたら呪文を詠唱することが魔法使うことであると言う認識なのかもしれない。本来魔法は、魔力を属性に変換したものをイメージ通りに形作るものであって、呪文の詠唱など必要ない。一応詠唱は昔も使われていたが、あくまで魔法の苦手な人間が魔法を行使する場合や非常に難易度が高い魔法を行使する際に、イメージを固め易くするために使っていた技術だ。
「魔法を使うのと同じだよ。例えば、火属性なら好きな形の火を作り出す魔法だと思えばいい」
「でもそんな魔法あったかしら?」
「魔法の本にそのような魔法や呪文は載っていなかったと思います」
「呪文なんて必要ないよ。属性に変換して、形を変えるだけだからな」
「そんなこと可能なの!?」
「無詠唱のスキルがなくても可能なのですか?」
「ふむ、いずれ無詠唱や魔方陣についても教えよう。楽しみにしておいてくれ」
今の魔法の常識が、彼女たちの枷になってしまっている。改善しておかなければ、今後の成長にも影響しかねない。しかし、属性への変換よりも難易度が高く、より魔法の知識が求められる内容だ。教えるのはまだまだ先か。
「じゃあ、取りあえず変換の感覚を掴んでみよう。魔法を教えるから、その魔法を使ってみて感覚を覚えるといい」
「おー!魔法を教えてくれるのね!やっぱり魔法は使ってこそよ!」
「生活魔法以外で魔法を使うのは初めてですね。私も楽しみです」
「腕が鳴るわ!それでどんな魔法かしら?」
彼女達は魔法の本を読んでいるようだし、そこから選択するほうが無難だろう。
「本にもあった魔法にしようか。サクラはファイアーボール、ワカナはヒール、サーシャはそうだな…本に無属性がなかったから仕方がない、今回はインパクトにしておこうか」
詠唱しないことで魔法が使えることも同時に見せておこう。認識を変えることは早ければ早いほうが良いはずだ。
「それに、今回は無詠唱で魔法を使ってもらう」
「ええっ!?いきなり詠唱なしで魔法を使うの!?」
「私達にできるのかしら…?」
「最初に手本を見せるし、ちょっとした裏技も使うから大丈夫だ」
それにインパクトの魔法は俺も呪文を知らない。魔法の本にあった分の呪文なら憶えているが、過去に無詠唱で使われていた魔法までは流石に調べようがなかった。
と言うわけで早速彼女達に無詠唱の魔法を見せることにした。使えることを見せるだけなので、ファイアーボールの魔法だけで問題ないだろう。どうせだから、詠唱ありとなし両方見せておくか。
「まずはファイアーボールを詠唱して使うから見ておいてくれ。『火よ、我が敵を撃て。ファイアーボール』」
詠唱が完了すると、手のひらからこぶしサイズの火の玉が直線に放たれ、先にあった岩に直撃する。岩の表面を少し焦がす程度の弱い魔法だ。
「次は無詠唱だ」
そう言って手をかざすと同時に、同じ魔法が放たれる。威力も同程度だ。
「おおー!本当に詠唱してない!」
「へえ、本当にできるものなのね」
実際に目の当たりにすることで、彼女達の認識も少しだけ改められたようだ。
「でも私達が使うとなると、とても大変そうです。そもそも、どうすれば無詠唱で魔法が行使できるかがわかりませんし…」
「そのための裏技だよ。まずは俺が手伝いながら、皆に無詠唱で魔法を行使するときの感覚を覚えてもらう。そしてある程度感覚が掴めたところで、補助なしで魔法を行使してみよう」
「え、私達が無詠唱の魔法を今から使うの?」
「ああ、俺が手伝うからすぐにできるよ」
「何それ!すごく面白そー!」
「本当です。ノアくん、早速お願いできますか?」
無詠唱の魔法が今から体験できると聞いて、彼女達も興味津々のようだ。こんなに期待されるならしっかりと応えないといけない。
こうして、彼女達との新しい訓練が始まった。
たとえそれが、ノアの体を蝕む行為だとしても彼が止まることはない。
どうせいずれ訪れる未来が早まるに過ぎないのだ。
その事実を、彼女達はまだ知らない。