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壊れた英雄は世界を護る  作者: 江藤直哉
第3章 王都の冒険者
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第3章 第3話 ギルドからの依頼

 1話当りどれぐらいの長さがいいのか、だんだんとわからなくなってきた今日この頃です。

 修正を繰り返した結果、少しだけ短くなったかもしれません。誤差ですよ誤差!

 完璧なまでに規則的な生活を送るノアが、昨日と全く同じ時間に起床し食事を取ると、やはり昨日と寸分違わない時間に冒険者ギルドへと来ていた。


「あ、ノアくん、おはよう。ゴンソウルさんが待ってるから、着いて来てちょうだい」

「おはよう。わかった」


 ノアとイルミルは挨拶を交わすと、ギルドマスターの執務室に向かう。


「ゴンソウルさん、ノアくんを連れて来ました」

「おう、入ってくれ!」


 2人が部屋に入ると、ゴンソウルが書類に目を通しながらコーヒーを飲んでいた。といったことはなく、背中に本の山を載せて筋トレをしていた。せめて本以外を使おうとは思わなかったのだろうか。

 しばらく沈黙が続いた後、イルミルはつかつかとゴンソウルのもとに歩み寄り、載せていた本をどかしながらゴンソウルの頭を(はた)いた。


「なに馬鹿なことしてるんですか!殴りますよ!」

「殴ってから言うんじゃねぇ!?あ、いや、俺が悪かった。だからその…落ち着け、な?」


 ニコニコとしながら青筋を立てるイルミルに気圧(けお)されて、ゴンソウルは次第に大人しくなっていく。最後は冷や汗をかいていた。


「何の用だ」


 ノアの一言で2人は我に返る。ゴンソウルはゴホンと咳払いすると、本題に入った。今更表情を取り(つくろ)って、椅子に腰掛け机に肘を突き威厳を取り戻そうとするが、額に汗が浮いているせいでうまくいっていない。


「まぁ、座ってくれ。昨日言った通り、坊主がこれからどうすっか話そうと思ってな」


 ノアがゴンソウルの向かいに座り、イルミルがゴンソウルの後ろに控えると、ゴンソウルはノアにこれからどうして欲しいかを話し始めた。


「まずはだな、坊主。昨日も言ったが、昨日お前さんがやったことは異常だ」

「依頼の達成回数も問題ないはずだが?」

「確かにどれも3回分きっかりだったな。だがそうじゃねぇ。普通のやつは、1日に大体2,3種類しか狩らん。いや、狩れないと言ったほうがいいな。それにだ、制限は冒険者の仕事を奪わねぇように設けてんだが、こんなスピードは想定されてねぇ。坊主は、言われなきゃ今日も同じだけ狩るつもりだっただろ?そんなことされちまったら、1ヶ月もすりゃ他の冒険者は廃業だ」


 当然低ランクの魔物は数が多く、日々たくさんの冒険者が狩っているにもかかわらず、その数を減らしていない。ならば、ノアが狩っても問題ないように思われるが、実際はそうはいかない。

 ノアは、ランクが高い魔物も、数は少ないがきっちり狩っている。ランクが高ければ、その数は低ランクの魔物より少ない。それに、高ランクの魔物は、狩る機会が少ないからこそ高額の報酬になっている。高ランクの魔物を、ノアがコンスタントに狩ってしまえば、今までそれを収入源にしていた冒険者が、低ランクの魔物を狩る必要性が出てくる。

 ランクが高い冒険者は、当たり前だがランクが低い冒険者よりも、知識や経験で上回っているため、王都から近い魔物はすぐに狩られてしまうだろう。そうなると、低ランクの冒険者は、今まで魔物を狩っていた場所よりも奥地、つまり危険な場所へ行くことを強要されかねないのだ。

 普通の冒険者ならそんなことを気にしなくてよかったが、ここに来てノアというイレギュラーが出現してしまった。同じ早さで狩ることができる者もいるが、こんな低ランクには当然いない。かといって、実績のないノアを無理やり高ランクにして、受注型依頼を受けさせるわけにもいかない。討伐依頼ならまだいいかもしれないが、護衛や調査の依頼は見た目もあってなかなか信用されないだろう。

 と言うことで、ノアには例外措置として別のことを頼むことにしたのだった。


「てなわけでだ、お前さんは迷宮の探索をしてくれねぇか?」

「それは頼みか?」

「ん、ああ、そうだな。強制はできねぇ」

「ノアくん、私からもお願いします。ギルドや他の冒険者を助けると思って、頼まれてくれないでしょうか?」


 場合によっては、冒険者ギルドが立ち行かなくなるかもしれない。自分の意思で動くことが信条の冒険者に対して、何か1つのことを無理やりさせたくはないが、ここはどうにかノアに折れてもらいたかった。


「いいだろう。サクラとワカナは、できるだけ助けを求める人を助けて欲しいと言っていたからな。願われたのであれば、受ける理由はないが断る理由もない」


 ゴンソウルとイルミルは、ノアへ道徳を教えた人物に心の中で感謝した。少々盲目的な雰囲気を感じたが、付き合いの浅い自分たちが言うことでもないだろうと自重する。今は迷宮探索の話が優先だ。


「それじゃあ坊主、迷宮の探索頼むぞ」

「何をすればいい」

「そうだな、坊主にはその階層に何の魔物や植物、鉱石なんかがあるかを調べて貰いてぇんだ。迷宮は階層ごとに分かれててな、今まで公式な最高到達地点が地下41階、非公式もとい英雄と呼ばれるやつらが到達したのが67階だ。だが、詳しく調査がされてるのは29階までなんだ。で、調査には大人数で行くわけにもいかんし、俺はギルドを離れらんねぇから、坊主にイルミルの護衛をして貰って一緒に調査して欲しいわけだな。イルミルはすげぇぞ?今までの調査内容をほとんど覚えてっからな!」


 どうやらゴンソウルは、ノアにイルミルと迷宮の調査をして貰い、あわよくば調査内容を覚えさせ効率よく調査させたいようだ。


「イルミルは必要ない。今までの調査内容を見せろ」

「え、あ、わかったわ。ちょっと待ってて」


 ノアに言われて、過去の調査書全てを見せることで自分の有用性を教えてやろうと決心しながら、イルミルは数十年にも及ぶ過去の調査書の束を取りに行った。実は、迷宮の調査は前ギルドマスターが始めたもので、それまでは口伝えによりどんな魔物がいた、何が採取できたといったことが冒険者間で広まっていた。

 そのせいもあって、ギルド主体の調査が行われるまでは、イレギュラーなモンスターによる事故や虚偽の情報による詐欺などが少なからず発生していた。それも、調査によってだいぶ落ち着いたのだが、調査には膨大な時間と金が必要でありあまり進んでいないのが現状だ。調査が地味で、冒険者に人気がない仕事なのも理由の1つか。それに、奥へ進むにつれ調査の時間は増加するため、今調査している階層は3年経っても終わっていない。


「悪いこたぁ言わねぇ、イルミルは連れてけ。生半可な量じゃねぇぞ」

「2度も言わせるな、必要ない」


 少しすると、両腕に書類を抱えてイルミルが戻ってきた。積み上げられた書類を見て、ノアではなくゴンソウルが嫌そうな声を出す。


「うぉお…見てるだけで頭が…ほら、坊主、こいつはやべぇだろ?」

「見せろ」

「机に置くから、適当に読んでちょうだい」


 手持ち無沙汰(ぶさた)になったゴンソウルが、部屋の隅で筋トレを始めそうになったのをイルミルに止められ、ギルドマスターとしての仕事をするべく書類を渡される。

 30分ほど経つと、ノアが全ての書類を机の上に戻してしまった。ゴンソウルは、1枚目の書類すら処理しきれていない。


「ふふ、ノアくんも観念したようね。大変さがわかったでしょ?」

「覚えた。調査の方法を教えろ」

「えっ?さすがに嘘でしょ?もし、そうだとしても早すぎるわ!」


 こんなに短い時間で、数千枚の書類の内容を覚えたと言われても、信じられないのは当然だ。イルミルだって、何年もこの書類の山とにらめっこしてきたからこそ、内容を把握できている。それだって完璧ではないのだ。

 ただでさえ戦闘能力が高いことを思い知らされたのに、そこまで頭がいいとなると天は彼に何個与えたのか、イルミルは贔屓(ひいき)するのも大概(たいがい)にしろと言いたくなった。けれども、さすがにそんなことはないだろう、そう自分に言い聞かせながら、イルミルはノアにいくつか問題を出すことにした。


「それじゃ、本当に覚えているかテストしてあげるわ!1つでも間違えたら、私も一緒に行くからね!」

「いいぞ」

「まずは第1問よ――」


 意地悪そうな表情をしながら、イルミルはノアに問題を出していく。イルミルは、10問目まではまだ余裕があったが、20問目あたりからだんだんと目が白くなり、30問目で無表情に、40問目に到達した頃には魂が抜けたかのように放心していた。ノアは1問も間違えないどころか、イルミルの勘違いすら指摘してみせた。もはやノアの知識量がイルミルを上回っているのは明らかである。


「ゴンソウル、調査の方法を教えろ」

「ん、ああ、坊主は本当にすげぇよ…えっと、方法だな。なんかメモしておける道具とか持ってるか?そいつに、その階層で未発見のものを見つけたらメモしてきてくれ。そういや、マジックバッグ持ってたよな?図鑑も渡すから、そいつで名前を確認してくれ。もし図鑑にないやつだったら、できれば持って返ってくれると助かる。無理にとはいわねぇ、迷宮は危険だ。無茶だけはすんなよ」

「問題ない。もう行くがいいか?」

「おっと、待ってくれ。ランクを4に上げるから待ってろ」


 ゴンソウルはノアからギルドカードを受け取ると、イルミルをちらりと見た後部屋から出て行った。ほんの1,2分ほどで戻ってくると、ノアにギルドカードを返す。


「これで問題なく迷宮に入れるはずだ。あー、なんか変装はできるか?坊主は目立つからな」

「できる。終わりか?」

「うっし、こんなもんのはずだ!じゃあ、頼んだぜ坊主!危なくなったり困ったら戻って来いよ!」

「いってくる」


 ノアが迷宮に入るべく部屋を出た後も、しばらくの間イルミルは呆然(ぼうぜん)としたままだった。ゴンソウルが1枚目の書類を処理し終えた頃、イルミルがようやく再起動する。


「はっ!?あれ?ノアくんは?」

「坊主ならもう行ったぞー」

「……」


 なぜだろうか、ゴンソウルはイルミルから凄まじい圧力を感じ取った。理由をつけて部屋を出るために、椅子から腰を上げようとしたとき、イルミルから声をかけられる。


「ギルドマスター、執務が(とどこお)っているようですが?」

「いや、いつもこれぐらいのペースだと思うが…」


 反論しようとして、イルミルにギロリと(にら)まれてしまい、尻すぼみになっていく。なぜこんなにも恐怖心が湧き上がってくるのだろうか。


「今日の分が終わるまで部屋から出ることを許しません」

「なっ!?そんな横暴(おうぼう)な――」

「いいですねっ!」

「はいっ!」


 ゴンソウルはイルミルの八つ当たりを受け、泣きそうになりながら書類と格闘するのだった。部屋を出る頃、ゴンソウルは酷くやつれて見えた。イルミルの剣幕に押されて、最後まで文句を言うことができなかった。



 ノアは迷宮へと向かう。迷宮は王都の外にあるため、一度門を通らなければならない。


「おう、坊や。今日も外に行くのかい?なかなか仕事熱心だね。無理はするんじゃないぞ?」

「大丈夫だ」

「いってらっしゃい。気をつけろよ!」

「いってくる」


 ちなみに、王都の外壁には4箇所の出入り口が存在し、ノアは毎回北側の門を利用している。単純に、最も近いからだ。

 さて、この姿のまま迷宮に入ることはできない。ゴンソウルにも言われたが、サクラたちと約束した通り、目立たないようにする必要がある。ここで求められることは、ノアとして目立たないことなので、ノアと悟られないように目立つ分には問題ない。そう考えている。

 ということで、人気のない場所でノアは一瞬にして着替える。その姿は、厚手の黒い戦装束に黒い狼の面、ノアは知らないことだが、1000年前に『夜天の騎士(やてんのきし)』と呼ばれていた姿だ。もし、当時の生き残りがいたら、涙を流しながら拝んでいたかもしれない。

 確かにこの姿であれば、ノアと結び付けられることはないだろう。全身を覆う戦装束と面のおかげで、特徴的なノアの白肌は全く見えず、腰には身の丈ほどの大太刀が提げられている。普段の深窓(しんそう)麗人(れいじん)な姿とは違い、いかにも戦いを生業(なりわい)とする戦士の姿だ。

 が、これはこれで非常に目立っていた。全身鎧の人間はそれなりにいるが、全身真っ黒な人間は、そうそういないだろう。暗部の人間にでも間違われそうな出で立ちだ。

 迷宮の入り口に到着すると、周囲の冒険者から不審な目を向けられることも気にせず、迷宮内部へと入っていく。ここでも、魔道具によって迷宮内への通行可否が判定されるため、わざわざギルドカードを提示する必要はない。入り口で有事のために待機している冒険者ギルドの職員も、ノアの姿にぎょっとしていたが、何事もなく迷宮に入る姿を見て深く詮索しようとはしなかった。


 迷宮内は、言ってしまえば巨大な洞窟なのだが、日光が入ってこないにもかかわらず内部は薄暗い程度だ。見えている天井や壁、それに地面がわずかに光っている。どうやら、これらには膨大な魔力が流れているようで、それが迷宮の維持をすると同時に光源の役割を果たしていた。

 ノアが向かうのは地下30階、まだ調査が完了していない階層だ。そして、30階には『階層の主』が存在する。階層の主は10階ごとに存在し、特にボス部屋みたいなものがあるわけではなく、その階層を徘徊(はいかい)している。そのおかげで、戦うことなく次の階層に行くことができるが、逆に他の魔物との戦闘中や休憩中に乱入されることもあるのだ。

 ただし、1度倒してしまえば、1週間程度出現しなくなるため、その間は階層の主という脅威(きょうい)に怯えなくてすむ。30階の主は、2日ほど前に倒されていた。

 それから、迷宮内の危険度だが、目安として10階毎に魔物のランクが1上昇し、階層の主は他の魔物よりさらにランクが1高いというのが定説だ。最初の階層にいる魔物はランク2である。

 『定説』というのは、この迷宮がどこまで続いているのか確認できた者がいない、今まで到達した階層も詳しく調査されていない、といったことから本当にそうなっているのかわからないためだ。一応、言い伝えでは、60階層の主はランク8の魔物で、以降の階層はランク8の魔物が出現するようになったそうだ。

 ただ、階層が進んだからといって、低ランクの魔物が出現しなくなるといったことはなく、その階層の目安から1,2低い程度の魔物もうろついている。最高でその階層の目安のランク、最低がランク2というわけだ。ランクが2以上になる理由は、迷宮に充満する魔力のおかげで、外ではランク1だった魔物も強化されているからである。そのせいで、ただのゴブリンだと思った初心者冒険者が、返り討ちに()って死傷する事故が頻発(ひんぱつ)していたとか。


 特に問題が発生することなく、ノアは地下30階にたどり着いた。もし階層の主が討伐されていなければ、この階層にはランク5の魔物が徘徊していることになる。そうなると、この階層を探索するためには、ベテラン冒険者が数人必要だ。ベテランにもなると、受注型依頼でも引っ張りだこになるため迷宮探索にばかりかまけるわけにはいかない。調査が進まないのも無理はないことだろう。

 ノアが、街中のようにゆっくりと歩きながら探索を開始する。はたから見たらゆっくりか怪しいが、本人にとっては非常にゆっくりだ。ここへ来るまでに、図鑑の内容は全て覚えている。

 ひとまず、この階層で初めて見る魔物や植物、鉱石などを収集していく。ゴンソウルからは名前のメモだけでいいと言われていたが、証明や再確認のためにも1つは持って帰る。それに、収納用の腕輪があるおかげでメモするよりも早い。

 途中襲ってくる魔物の首を切り飛ばしては、まだ回収していない魔物や価値の高い魔物であれば回収し、そうでなければその場に放置する。迷宮の魔物は、常駐型依頼の達成には使えないため、討伐証明の部位を回収する必要もない。ごまかそうとしても、含まれる魔力の質でばれてしまう。

 迷宮内では、死んだ魔物や植物の分解される速度が早く、放置していても後から来た冒険者が困ることはあまりない。冒険者の死体も例外ではないため、行方不明になる冒険者もそれなりにいたりする。

 魔法薬に使う薬草は、1つだけにとどまらずそれなりの量を確保する。鉱石類も同様だ。何かあったとき、サクラたちに渡すための備えになる。魔力切れ対策の魔法薬だったり、魔法を使わずに手当てをするための回復薬だったり、プレゼントする魔道具だったりだ。


 迷宮内で確認することはできないが、時間が夕方あたりになると、ノアは調査を切り上げることにした。今の階層をほとんど巡り終えて、新しいものも発見できなくなっていたためちょうどいいだろう。

 普通の冒険者であれば、安全を確保するためにそれなりの時間をかけて移動しなければならないが、危険と無縁のノアは1つの階層を1分ほどで走破する。相変わらず横目で見られることを気にもせず迷宮を後にすると、途中で普段の姿に戻って、衛兵に仮証を提示しながら王都へと入るのだった。


「手間かけさせて悪いな坊や。身分証がすぐにでも渡せれば、こんなことさせずに済むんだが、滅多にないことだから時間がかかるそうだ」

「気にしていない」

「そう言って貰えると助かるよ。よし、問題ないな」


 大通りを歩いて、冒険者ギルドへと向かう。里とは異なり人口が多いことと、まだノアが王都に来てから3日目なこともあって、今日もノアは注目の的だった。あまりにも注目されすぎて、声をかける人間がいないのはいいことなのだろうか。

 冒険者ギルドに入っても、ノアへの視線が途切れることはなかった。外と違うところは、若干怯えたような視線が混ざっていることだろう。

 受付に向かうと、近くの椅子に真っ白に燃え尽きたゴンソウルの姿があった。


「ゴンソウル、戻ったぞ」

「……」


 ノアがゴンソウルに声をかけるも、反応は返ってこない。ノアがゴンソウルの顔を覗き込むようにして、顔を近づけながら再度声をかけると、ようやく気がついたゴンソウルが目を見開いて勢いよく椅子を転がしながら立ち上がった。心なしか顔が赤くなっている。


「うぉおおぉぉおおっ!?…坊主か、びっくりさせんじゃねぇ。心臓が止まるかと思ったぞ」

「報告だ」

「あ、ああ。ちょっと部屋まで来てくれ。あ、いや、解体所のがいいか?」

「どっちでも構わん」


 ノアが、今回収集した魔物などを、調査書にあったものとなかったものとで分けて並べていく。調査書にあったものも並べたのは、確認の意味での行動だ。全て並べ終えると、ゴンソウルは非常に驚いていた。


「すげぇ量だな!やべぇ、イルミル呼んどきゃよかったぜ…ちょっと待ってろ」


 そう言うと、ゴンソウルはイルミルを呼びにいく。他の階層の調査内容と比較して、今回の調査結果が、どの程度の進捗率になっているのか確認させるためだ。ゴンソウルも、ギルドの長として過去の調査内容全てに目を通しているが、馬耳東風のごとく頭に入っていなかった。ギルドマスターとしてそれでいいのだろうか。

 ゴンソウルがイルミルを連れて戻ってくると、イルミルは早速ノアが並べたものを鑑定し始める。相当な量があるせいで、かなり時間がかかってしまったが、途中で詰まったりすることなくスムーズに完了した。


「ゴンソウルさん、凄いですよ!ノアくんが持ってきてくれた分で、恐らく地下30階の調査は完了したと思われます!できてないとしても、9割9分は間違いないと思いますよ!」

「ほー、そいつぁすげぇ。こりゃあ報酬は(はず)まねぇといけねぇな!」


 ノアには、調査の報酬として金貨3枚と魔物の素材と薬草、鉱石分で金貨1枚が支払われた。魔物などの分は、端数が面倒だったため切り上げて金貨1枚にしてある。ギルドからしたら、非常に安価で調査が終了したことになった。経理担当も大喜びだろう。


「明日はどうするんだ?」

「この調子で31階も頼むぜ!終わったら次、ってな具合だな。こりゃあ俺の代で調査が終わっちまうかもなぁ」

「ゴンソウルさん、捕らぬ狸のなんとやらですよ。ノアくんも、無茶は絶対ダメですからね?」

「問題ない。ではな」


 喜ぶでもなく、いつ戻り淡々としたノアは、報酬を受け取って用がなくなると宿へと帰っていった。そのあっさりとした様子にゴンソウルは肩をすくめると、部下に指示を出して魔物の解体をさせる。首以外に傷1つない魔物を、高く売れると部下は非常に喜んでいた。


「ノアくんも、こんな風に笑ってくれたらいいのに…」


 イルミルは、1人小さく(つぶや)いた。

・『閃斬』…武術技巧の1つ。武器種は剣が基本だが、他の武器でも可。異なる武器種で複数回達成することはできない。この技巧は、剣を振ったときの切っ先から30cm以上離れた対象を切り裂く。対象は、鉄以上の硬度で2cm以上の厚みがなければならない。

・『閃突』…武術技巧の1つ。武器種は剣が基本だが、他の武器でも可。異なる武器種で複数回達成することはできない。この技巧は、剣を突き出したときの切っ先から50cm以上離れた対象を切り裂く。対象は、鉄以上の硬度で2cm以上の厚みがなければならない。

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