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壊れた英雄は世界を護る  作者: 江藤直哉
第2章 隠れ里の貴族
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第2章 第6話 破滅の力

 スタック消化中です。

 話の流れにまとまりがない気がして、よくばっさりと書き換えたりしていると、時間がいくらあっても足りない今日この頃。

 あまり気にしないほうが良いのですかね。

 駆ける、駆ける、駆ける。

 銀色の軌跡を残して、ノアが空を駆ける。


 ミルフェの言葉を受けたノアは、すぐさま行動を開始した。まずはドラゴンがどこにいるかだが、これは全く問題ない。伝承やおとぎ話の中で、エレスト山脈と呼ばれる、デーイカイン大陸を東西で2分する大山脈に住まうドラゴンの話があるのだ。その話をもとに探知魔法を使うことで、実際に存在することが確認できた。後はそこにたどり着くだけだ。

 デーイカイン大陸は、ノアが住むフーリアンの里がある大陸である。エレスト山脈を挟んで、東側にランドレシア王国、西側にハイリス王国だ。ちなみにフーリアンの里は、ランドレシア王国に所属していて、大陸北端の山脈の(ふもと)近くに存在する。


 そんなエレスト山脈の中でも、最も高い『天空の玉座(ハイスローズ)』にドラゴンが住んでいるようだ。なぜだかそこに住むドラゴンは3匹だけで、他のドラゴンは離れた位置に存在している。今回、フーリアンの里から最も近い位置にいるドラゴンはこの3匹であるため、ノアはこの3匹のもとへ向かうことにした。

 ノアは知らないことだが、この3匹はドラゴンの中でも最高の、ランク9である『白皇龍(ヘブンスドラゴン)』の一家である。もはや人間が、他の生物がかなう相手ではない。冒険者として登録されている人間で、現在ランク9に位置しているのは3人、冒険者以外でランク9に匹敵すると言われている人物が2人、同ランクの魔物や幻獣を討伐するために必要な人数が5人以上だという常識に照らし合わせると、その存在がいかに強大なものかがよくわかるだろう。一応ランクが1つ上の人間であれば1人で討伐できるとされているが、ランク10は英雄と呼ばれるような存在にしか適応されないため、現在は誰もいない。そもそも、過去を(さかのぼ)ったところで、ランク10は2人しか存在していない。


 そんな、世界でも最強格の生命に向かって、ノアは駆け続けていた。

 今のノアは、髪が輝くような銀髪だ。魔力による身体強化の影響で、このようなことになっている。全身も、銀より眩しい白金色に輝いている。その銀光を残し、空中をドラゴンの住まう地へ一直線に突き進んでいた。


 10分も経たず、ノアはドラゴンの領域に到着した。実に、音速の数倍の速さで移動したことになる。

 さすがに、ドラゴンもノアの存在に気づいたようだ。探知による魔力が、身体にまとわりつくように感じられる。ノアは外部に魔力をほとんど漏らさないため、どれほどの力を持つのかわかりにくい存在ではあるが、逆に魔力がほとんど感じられないのに、圧倒的な速度で縄張りに進入する存在が居れば目立つというものだ。

 ノアがドラゴンの領域を3分の1ほど進むと、3匹のドラゴンのうち、最も強大な魔力を持つ個体が迎え撃つようにノアの前へ降り立った。天空の玉座(ハイスローズ)の主だ。


『小さきものよ、我が領域に何用だ』


 ドラゴンがノアを睥睨(へいげい)しつつ、ドラゴン語で話しかける。ノアもドラゴン語を話すことができるためその質問に答えるが、ドラゴン語ではなく人間の共用語だ。


龍の涙(ドラゴンズジェム)が必要だ。くれ」


 そのあまりにも一方的な物言いに、ドラゴンが大声で笑い出す。だがしばらくすると、その笑いは怒りが含まれるようになる。


『身の程と言うものがわからないようだな、小さきものよ。その愚かな思い上がりを、魂と共に消し飛ばしてくれよう』


 そう言うや否や、ドラゴンの口に光がほとばしり始める。凝縮する圧倒的な魔力は、国1つを簡単に吹き飛ばしてしまいそうだ。そしてその光が口から放たれる…ことはなかった。


「時間がない、早くしろ。お前の頭ごと持って帰ってもいいのだぞ」


 そう言うノアの手には漆黒の刀が握られている。

 ドラゴンは始め何が起こったのか理解できなかったが、右腕に走る痛みと共に口にためた魔力を霧散(むさん)させた。そして、よくよく右腕を確認すると、肘から先がすっぱりと切断されている。

 いや、理解できなかったと言うのは正確ではない。目で捉えることはできたが、あまりにも反応しづらい斬撃がノアから放たれたのだ。視覚、呼吸、重心、そのときのドラゴンの状態から、最も体が反応することのできないタイミングでの一撃。確かに油断はあったが、それでも腕1本を持っていかれるとは思ってもいなかった。

 ドラゴンは油断さえしなければ対処できると考えたが、そこにはリスクもある。この小さな存在が、まだ手札を隠している可能性もあるのだ。それに、これだけ力を持つ存在が、なぜ龍の涙(ドラゴンズジェム)を求めるのか興味がわいてきた。腕を繋げながら、ドラゴンはノアに問いかける。


『ふむ…理由によってはくれてやろう』

「俺の大切な存在が(わずら)った病気に必要だ」


 その答えを聞いたドラゴンが、「ほう…」と呟く。ノアの様子からも嘘をついているようには見えない。もし嘘なら、見る目がなかったか耄碌(もうろく)しただけだ。まだそんな年ではないと思いたいものだが。

 それに、ノアは最初の一撃でドラゴンを殺そうとはしなかった。その後、首を切り落とすと脅してはきたが、やろうと思えば最初からできたはずだ。ならば多少は言うことを聞いてもバチは当たらないだろう。ドラゴンはそう考え、ノアの願いを叶えてやることにした。

 あくまで上から目線の思考は、精一杯の強がりか、はたまたドラゴンという種ゆえか。


『よかろう、小さきものよ。受け取るがいい』


 そう言って、ドラゴンの目から一滴(ひとしずく)、とはいえバケツ1杯分以上もあるサイズの涙がノアの目前に飛来しとどまった。ノアはそれを素早く回収すると、短く礼を言い転移魔法で帰る。ドラゴンも、その姿を見て面白い土産話ができたと、家族のもとへ戻るのだった。娘に「かっこ悪い」と言われてへこんだのは内緒だ。


 アルカーレ邸の庭に転移したノアは、すぐさま皆がいる部屋へと入る。すると、皆の目がいっせいにノアへ向いた。中にはベルライトとヴィオラも居る。どうやら魔力がある程度回復したため、合流したようだ。少しだけ魔力回復の魔法薬(マジックポーション)の香りがするのを、ノアは感じ取った。

 皆の視線が集まっていることを全く意に介さない様子で、ノアが小瓶に入れた龍の涙(ドラゴンズジェム)をミルフェに手渡す。そして、再度ミルフェに魔法薬の作成を要求する。


「さあ、龍の涙(ドラゴンズジェム)だ。品質も問題ない」

「こ、これを一体…」


 ミルフェは「どこで入手したの?」とノアに問いかけたかったが、その言葉を飲み込む。先に言わなければならないことがあるのだ。


「ご、ごめんなさい…」

「何を謝っている。早く作れ」

「ごめんなさい、皆にはもう話したけど…後1つ、満月の雫(グリータドロップ)が足りないの…商業ギルドに問い合わせて在庫を確認してもらったのだけど、今月はもうないらしくて、次に入荷できるのも満月が訪れる1週間後。緊急事態だから、(おろ)し先のほうにも連絡してもらって…でも、それでもなかったの…だから、だから魔法薬は作れないの、本当に、本当にごめんなさい…」


 最後は泣きそうになりながらミルフェは話しきる。周りの人たちは、既に聞いた話であったが、再び悲壮感に満ちた表情になる。危険を(かえり)みず龍の涙(ドラゴンズジェム)を持ってきたノアには悪いが、存在しないのであればどうしようもない。

 満月の雫(グリータドロップ)は、月彩華(げっさいか)と呼ばれる不思議な特性を持つ花の蜜のことである。不思議な特性とは一体どんなものであるかだが、これは月の満ち欠けによって花から採れる蜜の成分が変化するというものだ。魔法薬に最も用いられるのは、満月と新月のときの蜜であり、満月に近いほど癒しの効果が高く、新月に近いほど毒性が強い。

 非常に使いやすく用途が多い魔法薬の材料であるにもかかわらず、現状栽培方法が確立されていないため入手が困難であり、一度に採れる量も少ないせいで、今回のように次の採取時期が近づく頃には在庫がなくなることも少なくない。


「どれぐらい必要だ」

「…何を言ってるの…?無理なの―」

「どれぐらい必要だ」


 ミルフェの話を聞いたにもかかわらず、ノアは必要な量を聞く。心なしか、ノアからプレッシャーを感じるのは気のせいだろうか。


「す、数滴よ…」

「正確な量を言え」

「れ、0.2ml程度のはずよ」


 それを聞いたノアは小さく頷くと、皆から少し離れた場所に歩いていった。周囲の人は皆、ノアらしくない行動に首をかしげる。


「い、一体どうしたの、ノアく―」


 問いかけようとしたミルフェの言葉が途切れる。その表情は驚きに染まっていた。

 ノアの左目が開かれている。しかも、その瞳の色は金色に輝いていた。もし、もっと近くでノアの瞳を覗き込めば、その瞳の中にまるで星空が広がるような輝きを見て取れただろう。さらに、ノアの髪が銀色に染まり、周囲も白金色に輝き始める。

 ノアが強力な魔法を使うところを見たことがない彼女たちは、一体何が起こっているか理解が追いついていなかった。簡単な魔法を使っているノアを見てきた、4姉妹であっても見たことがない光景だ。よくよく見ていれば、ノアが魔法を使うときわずかに輝いていたのだが、変化が小さすぎて気づくことはできなかったようだ。

 これから一体何が起こるのか、周囲の人たちが見守る中ノアは1つだけ魔法を使用した。たった1つたった1回だけだが、その魔法の異質さ、そしてノアの異常さを示すのに十分な魔法。

 一瞬だけ、暴力的なまでの魔力が室内を支配する。それなりに魔法に携わる者なら、その一瞬の魔力だけでその異常さを理解できただろう。ただし、わかるのは異常さだけであり、常人ではその力を測ることなど到底できはしない。

 その魔力の暴風が過ぎ去った後、ノアは再び目を閉じていた。その(てのひら)の上には、小さな液体の塊が浮いている。


「の、ノアくん、そ、それって…」

満月の雫(グリータドロップ)だ、これを使え」


 ノアが差し出したそれを、ミルフェが震える手で小瓶に入れる。心なしか、その瞳には怯えの色が見える。そして、小瓶に入った液体を鑑定した結果、間違いなく満月の雫(グリータドロップ)であるということがわかったようだ。


「これで作れるな、作れ」

「…ここまでしてもらったんだもの、後は任せてちょうだい」


 受け取った材料を使って、ミルフェが魔法薬を作成する。材料さえ揃ってしまえば、小一時間で完成する魔法薬ではあるが、使う技術は特殊なものであり彼女以外に作ることができる人間はいない。

 魔法薬が完成すると、魔法を使ってフレヤノーラに飲ませる。ちょっとした液体操作の魔法だ。効果が非常に弱いため、生活魔法に分類されている。

 しばらくすると、魔法によって眠っていたとはいえ、辛そうだったフレヤノーラの表情が和らぐ。その状態のフレヤノーラをミルフェが診察して、フレヤノーラの容態が良くなったことをミルフェが告げると、室内の空気が一気に弛緩した。ベルライトは涙を流しながらミルフェとノアに礼を言い、彼の妻2人も一緒になって目を潤ませながら感謝している。4姉妹の3人は、フレヤノーラに抱きついて喜び合っている。

 皆がミルフェとノアにお礼を一通り言った後、ノアは短い時間だがフレヤノーラの方向をじっと向くと、満足したように頷いて部屋の外へと向かった。


「俺はしばらく眠りにつく、何かあったら呼ぶといい」


 皆がどうしたのかとノアを見ていると、ノアはそんなことを言って部屋を出て行ってしまった。その様子を見たアルカーレ一家、特に4姉妹は非常に心配そうな表情を見せたが、ノアを引き止めるようなことはしなかった。4姉妹は以前に、サクラたち3人娘からノアが魔力を使うとどうなるか聞いていたが、これからどうなるかノアに聞くのが怖くて声をかけられなかった。



 ○ ● ○ ● ○



 魔力によって動作する『魔機(まき)』と呼ばれる機器に囲まれた少女は、1つの魔機を凝視していた。この魔機は、この1000年間ついぞ作動することはなかった。1000年の間に何度も点検し、動作の確認を行ってきたのだ、動かないはずがない。でももし動かなかったら、設計を失敗していたら、そんなことを毎年のように思い悩んできた。

 そんな魔機が、今初めて作動したのだ。自然と、少女の目から涙があふれてくる。だがまだ油断はできない。動きはしたが、正しく動作したかはまだわからない。

 この魔機は、魔力を観測するだけの魔機だ。ただ1人、1000年以上前に一緒に戦った、名前も知らない仲間。戦争が終わると同時に、忽然と消えてしまった少女の思い人。その人の魔力を観測したとき音楽が流れる、ただそれだけの魔機。


 はやる気持ちを抑えて、彼女が持つ『スキル』の準備に取りかかる。世間からは『オリジン』などと呼ばれているが、彼女自身は大して良いスキルだとは思っていなかった。発動に時間はかかるし、7日に1度しか使えないという制約があるせいだ。しかし、今回ばかりはこのスキルに感謝していた。

 準備を終えて、彼女が持つスキル『天賦の閃き(ライト・フラッシュ)』を発動させる。このスキルは、彼女が思い浮かべた疑問に対して、『イエス』か『ノー』の答えが直感的に得られるというものだ。場合によって、これほど強力なスキルはないだろう。彼女のこのスキルに対する考えも、隣の芝が青く見えているに過ぎない。

 彼女が思い浮かべる今回の疑問は、『思い人が会いにいける場所にいるか』だ。会うことができるかが重要であるため、このような形になった。


 スキルが発動する。

 そして、得られた答えは――――



 ○ ● ○ ● ○



 とある山の頂にその屋敷は存在する。その山は龍の楽園であり、世界で最も高い『神域へ至る階段(ヘブンズロード)』と呼ばれている山だ。

 今日もそこで、1人の女性が多くのメイドに囲まれながら過ごしていた。何か違うところがあるとすれば、そのメイド1人1人が並みの冒険者よりも遥かに強いということだろうか。そうでなければ、この山で生きていくことなどできはしないだろう。

 そして、彼女たちの主はそれよりも遥かに強い。世界でも最強の5人に数えられる存在だ。


 屋敷の主は今日も退屈そうにしている。最初の頃はまだよかったが、500年も経った頃からだろうか、次第にその瞳からは力が失われていった。メイドたちは何とか主人を元気付けようとしてきたが、どうにもうまくいかない。結局、彼女たちでは主人の心の隙間を埋めることはできなかった。

 まるで聖女のような主人は、(うれ)いを帯びた瞳もあいまって非常に神秘的だが、彼女たちの望むところではない。以前のように生き生きとした、皆が頼る最強の主人であってほしいのだ。まあ、彼女たちの中には、弱々しくなってしまった主人の世話をするのが生きがい、と言う者もいるとかいないとか。


 そんな、活気が失われた日々がある日突然終わりを告げた。まるで玉座のような椅子に座る主人の目が見開かれる。

 彼女は世界でも最強と言われる存在の1人。その中でも、魔法に関しては並ぶものなしの、大魔導師である。魔法を極めんとするものは皆、彼女を目標にしているといっても過言ではない。そして、魔法を極める彼女は、誰よりも魔力に敏感であった。

 椅子の上で彼女は歓喜に震えていた。ようやく、ようやくこの日が来たのだ。彼女が誰よりも待ち望んだ、彼女の英雄がようやく戻ってきたのである。忘れもしないこの魔力。絶望の中、身じろぎひとつできない状態で、彼女を彼女たちを救った魔力。その魔力を、わずかではあるが確かに感じ取ったのだ。


 すぐさま、彼女は近くにいたメイドに外出の準備をさせる。主人のその行動に、メイドたちは初めこそ驚いたが、活気を取り戻した主人の様子に喜びを隠せないでいた。

 彼女が向かう先は、戦友(ライバル)のもと。まずは彼女の感じた魔力が、確かに待ち人のものであったかを確認しなければならない。



 ○ ● ○ ● ○



 彼女たちの待ち人は眠っている。普段は夢を見ることのない彼が、久々に夢を見ていた。彼の側には6人の戦友がいる。戦友たちは今日、大きな戦いに(のぞ)むと言っていた。だから、彼にはそれ以外のことを頼むと言われた。他のことを気にせずにすむようにと。

 彼はそれを承諾した。友の望みは実に容易いことだった。以前からそうだ。戦友たちは、大変だろうとか難しいだろうなどと言っていたが、そうであったためしがない。それとも、普通の人間はこの程度もできないのだろうか、そんなことを考えていた。


 今日も彼は戦う、友の望みを叶えるため。魔力(いのち)が尽きるまで、彼が止まることはない。




 他者に与える影響がどれ程のものか、本人はなかなか気がつかないものだ。

 場合によっては、人生をも狂わせるのに。

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