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壊れた英雄は世界を護る  作者: 江藤直哉
第1章 隠れ里の住人
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第1章 第1話 魔法の先生誕生

 何度も書き直したりしていますが、納得のいく文章は難しいですね。

 それと、登場人物紹介にも着手したいところです。

 ノアが拾われてから2年の月日が流れ、夏の暑い日々も幾分ましになったころ、ノアもフーリアンの里に馴染み里の人々に受け入れられていた。


 しかし、馴染むまでの間にそれはもう多大な苦労があった…彼以外の里の住人にだが。

 例えば、彼は食事の仕方を知らなかった。初めて彼に食事が出されたとき、スプーンを手に彼はこの道具はなんだ、これが食料なのかと質問したのだ。話を聞くと、彼はビンに入った液体状の食料を飲むことしかしたことがないと言う。そのような食事しかしたことのないノアを、周りの人々は憐れむとともになぜそのような食事しか取ったことがないのかを疑問に感じた。それでも何か事情があるのだろうと深くは詮索せず、彼に優しく食事の仕方を教えるのであった。

 他にも、挨拶や風呂、トイレ、様々なマナーなど多くのことを知らなかったため、その都度周りの人が優しく教えてくれるのであった。里の人々が寛容であることも大きな助けになったのだろう。



 今日も俺は3人の少女と共に過ごしていた。

 もちろん里に慣れたこともあり、常に一緒にいるわけではないが、サクラの家に居候しているため共に過ごす時間は自然と長くなっている。得体の知れない俺を受け入れる彼女達に、かつて一緒に戦った友を思い出す。眠っていたためそこまで実感はないが、もう1000年以上も前の出来事だ。

 まあ過去のことはさほど重要ではない、今は彼女達との時間の方が大切だ。最近では、彼女達と過ごす時間に喜びを感じるようになった。なんと心地のいい感覚だろうか。


「そう言えば、再来年には学園に通うことになりますね」


 緑髪緑眼の優しそうな少女であるワカナが、ふと思い出したように切り出した。


「そーか、もう学園に通うことになるのかー。なんか楽しみ!」


 金髪茶眼の活発そうな少女のサンサーシャがそれに答える。


「今のうちに準備をしてた方がいいのかしら?」


 黒髪黒眼の利発そうな少女のサクラは多少心配そうだ。


「学園とは一体なんだい?」


 俺は学園と言う言葉に聞き覚えがなかった。これまでの会話にも出てきたことはない。一言一句全て憶えているから間違いないだろう。

 それを受け、いつものように彼女達が俺に学園の説明をしてくれた。


 学園とは、この国の王都にある、数多くの人が集い共にさまざまな知識を学ぶ場所であると言うこと。

 基本的には10歳で入学し、下級・中級・上級をそれぞれ3年間受けると言うこと。

 入学するためには、ある程度の能力を示さなければいけないと言うこと。


「なんでも、今何かしらできる人よりも、将来性がある人が入学しやすいらしいよ」

「将来性なんてどうやって調べるのかしら?」

「そういう魔道具や魔機が存在するのかもしれませんね」


 どのような場所であるかは把握できたが、疑問が残る。王都の位置は地図で確認した程度だが、それなりの距離はあったはずだ。転移装置でも使うのだろうか?


「通うと言っていたが、ここから通うのか?王都は大分遠かったと思うが」


 疑問に対して彼女達が答えてくれた。


「えーっと、学園は寮だから王都で過ごすことになるかな」

「なので、里には長期休暇ぐらいでしか戻ってこなくなりますね」

「そうね、なかなか戻って…あっ」


 そこでサクラは何かに気付いたようだ。


「ノアをどうしようかしら…」

「うん?俺がどうかしたかい?」


 サクラは彼女達が学園で過ごしている間、俺をどうするべきかで悩んでいるようだ。生きていくことに問題はないのだから、そこまで気にする必要はないように思える。


「一緒に学園に通うのはどう?」


 名案が浮かんだと言わんばかりにサーシャが提案するが、すぐにワカナによって否定されてしまう。


「それが1番いいのでしょうが…身分の証明が必要だったはずなので、ノアくんは難しいのではないでしょうか」


 どうやら学園に入るためには、身分が証明できなければならないらしい。小さな村や里の住民であっても、3歳までに王都に向かい、住民登録や固有能力の調査を行う。こうして、この国の住民であることが保証されるそうだ。


 ところで固有能力の調査とは、神器と呼ばれるほどの力を持った魔道具を用いて、その人物が持つ魔力がどのような傾向を持つかを調査することである。例えば、魔力の収束が得意である、ある属性の魔法に非常に親和性が高い、と言ったものがある。これらは「スキル」と呼ばれており、その中でも保有している人が非常に少ないものや、非常に強力なものに関しては「オリジン」と呼ばれる事もある。


 そう言えば身分の証明など考えたこともなかった。そもそも拾われた身であるし、住民登録の存在を知らなかったのだから当然と言えば当然か。昔とはだいぶ勝手が違うようだ。

 他にも身分を保証する手段として、いずれかのギルドに所属する、爵位を得ることなどが挙げられるらしいが、そう簡単にはいかないようだ。ギルドに所属している証明は登録してしまえばすぐ手に入るが、身分の証明になるとかなりの実績が必要らしい。爵位も言わずもがなだ。

 まあ周りの手を煩わせることはない。必要になればそのときに自分で何とかすれば良いだろう。それに、わざわざ学園に通う必要はないのだ。


「俺も学園に興味はあるが、そこまで必要性を感じないかな」


 それを聞いて彼女達は多少悲しそうにしたが、結局は話題を変えることにしたようだ。そのような表情をされると、何かしら手を打ちたくなる。彼女達の悲しそうな表情を見ると、なぜか俺にも悲しみの感情が湧き起こるのだ。


「それはそーと、サクラが言ったとおり入学のための準備をしておいたほうがいいかも」

「そうですね、備えあれば憂いなしと言いますし、準備をしておくことはいいことだと思います」

「とは言え、何をすればいいのかしら?」

「うーん、魔法をたくさん使えるようにしておけばいいんじゃない?」

「入学に関してはほとんど備えようがないと言うお話でしたし、入学してからのことを考えると、ある程度魔法に関する知識や武器の扱い方を学ぶのはいいかもしれませんね」

「けど、どうやって勉強すればいいのかしら。アルカーレさんの所でも訪ねてみる?」


 アルカーレとは、この里に住む貴族である。アルカーレ家の人たちは里の住人と対等に接しているが、有事の際は里の代表として各所と交渉を行い里のために尽力している。そのため、住人との関係は大変良好であり、こうやって尋ねるかどうか提案されることも関係の良さを表している。フーリアンが隠れ里であるため問題もなかなか多く、それが良くも悪くも働いた結果のようだ。


「良いかもしれませんね。アルカーレ様はとてもお強いとのことですし、お屋敷には本もたくさんありますから勉強には良さそうです。あ、でもアルカーレ様は非常にお忙しいのではないでしょうか?」

「だよねー、ノアとか魔法使えたりしないかな?」


 どうやらアルカーレ家を頼ることは難しいと考えたのか、俺に話を振ってきた。現代の魔法がどこまで発展しているかはわからないが、生活魔法を見る限りではそこまで大きな差はないだろう。


「うん?俺かい?もちろん使えるよ」

「まあ当然よね、今まで魔法を勉強するようなことなんて…」

「「「…えっ?」」」


 なにやら3人ともポカンとしている。この感情はなんだったか…確か驚愕だったと思う。知識でしか知らないが、こういった表情をとるとのことだ。しかしながら、それなら一体何を驚いているのだろうか?


「どうしたんだ3人とも」

「ノアくんは魔法が使えるのですか?」

「火をおこすとか、灯りをともすとかそんな生活魔法じゃなくて?」


 魔法を使うことができることに驚いていたようだ。確かに皆の前で魔法を使ったことは一度もなかったな。

 そもそもこの体は魔法を使うことに向いていない。生き物なら備えているはずの、生命力を生み出す機能が壊れているせいで、魔力で生命の維持を行わなければならず、その効率が非常に悪いため常に大量の魔力を消費している。ゆえに、よほどでない限り魔法は使わないようにしている。


「現存する固有魔法以外の魔法は基本的に使えるはずだ。ちょっとした理由であまり魔力を使えないから、普段から魔法は使わないが」

「ノアが魔法を使えるなんて思いもしなかったわ…今まで見たことなかったし」

「そしたら教えてちょーだいよ!絶対大魔導師になってやるんだから!」

「よろしければ私にもお願いします。大丈夫ですか?」

「教えてくれるなら私もぜひお願いするわ」


 教えるだけなら特に問題はないだろう。効率のいい訓練方法についてはそこまで詳しくないが、魔法を使う上で何が重要なのかはわかっている。その部分を強化できる訓練方法を編み出せば良いだけだ。俺に彼女たちの願いを蔑ろにする選択肢はないため、当然引き受けることにした。彼女達の疑問には全て答え、必要な知識を与えた。

 数日たつと、なにやら彼女たちの雰囲気が変化し始めたことに気がついた。今までは優しく、教えるように接してきた彼女達が、今では時折頼るように、かまって欲しそうに接するようになっていた。どういう心境の変化があったのかはわからないが、悪い気はしない。彼女達が笑顔であればそれ以上深く考える必要はなはずだ。


 この世界の魔法には「火」「水」「土」「風」「雷」「闇」「光」「回復」の基本属性と、「無」「時」「空」「不」の特殊属性が存在すし、人々は基本的にいずれかの属性に対して適性を持つ。

 適性を持たない魔法も使用できないことはないが、非常に多くの魔力を必要としたり、ごく簡単な魔法しか使用できない場合がほとんどである。ごく簡単な魔法は、生活魔法とも呼ばれている。

 適性の数は通常1つ、たまに2つ以上持つ人も存在するが、1つ増えるごとにその数は非常に小さいものになる。4つともなれば国に1人いるかいないかの世界だ。

 また、基本属性の中でも「雷」「回復」は適性持ちが少なく、「闇」「光」になるとその数はさらに減少する。特殊属性にもなれば、適性を持っているというだけで大ニュースだ。

 実はサンサーシャが無属性の適性持ちであり、住民登録する際に大騒ぎになっている。

 本人はまったく知らないが、彼女の学園入学はすでに決定事項であり、国からアルカーレ家にお達しがあったとか…


「しかし、魔法の訓練って地味ね」

「確かに退屈だよなー。あたしはもっとこう、ドカーンと派手に魔法を使いたい!」

「お2人ともそんなこと言っては駄目ですよ。大切な訓練なんですから」


 ノアから魔法を学ぶことになってから1週間、現在彼女達は魔力操作の訓練をしている。この訓練の目的は、魔法の高速化および使用する魔力の効率化、そして使用時の精度向上である。

 彼女達は、この訓練なしに魔法を使うことはできない、とノアが言ったために魔力操作の訓練を毎日行っている。やり方はいたって簡単で、手のひらで水を掬い水を思い通りの形に変えるというものだ。


「想像以上に難しいなぁ」

「本当にね。簡単な形でさえもなかなか作れないわ…」

「ノアくんは非常にきれいな花を作られてましたよね」

「流石にあそこまできれいに作るのは無理かなーあはは…」


 彼女達が訓練するにあたって、ある程度の目標を作ることにした。目標があることで訓練にもやりやすくなると思ったからだ。思惑通り彼女達はやる気を見せていたが、1週間もすると想像以上に難しかったのか、以前ほどの勢いはなくなっている。だが決して諦めてはいないようだ。2年もすれば似たようなものが作れるだろう。

 彼女達が訓練している間、俺は本を読むことにした。質問や要望があればすぐに答えるが、それ以外の時間に何もしないことは非効率に思えたからだ。これで少しでも知識を得て、彼女たちの役に立てたらいいが。



 彼女達は、知らず知らずの内に最高の魔導師から授業を受ける。

 それぞれの胸に、未だ曖昧な夢を持ちながら。

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