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獣王レオラルドと旅立ち

バニーシロップを求めて獣人の国へと向かった大成。


行き掛けに、獣王の愛娘であるリリーが大成と同じ特殊部隊所属のアルティメット・バロン達に襲われていた。


大成は、リリーとザニックの2人を助け、獣人の国首都であるパールシヴァ国まで護衛として一緒に送った。

【魔人の国・ラーバス国・屋敷・大広間】


大成が獣人の国から帰国して1週間が経とうとしていた。


大成達は、魔王達と一緒に大広間で朝食を摂っていた。


ミリーナ、ウルシア、ローケンス、マリーナ、ニールの4人は微笑ましく笑顔を浮かべ、シリーダはニヤニヤと笑みを浮かべている。


そんな中、魔王ただ1人は、額に青筋を立てて体を小刻みに震わしながら殺気を釀し出していた。



何故かというと…。


「た、大成。ほ、ほら、口を開けて。あ、あ~ん」

ジャンヌは頬を赤く染めて、おかずを挟んでいる箸を大成の口元に運ぶ。


「……。」

殺気を醸し出している魔王と目が合った大成は、睨み殺す様な魔王の鋭い眼光で躊躇したが、ジャンヌの表情が寂しげな表情に変わりそうだったので、大成は口を開けて、ジャンヌから食べさせて貰った。


「た、大成、ど、どうかしら?美味しい?」


「う、うん、美味しいよ。ジャンヌ」


「良かったわ」

笑顔を見せるジャンヌ。


「ジャンヌ、終わったのなら、そこを退いてよ」

マキネは、強引に大成とジャンヌの間に割り込んだ。


「ちょ、ちょっと、マキネ。何をするの!」


「はい、ダーリン。あ~ん」

マキネはジャンヌを無視して、おかずを挟んでいる箸を大成の口元に運ぶ。


「どう?ダーリン。ジャンヌのより美味しいよね?」


「失礼ね!同じ料理なのだから変わらないわよ!」


「フフフ…。わかってないね、ジャンヌは」


「何がよ!」


「相手を思いやる気持ちも味になるんだよ」


「それなら、私の勝ちだわ」


「へぇ~。何を根拠に言っているのかな?」

「知らないの?世界の常識なのよ」

「頭、大丈夫?ジャンヌ」

「何が言いたいの?マキネ」

マキネとジャンヌは、額同士を当てて笑顔を浮かべていたが、2人の目は笑っていなかった。



そんな中、反対側にいるウルミラは、大成に話し掛ける。


「た、大成さん!あ、あの次は、私のを食べて下さい!」

ウルミラは顔を赤く染めて早口になったが、勇気を振り絞って言葉にできた。


「う、うん…」

ウルミラは、こういうことは、いつも奥手でオドオドしていると思っていた大成は驚いている。


「じゃあ、ウルミラの次は私ね!」


「イシリアお姉ちゃんの次は、エターヌだからね。お兄ちゃん」


「修羅様、ユピアも!」


「う、うん、わかったよ」

(どうして、こんなことに…)

大成は、苦笑いを浮かべながら思い出す。



【過去・魔人の国・ラーバス国・屋敷】


獣人の国から帰国した大成は、貰ったバニーシロップを料理場に運ぼうとしていた時、廊下でジャンヌ達に遭遇した。


「大成、随分と早かったわね。リリーは大丈夫だった?それに、獣人の国の様子はどうだったの?」


「リリーは、大丈夫だったよ。獣人の国は、じっくりと見回っていないから何とも言えないかな。ただ、町の外は治安と秩序が乱れているということがわかったぐらい」


「そう…。でも、リリーが無事で本当に良かったわ。ところで、その持っている大きな箱は何なの?」


「ああ、これは全部バニーシロップだよ」


「え!?大成さん。そんなにバニーシロップを買ってきたのですか?」


「大成君…。流石に、好きでも物には限度というものがあるわよ」


「あ、これは…その…」


「それよりさ、ダーリン。シルバー・スカイ事件やダーリンが暴走した時、私達、本当に眠れないほど心配して、休みも取らずに捜索したんだよ」


「ご、ごめん。心配かけて」


「それに、ダーリン。クラスマッチの時に約束したデートもまだだし」



大成は魔王でなくなった今も、各国から相談や時には依頼を受けて忙しい身だった。

この世界にとって、大成の前の世界の知識は、多額なお金を支払ってでも欲しいほど重宝されている。

それが、無料で教えて貰えるので、日々、面会に訪れる者が後を絶たず行列ができているしまつだった。


「本当に、ごめん…」


「大成君、私達は別に責めていないから安心して。とても忙しかったことや皆のために頑張っていることは、皆知っているから。それでね、私達、話し合ったの。大成君の邪魔にならないで、助けにもなるお願いをね」


「何か、わからないけど。それなら、とても助かるよ」


「それでね、大成。そ、その、今日から貴方の世話をすることにしたわ」


「えっ!?世話って秘書的な?それは、とても助かるよ」


「違うわ。本当は秘書もしてあげたいけど、私達では務まりそうにないわ。それどころか、逆に足手まといになってしまうと思うから。だ、だから…だからね…」


「だから?」


「だ、だから!大成!あなたの身の世話をすることにしたの!」

恥ずかしさ誤魔化す様にジャンヌは、半分やけくそじみた感じに大声を出す。



「いやいや、流石に、それは魔王さんが…」


「それに関しては大丈夫だよ、ダーリン。もう、ミリーナ様やウルシア様、それにマリーナ様から了承を得たからね。だから、覚悟してよねダーリン。食事の時は私達が食べさせてあげたり、お風呂の時は背中を流したり、寝る時は隣で一緒に寝たり、勿論、ダーリンのためなら夜伽もしてあげるよ」


「……。」

大成は開いた口が塞がらずに、ジャンヌ達に視線を向ける。


ジャンヌ達は頬を赤く染めて無言で頷き、大成は言葉を失った。


こうして、ジャンヌ達の世話が始まったのだった。




【魔人の国・ラーバス国・屋敷・大広間】


スプーンで湯気が出ているスープを掬ったウルミラは、横髪を掻き上げてフーフーと息を吹き掛けて冷ます。


「た、大成さん、ど、どうぞ…。そ、その…あ、あ~ん」

ウルミラは、湯気が出そうなほど顔を真っ赤にして、スープを掬っているスプーンを大成の口元に運ぶ。


「ありがとう、ウルミラ。とても美味しいよ」

「そ、そうですか?それは、良かったです。フフフ…」

ウルミラの幸せそうな笑顔を見た魔王は、右手に力が入り握っている箸がボキッと折れた。


そして、魔王は机を両手で強く叩いて立ち上がり、皆の視線が魔王に集まる。


「ええい!神崎大成!飯ぐらい1人で食べんか!」

魔王は、大きな声を出しながら右手を前に出して握っている折れた箸を大成に向けた。


「そ、そうですね…」


「お父様!毎日、毎日、もういい加減して下さい。このことは、お母様達が認めて下さいました」


「た、確かに、ミリーナ達は認めたが、私は認めていないぞ。ローケンス、お前もそうだろ?」


「いえ、イシリアの相手が修羅様でしたら、俺は何も言うことはありません。寧ろ、応援します」


「またしても、裏切るのかローケンス!お前は私と志は同じだったはずだ!あの日の夜のことを思い出せ!もしも仮に、愛娘が想いを寄せる男ができた場合、娘を守るため、その男を殺してでも断固反対すると言っていたではないか!なのに何故、心境が変わったのだ!」


「魔王様、よく考えてみて下さい。将来、娘達を結婚させずにいましたら、娘達は一人身のままで人生を送ることになります。そんな、悲しい人生を送らせたいのですか?」


「う、うむ。し、しかしだ、まだ早いと思わないか?」


「あなた、恋愛に早いも遅いもありません。それに、私達だってジャンヌぐらいの年頃からデートとかしたでしょう?」


「だか、しかし…」

ミリーナの言葉に魔王は、ばつが悪そうな表情で言い淀む。


そんな時、扉が勢い良く開き、騎士団が慌てながら入ってきた。

「魔王様!」


「そんなに慌ててどうした?一体、何があったのだ?」


「も、申し訳ありません。じゅ、獣人の国から…」

騎士団は息があがっており、上手く言葉がでない。


「ん?獣人の国から使者でも来たのか?」


「ち、違います。それどころか…」


「ちょっと、あなた。勝手に中に入ったらいけないわ」


「気にするな、ネイ。俺と魔王の間柄だ。何の問題もない、大丈夫だ」

廊下から女性の声と男性の声が聞こえてきた。


「あの声は、まさか…」

魔王が声の持ち主に気付くのと同時に開いた扉からライオンの獣人の大男と尻尾が9本ある狐の獣人の女性が入ってきた。


「よう!久しぶりだな。魔王よ」


「やはり、お前だったか、獣王」

獣王と魔王は、お互いの腕を合わせる。


魔王と獣王は、幼い頃、共に半年間だったがリーエに稽古をつけて貰っていた。

その頃から、2人は親友でありながらライバルでもあった。


扉から他の獣人達が続々と入ってきた。


「突然の訪問、申し訳ありません。魔王様、皆様」

獣王の妃・ネムは頭を下げる。


「いや、気にしないで良い、ネム殿。それに、ネム殿は獣王の妃なのだから、私のことは様ではなく殿でも構わないと前から言っているのだが」


「いえ、一国の主なのですから様と言わせて下さい」


「うむ」


「ところで、食事中だったみたいだな。悪いことをした」


「いや、気にすることはない。丁度今、終わったところだ。それで、獣王、お前自ら来るとは、それほど追い込まれているのか?だったら、こちらから今すぐ支援や援軍をだそう。シリーダ、ニール」


「「ハッ!」」


「いや、待ってくれんか。確かに援軍は合っているが、ちょっと探して欲しい人物がいる」


「探して欲しい人物だと?」


「ああ、そうだ。お前の国にラーバス学園があるだろう。そこに、愛娘のリリーやジャンヌ姫達と同じ年頃で、光魔法を使う瞳と髪が黒色の人間かハーフエルフで、我が国の【セブンズ・ビースト】や魔王のところの【ヘルレウス】ぐらいの実力の持ち主を探して欲しいのだが…ん?」


「私達と同じラーバス学園に在籍して…」


「私達と同じ年頃で…」


「光魔法使う…」


「瞳と髪が黒色の人間かハーフエルフで…」


「我々、ヘルレウスと同じぐらいの実力者だと…」

獣王から話を聞いた魔王達の視線は、大成に集まった。


「はぁ~。ねぇ、大成。私は、偵察だけにしなさいって言ったわよね?」

ジャンヌは、呆れた表情で溜め息を吐き、笑顔を浮かべて大成に確かめるが、目が笑っていなかった。


「ハハハ…」

誤魔化す様に苦笑いを浮かべる大成。


「ほう、お主は大成と申すのか。ジャンヌ姫よ、その者を責めないでやって欲しい。大成のお蔭で我が愛娘のリリーと護衛騎士のザニックが助かったのだ。大成、此度は誠に感謝する」

獣王は躊躇わずに頭を下げるのと同時に、ネム達も一斉に頭を下げた。



「大成、どういうことなの?詳しく説明して欲しいのだけど」


「えっと、まず僕がネーブルの森をいた時に…」

大成は、説明を始めた。


「…………という訳でパールシヴァ国付近まで2人を送ったんだ。ジャンヌ達の知り合いだから見殺しにする訳にもいかないし。まさか、ラーバス学園の制服を知っているとは思わなかったよ。動きやすさで普段着にもしているのが仇となるとはね。ハハハ…」


「はぁ~、以前から気付いていたけど、大成、あなたって、本当に問題ごとに巻き込まれやすい体質なのね。でも、リリーを助けてくれて、本当にありがとう感謝するわ」


「で、獣王。神崎大成に直接会って感謝を伝えたかっただけではないのだろ?」


「ああ、誠に恥ずかしい話だが、現在獣人の国は2つに分裂していて追い込まれている。一番の悩みは、我が直属護衛軍の【セブンズ・ビースト】の7人のうち3人と、【セブンズ・ビースト】と同等以上の実力を持ち合わせている異世界から召喚した5人全員が弟側についてしまっていてな。正直、深刻な状態だ。そこで、獣人の国が1つになるまで、大成を愛娘リリーの専属の護衛に雇いたいのだが」


「そんなことか、勿論、良いだろう」

(好機だ。これで、神崎大成をジャンヌとウルミラから引き離すことができる)

迷うことなく、魔王は了承する。


「「ちょっと、待って下さい!!」」

ジャンヌ達だけでなく、【セブンズ・ビースト】の4人の声が揃った。


「何だ?お前達。不服か?」

獣王は、反論した部下の【セブンズ・ビースト】振り返り尋ねる。


「一度、落ち着いて冷静に考えてみて下さい。リリー様が気に入っているとしても、その者は人間です。現在、今も我々獣人と人間は敵対関係なのですよ。そんな簡単に信用するには危険かと」

【セブンズ・ビースト】ナンバー1でリーダーであるドルシャーは、反対した。


ドルシャーは、ケンタウロスの獣人で髪は銀色で背中まで伸びている。



「ドルシャー様の言う通りです、獣王様。しかも、その少年どう見ても、ただの人間の子供です。感じる魔力もわずかで魔力値2しか感じられませんし、今も隙だけで我々【セブンズ・ビースト】と同等の実力があるとは到底思えませんわ」

唯一、女性の【セブンズ・ビースト】ナンバー5のルジアダは、虎の獣人で鋭い眼光で大成を睨み付けた。



「そうだぜ、獣王様。考え直した方が良い。俺もドルシャーの旦那やルジアダの姉御と同じだ。どうみても、そこの餓鬼は雑魚にしか見えないぜ」

【セブンズ・ビースト】ナンバー6の猪の大男の獣人オルガノは、見下している目で大成を見る。


オルガノの発言で、ジャンヌ達だけでなく、大成と魔王を除くローケンス達の表情が険しくなる。



「だな、オルガノ。日頃は、お前とは息が合わないが、今回は珍しく合うな。この場で、今すぐでも殺せそうだ。リリー様は、小僧に助けられたことで、この小僧が大きく見えたのだと思うぜ、ケケケ…」

【セブンズ・ビースト】ナンバー7の蛇の獣人のツダールは、長い舌を出して下品に笑った。


「あんた達ね、好き放題言ってくれるわね!大成の実力も何も知らないで!大成なら、1人でも獣人の国を制圧できるほどの実力あるんだから!」

我慢ができなかったジャンヌは激怒し、大声を出した。


「「あ?何だと!」」

オルガノとツダールは殺気を放ち、ローケンス達は警戒心を強め、空気がビリビリと張り詰める。


「お前達、待て!」

獣王の声と威圧感で、オルガノとツダールは殺気を収めた。


「待って下さい、獣王様。ここは私が」

「ああ、任せる」

ドルシャーは進言し、獣王は頷きドルシャーに任せることにした。


「魔人の姫よ。我々が、そこの少年を馬鹿にして不愉快な思いをさせたのなら心から謝罪をする。だが、少年が弱いのは確かであろう」

ドルシャーは謝罪をしたが、大成が弱者だということは否定しなかった。


大成は自身の実力を隠していることを知っているジャンヌ達は、悔しくて歯を食い縛る。


「ドルシャーさんでしたよね?ジャンヌが言っていることが正しいと証明すれば解決しますよね?」

大成は、前に出て問いかけた。


「少年よ、その忠誠心は認めるが、魔人の姫のためとはいえ無謀だ」


「大丈夫です。ご心配はいらないです。僕も、ちょうど食後のウォーミングアップがしたかったので」

ニッコリと笑顔で話す大成。


「おい、言葉使いには気を付けろ少年。手加減できなくなるぞ!」

ドルシャーは額に青筋を浮かべ、他の【セブンズ・ビースト】達も激怒して殺気を放つ。


「そちらこそ、本気ではなかったとか、みっともない言い訳をしないで下さいよ」


「良いだろう、少年。そこまで言うならば、特別に相手をしてやる」

こうして、大成と【セブンズ・ビースト】が戦うことになり、裏庭の訓練場に移動することになった。




【魔人の国・ラーバス国・屋敷・裏庭の訓練場】


屋敷の裏庭の訓練場にあるリングの中央には、大成とドルシャーが立っており、他の【セブンズ・ビースト】や獣人の騎士達はニヤニヤと笑って見守っていた。


一方、ジャンヌ達は、余裕の表情で戦いが始まるのを待っている。



大成は、リングの上で腕を伸ばしたりウォーミングアップしていた。

「ん?」


「どうした?少年。まさかとは思うが、今更、謝罪するのか?」


「いや、1人1人仕切り直して相手にするは面倒だ。獣王や他の【セブンズ・ビースト】の人達全員と、まとめて戦いたいのだが」

大成は、小さく口元に笑みを浮かべる。


「貴様!我々【セブンズ・ビースト】だけでなく、獣王様をも愚弄するのか!許さんぞ!」


「ワハハ…。本当に、愉快な少年だな」

激怒したドルシャーは大きな声を出したが、獣王は盛大に笑った。


「ドルシャー様、俺達も参戦させてくれ。俺達だけでなく、獣王様も馬鹿にしたんだ。その餓鬼は痛め付けるだけでは生温い、殺しても構わないだろ?」

激怒したオルガノは、ドルシャーに尋ねた。


「良いだろう」

ドルシャーの了承で【セブンズ・ビースト】が続々とリングに上がる。


「獣王よ、お前はどうする?」

大成は【セブンズ・ビースト】達を無視して、獣王に尋ねた。


「「この野郎!」」

【セブンズ・ビースト】達は、今すぐにでも大成に襲い掛かりそうなほど激怒する。


「いや、俺はネムと、ここで観戦させて貰おう」

獣王は、腕を組んだまま答えた。



「大成、わかっているとは思うけど…」

ジャンヌは大成の近くまで近付き、リングの端から話し掛ける。


「ああ、わかっているジャンヌ。殺さないように手加減をするさ」


((絶対に殺す!))

大成の言葉で【セブンズ・ビースト】達の心の中で一致する。



「では、コイントスをしますので、コインが地面に落ちましてら開始で良いですね?」

ニールは、ポケットから1枚のコインを取り出して大成と【セブンズ・ビースト】達に見せながら説明をした。


「わかったから、とっととトスしろ」

ツダールは、不機嫌だとわかる声でニールに指示する。


「では…」

ニールは、右手でコインを弾きコイントスをした。


コインがクルクルと上空で回転しながら落下する中、大成と【セブンズ・ビースト】達はお互いに目を逸らさずに相手を見つめる。


(何だ?この少年。先ほどとは全く違い、隙がない。いや、それどころか魔力も気配もないだと!?それに、この手の震えは…)

【セブンズ・ビースト】の中で唯一、冷静に戻ったドルシャーだけは大成の変化に気付き冷や汗をながしながら仲間に忠告をしようとしたが、先にコインが地面に落ちた。


その瞬間、【セブンズ・ビースト】達だけでなく、観戦しているジャンヌ達や獣王達も大成の姿を見失った。


大成は、一瞬でツダールの背後に回っていた。

「まず、お前だ。蛇野郎」

「い、いつの間に!?」

大成の声で気が付いたツダールは、握っている短剣を振るいながら振り返ろうとしたが、その前に大成に後頭部を掴まれ、勢いよく顔面から地面に叩きつけられた。


「がはっ」

地面にヒビが入るほどの威力があり、顔面から地面に叩きつけられたツダールは、鼻の骨が折れて鼻血や口から吐血し、血塗れになって気絶する。


「まずは1人。お前達、本気で来いよ。そうしないと、あっという間に終わってしまうぞ」

腰を落としてツダールを地面に叩きつけた大成は、ゆっくりと立ち上がり、残りの【セブンズ・ビースト】を睨み付けながら右手を前に出してクイクイっと手を動かして挑発する。


「こ、この嘗めやがって!」

「お前達、待て!一度、冷静になれ!」

オルガノは激怒し、ドルシャーの掛け声でルジアダは冷静さを取り戻したが、オルガノは静止を振り切る。


「エア・ダッシュ。このぉぉ!」

槍を握っているオルガノは、風魔法エア・ダッシュを唱えて両足に風を纏って走力を強化して、大成に一直線に猛スピードで接近する。


「あの単細胞は…」

ルジアダは、溜め息を零しながら剣を抜刀して全身に雷を纏い、オルガノを援護するために雷歩で大成に接近する。


「オルガノ!ルジアダ!」

ドルシャーは、止めようと声を荒げる。


「死ねぇ!エア・スピア!」

大成の間近まで接近したオルガノは、風魔法エア・スピアを唱えて握っている槍に風を纏わせ、加速したまま突きを放つ。


大成は、右手を前に出して人差し指と中指と親指の3本の指でオルガノの風を纏った槍の先を摘まんで受け止めた。


「な、何だと!?馬鹿な!こんな事があってたまるか!人間の餓鬼ごときに!糞ぉぉぉ!」

オルガノは、空いている左手も槍を握り締めて全力で押すがビクともしなかった。


その間に、ルジアダが大成に迫る。


「がはっ」

大成は左足でオルガノの顎を蹴りあげ、オルガノの体は宙を舞った。


(貰ったわ!)

大成の死角を取ったルジアダは、剣を横に凪ぎ払おうとする。


しかし、大成は右手で空中に浮かんでいるオルガノの左足を掴んで横に振り回し、接近していたルジアダにぶつけて吹き飛ばす。


「きゃっ」

ルジアダは、オルガノと一緒にリングの上を転がりながら吹き飛ばされた。


「くっ」

転がっている最中にルジアダは、体勢を整えた瞬間、再び雷歩を使って一瞬で大成の背後に移動して剣を振り抜く。

「はぁぁ!」


だが、大成は左手でルジアダの剣を握っている右手首を掴んで受け止め、右の掌でルジアダの顎を下から掌底で打ち抜いて意識を刈り取り、右手でルジアダの襟元を掴んで一本背負いをしてドルシャーに投げつける。


投げ飛ばされたルジアダは、凄いスピードでドルシャーに迫る。


普通の騎士団だと威力に負けて受け止めきれずに吹っ飛ばされるが、ドルシャーは左手と上半身を使って難なく受け止めた。


「あと、残ったのはドルシャー、お前だけだな」

不適な笑みを浮かべる大成。


「あり得ん。人間の子供が、こんなにも強いことなど…。貴様は、一体何者なんだ?」


「知りたいのなら、俺に勝ったら教えてやる」


「フッ、正直、全く勝てる気がしない」


「降参するか?」


「馬鹿なことを言うな、俺は【セブンズ・ビースト】のリーダーだぞ。戦わずに負けることはできない。今、俺がやることは決まっている。己の全力を出すのみだ!」

ドルシャーは、ルジアダを床に寝かした。


「久しぶりに全力を出すな。エア・アーマー、エア・ダッシュ」

ドルシャーは全身に風の鎧を纏い、更にその上から両足に風を纏って走力を底上げした。


(ほう、多重強化ができるとは【セブンズ・ビースト】のリーダーだけはあるか)

大成は、多重強化したドルシャーを見て笑みを浮かべる。


「行くぞ!」

ドルシャーも強者と戦えることに歓喜し、自然と笑みが溢れた。


そして、ドルシャーは力強い脚力でリングを破壊しながら物凄いスピードで駆け抜け、大成に接近する。


「アース・クラクッレ、アース・スピア」

ドルシャーは、走りながら地割れを起こし、土の槍を10本召喚して放つ。


大成は右足を力強く地面に踏みつけて地割れを起こしてドルシャーの地割れを相殺させて、間近まで迫ってきた土の槍10本を左右の手で優しく触れて軌道をずらして回避した。


しかし、目の前には両手で大剣を握って振り上げているドルシャーがあった。


「これは、どうだ!エア・スラッシュ!」

ドルシャーは、風魔法エア・スラッシュを唱え、握っている大剣に竜巻を纏わせて振り下ろす。


「ハァッ」

大成は左手を前に出し、右拳を握り締めて魔力を込め、一歩前に踏み込んで大剣を殴りつける。


「「ウォォ!」」

大成の拳とドルシャーの大剣がぶつかり合い、衝撃波が生まれ、周囲のリングの石板が舞い上がった。


「ぐぉぉ」

ドルシャーは、全魔力を大剣に集中させているが、大剣に纏っている竜巻が打ち消され、刀身にヒビが入っていき、そして、砕け散った。


(やはり、届かなかったか…)

ドルシャーは、自然と笑顔を浮かべていた。


大成の拳の勢いは止まらず、そのままドルシャーが纏っている風の鎧をも粉砕してドルシャーの鳩尾に入る。


「ぐはっ」

ドルシャーは「く」の字になり、大成に凭れ掛かる様に倒れた。


大成は、ドルシャーを優しくリングの床に寝かせた。



ジャンヌ達は特に驚いてはいなかったが、獣人の騎士団は目の前の光景が信じられずに未だに固まっている。


「これで、終わったな」

一息ついた大成だったが、膨大な魔力を感知したので振り返ると、背後から獣王が放った灼熱の炎の隕石、炎魔法禁術メテオ・フレイム・ストライクが襲ってきた。



「大成!」

ジャンヌの悲鳴が響く。


「問題ない」

大成は左手を前に出して灼熱の炎の隕石を受け止めた。


しかし、威力に押されていき少しずつ後ろにズリ下がっていく。


「ハッ!」

大成は、左手から魔力波を放って灼熱の炎の隕石を跡形もなく掻き消した。


「「なっ!?」」

灼熱の炎の隕石を放った獣王だけでなく、獣人達は驚きの声をあげる。


「ワッハハハ…」

獣人達は静まる中、獣王の笑い声が部屋中に響く。


「これは、参った参った。恐れ入ったぞ。俺の渾身の一撃を掻き消すとはな。どうみても、俺の完敗だな。まさか、これほどとは、ワッハハハ…」

顔に手を当てて、嬉しそうに盛大に笑う獣王。


「これは、面白いものが見られたな」

ジャンヌの影からリーエが現れた。


「これは、リーエ様。お久しぶりです。お元気そうで何よりです。それにしても、相変わらず、昔からお姿はお変わりないないようで」

ネムはスカートの左右の裾を軽く摘まみ上げて、リーエにお辞儀をする。


「まぁな」


「お久しぶりです、リーエ様。それにしても、あの少年、大成には驚かせられました。愛娘リリーが一目惚れするのも納得しました。ワッハハハ…」


「お前は相変わらずだな、レオラルド。いや、今は獣王様だったか」


「よして下さい、リーエ様。昔通りに呼び捨てで、お願いします」


「そうか?魔王は名前ではなく、魔王と呼んで欲しいと言われたからな」


「ん?そういえば、魔王の名前、俺は知らないんだが」

フッと思った大成は、頭を傾げた。


「そういえば、私も」

「私もです」

「言われてみたら…」

マキネ、ウルミラ、イシリア達は頭を傾げ、魔王本人に視線を向けるが、魔王は苦虫を噛み潰した様な表情のまま無言だったので、魔王の名前を知っていそうなジャンヌやミリーナ達に視線を向ける。


しかし、ジャンヌ達は苦笑いを浮かべたり、視線を逸らしたりしてはぐらかした。


「ウルミラ、お前、実の父親の名前も知らなかったのか?お前の父、魔王の名はルナだぞ。お前達、教えていないのか?」


「えっ!?ルナって女の子の名前なんじゃ…」

マキネは、つい声に出てしまった。


「ぐっ…」

知られたくなかったことを知られた魔王は、歯を食い縛る。


「私が名付けたのだ。魔王が産まれた時、月が満月でとても綺麗だったからな」


「そうだったんだ」

リーエの説明に納得するマキネ。


しかし、皆にとって魔王の名前よりも、魔王がウルミラの父親だということの方が大きな衝撃だった。

「え…?私のお父様は魔王様なのですか?」

恐る恐る母・ウルシアに視線を向けるウルミラ。


ジャンヌも知らなかったので、確かめる様に母・ミリーナに視線を向けた。


ウルシアとミリーナは、目を閉じて無言で頷いた。


薄々だったが勘づいてはいたローケンス達だったが、それでも衝撃が走って目を大きく見開いている。



「やはり、ジャンヌとウルミラって腹違いの義姉妹(しまい)だったんだ」


「やはりって。大成、なぜ知っていたの?私も知らなかったのに」



「前から感じていたんだ。ジャンヌとウルミラの魔力の感じというか性質がとても似ているからね」


「魔力の性質って…」


「坊やの魔力感知能力は、ずば抜けているな。普通は、微弱や膨大、禍々しいなど、大雑把にしか感じ取れない。ずば抜けている坊やだからこそ、個人に合ったオリジナル武器を作れるのだろうな」

戸惑うジャンヌに、リーエは説明をした。


「へぇ~、そうなんだ」

他人事の様に納得する大成。


「そうなんだって…」

ジャンヌ達は、あまりにも軽い大成の受け答えに呆れた。



「ゴッホン、話を戻すが大成を我が国、パールシヴァ国に来て貰いたいのだが」

獣王は、わざとらしく咳をして話題を戻す。


「良かろう」

魔王は頷いて了承する。


「ちょっと、待って下さい。何故、大成なのですか?ヘルレウスでは駄目なのですか?」


「俺も、ヘルレウスだったら良いと思ったのだが。困ったことに愛娘のリリーは、大成ではないと護衛は要らないと言っているのだ」


「あらあら」

マリーナは、口元に手を当てて笑顔を浮かべる。


「ジャンヌよ、リリーの為だ。寂しいと思うが大成をパールシヴァ国に行って貰う。それで、良いな?」


「………わかりました。では、私も…」


「ならん!」


「何故ですか!?お父様!」


「ジャンヌ、確かにお前は見違えるほど強くなった。だが、先ほど、獣王が申していたであろう。異世界から召喚した者達も【セブンズ・ビースト】ぐらいの実力者揃いだ。一対一では勝てるかもしれないが複数で来られたら、流石のお前でも無理だろう。神崎大成ならば1人でも勝てると思うが、守る対象が増えれば増えるほど不利になり、命を落とすやもしれん」

魔王は、分りやすく説明をした。



「わかりました…」

魔王の説明を聞いたジャンヌは、シルバー・スカイ事件の時の父・魔王のためにレッド・ナイツの攻撃を避けずにサンライズの発動を優先にして剣が大成の背中に突き刺さる光景を思い出し、胸が苦しくなって両手を胸に押し当てて素直に従った。


「う~ん。でも、このままじゃあ、ダーリンとリリーがくっついちゃうよ」


「いやいや、くっつくって、それは流石にないと思うけど。まだ、半日しか会っていないし」

マキネを否定する大成。


「良いこと思いついたわ。リリーが大成君を見てドン引きする様な変装させるのよ」

イシリアは、大成の話を無視して提案した。


「でも、イシリア。それだと、結局ダーリンはリリーの護衛できないと思うけど?」


「なるほどね。考えたわね、イシリア」


「ん?どういうこと?ジャンヌ」


「リリーから護衛を断られても、魔人との友好関係のためになどと適当な理由を付け加えたら、リリーも渋々と了承するしかないわ。それで、大成を同じクラスに忍び込ませることができ、通学や帰宅する際も同じ城からだから、ほぼ付き添いで護衛が可能になるということよ」


「あ~、なるほどね」

納得するマキネ。


「はぁ~、わかったよ。で、僕はどんな変装をすれば良いの?」


「そうね…。性格は気が弱くって、最弱で、弱虫で、ウジウジしてて…」

ジャンヌは、顎に手を当てて考えて話す。


「ちょっと待って下さい、姫様。大成さんは、魔人の国の代表として行くのですから、その設定だと私達が獣人達を馬鹿にして見下していると思われてしまいます」

「そうよね…」

ウルミラの指摘で、ジャンヌ達は悩む。


「あっ!そういえば、フフフ…とても良い変装があるよ!」

閃いたマキネはポンっと手を叩き、子供が悪戯を思いついた様な表情になる。


「マキネさん、どんな変装ですか?」


「昔、流星さんから聞いたんだけど。ダーリンや流星さんの世界には、オタクってのが凄いらしいよ」


「「オタク?」」


「うん。ほら、支持者の中には熱狂的な人達がいるでしょう?まるで、神様の様に慕う人達が」


「ええ」


「ああいう人を、更に強化したのがオタクと言うみたいだよ」


「強化したのって…あれ以上なのがあるの?まぁ、それに決定ね。あと、リリーとの手合わせする時は必ず負けること。他の人との手合わせには絶対に勝つこと良いわね?大成」


「勿論だよ。お姫様に勝ったら無礼だからね」


「ま、まぁ、そんなところよ。それより、大成、本当に演じられるの?」


「演じることはできるけど、なるべく演じたくないけど…」


「ねぇ、ダーリン。せっかくだから、今、演じて欲しいな」


「私も見てみたいわね」

ジャンヌ達は、好奇心に溢れた眼差しで大成を見つめる。


「はぁ~、わかったよ。でも、準備に少し時間掛かるけど。あ、そうだった忘れていたな。グリモア・ブック、ワイド・ヒール」

仕方ないと思った大成は、一度深い溜め息をして承諾し、【セブンズ・ビースト】が未だに気絶していることに気付き、グリモア・ブックを召喚して光魔法ワイド・ヒールを唱えた。


リングの上に倒れている【セブンズ・ビースト】4人の地面から蛍の優しい光の様に緑色の光がポツポツと沸き上がり、みるみる増えていき、【セブンズ・ビースト】達の傷が癒えていった。


「なんて、膨大で力強い魔力なの。だけど、その反面、優しく包まれる様な優しい魔法だわ。それに、とても美しいわね。あなた」

「ああ…」

獣王の妃・ネイは、目を大きく開き驚きの声をあげたが、大成の魔法を見て微笑む。


獣人の騎士団だけでなく、この場にいる者達全員は、大成の魔法に見とれていた。



「くっ、俺は確か…」

「「うっ…」」

意識を取り戻したドルシャーは頭を押さえながら起き上がり、それと、ほぼ同時に他の【セブンズ・ビースト】達も意識を取り戻した。


「じゃあ、準備してくるよ。時間掛かるから、大広間に集まって寛いでいて」

「ええ、わかったわ。大成」

大成はその場から離れた。




【魔人の国・ラーバス国・屋敷・大広間】


魔王達は、大成から言われた通りに大広間に集まって、ワインを片手に持って会話していた。


「ところで、あの大成という少年は一体何者なんですか?」

「そうだぜ、あの人間の餓鬼の強さは異常だぜ」

ルジアダとオルガノは尋ねる。


「お前達は、魔王修羅って名前を耳にしたことがあるだろ?坊やは、その魔王修羅だ」


「ええ!?大成様は、魔王修羅だったのですか!?ですが、魔王修羅はシルバー・スカイ事件で亡くなったと報告を受けていますが」


「信じられないが、あの【時の勇者】と戦って生き伸びていたのだな」

ネイは驚いていたが、獣王レオラルドはすんなりと納得した。


「そうだ。坊やは、既に私より遥かに強かった。坊やが来るまで、これまでのことを話そう」

リーエ達は、獣王達にこれまでの経緯を教えていく。


そして、話終えた時、扉が開いて大成が現れた。


「「……。」」

大成の姿を見たジャンヌ達は言葉を失った。


大成の服装は、赤色のバンダナに反射している大きな丸縁メガネ、ラインチェック柄のフェルト生地のシャツ、膝元だけが破れたジーパン、白の靴下、スニーカーを着用しており、背中にはリリーの刺繍が入ったリュックサックをからい、右手には木製でできたリリーのフィギュア、左手にはリリーの絵柄が書かれている紙袋と、その中にはリリーのポスターが筒状に丸めて3本入っていた。


その姿は、昭和のオタクの様だったが、1つ似合わないものがあった。

それは、後ろ腰に掛けてある大成の身長ぐらいある大きな大剣だった。


初めて見るオタクの格好に、未だに固まっているジャンヌ達。


「オタクの格好はこういう感じなものと、好きなキャラクターのデザインが描かれているTシャツとその上に同じく好きな絵柄やキャラクターのデザインが描かれている薄手の上着を羽織る格好が代表的なのだよ」


「た、大成、1つ聞くけど。そのリリーの刺繍が入ったリュックサックや人形、紙袋などは、どこで手に入れたの?」

ジャンヌは、大成の格好だけでなく、言葉遣いが変わっていることなどが重なり、頬を引きつらせながら震える手で指をさして尋ねる。


「あ、これは、全て手作りなのだよ。ジャンヌ氏」


「「はぁ!?」」

全員の声が揃った。


「何を驚いているんだい?当たり前のことだよ。販売していないから作るしかないんだよ。こうやって…」

大成は、左右に持っているものを床に置き、リュックサックの中から割れていない薪を取り出して、上に放り投げた。


「幻歩」

大成は幻歩で4人に分身し、右手で剣を抜刀しての目に見えない速度で剣を振り薪を削っていき、あっという間にジャンヌ形になり、最後に紙ヤスリで研磨して精巧なフィギュアが完成した。


「ほら、できたのだよ。うん、我ながら良いできなのだよ」

ジャンヌのフィギュアを精巧に作った大成は、ジャンヌに手渡した。


「あ、ありがとう。それにしても、細かいところまで再現しているわね…」


「フィギュアは、よりリアリティーに、わりやすくいえば現実味を高くするのが命なのだよ」


「そ、そうなのね…」


「ところで、ドルシャー氏」


「な、何だ?」

大成の話し方に違和感を感じているドルシャーは、咄嗟に身構える。


「先ほどの決闘で、僕が大剣を折ってしまい、そのお詫びと言ってはなんだが、僕が作った大剣があるのだが」


「そうだな、武器がないよりはマシだな。お言葉に甘えさせて貰おう」


「あまり期待はしないでくれたまえ。誰でも使える様に作った品だから、あまり性能は高くないのだよ」

大成は、後ろ腰に掛けてある大成と同じ位の大きさの大剣をドルシャーに手渡しした。


「結構、ズッシリとしているな。フン、ハッ」

大剣を握り締めて素振りをするドルシャー。


「ドルシャー氏、大剣に魔力を込めてみたまえ」


「わかった、やってみよう」

ドルシャーは、大成に言われた通りに大剣に魔力を流し込んだ。


「うぉっ!?信じられん!さっきまで、ズッシリと重かった剣が、まるで短剣の様に軽くなったぞ」

先ほどの素振りの速度が全く違い、同じ大剣で素振りをしているとは思えないほど格段に鋭くなった。


「どうですか?ドルシャー氏」


「前の大剣は獣人の国で1番の名匠が打った剣だったが、こっちの方が断然良い。本当にこるほどの物を貰っても良いのか?」


「問題ないのだよ。こちらも、そんなに気に入ってくれて嬉しいのだよ」

笑顔で頷く大成。


他の【セブンズ・ビースト】達や獣人の騎士団、魔人の騎士団が喉を鳴らしながら羨ましそうな目でドルシャーを見ていた。


「大成様、いえ、魔王修羅様。あなた様があの魔王修羅様と知らずとはいえ、先ほどの私達のご無礼をお許し下さい」

ネイは、礼儀正しくスカートの裾を軽く摘まみ頭を下げると同時に獣王を含む獣人達も頭を下げた。


「気になさらないで下さい。私も挑発をしましたので、お互い様ですので」

大成は無礼がないように言葉遣いを元に戻して、礼儀正しく片膝を床について頭を下げた。


「ところで、魔王修羅よ。出国の準備はできているか?」

獣王レオラルドは腕を組んだまま尋ねる。


「できている。あと、リリー姫の前では俺のことは大成と…いや、ロリコン伯爵じゃなく、アルティメット・バロンに素性がバレてしまって警戒されてしまえば、隠密に動けなくなるから彗星と呼んでくれ」

大成は右手を前に出した。


「わかった。よろしく頼む彗星。では、一緒にパールシヴァ国に行こうかの」

「ああ」

レオラルドも右手を前に出して握手する。


こうして、大成は獣王レオラルド達と共に獣人の国へと向かうことになった。




【別話・獣人の国・パールシヴァ国】


獣王と大成達は、無事にパールシヴァ国に辿り着き、持ち物の確認などの検問を受けていた。


「獣王様、ネイ様、皆様、ご無事で何よりです」

6人の門番達は、一斉に頭を下げた。


「俺達がいなかった間、異変や変わったこととかはなかったか?」


「いえ、特にありませ…。後ろの変な格好したお前!ちょっと、こっちに来い!」

門番は、獣王達の背後にいた大成に気が付き、大声を出す。


「ん?」

門番に指を指された大成は、一度後ろに振り返って見たが誰もいなかったので無言で自身を指差した。


「そうだ!お前だ。ふざけているのか!そんな怪しい格好の奴は、お前しかいないだろ!」


「ちょっと来い!取り調べを行う」


「ま、待つんだよ。僕は、まだ何も悪いことしていないではないか?」


「いや、見た目だけで、お前がリリー様に悪影響を与えるということ一目瞭然だ」


「馬鹿な!そんな根拠もないことで…。獣王様!」


「待て!その者は、大切な客人だ。まぁ、確かに見た目は怪しいが、リリーの護衛のために、わざわざ魔人の国から来て貰ったのだ」


「獣王様が、そう言われるのでしたら…。しかし、少しでも怪しい行動を見つけましたら捕らえさせて貰います」


「ああ、それで構わない。彗星、これからリリーがいるレオ学園に足を運んで貰うぞ。」


「わかったのだよ」

大成達は、城に戻らずにリリーがいるレオ学園に向かった。


書いていたら書きたいことが増えていき、思った以上に話が進まず、大変申し訳ありません。


次回から本格的に獣人の国の話が始まりますので、もし宜しければ、次回もご覧下さい。

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