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獣人の国とリリー

【魔王修羅】と呼ばれている大成と【時の勇者】と呼ばれている流星。

2人は義兄弟でありながら決闘することになる。


激闘の末、引き分けになったが、人間の国・マルシェは、魔人の国と同盟を結ぶ。

【魔人の国・ラーバス国・屋敷の中庭】


今日からラーバス学園は3連休に入り、エターヌとユピアは帰国し、大成、ジャンヌ、ウルミラ、マキネ、イシリアの5人は雲が1つもない快晴だったので急遽、中庭で朝食を摂ることにした。


「何よ、私も料理を作るのを手伝うって言ったのに…」

ジャンヌは頬を膨らまし、腰に手を当てて少し不機嫌になっていた。


「まぁまぁ、ジャンヌ落ち着いて。ウルミラ達は、ジャンヌに気を遣っているんだよ」

大成は、苦笑いを浮かべて宥める。


「それが水臭いのよ。そんなに、気を遣わなくても良いのに…」


「まぁ、仕方ないよ。だって、屋敷内に魔王さんもいるからね。それより、場所は、この辺りで良いかな?」



「それもそうね…。えっと、場所は、あの噴水の近くの方が花も綺麗に咲いているし、そっちのが良いと思うわ」


「わかった」

大成は、持っていたレジャーシートをジャンヌと一緒に噴水の前に敷く。


「こっちよ、皆」

ウルミラ達の姿を見つけたジャンヌは、手を大きく振った。


「あ、姫様、大成さん」

「ダーリン達、ここに居たんだ」

「持ってきたわよ」

ウルミラ、マキネ、イシリアの3人は、バスケットを持って大成とジャンヌに歩み寄る。


大成達5人は、レジャーシートの上で輪になって寛ぐ。


「あの、飲み物は何が良いですか?」

ウルミラは自分が持ってきたバスケットから色んな飲み物を出していき、マキネとイシリアは自分達が持ってきたバスケットから料理を次々に出して並べていった。


大成達は、それぞれ飲み物が入ったコップを手にとる。

「準備はできたみたいだね。それじゃ、乾杯~!」

「「乾杯~!」」

大成の掛け声と共に、ジャンヌ達は盛大にコップ同士を当てた。


そして、花を見たり会話をしながら料理を食べたりしてワイワイと盛り上がる。


「あれ?バニーシロップのトーストがない」

大成は、いつも昼食に食べるほど、大好物なトーストがないことに気付いた。


「大成さん、すみません。獣人の国から入荷しているバニーシロップが品切れで作れませんでした。メイドにお聞きしたところ、獣人の国の情勢が不安定なため、バニーシロップ以外にも他に入荷している品も入って来ていないみたいです。それに、次の入荷がいつになるか、わからないそうです…」


「ウルミラが謝る必要はないよ。そっか、獣人の国が、そこまで悪化しているとはね。ジャンヌ、獣人の国から救援の要請とかなかった?」


「私は知らないけど、もし要請があったのなら、ローケンス達ヘルレウスが動いているはずだし、周りも慌ただしくなっているはず、それがないから、まだ要請は来ていないと思うわ」


「ジャンヌ、リリーは大丈夫かしら?」

心配そうな表情で尋ねるイシリア。


「きっと大丈夫よ。イシリア、あなただって知っているはずよ。悔しいけど私やウルミラより魔力が高いし、幼い頃だったけど剣術は私と互角だったんだから心配はいらないと思うわ。でも、まぁ、今、勝負したら私が余裕で勝つわ」


「フフフ、そうですね」

「へぇ~、そんなに強いんだ」

「はぁ~。でも、そうね。リリーなら大丈夫よね」

ウルミラは口元に手を当ててクスクスと笑い、マキネ戦いたくってウズウズし、イシリアは呆れていた。


「ところで、リリー?って誰?」

面識のない大成は、頭を傾げながら尋ねる。


「獣王様の娘で、獣人の国のお姫様よ」

ジャンヌが答えた。


「そうなんだ。じゃあ、リリーはライオンの獣人なのか?」


「違うわ、大成。リリーは母親似で希少種の九尾なの。しかも、ユニークスキル【世界樹(ワールド・ツリー)】の持ち主で植物を操る能力の持ち主よ。どうしたの?大成」

更に詳しく説明するジャンヌ。


「ご、ごめん。ちょっと考え事していた」


「考え事?」


「うん、獣王には恩があるからね。獣人の国へ行って、直接、情勢を視察しに行ってくるよ。ついでに、バニーシロップも買ってくるから楽しみに待っていて」


「あっ、待ちなさい大成!救援の要請はないから、視察だけにしなさい!」


「わかっているよ」

返事をした大成は、獣人の国へと向かった。


「もう!大成たら!」

「ダーリン、行っちゃったね」

「仕方ないわ。あれが大成君だもの」

「そうですね。大成さんらしいです」

ジャンヌ、マキネ、イシリア、ウルミラは、大成を見送った。




【獣人の国と魔人の国の間・ネーブルの森】


「へぇ~、面白いな。この森は」

道なりに走っていた大成は、森の頂上について前と後ろを見比べていた。


獣人の国と魔人の国にあるネーブルの森は、魔人の国側は人の行く手を阻む様に急斜面や根が盛り上がっているが、獣人の国側は緩やかな斜面で所々に果実の木々があり豊かだった。


ネーブルの森は、この世界で唯一、過酷な顔と優しい顔の2つの顔を持つ珍しい森だった。



「えっと、この森を真っ直ぐに抜けたら、バニーシロップの生産が有名なチャルダ国で、右に抜ければ獣王がいるパールシヴァ国で、左に抜けて更に先に進めば、反乱軍のリーダーである獣王の弟アレックスがいるオルセー国だな。う~ん、どこから視察しようか悩むな。仕方ない、まずはバニーシロップの生産が有名なチャルダ国に行ってみよう」

大成は地図を広げて悩んだ末、チャルダ国に決めて歩を進めた。



あれから、大成は1時間ぐらい歩き続けて目の前に分かれ道が見えた。


「お、分かれ道が見えた」

順調に進んでいた大成だったが、人の気配と殺気を感知して足を止めた。


「この人数に、この殺気は争いごとかな?ジャンヌに関わるなと言われたけど、気になるな。まぁ、別に戦闘に参加しなければ問題ないし、少し行って様子を窺うか」

大成は気配を完全に消して、人の気配と殺気がする右側へ物凄いスピードで駆けていく。




【獣の国側・ネーブルの森】


辿り着いた大成は、木々の影から気配を消したまま様子を窺っていた。


大成の目の前には、ローブを着た盗賊100人が馬車を囲むような陣形をとっており、その中央には馬車を守るように20人の護衛騎士達が円陣を組んでいる。


そして、馬車から姿を現したのは、背中まで伸びたオレンジ色の髪、左右の端の髪の毛を三つ編みしている獣人の国の姫であり獣王の娘のリリーが姿を現した。



「くっ、待ち伏せしていたなんて…」

鎧を着ているリリーは、歯噛みをして双剣を抜刀して左右の手に剣を握る。


護衛騎士達は、リリーを護衛するためリリーを囲う様な陣形をとる。


「姫様、お下がり下さい。ここは我らがお守り致します!」

護衛騎士のリーダー・ザニックは、腰から剣を抜刀してリリーの前に出る。


他の護衛騎士達も剣を構えたまま、リリーの守りを強化するために、陣形を小さくして仲間との間の隙間を最小限にする。


「でも、多勢に無勢です。私も前線で戦うわ」


「駄目です、姫様に何かあれば、完全な戦争になってしまわれます。せっかく、獣王様がお互い血を流さない様にアレックス様と対話を持ち掛けている最中です。盗賊ごときに、その邪魔をさせる訳にはいきません!盗賊、お前達に尋ねるが、我々護衛騎士団と知っての狼藉か?今なら見逃してやる。だが、そうでないのであれば、我々護衛騎士団の力を見せつけてやるだけだ!来るなら来い!下賤な盗賊共!」

ザニックが啖呵を切ったと同時に、仲間の護衛騎士も士気が上がった。


盗賊達は無言だったが、口元には獰猛な笑みを浮かべる。



(ジャンヌ達から容姿は詳しく聞いていないが、尻尾が九本あるから、あれがジャンヌ達が言っていたリリーとかいう獣人の国の姫様なのか?それに、盗賊と決めつけているみたいだけど、本当に盗賊なのか?ローブの隙間から金属製の鎧か胸当てが見えるけど、どれも同じ何かの紋章が入っているが)

大成は、盗賊達が羽織っているローブの小さな隙間から金属製の何かが見え、疑問が沸いた。



そして、木の上にいる盗賊の1人が口に手を当て口笛を吹いた瞬間、盗賊達は短剣や剣を握り、一斉に護衛騎士達に襲いかかる。



戦闘が始まり、護衛騎士達は自分達の方が強いと思っていたが、実際はその逆だった。


「チィ、こいつら強いぞ!」

護衛騎士は剣で連擊を繰り出したが、盗賊は体を反らして避けていく。


「貰った」

「ゴフッ…」

連擊を躱している盗賊は、身軽にジャンプして護衛騎士を跳び超える際に空中で剣を振るい護衛騎士を切り裂いた。



「気を付けろ!こいつら、ただの盗賊ではないぞ!」

「糞、強い…ぐはっ…」

護衛騎士達は、応戦するが相手の方が実力が上なので次々に倒されていき、徐々に気圧されてジワジワと後退させられ陣形が崩れていく。



「姫様の所へは行かせん!」

護衛騎士達が萎縮して一方的に殺られている最中、護衛騎士のリーダーのザニックは、1人で多くの盗賊達を倒していた。


ザニックは、背後から飛び掛かってきた盗賊に気付き、振り返りながら剣を振る。


「くっ、このぉ!」

跳び掛かってきた盗賊の1人と剣同士をぶつけて、火花を散らしながら鍔迫り合いになった。


しかし、ザニックの背後から盗賊の仲間が笑みを浮かべて剣を振り上げて斬りかかろうしていた。


「糞っ!」

殺られると覚悟したザニックは、舌打ちをする。


中央にいたリリーは、物凄いスピードでザニックの真横を通り抜けながら、ザニックの正面の盗賊と背後から斬りかかろうとしている盗賊を双剣で舞うように連擊を繰り出して切り刻んだ。


「私も参戦するわ」

リリーは、右手の剣を横に振るい、剣についている血を飛ばす。


「ありがとうございます、姫様。助かりました。ですが…」


「お礼は良いわ、ザニック。それよりも、このままでは全滅するわ。もう、あなたも気付いているはずよ。この盗賊達が着用している胸当てを見て、ただの盗賊ではないことにね」



「はい、この者達は盗賊の装っていますが、あの胸当ての紋章は、獣王様の弟君であらせられるアレックス様の暗部ですね」


「ええ、戦力差は歴然。本当は、一目散に逃げないといけない場面だけど、こんなに囲まれていたら逃げることはできないわ」

冷や汗を流しながら苦笑いを浮かべるリリー。


「そうですね。ですが、この身が朽ちるまで、あなた様をお守り致します。総員、命を賭して姫様をお守りしろ!」


「「おお!」」

ザニックの檄により、低下していた護衛騎士達の士気が再び上がる。



しかし、実力もさることながら戦力の差は明らかに歴然であり、護衛騎士達は奮闘するが次々に倒されていき、とうと生き残ったのはリリーとザニックの2人だけになってしまった。


盗賊達と戦っているリリーとザニックの死角から突如、ナイフが飛んできた。


「くっ」

リリーは左手の剣で盗賊を斬り、右手の剣でナイフを弾いたが、弾いたナイフが太股を掠める。


「チィ」

ザニックは剣で盗賊を斬り伏せたが、ナイフを避けることができず左腕に突き刺さり、すぐに刺さったナイフを手で掴んで抜いた。


ザニックは、身体強化していたため傷は浅かった。



「はぁ~、いつまで時間をかけるんだ、君達。私を失望させないでくれよ」

リリーとザニックにナイフを投擲した口笛を吹いた盗賊は、開始位置から一歩も動いておらず、木の上でナイフをクルクルと回しながら溜め息を吐き、呆れた口調で話す。


「やはり、あなただったのね。【アルティメット・バロン】」


「よくわかったね、正解だよ、リリー(ハニー)。やはり、君と私は運命の赤い糸で結ばれているんだ。さぁ、こっちにおいで私のリリー(ハニー)。私と結婚しよう。君を幸せにできるのは、私だけなのだから」

アルティメット・バロンは、木から飛び降りて両腕を開き、そのままゆっくりとリリーに歩み寄る。


「絶対に嫌よ。誰があなた何かと結婚するものですか!ここで、あなたを倒すわ」


「姫様!」

無防備に近付いてくるアルティメット・バロンの不気味な行動に、ザニックはリリーの前に出て最大限に警戒を強める。


「ザニック君、君ごときが私の相手になるとでも思っているのかな?」

笑顔を浮かべたまま頭を傾げるアルティメット・バロン。


「悔しいが、お前の言う通り、私ではお前に勝てないだろう。しかし、お前の腕の一本ぐらいは命を賭けて貰…う…。な…んだと…?」

ザニックは、突然、体が痺れて倒れた。


「ザニック!?うっ…」

慌ててザニックに駆け寄ろうとしたリリーも、突然に体が痺れて倒れる。


アルティメット・バロンが投擲したナイフには、痺れ薬が付いていたのだ。


「さぁ、リリー(ハニー)。邪魔物はもう居ない。私と一緒に、2人だけの愛の巣へ帰ろう」

アルティメット・バロンは、笑顔を浮かべながらリリーにゆっくりと近付く。


「くっ、だ…れが…」

リリーは、必死に痺れている体を動かそうとするが動かすことができず、歯を食い縛る。


しかし、リリーに歩み寄っていたアルティメット・バロンの足が途中で止まり、アルティメット・バロンはすぐにバックステップをして後ろに下がった。


アルティメット・バロンが後ろに下がったと同時に、上空からフードを深く被りローブ着た大成が先ほどまでアルティメット・バロンがいた場所に足音を立てずに着地した。


全く気配を感じない大成を見たアルティメット・バロンは、訝しげな表情で大成を見る。

「君は誰なんだい?」

大成の纏う雰囲気で、ただ者ではないと判断したアルティメット・バロンは、警戒を強めた。


「あな…た…逃げ…なさい…」

リリーは、痺れて上手く舌が回らず言葉が出なかった。


「しー。大丈夫、あとは任せて」

大成は、リリーに向いて口元に人差し指を立ててウィンクした。


「答えないのですね。せっかく私とリリー(ハニー)の2人のラブ・ロードを邪魔をするなんて、無粋にもほどがあります。君達、あの無粋な者を殺しなさい」

アルティメット・バロンは、手を前に出して命令を出しながらナイフを投擲した。


それを合図に盗賊達は動く。


盗賊3人は姿勢を低くして正面から大成に接近し、左右と背後にある木の枝から盗賊3人が大成に跳び掛かった。


大成は、飛んできたナイフを右手でキャッチし、上に投擲して、背後から跳び掛かってきた盗賊の額に突き刺した。


額にナイフが突き刺さった盗賊は生き絶えており、大成の前に落下した。


大成は、両手を上に挙げて左右から跳び掛かってきた盗賊2人の剣を持っている手首を受け止め、足元に額にナイフが突き刺さって倒れている盗賊を蹴り飛ばし、蹴り飛ばされた盗賊は物凄いスピードで、前から接近してくる盗賊達3人に向かう。


前方の盗賊3人は、ジャンプして蹴り飛ばされた仲間を避けながら大成に襲い掛かる。


大成は、その場で左右の手に盗賊を掴んでいるまま振り回した。


前方から接近していた盗賊3人は、ジャンプしており、空中では身動きができず避けることができなかった。


盗賊達は、大成が振り回している仲間にぶつかり吹き飛ばれた。


大成は、吹き飛ばした盗賊3人に向けて、左右の手に掴んでいる盗賊達を投げ飛ばす。


吹き飛ばされた盗賊3人は1本の木の幹に激突し、更に追い討ちせれるかの様に、大成に投げられた仲間とぶつかり、押し潰された。


周囲にいた盗賊2人は、大成の攻撃の隙を狙い、大成の正面と右側から剣を握り締めて接近する。


正面から接近した盗賊は、勢いが乗ったまま最速の突きを放とうとするが、剣先が大成に届く前に大成から顎を蹴られて後ろに吹き飛ばされ、右側から襲い掛かかった盗賊は顔面に大成の右手の裏拳が入り後ろに倒れた。


アルティメット・バロンは、仲間が倒れていく体の死角を利用して、再びナイフを投擲した。


投擲したナイフには猛毒が塗られており、掠めただけでも即死する。


投擲したナイフが大成の目の前まで迫る。


「終わりだ」

アルティメット・バロンの口元に笑みを浮かんだ。


なぜなら、アルティメット・バロンが投擲したナイフは、大成から見ると1本にしか見えないが、実はナイフの死角にもう1本の猛毒ナイフを投擲していたのだ。


大成が、先ほどと同じ様にナイフを一本だと思い込んでキャッチした場合、死角に隠れている2本目が確実に刺さる様にアルティメット・バロンは算段をしていた。


アルティメット・バロンは、最初に大成に向けてナイフを1本だけ投擲したのは、このための布石だった。



しかし、大成は右手を横に振り、飛んできたナイフを2本ともキャッチして、アルティメット・バロンと同じ方法で、アルティメット・バロンにナイフを2本とも投げ返し、更に自分のナイフを1本追加で投擲した。


アルティメット・バロンが先ほど投擲した様に2本目のナイフはズレることなく死角の位置で一直線に並んで飛んでいく。


アルティメット・バロンは、大成が自分と同じ技巧を使ったので少し驚いたが、すぐに体を横に反らして避けようとした。


しかし、大成が最後に投擲した大成のナイフが先に投げ返したナイフ2本に当たり、3本のナイフがアルティメット・バロンの間近で軌道が変化する。


「くっ」

今度は、アルティメット・バロンは目を大きく見開くほど驚愕し、大きくジャンプして木の枝に跳び移り回避した。


3本のナイフは、木の幹に突き刺さった。


((彼は一体、何者なんだ!?))

リリーやザニックを含め、この場にいる誰もが大成が気になった。



盗賊達は仲間達の猛攻を、息を乱さずに対処した大成を前にして怯み、身を引く。


「危ない危ない、危うく、自分の毒武器で死ぬところでした。もう一度お尋ねしますが、あなたは一体何者なのですか?」

「……。」

大成に尋ねたアルティメット・バロンは、無言のままの大成をジッと見るが、大成は深くフードを被っており素顔が見えなかった。



緊迫した雰囲気の中、大成を囲んでいる盗賊達は、再び大成に襲い掛かろうとした時、アルティメット・バロンが左腕を挙げたので踏み止まった。


「皆さん、残念ですが、ここは一旦退きましょう」

アルティメット・バロンは指示を出し、盗賊達と一緒に退却した。



「2人共、大丈夫か?グリモア・ブック、キュア、ヒール」

大成は腰を落としてリリーとザニックに手を当て、グリモア・ブックを召喚して光魔法キュアとヒールを唱えた。


白い魔力がリリーとザニックの体を覆い、毒の浄化と傷の治癒を同時に行う。


そして、白い魔力が弱まっていき消え、リリーとザニックは、ゆっくりと起き上がった。


「ありがとう、あなたのお陰で助かったわ」

「感謝する」

リリーとザニックは、お礼を言った。


「気にしないで良いよ」

大成は、両手を前に出して謙遜した。


「自己紹介はまだだったわね。私はリリー、獣人の国の姫で、隣にいるのは護衛騎士のリーダーのザニックよ。ところで、あなたは誰なの?名前は?」


「申し訳ないけど、こちらの都合もあって、それについては答えられないかな」


「まぁ、仕方ないわね。質問を変えるけど、なぜ私達を助けてくれたの?」


「ただの気まぐれだから、気にしないで良いよ」


「いえ、そうはいかないわ。だって、命を助けて貰ったのだから、何かお礼がしたいのだけど」


「いや、そこまで気を遣わなくても良いよ。さっきも言ったけど、本当に気まぐれで助けただけだから」


「いいえ、何かお礼がしたいの。お礼をさせて欲しいの」

リリーは、両手で大成の手を取りギュッと握る。


ザニックに視線を向けた大成だったが、ザニックは笑顔で頷き、大成は溜め息を吐いた。


「はぁ~、そう言われても…。あ、そうだ。それなら、バニーシロップを貰えないかな?」


「バニーシロップって、あのパンとかに塗ったり、料理に使うバニーシロップのことよね?」


「そうだけど、持っていないかな?」


「馬車に積んでいるから、好きなだけ持っていって構わないわ」


「ありがとう」


「でも、本当にそんなもので良いの?」


「そんなものって…。これが良いんだよ。元々、僕がここへ来たのはバニーシロップのためなんだ。1箱貰って良いかな?」

苦笑いを浮かべる大成。


「ええ、良いわよ。なんなら10箱全部でも構わないわ」


「いや、そんなに持てないし、要らないから」

苦笑いを浮かべる大成。


「フフフ…」

リリーは、口元に手を当ててクスクスと笑った。


「ん?何?」


「笑って、ごめんなさい。あなたが、他の人と違うから」


「そう?」


「そうよ、特に他の種族の人は高額な金額や地位を要求したり、求婚を迫ってきたりするから。何だか面白くって」


「ハハハ…。まぁ、人それぞれだからね。で、これからどうする?何なら、僕で良ければ国まで送ろうか?」

複雑な表情になる大成。


「それは助かる。是非、頼む」

ザニックは頭を下げた。


「ちょっと、ザニック。流石に、そこまで頼るのは…」


「しかし、姫様。生き残ったのは、我々2人だけです。もし、また襲われでもしたら今度こそ命がありません」


「それはそうだけど…」

申し訳なさそうに大成の様子を窺うリリー。


「気にしないで良いよ。こんなにバニーシロップを頂いたからね」


「ありがとう。お言葉に甘えさせて貰うわ。パールシヴァまで宜しく頼むわね」


こうして、大成達はパールシヴァ国に向かって馬車を引いた。




【獣人の国・パールシヴァ国】


大成、リリー、ザニックの3人は、何事もなく無事にパールシヴァ国に辿り着いた。


「ありがとう」

「感謝する」

リリーは大成の手を握りお礼を言い、ザニックは頭を下げた。


「じゃあ、僕はこれで」

大成は、両手で箱を抱えて立ち去っていく。


「本当にありがとう」

リリーは、大成の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。



「結局、あの若者は一体、何者だったんでしょうか?わかったことといえば、光魔法を使っていたので種族は人間かハーフエルフだということと、あの着ていたローブは魔人の国の紋章が入っていたので魔人の国から来られたかもしれないということだけですかね」



「ええ、だけど、それだけじゃないわよ。ザニック」


「と言いますと?」


「あの人の髪の毛と瞳の色は黒だということと、ローブから見えた、あの人の袖とズボンを私は見たことがあるわ。あの制服は間違いなく、ラーバス学園の制服よ」


「そうなのですか?」


「ええ、前、ジャンヌ達と会った時、あれと同じ制服をマーケンスが着ているところを見たわ」


「そういえば、最近、魔人の国と人間の国が仲を取り戻して同盟を組んだという情報がありまし たので、あの若者が魔人の国に居ても可笑しくはない話でしょう」


「ねぇ、ザニック」


「はい?」


「私、決めたわ」


「何をですか?」


「今まで、お父様は私の護衛を強化すると言っていたでしょう?」


「ええ」


「でも、私はその都度、断っていたわ。それには、ちゃんとした理由があるの。だって、異性の人だと下心が見え見えだし、同じ女性の人だとルジアダ以外は皆、力不足だから居ても居なくても変わりなかったから」


「まぁ、姫様が仰る通り、我々の国の女性は、中には強者もいますが、今のところルジアダ以外は強くても護衛騎士ぐらいの実力しかありませんからね」


「だから、お父様に条件を出して頼んでみようと思うの」


「ま、まさか、姫様」


「ザニック、もうわかるでしょう?」

リリーは、ウィンクをした。



それから、1週間後…。

獣王自らが魔人の国へと足を運ぶことになる。

次回、魔人の国に獣王が訪問します。

もし宜しければ次回も御覧ください。

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