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大成復活と果たし状

奈々子の【ソウル・ゲート】で、ジャンヌ達は、大成の心の中に入り、幼い大成を見付けたが、見えない心の壁により大成に触れることができなかった。

それを見た【初代魔王】マーラは、ジャンヌ達は大成(うつわ)のことを何も知らないと知り、ジャンヌ達に大成(うつわ)の過去をジャンヌ達に見せる。

【大成の心の中】


大成が特殊部隊だった時の過去の記憶の映像が終わり、周囲の風景が水の波紋の様に揺れながら元の白い大地と真っ黒な闇が周囲を覆う風景に戻っていく。



大成が特殊部隊だった頃の壮絶な過去を知ったジャンヌ達は言葉を失っており、静寂が訪れていた。


そんな中、リーエは手を顎に当てたまま一人で納得した様に呟く。

「やはり、坊やは復讐者だったか…」


「あの、リーエ様。何故、お兄ちゃんは自分から命を絶とうとしているのですか?」


「ユピアもわからないです」

エターヌとユピアは、リーエに尋ねた。


「それはだな。操られたり暴走していたとはいえ、大切な仲間を自身の手で傷つけたことが原因だ」


「えっ!?エターヌ達は、怪我をしましたが無事ですけど…」


「確かに、私達は誰も死んではいないが傷を負った。お前達も坊やの過去を見たからわかっているとは思うが、坊やは幼い頃に両親と村の人達を皆殺しにされたことにより、他の者よりも命を尊う様になったのは気付いただろ。特に、それが顕著になったのは、復讐を成し遂げた後だ。本当に仲間を守るためなら命懸けで守っていたほどだ。そんな奴が、自身の手で仲間を殺めてはいないにしろ、傷つけてしまったのだ。あとは、わかるだろ?」


「あの、なぜ復讐を達成したら命懸けで守る様になったのですか?」


「復讐者とは、復讐を成し遂げたと同時に生きる目標がなくなる傾向の持ち主が多い。坊やも、その一人だろうな…。だから、仲間のためなら死んでも構わないと思っているのだろう」

リーエは、過去に復讐に執着した友がおり、その友は復讐を成し遂げた後、自ら命をたったことを思い出し悲しい表情になった。



「僕は…もう無関係な人達や仲間を傷つけたくない。何故…皆は、僕にそうさせるの…。もう嫌だよ…嫌だよ…」

体操座りして蹲っている幼い大成は呟く。


「大成…」

そんな大成の姿を見たジャンヌは、手を伸ばそうとしたが思い止まる。


ジャンヌだけでなくローケンス達は、今まで大成のことを気にせずに頼りきりだったことに気付き、果して自分達は大成に声を掛ける資格はあるのかどうかなど頭を過り躊躇っていた。



「余は、お前達に問う。もし仮に、(たいせい)が生還した場合、お前達は私利私欲のために、これからも(たいせい)に人を殺めさせるのか?」

マーラは、鋭い眼光でジャンヌ達に問う。


「そ、そんなことはしないわ」

マーラの鋭い眼光に怯むジャンヌ。


「それは、嘘だな」


「どうして、言い切れるのよ!」


「断言できるとも。なぜなら、(たいせい)を戦わせないと魔人の国は【時の勇者】に滅ぼされるからだ。流石の姉上でも、【ゴッド・エンチャント】の使い手が相手では分が悪い。いや、勝機ががないと言っても過言ではない。そうだろ?姉上」

マーラは、挑発的な表情で姉のリーエに尋ねた。


普段のリーエなら「死にたいらしいな」や「私を誰だと思っている」など言うのだが、この時は無言のままだった。

「……。」


そのリーエの反応を見た魔王達は、深刻さが増して表情が険しくなる。



そんな中、ジャンヌは大成に優しく話し掛ける。

「ねぇ、大成。あなたが、もう戦いたくないのなら、私はそれでも良いと思うわ。だけど、自ら命を絶つのは駄目よ。あなたのご両親の最後の言葉を思い出して。あなたは、ご両親の分まで生きて幸せになると約束をしたじゃない。だから、生きて幸せにならないといけないわ」


「そうよ、大成。それに、私は、ううん、私達は貴方に生きて欲しいの」

奈々子は、懇願するように話し掛ける。


「だけど、僕が生きていたら、また大切な人達を傷つけるかもしれないし、それどころか、今度は手にかけてしまうかもしれない…。だったら、一層のこと僕が死んだ方が皆のためになると思う。いや、きっと、その方が正しいんだよ…」


「そんなことないです!大成さんのお蔭で救われた方々も沢山います」

ウルミラは、大きな声で大成を否定する。


「そうだよ、お兄ちゃん。お兄ちゃんのお蔭でエターヌやユピアちゃん、他の皆も助かったんだよ。ねぇ?ユピアちゃん」


「そうです!修羅様は、ユピア達の恩人です。ですから、今度はユピア達に恩返しをさせて下さい」


「ねぇ、ダーリン。後悔して、死んで詫びるよりも、誰かのために何でも良いから役立つことをしていくことが贖罪になると思うよ。死んで詫びるというのは、逃げてるだけだよ」

マキネは、大成と合うまでは誰も信じることもなく暗殺の仕事を生業としていたが、大成達と接していくうちに愛情や友情が芽生え、これからどう生きて行こうかと、ずっと考えて出した答えであった。


「マキネ、良いこと言うわね。それに、大成君は好き好んで人を傷つけたり、殺めたりしていないでしょう?」

諭すように話すイシリア。


「信じてくれるかな…」


「「皆、信じているわ(います)!」」

ジャンヌ達の声が揃う。


「そうかな、そうだと良いな…」

幼い大成は一粒の涙を見せると同時に、大成を覆っていた心の壁が霧の様に霧散して消えた。


「大成!」

ジャンヌ達は大成に駆け寄り、少し離れた場所からリーエと魔王達は見守る。


「見事だ。まさか、(たいせい)を救い出すとはな。心から感謝する。お蔭で余も助かった」

マーラは、拍手をしながら労う。


「随分と余裕だな、マーラ。今ここで、お前を倒させて貰うぞ!」

リーエは魔力を解放して戦闘体勢に入り、魔王達も少し遅れて戦闘体勢になる。


「フフフ…」

不気味に笑うマーラ。


「何が可笑しい?」


「姉上の考えと行動は手に取るようにわかっている。残念だが、それは無理だ」


「無理だと?私達が負けるとでも?」


「いや、違う。そろそろ時間だからだ」


「時間だと?」


「ああ、そうだ。フッ、時間だ」

マーラの言葉と同時に、大地が揺れると共に空間にひび割れが入り、割れた場所から光の奔流が流れ込んでくる。


「「な、何!?」」

あっという間に大成と近くにいたジャンヌ達は光の奔流に飲まれた。


「ジャンヌ、ウルミラ!」

悲痛な声で魔王は叫ぶ。


「マーラ!お前、何をした!?」

リーエは、殺気を放ちながらマーラを睨み付ける。


「余は何もしていない。何かをしたのは、姉上達の方だ」


「ハッ、まさか坊やが目覚めたのが原因か?」


「そうだ。だから、心配することはない。(たいせい)達は無事だ。じゃあな、姉上。次に会う、その時は…」

振り返ったマーラは、リーエ達に背中を見せ、片手を挙げて振り、立ち去ろうとする。


「待ってぇ!マーラ!くっ…」

リーエは、マーラに手を伸ばす。

しかし、あともう少しの所でマーラの背中に触れる瞬間、リーエの真上の空間が割れ、光の奔流がリーエと魔王達を襲い、リーエと魔王達は光の奔流に飲まれた。




【魔人の国・ラーバス国・キノル病院・病室】


大成が横になっているベッドの周りには、ジャンヌ達が倒れていた。


「「うっ…」」

目を覚ましたジャンヌ達は、目を擦りながら起き上がる。


「ここは…」

「私達、無事に帰って来れたみたいだね」

イシリアとマキネは、辺りを見渡した。


奈々子は、皆が無事に帰還できたことにホッと胸を撫で下ろす。


「た、大成は!?」

ジャンヌは、慌てて大成に振り向く。


「おはよう…」

苦笑いを浮かべる大成。


「大成!」

ジャンヌ達は、大成に飛び付いた。


「うぉ!?」

「もう心配したんだから!もっと、自分の命を大切にしなさいよ…」

大成の胸元に顔を埋めて涙を見せるジャンヌ。


「心配させて、ごめん。これからは、大切にするよ…」


「絶対に約束よ。どんなことがあっても、自分の命を大切にして…。例え、大切な人のためでも死ぬことを選ばないで。その大切な人を悲しませる様なことはしないで…。あなたが居なくなったら…私…うぅぅ…」

ジャンヌは次第に声が小さくなっていき、泣き出した。


「ああ、わかったよ。ジャンヌ…」

大成は、胸元で泣いて震えているジャンヌを優しく抱き締めた。



静まり返った雰囲気の中、魔王はわざと咳払いをする。

「ゴッホン」


「あ…」

ジャンヌは、皆がいることを思い出して、顔が真っ赤に染まり慌てて大成から離れた。


「ところで、どうして奈々子はここに?いや、そもそも何で、この世界にいるだ?」


「えっと、簡単に説明するとね。大成が消えた後、軍の人達は大成が消えた場所を細かく調べたのだけど。結局、何もわからずに、そのまま帰還したの。その後に私達も探していたんだけど、その時に私もこちらに召喚されたの」


「なら、七海さんや皆は大丈夫なんだよね?」


「うん、大丈夫よ」

「それは、良かった…」

大成は今まで七海達のことが心残りだったが、奈々子の言葉で重荷がなくなり、救われたような気持ちになった。


その時、コンコンっとドアをノックする音が聞こえた。


「キノルだよ。入って良いですかい?」


「はい、どうぞ」

大成は承諾し、キノルは病室に入る。


「お目覚め如何ですか?修羅様」


「少し頭痛がします」


「それは、寝続けていたので仕方ないですよ。一応、健康状態を知りたいので、お目覚めしたところ申し訳ありませんが、簡単な診察させて貰いますよ」


「わかりました」

大成の了承を得たキノルは、大成の瞼を触れて眼球や左手首を持ち上げて脈拍を診たりした。


「……。」

キノルは、一瞬だったが深刻な表情になった。


「あの、キノル先生。大成の容態は…」

不安な表情で尋ねるジャンヌ。


奈々子やウルミラ達も、不安な表情でキノルの答えを待つ。


「大丈夫だよ、ジャンヌちゃん。修羅様は健康そのものだよ」

笑顔を浮かべて頷くキノル。


キノルの言葉を聞いたジャンヌ達は、喜びを分かち合う。


「だけど、修羅様は長い間、寝たっきりだったからね。頭痛だけでなく、まだ倦怠感があるはずだよ。だから、今日までここで安静させた方が良いね」


「それもそうだな。今日は、もう帰るぞジャンヌ。神崎大成のためにもな」


「はい、わかりました、お父様。じゃあね、大成。私達は、これで…」


「ジャンヌ、頼みがある」


「何?」


「今日1日でも良いから、奈々子を屋敷に泊めてくれないかな?」


「もちろんよ。というより、初めからそのつもりよ。良いでしょう?お父様、お母様」


「もちろんだ」

「もちろんよ。なんなら、奈々子ちゃんが良ければ、ずっと屋敷に住んでも構わないわ」


「「ありがとうございます」」

「では、一晩だけお願いします」

大成と奈々子は、お礼を言った。


「一晩だけで良いの?奈々子。せっかく、こうして大成に会えたのに」


「はい。正直、名残惜しですけど、大成が無事だったことを確認できただけでも十分です。それに、私のために囮になってくれたツカサちゃんのためにも、できる限り早く人間の国に戻らないといけないので」


「わかったわ」

ジャンヌは、もう少し奈々子と話をしたかった。


「なら、明日、僕が奈々子を人間の国付近まで送るよ」


「それは、駄目です!危険です!人間の国は、今、【慈愛の女神】の捜索しているはず、そのため普段よりも包囲網が広範囲に広がっている可能性が高いです。修羅様のことは信じてますが、今の修羅様の状態で【時の勇者】と遭遇した場合、厳しいかと…」

ローケンスが猛反対する。


「ローケンスの言う通りだ。もし、【慈愛の女神】を送るというならば、我々もついていくぞ」

ローケンスに賛同する魔王は、腕を組んで条件を出した。


「フッ、なるほどな。お前の考えがわかったぞ、魔王。この機に人間の国に攻めいるつもりだな?」


「流石、リーエ様。仰る通りです。なので、リーエ様。申し訳ありませんが、神崎大成と力を合わせて【時の勇者】を討伐して貰いたいのです。その間は、我々が邪魔が入らない様に護衛します」


「確かに、私と坊やが組めば【時の勇者】を倒せるだろう」


「申し訳ありませんが、僕はその作戦を辞退させて貰います。ですが、奈々子を送るのは諦めません」


「何だと!?」

大成の我が儘を聞いた魔王は激怒し、大きな声を出しながら威圧感を醸し出す。


「言った通りです。僕は奈々子を送り届けますが、作戦には参加致しません。もし、強制するのでしたら…」


「強制したら、お前はどうするのだ?」

魔王は、大成を睨み付けながら殺気と威圧感を放つ。


魔王の威圧により、部屋中の空気がビリビリと張りつめる。


ダビルド達は戦闘体勢を取り、ローケンス達も戦闘体勢になったが、大成は右手を挙げたので両者は思いとどまる。


「わかるだろう?」

大成は殺気を出していないが、纏っている雰囲気がごろっと一気に変わり、部屋にいる誰もが部屋の気温が一気に下がった感覚がした。


気が付けば、恐怖で体が震えており、冷や汗が流れていた。


「俺の邪魔をする者は、例え、魔王、お前でも、いや、邪魔をする全ての者を倒す」

大成は言葉使いが変わると共に瞳の輝きが消え、まるで何もかも飲み込む闇の様に冷たい瞳になっていた。


大成が纏う雰囲気から、今からでも返答次第では戦うつもりだと伝わってくる。


「くっ…」

大成の瞳を見た魔王は、歯を食い縛りながら恐怖を必死に噛み殺す。



緊迫した中、ジャンヌやローケンス達は、2人の魔王のどちらにつくかで悩み、ただ呆然と立ち尽くしていた。


「お、お父様、大成の意思を尊重して頂けませんか?」


「ジャンヌよ。こればかりは、お前の頼みでも聞けん。お前もわかっているだろ?この件は、国の存亡に関わることだと」


「…はい。それを承知の上で…」


普段は優しく、特に娘のジャンヌやウルミラ、妻のミリーナ、ウルシアには誰よりも甘い魔王だったが、この時は違った。


「ならん!」

魔王は、ジャンヌの話を途中で遮る様に大きな声で拒否した。


「なら、俺と戦うのか?魔王」

大成が尋ねた時、魔王の背後にいたキノルがジャンプして持っていたカルテで魔王の後頭部を叩いた。


「ぐっ、誰だ!?」

突然のことに、魔王は振り返りながら鋭い眼光で叩いたキノルを睨み付ける。


「キノル先生!?」

魔王は、驚いた表情でキノルの名前を口にした。


予想外な事態にジャンヌ達やダビルド達は、呆けた顔をして呆然とする。


「ここは、病院だよ!暴れるなら(よそ)でやりな!わかったかい!」

キノルは、腰に手を当て激怒した。


「これは、申し訳ない」

魔王は謝罪をする。


「わかったのなら、魔王様達はとっとと帰りな。修羅様はさっさと寝な!わかったのなら、早く行動に移しな」

キノルは、手を叩きながら強引に話を進める。


「ククク…。流石キノルだな。助かったぞ。この話は明日、屋敷ですれば良いだろ?なぁ、2人共」

口元に手を当ててリーエは笑った。


「わかりました」

「ああ」

魔王は渋々と了承し、大成は一度瞳を閉じて合意した。


魔王は無言で大成を睨み付けて病室から退出し、それを追う様にローケンス達が大成に一礼したり、手を振ったりして退出していく。


「大成さん、ゆっくりと体を休ませて下さい」

「じゃあね、大成。また、明日」

ウルミラはお辞儀をし、ジャンヌは、手を小さく振って退出した。



最後に残った奈々子は、大成に飛び込む様に抱きついた。

「大成!」

「奈々子?」

突然のことに驚く大成。


「また、大成に逢えることができて、本当に良かったよ…。もう、2度と会えないかと思ったから…。や、やだ、涙が止まらないよ…。うっ、ううぅ…」

涙を見せる奈々子。


「奈々子…」

大成は、寄り掛かって泣いている奈々子の頭を引き寄せて優しく撫でる。


「う、ううぅ…」

奈々子は、大成の胸で泣き続けた。



部屋から出ていたジャンヌとウルミラは、ドアの隙間から大成達の様子を見て、複雑な面持ちで見守ることにした。


ジャンヌは、頃合いを見計り話し掛ける。

「奈々子、早く行きましょう」


「は、はい、じゃあね大成。えっと、その、ありがとう」

一通り泣いて落ち着いた奈々子は、恥ずかしそうに、お礼を言って慌ただしく退出した。


「ん?ありがとうって、僕が言う立場だと思うけど?」


「それはですね、修羅様が魔王様に反論しなかった場合、間違いなく魔人の国と人間の国が争いが始まっていたことと、修羅様が生きてくれたことにですよ。きっと…」


「……。」


「あと、修羅様。お伝えしなければならないことがあります。もう、ご自身の体のことなのでお気付きになっておるかと思いますが…」

「気付いているよ。キノル先生」

キノルは、大成にあることを伝えて部屋を後にした。



まだ、薄暗く日が昇る前の朝、大成はキノルの部屋のドアの隙間にお礼の置き手紙を置いて屋敷へと向かった。




【魔人の国・ラーバス国・屋敷】


「久しぶりな気がする。しかし、改めて見ると本当に大きい屋敷だよな…」

屋敷の前にいた大成は、改めて屋敷の大きさを知り少し怯んでいた時、玄関の大きな扉が音を立てながら開いた。


扉から現れたのはジャンヌとウルミラだった。

「大成、そこで何しているのよ。お父様達が待っているわよ」

「ああ」

ジャンヌに言われて、大成は少し畏縮しながら屋敷に入る。



「「修羅様、お帰りなさいませ!」」

屋敷玄関の左右両側には、メイドと執事達がおり、一斉にお辞儀をして挨拶した。


「ただいま。皆さん、心配かけてすみません」


「い、いえ、そんな謝らないで下さい」


「そうです。無事で何よりです」



「早く、行くわよ。大成」

「わかった」

大成達は、玉座の間に向かっていた最中、ダビルドが率いるノルダン達に出会った。


「「修羅様、ご無事でなによりです」」

ダビルド達は、一斉に大成の前で片膝をついて敬礼する。


「心配させて、すみません」

「いえ、私共は修羅様は簡単に死なないと信じておりました」

顔を上げたダビルドは、嬉しさのあまり口元が緩む。


「あの、修羅様。発言しても宜しいですか?」


「何ですか?ミシナさん」


「修羅様が居なかった間、私達はとても苦労したんですよ」


「おい!ミシナ」

ドトールは、ミシナを制止させようとする。


「まぁまぁ、ドトールさん。僕が皆さんに、ご迷惑をお掛けしたのは事実なので、愚痴の1つや2つお聞きしますよ」


「流石、修羅様。話わかるわね。じゃあ、お言葉に甘えさせて貰います。私達は、もう闇組織の仕事をしないって修羅様と契約しましたので、修羅様がいない間は正規のギルドに登録してクエストを消化する生活が始まったのですが、ギルドランクが見習いから始まるので、受けれるクエストが魔物の討伐や金額の良いクエストがなく、採取や溝掃除、皿洗い、ペットの世話などの国内の店の手伝いなど安い金額のクエストしかないんですよ!おかしいと思いませんか?闇組織の時は国中から怖れられ、修羅様の直属になってからは称えられている私達がですよ!どう思いますか!?修羅様」


「ミシナさん、それは規則だから、どうしようもないですよ」


「おい!ミシナ。修羅様に当たるな。修羅様の言う通り、規則なんだから仕方ないだろ」


「じゃあ、ドトールは不満はないの?」


「ない」


「へぇ~。ないんだ~」


「な、何が言いたいんだ?ミシナ」


「私は、ドトールが一番被害を被っていると思ったのだけど」


「そ、そんなことない」


「ふ~ん。じゃあ、この前ドトール、あなた夜に犬と馬の散歩のクエスト受けたでしょう?」


「あ、ああ…」

(ま、まさか、あの事を知っているのか!?いや、大丈夫だ。あの時、確かに誰も居なかった…だから、大丈夫…なはずだ…)


「私、ううん、私を含めてメンバー6人で決定的瞬間を見てしまったの。夜、あなたは面倒だから犬と馬を一緒に散歩して、あなたが犬のフンを取っている時、連れていた馬に顔を後ろ蹴りされて鼻血を出しながら後ろに吹っ飛ばされたところをね。そして、あなたは、すぐに腕の袖で鼻血を拭いながら起き上がり、顔の中央にくっきりと蹄鉄の跡が付いたまま、誰か見られていないか見渡したでしょう?あの時、私達は傍にいたの。私達は、すぐに身を隠していたのよ。でも、必死に笑いを堪えるのは大変で、笑い死にするかと思ったわ」


「な、な、な…」

ドトールは、狼狽えながら同胞達を見渡す。


目撃した同胞5人は勿論のこと、話を聞いて知った同胞達はボスであるダビルドの前なので笑いを必死に堪えていた。


「あ、ああ、そうだよ!だから、もう良いだろ!その話は!」


「意外だな。あの冷静沈着なドトールが、こうも乱れるとはな。私も見たかった」


「ボ、ボスまで、本当に勘弁して下さい」

ノルダンのメンバー達は、項垂れるドトールを見て盛大に笑った。


「ドトールさん、申し訳ない」


「いえ、気にしないで下さい修羅様。元々、自分の不甲斐なさが原因ですので…」


「はぁ~、大成。それより、お父様達が待っているから、急ぎましょう」

溜め息をしたジャンヌは歩を進める。


「ごめん、ジャンヌ。そういうことで、僕は今からちょっと用事がありますので…」

大成は苦笑いを浮かべて、ジャンヌとウルミラの後を追う。


「お待ち下さい、ジャンヌ様」

ダビルドは、ジャンヌを呼び止めた。


「何?」

ジャンヌは、足を止めてダビルドに振り返る。


「ジャンヌ様、申し訳ありませんが、我々も同行させて貰えないだろうか?」


「ええ、別に良いわよ。お父様も認めていたから、好きにしなさい」


「ありがとうございます。あの修羅様、我々もご一緒して宜しいですか?」


「別に構わないですけど、命の保証はありませんが、それでも良いのでしたら」


「「~っ!」」

大成の言葉を聞いたジャンヌを含む誰もが、大成は魔王の受け答え次第では戦う可能性があると知り、驚愕して息を呑んだ。


「まぁ、落ちついて下さい。そうなるとは、まだ決まっていませんし、きっと大丈夫ですよ。それよりも、これ以上、待たせるのは悪いので行きましょうか」

大成は苦笑いを浮かべながら、立ち尽くしているジャンヌ達に話しかけ、ジャンヌ達と一緒に魔王がいる玉座の間へと向かうのであった。




【魔人の国・ラーバス国・屋敷・玉座の間】


玉座の間の扉の前には、左右にメイド2人が待っていた。


「「お待ちしておりました修羅様、ジャンヌ様、ウルミラ様、ノルダンの皆様」」

メイド達は、軽くお辞儀をする。


右側のメイドが扉をノックする。

「ジャンヌ様、ウルミラ様が、神崎大成、及びノルダン一行を連れて参りました」

「入れ」

メイドは大きな声で報告し、魔王の返事が帰ってきた。


メイド達は、右と左に分かれて左右の扉を開く。



玉座の間の室内には、左右の壁際に騎士団が控え、中央にはマリーナ、マキネ、イシリア、マーケンス、シリーダ、ニール、マミューラ、そして奈々子が立っており、奥には魔王と妃のミリーナが椅子に座っていて魔王の隣にはローケンス、ミリーナの隣にはウルシアが立っていた。


玉座の間は、魔王が威圧感を醸し出しており空気がビリビリと張りつめている。


奈々子は心配した表情で大成を見つめる中、ジャンヌを先頭に、ウルミラ、大成、ノルダン達の順に玉座の間に足を踏み入れる。


ジャンヌ、ウルミラ、大成、ダビルドは気にせずに歩を進めるが、他のノルダンのメンバー達は固唾を飲み、緊張した面持ちで歩を進めた。



ジャンヌとウルミラはマキネ達の前で止まり、ジャンヌとウルミラは左右の手でスカートの左右の裾を軽く摘まんでお辞儀をする。


「神崎大成、及びノルダン一行を連れて参りました」


「ご苦労であった。ジャンヌ、ウルミラ」

ジャンヌの報告聞いた魔王は、両腕を組んだまま大きく頷く。


一般常識として、魔王やヘルレウスを前にした場合、礼儀として敬礼するのだが、大成とノルダン達は敬礼をしなかった。


その態度に機嫌を損ねた魔王は、殺気を放つ。


大成は気にした様子はなかったが、ダビルドは顔をしかめ、ノルダン達は戦闘体勢まではとらなかったが、いつでも動ける様に臨時体勢をとる。


ノルダンの動きを察知したローケンス達も、警戒を強めた。


ジャンヌ、ウルミラ、イシリア、マーケンス、奈々子は不安な表情で戸惑い、マキネは大成についていくと決めていたので平然としていた。



「お前達、落ち着け。魔王よ、坊やも魔王なのだ。別に不遜な態度ではないだろ?」

リーエの声が部屋に響き渡り、ジャンヌの影からリーエが現れた。


「「リーエ様!」」

魔王達はリーエの名を口にし、初めてリーエを目にしたダビルド達は驚愕し、リーエの纏う威圧感を肌で感じとり緊張が走る。


「それより、これからの方針の話が大切だろ?」

話を進めるリーエ。


「仰る通りです。ゴッホン、では、神崎大成。何故お主は、我々の作戦に賛同しないその訳を述べろ」

魔王の上目線な言い方に、ダビルド達はムッとなる。


「お前が望まなくても、いずれ、俺は【時の勇者】とは一対一(サシ)で戦うつもりだ」


「なぜ、一対一(サシ)に拘る?リーエ様と組めば、勝率が格段に上がるのだぞ」


「【時の勇者】は、俺の超えるべき壁だからだ」


「フン、国によりも、そんなくだらない私情を優先するというのか?」


「くだらないだと!」

大成は声を強め、目付きが鋭くなる。


「ああ、くだらない。国と比べたらな。それに、今回の作戦には参加して貰う」


「昨日、俺は辞退すると言っただろ」


「どうしてもか?」


「ああ」


「なら、仕方ない国のためだ。不本意だが【慈愛の女神】を捕らえさせて貰うしかないな」


「おい、本気で言っているのか?もし本気なら、わかっているとは思うが殺すぞ」

大成は低い声音で言いながら、殺気は出してはいないが禍々しい威圧感を解き放ち、感情が高ぶったことにより、次第に瞳が変化していく。


大成の白い眼球が黒く染まり、黒色の瞳孔や角膜は金色に染まると共に獣様に鋭く変化した。


大成が放つ禍々しい威圧感が、今まで魔王が放っていた威圧感をまるで闇で塗り潰すかのように侵食していった。


床や壁は圧力によってヒビが入り、ガラスはヒビが入った瞬間、音を立てて割れていく。


ジャンヌ達は、あまりにもの禍々しい威圧感に触れた瞬間、恐怖で体は重力が強まったと思えるほど重く過呼吸に陥り、周囲の気温が凍えるほど寒く感じるほど一気に低下したかの様に感じた。


騎士団は次々に過呼吸により酸欠で気絶してバタバタと倒れていき、魔王やジャンヌ達、ノルダンの皆は、床に膝を付いて荒く呼吸をする。


「で、魔王。お前の返答は?」

大成は、床に膝をついている魔王に歩み寄り、魔王を見下す。


「ハァハァ…ぐっ…」

魔王は立ち上がろうとするが、体が上手く動かなかった。


「うっ…大成…」

ジャンヌ達は限界が訪れ、意識が朦朧とする中、ジャンヌは大成の名前を呟いた。


「~っ!?ごめん、ジャンヌ、皆。大丈夫?」

大成は、ジャンヌ達に振り返ってジャンヌ達の状態に気付き、慌てて威圧感を抑え、言葉使いも元に戻った。


ジャンヌ達は、四つん這いの状態で荒い息を整える。


「だ、大丈夫よ。そ、それよりも、大成。い、今さっきの目…」

四つん這いのままのジャンヌが尋ねる。


「僕は、もう人でも魔人でもないんだ…」

大成は、悲しい表情で目を逸らした。


「そん…な…」

奈々子やジャンヌ達は、自分達のせいで大成を人外な者にしてしまったことに気付き、絶望した表情になる。


「僕は、感謝しているんだ。あのままだと死んでいたし、それに、自分でも驚くほど強くなった。これで、もっと多くの人が守ることができるからね」

大成は、慌てた表情で答えた。


リーエは冷や汗を流しながら、大成と魔王に歩み寄り声を掛ける。

「魔王、もう良いだろ?主力の坊や本人が嫌がっているんだ、諦めな。それに、無理意地をしたら、人間の国と戦う前に魔人の国は滅ぶぞ」


「ハァハァ…。で、ですが…」

かろうじて立ち上がった魔王。


「坊や、これからどうするつもりだ?」

リーエは、大成に尋ねた。


「まず、奈々子を人間の国に送り届けると共に果たし状を渡す予定です」


「果たし状だと!?」


「そうです。内容は、僕と【時の勇者】との一対一(サシ)での勝負。僕が勝てば、奈々子とツカサの無罪放免と人間の国は魔人の国と同盟を結ぶこと。逆に僕が負けた場合、僕が人間の国に忠誠を誓うという内容です」


「フン、馬鹿らしい!人間の国王が、そんな都合の良い話に乗るとは到底思えん」

鼻で笑う魔王。


「いや、おそらく人間の国王は、その条件を飲むだろうな」

リーエは、顎に当てて呟く。


「何故ですか?リーエ様」


「まず、総合戦力では、こちらに分がある。それに、坊やの強さは私以上だと向こうも知っているから、喉から手が出るほど坊やを欲しがるだろう。坊やを手に入れば世界最強と言われている竜人の国をも手中に治められるからな。更に【時の勇者】の信頼度が高い分、微塵も坊やに負けるとは思っていないだろう」

リーエは、右手の人差し指を立てて説明する。


「坊や、いくつか聞くが、まず【時の勇者】を相手にして勝算はあるのか?」


「五分五分だと考えています」


「五分五分か…。人間だった時よりも更に強くなった今の坊やでも、互角なのか…。それほど【時の勇者】は強いのか?」


「おそらく、もし仮に、僕が負けても魔人の国は支配下とされないから被害は最小限に抑えられます。それに、決闘後、他国と組んで僕や【時の勇者】が弱っている隙に人間の国に攻めれば問題ないと思います。まぁ、ムーン・ハーブやエリクシールなどがあれば話は別ですが」


「うむ。では、一対一(サシ)するならば、妨害対策とか相手に信用されるほどの提案があるのだな?」


「はい、お互いの国から他に4名ずつ選出し、計8人で防御結界を張ろうと考えています。ヘルレウス・メンバーの力を借りるつもりはありません。その4人はダビルドさん達に任せる予定です」

大成は、ダビルドに振り返る。


ダビルド達は、力強い瞳で大成を見て無言のまま頷いた。


「いや、ヘルレウスを出してやる。その代わり、私達も観戦させて貰おう。どうだ?坊や」


「別に構わないですよ」


「うむ。なら、私は坊やに賛同する。魔王、お前はどうする?」


「はぁ~、わかりました。リーエ様が賛同するなら仕方ありませんね。そもそも、リーエ様がお決めになられたのなら、初めから私に選択権がないでしょう。本当に意地が悪い人だ…」

「まぁな」

肩を落とし溜め息を吐く魔王は渋々と認め、リーエはクスクスと笑った。


「大成…」

ジャンヌは不安な表情を浮かべていた。


「大丈夫、ジャンヌ。ただ奈々子を送って、果たし状を渡してくるだけだ。奈々子、行こうか」

大成は笑顔で答え、奈々子に歩み寄って手を差し伸べる。


「良いの?大成。本当に、これで…」

奈々子は、心配そうな顔で大成に尋ねた。


「大丈夫、心配ないよ。流星義兄(にい)さんとは、いつか決着をつけないといけないだろうとは思っていた。それが、訪れただけだよ。この戦いが終われば、きっと、僕も流星義兄(にい)さんも元通りの関係に戻るよ。だから、行こうか奈々子」

「うん!2人なら大丈夫だよね。だって、血は繋がっていなくても、本当の兄弟みたいなんだから」

奈々子は、笑顔を浮かべて大成の手を取った。


こうして、大成は奈々子を連れて人間の国へと向かった。


(大成、必ず帰って来て)

ジャンヌ達は、不安な表情で大成と奈々子を見送った。




【人間の国・バルビスタ国・バルビスタ城内・大広間】


大成と奈々子は、奈々子を捜索している人間の騎士団の包囲網を掻い潜り、バルビスタ城へと辿り着いた。

その後、大成は門番に国王の面会を求め、国王の了承を得たので大広間で面会することとなった。


大成の突然の訪問に国王達は驚き、戸惑った。


戸惑った国王は、大臣や【聖剣】の皆の意見を参考しようと尋ねたところ、アエリカを除く【聖剣】達は面会は罠と進言したが、大臣と妃、アエリカの3人は違った。


3人の意見は、そもそも大成本人なら、わざわざ面会を申し込みせずに奇襲すれば済むはずなので直接会った方が良いと進言した。


国王は妃とアエリカの意見を尊重することにしたのだった。


大広間は、一番奥に国王と妃がおり、中央に【聖剣】マールイ、ケルン、アエリカ、ニルバーナ、ヨーデル、カトリア、ユナールが緊張した面持ちで手に武器を握って立っている。


【時の勇者】のこと流星とメルサは他国に行っており不在で、ツカサは未だに牢屋に閉じ込められていた。


大成の前だと騎士団は全く戦力にならず、犠牲が増えるだけなので、1人も配置していなかった。


「久しいな、ラプラス。いや、魔王修羅と言った方が良いか?」


「どちらでも構わない」


「で、わざわざ遠方はるばるから足を運んで、ワシに何か用か?」


「果たし状を渡しに来た」

大成は、懐から果たし状を取り出した。


「果たし状だと!?」


「そうだ。だから、一度目を通して貰いたい」


「マールイ」


「ハッ!」

魔王に呼ばれたマールイは大成に歩み寄り、果たし状を受け取り、国王の前まで移動して頭を下げて渡した。


国王は、無言で果たし状に目を通す。

「こんな条件、ワシが飲むとでも?」


「別に飲まなくても構わない。その時は総戦力で戦うつもりだ」


「ふぅ~。1つ聞かせて貰おう。お主なら、今【時の勇者】が不在だと気付いているだろ?なぜ、この絶好のチャンスを見逃す?わざわざ果たし状を渡すだけに留まっておる?今のお主なら、1人でもこの国を簡単に制圧できるはずだ」


「俺は、相手から何かをされない限り、なるべく手は出したくない。そして、今回の経緯の1番の理由は、超えたい壁である【時の勇者】と一対一(サシ)で戦いたいだけだ。そこに書いてある通り、決闘の際は、お互いの国から別に4人ずつ選出し、計8人で結界を張ることにより妨害対策をする。もし、此方から裏切り者が出た場合は俺が自らの手で処罰、いや処分する」


「嘘はついていないな…」

大成のまっすぐな瞳を見て、国王は判断した。


「いつ頃、【時の勇者】は帰国する?」


「今から召集させても、2、3日は掛かるだろうな」


「なら、5日後にしよう。時間と場所は、そちらに任せる」


「では、正午にルージニア荒野で、どうだ?」


「わかった。ところで、ルージニア荒野はどの辺りだ?」


「【漆黒の魔女】であるリーエなら知っているはずだ。何せ、初代魔王とその軍勢が人々を虐殺し町を滅ぼした場所だからな。そうだ、なんなら、この後に騎士団に案内させよう」


「いや、リーエが知っているなら良い。では、5日後の正午、ルージニア荒野だな」


「疑わないのか?」


「疑う余地がない。もし裏切り行為が【時の勇者】に知れた場合、【時の勇者】の手によって、この国は滅ぶからな」


「だろうな。本当にお主達は似ておるの。他には聞きたいことなどないか?」


「あ、そうだ。1つ頼みたいことがある。、奈々子とツカサは、せめて拘束ではなく軟禁にしてくれないか?」


「うむ、そうだな…。そろそろ出しても良い頃合いだしな。わかった、ツカサと奈々子は軟禁にしてやる。マールイ、ツカサを牢屋から出せ」


「ハッ!」

マールイは、一度お辞儀をして部屋から退出した。


それから、少し時間が経ち、マールイがツカサを連れて戻ってきた。

「失礼します。【誘惑の魔女】ツカサを連れて参りました」


「ツカサちゃん!」


「奈々子!」

奈々子とツカサは、お互いに駆け寄り、抱きつく。


「ツカサちゃん、無事で良かったよ」

「奈々子こそ、無事で安心したよ」

2人は安堵し、目に涙が滲んだ。



少し離れた場所から2人を見ていた大成は、一度目を閉じてホッと胸を撫で下ろした。

「感謝する、国王。では、俺は帰る。奈々子、またな」

感謝を述べた大成は振り返り、ゆっくりと出口に向かう。


「ありがとう、大成」

「ありがとう、神崎君」

奈々子とツカサは、大成に振り向いてお礼を言った。



大成は何も言わず、一度、顔だけ奈々子とツカサに振り向いただけだったが、その口元に笑みを浮かべていた。

大成、そのまま部屋を後にした。




【人間の国・ボヤタニア国・河川】


大成がバルビスタ国に訪れた日の夜、流星とメルサはボヤタニア国に訪れており、河川の土手に2人は寄り添って星を眺めていた。


「星が綺麗ね、流星。今日は、この国に泊まるのでしょう?」

メルサは、流星の左腕に抱きつきながら星を見上げていた。


「ああ、そうだな。だが、朝早く出国するぞ。やることは、やったしな」

流星は、夜空を見上げたまま頷く。


流星とメルサは各国を巡り、貧しい村などには水路を作ってあげたり、効率の良い生産方法、を教えたり、治療などを施していた。


「次は、何処に行くの?」


「そうだな…。今度は、カルジア国に行くか。メルサは、それで良いか?」



「流星、あなたとなら何処でも良いわ」


「なら…」


「【時の勇者】よ、ここに居られたか」


「ジェット婆さんか?騎士団ではなく、あんたを寄越すとは、何か一大事が起きたんだろ?」


「前から言っているだろ!その呼び方は、やめて貰いたいのだよ!」


「愛着もあるし、呼びやすいだろ?で、俺に何の用だ?」


「はぁ~、まぁ良いさ。いや、良くないけどね。それより、話を進めるよ。これを、あんたに渡しに来たんだ」

アエリカは、バルビスタ国王・マルシェが書いた手紙を流星に渡した。


「……。メルサ、悪い。行き先変更だ」

手紙を受け取り目を通した流星は、口元に笑みを浮かべた。


「わかったわ。で、何処に向かうの?」


「バルビスタに帰国する。それと、アエリカ、詳しく説明して貰うぞ」


「そのつもりだよ」

アエリカは、流星とメルサに大成が奈々子を連れてバルビスタ国に来たことや、その後のことも説明した。



「フフフ、フハハハ…。やっとか、待ちかねていたぞ大成。」

流星は、右手で前髪をかきあげて盛大に笑うと共に、興奮を抑えきれず、全身から膨大な銀色の魔力を解き放つ。


解き放たれた銀色の魔力は、夜空を照らすかの様に光の帆柱となった。



朝、日が昇り流星達は、バルビスタ国へと向かった。

忙しく、投稿が遅れて、大変、申し訳ありません。


次回は、とうと大成と流星が一対一(サシ)で戦います。


思い描いていますので、このまま寝ずに書きます。


もし、宜しければ次回作もご覧下さい。

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