大成の過去の記憶と流星との出会い
奈々子の【ソウル・ゲート】でジャンヌ達は、大成の心の中に入ることができた。
しかし、大成の心の中に、1000年前に死んだはずの【初代魔王】マーラがいた。
マーラは、死ぬ前にグリモア・ブックに魂を移すことに成功していたのだ。
マーラは転生したが、魂だけだった。
そのため、大成の肉体が必要なため、ジャンヌ達に協力する。
しかし、大成は心の壁を作り、ジャンヌ達はどうすることもできなかった。
マーラは、ジャンヌ達が大成のことを知っていないと知り、マーラは大成の記憶を見せる。
【大成の過去の記憶・日本・夕方】
山と山の間に、小さな村があった。
その小さな村は、高齢者ばかりで人口は少なく、デパートやコンビニもないので、お互いが協力し合い、助け合って支え合っている村だった。
そのため、血は繋がっていなくっても皆、家族の様な間柄の親しい関係を築いていた。
夕日により、大人2人の影と子供1人の影が田んぼの水に映し出されている。
今日、誕生日で3才なった大成は、父・神崎文雄と母・神崎六花の2人と手を繋いでおり、スキップしたり、両足を宙に浮かばせたりして、ワイワイと家族団らんで自宅に戻ろうとしていた。
前方から、近所に住んでいる村長・田沼が桑を担いで歩いて来る。
「こんばんわ、田沼お爺ちゃん。」
「「田沼さん、こんばんわ。」」
大成と両親は、会釈して挨拶をする。
「おや、神崎先生がた。こんばんわ。先月は助かりました。お陰さまで、この通り骨折した腕は治り、こうして、また畑仕事ができるようになりましたよ。」
右腕を動かす田沼。
大成達は、3年前にこの村に引っ越してきて、小さな病院を経営をしている。
「お元気になられて何よりです。」
妻・六花は、笑顔を浮かべた。
「神崎先生がたが、この村に来ていなかったら遠く離れた町まで、行くことになっておりましたよ。村の誰もが神崎先生がたには、本当に感謝しております」
「そんな、大袈裟な。」
「本当のことですよ。」
田沼と大成の両親は、笑いながら談笑する。
「ところで、大成君。今日、お誕生日だよね?おめでとう。今日で何歳になったのかな?」
田沼は、大成の目線まで腰を落として、大成の年齢を知っていたが大成本人に尋ねた。
小さな指を曲げて数える大成。
「3つ!」
大成は、右手の指の人差し指、中指、薬指を立てて前に出す。
そんな大成の姿を見た田沼は、笑顔を浮かべながら大成の頭を優しく撫でた。
「偉い、偉い。」
大成は、目を瞑りながら嬉しそうに撫でられる。
その後、田沼は大成達と談笑した。
「では、私達はこの辺で。」
「ええ、私も早く帰らないと女房に怒られそうですので。じゃあ、またね!大成君。」
田沼は立ち上がり、大成に向かって小さく右手を振るった。
「またね~。田沼お爺ちゃん。」
大成も小さな手を大きく振るう。
こうして、田沼に見送られながら、大成達は家に帰った。
【大成の過去の記憶・自宅・夜】
照明を消している真っ暗なリビングには、4人用の四角のテーブルがあり、そのテーブルの中央には蝋燭を3本立ててある大きなケーキと周りにはステーキやサラダなど、3人では食べきれないほどの六花の手料理が色々と並んでいた。
文雄と六花は、ハッピーバースデーの歌い始め、大成も一緒に歌い出す。
歌が終わり、大成は小さな口を尖らせて息を吹きかけ、蝋燭の火を吹き消した。
文雄は、手元に置いてあったリモコンで照明を付ける。
「「大成、誕生日おめでとう!」」
文雄と六花の2人は、クラッカーを鳴らした。
「大成、私達からのプレゼントよ。」
六花は、大成に小さな袋を渡した。
「ありがとう。何かな?」
ワクワクしながら、小さな袋を開ける大成。
袋の中から掌サイズの戦隊モノの金色のバッチが入っていた。
「わぁ~、ありがとう。お父さん、お母さん」
大成は、お礼を言いながら、早速バッチに乾電池を入れる。
「へ~んしん!」
変身ポーズを取りながらバッチの横にあるボタンを押すと、バッチがキラキラ光り、効果音が鳴る。
「かっこいいぞ!大成。」
「そうね!」
文雄と六花は、笑顔を浮かべながら拍手する。
こうして、大成の誕生パーティーが終わり、大成は、両親に挟まれる様な形で川の字で寝室で眠りについた。
【大成の過去の記憶・自宅・寝室・深夜】
大成を挟んで川の字で横になっていた文雄と六花。
大成のあどけない寝顔を見て、いとおしく感じる文雄と六花。
六花は、小さく寝息をたてる大成の頬を撫でる。
「ねぇ、あなた。このまま、こんな日が続けば良いのに…。」
「大丈夫だ。きっと続くさ。」
「そうね…。」
六花の不安は薄らぎ、目を瞑って眠ろうとした時、外から戸を叩く音が聞こえた。
「あなた…。」
「ああ、逃げる準備をするぞ」
すぐ文雄と六花は起き上がり、文雄は玄関に行き、六花は押入れに隠している財布など貴重品が入っている鞄を取って大成を起こす。
「う…ん。お母さん、どうしたの?」
目を擦りながら起きる大成。
「大成、今から旅行に行くから車に乗りましょう」
「ん?今から?」
「ええ」
六花は大成の手を取り、玄関に向かう。
【大成の過去の記憶・自宅・玄関・深夜】
大成の父・文雄は、玄関のドアを開いて訪問者2人と話していた。
「「神崎博士、お久しぶりです。」」
訪問者2人はスーツを着ており、文雄に頭を下げて挨拶をする。
「この時間に、君達が来たということは追手が来たということか…。」
「はい、軍がすぐ傍まで来ております。お早くお逃げ下さい。我々が案内します。」
「そうさせて貰おう。いつも情報ありがとう、助かるよ。君達には感謝しきれないな。」
文雄は、苦笑いを浮かべた。
「いえ、我々は貴方がた夫婦に、この命だけでなく、家族の命をも救って頂きましたので。」
訪問者達は、文雄と六花と同じ職場で働いていた2人の部下達だった。
「ところで、村の人々には、報告したのか?」
「はい、前回と同様に我々の仲間が訪問して、避難を促しております。」
「そうか…。村の人々に迷惑をかけたな。許しては貰えないと思うが、直接、謝らないとな。」
申し訳ない表情を浮かべる文雄。
「あなた、こっちは準備ができました。」
廊下から妻・六花の声が聞こえ、姿が見えた。
「なら、行くぞ。」
文雄は、六花と大成の手を取って駐車場に停めている車に向かった。
【大成の過去の記憶・自宅・駐車場・深夜】
大成の家の駐車場の前には、村の人々が集まっていた。
「皆さん、私達の揉め事に巻き込んでしまい、大変申し訳ありません。」
文雄と六花は、頭を深く下げる。
「神崎先生がた、頭をお上げ下さい。」
村長の田沼は、そっと文雄と六花の肩に手を置き、文雄と六花は頭を上げた。
「神崎先生達は、お逃げ下さい。私達が時間稼ぎをします。」
田沼の妻は、笑顔を浮かべて急がす。
「え!?でも、ここに居たら危険です。命を落とすかもしれません。」
不安な表情を浮かべながら六花は心配する。
「ええ、承知の上です。正直、神崎先生がたが、この村に来た時から薄々こうなると思ってました。好き好んで、こんな、ど田舎村に来る者は、いませんからね。」
苦笑いを浮かべる田沼。
文雄と六花は、村の人々の表情を見る。
村の人々は誰もが頷き、笑顔を浮かべていた。
「神崎博士、時間がありません。そろそろ行かないと。」
「早く行きなさい、神崎先生。」
田沼は、文雄と六花の背中を優しく押して促す。
「田沼お爺ちゃん?」
「大成君、元気に育つんだぞ。」
田沼は、腰を落として大成を撫でた。
「「ありがとうございました。」」
文雄と六花は、村の人々に頭を下げる。
その瞳から涙が溢れていた。
「バイバ~イ。」
「「バイバイ。」」
「元気でな!」
理解していない大成は無邪気な笑顔で手を振り、村の人々も笑顔を浮かべて手を小さく振り返した。
大成達は車に乗り、部下達の車の後を追いかける。
大成達の車の後にも、護衛の部下の車が次々に走っていった。
【大成の過去の記憶・山の道(登り)・深夜】
大成達の車は、目立たない様に黒色で、深夜だったがライトを消してまま走行していた。
父・文雄が運転する車は、先頭から5台目の位置で走っており、前方に凄いスピードで走っている部下の車を追う様に走っていたので、車が何度も跳ねたりしている。
「あ…。村が見えなくなった…。」
車の後部座席いる大成は、窓から村を見ていたが見えなくなり、視線を前方に向ける。
「ねぇ、どこに行くの?」
「また、自然が一杯な場所に行く予定だ」
大成の質問に父・文雄が答えた。
その時、村の方角から銃声や爆発音が響く。
「何の音?」
「大丈夫よ、大成。怖くないから」
大成の隣に座っていた母・六花は、大成を抱き寄せてギュッと抱き締める。
その時だった、先頭を走っていた部下の車が正面から砲撃を受けて爆発した。
「きゃっ」
六花は悲鳴をあげ、大成は必死に六花にしがみつく。
先頭の車の後ろを走っていた部下の車が左にハンドル切ったので、追従していた後続の部下達と大成達も左へとハンドルを切り追従する。
だが、大成達が通り過ぎ、大成達の後続の部下の車が何台か撃破された。
「すまない、神崎博士。逃走ルートが読まれ…。」
先頭になった部下の車からの無線が入ったが、話の途中で、その部下の車の横腹に砲撃が直撃して谷に落ちて爆発する。
「くっ、このままだと逃げきれない。もう少し進んだ先に分かれ道があります。そこで、二手に別れましょう。先頭を走ってる我々が二手に分かれますので、神崎博士は好きな方へ行って下さい。」
「わかった。」
無線から指示がきたので、文雄は緊張した声で了承する。
緊迫した雰囲気が漂う中、再び部下からの無線が入る。
「生き残ったら一杯奢って下さいよ。神崎博士。」
「ああ、一杯どころか何杯でも奢ろう。約束する。」
「おい!皆、聞いたか?絶対に生き残って、浴びるように酒を飲むぞ!」
「「オオ!」」
「フフフ…。皆で、朝まで飲み明かそうじゃないか。」
部下との会話で和む文雄達。
「六花、大成。左と右どっちが良いか?」
文雄は、後部座席にいる六花と大成に尋ねる。
「あなたの好きな方で、構いません。」
「難しいな。」
苦笑いを浮かべる文雄。
「右!」
大成は元気よく答えた。
「右だな、よし!わかった!」
分かれ道に辿り着いた文雄は、スピードを落とさない様にブレーキはなるべく使わずに、ハンドル切って右へと曲がった。
左に曲がった部下の車と大成達の前を走る部下の車は、左右の側方に隠されていたガトリング砲により蜂の巣にされて爆発する。
ガトリング砲の銃撃は、大成達にも襲い掛かる。
「伏せろ!」
文雄は叫びながら頭を下げて、ハンドルを右に切って対向車線に移動し、爆発した部下の車を避けることに成功した。
だが、大成達のすぐ後ろを走っていた部下の車は、爆発した部下の車を避けることができず、正面から衝突して炎上する。
大成達が乗っている車の窓ガラスは、防弾ガラスだったが、ガトリングの連射に耐えきれず割れていく。
「きゃ~」
六花は悲鳴をあげるが、聞こえないほどの銃声だった。
どうにか無事に、ガトリング砲の銃弾の雨を抜けた大成達。
だが、生き残ったのは、大成達と大成達の車の後ろを走っている部下の車が2台しかいなかった。
「だ、大丈夫ですか?ハァハァ…。神崎博士…。」
「ああ、窓ガラスが割れただけだ。私も妻も息子も怪我をしていない。君達は無事か?」
部下から無線が入ったので文雄は答え、部下の身を案じる。
「フフフ…。ハァハァ…。神崎博士達は良い行いをしていたから、無傷で助かったのでしょうね…。ハァハァ、私も良いことしていたらな…。うっ…。私達の車は、同乗していた増田と東上は倒れ、生き残ったのは運転している私だけです。その私も腹部を撃たれていまして、もう瀕死ですね…。ハァハァ…。」
「ハァハァ…。お、同じく私も瀕死です。私が先に前に出ます。ゴフッ…。」
大成達の後ろを走っていた1台が対向車線に出て大成達の車の前に出る。
少し進むと、道路全体を塞ぐようにワイヤーでできたネットが張り巡らされていた。
「くっ、ウォォ」
先頭を走っていた部下の車は、更にスピード上げて、自らワイヤーのネットに突撃する。
ワイヤーネットを引きちぎることに成功したが、目の前には急カーブだったため、部下は体を傾けて急ブレーキをしながらハンドルを切る。
しかし、車は大きく外側に膨らみ、崖から飛び落ちた。
残ったのは、道路に残された真っ黒なタイヤ痕だけだった。
「くっ」
文雄は、目から溢れた涙を必死に腕で拭う。
「ハァハァ…。今度は、私が前に出ます」
後ろにいた最後の部下の車が、大成達の前に出る。
そして、カーブに差し掛かった時、何も置けないはずの外側の崖からライトが照らされた。
ライトを照らした正体は、ヘリコプターだった。
ヘリコプターから銃撃されると悟った部下は車を大きく外回りをする。
「神崎博士、ハァハァ…。今のうちに内側を通って下さい。」
「すまない、感謝する。」
文雄が無線で答えたとほぼ同時に、ヘリコプターに搭載しているガトリング砲から銃撃の雨が始まり、銃撃を受けた部下の車は無数の火花を舞い散らす。
内側を走った大成達の車は、部下の車が盾となって、ヘリコプターからの銃撃の雨をほぼ無傷で通り抜けた。
「ハァハァ…。絶対に生き残って下さいよ。我々のためにも…。」
無線から部下の声が途切れた瞬間、部下の車が爆発した。
「ああ…。必ず…必ず…。」
もう無線で会話しても、応答する相手がいないことを知っていた文雄だったが、震えている手で無線マイクを握り締めて誓うのであった。
「あなた…。」
「大丈夫だ、心配するな六花、大成。お前達は、必ず私が守って見せる。」
文雄の声音は、力強かった。
「ええ、いつも信じているわ。あなた。」
「僕も!」
「皆のためにも、私達は生き残るぞ。」
「ええ、勿論。」
「うん!」
文雄は、アクセルペダルを踏み込んで車を加速させる。
【大成の過去の記憶・山道(下り)・深夜】
部下が命を賭してくれたお陰で、大成達は山を下るところまできていた。
「あと、もう少しだ。山を下れば、すぐ側に大きな町がある。そこまで行けば…きっと…。頼む、このまま何事もなく…。」
祈るように呟きながら運転する父・文雄。
しかし、その時、後部座席にいた大成は、慌てて後ろからハンドルに手をかけてハンドルを右に切る。
「お父さん、危ない!」
車は対向車線に移動する。
その瞬間、トランクに1発の弾丸が当たった。
だが、車は排水溝に前輪タイヤが嵌まり、大きな衝撃が大成達を襲う。
文雄は、ハンドルを切ろうとするが、前輪タイヤが排水溝に挟まっているので、ハンドルが固定されているかの様に重くなっていた。
「くっ、曲がれ~!」
文雄は、歯を食い縛りながら重いハンドルを切る。
スピードが出ていたお陰で、かろうじてタイヤは排水溝に弾かれる様に道路に戻ることに成功した。
しかし、山側から多くの弾丸が雨の様に降り注ぐ。
「頭を下げろ!」
文雄は頭を下げたまま、排水溝に挟まった前輪が不具合を起こして、フラついていたがアクセルペダルを一気に踏む。
「きゃ~。」
悲鳴をあげる六花は、大成を抱き寄せて足元に身を縮こませる。
車は銃撃により火花が飛び散り、車内は揺れながら次第に銃撃によって押されて端に追い上げられていく。
そして、銃弾がタイヤを撃ち抜き、タイヤは大きな音をたてながらパンクした。
文雄は、車体を立て直そうとするがハンドル操作はきかず、車はガードレールにぶつかって横転する。
車は、ひっくり返ったまま、道路を擦るように滑り、火花を飛び散らせながら止まった。
「くっ、掴まれ。」
どうにか窓から脱出した文雄は、右腕から血を流しながら、外から手を伸ばして後部座席の六花と大成の手を取り脱出させる。
「だ、大丈夫か?2人共。」
「うぅ~、痛いよぉ~。」
「え、ええ。だけど、私は肋骨が骨折しているかもしれないわ」
大成は頭から血を流しながら泣き、六花は胸を押さえながら痛みを耐えていた。
「良いか?2人共。よく聞くんだぞ。このままだと逃げきれない。そこで、崖を滑って逃げ…。」
大成達が気が付いた時には、軍人が周りを取り囲むように立っていた。
「ここまで、逃げてくるとはな。大した奴等だ。だが、これで終わりだ。」
「お前が言うか?俺に任せろ!とか自信満々で言いながら、ライフルで狙撃して外しただろ、お前。」
「てめぇ、俺に喧嘩を売っているのか!」
「まぁまぁ、お2人共、今はどうでもいいじゃないですか?せっかく、今日は最高の日なのですから。」
「ああ、そうだな。今日は最高の日だ。やはり、少数人数を始末するよりも、今回みたいに追い詰めたり、村とかを殲滅して大勢を始末する方が楽しいからな」
軍人達は、不気味な笑みを浮かべて会話をしている。
「君達、静かにしなさい。」
1人の軍人が大成達の前に出て忠告すると、周りの軍人達は静まった。
「騒がしくて、申し訳ありません。ところで、神崎文雄博士に神崎六花博士で、間違いありませんか?こちらが先に名乗るのが礼儀なのですが、今回は名乗ると大変不味いので、お許し下さい。」
大成達の前に出た軍人が尋ねる。
「絶対に、私達は戻らないぞ。軍の、いや国のためとはいえど、命を弄ぶ様な生体兵器なんてものには一切、協力はしない。」
文雄と六花は、軍で科学者をしていたが、途中で自分達の科学が間接的にとはいえ、生体兵器のため使われていたことを知り、軍から逃げることにした。
その際に、実験体となる部下やその家族を逃がしたのだった。
「やはり、お気付きになられていたのですね。確かに、貴方が言う通り生体兵器であってます。ですが、正確に言えば、順従な強化人間の作成です。この計画が、上手く成功すれば日本の武力は計り知れないほど一気に上昇するのですよ。なぜ、協力しないのですか?日本の未来を考えたら、協力するのが国民のためなるのです。」
大成達の前に立っている軍人は、夜空に向かって両手を上に挙げた。
「貴方がたの知識や発想は、大変素晴らしいのですが、別に貴方がたの助力は必須ではないのですよ。」
「口封じか…。」
文雄は、呟いた。
「その通りです。よく、わかりましたね。」
「白々しい。私達が乗っている車と、部下達のが乗っていた車は同じ車種の車だ。しかも、ライト消して走っていたから、どれが私達が乗っている車かは判別しにくかったはずだ。それなのに、容赦のない奇襲に加え、全車に対してのガトリング砲での攻撃で普通はわかる。」
「大佐ぁ、もう良いだろ?どうせ、殺すのだから…。ぐぁっ」
1人の軍人が、文雄と会話をしていた男を大佐と呼びながら前に出た瞬間、大佐が発砲して銃弾が耳の耳垂を貫く。
「はぁ、君達、言葉遣いに気を付けなさいっと、私はいつも言っていますよね?それに、神崎博士がたが、ここで亡くなるとしても、念には念を入れなさい。気安く、私の階級を口にするとは愚の骨頂です。次はないと思って下さい。」
大佐は、笑顔を浮かべながら銃で発砲していた。
「す、すみません。」
前に出た軍人は、耳を押さえながら謝罪して下がる。
「そうですね、時間もありませんので、そろそろ終わらせて頂きます。」
大佐は右腕を挙げ、大成達を囲んでいる軍人は一斉に銃口を大成達に向ける。
「六花!大成!」
「あなた!大成!」
「お父さん、お母さん…。」
3人は固まり、文雄は大成の右側から、六花は大成の左側から抱き締めた。
そして、大佐が挙げている右腕を振り下ろした瞬間、大成達を囲んでいる軍人達は一斉に大成達に向けて発砲した。
「終わりましたね。」
大成達が死んだと思った大佐は、振り返りながら離れようとしたが、大成の声が聞こえたので、足を止めて大成に振り返る。
「お父さん?お母さん?…。」
震える声で両親に呼びかける大成。
「大成…、無事のようだな…。良かった…。」
「ええ…、本当に…良かった…わ…。」
薄らっと目を開ける文雄と六花は、大成の顔を見て笑顔を浮かべる。
「お父さん…。お母さん…。」
「大成…。父さんと…。」
「お母さん…から…最後の…お願いを聞いて…。」
「ぐずっ、うっ、何?」
「「私達…の分まで…生きて…幸せに…な…」」
銃声が2回なり、銃弾は文雄と六花に当たった。
文雄と六花は、最後まで言えずに目を閉じて、大成に凭れ掛かる様に倒れる。
だが、その表情は幸せに満ちた表情で笑みを浮かべており、まるで眠っているかの様に見えた。
「ねぇ、お父さん…。お母さ~ん!」
大成は、文雄と六花を起こそうと揺するが目を覚ます気配がなかった。
「大佐、どう致しますか?」
軍人の1人が大佐の指示を仰ぐ。
「確実に仕留めなさい。」
興味がない声で指示する大佐。
「了解!」
嬉しそうな表情で軍人は頷きながら大成に歩み寄り、泣いている大成の額に銃口を押し付ける。
「じゃあな、坊主。」
軍人は引き金を引こうとした時、銃声が響く。
「ぐはっ」
大成の額に銃口を押し付けていた軍人のこめかみから血が飛び散り倒れた。
笑って見ていた軍人達は、銃声が聞こえた方を振り向き警戒する。
軍人達の視線の先に、坂を下ってくる2人の影が見えた。
そして、雲で隠れていた月が現れ、月光がその2人を照らす。
1人は青年、もう1人は大成と同い年ぐらいの少女で着物を着ていた。
「貴様達は何者だ?」
軍人の1人は、殺気を放ちながら尋ねる。
「おや?これはこれは、特殊部隊の総隊長の大和流星さんに、その妹・大和栞さんではないですか?ところで、これは、どういうことですか?」
答えたのは大佐だった。
大佐は、鋭い眼光で流星と栞を見る。
「お兄様と私に殺気をぶつけるとは、無礼ですよ。」
栞は、殺気はまだ出していないが激怒していた。
「栞、まだ待て。」
「はい、お兄様。」
栞は、頭を下げて一歩下がる。
「松木大佐殿、我々の今回のミッションは神崎文雄博士、及び神崎六花博士の捕縛です。あなたがたも、そうであったはずですが?」
「そうですね。ですが、捕縛できれば捕縛するようにということだったはず。それに、ある御方から確実に始末する様にと言われましたので、始末しただけです。」
「なるほど。ところで、そのある御方とは米田純平博士ではないのですか?」
「……。あなた方は、一体どこまで知っているのですか?」
「さぁ、どうでしょう?」
「致し方ありませんね。」
「大佐、良いのかよ?仲間だぜ。」
「ええ、危険分子は排除しなければなりません。例え、それが仲間であってもです。」
「流石、大佐様だぜ!いくぜ!野郎共!」
軍人達は、流星と栞に銃口を向けようする。
「仕方ないな。やるぞ、栞。って……。」
溜息しながら指示する流星だったが、栞は既に行動に移っていた。
栞は、走りながら両裾を前に出す。
栞の両手は着物の袖で隠れており、その両裾から発砲音が響く。
栞が発砲した弾丸は、軍人達の額や心臓部などの急所に次々に当たり、軍人達は息絶えていく。
栞は恐怖も迷いなく、怯んでいる軍人達に接近する。
軍人達は、栞向かって発砲したが、栞はジャンプして銃撃を避けて、軍人達の懐に着地した。
「ぐぁ」
裾で見えないが、栞は両手にナイフを持ち変えており、右の裾を振るい、隠し持っているナイフで銃を握っている軍人の手首を斬りつてけて銃を落とさせ、左の裾を振るって隠し持っているナイフで軍人の首を斬りつけて倒す。
「気を付けろ!この娘、裾に色々と武器を隠し持っているぞ!」
栞は、隣にいる軍人が発砲しようとしていたので左の裾を振い、隠し持っているナイフで拳銃をなぎ払って銃口を反らした。
「そんな馬鹿な…。」
栞は、流れる動作で右の裾を軍人の心臓部を押しつける様に右手に隠し持っているナイフで突き刺した。
「うっ」
心臓部を突き刺された軍人は、吐血しながら倒れる。
近くの軍人達が栞に発砲したが、栞は近くの別の軍人の背後に回り、背後に回る時にナイフで軍人のアキレス腱を斬りつけて倒して盾にした。
盾になった軍人は、簡単な殲滅作戦だったので防弾チョッキを着ておらず、味方の銃撃を受けて息絶える。
栞の背後にいる軍人達は、栞に向けて発砲しようとしたが、流星の銃撃により、次々に撃たれ倒れていく。
「がはっ。」
「ぐっ。」
「糞!誰だ。うっ…。」
軍人は、銃撃した流星に振り向こうとしたが、額を撃ち抜かれた。
「おいおい、妹ばかりじゃなく、俺も忘れないで欲しいな。」
流星は、左右の手に拳銃を持って次々に発砲していき、時折、流星は栞の援護射撃をして栞の安全も確保しながら軍人達を倒していく。
そして、とうと松木大佐1人だけになってしまった。
「そうそう、言い忘れていたが、山に配置していたお前達の部下達は、ここに来る途中に排除させて貰った。だから、誰も助けには来ないぞ。」
どうでもいいように言う流星。
「そんな、馬鹿な…。300人いたのだぞ?こ、こんなことが……。ありえない、決して、あってはならない…。フッ、フフフ、アッハハハ……。」
松木大佐は、信じられない現実を目の前にして壊れたように笑い始めた。
「じゃあな、松木大佐殿。」
流星は、壊れた松木大佐の額に銃口を押し付けて引き金を引いた。
「ところで、お兄様。そこにいる子供はどう致しますか?」
恐怖で怯えている大成を見た栞は、溜息をして流星に尋ねる。
「何だ?栞。その子が気になるのか?それとも、好きになったのか?」
冗談を言う流星。
「いえ、そんなことありません。私は、自分より弱い男などに興味がありませんので。それに、私が好きな人は、お兄様だけです。」
栞は、面白くなさそうに迷いなく答えた。
「おいおい……。」
栞の言葉を聞いて呆れた流星は、苦笑いを浮かべたまま大成に歩み寄る。
「なぁ、君。えっと大成君だったよな?これから、どうする?どうしたい?」
「ぐずっ、うっ…。えっ!?」
「俺は、昔、君のお父さんとお母さんにお世話になったことがある。だから、君を放置にはできない。行く当てがないなら、俺の知っている児童保護施設を紹介するが、どうだろう?」
「僕は、お父さんとお母さんの敵討ちがしたい。だから、ぼ、僕を強くして下さい。」
左腕で涙を拭きながら大成は、流星に懇願する。
「良いだろう。だが、死にたくなるほどキツイが、それでもするか?大成」
大成の力強い瞳を見た流星は、口元を緩める。
「うん、いえ、はい!お願いします!」
元気よく返事をする大成。
「ふ~ん。」
そんな大成を見た栞は、大成の評価を少しだけ改めることにした。
こうして、大成は流星達のもとで鍛練することになった。
まず、筋肉トレーニングをしたり、基礎体力強化のために毎日走り込みが基本だった。
そして、拳法や剣、棍棒などの型の練習をしたり、射撃の練習などもした。
様々な型ができるようになった後、鉄の棍棒で孔を開いた壁の向こう側にロープで吊るされた薪を正確に打つ練習。
ヌンチャクで投擲された石を正確に打ち落とす練習。
大成の周りにロープで吊るされた丸太を一斉に動かして気配の感知、迎撃の練習。
森の中で木々に跳び移りながらスロー・ダガーを投擲したり、拳銃で発砲して的に当てる投擲、射撃練習。
木から落ちる木葉を発勁の練習などをして流星に認められ、その日から流星と手合わせすることになった。
そして、8歳になった大成は、特殊部隊に入隊試験を受けて無事に合格し入隊した。
それから、任務をこなす大成に、とうと敵討ちをするチャンスの日が訪れる。
それは、松木大佐と繋がっていた米田純平の暗殺だった。
米田純平は、大成の両親文雄と六花の同僚であり、大学時代は天才と言われ、取材やテレビにも出たことがある秀才であったため、自意識過剰になり人を見下し、天狗になっていた。
しかし、この職場で働くことになり、自分より優れている文雄と六花に出会った。
文雄は優秀だけでなく誰よりも優しく皆を惹き付ける人格に米田は嫉妬し、優しい六花には恋心を抱くことになる。
そして、時が経ち、文雄と六花は、まるで赤い糸が結ばれていたかのように結婚した。
その時、米田は2人に激しい憤りと憎しみを覚え、2人が実験体と一緒に逃げたことを知り、松木大佐に暗殺を指示したのだ。
捕縛する様にと指示を出した斎藤教授は、優秀で気に入っていた文雄と六花の暗殺命令を米田博士が松木大佐に指示をしたことは、流星から聞き憤りはしたが、2人を失った今、米田まで失ったら、どうしようもなくなるので、今まで我慢をして知らないフリをしていた。
だが、あれから、もう5年が経つが、何一つ目に見える成果や発展がなかったので、斎藤は米田の暗殺を流星達に依頼したのだった。
【大成の過去の記憶・研究施設・夜】
「本当に、強化人間なんてできるのか?そもそも、ゴリラとか強靭な肉体なら薬やDNAに耐えることができ成功するとは思うが、ひ弱な人間は無理だろう。」
米田は、呟きながら鞄に荷物を入れて帰宅しようとしていた時、ドアのノックの音が聞こえた。
「こんな夜更けに、まだ残っている奴がいるのか。誰だか知らんが、空いているぞ。」
「失礼します。」
「誰だ、お前?なぜ、こんな場所に子供がいるんだ?」
「お久しぶりです。覚えていませんか?私は、あなたが松木大佐に暗殺するようにと指示をした神崎文雄と神崎六花の子供の神崎大成です。」
「ふん。まさか、あの忌々しい奴等の子供が、まだ生き残っていたとはな。復讐をしに来たのか?小僧」
開いている鞄の中に手を入れて、拳銃を握る米田。
「それもありますが、あなたを暗殺する様にと依頼がありましたので参りました。」
大成は、笑顔で答える。
「それは、残念だ。」
「残念ですか?」
「ああ。なぜなら、お前が死ぬのだからな。」
米田は、右手で鞄から拳銃を取り出して発砲しようとする。
しかし、先に大成が腰に掛けてあったホルスターから拳銃を抜いて発砲し、米田の拳銃を弾いた。
米田の拳銃は、後方へと転がる。
「うっ。ま、待て!誤解なんだ!ゆっくりと話し合おうではないか?な?なぁ?」
左手で右手を押さえた米田は、すぐに両手を挙げて後退り、背中が壁に密着した。
無表情で銃口を向けている大成の顔を見た米田は、ゾッとして慌てる。
「ま、待って、待ってくれ!」
大成は連続で発砲し、米田の腕、二の腕、太股、脛を次々に撃ち抜いた。
「ぐぁ、ぐっ…。」
撃たれた米田は立てなくなり、壁に凭れる様に倒れる。
大成は、銃口を向けてたまま無表情で米田に歩み寄る。
その時、ドアから1人の少女が部屋に入って来た。
「大成、終わった?あれ?まだ、終わっていなかったの?」
部屋に入って来たのは、着物姿の栞だった。
「あっ!大成、その人に言いたいことがあるから、殺すのは少し待って欲しいのだけど。」
栞は、笑顔を浮かべて米田に近づく。
「た、頼む、頼むから助けてくれ!お金ならいくらでもやる。なぁ、だから…。」
本能が最後の望みだと思った米田は、必死にすがる。
「あら、ごめんなさい。それは、無理かな。一応、あなたには感謝しているの。だって、こうして大成に巡り逢えたのだから。だから、私は、そのお礼が言いたかっただけ。それに、大成のご両親の暗殺を指示したのは頂けないわ。あの世で、大成のご両親に謝罪しなさい。あっ!でも、それも無理な話よね。だって、あなたは地獄に行くのだから…。地獄で苦しみながら、反省と後悔し続けなさい。じゃあね。」
最後にニッコリと笑顔を浮かべる栞は、最後にバイバイと右手を小さく振るって離れた。
「ま、待ってくれ、お願いだ。助け…。」
立ち去る栞に、必死に手を伸ばそうとする米田だったが、額に銃弾が当たり息絶えた。
大成は、無線で斎藤に報告する。
「もしもし、大成です。無事に依頼を達成しました。」
「そうか。米田は逝ったか。」
「はい。」
「ありがとう、感謝する。」
「いえ、こちらこそ、復讐の機会を与えて下さり感謝しています。」
「そうか…。」
「では、失礼します。」
「ああ、本当に感謝する。大成君。」
(文雄、六花、すまない。私は、君達の愛する子供に人を殺めさせてしまった。だが、私はこれで良かったと思う。他人に暗殺を依頼して始末させるよりも、本人の手で始末させた方が良いと思ったからだ。)
無線が切れ、斎藤は一息し、心の中で文雄と六花に謝罪をした。
【大成の過去の記憶・研究施設の外・夜】
依頼を達成した大成と栞は、研究施設の外に出ていた。
「お父さん、お母さん。終わったよ…。」
大成は、夜空を見上げて小さく呟いた。
「大成、何しているの?早く、戻るわよ。」
大成の前を歩いていた栞は、大成に振り返って駆け付け、笑顔を浮かべながら大成の手を握って引っ張る。
「そうだね、栞。」
大成も笑顔を浮かべて、栞と手を繋いだまま一緒に走る。
次回、大成復活します。そして…。
短く済ませるつもりが、長くなり申し訳ありません。
もし宜しければ、次回もご覧下さい。




