奈々子とツカサ
魔王達は、ヘルレウス、【漆黒の魔女】と言われたリーエなど、全戦力で暴走した大成を止めようとする。
そして、魔王達は瀕死状態に追い込まれたが、どうにかジャンヌが暴走した大成を止めることに成功した。
【魔人の国・ノミリア国】
ノミリア山でジャンヌの思いの力で、大成を元に戻すことができたが、魔王達は深手を負い、ジャンヌ達は一旦ノミリア国へと帰国した。
それから3日が経ち、魔王達の傷は癒えたが、ただ1人大成だけは傷は癒えても目を覚ますことなく、呼吸が少しずつ弱くなっていった。
ノミリア国の多くの医者達に大成を診てもらったが、結局、原因はわからず、ただ見守ることしかジャンヌ達はできなかった。
【ノミリア国・診療所】
「大成…」
大成のベッドの周りには、ジャンヌ、ウルミラ、エターヌ、マキネ、イシリア、ユピアの6人が心配した表情で見守っていた。
ドアが開く音が聞こえたので、ジャンヌ達はドアに振り向く。
ドアから現れたのは、魔王達だった。
魔王達は、静かに病室に入る。
「お前達、そろそろ休め。体を壊すぞ」
「あの、お父様。お願いが…。」
ジャンヌは、父・魔王に話し掛けたが、魔王は手を前に出して途中で止めた。
「言いたいことは、わかっている。神崎大成を連れてラーバスに帰国し、キノルに診てもらおう。それで、良いな?お前達」
「「ハッ!」」
頷くローケンス達。
「「ありがとうございます」」
ジャンヌ達は、一斉に立ち上がり、お辞儀をした。
「マミューラ。すまないが、お前に頼みたいことがある」
リーエは、マミューラに声を掛ける。
「はい、わかっていますリーエ様。私はコイツと一緒にエルフの国に戻って、ソルの戦死などの報告をしてきます。報告しないと後々、面倒になりかねませんからね」
壁際にいたマミューラは、自分の背後に隠れてビクビクしている1人のエルフの兵士の服を引っ張って前に出した。
生き残ったエルフ兵士は、確かに大成が投擲した矢が心臓部に刺さったが、矢は胸元に刺さる前に木の枝などに接触して貫通したが、少し威力が落ち、胸元に仕舞っていた木と鉱石でできた御守りに当たったことによって、命拾いをしたのだった。
「そうだな。そちらは、任せるぞ。マミューラ」
魔王は頷く。
「ああ」
魔王とマミューラは、拳を軽く握って拳同士を合わせた。
そして、マミューラはエルフの兵士を連れてエルフの森へと戻り、魔王達はラーバス国へと帰国した。
【魔人の国・ラーバス国・キノル病院】
病室のベッドには大成は寝込んでおり、傍にはジャンヌとキノルがいた。
キノルは、黙って大成の左手首を触れて脈拍を診ている。
ジャンヌは、祈るように胸元で両手を合わせて握り締めながら、不安な表現で見守っていた。
「あ、あのキノル先生!大成の容態は?」
「これは、非常に不味いねぇ…。ジャンヌちゃん、残念だけど、もう私の手には負えないね」
小さく左右に首を振りながらキノルは、そっと大成の左手を戻した。
「そ、そんな…」
最後の希望が途絶えたジャンヌは、瞳から涙が溢れる。
「ジャンヌちゃん、修羅様が衰弱している原因はかなり厄介でね。病気や怪我が問題じゃないんだよ」
「どういうことですか?」
キノルの話を聞いたジャンヌは、左手で涙を拭いながら尋ねたが、ハッと思い当たった。
「ま、まさか、呪いですか…?」
暴走した大成の姿を思い出したジャンヌは、口元に手を当て小さく呟いた。
「いや違うよ、ジャンヌちゃん。修羅様自身が死のうとしているんだよ。わかりやすく言えば、魂、いや精神的な問題だよ。」
「どうにかならないのですか?」
「そんな顔をしないで、ジャンヌちゃん。私は無理でも、まだ修羅様を助ける方法、いや可能性と言った方が良いね。その可能性が1つだけあるよ」
「どうすれば、大成を助けれますか?」
「随分前に、亡くなった知人が使っていた光魔法の【ソウル・ゲート】という魔法だよ。【ソウル・ゲート】は、相手の心の中に入れる特殊な魔法でね。それなら、もしかしたらってことだけどね。」
「光魔法ですか…。それって、人間、もしくはエルフに頼るってことですよね?」
「そうさね。修羅様を助けたいのなら、もう、そうするしか手はないよ。あとは、どうするかはジャンヌちゃんや魔王様次第だね。」
「それって…」
「そう、ほぼ無理だね。修羅様は、人間の国の聖剣達を倒したり、多大な被害をもたらした張本人だからね。だから、希望があるとしたら、エルフの国だね。うちらとは何も争いごとや問題事、揉め事もないから、まだ可能性があると思うよ。ただ1つ大きな問題があるとすれば、エルフの国は、過去にあった大事件以来、異種族は女性しか入れない結界を張ったからね。ある意味、男性入国禁止だね。まぁ、エルフのマミューラが説得すれば可能性があると思うよ。だけど、時間がないね。」
「あの…。それに、別の問題もありまして…。」
気まずそうになったジャンヌは、キノルにノミリア山で、大成がエルフの国の王子ソルを倒してしまったことを説明した。
「そんなことがあったのかい…。それは、非常に不味いねぇ」
「はい…。なので、エルフの国も、おそらくは…。」
「絶望的だね。だけど、諦めるのはまだ早いよ、ジャンヌちゃん。」
「え?」
「人間の国の聖剣【慈愛の女神】と言われている少女なら、きっと【ソウル・ゲート】が使えるはずだよ。それに、彼女はとても優しいという情報があるから、もしかしたら協力してくれるかも知れないよ」
キノルは、力強く頷く。
「確かに、聖剣になれるほどの実力の持ち主なら、きっと…。」
ジャンヌは、顎に手を当てたまま納得した。
「ところで、気になっているのですが、大成は…。」
大成の寿命を尋ねたかったジャンヌだったが、最後まで言葉にできなかった。
「「……。」」
深刻な表情をしているキノルは、すぐには答えず、沈黙が場を支配する。
「……。ジャンヌちゃん、落ちついて聞くんだよ。」
「はい……。」
左胸に右手を当て、次第に高鳴っていく自分の鼓動を必死に押さえるジャンヌ。
「とても酷な話だけどね。修羅様の余命は、長くもって2~3日だね。」
一度目を瞑って深呼吸したキノルは、ゆっくりと、そして、ハッキリと言葉にした。
「そ、そんな…。もう、時間が…。」
全身の力が抜けたジャンヌは、その場にへたり込んだ。
遠く離れているエルフの国は無理だったが、ラーバスから近い人間の国は1日あれば辿り着く。
しかし、大成を救うために魔王達と相談し、それから、人間達との交渉していたら、確実に間に合わないと誰もが理解できた。
自失しているジャンヌの瞳から涙が溢れるのを見たキノルは、腰を落として、そっと優しくジャンヌ抱き締めた。
「大成、大成…大成……。」
ジャンヌは、泣きながらキノルにしがみつき、大成の名前を連呼する。
「ジャンヌちゃん」
キノルは、優しくジャンヌの背中を撫でた。
その後、ジャンヌが落ち着きを取り戻したので、キノルは病室を出て、病院の前に待機している魔王達に大成の容態を説明した。
魔王達は、暗い表情なり言葉を失った。
【魔人の国・パルシアの森・夕方】
雨が止んだパルシアの森は、夕陽により木々などが紅葉したかの様に赤く染まっていた。
そんな美しい森は、まるで自然が人を寄せ付けないように、木の太い根が盛り上がっていたりして、アップダウンが激しくなっている。
そんなパルシアの森の中、聖剣【慈愛の女神】の奈々子が息を切らしながら1人で走っていた。
ウルフ群れから奇襲を受けた奈々子は、左肩から血が流れており、右手で押さえて【ヒール】を唱え傷を癒しながら必死にウルフの群れから逃げていた。
「きゃっ」
泥濘に足が取られた奈々子は、転倒した。
「うっ、大成…」
全身泥塗れになった奈々子は、歯を食い縛って涙を溢しながら立ち上がり、必死に魔人の国ラーバス国に向かって走る。
【過去・人間の国・バルビスタ国・バルビスタ城】
大成が【ブラッド・ヒール】によって暴走し、流星達が帰国した日。
「……。という状況になり、撤退しました。」
「どういうことだ!勇者よ」
流星の結果報告を聞いた国王は、激怒した。
「被害は聖剣の鷹虎兄弟が倒され、そして、私の撤退の指示を無視したゴンザレス、アーインも倒されたとのことです」
「そういうことではない!さっき、勇者、貴様は言ったよな?一人だったらラプラスを倒せたと。なぜ、そうしなかったのかを聞いているのだ!」
国王は立ち上がり、椅子の肘掛けに立て掛けていた装飾が施された派手な剣を握り鞘から抜いた。
「あなた…」
「お父様…」
妃とメルサは止めようとしたが、国王の威圧感の前では何もできなかった。
国王は殺気を放ちながら、未だに片膝を床について敬礼している流星に歩み寄り、剣の切っ先を流星の目元で止めた。
護衛騎士団だけでなく、マールイやアエリカ、ユナールなどの聖剣達も固唾を飲み、奈々子とツカサは、心配した表情で見守っている。
「失礼ですが、1つお聞きします。バルビスタ国の出身の聖剣は私しか生き残っておらず、その私がラプラスを倒すために残った場合、一体、誰がメルサ姫を守るのですか?」
流星は、特に気にした様子もなく平然と尋ねる。
「アエリカ達がいるだろ」
「お言葉ですが、如何に仲間になったとはいえ、力でねじ伏せて従わせているだけの関係です。この機を利用して、アエリカ達が手を組んでメルサ姫を人質にするかもしれないと思われないのですか?」
「そ、それはだな…」
殺気が消えて言い淀む国王。
「そういうことです。納得して頂けましたか?」
「ああ、そうだな……。熱くなっていた」
国王は、剣を鞘に収めて後ろに振り向き、再び椅子に座り込む。
妃とメルサ、奈々子、ツカサは、ホッと胸を撫で下ろした。
「で、勇者よ。これから、どうするつもりだ?」
「魔人の国には、お伽噺に出てくる、あの【漆黒の魔女】がいます。下手に手出しをした場合、返り討ちに合う可能性がありますので、今は様子を窺った方が賢明かと。」
「なら、いつ攻めるのだ?」
「そうですね、相手の出方次第です。いざとなったら、レッド・ナイツを進軍させます。その間に、人間の国の各国の信頼関係を力の支配でなく、手を差し伸べて信用関係を築いていくつもりです。」
「わかった。だが、信頼を得ることは容易くないぞ。難しいことだぞ」
「私に任せて下さい。異世界の知識を役立ててみせます」
「フッ、フフフ…アハハ…。面白い!任せたぞ、勇者。成功させて見せろ」
「ハッ!」
流星は、力強い眼光で頷いた。
こうして、流星はメルサを連れてバルビスタ国を出国し、各国に旅立った。
【過去・バルビスタ城内・奈々子の部屋】
奈々子はベッドの上で横になり、枕に顔を埋めていた。
ラプラスのことを思い出し、少し冷たく接したことに後悔していた。
そんな時、コンコンっとノックの音が聞こえた。
「誰ですか?」
「私だよ、奈々子」
ツカサの声がしたので、奈々子はドアを開ける。
「ツカサちゃん、どうしたの?こんなに夜遅くに。とりあえず、中に入って」
奈々子は、ツカサの表情が暗いことに気付いて心配した。
「うん、ありがとう…」
奈々子に手を引かれて、ツカサは部屋の中に入った。
ツカサは、奈々子と一緒に2人で力を合わせて作った手作りのちゃぶ台の前に座った。
「奈々子、夜遅くごめんね…」
苦笑いを浮かべるツカサ。
「どうしたの?何かあったの?」
奈々子は、持ってきたお茶をちゃぶ台に置き、ツカサの対面側に座って心配した表情で尋ねた。
「……。」
唇が小さく動いたり、閉じたりしてツカサは言い淀む。
奈々子は、ツカサが何か自分に言いたいことがあると伝わってきたが、声を掛けずにツカサが話してくれるまで待つことにした。
そして、数分間の沈黙が訪れ、ツカサが話し出す。
「あ、あのね、奈々子」
「うん、何?」
「流星さんとメルサ様から、そ、その口止めされていることがあるの…」
ツカサは、申し訳なさそうな表情で目を逸らし、声が小さくなった。
「えっ!?」
全く気付かなかった奈々子は、驚いた。
「あ、あのね…。ラプラスの正体のことなんだけど…」
「そのことなら、もう知っているよ。今日、王様が魔王修羅と言っていたけど?」
「そうだけど、違うの!その魔王修羅の正体は、前、奈々子が話していた好きな男の子と同じ名前の神崎大成って言う名前の男の子だったのよ」
「う、嘘…。だって、性格が全く違うし、それに、ラプラスも私のことを知らな…ま、まさか…」
「ごめん、奈々子。流星さんと私の能力で」
「そ、そんな…」
「本当にごめんなさい。流星さんから頼まれて能力を使ったの。それに、ラプラスの正体を知っていて、今までずっと、奈々子に黙っていたり隠していて…ごめんなさい、ごめんなさい…ごめんなさい……。」
俯きながら何度も謝罪するツカサは、体を震わせて涙を溢した。
その涙は、手の甲に落ちる。
「もう良いよ、ツカサちゃん。話してくれてありがとう。だから、もう泣かないで」
奈々子は、そっとツカサの背後に周り、優しく抱き締めた。
暫く経ち、ツカサは落ち着き、奈々子は立ち上がった。
「お茶冷めたね。入れ直してくるよ」
ちゃぶ台に置いてある湯飲みに手を伸ばそうとする奈々子。
「神崎君は暴走しているけど、まだ死んでない。【慈愛の女神】と呼ばれている奈々子なら神崎君を救えるはずだよ。きっと」
ツカサの話を聞いた奈々子は、手が止まった。
「無理だよ…。だって、私は回復魔法しか使えないんだよ。」
「奈々子なら、きっとできるよ!だって、奈々子は人間の国で一番のヒーラーなんだよ。今は、回復魔法しか使えないかもしれないけど、それなら、これから解呪の魔法を勉強して取得すれば良い。奈々子には、才能がある。大丈夫、神崎君を元に戻せるはずだよ。」
「そうだね。ありがとう、ツカサちゃん。する前に諦めていたら何もできないよね。それに、ツカサちゃんに言われると、何だかできそうな気がしてきた。私、明日から図書館に行って調べたり、シスター達に聞いて勉強してみるよ」
「私も、微力ながら協力させて貰うね。奈々子」
「ありがとう、ツカサちゃん」
奈々子とツカサは、両手で握手した。
次の日、朝早くから奈々子とツカサは、早速、図書館へ行き、解呪について記載されている本を手当たり次第に取っていく。
沢山の本を机に置き、2人でそれぞれの本を開いてページを捲り、調べていった。
奈々子は、途中で怪我をした患者を治療するために図書館から退出したが、ツカサは1人になっても、調べるのをやめることはなかった。
そして、日が暮れ、夜空に星が見えるようになっていた。
ツカサは、食事をとることもせずに調べ続けて、とうと1つの可能性に行き着く。
そう、【ソウル・ゲート】を見つけたのだ。
「あった!これなら!」
ツカサは、嬉しさのあまり、大きな声を出しながら立ち上がった。
「あっ!」
すぐにツカサは、周囲の視線に気付いた。
周囲には、ツカサ以外にも人が数人おり、驚く人や不愉快な目でツカサを見ている人などがツカサに視線を向けている。
「す、すみません、ごめんなさい」
ツカサは、謝罪をしながら出した本の山を片付けて、可能性がある一冊の本を借りて、大切に本を抱き締めて図書館から退出した。
(奈々子、見つけたよ!)
ツカサは、奈々子がいる診療所へと向かう。
そして、奈々子はツカサと一緒に【ソウル・ゲート】の訓練をして、約1ヶ月の月日を経て取得に成功した。
「おめでとう!奈々子」
「ありがとう、ツカサちゃん」
お互いに喜び合いながら、両手でハイタッチをした。
「だけど、ツカサちゃん。最後の問題は、出国だよね…。」
「そうだね…。」
喜びから一転、すぐに暗くなる奈々子とツカサ。
人間の国は、出国する際には審査があり、厳しかった。
特に、聖剣となった奈々子とツカサは、国王の許可が必要で厳重だった。
なので、どうやって自分達が人間の国を出国するかが1番の問題だった。
「ねぇ、ツカサちゃん。何か良いアイディアある?」
「ごめん、奈々子。今のところ、思い浮かばないよ」
結局、2人は良いアイディアが思い浮かばず、夜中に強攻突破を試みることにした。
しかし、やはり見つかってしまい、2人は追われる。
このままだと2人とも捕まってしまうと思ったツカサは、奈々子を逃がすために自身が囮となった。
ツカサは、自身の能力【チャーム】を使って時間を稼いでいたが、アエリカ達が現れて取り押さえられ捕まってしまった。
だが、奈々子を逃がすことに成功してホッとした。
【魔人の国・ラーバス国・入国審査の門・夜】
真夜中、月が雲に隠れてポツポツと雨が降る中、ジャンヌとウルミラは大成のことで眠れず、寝間着の姿のまま、傘をさしてキノル病院に向かったが閉まっていた。
その後、2人は気付くと、大成とよく待ち合わせをしていた門の近くまで足を運んでいた。
「これは、ジャンヌ様にウルミラ様。こんな夜更けに、どうかされましたか?」
監視員のロガンが、2人に気付いて驚いた声をあげた。
ロガンは、ジャンヌとウルミラが小さい頃から、監視員となっていたので、ジャンヌ達が出かける際には、よく会っていた。
「ロガン、気にしないで。外出するつもりはないから。ただ、夜の散歩をしていただけ。それよりも、警備よろし……」
「「誰だ!」」
ジャンヌは、苦笑いをして答えていた時、門の外に待機している門番6人の大きな声が聞こえた。
門番達の声で、休憩所で休憩をとっていた門番達も続々と駆けつけて集まる。
「ウルミラ!」
「はい、姫様!」
ジャンヌとウルミラは、武器を所持していなかったが、門の外へと出ようとした。
「待って下さい!ジャンヌ様、ウルミラ様。ここは、我々にお任せを」
「いいえ、私達も行くわ」
ロガンは、ジャンヌとウルミラを止めようとしたが、2人は一度ロガンの方に振り向いたが、そのまま門の外へと出た。
門の前には、泥塗れでボロボロになった1人の少女・奈々子が、ゆっくりと歩み寄る。
「止まれ!貴様、人間だな?こんな真夜中に何をしに来た?」
奈々子の姿はボロボロだったが、時間帯と奈々子が人間ということで、門番達は武器を構えて警戒した。
だが、疲弊して意識が朦朧としている奈々子は、門番達の声が聞きとれずに、ふらついた足取りで歩を進める。
「止まれと言っているんだ!止まらなければ攻撃をするぞ!」
門番が忠告するが、ゆっくりと歩み寄る奈々子。
「「ファイヤー・ボール」」
「「アイス・ボール」」
「「ストーン・クラッシュ」」
門番達は、魔力を高めて魔法を放つ。
複数の火球、氷の玉、岩の塊が奈々子に迫る。
「お、お願いします…。大成に会わせて…。」
奈々子は、涙を溢しながら小さく呟く様な声で懇願した。
奈々子の声が聞こえたジャンヌとウルミラは驚愕したが、すぐに行動に移る。
「ウルミラ!」
「はい、姫様。アイス・ウォール」
ウルミラは、すぐに氷魔法アイス・ウォールを唱えた。
奈々子の前に、巨大で分厚い氷の壁が反り立ち、門番達の魔法を全て受け止める。
「「ジャンヌ様!?ウルミラ様!?」」
門番達は、驚きの声を上げたが、ジャンヌとウルミラは答えずに奈々子に駆け寄る。
「ねぇ、あなた。さっき、大成と言ったわよね?」
「た……いせ…い……に……」
奈々子は、呟く様な小声で大成の名を呼びながら、話しかけてきたジャンヌに凭れ掛かるように倒れた。
「ちょっと!?あなた大丈夫?」
ジャンヌは、優しく奈々子を受け止めて心配した。
「大丈夫ですか?ジャンヌ様。念のために、その娘を今のうちに拘束しておきましょう。敵かもしれません」
すぐに、ロガンはジャンヌとウルミラに駆け寄り提案する。
「いいえ、この人は屋敷で看病するわ」
「な、なぜですか!?その娘は、間違いなく人間で素性もわからないのですよ。とても、危険かもしれません」
ロガンは、ジャンヌとウルミラに尋ねる。
「確かにロガン、あなたの言う通り、この人は素性もわからない人間よ。でも、今さっき確かにこの子は、大成のことをラプラスや魔王修羅ではなく、大成と言ったわ」
「それが、何なのですか?」
「わからないの?この人は、大成の知人の可能性が高いのよ」
「し、しかし、それは可能性の話です」
「ええ、その通りだわ。でも、今、切羽詰まった事態にこの人が現れたのは、偶然ではない気がするのよ」
「そんな、曖昧なことで…。ウルミラ様からも何か仰って下さい」
「すみません、ロガンさん。私も姫様と同じです」
「……。はぁ、わかりました。ですが、この件は私から魔王様に報告させて頂きます」
ロガンは、溜め息をして折れた。
「ええ、わかったわ」
「はい。いつもご迷惑おかけして、すみません」
ジャンヌは素っ気く返事をし、ウルミラはお辞儀をする。
「では、失礼します」
ジャンヌとウルミラに、一礼して立ち去るロガン。
こうして、ジャンヌとウルミラは、気絶している奈々子の両側から肩を支えて屋敷へと運んだ。
【ラーバス国・屋敷・来客用部屋】
来客用部屋は、50畳ある広さで白い壁に大きな窓はいくつもあり、中央には大きなシャンデリアと大きなベッドがある。
その大きなベッドには、奈々子が寝ていた。
少し開けられている窓から風が入り、風がカーテンレースを揺らしながら優しく奈々子を撫でるかの様に流れ、朝日が揺れているカーテンレースを通り抜けて、奈々子を照らした。
「ぅ~ん…。」
奈々子は、ゆっくりと目を擦りながら上半身だけ起き上がる。
「え、え!?ここは何処?確か、私は……。」
周りを見て驚愕した奈々子は、すぐに記憶を辿る。
「お目覚めのようですね」
突然、女性の声が聞こえた。
1人だと思った奈々子はビックと心臓が跳ね、声がした方に視線を向ける。
「「おはようございます」」
右側の離れた場所にあるドアの横には、10代のメイド1人と20代メイド2人がおり、メイド3人は一斉にお辞儀をした。
「お、おはようございます。あの、貴女方は?それに、ここは……。あ、あの大成は!大成は何処ですか?無事なのですか?」
奈々子は挨拶を返しながら、すぐに大成の心配をする。
「まずは、落ち着いて下さい」
「あ、すみません。え、えっと、その助けて頂き、ありがとうございます。」
必死に奈々子は、心を落ち着かせる。
「感謝は、直接、主にして下さい。マチ、ジャンヌ様にご報告を」
「はい!わかりましたです!コニカさん」
10代のメイド・マチは、一度お辞儀をして部屋を退出した。
「申し訳ありませんが、詳しい話は、あなたをお助け下さった、この魔人の国の姫様であられるジャンヌ様にお尋ね下さい。」
もう1人のメイドのマミアがお辞儀をしながら答えた。
「はい、わかりました。」
奈々子は、魔人の国に辿り着いたことに笑みを浮かべたが、すぐにメイド達を見て緊張した面持ちに変わり、ジャンヌが来るのを待った。
奈々子はチラっとコニカとマミアを見たが、2人は、まるで人形の様に姿勢正しく待機しており、声を掛けづらかった。
なので、ジャンヌが来るまでの間、部屋に残っている3人は無言のまま、気まずい雰囲気が漂う。
それから数分が経ち、ドアからコンコンっとノックが聞こえた。
「どうぞ」
奈々子は小さな声で促す。
ゆっくりとドアが開き、ジャンヌが姿を見せる。
「失礼するわ」
ジャンヌは、一度お辞儀をして室内に入り、奈々子に歩み寄る。
ジャンヌの後からウルミラ、魔王、ヘルレウス達が続々と入ってきたので、奈々子の表情が強ばる。
「おはよう。お目覚めは、いかがかしら?」
「お、おはようございます。あ、あの、助けて頂き、ありがとうございます」
「気にしないで。まずは自己紹介するわね。私は魔人の国の姫、ジャンヌ・ラーバスよ。ジャンヌで良いわ、宜しく。」
ジャンヌは、笑顔を浮かべる。
「は、はい、宜しくお願いします。」
ジャンヌの笑顔に見とれた奈々子は、返事が少し遅れた。
「あ、あの……。」
「ところで……。」
「あっ!お先にどうぞ」
大成のことを聞こうとした奈々子だったが、ジャンヌと言葉が重なり、ジャンヌに譲る。
「そう、じゃあ、言葉に甘えるわね。あなた、あの時、大成のことを魔王修羅やラプラスとは言わずに、大成と言ったわよね。あなたは、大成の知り合いなの?」
「はい。この世界に召喚される前は、3年間の間ですけど、大成と一緒の児童保護施設で育ちましたので。あっ、すみません。自己紹介はまだでした。私は青葉奈々子と言います。えっと、この世界だと奈々子・青葉ですね。」
「ん?奈々子だと……。はて、どこかで聞いたことのある名前ような……。」
ローケンスは、顎に手を当て思い出そうとする。
魔王達もローケンスの言葉で首を傾げる。
「ま、まさか…。お父様!この子は最近、聖剣になった【慈愛の女神】です」
1番に気付いたイシリアは、驚愕しながら言葉にした。
イシリアの言葉で、全員が驚愕して奈々子を見る。
「ほ、本当なの!?奈々子!あなたは、【慈愛の女神】なの?」
驚愕しているジャンヌは、目を大きく見開いたまま尋ねた。
「お恥ずかしいのですが、合ってます。」
大層な2つ名で呼ばれた奈々子は、恥ずかしくなり顔を赤く染めて頷いて肯定した。
「ねぇ、あなた【ソウル・ゲート】を使えるの?」
「はい、覚えたばかりですが使えます」
「「~っ!!」」
奈々子が肯定した瞬間、ジャンヌ、ウルミラ、エターヌ、マキネ、イシリア、ユピアは嬉しさのあまり、奈々子に飛び付いて抱き締めた。
「え、え、え!?」
突然の事態に奈々子は、目を白黒させる。
「驚かせて、ごめんなさい。大成は……。」
ジャンヌ達は奈々子から離れて、深刻な表情でジャンヌは説明をした。
「……という事態になっているわ。だから、あなたの力を貸して欲しいの」
「まだ、大成は生きているのですね」
「ええ、生きているわ」
「良かった……。間に合ったよ、ツカサちゃん……。」
奈々子は、胸元で両手を合わせて握り締めて、遠く離れたツカサに報告する。
「それで、大成を救うために、私達に力を貸してくれるかしら?勿論、あなたの身の安全は保障するわ」
ジャンヌは、奈々子に手を差し伸べる。
「はい!協力させて頂きます」
奈々子は、ジャンヌの手を取った。
「ありがとう、感謝するわ」
「感謝する」
ジャンヌと奈々子は握手をし、魔王は感謝を言い、ローケンス達は無言で小さくお辞儀をした。
【魔人の国・キノル病院】
昼頃、奈々子の体調が整ったので、魔王達は奈々子と一緒にキノル病院へ行き、キノルに事情を話して今回だけという条件で、皆が大成の病室に入れた。
久しぶりに【ソウル・ゲート】を見たかったキノルだったが、仕事が忙しかったので断念することになった。
【ソウル・ゲート】は、対象者の心の中に入れるが、その入る人数が多ければ多いほど、対象者の負担になるので人数を4人に絞ったジャンヌ達。
今回は、術者の奈々子、ジャンヌ、ウルミラ、護衛にリーエが、大成の心の中に入ることになり、他の魔王達は見守ることにしたのだ。
ベッドで横たわっている大成は、意識はないまま点滴をしていた。
「大成……」
大成に会えて嬉しい気持ちと残りの寿命がないと宣告されて悲しい気持ちが入り交じっている奈々子は、複雑な面持ちで優しく大成の頬を撫でる。
「大成。今、助けるからね。あの…ところで、あと1人の方がいないのですが…。」
「リーエ様」
「きゃっ」
ジャンヌがリーエの名を呼んだ瞬間、ジャンヌの影からリーエが現れ、奈々子は驚きの声をあげる。
「あの、リーエ様……。」
「話は影の中から聞いていた。」
ジャンヌは申し訳ない様な表情で話し掛けたが、リーエは手を前に出して途中で止めた。
「しかし、勝手に決めるとは良い度胸だな」
リーエは、魔王に振り向きながら睨み付ける。
「も、申し訳ありません。神崎大成に太刀打ちができるのは、リーエ様しかおらず……。」
青ざめる魔王は、すぐに謝罪をして説明する。
「はぁ、わかっている。だが、これは貸しだからな」
「ハッ」
「ありがとうございます」
魔王は頭を下げ、ジャンヌはリーエに抱きついた。
「フッ」
そんなジャンヌを見て、口元を緩めるリーエだった。
【人間の国・バルビスタ国・牢屋・夜】
奈々子のために囮となったツカサは、アエリカ達に捕まり、牢屋に閉じ込められていた。
だが、拷問もなければ聖剣剥奪もなく、反省するまでという条件のもと牢屋に閉じ込められている。
牢屋にある小さな格子が取り付けられている窓から月明かりが入り、月明かりと格子の影がベッドに腰掛けているツカサの足元を移す。
「はぁ~、私は、これからどうなるのだろう……。」
俯いたまま、ツカサは深いため息をした。
「奈々子は、無事に神崎君に会えたかな……。」
ツカサは立ち上がり、小さな窓から月を眺める。
その時、風が部屋に入り、風がツカサの頬を撫でた時だった。
「間に合ったよ、ツカサちゃん」
「っ!?」
奈々子の声が聞こえた様な気がしたツカサは、驚いた表情を浮かべたが、次第に表情は笑顔になる。
「良かったね、奈々子」
笑顔を浮かべたまま、再びツカサはベッドに向かって横になり、右腕で目元を隠した。
ホッとしたツカサは、目元と腕の隙間から涙が溢れるのであった。
【魔人の国・キノル病院・病室】
べッドに横たわっている大成を囲んでいる魔王達。
「奈々子、お願い」
「では、行きます!ソウル・ゲート!」
ジャンヌの依頼に奈々子は力強く頷き、大成の額に手を当ててソウル・ゲートを唱えた。
大成の額に当てている奈々子の手が輝き、病室を照す。
【大成の心の中】
「ほう、これが坊やの心の中か」
初めて心の中に入ったリーエは、興味気に周りを見渡す。
「これが、大成の心の中なの……?」
周りの風景を見た奈々子は、呆然と呟いた。
「ねぇ、奈々子。心の中って皆、こんなに殺風景なの?」
ジャンヌは、奈々子に尋ねる。
今まで奈々子は、治療と特訓のために人々の心の中を入ったことがあり、心の中は人それぞれで、海辺だったり、山だったり、林だったり、建物だったり、草原だったりで、自然や鮮やかな装飾などがあった。
しかし、大成の心の風景はというと、真っ白の大地に、周りは何もなく真っ黒で、まるで闇の様な殺風景した風景が広がっていた。
「こんなに殺風景な風景は、私も初めてです」
奈々子は、色んな人の心の風景を話した。
「なら、これは異常だということだな」
ジャンヌ達の背後から予想外な魔王の声が聞こえたので、驚いた表情で振り返るジャンヌ達。
「お父様にお母様、それに皆まで、どうして?」
予想外なことにジャンヌは、驚愕する。
「それは、私達が聞きたいわ」
ミリーナは、奈々子に視線を向けた。
「あ、あの覚えたばかりだから、失敗したみたいです。すみません」
奈々子は、苦笑いを浮かべながら謝罪をした。
「ダーリンの心の中に入りたかったから、私達は嬉しいかな。ねぇ、イシリア、エターヌ、ユピア」
マキネは、クルクルと回りながら話し掛ける。
「そ、そうね」
「「はい!」」
恥ずかしさを誤魔化すように返事するイシリアと元気よく肯定するエターヌとユピア。
「あの、こんなに大人数ですけど、大成さんは大丈夫なのでしょうか?それに、どちらに大成さんが居られるのでしょうか?」
ウルミラは、辺りを見渡したが広々しており、しかも何もなく、まるで地平線を見ているようだった。
「誰か来るぞ!」
人の気配を感じたローケンスは警告する。
魔王達は、大成の心の中に入っているので、武器を所持しておらず、拳法の構えをとる。
次第に、足音が聞こえてき、その足音は次第に大きくなって姿が見えた。
「「修羅様!」」
姿を確認したローケンス達、ヘルレウスは、敬礼をする。
「そろそろ来るとは思っていたが、まさか、こんな大人数で訪れて来るとは思っていなかったよ」
苦笑いを浮かべる大成。
「申し訳ありま……。」
「あなた、誰なの?」
ローケンスが謝罪をしようとした時、ジャンヌが問いつめた。
「「~っ!?」」
ジャンヌの問に、ローケンス達に緊張が走る。
「やだな、ジャンヌ。忘れたのかい?僕だよ、神崎大成だ」
大成は、苦笑いを浮かべながら歩み寄る。
「そこを動くな!」
リーエは殺気を出しながら警告し、魔王達も警戒を強めた。
「フッ、バレたか…。参った、降参だ。よく、わかったな。」
大成の姿をした何者かは、苦笑いを浮かべたまま両手を挙げる。
「お前は、何者だ?」
「フフフ……。」
リーエの質問に大成の姿をした者は、顔を俯せて手で顔を覆いながら不気味に笑いだす。
リーエ達は、大成の姿をした者を訝しげな表情で見つめる。
「はぁ、酷いな姉上。余を忘れたのか?この世界でただ1人しかいなかった弟を」
「姉上だと……。ま、まさか、お前…。マーラなのか!?」
リーエは、信じられない表情で弟の名前を言葉にした。
「そうだ、余はマーラ・ラーバス。【漆黒の魔女】リーエ・ラーバスの弟であり、初代魔王【絶対の破壊者】や【グリモアの大魔王】と言われた男さ」
大成の姿をしたマーラは、一瞬で長身になり、背中まで伸びている銀色の長い髪、魔王のローブをまとっていた。
マーラは、顔を上げて顔を覆い被せている手の指の隙間から鋭い金色の眼光でリーエ達を見る。
殺気は全くないが、マーラから放たれる圧倒的な存在感と威圧感が周囲を覆い、ジャンヌ達は固唾を飲んで冷や汗を流した。
「お前は、確かにあの時、死んだはずだ。なぜ、ここにいる?まさか、転生したのか?いや、それより、今まで坊やを演じていたのか?」
リーエは、鋭い眼光で殺気を放つ。
「1人しかいない大切な弟と再開したというのに、喜びじゃなく殺気を放ちながら質問攻めとは。まぁ良い、大切な姉上の質問だから、特別に答えよう。余は、こうして転生はしたが、姉上達が考えているのとは、おそらく違う。なぜなら、困ったことに魂は転生しているが肉体は別なのだから。確かにあの時、余は死んだ。だが、死ぬ直前に魂を【グリモア・ブック】に移すという無謀な賭けをしたのだ。そして、その賭けに勝ち、無事に転生したということだ」
「ま、まさか、大成が【グリモア・ブック】に目覚めた時、その時に貴方は大成に取り憑いたのね?」
気付いたジャンヌは、目を大きく見開きながら尋ねた。
「正解だ。流石、余の血筋だけのことはある」
笑顔を浮かべながらパチパチと拍手するマーラ。
「お聞きしますが、大成が目覚めない原因は、貴方が原因なのですか?」
奈々子は怯えた声でマーラに尋ね、魔王達は戦闘体勢になり、場の空気は一触即発になった。
「それは間違いだ、人間の小娘よ。疑っているなら、今、ここで余を倒しても良い。しかし、この場所で暴れたら、どうなると思う?器の精神が崩壊するのは間違いないぞ。それでも、試してみるか?」
「くっ」
悔しさで歯を食いしばるリーエは、手を挙げて魔王達を止める。
「あの、お尋ねしても良いですか?」
ウルミラは、オドオドしながら尋ねる。
「何だ?」
「大成さんは、何処にいるのですか?長い間、ここにいる貴方なら、ご存知のはずです」
「ついて来い、案内してやろう。だが、余を信用するかは、お前達は次第だ」
マーラは、後ろに振り返って歩き出す。
「どうします?リーエ様」
魔王は、リーエの指示を仰ぐ。
「仕方あるまい、行くぞ」
大成が何処にいるか見当がつかないため、リーエ達はマーラについて行くことにした。
暫く歩いていると、辺り一面広がっていた真っ白な大地が途中で狭くなり、マーラから5mぐらい離れた後ろにリーエが警戒しながら歩き、その後に魔王達が続く。
それから、ジャンヌ達は更に暫く歩き続けた。
ジャンヌ達は、時間が経つにつれて焦りと疑いが強まる。
なぜなら、周囲は以前として、大成どころか真っ黒で何もない風景だったことや、本当にこの方角であっているのか、マーラが自分達を迷わせているのではないかなど思い始める。
「マーラ、なぜ素直に私達を案内をする?」
「つれないな、大切な姉上の頼みだからだ」
「嘘をつくな!」
「そうだな……。まぁ、教えても支障はないか……。良いだろう、特別に教えてやろう。今回の器は、悔しいが余より優れている。是非とも手に入れたいからだ」
手を顎に当てて暫く考えたマーラは、説明をした。
「大成は、絶対にあなたに負けないわ。」
ジャンヌは力強い眼差しをして、マーラに宣言する。
「それは、楽しみだ。」
不適に笑みを浮かべるマーラ。
そして、少し歩いていたら、あちらこちらにシャボン玉の様な七色に光る玉が浮かんでおり、ジャンヌ達は足を止める。
「わぁ~、綺麗だね!ユピアちゃん」
「そうだね。エターヌちゃん」
「本当に綺麗ね」
「そうですね、姫様」
エターヌとユピアははしゃぎ、ジャンヌ達はシャボン玉に目を奪われる。
「これは、器の記憶だ。」
「「えっ!?」」
マーラから指摘され、シャボン玉をよく見るジャンヌ達。
よく見ると、奈々子やジャンヌ達の姿が映っていた。
「そろそろ、器がいる場所に辿り着くぞ」
マーラは、再び歩を進め、ジャンヌ達も歩き出す。
そして、大地が広くなった場所に、体操座りをして蹲っている8歳ぐらいの姿をした大成がいた。
「約束通り、余は案内したぞ。あとは、お前達次第だ」
マーラは、足を止めた。
「「大成!」」
「大成さん!」
「お兄ちゃん!」
「ダーリン!」
「大成君!」
「修羅様!」
大成の姿を確認したジャンヌ達は、嬉しそうな表情で大成に駆け寄る。
「……。」
大成は、ジャンヌ達に気付くことはなく、何かブツブツと小さく呟いていた。
ジャンヌ達は、手を伸ばして大成に触れようとしたが、大成の周りには見えない結界の様なものがあり、阻まれて弾かれる。
「な、何!?」
「結界でしょうか?」
ジャンヌの問にウルミラが答えた。
「いや、違うな」
リーエは、結界の様なものに触れて否定する。
「では、これは何なのですか?リーエ様」
エターヌは、頭を傾げながら尋ねる。
「それは、心の壁だ」
離れた場所にいるマーラは、腕を組んだまま説明した。
「「心の壁?」」
ジャンヌ達は、わからなかったので尋ねる。
「はぁ、やはり、予想した通りか…。お前達は、器に好意を抱いているみたいだが、器のことを何も知らないようだな。」
呆れたマーラは、溜め息する。
「そ、そんなことは……。」
「では、聞くぞ。器の両親の名前は?その両親は、どんな仕事をしていた?なぜ殺された?わからないだろ?」
「「~っ!!」」
何も言い返すことができなかったジャンヌ達は、悔しそうな表情で拳を握る。
「まずは、器のことを知ってもらおう。」
マーラは、近くにあった記憶のシャボン玉を掌で優しく触れると、シャボン玉は振動して周囲の空間に波紋が広がり、立体映像が映し出される。
次回、大成の過去の話です。
話があまり進まず、大変申し訳ありません。
もし、宜しければ次作もご覧頂けたら幸いです。




