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切なる願いと思い

ジャンヌに攻撃した大成だったが、攻撃をわざと外して、その場を離れた。


その後、ジャンヌ達はラーバスへと帰国し、行方がわからなくなった大成の情報を集める。

【魔人の国・ラーバス国・屋敷】


大成が姿をくらませて、1ヶ月が経っていた。


魔王は、すぐに魔人の国の各国に大成の名前は出さずに情報と見つけても無闇に手を出さずに報告するようにと伝達をしている。



朝早く、ジャンヌ、ウルミラ、マキネ、イシリアそれに、ジャンヌ達から大成の生存のことを教えて貰ったエターヌとユピアの6人は、大きなリュックを背負い、魔王達に挨拶をしに顔を出していた。


ジャンヌ達は、あの日から学園が休日の日や連休の日は、遠出をして大成を捜索している。



「「おはようございます」」

ジャンヌ達は、頭を下げて魔王達に挨拶する。


ジャンヌ達の前には、魔王と妃・ミリーナ、リーエ、ヘルレウスのメンバー達が集まっていた。


「「おはよう」」

「「おはようございます」」

魔王達もジャンヌ達に挨拶した。


「ジャンヌ。今日は何処へ行く予定なの?」

ミリーナは、笑顔でジャンヌ達に尋ねた。


「はい。今日はナドムの森へ、行く予定です」

ジャンヌは、左右の手でスカートの左右の裾を摘まみ一礼しながら答えた。


「ナドムの森に行くのなら、マルコシアスと娘のサリアちゃんに宜しく伝えといてね」


「はい、わかりました。お母様」

お辞儀をしたジャンヌの影からリーエが現れた。


「マルコシアスか…。そういえば、随分会っていないな。しかも、娘が生まれているとは驚きだ。フム…。その娘の祝いを兼ねて、久しぶり私も会いに行ってみるか」

ジャンヌの影から現れたリーエは、顎に手を当てて考えながらジャンヌ達と一緒に同行することに決めた。


突然のリーエの出現に護衛騎士団は、驚愕した表情で固まっていたが、魔王達は平然として会話をする。


「リーエ様が同行されるなら、私達は安心できます」

ミリーナは、笑顔でお辞儀をした。



「そういえば、ジャンヌよ。最近ノミリア山に【神様】とか【賢者様】やらとか言われている輩がいると噂されているみたいだぞ。その輩に尋ねてみたらどうだ?何か教えて貰えるかもしれん」

右手の人差し指と中指を額に当てながら思い出す魔王。


ラーバス国とノミリア国の距離は遠く離れており、噂は伝言ゲームの様に人から人へと伝わっていき、いつの間にかに【物の怪様】が【賢者様】や【神様】に変わっていった。


そのため、噂が魔王達の耳に入った時には、既に【賢者様】や【神様】になっていたのだ。



「良い提案なのですが、ノミリア山は流石に遠いので、今度にしたいと思います。今回はナドムの森へ行って、マルコシアスに知恵を借りたいと思っています」


「なるほど、マルコシアスなら何か良い案があるかもしれんな」


「はい」

頷くジャンヌ。



その時、扉からノックの音がした。

「魔王様、ノミリア国の使者が魔王様にお会いしたいとのことで…」

扉の向こう側から護衛騎士団の声が聞こえた。


「噂をすれば影がさすか…。構わん、入らせよ」


「ハッ!」


魔王の承諾で扉が開き、護衛騎士団とノミリア国の使者が部屋の中へ入る。



「こ、此度、突然な訪問に誠に申し訳ありません」

使者は、魔王達の威圧感で固唾を飲んだ。


「良い。で、私に何か用か?」


「はい。私、ノミリア国の使者のモルソンと言います。此度、我が国ノミリア国の近くにあるノミリア山の件で参りました」


「なるほど、察しはついた。最近、ノミリア山に現れた【賢者様】とか【神様】やらと言われる輩が独裁を始めたのか?」


「え?いえ、あの、【賢者様】や【神様】とは一体何のことでしょう?」


「ん?違うのか?最近、ノミリア山に現れたと聞いたぞ」


「あの大変、申しにくいのですが、何か勘違いをなされておられます。おそらく、魔王様が仰っている【賢者様】や【神様】は【物の怪様】のことだと存じます」

モルソンが発言した【物の怪様】にジャンヌ達は驚愕した表情になり、モルソンに視線が集まって、場の雰囲気が変わった。


「今、何と申したか?」

魔王は、鋭い眼光で確認するかの様にモルソンに尋ねた。


「あの…【物の怪様】ですが…」

失礼な発言をしたと思ったモルソンは、ビクッと体を震わせて恐る恐る口にした。



普段、ジャンヌは失礼がない様に魔王と話し相手の会話中は、主に聞くだけで、会話を遮ったり、話し相手や魔王から話を振られない限り、自分からは発言しないのだが、この時は違った。

「その話しを、もっと詳しく聞かせて!」


「え!?は、はい、わかりました。約1ヶ月前のことです。ノミリア山で山菜や木の実を収穫していたノミリア国の民が収穫が終わり、帰宅の最中、サイクロプスに襲われたところを【物の怪様】が現れ助けて頂きました。私達は、その民の話を聞いた時は信じていませんでしたが、その後も多くの民も助けて頂き、その話が他国に広がり、【物の怪様】を一目拝見したいという旅人達や観光の人々が増え、我が国は繁栄していきました。しかし、時が経つにつれ、他国の貴族や国王が【物の怪様】を自分のものにしたいがために捕獲や、剥製にしたいがために討伐を目論み、数多くの賞金稼ぎや騎士団を派遣されている事態になっています。このままだと、【物の怪様】が私達のことを敵とみなされるのは仕方がないにしろ、【物の怪様】の身に危険が及ぶことが心配です。どうか、魔王様。各国に【物の怪様】に手出しをしないようにとお声を掛けて頂きたいと存じ、お会いに参りました」

ジャンヌの気迫に驚いたモルソンだったが、一から事情を説明した。


「その【物の怪様】とやらの容姿は、どんなだ?」


「私も1度【物の怪様】に助けて頂いたことがあります。覚えているのは、身長はジャンヌ様より少し高く、背中まで伸びた銀色の髪に、猛獣の様な鋭い金色の瞳をしていました。それと気になることがあります。私は見ていませんが、時々、【物の怪様】が手を額に当て何かを抑える仕草をしている姿を見た者も数人います。私個人の意見ですが、あまり時間に猶予はないと存じ上げます」

説明したモルソンは、最後に暗い表情になった。



「お父様!」

ジャンヌの大きな声と共にリーエ達の瞳が鋭くなり、視線が魔王に集まる。


「ああ、間違いないようだな」

頷く魔王。


「ユピアちゃん…」

「エターヌちゃん…」

大成の生存を知ったエターヌとユピアは、嬉しさのあまり涙を流しながら、お互い抱き合った。


ジャンヌ達も表情が和らいだ。



「あの、これは…。それに、何が間違いないのですか?」

エターヌとユピアが泣き出したので、モルソンは狼狽えた。


「いや、こっちの話だ。気にするな。それより、その依頼を引き受けよう」


「ほ、本当ですか!?」


「勿論だ。私、自ら参って説得しよう」


「あなた、勿論、私達も行くわ。ねぇ?」

ミリーナの言葉にジャンヌ達だけでなく、ローケンス達も無言で頷いた。


「リーエ様は、どうされますか?」

魔王は、リーエに尋ねる。


「お前達だけでは不安だ。私も同行するに決まっているだろ」


「えっ!?え?り、リーエ様って…。もしや、あの【漆黒の魔女】様ですか!?」


「そうだが?」


「ご協力、あ、ありがとうございます」

リーエの正体を知ったモルソンは、驚愕して慌てて片足を床につき頭を下げて敬礼する。


感謝するモルソンの瞳から涙が溢れた。



こうして、魔王達は次の日の早朝にノミリア国へと出発した。




【魔人の国・ノミリア国】


魔王達は、モルソンの案内により最短距離でノミリア国に辿り着いた。


ノミリア国はノミリア山に近く、山から強い魔物が下りてくることもよくあるので、がっしりとした巨大で強固な擁壁で覆われており、出入口の門は2箇所しか設けられていなかった。


門の前には門番が4人おり、魔王達を見て警戒していたが、モルソンだと知って警戒を緩めた。


「お帰りなさいませ、モルソン様。こちらの方々は?」


「こちら方々は、魔王様方だ。くれぐれも、失礼がないようにしろ」


「「ハッ!。ようこそ、おいでくださいました。魔王様方。どうぞ、お通り下さい」」

敬礼する門番4人。


「門を開けろ!」

門番は大声を出し、門が開く。


ジャンヌ達は門を潜ると、門の傍には騎士団が左右に分かれて片膝を地面について敬礼していた。


ノミリア国は、どこの国と同じ様な作りで、煉瓦を敷き詰めた道とその道を挟むように色々な店が並び、左右の奥には家が建ち並んでいる。


しかし、多くの人の気配はあるものの、今のところただ1人も国民の姿を見なかった。




【過去・ノミリア国付近】


「柄の悪い賞金稼ぎや騎士団が多く滞在しているのなら、ノミリア国は大丈夫なの?」

ノミリア国に着く前に、ジャンヌがモルソンに国内の様子を尋ねた。


「はい、今のところは…。ですが、今の国内は賞金稼ぎや他国の騎士団が集まって殺気立っており、女性や子供などが安心して出回れない状態になっていますので、自宅待機勧告を出しています」

思い出したモルソンは、歯を食い縛った。




【ノミリア国】


モルソンから国内の情勢を聞いていたが、今は殺気どころか賞金稼ぎや他国の騎士団の姿が見えなかった。



「こ、これは一体…」

モルソンは、呆然と呟く。


「ん?賞金稼ぎや他国の騎士団の姿がないな」

魔王は、周りを見渡した。


「そうですね…」

ジャンヌは、頷きながら周りの視線に気付き、視線を感じた方角を向いた。


店や家、物陰からジャンヌ達の様子を窺う様に、民達が見ていた。


「お前達、さっさと帰れ!」

「「そうだ、そうだ!」」

家の物陰から少年5人が現れ、叫びながら魔王達に石を投げつける。


「魔王様!」

ローケンスは、魔王の前に出て右手でマントの縁を握り、飛んできた石をマントで払い除けた。


「コラ!お前達!この方々は、賞金稼ぎや他国の騎士団ではない!」


「「えっ!?ご、ごめんなさい」」

少年達は、謝罪をしながら逃げるように立ち去った。


「大変、申し訳ありません。どうか子供達をお許し下さい」


「構わない、気にするな。だが、どうして、こうなったか聞かせて貰おうか」


「はい…。本当は、先ほどお伝えしたことよりも、深刻な状態だったのです。賞金稼ぎ達が来るようになる前までは、のどかな国だったのですが、賞金稼ぎ達が来てからは、見た通りの現状になりました。その原因は、殺気や威圧感もありますが、賞金稼ぎ達の中には国民に暴力や痴漢などする者がいました。私どもは、捕らえようとしたのですが、賞金稼ぎ達は強く、捕らえるのに周囲に多大な被害がでたり、他国の騎士団の場合は「俺達を逮捕したら戦争に発展するぞ」っと脅され、手が出せない状態で…」


「なるほど。それで、手を出せず、国民に自宅に待機する様に促したのだな」


「はい…」

モルソンは、肩を竦めた。



「おお、モルソンか。帰還したのだな」

魔王達に気付いた白髪の老人が、魔王達に歩み寄る。


「ハッ!ただいま、帰還致しました。国王様」


「ん?これはこれは魔王様、お久しぶりです。遠方よりお越し頂き、ありがとうございます」


「久しぶりだな、タンダ。元気にしていたか?」


「はい。魔王様もお元気そうで何よりです」


「ああ、それにしても大変なことになっているな。賞金稼ぎ達の姿が見えないのだが」


「はい、私の力不足で申し訳ありません。賞金稼ぎや他国の騎士団を止めることができませんでした。彼らは2時間前に出国しました」

ノミリア国王・タンダは、悔しそうな表情で歯を食い縛り、握っている拳に力が入る。


「賞金稼ぎ達は、ノミリア山に向かったのか?」


「はい、おそらく…。モルソン、直ちに騎士団を率いて何としてでも止めろ。手荒になっても構わん。【物の怪様】には、返すことができないほどの恩がある。その恩を仇で返すわけにはいかないからな」


「ハッ!【物の怪様】に危害が及ぶ前に、何としてでも止めてみせます」


「任せたぞ」


「ハッ!」

モルソンは、ビシッと敬礼する。


「会話中にすまないが、賞金稼ぎ達を止めるのは賛成だ。だが、発見時に【物の怪様】とやらと交戦していた場合は、助太刀をせず速やかに帰還しろ」


「それは、何故ですか?魔王様」

タンダは頭を傾げた。


「勘違いをされて、殺される可能性があるからだ。そう心配するな。必ず、私達が止めてみせる。それに、【物の怪様】の心配よりも賞金稼ぎ達を心配した方が良いぞ」


「ククク…。確かに、そうだな」

リーエは、口元に手を当てて笑う。


「あ、あなた様は、もしやリーエ様ですか?」


「ああ。だが、もうその反応は見飽きたぞ」

リーエは、飽きた表情で溜め息を溢す。


「そんなこと、言われましても…」

困った表情になるタンダは、どうしていいかわからず、言い淀む。


「まぁ良い」


「ところで、リーエ様方は【物の怪様】のことをご存知なようですが…」


「ああ、おそらくだが、お前達が【物の怪様】という者の正体は、私達の知り合いだと思っている。詳しい説明は後だ。それより、私達はさっさとノミリア山へ行くぞ」


「「ハッ!」」

魔王達は、返事をしてリーエを先頭にノミリア山に向かう。




【ノミリア山・夜】


日が沈み薄暗くなった頃、魔王達はノミリア山の麓に辿り着いた。


「ほう、なかなかの強い魔力保持者がボチボチいるな」


ノミリア山は、ジグザグに幅5mぐらい広く道が切り開かれており、まるで観光地の様だった。


「久しぶり来たが、相変わらず登りやすい山だな」


「そうですね。これなら、夜でも登れますね」

リーエに賛同する魔王。


「ねぇ、ユピアちゃん。本当に、ここにお兄ちゃんがいるかな?」


「エターヌちゃん。ユピアは、ここに修羅様は居ないと思う」

先頭から2列目で走っているエターヌとユピアは、今のところ魔物すら見当たらないので信じられなかった。


「あの、失礼だとは存じますが、ジャンヌ様達が一緒にいるのは納得できるのですが、エターヌ殿とユピア殿は、まだ幼く危険だと思われます。それに、なぜ賞金稼ぎ達の後を追わないのですか?」

魔王達の後ろを走っているモルソンは、不服そうな表情で尋ねた。


追いかけている賞金稼ぎ達は、魔王達が通っている道は通っておらず、少し離れた木々が生い茂ている道ではない道を通っている。


なぜなら、賞金稼ぎ達は住民から【物の怪様】に遭遇した場所を聞き、転々としていた。



「安心しろ、追っている。賞金稼ぎ達の魔力を感知しているから、彼奴らの位置も把握している。ただ、この道を選んだのは、彼奴らが通った道を通るよりも、こちらの整った道を通って追った方が早いからだ。それに、こう見えてもエターヌとユピアは強く、十分戦力となるから心配はいらない」


「なるほど」

魔王の説明を聞いたモルソン達は、その後は何も言わずに魔王達を信じてついていく。


「お父様」

「ああ」

魔物気配を感知したジャンヌは、魔王に声を掛けた。


魔王達は警戒したが、スピードは落とさずに進む。


「グオォ」

前方の右側の木々の間から大きな足音と魔物の雄叫びが聞こえ、瞳が赤く光らせながら大きな手が現れて手前の木を引き抜く。


大きな手の正体は全長3mもある巨大なオーガだった。



誰よりも先に、エターヌとユピアの2人は、先頭に出てオーガに立ち向かった。


「エターヌ殿、ユピア殿!」

モルソンは助けに行こうとしたが、前にいる魔王達が手を横に出して止める。



「グオォ!」

オーガは、引き抜いた木をエターヌとユピアに向けて投げる。


エターヌとユピアは、左右に分かれて木を避け、2人は何度もお互いに交差しながらジグザグに走り、オーガに狙いを定めさせないように動く。


「グオォ!」

オーガは、2人が交差した時を見計り、右拳で攻撃する。


「ユピアちゃん」

「エターヌちゃん」

エターヌとユピアは、お互いの名前を呼び合い、オーガの拳を避けながら、2人はナイフを取り出して魔力を込め、ナイフでオーガの右腕の内側と外側から切り裂く。


「グオォ」

オーガは、悲鳴をあげながら負傷した右腕を引き、左手で凪ぎ払う様に2人を攻撃する。


エターヌとユピアは、スライディングをしてオーガの股の間を掻い潜りながら、オーガの両足のアキレス腱をナイフで切り裂いた。

前屈みだったオーガは、バランスを崩して俯せに倒れる。


「「ここっ!」」

エターヌとユピアは、スライディングした後、ナイフを両手で逆さに持ち変えて、すぐに俯せになったオーガに跳び掛かり突き刺した。


「グオ…」

両手を地面について起き上がろうとしたオーガだったが生き絶え、音を立てながら地面に倒れた。


「やったね!ユピアちゃん」

「うん!エターヌちゃん」

エターヌとユピアは、オーガの背中の上で笑顔でハイタッチをして喜び合う。



そんな中、ノミリア国のモルソン達はエターヌとユピアの戦いを見て驚いていた。


「お、おい、指定ランク4のオーガを、あの幼い少女2人だけで倒したぞ」


「ああ…しかも、鮮やかであっという間だった…」


「先ほど言ったであろう。エターヌとユピアは、強いとな」

魔王は、自慢気な表情でモルソン達に振り向いた。


「は、はい…」

呆けた顔のままモルソンは頷く。



その時だった。


「「ギャァ」」

「「うぁっ」」

賞金稼ぎ達の声がノミリア山に響いた。


「行くぞ!」

リーエは、いち早く動きながら指示を出し、木々が生い茂る中へと入る。


「「ハッ!」」

「わ、私達も追うぞ!」

「「ハッ!」」

すぐに魔王達はリーエの後を追い、少し遅れてノミリア国のモルソン達も慌てて追った。



「急げ!私達が到着する前に全滅するぞ!」

「「ハッ!」」

リーエ達は、木の枝を次々に飛び乗ったり、地面を走ったりして移動していた。


追いかけるのに夢中だったリーエ達は、間近に迫ってくる多くの気配を気付くのが遅れる。


それは、魔王達に接近していた相手もそうだった。


そして、両者が合流し、両者は慌てて戦闘体勢になる。


「「~っ!?」」

魔王達は相手側の1人の人物を見て驚愕し、相手は魔王を見て驚愕した。


「「ま、マミューラ先生!?」」

「お前達!?」

ジャンヌ、ウルミラ、イシリアの3人とマミューラは大きな声を出す。


「これは、リーエ様。お久しぶりです」

リーエの姿を見たマミューラは、すぐに敬礼する。


「久しいな、マミューラ。やっと、別の反応が見れた」

「?」

リーエの言葉の意味がわからなかったマミューラは、頭を傾げた。



「ところで、マミューラ。何故、お前がここにいる?それに、この方々は?」

魔王は、気になっていたので尋ねた。


「それはな…」

一度溜め息したマミューラは、走りながら説明をし始める。


シルバー・スカイ事件後、聖剣の虎と戦ったマミューラは重度の火傷を負い、魔人の国では完治するのに長い時間が必要と診断され、仕方なく、魔力に愛されている故郷のエルフの国へと帰国したのだ。




マミューラは、故郷に帰りたくない理由があった。


1つは、マミューラの父は魔人で母がハイ・エルフだったため、マミューラはダーク・エルフとして生まれた。


エルフは風魔法と弓が得意で、その中でも覚醒した者はハイ・エルフとなり、魔力上昇ともに上位の身体強化魔法が使えるようになる。


人間とエルフの間の子は、ハーフ・エルフとなり回復魔法が使える。


そして、マミューラと同じダーク・エルフは、攻撃魔法が得意なのだ。


エルフは、自然を愛する種族なので炎魔法が使えるダーク・エルフを毛嫌いしており、呪いの種族との偏見があった。


最後の2つ目は、会いたくない人物が1人がいる。




【過去・エルフの国・首都エレクト】


マミューラがエルフの国に帰国した際、門の前には、兵士6人と、中央には豪華な服装をしている金髪で長髪の男性が立っていた。


兵士達は、マミューラを見て嫌そうな表情を浮かべる中、金髪の男だけは笑顔を浮かべる。



「この日を待っていたぞ、マミューラ」

男は、マミューラに抱きつこうとする。


「はぁ、ソル。私は、お前に会いたくなかったのだが」

溜め息をしたマミューラは、左に移動してソルの包容を躱した。


「フッ、つれないな、我が嫁よ。まぁ、皆の前だから恥ずかしがるのもわかる」

ソルは、右手で長い髪を靡かせながらウィンクする。


「はぁ…。誰がお前の嫁だ」

再び、溜め息が零れるマミューラ。


ソルは、エルフの国の王・トネルの息子の長男で王位継承権第2位の権力があった。



ソルは、権力にものを言わせて、気に入った女性を強引に自分のものにすると噂されている。


それは、真実で現在十数名の女性を娶っていた。


そのため、ソルは長男だが王位継承権第2位で、次男のギマムが王位継承権第1位になっている。




初めは、ソルはマミューラの体が目的だった。

そして、今回もソルは、今までと同じだと思っていたが、マミューラは他の女性と違い、圧倒的に強く、権力にも屈しなかった。


そのマミューラの生き方に、ソルは憧れ惹かれる様になったのだ。



「ん?おい!マミューラ、その手はどうしたのだ?大丈夫か?」

マミューラの怪我に気付いたソルは、心配する。


「私は、これを治療するために帰ってきたんだ」


「それより、本当に大丈夫なのか?おい!そこの兵士、直ちに医療班を呼んでこい!」


「は、はいっ!直ちに!」

ソルの後ろに待機していた兵士は、慌てて動いた。




【過去・エルフの国・首都エレクト・エレクト城内・王の間】


その後、マミューラはソルと一緒に大樹と一体化したエレクト城に向かい、王の間に着いた。


王の間には、奥の椅子にエルフの国王・トネルと妃・キリサが座っており、トネルの隣には次男のギマム、キリサの隣には3年前に異世界から召喚された【戦の乙女】と言われる黒髪の着物姿の少女が立っていた。


エルフの王・トネルと妃・キリサ、弟・ギマムの3人は、ハイ・エルフで、【戦の乙女】は人間の少女だった。


トネル、キリサ、ギマムは、マミューラがダーク・エルフでも偏見はなく、マミューラが幼い頃から普通に接していた。


(コイツは強いな)

マミューラは、初めて会った【戦の乙女】を一目見て感じた。


【戦の乙女】は、マミューラと視線が合っても特に気にした様子は見せなかった。



「久しぶりだな、マミューラよ。元気にしていたか?」


「兵士から話を聞いたわ。まずは、先にその怪我を癒しましょう。話は、その後で良いかしら?」

トネルとキリサは、マミューラを自分の娘の様な視線で見る。


「はい、お久しぶりです。お元気そうで何よりです」

マミューラは、口元が緩む。


「「ヒーリング・オール」」

エルフの国のエキスパートの医療班が、マミューラの怪我を癒し、マミューラの怪我はみるみる治っていく。


「毎日、治療をすれば数週間で完治します」

医療班は、敬礼して報告して退出した。



「此度は、ありがとうございます」

マミューラは、腕や足を伸ばしてストレッチをする。


「マミューラよ。完治するまで、ここに滞在したらどうだ?」


「フフフ、それは良い提案だわ」

トネルの案にキリサは、両手を合わして肯定する。


「宜しいのですか?」


「構わん。それに、お前が国を出て、何を見て何を感じたかを聞きたいしな」


「わかりました。お言葉に甘えさせて頂きます」

マミューラは、頭を下げた。


「と、ところで、マミューラよ。そろそろ結婚して、落ち着こうとは思わないか?もし、良ければ私の息子、長男のソルか次男のギマムはどうだろうか?」


「はぁ…」

「父上?なぜ、ギマムの名が出るんだ?」

ギマムは溜め息が零れ、トネルの口からギマムの名が出た瞬間、声を荒げる。


「ソル。お前、日頃の自分の行いを忘れるな」


「くっ」

指摘された歯を食い縛るソル。



「私は、まだ自由に生きたいので、遠慮させていただきます」


「そうか…」

残念そうに肩を落とすトネルとキリサ。


「私達はね。息子の結婚相手には、貴女か私の隣にいる【戦の乙女】と言われている栞ちゃんが良いのだけど…。栞ちゃんは、異世界で会えないのに神崎・大成君って子が、一途なほど大好きなのよね…。はぁ…」

左手を頬に当てながらキリサは、困った表情で溜め息をした。


(神崎・大成だと!?大和ことだよな?ククク…、アイツはどれだけの女を誑かしているんだ?まぁ、今更だな。それに、アイツの関係者なら、ただ者ではないのは当たり前か)

大成の名前を聞いたマミューラは、不適に笑った。




それから、治療を受け続けて数週間が経ち、マミューラの怪我は完治した。


次の日の朝食後。


マミューラは、トネル達に感謝を言いに王の間を訪れていた。


「今までありがとうございました。おかげさまで、完治しました」

マミューラは、感謝をして頭を下げる。


「マミューラちゃん、貴女はこれからどうするの?やはり、魔人の国に戻るの?」

少し暗い表情で尋ねるキリサ。


「はい、教え子がいますから」


「そう、また寂しくなるわね…」

「そうだな」

キリサとトネルは、暗い表情になる。



場の雰囲気が暗くなった時、ソルが口を開く。

「マミューラ、1つ聞きたいことがある。昔、自分より強ければ結婚すると言っていたよな?」


「ああ、そうだな。ソル、今から私と戦うつもりのか?別に私は構わないが」

マミューラは、右手を前に出して掌から炎を出す。


「昔にも言ったが、お前を傷付けたくない。だから、お前に俺の戦いを見て貰い判断して貰おうかと思う」


「おい、弱者や他のエルフと戦っても認めないぞ」


「そんなことは百も承知だ。最近、魔人の国のノミリア山に【物の怪様】と言われる強い獣が出現したらしい」


「らしいか…。それはまた、確証がない話だな」


「そうだな。まぁ、期待はしてないが行くだけでも行ってみないか?」


「……。はぁ、わかった。私も暇潰しにはなるから付き合ってやる」

始めは、マミューラは断ろうとしたが、トネルとキリサの熱い視線を感じて渋々と了承した。


こうして、マミューラはソルと兵士十数名を連れてノミリア山に向かったのだ。




【魔人の国・ノミリア山・夜】


マミューラは、今までのことを魔王達に説明し終える時には、賞金稼ぎの魔力が消滅した場所に辿り着いた。


あまりの血の臭いが充満しており、表情を歪めるジャンヌ達。


辺りには、賞金稼ぎや他国の騎士団の死体が散らばっている。



その中央には死体の山があり、【物の怪様】と言われるようになった大成が腰掛けながら、血塗れになった右手の人差し指の側面の血を舐めていた。


大成の背中まで伸びた銀髪が風によって靡き、その銀髪が月光を反射して輝いている姿に、誰もが見とれていた。


「チィ、遅かったか…。坊やは完全に魔人は敵だと認識したか…」

舌打ちするリーエ。



「ふ、フフフ、やっと見つけたぞ。獣!フル・ブースト」

誰もが呆然としている中、ソルは大きな声を出しながら身体強化をして弓を構える。


「喰らえ!エア・ジェット・ストーム・ドラゴン」

大成に狙いを定めたソルは、矢に風魔法禁術エア・ジェット・ストーム・ドラゴンの魔法を込めて放った。


矢は風のドラゴンに変化して、空気の層をぶち抜く様な物凄いスピードで大成に迫る。


だが、間近まで矢が接近してドラゴンが大きな口を開いた時、大成の口元が笑った様に見えた。


その瞬間、ドラゴンは大成を飲み込んだ様に見えたが、それは、大成の残像であったため通り抜けた。


通り抜けたドラゴンは、そのまま大地と木々を飲み込んで周囲を吹き飛ばしながら遠くに離れて行った。



誰もが残像とわかった時には、大成はソルの背後に回っており、ハイキックをする。


ソルは、振り返りながら弓で防ぐが、大成のハイキックは鋭く重く威力があり、弓は粉砕されて後ろにズリ下がる。


「チィ、更にスピードとパワーが増しているな」

リーエは、大成の動きを見て舌打ちする。


「ぐっ、糞!よくも!」

完全には防ぐことができなかったソルは、鼻血が出ていた。


その場で立ち止まっていた大成は、再び一瞬でソルの懐に入り、右拳を放つ。


「なっ!?」

驚愕したソルは目を見開き、慌てて両腕をクロスにして防いだが、両腕は骨が折れて悲鳴をあげる。


「ぐぁ」

激痛で一瞬、片目を瞑った際、大成の左拳が迫ってきており、ソルは本能で頭を傾けて回避した。



しかし、大成は避けられ空を切った左拳を開いてソルの長い髪を掴み、手前に引っ張って引き寄せる。


ソルは、激痛でされるがままになり、そして、大成は右拳でソルの左頬を殴る。


「がはっ」

ソルは、何度も地面をバウンドしながら吹き飛んだ。


「ガァ、ガァ、ガァ、ガァ……」

大成は、 ジャンプして既に生き絶えているソルに馬乗りになり、笑みを浮かべながら左右の拳で何度も殴り続ける。



あまりにも狂暴な大成の姿を見て、誰もが唖然として言葉を失い、その姿を見たジャンヌ達は、大成は完全に獣化したのだ思い知らされた。


「あの面影は、まさか…。おい、あの化け物は、大和なのか?」

信じられない表情で呟いたマミューラは、魔王達に問い質した。


「はい…」

ウルミラは、今も生き絶えているソルを殴り続けている狂暴化した大成の姿を見ないように視線を逸らした。


「あれが、お兄ちゃん…何て…」

「修羅様…」

ヘナヘナと座り込むエターヌとユピア。



「ソル様が……」

「よ、よくも!ソル様を!敵討ちをするぞ!」

「「オオォ!」」

「お、おい!やめろ!」

エルフの兵士達は、怒りでマミューラの制止を振り切り大成に襲い掛かる。


エルフの兵士達は素早く大成を囲み、木の枝の上や幹の影、地面に伏せて弓を構えて、矢に風魔法を込めて一斉に放った。


大成は、体を回転させながら全ての矢を受け止めた。


「ば、馬鹿な…うっ」

「そんな、嘘だろ…がはっ」

大成の常人離れした技にエルフの兵士達は狼狽える中、大成が矢を投げ返し、次々と矢がエルフの兵士達の頭部や心臓部などの急所に刺さっていき、倒れていく。


そして、エルフ兵士達を倒した大成は、ジャンヌ達に鋭い眼光で見る。


「おいおい…。誰が、あれをどうやって止めるんだ?」

マミューラは、大成が纏っている雰囲気を感じとり、乾いた笑みを浮かべて冷や汗を流す。


「坊やを止めるために私達は、ここまで来たのだ。放置したら魔人の国が滅び兼ねないしな。油断するなよ、お前達」

リーエは、先頭に出て魔力を解放する。


「「了解!」」

「うっ、何て魔力なんだ…」

「これが、魔王直属護衛軍ヘルレウス…」

ミリーナ達も魔力を解放し武器を手に取り構え、モルソン達はその膨大な魔力を間近に感じて怯んだ。


「モルソン達とエターヌとユピアは、下がっていろ!」

リーエは、すぐにモルソン達に下がるようにと指示をした。


「「……。」」

エターヌとユピアの2人は、残りたいという表情だったが大人しく離れる。


一方、モルソンの騎士団は戸惑う。

「「しかし…」」

「リーエ様の言う通りにしろ!わからないのか?悔しいが私達では役に立てず、逆に足手まといになる」

「「~っ、了解」」

モルソンの指示で騎士団は、その場から離れた。


「あとは、任せました。ご武運を」

「任せておけ」

モルソンは、リーエ達にお辞儀をして避難する。



「ところで、ローケンス。何か作戦はあるのか?」

マミューラは、視線は大成に向けたまま尋ねる。


「ない」


「おい、即答か」


「当たり前だろ。修羅様の強さは、リーエ様を超えるほどだぞ。そんな、実力者に小手先の戦術が通用すると思うか?」


「ククク…思わないな…」


「笑いごとではないぞ!マミューラ」


「じゃれ合うのはやめろ!坊やが動くぞ」

リーエが警告した時、離れていた大成は右腕を内側から外側に振るう。


「避けろ!」

寒気がしたリーエは、大きな声を出した。


「「くっ」」

ジャンヌ達は、慌てて一斉にその場でジャンプする。


ジャンプして着地したジャンヌの周囲は、変化はなかった。


しかし、ワンテンポ遅れて周囲の生い茂ていた木々がバッサリと伐れており、大きな音を立てながら倒れた。



大成の右手には真っ黒な村雨が発動していたが、大成はすぐに解除する。


「おいおい、冗談じゃないぞ。魔力どころか発動兆候が全く感じなかったぞ」

マミューラは、冷や汗を流しながら伐られた木々をチラッと見て固唾を飲む。



「冗談ではないのは、これからよ。ミューちゃん」

いつも笑顔を浮かべているマリーナだったが、今は冷や汗を流しながら真剣な面持ちなっており、レイピアを握っている手が小刻みに震えていた。


震えているのはマリーナだけでなく、リーエを除く全員だった。


「来るぞ!」

「オール…」

リーエが警告した時には、大成はオール・エレメント・シェアを唱えようとしたミリーナの懐に入っていた。


「「なっ!?」」

誰もが驚愕する中、ミリーナは驚愕しながら杖を振るい牽制しようとしたが、先に大成の拳がミリーナの鳩尾に入った。


「うっ」

ミリーナは、くの字になり、その場に倒れる。


「よくも、ミリーナを!」

妻のミリーナを倒された魔王は、激怒して双剣で大成を斬った。


しかし、手応えはなく、大成が蜃気楼の様の揺れた。


「なっ、残像…」

斬ったのは大成の残像だと気付いた時、大成が懐に入っており、大成の右拳のアッパーが魔王に顎に決まった。


「がはっ」

魔王は白目を向き、両足が宙を浮いた。


「魔王様!」

ニールは、物凄い速さで大成に迫り、腕を巨大化して攻撃をしようとしたが、大成は右手で宙を浮いている魔王の足を掴み、魔王をニールに叩きつけた。


「ぐぁ」

魔王とぶつかったニールは、地面に叩きつけられ、周りの地面にひび割れができて気を失った。


「ニール」

近くにいたシリーダは、【雷歩】を使って距離を取りながら稲妻を帯びた鞭で攻撃するが、大成は右手掴んでいる魔王をシリーダに向けて投げ飛ばした。


投げられた魔王は、まるで弓で放たれた矢の如く速く、シリーダの鞭に当たりながら、そのままシリーダに迫る。


「きゃ」

距離が近かったシリーダは、完全に避けることができず、左肩に魔王がぶつかり、脱臼して体勢が崩れる。


「うっ」

投げ飛ばした魔王の影に隠れて潜んでいた大成が、シリーダの死角から飛び出した。


シリーダは、咄嗟に鞭を握っている右手で払おうとしたが、大成が左手でシリーダの右手首を掴み、右拳でシリーダの横腹を殴って気絶させた。



大成の左右からマリーナとウルシアが迫る。


「セブンズ・スピア」

「ニブルヘルム」

左側のマリーナは、レイピアで7段突きを放とうとし、右側からウルシアは冷気を纏った矛でニブルヘルムを放とうとする。


大成は、右手でシリーダの鞭を拾って、鞭でレイピアを握っているマリーナの右手首に巻きつけてた。


「え!?くっ」

驚いたマリーナは、すぐに巻きついた鞭を外そうとしたが、大成はそのままウルシアに向かって鞭を振るう。


「きゃあ」

鞭を外すことができなかったマリーナは、両足が宙に浮き、ウルシアに向かう。


ウルシアは、自分の矛がマリーナに当たらない様に、咄嗟に凪ぎ払おうとした矛を途中で止めて攻撃を中断した。


だが、そのせいで体が硬直し、マリーナとぶつかる。


「「きゃっ」」

マリーナとウルシアは、お互いに絡まりながら勢い良く、伐られて倒れている木々に衝突した。

だが、そこで止まることなく、木々を薙ぎ倒しながら山を下っていった。



気配を消して大成の背後を取ったローケンスとマミューラ。


「ハッ!」

「オラッ!フレイム・エクスプロージョン・ナパーム」

ローケンスは大剣でなぎ払い、マミューラは後先考えずに右拳に炎魔法禁術フレイム・エクスプロージョン・ナパームを纏い重度な火傷を負いながら大成に攻撃する。


しかし、目の前にいたはずの大成が消え、2人の攻撃は空振りに終わった。


攻撃を避けられたローケンスとマミューラは、瞳を大きく開いて冷や汗が流れる。


すぐに大成を探そうとした時、ローケンスが振り抜いた大剣の鋒の上に大成が笑みを浮かべて立っていた。


ローケンスとマミューラは、大成の気配に気付いて振り向こうとしたが、2人は大成に顔面を蹴られ吹っ飛ばされる。


「「がっ」」

吹っ飛ばされたローケンスとマミューラは、リーエに向かう。


「シャドウ・ゲート」

リーエは、右手を前に出して闇魔法禁術シャドウ・ゲートを唱えた。


リーエの影は2つに分かれ、前に出てリーエと飛んで来るローケンス、マミューラの間の位置で停止してローケンスとマミューラを飲み込み、影は元通りに戻った。


影に飲まれたローケンスとマミューラは、元通り戻ったリーエの影から倒れた姿で現れた。



「はぁ~。よくもまぁ、たったの1ヶ月の間で更に強くなったもんだ。坊やは一体どこまで強くなるつもりだ?」

リーエは呆れた表情で溜め息を吐き、普段通りを装っていたが、冷や汗が流れて手が震えていた。


「リーエ様…」

リーエの後ろにいるジャンヌ達は、リーエの手が震えていることに気付いていた。


「何だ?ウルミラ」

「あ、あの、その手…」

ジャンヌ達は心配な表情で振り向いているリーエを見つめる。


「これは、ただの武者震いだ。それより、お前達は魔王達を救出しろ」

リーエは、手を出して震えている手を握り締めた。


「「はい…」」

渋々と了承するジャンヌ達は、ローケンスとマミューラを担いで離れる。


「さぁ、始めるか。行くぞ、坊や」

ジャンヌ達が離れたことを確認したリーエは、魔力を解き放つが、その瞬間、大成が消えた。


大成は、一瞬でリーエの背後に回っていた。



「シャドウ・ゲート」

大成は、笑みを浮かべながら右手を横に振い、鋭い爪でリーエの首を切り裂こうとしたが、リーエは自分の影に潜り込んで躱す。


仕留めたと思った大成は、驚愕して目を見開き、影と一緒に気配が完全に消えたリーエの行方を探す。


リーエの影の中は、異次元と繋がっており、完全に隔離されているため、気配を完全に消すことができるが、その分、魔力消費が激しい。


連続4回使用すれば、魔力枯渇になる。



「ブラック・ジャック・ナイフ」

大成の背後の木の影からリーエは現れ、闇魔法禁術、ブラック・ジャック・ナイフを唱えて、真っ黒なナイフを50本を放つ。


大成は右手を大きく振り、鎌鼬を発生させてナイフを弾き飛ばし、木々を切り裂きながらリーエに迫る。


鎌鼬は範囲が広く、リーエは避けることができない。


「シャドウ・ゲート」

本来のリーエなら、身体強化と自己再生をして耐えるか、魔法で迎撃するのだが、連続3度目のシャドウ・ゲートを使った。


「ブラック・ジャッジメント・ソード!」

リーエは、大成の影から現れると同時に圧縮した闇の剣を召喚して、大成の背後から斬りかかる。


闇の剣が大成の後頭部に迫る中、背後を警戒していた大成は、反時計回りに回りながら闇の剣を握っているリーエの右手を左肘で骨を折り、 右拳でリーエの左頬を殴り飛ばした。


「うっ」

リーエは、回転しながら地面を何度もバウンドして転がり、ジャンヌの近くで止まった。


「リーエ様!」

慌ててリーエに駆けつけたジャンヌは、リーエの体を抱き抱える。


リーエは、自己再生で怪我はなかったが、魔力枯渇で息を切らしていた。


「どうして、あんな無茶苦茶な戦い方をしたのですか?」


「ハァハァ、坊やに会う前は、どうにかできると思っていた。だが、ハァハァ…。再度、会った時、更に坊やは強くなっており、手がつけられないと実感した。だから、私は戦い方を把握される前に、始めから出し惜しみせずに全力で早期決着を選んだ。それより、ジャンヌ。ハァハァ…、皆を連れて逃げろ…ハァハァ…」

リーエは、ジャンヌの肩を使いながら起き上がり、フラついた足取りでジャンヌの前に立った。



大成は、まるで弱った獲物を弄んでいるかの様に笑みを浮かべながら、ゆっくりとリーエ達に歩み寄る。


そして、大成が走り出す。


「早く、逃げろ」

リーエは、右手を横に出して大声を出した。


だが、リーエの横をジャンヌが走り抜けて、大成に向かう。


ジャンヌは、武器を持っていなかった。


大成は右手を振るい、ジャンヌを切り裂こうとする。


「やめろ!」

リーエの悲鳴のような声が山に響く。


「~っ」

大成は、ビックとして軌道が逸れる。

大成の右手は、ジャンヌの左腕を掠って血が流れた。


「大成…。こんな姿にして、ごめんなさい。本当に、ごめんなさい……」

ジャンヌは大成に抱きつき、涙を流しながら謝る。


大成の動きが止まり、鋭い金色の瞳から涙が流れ星の様に1粒だけ頬を伝わり流れた。


「大成…。あなたを傷つける人は、もういないわ。だから、安心して。お願いだから、元に戻って…」

ジャンヌは、涙を溢しながら背伸びして、大成の唇にキスをした。


「ジャ…ンヌ……」

大成は小さな声で呟き、大成の体に描かれた魔法陣が薄くなっていき消え、長かった銀髪や金色の瞳は元の長さの黒髪、黒い瞳へと戻り、ジャンヌに凭れかかって気を失った。


「大成……。もう、本当に心配したんだから…でも、本当に、元に戻って良かった…良かったよ……。大成……」

ジャンヌは、大成の名前を呼び、ギュッと抱き締めた。


一時の間、ジャンヌは抱き締めたまま、大成の温もりに浸った。

次回は、大成の過去です。


もし宜しければ、次回作もご覧頂ければ幸いです。

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