禁忌と暴走
不意打ちを狙ったジャンヌとウルミラ。
しかし、ラプラスは2人に気付いており、右手に村雨を発動して反撃に出る。
ジャンヌとウルミラは、命懸けの捨て身覚悟の攻撃により、剣と矛でラプラスの心臓部を貫通することに成功した。
しかし、2人が見た光景は、ラプラスが自身の左手で右手を押さえて、自ら攻撃を中断していた。
そして、ラプラスのウサギの仮面が外れ、ラプラスの素顔を見たジャンヌとウルミラは驚愕した。
ラプラスの正体は、シルバー・スカイの事件で行方不明となっていた魔王修羅のこと神崎大成であった。
【パルシアの荒野・東側】
静寂が支配している中、ジャンヌとウルミラの消えそうな声が響く。
「大成…。ねぇ、大成、起きて…よ…」
「お願いですから…目を開けて下さい…。大成さん…」
ジャンヌとウルミラの2人は、涙を溢しながら必死に凭れて倒れ込んでいる大成の体を揺らす。
「……。」
しかし、無情にも大成の返事はなく、大成の体はされるがままに揺れ、徐々に呼吸が弱くなっていく。
その様子を、敵味方関係なしに誰もが2人を見守っていた。
そんな中、流星が呟く。
「予想外な展開になった」
「ええ、本当に予想外だわ…。あっ…。なるほどね。わかったわ」
話していたメルサはハッと気付き、口元に手を当て笑みを浮かべた。
「急にどうした?」
「ほら、流星。あなたが戦う前に言っていた【ある可能性】ってことよ。その可能性の意味がわかったのよ」
「ほう、なら聞かせてもらおうか?」
口元に笑みを浮かべる流星。
「ええ。まず、大成君に姫様か誰かを殺めさせて、そのショックで自分がラプラスではなく、魔王修羅だということを思い出させる。そうしたら、大成君は操った私達を憎み、その憎しみによりオーバー・ロード状態になる。最期に流星、あなたがオーバー・ロード状態になった大成君と戦うつもりだった。もし仮に、記憶操作せずに傷を癒しただけなら大成君は、あなたとは戦うでしょうけど、自力でオーバー・ロードになれないから、確実にオーバー・ロードにするために、わざわざ手間を掛けたのでしょう?」
「ああ、正解だ。流石だな。しかし、まさかショックを与える前に記憶が戻るとは想定外だった。せっかく、俺の能力で記憶の一部を封印し、ツカサに頼んでツカサの能力で記憶を改善させるという手間まで掛けたが全て無駄になった。流石、大成というところか。俺の思惑通りに事が運ばない。ところで、メルサ。大成の傷は癒せそうか?」
1度溜め息を吐いた流星は、メルサに尋ねた。
「ごめんなさい、流星。私の実力では、あの傷は手に負えないわ。奈々子なら癒せると思けど…」
メルサの表情が暗くなる。
「そうか…。気にするな、メルサ。おそらく、ムーン・ハーブやエリクシールでも無理だろう」
流星は、大成を見た。
メルサは、横目でチラッと隣にいる流星の表情を窺った。
一瞬だったが、流星の表情は悲しみに変わり、その瞳は揺らいでいる様に見えた。
聖剣が流星に駆け寄り、鷹とユナールは凄い形相で流星に迫る。
「おい!ラプラスが魔王修羅だと、なぜ俺達に知らせなかったんだ!?」
「ユナールの言う通りだ!魔王のことといい、魔王修羅といい、貴様は全く反省していない様だな」
ユナールと鷹は、問い詰める。
「はぁ、お前達に知らせたら、大成を利用せずに始末するだろ?せっかくの良い駒を、無駄にしたくなっただけだ。現に大成はお前達より強く、お前達以上に使えたと思うが?まだ何か問題があるか?」
溜め息をした流星は、鷹とユナールに視線を向けた。
「「くっ」」
鷹とユナールは、言い返すことができず、歯を食い縛った。
「はぁ」
そして、1度、目を閉じて溜め息を零した流星は目を開き、ゆっくりとした足取りで、大成達に一歩、また一歩と歩み寄って行く。
未だに諦めず、涙を溢しながら反応がない大成に呼び掛けるジャンヌとウルミラ。
近くにいるリーエは、魔力枯渇でフラフラした足取りで、ジャンヌとウルミラの背後から手を伸ばして2人の肩に手を置いた。
ジャンヌとウルミラは振り返り、リーエを見る。
リーエは、無言で頭を左右に振って2人を優しく抱き寄せた。
「「うぁぁ~」」
ジャンヌとウルミラは、リーエの胸元に顔を埋めて瞳から涙を溢して大泣きした。
「ぐず…。リ…エ様…。お願いです。大成さんを…助け…て…下さい…」
顔を上げたウルミラは、藁にも縋る思いでリーエに懇願する。
「ウルミラ。すまないが、もう手はない。どうしようないのだ」
悲しい表情で2人を強く抱き締めるリーエ。
「教えて…下さい…。ど、どうして、ラプラスの正体が大成なの…ですか。ぐずっ…。失ったはずの右腕が…なぜ治っている…の…ですか…。うぅ…」
ジャンヌは、リーエの胸元に顔を埋めたまま尋ねた。
「それは、おそらくだが…」
検討がついていたリーエは、答えようとした。
しかし、答えたのはリーエではなく、意外な人物だった。
「それはだな。光魔法の禁術、いや、正確に言えば、失われた魔法と言った方が正しいか。その失われた魔法の中に【エンジェリング・ヒール】という魔法がある。この世界では最上位の回復魔法だ。わかりやすく例えるならば、ヴァンパイアの真祖であるリーエが使っている自己再生と同等の回復力のある魔法だ」
答えたのは、流星だった。
「流星!」
メルサは、なぜ教えたのか流星に問い質そうとしたが、流星が手を前に出したので言いとどまった。
「【漆黒の魔女】なら知っていても、おかしくはないだろう?だから、教えたまでだ」
「はぁ、そうかも知れないけど…」
溜め息を吐きながら、メルサは渋々納得した。
魔力枯渇寸前のリーエは、ふらつきながら立ち上がり、ジャンヌとウルミラを庇うように2人の前に出る。
「なぜ、貴様達が失われた魔法を知っている?」
流星を睨みつけながら訪ねるリーエ。
「それは、教えられない」
不適に笑う流星。
「失われた魔法…?」
初めて聞く言葉にジャンヌは呟いた。
「ん?まさか、魔人の姫なのに失われた魔法を知らないのか?てっきり、知っていると思っていたんだが。だとしたら、お前達は知らずに失われた魔法を使っていたということか?」
「「え!?私達が…?」」
泣いて目元が赤く染まっているジャンヌとウルミラは、訳がわからずに頭を傾げた。
「その反応を見ると、本当に知らずに使っていたようだな。ある意味恐ろしい。ついでだから教えてやる。お前達が使っていたアポロン、グングニール、デス・ストーム、アイス・フリージング・キャッスル、バリスタ、メテオ・ダイブ、デス・メテオ・ヘル、ブラック・ジャック・ナイフ。あとは、魔法名忘れたが、そこの少年が使っていた背後にガーディアンを召喚した魔法に、先ほどメルサが見せた王宮の城。それらは全て禁術であり、失われた魔法だぞ。禁術は膨大な魔力、それか複雑な魔法陣とそこそこの魔力があれば使える。しかし、失われた魔法は膨大な魔力だけでなく、センスも必要となる。そのため、誰もが簡単には使えないし、その威力は他の禁術よりも桁違いに強い。だから、悪人が使用されないようにと継承させずに忘れされていき、次第にその存在は消えて失っていった魔法のことだ」
わかりやすく説明をする流星。
「貴様は、どこまで知っているのだ?」
リーエは、殺気を放ち問いかける。
流星が説明した通りに、各国が手を組んで初代魔王を倒した戦いは、後に【聖なる戦線】と語り継がれ、その戦いが終息した時、各国は禁術の中でも桁違いに危険な魔法が悪人に利用されない様に継承を禁止し、完全に闇の中に葬った魔法。
それが、失われた魔法と言われるようになった。
「さぁな。それよりも、そこを退いてもらおうか」
流星は、右手で腰に掛けていたホルスターから拳銃を抜き、銃口を大成に向ける。
「大成は、あなたと血が繋がっていないとしても、義弟みたいな間柄でしょう?なぜ、そう簡単に殺そうとするの?いえ、殺すことができるの?」
ジャンヌは、立ち上がりながら右袖で涙を拭き、キリッと流星を睨みつけながら尋ねた。
「義弟だからさ。これ以上、苦しませずに殺してやるのが、義兄として優しさだと思うが。お前達も、気付いているだろう?大成は、もう助からないと。それに、例え、相手が仲間や兄弟、家族でも俺の敵になるなら誰であろうが容赦はしない」
流星は、悲しい眼差しでウルミラの膝元で横たわっている大成を見つめる。
「だから、そこを退け。最後の忠告だ」
言葉を発した流星から圧倒的な威圧感が放たれ、リーエとジャンヌ、ウルミラの肌にビリビリとその力強さが伝わる。
「「~っ!」」
ジャンヌ達3人は、唇を噛み締めながら流星の圧倒的で暴力的な威圧感に耐え、引き下がらなかった。
「そうか、仕方ない。大成と一緒にあの世に逝け」
銃口に銀色の魔力が収束していき、流星は引き金を引こうとした時だった。
上空から、何者かが気配を消したまま降下してきていることに気付いた流星は、すぐにバックステップする。
「よくも、こんな悲劇を生んだ貴様だけは、絶対に許さん!」
上空からローケンスが降下しながら大剣を振り下ろした。
重い衝撃音と共に大地は抉れ、砂埃が舞う。
ギリギリで回避した流星は、巻き上がった砂埃が舞っている中から出た。
ジャンヌ達の前には、傷が大分癒えて目を覚ました魔王やミリーナ達、そして騎士団が集まる。
バックステップした流星は、音を立てずに片足で着地した。
流星の周りにメルサやアエリカ達が集まり、遅れて騎士団も集まっていく。
ジャンヌとウルミラの前にいたマキネが、振り返り笑顔を見せた。
「ジャンヌ、ウルミラ大丈夫だよ。ダーリンを救う手段は、まだあるよ」
「「えっ!?」」
ジャンヌとウルミラだけでなく、ミリーナ達も驚きの声をあげる。
「ほ、本当なの?マキネ」
イシリアは、嬉しさのあまり、声が震えた。
「本当だよ。だって、ダーリンに貰った練習本に書いてあったから。魔法名は、確か【ブラッド・ヒール】って魔法だよ。確か、この辺りに…。ほら!」
マキネは、大成から貰った練習本を取り出してページを捲り、【ブラッド・ヒール】のページを開いてイシリアに見せる。
マキネの口から【ブラッド・ヒール】の名前が出た瞬間、リーエと流星がピクッと反応した。
リーエは何故知っているのかと訝しげな表情になり、流星は俯いていたまま体中から膨大な魔力を解き放ち、解き放たれた膨大な魔力は流星を中心に渦巻く。
「「くっ」」
「「うっ」」
流星が発する魔力は暴風の様に荒れ狂い、メルサ達やジャンヌ達は吹き飛ばされないように踏ん張る。
「おい、魔人ども。【ブラッド・ヒール】は使わせないぞ。あの魔法は、大成を人外な者にして弄ぶ魔法だ。もし、使用するというならば容赦なく殺す」
流星は顔を上げた瞬間、殺気を放つ。
「「~っ!」」
流星の殺気を受けた魔人の騎士団は、副隊長を除いて殆どの者がその場で尻餅ついたり、気絶したりして倒れていく。
「「くっ…」」
殺気を受けて倒れなかったジャンヌ達でも、恐怖で体の芯から震えるのを必死に押し殺していた。
此処に居たら殺されてしまうと本能が最大限に警告を鳴らして訴えかけていたが、ジャンヌ達は臆することなく武器を握り締めて構えた。
「と、ところでマキネ。人外な者って、どういうことなの?」
恐怖を押さえ込む様にジャンヌは、歯を食い縛りながらマキネに尋ねる。
「ジャンヌ、ごめん…。1度も使ったことがない魔法だから、私もわからないよ」
いつもマイペースなマキネだが、今は珍しく狼狽えた。
「ジャンヌ、ウルミラ。先ほど私が助ける手はないと言ったが、1つだけ方法がある。いや、僅かな希望と言った方が正しいな。先ほどマキネの言った【ブラッド・ヒール】だ。しかし、あれは吸血鬼専用の回復魔法だ。もし他種族が使用した場合、今のところ成功する可能性は0%だ。だが、もしかしたら坊やなら成功するかもしれない。坊やのポテンシャルは、私の領域を超えているからだ。しかし、失敗すれば、大抵の者は肉体は耐えきれず破裂する。若しくは極稀に【時の勇者】が言う通りに人外な者、物の怪になる。だから、禁忌とされている魔法だ。それでも、試してみるか?」
試すような瞳でリーエは、ジャンヌ達を見る。
「このまま、何もできずに手をこまねいているよりかは…」
「そうですね。大成さんなら、きっと大丈夫です」
「そうね」
「だね。だって私のダーリンだもん」
ほんの僅かな可能性と言われたジャンヌ達。
会話では平気を装っていたが、内心は不安があった。
しかし、このまま何もできずに黙って大成が衰弱していくのを見守るしかできないことが一番怖かった。
「わかった。【ブラッド・ヒール】の準備に取り掛かる。しかし、私は、もう魔力がない。そこで、ジャンヌ、ウルミラ、マキネ、イシリアの4人は、私の手伝いをして貰う。残りは、それまでの護衛だ。相手は、私以上の化け物がいるが頼めるか?」
「ハッ!この命を賭しても、必ずや守り抜いてみせます」
魔王は、右手を胸に当て敬礼をした。
「ほぅ、あの臆病だった坊やが言うようになったな」
「いつまでも、子供扱いはやめて下さい」
「フッ、私からしてみれば、今もお前達は子供だ。まぁ、良い。任せるぞ」
「「ハッ!」」
魔王は、返事をして残りの僅かな魔力を解放する。
今までハイ・ポーションとマジック・ポーション飲んで回復に専念していた魔王達だったが、それでも万全な状態には程遠かった。
人間の騎士団と聖剣のアエリカ達も魔力を解放し、魔人達が放つ魔力と人間達が放つ魔力がぶつかり合い、ビリビリと空気が張り詰めて、一触即発な状況となった。
最初に動いたのはミリーナだった。
「リーエ様。申し訳ありませんが、お力をお借りします」
「ああ、良いだろう」
「オール・エレメント・シェア」
リーエの承諾を得たミリーナは、複合魔法オール・エレメント・シェアを唱えた。
リーエの瞳が金色に輝き、ミリーナを中心に直径500mのシャボン玉の様なカラフルな色の半球ドームが出現して、魔王達を飲み込んだ。
オール・エレメント・シェアの効力は、対象1人の第五感の1つをドーム内にいる複数の人に共有化する魔法。
今回は、流星の動きに対応できる様にリーエの動体視力を共有化したのだった。
ミリーナも含め、ローケンス達の目に魔力が上乗せされ、瞳の色はリーエと同じ金色に変色した。
「そうか…。それが、お前達の答えか…。どうしても、【ブラッド・ヒール】を使うんだな。なら、殺す」
流星は、左手で左腰にホルスターから拳銃を抜き、左右の拳銃の引き金を連続で引き、発砲して魔力弾を放ったが、魔王達に全て武器で弾かれた。
「ほぅ」
流星は、再び2丁の拳銃で連続で発砲したが、先ほどと同じく魔王達に防がれる。
流星は、無言のまま左右に握っている拳銃をホルスターにしまいながら、腰に掛けてある剣を抜刀して、一気にローケンスに接近した。
流星の動きは、味方の聖剣のアエリカ達が反応できない速度だった。
しかし…。
「見えるぞ!」
「アイス・ミサイル」
今までの魔王達なら、アエリカ達と同じで反応できずに斬られていたが、狙われたローケンスは、かろうじて反応して大剣で防いだ。
更に両サイドからウルシアとマリーナが矛と剣で流星を攻撃し、魔王が流星の真上からアイス・ミサイル35発を放った。
流星は、バックステップをして回避しながら距離をとる。
「チィ、なるほど。リーエの動体視力を共有化したのか。これは、思ったよりも面倒だな」
舌打ちした流星だったが、その表情は生き生きしていた。
「おい!いつまでも、そこでボサっとしている。お前達も攻撃に参加しろ!ブラッド・ヒールの発動を阻止しろ!」
「「り、了解!」」
流星の言葉で、我に返ったアエリカ達や騎士団も攻撃に参加する。
人間の騎士団は、己の得意な属性の攻撃魔法を放った。
魔人達がいる場所は、攻撃魔法が雨のように降り注ぐ。
しかし、動体視力が向上しているローケンス達は簡単に防いでいく。
「これは、深刻だね」
アエリカは、深刻な表情で成り行きを見守っていた。
「私達も行くよ」
「わかった」
「「了解」」
アエリカの指示で鷹達、聖剣も動く。
守られているジャンヌ達は、心配した面持ちで魔王達を見守っていた。
「お父様、お母様、皆…」
ジャンヌは、小さな声で呟いた。
「私達は、やることがあるだろう。早速、始めるぞ」
「「はい!」」
リーエの言葉で、ジャンヌ達はリーエに振り返り頷いた。
「シャドウ・ウィップ」
リーエは、闇魔法シャドウ・ウィップを唱えて、真っ黒い影の鞭を召喚した。
そして、リーエは、ジャンヌ達の眼ではとらえられない速さで鞭を振るい、魔法陣を素早く描きながらジャンヌ達に指示を出す。
「まず、私が魔法陣にを描くから、その間にマキネは皆にクナイを渡し、それぞれ正五角形の位置に移動してくれ」
「「わかりました」」
「わかったよ」
ジャンヌ達は頷き、マキネからクナイを1本ずつ貰い、それぞれ配置についたと同時に魔法陣は完成した。
魔法陣をあっという間に完成させたリーエは、大成を担いで魔法陣の中心に寝かせた。
「これで、準備はできた。まず、説明をする。この魔法は魔力だけでなく血も代償として使うから、クナイで手を切り魔法陣に血を注ぐ。そして、一番の問題である魔力不足を、この魔力を増大させるクナイと五芒星を上書きして向上させて補う。クナイのことだが、おそらく残り僅かな魔力しかない今の状態では、壊れずに済むはずだ」
遠見水晶でマキネとラプラスの戦いを見ていたリーエは、一目でマキネが使用している手裏剣やクナイ、短剣の効果を見抜いていた。
リーエが魔法陣を描いている間、魔王達から徹底的にマークされている流星は、手をこまねいていた。
「くっ、アエリカ、ヨーデル、ニルバーナ」
「「了解」」
流星に呼ばれたアエリカ達は、流星から何も指示がなかったが自分達の役目を理解した。
アエリカ達は、魔王達の目を引き付けるため、流星の前をジグザグに走って警戒を強めさせた。
その隙に流星は、一緒に攻めている騎士団を利用して、姿を隠しながらリーエに接近しようと試みる。
「いぶり出すぞ、ローケンス。アイシルク・レイン」
魔王は、氷大魔法アイシルク・レインを唱えて、上空に直径1mの大きさの氷柱を無数に召喚し、人間達に降り注ぐ。
アエリカ達は、そのまま器用に躱して行くが、後ろの騎士団は、次々に降り注ぐ氷柱によって串刺しになったり、行く手を遮られたり、足などを負傷して動けなくなっていき、数がみるみる減っていった。
「了解!エア・スラッシュ」
ローケンスは、大剣を9回振り回して9発の風の刃を放ち、タイミングをずらして最期に大きく真横に凪ぎ払いながら巨大な風の刃を放った。
9本の風の刃は、氷柱を避けながら走っているアエリカ、ヨーデル、ニルバーナに3本ずつが襲い掛かる。
「「ハァァ!」」
「ホーリー・スラッシュ」
アエリカとヨーデルは、走りながら武器で防ぎ、ニルバーナは杖を3回振り、光の刃で迎撃した。
だが、最初の風の刃にアエリカ達は目を奪われており、最後のローケンスがタイミングをずらして放った巨大な風の刃に気付くのが遅れた。
巨大な風の刃は、3人をまとめて切断しようと迫る。
「くっ」
アエリカは雷歩を使い、身体中から稲妻を放電しながら更にスピードを上げて回避に成功した。
しかし、ヨーデルとニルバーナの2人は、今の体勢と間合いでは避けることも迎撃することもできなかった。
唯一できるのは、巨大な風の刃を受け止めることだけ。
しかし、今の状況で受け止めた場合、身動きが一瞬止まるので、上空から降り注ぐ氷柱に突き刺さる可能性があった。
「「チッ」」
「任せな」
それでも、受け止めることしか選択肢がなかった2人は、悔しそうな表情で覚悟して受け止めようとした。
その時、背後から流星が前に現れた。
「俺に任せな。エンチャント・ウィンド」
流星は、自身の剣に風属性を付与し、剣は緑色の魔力を纏った。
「風刃波」
流星は、上段の構えから剣を振り下ろした。
流星の剣から放たれた風の刃は、地面を切断しながら正面から迫ってきていたローケンスの巨大な風の刃を一瞬で切断して掻き消し、ローケンスとその背後にいるリーエ達に襲い掛かる。
シリーダは、稲妻を纏わせた鞭を振り、迫ってくる人間の騎士団を感電させて迎撃していた。
「ウフフ、この程度の強さじゃあ、お姉さんを満足させることができないわよ」
色っぽい笑みを浮かべていたシリーダだったが、すぐに流星が放った風の刃に気付いた。
「あれは、とても危険ね。ボルト・ライトニング・サンダー・ドラゴン」
シリーダは深刻な表情に変わり、鞭を腰に巻き付けて、雷魔法、禁術ボルト・ライトニング・サンダー・ドラゴンを唱えながら居合い切りの様に鞭を振るった。
鞭からバチバチとスパークしながら眩しく光る真っ白で巨大な龍の形をした雷が解き放たれた。
雷龍は流星の風の刃に向かい、風の刃の側面に衝突し、激しい放電と共に風の刃を消滅させた。
だが、流星は風の刃を放つと同時にローケンスに迫っていた。
「ホーリー・アロー」
「くっ」
シリーダは、鞭で流星に攻撃しようとしたが、ニルバーナの光の矢が30本飛んできてたので、左に移動して回避しながら鞭で叩き落とすのが精一杯だった。
「感謝するシリーダ。勇者、貴様の動きは見えていると言ったはずだぞ」
ローケンスは、シリーダに感謝しながら自らも前に出て流星に接近する。
「ウォォ!」
加速した勢いを殺さずに大剣を振り下ろすローケンス。
流星は、右に一歩移動してローケンスの斬撃を避けて斬り掛かる。
しかし、ローケンスは大剣を地面に衝突させて地面を抉り、その反動で大剣の軌道を変えた。
斜め下から首元に迫る大剣に、気付いた流星は攻撃を中断し、屈んで避けながら鋭い突きを放つ。
流星の鋭い突きは、ローケンスの心臓部に迫ったが、ローケンスの横からマリーナが現れ、マリーナは剣で流星の突きを弾いた。
「あなた」
「ああ、マリーナ」
「俺を忘れちゃ、困るぜ」
マリーナとローケンスは正面から流星に斬り掛かり、それとほぼ同時に、流星の背後からガーディアン・ナイトを召喚しているマーケンスが大剣で流星に斬り掛かる。
「本当に、厄介な強化魔法と連携だな」
挟み撃ちされた流星は、高くジャンプして3人の攻撃を避けた。
「逃がしませんぞ」
ニールは、負傷してない左腕を巨大化させ、空中にいる流星に殴りにいく。
ニールの拳は、上空から降り注ぐ氷柱を破壊しながら流星に迫った。
流星は、上空から降り注ぐ氷柱を蹴って移動し、ニールの拳を避けた。
ローケンス達が流星に気を取られていた隙に、アエリカとヨーデルがリーエ達に向かっていた。
「くっ、ここは通さないぞ」
魔王はアイシルク・レインを中断し、背中の火傷の痛みに耐えながら必死に双剣でアエリカのライトニング・ソードと相対した。
その隙にヨーデルが魔王の背後から攻撃をしようとしたが、横からニールが跳び蹴りをしてきたので、剣で受け止めたが威力に押され後ろにズリ下がった。
「遅れて、申し訳ありません」
「よい」
ニールは謝罪をしながらアエリカに攻撃を仕掛けようとしたが、既にアエリカは雷歩を使用して魔王から離れて、ヨーデルの隣にいた。
そして、4人は無言で睨み付け合い、一斉に動き出し戦い始めた。
「アイス・ソード」
鷹とカトリアも無防備になっているリーエ達を倒しに向かっていたが、ウルシアが氷魔法アイス・ソードを唱えて放った巨大な氷の剣が、鷹達の目の前に突き刺さり動きを止めた。
その隙に、ウルシアと各ヘルレウスの副隊長達は、鷹とカトリアを囲った。
「絶対に、この先へは行かせないわ」
ウルシアは、氷の矛を鷹に向けた。
「邪魔だ!どけぇ!」
激怒している鷹は雄叫びをあげて、ウルシア達に突っ込んでいき、カトリアも鷹に続く。
【パルシアの荒野・南東側】
一番端では、1番派手な戦いが繰り広げられ、誰もが近づけないでいた。
魔王のアイシルク・レインによって氷柱が降り注ぐ中、メルサは王宮の城を再度発動して黄金の城を召喚しており、多数の属性の魔法攻撃を放ち、それをミリーナが同じく多数の属性の魔法攻撃で迎撃していた。
途中で魔王のアイシルク・レインはおさまって、視界が良くなった。
黄金の城は、雨のように降り注いだ魔王のアイシルク・レインを受けても無傷だった。
全ての属性が使える【マジック・マスター】と呼ばれる人間と魔人の2人の戦いは、様々な魔法の応酬で敵味方関係なく、誰もが見とれるものだった。
【パルシアの荒野・東側】
「あと、もう少しの辛抱だ」
「「了解!」」
リーエの動体視力を得ている魔王達は、流星やアエリカの動きに対応できているが、相手の数の多さと自身の怪我や疲労、残り僅かな魔力しか残っておらず、既にボロボロの体に鞭を打ち、必死に現状を維持をしている。
そんな魔王達の後方では、ブラッド・ヒールの下準備が完了したリーエ達は、緊張した面持ちをしていた。
「では、始めるぞ」
「「はい!」」
「「うっ」」
リーエの掛け声に返事をするジャンヌ達は、それぞれクナイで左手を切り血を魔法陣に注ぐ。
魔法陣が真紅に輝き、ジャンヌ達はクナイに魔力を込めて魔法陣に突き刺す。
ジャンヌ達が突き刺したクナイが他のクナイへと魔力が流れて結びつき、魔法陣の上に五芒星が描かれ、魔力が一気に増大した。
魔法陣の外周から闇の魔力が吹き荒れながら渦を巻き、ジャンヌ達は吹き飛ばされて尻餅をついた。
「「きゃっ」」
闇の魔力と真紅の魔力が、雑に混ざり合っていき、魔力は真上に上昇して球体になった。
球体になった魔力の外周が、細い糸状に変化して魔法陣の中央で横たわっている大成の傷口に吸い込まれていく。
「ぐあぁぁぁ」
身体に魔力が流し込まれていく大成は、何度も体を海老反りを繰り返しながら、苦痛な雄叫びをあげ、身体中の血管が浮き上がった。
大成の雄叫びは、パルシアの荒野に響き渡る。
「ちっ、間に合わなかったか…」
膨大な魔力を感知した流星は、舌打ちした。
次第に大成の体は、魔力を吸い込んでいる傷口を中心に徐々に肌の色が灰色に変色して広がっていき、闇と真紅が雑に混ざった魔力が徐々に身体全体を覆っていく。
「た、大成っ」
「大成さん」
「ダーリン」
「大成くん」
すぐに大成の異変に気付いたジャンヌ達は、立ち上がり、魔法陣の中にいる大成に手を伸ばして駆け寄ろうとする。
しかし、ジャンヌ達は魔法陣の結界に阻まれ、手が弾かれて軽い火傷を負い、火傷を負った手をもう片方の手で覆った。
「「リーエ様!」」
ジャンヌ達は、魔法を中断して貰おうと思い、リーエに振り返る。
しかし、リーエは無言で頭を左右に振った。
「この魔法は、1度発動したら中断はできん。あとは、無事を祈りながら坊やを信じるしかない」
「そ、そんな…大成…」
「大成さん…」
「ダーリン…」
「大成君…」
ジャンヌ達は、心配と不安が入り混じった表情になった。
「アァァァ!」
今も大成の苦痛な叫びがパルシアの荒野に響く中、ジャンヌ達は胸元で両手を握り締めて大成の無事を祈る。
「耐えて見せろ、坊や」
リーエも、不安な表情で見守っていた。
そして、上空にあった闇と真紅が雑に混ざった膨大な魔力が、大成の体を全て覆い尽くし、魔法陣が砕けて消滅した。
魔法陣が消滅したことで、大成を覆っていた魔力が真上に解き放たれ、雲を突き抜け帆柱が発生した。
やがて、突き抜けた魔力は終息していき消えて、倒れたまま大成の姿が見えた。
「まずは、体は弾けずにすんだか。あとは、生きているか、死んでいるか、それとも…」
リーエは呟いた。
今まで、虫の息で動かなかった大成の手がピクッと動いた。
「生きているな。あとは、2択だな。普段通りか、若しくは人外な物の怪になっているかだ…」
目を瞑って祈っているジャンヌ達は、合わせている手に一層力が入る。
そして、身体中に赤黒い魔力を纏っている大成は、ゆっくりと起き上がった。
大成は起き上がった直後、獣の様な低く重い雄叫びをあげる。
「ウォォォ!」
大成の雄叫びはパルシアの荒野中に響き渡り、それと同時に、大成の瞳は金色で獰猛な猛獣の様な鋭く、全身に膨大な赤黒い魔力が解き放ち、威圧感を放った。
その放たれた雄叫びと威圧感が混じり合い、衝撃波となってパルシアの荒野にいる者達に恐怖を与えた。
あの【漆黒の魔女】と言われているリーエや【時の勇者】と言われている流星でさえ、危険だと思わせるほどだった。
「あの魔力は、とても嫌な感じがするな」
大成の魔力を一目で、ただの魔力ではないと感じた流星。
大成を見た誰もが、大成は物の怪になったと認識し、緊張した面持ちで警戒する中、ジャンヌは自失した表情で無防備になっていた。
「そ、そんな…失敗したの…」
ジャンヌは、大成が放っている膨大な魔力や威圧感よりも大成が物の怪になってしまったショックの方が大きく、手を伸ばしたままフラフラとした足取りで大成に歩み寄る。
大成は、ジャンヌの方に振り向いた。
「馬鹿、近付くな!今の坊やは、もうお前達の知っている坊やじゃない!」
リーエは、慌てて横からジャンヌに飛びついて、転がった。
大成の左側にジャンヌとリーエが転がって倒れていたが、大成は無視して姿勢を低くして、一直線に走り出した。
大成の正面にユナールと人間の騎士団がいた。
ユナールは、リーエとの戦闘で自身のゴーレムの残骸で埋もれていたが自力で脱出していた。
「来るぞ!」
ユナールは、警告と共に再びゴーレムと一体化して右拳で大成を殴りつける。
大成は、ジャンプしてゴーレムの右手に着地し、体勢を低くしたまま、鋭く伸びた左右の爪で、ゴーレムの手を切り刻みながら駆け登る。
ゴーレムの右手は、バターの様に切り刻まれていき、地面に落下して轟音と共に砂埃が舞う。
「このっ!」
ユナールは、ゴーレムの左手で右腕の上を走る大成を叩き潰そうとした。
大成は右手の爪で、迫るゴーレムの左手を一瞬で切断し、その威力は衰えず、離れているゴーレムの左肩も切断した。
大成は、そのままゴーレムの右肘まで破壊しながら移動し、ゴーレムの胸元にゴーレムと一体化して上半身だけ出ているユナールに目掛けて飛び掛かる。
「これで、どうだ!」
ユナールは、周囲のゴーレムの胸元から無数の土の針を作り出して大成を串刺しにしようとする。
大成は、獰猛な笑みを浮かべて空中で体を捻り、左右の爪で迫ってきた無数の土の針を粉々に粉砕した。
「馬鹿な!くっ」
ユナールは、すぐに魔法を解除することで一体化しているゴーレムから脱出して下に降下し、大成の爪の余波を避けると共に、一直線に迫ってくる大成から逃れようとする。
しかし、魔法を解除したことでゴーレムの体は崩れ、大成はその崩れた破片を足場にして、ユナールに迫りながら右手に魔力を込めて巨大で真っ黒な村雨を作り出してユナールの心臓部を狙い定めて突きを放つ。
「ガイア・ソード」
土の剣を召喚したユナールは、剣で村雨を弾いて防ごうとする。
「ぐぁ」
しかし、ユナールの剣は簡単に切断され、左肩に突き刺さったが、村雨の軌道を少しずらすことに成功し致命傷は逃れた。
大成は、崩れていくゴーレムの破片を利用して、右手で左肩を押さえて懸命に逃げているユナールに襲い掛かる。
「エア・イーグル」
カトリアは、ユナールを助けるために崩れていくゴーレムの破片の中に飛び込み、風大魔法エア・イーグルを唱え、風の巨大な大鷲を召喚して大成の真横から大鷲で攻撃する。
大鷲に気付いた大成は、落下しているゴーレムの破片を利用して方向を変え、大鷲の正面から突っ込み、巨大で真っ黒な村雨を上から振り下ろして大地ごと大鷲を一刀両断した。
大鷲は左右に真っ二つに切断され、暴風を巻き起こして消滅し、大地は切り裂かれて深い谷ができた。
「何てデタラメな強さなの…」
大成の気が大鷲に逸れた隙に、カトリアは驚愕しながらユナールを支えて離脱した。
地面に着地した大成は、ユナールとカトリアの2人を追いかけずに再び同じ方角に走り出す。
「こ、こっちに来るぞ」
「「うぉぉ」」
「「ぎゃ」」
「「ぐぁ」」
大成の姿を見た人間の騎士団は、恐怖で顔を強張らせたまま大成に斬り掛かりにいくが、逆に返り討ちにあっていく。
近くにいたアエリカ、ヨーデル、ニルバーナのボヤタニア国の聖剣達は、少し前にラプラス(大成)と戦ったことがあり、ラプラス(大成)の圧倒的な強さの前に手も足も出ずに大敗した。
その恐怖がよみがえり、体が動かず、ただ呆然と仲間が殺られていく様子を見ていた。
「「わぁ」」
「「うぁ」」
大成は、スピードを落とさずに左右の爪で騎士団を斬り倒して一直線に進んで行く。
そして、今まで歩を止めずに進んでいた大成の足がピタッと止まる。
大成の前に現れたのは、流星だった。
始めから大成は、この場で1番強い流星に向かって一直線に進んでいたのだ。
「ヴゥゥ」
大成は、両手を地面について構える。
「大成、俺がわかるか?」
流星は剣を握ったまま、大成を睨み付けながら尋ねる。
「グォォ」
大成は、返事をせずに流星に飛び掛かり、左手の爪で流星の首を狙いを定めて横に凪ぎ払う。
「「がはっ」」
流星は屈んで避けたが、後ろに離れていた数名の騎士団は、大成の鋭い風の刃によって斬られて血を流しながら倒れた。
「グォォ」
大成は、右手を斜め上から振り下ろした。
「言葉は通じないみたいだな。やはり、物の怪に成り下がった様だな」
流星は剣に魔力を込め、剣を下から上に振り上げて右爪を弾き、左拳で大成の顔面を殴り飛ばした。
「エンチャント・ライトニング」
流星は、すぐに剣に雷属性を付与し、剣は蒼白く輝く。
「ライトニング・タイガー」
流星は剣を横に凪ぎ払い、剣から巨大な虎の形をした蒼白い雷が現れ、身体中から放電して周囲を焦がしながら大成を追いかける。
雷の虎は、吹っ飛ばされて何度も地面をバウンドしている大成の首元を、その鋭い牙で噛みついた。
噛みついた虎は、身体中に秘められた雷の力を全て使い果たすように目が眩むほどの光を放ちながら放電して稲妻が迸る。
「大成!」
「大成さん!」
誰もが、流星のライトニング・タイガーの威力を見て固唾を呑む中、ジャンヌとウルミラは叫びに似た声を出した。
大成がいた場所は、雷の虎の高電圧により周囲が真っ黒に焦げており蒸気が立ち上っていた。
「殺ったか?」
「わからないが、どんな奴だって死んでいるはずだ」
「グゥゥ」
「おいおい…」
人間の騎士団がざわつく中、蒸気の中から大成の声が聞こえ、ざわつきが大きくなる。
大成が蒸気から出てきて姿を現した。
大成は無傷だった。
そして、赤黒い魔力を纏っている大成に長い尻尾が生えていた。
大成の姿を見てホッとするジャンヌ達。
「マジかよ…」
だが、周囲の者達は信じられない表情で、大成を見ていた。
「う、嘘、あの攻撃を受けて無傷だなんて!?」
ミリーナと交戦していたメルサは、黄金の城の中で大成の姿を見て驚愕する。
ミリーナも攻撃の手が止まるほど、驚愕していた。
「あれを耐えたか…。いや、あれは耐えたというよりも、自己回復…。自己再生で回復したみたいだな」
すぐに大成が自己再生したことを、流星は見抜いた。
大成は、顔を上げて口に赤黒い膨大な魔力を収束させる。
膨大な魔力が収束させて更に圧縮されたことにより発生する圧力により、大成の周囲の地面が押し潰され、衝撃波が生まれた。
そして、準備ができた大成は、流星に向けて圧縮した赤黒い魔力を光線の状に放とうとした瞬間、回復した虎が横から飛び出した。
「ビッグバン・エクスプロージョン」
虎は、爆発効果を付与した右拳に全魔力を込めて、無防備になっている大成の左頬に全魔力を込めた渾身の必殺技を決めて大爆発が起きた。
いつものビッグバン・エクスプロージョンは、自身が火傷を負わないように右拳に魔力を覆って守っていたが、今回は後先考えずに全魔力を攻撃力に割り振った。
そのため、虎の右拳は重度の火傷を負い、皮膚は赤く爛れていた。
虎の一撃が決まる、ほぼ同時に大成が放った赤黒い光線は、殴られたことにより軌道が変わり、触れていない地面を蒸発させて抉りながらにミリーナとメルサに襲い掛かる。
ミリーナは、慌てて横に跳んで回避した。
「あの馬鹿虎が!」
流星は、唖然としているメルサに慌てて駆けつける。
今まで魔王の魔法攻撃が直撃しても無傷だった黄金の城と城壁だったが、大成が放った光線が城壁に衝突した瞬間、一瞬で城壁に穴があき貫通した。
「えっ!?」
目の前の現状が信じられず、唖然としているメルサに光線が迫る。
「間に合え!」
「きゃ」
ギリギリのタイミングで流星がメルサに飛び付いて光線を避けることができた。
光線は城壁だけでなく、黄金の城も一瞬で貫通し、黄金の城と城壁は、光の粒子となって消えて消滅した。
虎のビッグバン・エクスプロージョンにより、虎と大成がいた辺り周辺は水蒸気が蔓延していた。
「俺様が、魔王修羅を討ち取ったぞ!」
無防備な大成に渾身の一撃を入れた虎は、勝ち誇った表情で左腕を掲げて宣言した。
「「ウォォォ!」」
人間の騎士団は歓喜の声を出した。
だが、突如、蒸気の中から大成の長い尻尾が現れ、虎の頬を目掛けて襲い掛かる。
「くっ」
虎は、右腕に自身の能力【エクスプロージョン】で爆発効果を付与して防ごうとする。
大成の尻尾が虎の右腕に接触して爆発が起きたが、尻尾はビクともせず、鞭のように撓り虎の頬に直撃した。
「がはっ」
虎は地面を転がり、少し離れた場所で止まった。
しかし、虎は一向に立ち上がる気配がなかった。
「おい、弟よ。大丈夫か…?」
心配した鷹は虎に駆け寄り、倒れている弟・虎を見て言葉を失った。
虎は、首の骨が折れて死んでいた。
「よ、よくも、よくも俺の弟をっ!」
激怒した鷹は、身体中から膨大な魔力を放ち、身体と鎖鎌を自身の能力【アクセラレータ】で加速効果を付与して、今までで1番速いスピードで大成に向かって走る。
「やめろ!」
退避したユナールは叫んだが、鷹は怒りで我を忘れ、ユナールの停止の声が聞こえなかった。
「オラッ」
鷹は、大成に迫りながら鎖鎌を回して分銅を投擲する。
分銅は、流星の方を向いて走りだそうとしている大成の体の周りを回り、そして、鷹が鎖を引っ張ったことで大成の腕と体を縛って拘束した。
「よくも弟を!死ねぇ!」
鷹は大成に飛び掛かり、大成の頭に右手の鎌を突き刺す様に振り下ろした。
しかし、鎌は突き刺さらずに刃の部分がドロっと溶けた。
「なっ!?」
「ガァァァ」
大成は、雄叫びをあげながら体を縛りつけている鎖を溶かし、鷹に向かって右手の爪を振り下ろそうとする。
「くっ」
横に移動して避けようとした鷹だったが、いつの間にかに大成の尻尾が腰に巻きついており、着用している鎧は湯気を出しながら溶けだしていた。
鷹は、身動きができず離れることができなかった。
「く、糞ぉ~!」
避けることができない鷹は、悔しさがにじむ声を出しながら、溶けて刃がない鎌に魔力を集中させて防ごうとしたが、大成の爪によって鎌ごと体を引き裂かれ、血が飛び散った。
血塗れになってぐったりとした鷹を、大成は興味がない仕草で尻尾を振って投げ飛ばした。
地面に落下した鷹から大量の血が流れ、水溜まりの様に辺りを血で赤く染めた。
「う、嘘だろ…。あの聖剣の鷹様と虎様が…」
倒れている鷹と虎を見た人間の騎士団は、目の前の光景が信じられず呟く。
「ガァァァ」
大成は空気が振るれるほどの雄叫びをあげ、砂埃を立てながら、再び一直線に流星に向かって走る。
【パルシアの荒野・東側】
「えっ!?先よりも、大成の動きが速くなっているわ…」
ジャンヌが驚きの声をあげるほど、明らかに大成の動きが素早くなっていた。
「感覚が体に馴染んできているな…」
「リーエ様、それって…」
リーエ話を聞いたウルミラは嫌な予感がして恐る恐る尋ねた。
「このままだと、坊やは身も心も完全に物の怪に成り果てる。つまり、自我を失い、心が死んでしまうということだ。しかし、それ以上の問題がある。このまま坊やが完全に物の怪になった場合、万全な状態の私でも取り押さえるどころか、討伐するつもりで戦っても返り討ちにされるやもしれん。それに、坊やが【時の勇者】を倒した場合、誰が坊やの暴走を止めるかが問題だ。最悪、我々は勿論のこと、魔人の国が坊や1人に滅ぼされる可能性もある」
リーエは、流星と戦っている大成を見ながら冷や汗を流していた。
「では、我々は【時の勇者】と協力して神崎大成を取り押さえた方が賢明だと仰りたいのですか?」
ウルシアに体を支えて貰っている魔王が、リーエに尋ねる。
「無理です、お父様。勇者は、大成を殺すことしか考えていません」
ジャンヌは、全力で否定する。
「私もジャンヌと同意見だ。だから、選択は限られる。最悪の事態を避けるために【時の勇者】と協力、もしくはして援護して坊やを確実に殺すか、それとも、可能性が低いが2人の戦いが終わるまで待ち、もし【時の勇者】が負けた時、坊やを正気に戻すことを試みるかだ。勿論、失敗すれば全滅する。それに、どのみち限界が訪れている私達は、【時の勇者】に攻撃して反感を買えば、その時点で終わるし、今の坊やを止めることもできん。だから、坊やが弱るまでまつしかない。結局、2人の戦いが決着つくまで見守るしかない。それで、お前達はどうするのだ?」
リーエは、ジャンヌ達に振り向いた。
「私達は…私は…」
ジャンヌは、戸惑った。
【パルシアの荒野・南東側】
一方、大成は目の前にいる人間の騎士団を蹴散らしながらあっという間に流星に接近し、飛び掛かりながら右手の爪で切り裂こうとする。
「まず、メルサから遠ざけるか…」
大成の右手の爪が届くよりも先に、流星は右足で大成の左側頭部を蹴り、大成を誰もいない方角へと蹴り飛ばした。
「なるほど、大成が纏っている魔力は、負の塊か呪いみたいなものだな。まぁ、大成が纏っている魔力以上の魔力で身体強化すれば、何の問題もない」
流星は、大成を追いかけて剣を横に凪ぎ払い、大成の首を狙ったが、大成は屈んで避けて左拳で殴りにいく。
流星も左拳で応戦して、お互いの拳はぶつかり合い、衝撃波と共に一瞬だったが砂埃が舞う。
2人の拳は力が均衡しており、その場で止まった。
「魔力発勁」
流星は、左拳から魔力発勁をした。
大成の左手から腕までの血管が裂けて出血し、すぐに自己再生で回復した大成だったが、僅かに怯み隙ができた。
流星は、その隙に剣で大成の左肩から右脇腹にかけて斬りつけ、続けて右足で大成の顔面を蹴り飛ばした。
「ガァァァ」
自己再生により一瞬で傷を癒した大成は、両足で踏ん張り、後ろにズリ下がったが、すぐに流星に飛び掛かる。
「やはり、所詮は獣か。動きが単調過ぎる」
流星は、右足で大成の側頭部に蹴りを入れた。
しかし、大成は尻尾を地面に突き刺して耐え、獰猛な笑みを浮かべて右手の爪を振り下ろそうとする。
「ほう、考えたな。だが、」
感心しながら流星は、右足の甲を大成の首に掛けて、右足を動かして大成を地面に叩きつけた。
「グガ…」
大成は、頭から地面に叩きつけられ地面にヒビが入る。
「エンチャント・シャイン。終わりだ大成。安らかに眠れ、ホワイト・エンド」
流星は、剣に光属性を付与して剣が輝き、剣を逆手に持ち替えて両手で握り締めて、地面に倒れている大成に向かって剣を突き刺した。
「ガァァァ」
大成は右手の爪で、流星に襲い掛かるが、先に流星の剣が鳩尾に突き刺さる。
そして、剣から眩しいほどの光が放たれ、光が大成を地中に押し込んでいき、大成と流星を中心に辺りの地面からあちらこちらに光が放射されて光の帆柱が発生し、ほぼ無音の爆発と共に光が周囲を飲み込んだ。
「「うぉ」」
お互いの騎士団は2人から離れていたが、激しい発光で目が眩み、尻餅をつく者が続出した。
やがて、光の帆柱は小さく細くなって終息していき、2人がいた場所には大きなクレーターができており、その中央に流星だけが立っていた。
「終わったか…」
流星は、空を見上げて呟いた。
【パルシアの荒野・東側】
流星と大成の戦いを見ていたジャンヌ達。
リーエは目を瞑り頭を左右に振り、魔王達は呆然と立ち尽くしていた。
「そ、そんな…大成…」
ジャンヌは震える声で呟きながら、その場にへたり込んだ。
【パルシアの荒野・南側】
「終わったわね…」
流星の近くまで移動していたメルサは、複雑な面持ちで流星に歩み寄ろうとした時だった。
突如、流星の足元の地面から大成の左手が飛び出して流星の右足首を掴んだ。
「流星!」
メルサの叫びに似た声が響く。
「ガァァァ」
大成は、流星の足首を掴んだまま、真上に高くジャンプする。
「くっ、魔力発勁」
振り払おうと右足で魔力発勁をする流星。
「グォォ…」
大成の左手から肘まで血管が裂けて血が飛び散ったが、握っている左手の握力は衰えず、更に大成は右手も使い両手で流星の右足首を掴んだ。
「離せ!」
流星は、空いている左足で大成の顔面を目掛けて蹴りを放ったが、大成は頭を後ろに反って避け、流星を先ほどできたクレーターに向かって、全体重もかけて叩きつける様に投げ飛ばした。
そして、大成は、すぐに口元に魔力を収束させる。
投げ飛ばされた流星は、空中で体勢を整えようとしたが、落下速度が速かったため間に合わずに背中から地面に落下して息が詰まった。
「がはっ」
流星が起き上がろうとした時、大成は口から赤黒い光線を放った。
「くっ、エンチャント・シール。シール・ファルコン」
危険を察知した流星は、剣だけでなく身体にも封印効果を付与して、剣を上から振り下ろして封印効果を付与した紫色の鷹を放つ。
紫色の鷹と赤黒い光線が激突し、紫色の鷹は撃ち抜かれて貫通して光線が流星に襲い掛かる。
「糞!」
まだ、立ち上がれていない流星は、封印効果を付与している剣を横にして左手で刀身を支えて受け止めた。
しかし、ジリジリと地中に押し込まれていく。
そして、大成が放った光線は濃密な魔力だったため、完全には封印しきれず、次第に剣が悲鳴をあげて刀身にヒビが入っていき、とうと剣が折れて大爆発が起きた。
「流星!」
メルサは、慌てて爆発に飲み込まれた流星に駆け寄ろうとしたが、熱風で近づくことができなかった。
「アクア!」
メルサは水魔法アクアを唱え、周囲を冷やしながらクレーターの中に近づこうとした時、ヨーデルに腕を掴まれた。
「ヨーデル、離しなさい!」
力ずくで振り払おうとするメルサ。
「駄目です、メルサ様。ここに居たら危険です。それに、【時の勇者】殿なら大丈夫です。我々、聖剣の中でも次元が違うほどの実力の持ち主です。我々がここに居たら、勇者殿の邪魔になりかねません。ここは、一旦離れましょう」
ヨーデルは、真剣な眼差しでメルサを見つめた。
「……。ええ、そうね。取り乱して悪かったわ」
冷静さを取り戻したメルサは、頷いてヨーデルと共に離れた。
「ガァァァ」
大成は、砂埃が舞って流星の姿を視認できなかったが、流星にとどめを刺すために、続けて口元に魔力を収束させて、先ほどと同じ場所に光線を放つ。
大成が放った赤黒い光線が、クレーターに迫った時だった。
「シルバー・ブレッド」
砂埃の中から流星の声が聞こえた瞬間、小さな銀色の弾丸が砂埃を突き抜け、大成が放った光線の正面から衝突した。
銀の弾丸は赤黒い光線を貫通して、光線の中を突き進んでいく。
その光景は、まるで闇の中を、銀色の流星が力強く輝きながら美しく駆け抜けていく様に見えた。
「ガァァァ」
大成は、魔力を更に高めて光線の威力を上げたが、流星が放った銀色の弾丸は勢いが劣れずに大成に向かって突き進む。
そして、銀色の弾丸は空中にいた大成に直撃し、激しい銀色の閃光とともに大爆発が起き、爆風と轟音が周囲を襲った。
「大成!」
「大成さん!」
ジャンヌとウルミラは叫び、パルシアの荒野にいる者達は爆風に吹き飛ばされない様に、地面に伏せて必死に耐える。
上空で大爆発が起きた場所から、大成が落下する姿が見えた。
大成は下半身は吹き飛んでおり、上半身だけの姿で、そのまま砂埃が舞っているクレーターに頭から落下した。
「大成!」
「大成さん!」
「ダーリン!」
「大成君!」
ジャンヌ達は、大成が心配でクレーターに向かおうとしたが、リーエ達に止められた。
先に、クレーターから出てきたのは流星だった。
流星の左腕は、火傷を負ったみたいに赤黒く爛れており、右手には刀身の半ばで折れた剣を握ったまま負傷した左腕を押さえていた。
「さ、流石に半身を失えば、死んだよな?」
「おそらく…」
人間の騎士団は、クレーターの上から蒸気が未だに舞っている中を覗き込んで様子を窺っていた。
「くっ、油断した。今は、それよりも、撤退するぞ!」
流星の声がパルシアの荒野に響き、少し遅れて我に返った人間の騎士団は撤退を始め、聖剣のヨーデルとニルバーナは、鷹と虎の遺体を肩に担ぎながら騎士団と一緒に撤退しようとした。
「大丈夫!?流星」
心配したメルサは、慌てて流星に駆け寄り、負傷している流星の左腕に触れようとする。
「俺の左腕に触るな!呪われてしまうぞ!」
流星は、右手を前に出してメルサを止めた。
「わかったわ。それより、その左腕は大丈夫なの?」
「ああ、見た目よりは大したことはない。それよりも、大成が立ち上がってくる前に、ここから離脱するぞ」
「え!?襲って来ないから、もう死んだと思うわ」
「いや、大成は、まだ死んではいない。おそらく、大技を連発していたから魔力が底をつき、回復が遅れているのだろう」
「なら、もし、このまま戦ったら勝てるの?」
「ああ、俺1人なら確実に勝てる。だが、大成は完全に物の怪だ。追い詰めたら何をするかわからない。例えば、自爆覚悟で周囲を巻き込む可能性もある。そうなった場合、メルサを庇いながらでは正直きつい」
「わかったわ」
納得したメルサは、騎士団より一足先に流星と一緒に離れた。
【パルシアの荒野・南東側】
負傷しているジャンヌ達は、撤退を始めている流星達を追いかけず、ただ様子を見ていた。
「ガァァァ」
クレーターから大成の雄叫びと共に、クレーターの砂埃が吹き飛んだ。
「さて、今度は私達の番だな。坊やが弱っているとはいえ、私達も既にボロボロだ。油断は禁物、失敗したら全滅するぞ。それでも、試すのだな」
リーエは、ジャンヌ達の表情を窺う。
「「はい!」」
ジャンヌ達は、真剣な眼差しで頷いた。
【過去・パルシアの荒野・中央側】
「お前達は、坊やを殺すのか。それとも、危険を承知で正気に戻すのを試みるのか。どっちだ?」
「「正気に戻します」」
ジャンヌ、ウルミラ、マキネ、イシリアは迷わずに同時に答え、魔王達は無言で頷いた。
「なぜ、そんな危険を冒してまで助けようとするのだ?失敗すれば全滅するかもしれないのだぞ?」
意見が分かれると思っていたリーエは尋ねた。
「では、私から。大成君がいなかったら、きっと今も私とウルシアはクリスタルに封印されたまま、寿命が尽きて死んでいたと思います。ですので、今度は私達が彼を救ってあげたいと思います」
ミリーナは、両手で左右のスカートの裾を軽く摘まみ、リーエに1度お辞儀をして説明する。
「そうね」
ウルシアは頷いてミリーナに同意した。
「大成君のお陰で、こうして、また2人に会えることができましたから」
マリーナは、ミリーナとウルシアを見て笑顔を浮かべた。
「修羅様は、いつもラーバス国だけでなく、魔人の国全土のためを思って行動を起こし、バラバラだった魔人の国を再び纏めて下さりました。このご恩をお返ししたい」
ローケンスは、地面に刺していた大剣を力強く引き抜いた。
「私も同意です。魔王様の代わりが修羅様だったからこそ、魔人の国は纏まり穏やかになりましたので」
ニールは、髭を触りながら頷いた。
「ウフフ…。ローケンス様とニールの言う通りね。他の魔王候補のグランベルク達だったら、女を物扱いする様な国になっていたし、【シャーマン】のエヴィンの場合は私達を道具扱い、いえ、もしかしたら、私達を殺して忠実な人形にしていたかもしれないわ。どの道、あの人達が魔王になっていたら、まともな国になっていないし、シルバー・スカイの事件では自身が生き延びることを優先して、私達は愚か魔人の国は全滅、もしくは【時の勇者】に支配されていたと思いますわ」
シリーダは、色気のある笑みを浮かべた。
「そうだな。シルバー・スカイの事件で、彼、大成・神崎のお陰で私は洗脳から解放され、今がある」
魔王は、1度溜め息をして肯定した。
「大成君が居なかったら、私は…いえ、私だけでなくラーバス学園の皆はゴブリン・ロードに捕まってひどい目に遭っていたと思います」
イシリアは、腰に掛けてあった剣を抜刀した。
「私は、ダーリンと出会っていなかったら、ここまで強くなっていなかったし、もしかしたら、流星さんに洗脳されてレッド・ナイツの一員になっていたかもしれないなぁ」
マキネは、苦笑いを浮かべた。
「俺は、大和のお陰でお父さんみたいに強くなれたんだ」
マーケンスは、大剣を握り締めて見つめた。
「で?ジャンヌとウルミラは?」
マキネは、まだ話していないジャンヌとウルミラに尋ねた。
周りの視線が2人に集まる。
「わ、私は、そ、その…美咲様の件など、いろいろと助けて頂いたので…」
ウルミラは恥ずかしさのあまり、頬を赤く染めてながらオドオドと話した。
「そ、そうね!ウルミラの言う通りだわ」
ジャンヌも頬を赤く染めて、大きな声で賛同する。
「あら?お2人は、特にそれだけではないと思いますけどぉ?例えば、恋とか」
シリーダは、口元に手を当ててニヤついた。
「「ううっ」」
頬を赤く染めていたジャンヌとウルミラは俯き、頬だけでなく耳や顔全体が真っ赤に染まった。
「何だと!?」
「「ハハハ…」」
魔王は怒り、他のミリーナ達は笑った。
「あら、イシリア。あなた笑っているけど、あなたもでしょう?」
マリーナは、頭を傾げながら笑顔で笑った。
「お、お母様っ!」
イシリアは、顔を真っ赤に染めて大きな声を出した。
「どういうことだ!?ジャンヌ!ウルミラ!」
「「ハハハ…」」
3人の反応を見て、焦る魔王と盛大に笑うミリーナ達。
「フッ、なるほど。お前達にとって坊やは、それほどかけがえのない存在なのだな」
満足そうにリーエは頷いた。
「は、はい」
ジャンヌは頬を赤く染めて返事をし、魔王達は頷いた。
「お前達の想いはわかった。だが、1つだけ譲れないことがある。もし、坊やが正気に戻りそうになかった場合は坊やを殺すか、または封印する。この条件を飲むなら、私も手伝ってやろう」
リーエは威圧感を醸し出し、鋭い視線でジャンヌ達を一瞥した。
「「~っ」」
リーエの威圧感を前にジャンヌ達は、固唾を呑んだ。
リーエの威圧感は、無言でもこれ以上の譲歩できないと伝わってくる。
「わかりました。ご協力お願いします」
ジャンヌは了承して頭を下げ、魔王達も同時に敬礼した。
「良かろう。では、作戦を伝える。各自、自分の役割を把握するようにな」
不適に笑うリーエ。
次回、破滅への始動と混乱。
投稿が遅れて申し訳ありません。
ゴールデンウィークの4日間、今までサボっていた庭の草むしりや畑の手入れなどで、ノックダウンしていました。
大変、申し訳ありません。
もし宜しければ、次回も御覧、頂けたら幸いです。




