表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/130

ラプラスと魔王軍

鷹虎兄弟達、聖剣と魔王軍が激突し、ラプラスが争いを中断させた。


しかし、【時の勇者】のこと流星が現れ、流星の提案で、ラプラス1人で魔王軍と戦うことになった。

【魔人の国・パルシアの荒野・中央】


「本当に、油断も隙もありませんね。流石、流星さんの教え子なだけはあります」


「確かに、流星さんから教わったけど。でも、ダーリンからも教わったんだよね。それに、ダーリンの方が何処が悪かったのか、どういう風にすれば良いのか、具体的に丁寧に教えて貰ったから、私的にはダーリンの教え子って言って欲しいな」


「なるほど。それは、失礼致しました」


「ラプラス様、これを受け取って下さい」

ラプラスは謝罪をした時、1人の人間の騎士団がラプラスの愛用の白いステッキ回収して投げて渡した。


「ありがとうございます、助かります。あとは、僕1人でお相手しますので、皆さんは安全な場所まで離れていて下さい」

「「ハッ!」」

ステッキを受け取ったラプラスは、お辞儀をして感謝し、騎士団はその場から距離を取った。



一方、魔人の騎士団は、逆にラプラスを囲うように陣形を取り武器を構える。

「騎士団は待機だ」

「ですが、魔王様…」

魔王の命令に戸惑う騎士団。


「気持ちだけで良い。あやつの前では、数で攻めても犠牲が増えるだけだ。先程の戦いを見て、あやつは、それほど強いと感じた。あとは私達に任せろ」


「わかりました…」

気を落とす騎士団。


「そう気を落とすな、お前達。今回は無理でも、お前達は、まだまだ強くなれる。俺も魔王様も、いや、皆がお前達に期待しているのだ。それに、魔王様1人に戦わせたりはしない。俺達ヘルレウスも共に戦い、必ずラプラスを倒す!」

ローケンスの言葉に無言で頷く魔王達。


「「ローケンス様…」」

「そう言うことだ。あとは私達に任せろ。必ずや

、勝利の栄光をこの手に入れてみせる!行くぞ!」

「「ハッ!」」

魔王の掛け声で騎士団は離れ、ジャンヌ、イシリア、ヘルレウス達は魔法を唱え始め、マキネは手裏剣を投擲する。


「こちらも、参ります。珍しい技をお披露目しましょう、イッツ・ショウ・タイム。幻歩」

ラプラスは顔と両手を上に挙げ、体が少しブレたかの様に見えた瞬間、ラプラスの左右に1人、2人とラプラスが増えていき、合計11人に分身した。


そして、分身はそれぞれ魔王達に一直線に向かう。



「な、何だと!?」

魔王は驚きの声をあげ、ジャンヌ達と相互の騎士団は、目の前の出来事に唖然とした。



「くっ、油断するな、気を付けろ!。まず、自分達の正面の奴に集中しろ!」

「「了解!」」

魔王の指示で、ジャンヌ達は正面から向かってくるラプラスに魔法を放つ。


しかし、ラプラスの分身は魔法を躱して迫ってくる。


魔法がラプラスの分身に当たったが、その部分が蜃気楼の様に揺れて残像を通り抜けた。


それでも、ラプラスの残像は消えずに、それぞれに迫る。



ジャンヌ達は、緊張した面持ちで武器を構えて接近戦に備えた時、目の前のラプラスの分身が一斉に消えた。


ジャンヌ達は驚愕しながらも、すぐにラプラスの行方を探す。



「まずは、この中で接近戦が1番強い、ローケンス様から退場させて頂きます」


「何だと!?」

間近でラプラスの声が聞こえたローケンスは、気付いた時には、既にラプラスが懐に入り込んでいた。


「ハァッ」

ラプラスは右手のステッキで、ローケンスの心臓部に狙いを定めて突きを放った。


「ぐっ」

かろうじて腕を引いて大剣の刀身で防ぐことができたローケンスだったが、体勢が不安定だったため、力負けをして後ろにズリ下がる。


ローケンスはズリ下がる最中、両手で持っている大剣を逆手に持ち替えて地面に突き刺し、どうにか立ち止まった。


だが、ローケンスは、魔王達と距離が離れてしまい、孤立してしまっていた。


「終わりです」

居合い切りをするかの様にラプラスは、ステッキを腰の辺りの位置に構えた。


ラプラスは、構えたままジグザグに走りながらローケンスに迫る。



ローケンスは、目でラプラスの姿を追っていたが、途中でラプラスのスピードが更に速くなり、目では追いきれなくなった。


そして、ラプラスはローケンスの背後に回り込んだ。


「嘗めるな!」

目で追いきれずラプラスを見失ったローケンスだったが、本能のまま後ろに振り返りながら大剣を横に凪ぎ払った。


「おっと!完全に不意打ちが決まるかと思いましたが、流石ヘルレウスのナンバー1ですね」

ラプラスは前屈みにジャンプをして体を捻り、大剣の刀身の上を転がる様に回転をしながらステッキで居合い切りをする。


「くっ」

重い大剣を持ったままだと、回避することができないと判断したローケンスは、握っている大剣を手放してバックステップをする。


ローケンスは、衣服の胸元は切られたが、ギリギリでステッキを避けることができた。


「あなた!」

マリーナは誰よりも早く、夫のローケンスに援護に向かっていた。


「助太刀は、させませんよ」

ラプラスは、空中で左手を後ろに伸ばして、ローケンスの大剣の柄を掴み、体を捻ってマリーナに向けて大剣を投擲する。



ラプラスが投擲した大剣は、横回転しながらマリーナに襲いかかる。


「くっ」

投擲された大剣は威力があり、負傷しているマリーナはレイピアで弾くのが背一杯だった。



「逃がしませんよ」

ラプラスは、ローケンスに追い討ちをしようと距離を詰め、ステッキを振り下ろす。


「そうは、させないぜ!」

突然、ローケンスの後ろからマーケンスが登場した。


「「マーケンス!?」」

マーケンスの登場は、誰もが予想しておらず驚きの声が響いた。


「ガーディアン・ナイト」

マーケンスは、武器に刻まれている魔法陣でガーディアン・ナイトを召喚して、父・ローケンスの前に出て、そのガーディアンが右手に持っている巨大な剣で、ラプラスのステッキを迎撃する。


しかし、ガーディアンの巨大な剣はへし折れ、左手に持っている盾で防ごうとしたが、盾は凹み、亀裂が入り粉砕された。


そして、ガーディアンは為す術もなく一刀両断され、光の粒子となって霧散して消えた。


ステッキは、そのままマーケンスに襲い掛かる。


「なっ、嘘だろ!?」

予想だにしなかった事態に驚愕したマーケンスは、すぐに大剣に魔力を込め、大剣の強度を上げて空いている左手で刀身を支えて防ぐ。


「ぐっ、何て重い斬撃なんだよっ!」

大剣は折れることはなかったが、ラプラスの力はあまりにも強く、マーケンスは押されて体が反っていく。


「諦めるな!マーケンス」

「「うぉぉぉ」」

後ろにいるローケンスは、全力で息子のマーケンスの体を支える。


「「ぐぁ」」

しかし、力を合わせた親子だったが、押されいき、共に背中から地面に勢いよく叩きつけられて気を失った。



「予想外でしたが、まず2人です」

ラプラスは、ステッキをクルクル回しながら首を傾げた。



「あなた!マーケンス!」

「お父様!マーケンス!このっ!!」

「今度は、そちらの御二人様が、僕の相手をして頂けるのでしょうか?」

家族を傷つけられ倒されたマリーナとイシリアは激怒し、ラプラスを倒そうと走りだす。


ラプラスも、マリーナとイシリアに向かって走る。



「マリーナ様、イシリア様、お待ち下さい」

ニールの声は、戦場に響き渡った。


そのニールの声音は普段とは違い、誰もが激怒しているとわかるほど、声音は低く重かった。


感情的になっていたマリーナとイシリアを止めるには十分だった。



そして、ニールの魔力が一気に膨張したと同時にラプラスの背後から巨大な影が一瞬で覆った。


「おっ!」

ラプラスは、後ろを振り返りながら上を見上げた。


「あなたには、この渾身の鉄槌を受けて貰いましょう。【制裁】」

一瞬で巨大化したニールは、右拳に魔力を集中させて、背後からラプラスに叩きつけるように殴り付ける。


ラプラスがいた場所から、轟音と共に大地が揺れ、衝撃波と共に風圧で砂埃が舞った。


「うぉっ、やったか!?」

「流石、ニール様だ」

「どうだ!見たか人間共!たかが、下等な人間風情が俺達、魔人に逆らうからこうなるんだ」

「「ウオォォ!」」

魔人の騎士団は、歓喜に震えた。


しかし、魔王達は警戒をしたまま、ラプラスのいる場所を見つめていた。


特に、ニールは険しい表情のままだった。




【パルシアの荒野・東側・人間側】


「「~っ!」」

ニールの強烈な一撃を目の辺りにした聖剣達と人間の騎士団は唖然とし、固唾を飲み込んで言葉が出なかった。


だが、流星とメルサの2人だけは皆と違い、特に気にしていない様子で見守っていた。



「凄い一撃。流石、巨人族の先代の王の長男だけのことはあるわね。完全に巨人化した時の魔力は、魔王に匹敵しているわ。それより、流星」


「ん?何だ?メルサ」


「さっき、あなたは魔人達にチャンスとか言っていたけど、本当は、この機会に制圧しようと思っての発言でしょう?」


「まぁ、それもあるが、実際に俺とラプラスで侵攻したら、確実に魔人の国を制圧できるのも事実だ。だが、残念なことに、今回はそうはならないだろう」


「え!?もしかして、ラプラスが負けるの?」


「いや、そうではない。ただ、ラプラスは魔王達を殺す気が全くないからだ」


「そう言われると、殺気がないわね。それに、倒したローケンスとその息子さんのマーケンス君も、まだ生きているわね」


「そういうことだ。殺す方が簡単なはずだがラプラスは、あえて手間がかかかる殺さずに無力化する方を選んでいる。おそらく、魔王達の強さが気に入ったかもな」


「フフフ…。そういうところも、あなたに似ているわね」

メルサは、流星の腕にしがみついてニヤニヤと笑顔を浮かべながら流星の顔を見る。


「フン」

少し頬を赤らめながら流星は、顔を反らした。

そんな流星を見たメルサは、口元に手を当てクスクスと笑った。


「ん?だったら、なぜ戦わせたの?」


「今回の提案には、ある可能性を俺は期待している。その可能性が起きるのは、とても低い確率だが、わざわざここまで足を運んで提案するほどの価値はあるものだ」


「ある可能性って、何?」


「まぁ、この戦いを見守っていたらわかる」


「今、教えてくれたって良いんじゃない?」


「教えたいのは山々だが、今回は流石のメルサでも許容範囲を越えている。教えた場合、絶対に反対するはずだ。だから、すまないが、教えることができない」


「もう!私は、あなたが望むことなら何でも許してあげるわよ。あっ!でも、わかっているとは思うけど、浮気は絶対に許さないわよ」

口元に手を当てながら考えていたメルサは、最後に流星の頬に手を当てて凄みのある笑顔で流星に釘を刺した。


「あ、ああ…。無論、わかっているさ」

流星は、この世界に来て初めて体の芯から寒気がしたほどの恐怖を感じた。


そして、流星は浮気や浮気に見える行為は絶対にしないと心の中で誓うのであった。




【パルシアの荒野・中央】


ニールの鉄槌で巻き起こった砂埃は、ゆっくりと風に流されて、徐々にラプラスの姿が見えていく。


「良い一撃です。流石、【ジャイアント】のニール様ですね。ですが、あなたのせいで、流星さんから頂いた大切なタキシードが砂埃まみれになってしまったではないですか!。これを、どう責任をとって下さるのですか?」

ラプラスは右手を挙げてニールの拳を平然と受け止めており、空いた左手でタキシードを叩いて埃を払う。


「ぬぉぉ」

ラプラスの姿が見えた瞬間、ニールは雄叫びをあげながら左右の拳で連打する。


再び、轟音と共に砂埃が舞い、大地が揺れる。



連打をしているニールは、自分の攻撃が全く通じていないことに気付いており、その表情には恐怖に滲んでいた。


それでも、恐怖を押し殺すかの様に、必死に手を止めずに連打し続ける。


「ウォォォ」

「あ、ああ!僕のタキシードがっ!この!魔力発勁」

砂埃の中からラプラスの大きな声が聞こえ、ニールは自分の左拳がラプラスの手が触れた瞬間、危険を察知して、すぐに手を引いた。


しかし、ニールはラプラスの魔力発勁を完全に回避することができず、左手から左肘辺りまで血管が裂けた。


「ぐぉぉ」

あまりの激痛に、ニールは右手で左腕を押さえながら数歩下がり、その激痛によって視界が狭くなる中で目の前の光景を見て瞳を大きく開いた。


目の前には、ジャンプしたラプラスが右腕を引いて殴る体勢だった。


「教えてあげましょう。全力で殴るというのは、こういうふうに打つんです」

ラプラスは右拳で、ニールの左頬を叩きつける様に殴った。


「がはっ」

ニールは、両足が地面から離れ、その巨体が宙を舞い、そのまま空中で一回転して背中から地面に落ちる。


「た、倒れるぞ!」

「「うぁぁ」」

「潰される!」

「助けてくれ!」

戦いを見守っていた相互の騎士団は、ニールが巨人化していたので、下敷きになる者やニールが倒れた時の衝撃で、吹っ飛ばされて岩に衝突する者が続出した。


「ウィンド」

魔王は、風魔法ウィンドを唱え、砂埃を払い除ける。


倒れたニールの姿を確認した者達は、息を呑んだ。

「おい、嘘だろ!?あの完全に巨人化したニール様が、たったのパンチ1発で倒されるなんて…」


ニールは白目を向いて倒れており、髭や髪の毛など紅色に染まっていたのが元の白色に戻り、身長も元の大きさに戻っていく。



皆が驚愕している中、ラプラスは足を止めずに魔王達に接近する。


ジャンヌ達は、お互いにフォローできるように密集して共闘していたが、更にお互いの距離を縮めて、より確実にフォローできる距離を保ちながらラプラスと応戦する。


「あの、姫様。このままだと…」


「ええ、わかっているわ、ウルミラ。認めたくはないけど、ラプラスの強さは大成と同じぐらいの力量があると判断した方が良いわね。だから、ウルミラ、マキネ、イシリア、アレをするわよ」


「はい!」

「わかったよ」

「そうね」

ジャンヌの意見にウルミラ、マキネ、イシリアの3人は肯定した。



「ジャンヌ、お前達は何か秘策があるみたいだな」

ジャンヌ達のやり取りを見た魔王は、何か秘策があると確信した。


「はい、お父様。今からする作戦が決まれば、ラプラスを確実に倒せるかと思います」


「自信はあるのだな?」


「はい、自信はあります」

ジャンヌは迷わずに答え、ウルミラ達も黙って頷いた。


「うむ。何か手伝うことがあるか?」

そんなジャンヌ達の自信に満ちた瞳を見た魔王は、信じることにした。


「では、お父様。申し訳ないですが、攻撃を確実に当てるために、足止めをして頂きたいのですが」


「わかった。任せろ」

「私達も手伝うわ」

魔王とミリーナの賛同し、他のヘルレウス達もそれぞれ頷いた。



「よし!お前達、出し惜しみせずに早期決着をするぞ!」

「「了解!」」

魔王の指示でジャンヌ達は、短期決戦するつもりで、後のことは考えずに一斉に魔力を解放した。


特に、魔王の魔力の濃密さや大きさは、他の者達を凌駕していた。


「おお、これは素晴らしい」

「な、何て魔力だい…」

魔王達の魔力を感じたラプラスは楽しげな声音で感心し、アエリカは唖然とし呟いた。


他の聖剣達や騎士団は、緊張した面持ちで固唾を呑んでいた。




【パルシアの荒野・東側・人間側】


「流石、魔王だけのことはあるわね。そう思わない?流星」


「そうだな。しかし、それでも俺の相手にはならない。せめて、武術だけでも俺と同等だったら楽しめたが」


「ウフフ…。そうね。あなたと同等の強さを持ち合わせているのは、この世界では、ただ1人。竜人の国の【千年のドラゴン(サウザンド・ドラゴン)】と呼ばれる先代であり初代竜王ぐらいだもの。今は消息は不明だけど」


「ん?なぜ、そんなに嬉しそうなんだ?」

疑問に思った流星は、怪訝な表情で首を傾げた。


「どうしてかしらね。ウフフ…」


「まぁ、良い。だが、【千年のドラゴン(サウザンド・ドラゴン)】以外にも、油断できない奴もいる」


「え!?他に誰がいるの?あとは、現在の竜王のノーザンドしかいないわよ。他国の王達は、魔王と同じぐらいの力量だから、他にいないと思うのだけど」


「確かに、ノーザンドもいるが他にもいるぞ。そうだな、今のところ、めぼしいのは獣人の国にいる【アルティメット・バロン】と名乗っている奴とエルフの国にいる【戦の乙女】と言われている少女。どちらも異世界から召喚された者達だ。情報では、他にも異世界から召喚された者もいたが、特に、この2人の実力は群を抜いている」


「あなたに、そこまで言わせるなんて大成君以来ね」


「大成ほどではないが、油断できない奴等だと思っている。あと【アルティメット・バロン】の方は検討がついている」


「え!?そうなの?」


「おそらくだが、前の世界の知り合いだ。というよりも、同じ特殊部隊だった奴だ。昔から、自分のことを【アルティメット・バロン】と呼べとか言っていたからな」


「フフフ…。大成君と同い年ぐらいの子供なの?」


「いや、俺より年上だ」


「えっ!?大人なの?」


「ああ、立派な大人だ。しかし、他にも色々と問題がある性癖の持ち主でな。正直、なるべく関わりたくない奴だ。それよりも、そろそろ魔王達が動きそうだぞ。俺を倒すための秘策とやらが楽しみだな」


「ラプラスは、大丈夫かしら?」


「さぁな。だが、あいつが簡単に殺られることはないだろう」


「それも、そうね」

言葉とは裏腹に、少し心配そうな表情でメルサはラプラスを見守る。


「さぁ、お手並み拝見といこうか!」

口元は笑っていた流星だったが、目つきが鋭くなっていた。




【パルシアの荒野・中央】


ジャンヌ、ウルミラ、イシリアの3人は、後衛で目を瞑ったまま魔力を高めることに集中し、魔王達は前衛に立ち武器を構えていた。


そして、魔王がアイコンタクトした瞬間、前衛の魔王達は一斉にラプラスに襲いかかる。



後衛にいるイシリアは、握っている剣を顔の前で構えて魔力を込めた。

剣は魔力に反応し、刀身に描かれた魔法陣が光だす。


「デス・ストーム」

イシリアの背後左右の地面に2つの魔法陣が現れ、それぞれの魔法陣から巨大な竜巻が生まれ、ラプラスに襲いかかる。


「おや、珍しい魔法ですね」

ラプラスは、横に移動して竜巻を回避したが、竜巻は生き物様に軌道を変えて、ラプラスを追う。


今度は、竜巻が左右から襲ってくるが、ラプラスは竜巻の隙間を掻い潜ったり、ジャンプして飛び越えたりして器用に躱していき、着実に後衛にいるイシリア達に接近していく。


だが、ラプラスの行く手を阻むように、一瞬で魔王達が取り囲んだ。


魔王、妃・ミリーナ、シリーダ、マキネは雷歩を使用しており、体からバチバチと放電していた。


「いくぞ!」

「ヤッ!」

「逃がさないわ」

「そこっ」

魔王は双剣、ミリーナは杖、シリーダは距離を取って鞭で、マキネは短剣でラプラスに襲いかかった。


魔王は正面から右手の剣を振り下ろそうとしたが、ラプラスは左手で魔王の右手首を押さえて途中で止める。


「くっ、今だ!ミリーナ」

魔王はミリーナに指示を出しながら、左手の剣で凪ぎ払おうとする。


「ぐぁ」

だが、ラプラスが右拳で魔王の左手を殴ったことにより、魔王の左手の指がへし折れ、握っていた剣が地面に落ちた。


「ヤッ!」

ラプラスの右側から迫ったミリーナは、杖で叩きつけるようと振り上げる。


「これなら、どうします?」

ラプラスは尋ねながら、魔王を盾にしようと思い、魔王の手首を掴んでいる手を右側に振り自分前に突き出す。


「くっ」

ミリーナは、途中で杖を振り下ろすのを中断した。


その隙にラプラスは、体勢が崩れている魔王の鳩尾を思いっきり蹴り飛ばし、ミリーナごと吹っ飛ばした。


「ぐぁ」

「きゃ」

魔王とミリーナは、縺れながら地面を転がって岩に衝突した。



「そこよ!」

「おっと」

左側にいたシリーダは、ラプラスの死角から鞭で攻撃を仕掛けたが、ラプラスは左腕で防いだ。


「惜しかったですね」

「それは、どうかしら?」

「ん?」

防いだ鞭がラプラスの左腕に絡み付いた。


「ま、まさか、初めから、これを狙っていたのですか!?」

「ええ、そうよ。これで、逃げれないでしょう?」

すぐに気付いたラプラスは、腕に絡まった鞭を外そうとする。


「今更気づいても、もう遅いわよ。ライトニング」

シリーダは、雷魔法ライトニングを唱え、鞭から稲妻が迸った。


「ぐぁぁ…」

感電したラプラスは、身体中から放電して動きが止まる。


「マキネちゃん!今よ!」

シリーダの掛け声がする前にマキネは既に行動に移していた。


「任せて、ヤッ!」

ラプラスに接近していたマキネは、短剣でラプラスの首を跳ねようとする。


「フッ、引っ掛かりましたね。残念ながら、僕は、このくらいの電撃は堪えることができるのですよ」


「「えっ!?」」

シリーダとマキネは、ラプラスの余裕のある声が聞こえて背筋がゾッとする。


ラプラスは左腕に絡まっている鞭が離れない様に左手で握り締めて横に振り、未だに稲妻が迸っている鞭をマキネに接触させた。


「きゃぁ」

感電したマキネは、他の者達よりも雷属性に抵抗があったが、一瞬、体が硬直して動きが止まる。


その隙をラプラスは見逃さなかった。


ラプラスはマキネを蹴り飛ばすのと同時に、鞭を思いっきり引っ張りシリーダを引き寄せる。


「きゃ、うっ」

引き寄せられたシリーダは、鳩尾にラプラスの肘打ちが入り、ぐったりとその場に倒れた。


ラプラスは、すぐに蹴り飛ばしたマキネが受け身をとっている最中に背後に回り、ステッキのグリップでマキネの首筋を軽く叩いて気絶させた。



「ふぅ、これで7人ですね」

一息吐いたラプラスは、背後から嫌な感じがし、後ろに振り向いて目を大きく見開く。


目の前には気配を消したマリーナが右手を引いており、既に攻撃モーションに入っていた。


「セブンズ・スピア」

ラプラスが振り向いた瞬間、マリーナはレイピアで超高速7段突きを放った。


7段突きは、7箇所同時に突きを放ったかの様な超高速の突きだった。


「おっと」

ラプラスは振り返りながら、咄嗟にステッキでマリーナの7段突きを同じ7段突きをして全て防ぐ。


ラプラスのステッキの先ゴム(先端)とマリーナのレイピアの切先(剣先)が押し合いになった。


「ぐっ」

マリーナは、ラプラスが体勢を崩している今の状態なら力比べでも勝てると思っていたが、ラプラスはビクともしなかった。


このままでは、次第にラプラスが体勢を整えてしまい、此方が不利になると判断したマリーナは、レイピアを横に反らして受け流し、攻撃に転じようとした。


しかし、考えを見透かされたかの様に、力の方向を変えようとした瞬間、先にラプラスにグッと押されて後ろにズリ下がり、マリーナは体勢を崩された。


「くっ」

体勢を崩されたマリーナだったが、ラプラスの背後からウルシアの姿が見えた。


ラプラスもウルシアに気付き、迎撃しようとする。


迎撃を阻止する様にマリーナは、バランスを崩しながらでもレイピアで連撃を繰り出す。


ラプラスは、左側に移動して連撃を回避した。


「「逃がさないわ」」

マリーナとウルシアは、すぐにラプラスを追かけて息の合った連携を取り攻撃する。


ラプラスは体を傾けて回避したり、ステッキで受け流したり弾いていくが、一歩また一歩っとジワジワと押されて、後ろに下がらされていく。



マキネが意識を取り戻し、起き上がる気配がしたので、ラプラスはステッキをマキネに向けて投げつけた。


しかし、意識を取り戻したマキネは、すぐに上に跳んでステッキをギリギリで回避し、手裏剣とクナイをラプラスに向けて投擲する。

「ヤッ!」


手裏剣とクナイは、ウルシアとマリーナの隙間を通り抜けラプラスに迫る。


ラプラスは、何度もバク転しながら手裏剣とクナイを回避し、手裏剣とクナイは地面に刺さっていく。


しかし、左右からミリーナとウルシアが同じスピードで追従しながら攻撃するタイミングを見計らっていた。


「「ハッ!」」

マリーナとウルシアは、ラプラスが地面に両手をついてバク転する瞬間に同時に斬りかかった。


マリーナは下段切りでラプラスの腕と頭を狙い、ウルシアは上段切りでラプラスの太腿を狙った。


「ほっと」

攻撃の気配がしたラプラスは、地面に手をついた時、力強く地面を押し上げて高く跳び跳ねて、マリーナとウルシアの攻撃を避けた。


ラプラスが空中で身動きができないところを、マキネは更に手裏剣とクナイを投擲する。


ラプラスは、空中で体を捻りながら次々に手裏剣とクナイを弾いていく。


「ん?」

マキネが投擲した手裏剣とクナイの数本が、自分の方に向かっていないことに気付いたラプラスは、疑問に思った。


しかし、左右の離れた場所から膨大な魔力を感じたラプラスは、その場所に視線を向けると右側にジャンヌ、左側にウルミラがおり、2人は目を閉じて自分の武器に高めた魔力を込めていた。


「ん?」

(お姫様の武器は双剣だったはず、いつの間に弓にお持ち替えたんでしょうか?それに、ウルミラ様も矛だったのに槍に変わっていますね)


「おっと、そんなことを考えている暇はありませんね。あれは、流石に僕でも直撃すると死にかねません」

ジャンヌとウルミラの武器が変わっていることに疑問に思ったラプラスだったが、今は考えるのをやめ、標的を危険なジャンヌとウルミラに変えた。


そして、ウルミラより近くにいたジャンヌに狙いを定める。


「イシリア!マリーナさん!」

「わかっているわ、マキネ」

「「ダウン・ホース」」

マキネの掛け声に答えるイシリアは、デス・ストームを解除して、母・マリーナと一緒に風魔法ダウン・ホースを唱えてラプラスの頭上に圧縮した空気の壁を落とした。



空中にいたラプラスは避けることができず、圧縮した空気の壁によって、勢いよく地面に叩き落とされた。


「ぐっ」

ラプラスは地面にめり込み、未だに地面に押し付けられているが、ゆっくりと立ち上がろうとする。


「フリーズ」

ウルシアが片手を地面に触れて、氷魔法フリーズを唱え、手元から地面が凍っていく。


ラプラスは脱出しようとした時、魔王とミリーナの姿が見えた。


「「ダウン・ホース!」」

魔王とミリーナは、お互いの肩を支えながら片手をラプラスに向けて魔法を唱えた。


ラプラスの頭上に、圧縮した空気の壁が上乗せされ、再び地面に押し付けられて倒れる。


そして、ウルシアのフリーズがラプラスの足元まで迫り、ラプラスの足元を凍らしていく。


「マキネ!いける?」

「うん!大丈夫だよイシリア!魔力が回復したから」

イシリアの掛け声に答えたマキネは、短剣を逆手に持ち替えて魔力を込めて地面に突き刺した。


「こ、これは…」

ラプラスは、自分の周りに先ほど外れたクナイが地面に刺さっていることに気付き、本能が危険だと警告を鳴らすが身動きができなかった。


「はぁっ!」

マキネの短剣から稲妻が走り、稲妻はラプラスの周りに突き刺さっているクナイに向かう。


そして、クナイに稲妻が当たり、ラプラスを中心に八芒星が描かれ光輝き発動した。


「オクタグラム・サンダー・スパーク」

マキネの呪文を唱え魔法が発動する。

轟音をたてながら、魔法陣は高さ10mぐらいまで稲妻が激しく駆け登り、ラプラスを飲み込んだ。


「ぐあぁぁぁ」

目を開けれないほどの激しい発光の中、ラプラスの悲鳴が響き渡る。


「「ジャンヌ!、ウルミラ!」」

マキネとイシリアは、声を合わせて呼んだ。



「任せなさい。全てを燃やし消し飛ばせ、アポロン!」

技名を唱えたことで、矢を纏った炎は矢に集束し、矢は真っ赤に染まる。

ジャンヌは、弓を射る体勢をとり片目を瞑り狙い定めた。


そして、狙いを定めたジャンヌは、目を大きく見開いて矢を射る。


矢は物凄い速さで放たれ、矢は炎を纏って巨大化していき、大地を燃やしながらラプラスに迫る。



一方、ウルミラは、ジャンヌのアポロンと同時にラプラスに当てるため、すぐには投擲せずに槍投げの構えをしたままタイミングを見計らっていた。


その間も、槍に魔力を込めており、槍は回転するグリップによって高回転をして甲高い音を響き渡せている。


「今です!」

ウルミラは高く飛び上がった。


「万物を穿つ神槍、グングニール」

ウルミラは、空中で高速回転している槍をラプラスに向けて投擲した。



「うぉぉ」

ラプラスは雄叫びをあげながら、魔力を高めていき、徐々にマキネの八芒星にヒビが入り、そのヒビが広がっていった。


そして、魔法陣と魔王達の束縛を弾き飛ばして掻き消した。


しかし、それと同時に左右からジャンヌが放った炎の矢アポロンとウルミラが投擲した冷気を纏った槍グングニールが目の前まで迫っていた。


ラプラスは目を大きく見開き、そして、大爆発が起きた。


まるで、火山が噴火した様な爆音と共に衝撃波と爆風が発生して、ジャンヌ達に飲み込もうと襲いかかる。



「お父様!お母様!皆!くっ、アース・ウォール」

「お母様!皆さん!うっ、アイス・ウォール」

皆を心配しながらジャンヌとウルミラは、防御壁を作り身を守る。




【パルシアの荒野・東側・人間側】


「こ、これは危険だね。あんた達、衝撃波に備えて、今すぐに防御壁をお張り」

衝撃波を見たアエリカは危険だと判断し、皆に指示を出した。


唖然としていたユナール達は、アエリカの指示で我に返り、自分の得意な属性の防御壁を唱えて衝撃波を防ぐことができたが、間近にいた魔王達達と離れていたが呆然としていた相互の騎士団は、間に合わず衝撃波と爆風に飲み込まれた。




衝撃波と爆風が落ち着いたので、ユナールは自身の作った土壁の端から顔を覗かして、周囲を確認して息を呑んだ。


「おいおい…。嘘だろう?何だこれは…。ラプラスは、死んだと言うよりも、跡形もなく消滅したんじゃないのか?」



その光景は、周囲に多くあった岩などが、全て吹き飛ばされており、ラプラスが居た場所は、巨大なクレーターができて蒸気が充満していた。


そして、巨大なクレーターとその周りは、右側半分が大地が赤黒く燃えて陽炎を発生しており、左側半分は氷柱が天を貫く様にあちらこちらにできていた。




【パルシアの荒野・中央側】


ジャンヌとウルミラは、お互いにクレーターの近くまで歩み寄っていた。


「ハァハァ…。皆は大丈夫かしら?」

「ハァハァ…。わかりませんが、大丈夫と思います」

「ねぇ、ウルミラ。倒したと思う?」

「わかりません。ですが、あのタイミングでは、魔法で相殺することも避けることもできなかったと思います」

魔力を使い切り魔力枯渇に陥っていたジャンヌとウルミラは、息が上がり肩を大きく上下させていた。



「「うっ」」

「「ぐっ」」

クレーターの周りの所々から呻き声と共に盛り上がり、砂に埋もれていた魔王達と相互の騎士団が続々と起き上がっていく。


しかし、防御壁が間に合わず身を守れなかった魔王達と相互の騎士団は、衝撃波や爆風で飛ばされた岩や石などが直撃して傷を負い、高温の蒸気爆発の爆風で火傷も負って殆どの者が重傷だった。



背中に火傷と傷を負い血を流している魔王は、意識が朦朧とし膝の力が抜け、倒れそうになった。

「ぐっ」

「あなた!」

「大丈夫ですか?魔王様!」

間近にいたミリーナとウルシアは、慌てて左右から魔王の体を支えた。


「あなた、身を挺して私達を守ってくれて、本当にありがとう」

「ありがとうございます」

「ぐっ、お前達が…無事で良か…った。すまない…が…、あとは…頼んだ…ぞ…」

2人の感謝の言葉を聞いた魔王は、笑顔を浮かべて意識を手放した。


「あとは任せて」

気絶した魔王に優しく声を掛けるミリーナと無言で頷くウルシアは、ゆっくりと魔王を地面に寝かせた。


魔王が身を挺して守ってくれたミリーナとウルシアだったが、ミリーナは左腕と左足を、ウルシアは右腕と右足を負傷していた。



「アイス・ウォール」

氷魔法アイス・ウォールを唱えたウルシアは、魔王の周囲を分厚い氷壁で囲い、攻撃されない様にした。



「もし、これで倒せていなかったら、私達に勝ち目がないわね。ウルシア」


「そうね」

ミリーナの意見にウルシアは肯定し、魔人や人間とか関係なく、誰もが緊張した面持ちで、未だに蒸気が立ち上るラプラスの居た場所を見つめた。




【パルシアの荒野・東側・人間側】


「ねぇ、流星。ラプラスは大丈夫なのかしら?」

メルサは、不安そうに流星に話しかける。


「ああ、微かだが気配を感じる。だが、あいつは俺と違って、魔法を無力化できないから、重傷を負っている可能性が高い」


「そうね…。ところで、何故そんなに嬉しそうなの?」


「フッ、いや、俺を倒すための秘策なだけはあると思ってな」

ジャンヌ達の作戦を見た流星は、口元を緩めていた。




【パルシアの荒野・中央側】


「ぐっ、今のは本当に死ぬかと思いましたよ」

蒸気の中からラプラスの声が聞こえた瞬間、敵味方問わず、誰もが顔を強ばらせる。



ラプラスは、右手にジャンヌの矢、左手にウルミラの槍を持ったまま歩いて蒸気の中から姿を現した。


ラプラスの右手に握られていた矢は次第に剣に戻り、左手に握られていた槍は矛に戻った。


ラプラスの姿はボロボロだった。

かぶっていたシルクハットとタキシードはボロボロに破れ、ウサギの仮面は全体に亀裂が入り、右側が黒く焦げ、左側は霜が付いており、両腕は火傷を負い赤黒く腫れていた。


ジャンヌのアポロンとウルミラのグングニールが目の前まで迫った時、ラプラスは右側から迫ってきたジャンヌのアポロンを右手で、左側から迫ってきたウルミラのグングニールを左手で掴み、全魔力を左右の手に集中させて魔力で包み込み、威力を抑え込んで凌いでいたのだ。


しかし、魔力を分散させたため無傷ではすまなかった。


両腕に重度の火傷を負ったラプラスだったが、ジャンヌ達の精神に多大なダメージ与えるには十分だった。


ジャンヌ達は、魔力枯渇や負傷しており、満足に戦える者がいないことはわかっていた。


見守っている魔人の騎士団は、何も言葉が出ず、ただ呆然とラプラスを見ている。



「そ、そんな…。ジャンヌとウルミラの魔法でも倒せないなんて…」

イシリアは、騎士団と同じく絶望した表情を浮かべて呟いたが、ジャンヌ達は過去に流星と戦った経験があったので絶望したが、すぐに今できることを試行錯誤していた。




【パルシアの荒野・東側・人間側】


一方、人間達は味方のラプラスの異常な強さに恐れていた。

「あ、あの攻撃が当たって、何で生きているんだ?」


「わからない。ただわかるのは、あの攻撃を避けることも魔法で迎撃するのも無理だったということだけだ…」


「じゃ…じゃあ、魔法強化をせずに魔力だけの身体強化だけで、あれを凌いだというのか?それこそ、馬鹿げている!あり得ないぞ」


「しかし、それしかないだろう?お前も見ただろう?」


「そうだが…。もし、そうだったとしたら、ラプラス様の実力は聖剣のアエリカ様方を超えていることになるぞ」


「それこそ、信じられない!失礼な話だが、ラプラス様はまだ子供だぞ」


「しかし…」


「落ち着け、お前達。思い出せ、勇者様の話を。聖剣最強の【時の勇者】様自らが、ラプラス様を自分の半身だと宣言していただろう?何も可笑しくはないことだ」


「そうだったな…」

「しかし…」

人間の騎士団は、ラプラスが生きていたことを喜ぶよりも、逆に困惑した表情でヒソヒソと話し合っていた。


そんな中、背後からドンっという壁を殴った音が聞こえ、騎士団は音がした方に振り返った。


そこには、ユナールが自身で作った土壁を殴り、拳を押し付けた姿があった。



「なぜこうも、勇者やラプラス…。あいつらと俺達の実力の差がこんなにもあるだ!まるで、次元が違うじゃないか!」

悔しそうな表情でラプラスを見つめるユナールは、歯を食い縛った。


「ユナールさん…」

ユナールの隣に居たカトリアは、ユナールの肩に優しく手をそっと置いた。




【パルシアの荒野・中央側】


「あっ、そうでした」

フッと閃いたラプラスは、魔力枯渇で息が上がっているジャンヌとウルミラに、ゆっくりと歩み寄る。


「ジャンヌ!、ウルミラ!」

ミリーナ達が駆けつけようとしたが、満身創痍で体が上手く動けず、悲痛な声で叫んだ。



「ウルミラは、下がりなさい」

「いえ、大丈夫です。姫様」

ジャンヌは、武器を失ったウルミラを庇う様に前に出て剣を構えたが、ウルミラは拳法も嗜んでいたので下がらずにジャンヌの横に選び構えた。



そんな2人を前にしても、ラプラスは特に何も気にした様子も見せずに2人に近づいて行く。


ジャンヌとウルミラは、余裕に満ちたラプラスの不気味な行動に冷や汗を流した。


2人は、一度距離を取ろうと同時にバックステップをする。


しかし、バックステップ中に、2人がラプラスの姿が消えたと認識した時、背後から背中を掌で優しく止められた。


「お2人共、お待ち下さい」

「「~っ!?」」

背後から、正面にいたはずのラプラスに優しく声を掛けられたジャンヌとウルミラは、背筋が凍りついた。


2人は過呼吸に陥り、まるで金縛りにあったかの様に、振り向くことも体を動かすこともできず、呼吸すらもまともにできなくなった。



ラプラスは、一瞬で2人の背後に回った時、2人を優しく止めるために、持っていたジャンヌの剣とウルミラの矛を地面に突き刺して受け止めていた。


剣と矛を引き抜き、ラプラスは2人の前に移動する。



ジャンヌとウルミラは、未だに硬直して動けず、そして、ラプラスの姿が見え始め、早くなっていた心臓の鼓動が更に早くなっていき、その心音は周り響いて聞こえていると思うほど大きく感じた。



「これらを、お返ししますね。お2人の攻撃は、とても素晴らしかったです」

硬直している2人を気にせず、ラプラスは左右の手に持っていた剣と矛をジャンヌとウルミラに返した。


2人は思考停止したまま、呆然と武器を受け取った。


「ありがとう…ございます…」


「あ、あなたは、一体何を企んでいるの?」

思考が止まったままのウルミラはお礼を言ったが、我に返ったジャンヌはキリッとラプラスを睨み付けて問いただした。



「そんなに睨まないで下さい。僕は、何も企んでいないですよ。ただもう、この戦いを終わりにしようかなっと思いまして」


「それは、私達を皆殺しにするということかしら?」

冷や汗を流しながらジャンヌは、ラプラスに尋ねる。


魔人の騎士団は固唾を呑み込み、勝算が全くないがラプラスに一矢報いたいと思ったり、この身を挺して魔王達を守ろうと覚悟を決めた。


「いえ、今回は此方に非があるので、このまま立ち去ろうかと思ってます。それに、今から皆殺しするぐらいなら、今までわざと手加減をしながら戦っていませんよ。それで、良いでしょうか?流星さん」

ラプラスは、流星に振り返った。


「ああ、お前の好きにすれば良い」

流星は、頷いて肯定する。


「そういうことで、今回は撤退します。ですが、この戦闘でわかって頂けたかと思いますが、天地がひっくり返らない限り、あなた方では僕達に勝てません。無駄な争いはやめて、大人しく降伏をお勧めします。それでは失礼します」

ラプラスは、ジャンヌ達に頭を下げて流星の所に戻って行った。


ジャンヌとウルミラは、ラプラスが離れていく姿を見て、張り詰めた緊張が一気に解けて、その場にへたり込んだ。




【パルシアの荒野・東側・人間側】


「お前達、帰還するぞ」

流星の指示で、ラプラス達はジャンヌ達に背中を向けて立ち去ろうとする。


だが、鷹虎兄弟は身体強化をして、ジャンヌとウルミラに襲い掛かる。


「俺様達は、敵討ちをしに来たんだ!」

「兄貴の言う通りだ!」

「やめろ!鷹虎兄弟!。ラプラスに殺されるぞ!」

ユナールは、鷹虎兄弟の身を案じて止めようとした。


「お願いです。どうか、あの2人を許して下さい」

カトリアは命懸けで両手を広げて、後ろに振り向いたラプラスと流星に立ちはだかる様に前に立った。


「~っ!?」

しかし、目の前にいたはずのラプラスが、気付いた時には既に右側におり、カトリアは心臓が飛び跳ねる。


「カトリア様、ご安心して下さい。指示を無視したことは頂けませんが、僕と流星さんは手出しはしないですよ。いえ、正確に言いますと、その必要がないのです」


「どういうこと?」

ラプラスは、すれ違い様にカトリアの耳元で囁き、カトリアの質問には答えずに鷹虎兄弟がいる後方へと歩いて向かう。


その時、ジャンヌの影が少し揺らいだ。



「流星さん。愚か者は、本当に救いようがないですね」


「はぁ、そうだな。それに、まだ気付いていないみたいだ」

ラプラスに肯定した流星は、溜め息を吐いた。




【パルシアの荒野・中央】


ジャンヌとウルミラは、鷹虎兄弟が迫ってくるが、未だに足腰に力が入らず立てないでいた。


鷹虎兄弟は、ジャンヌに間近まで接近した。


「カナリーダの仇だ!死ねぇ!」

「くたばれ、エクスプロージョン・インパクト!」

鷹はジャンヌに鎌を振り下ろそうととし、虎は右拳に魔力を集中させて爆発効果を付与して、ウルミラに殴り掛かろうとする。



敵討ちを果たせたかと思った鷹虎兄弟だったが、予想外の出来事が起きて驚愕する。

「「なっ!?」」


突然、ジャンヌの影の中から左手が現れ、鷹の右手首を掴んで攻撃を受け止める。

それと同時に、影から右足も現れ、無防備になっていた虎の横腹を蹴り、鷹と一緒に吹っ飛ばした。



そして、突如、影から現れた乱入者に、敵味方関係なく誰もが驚きを隠せないでいた。


「ほう」

「これは、これは」

ただ流星とラプラスの2人だけは、周りと違い感心していた。


「う、嘘でしょう…?な、何故、あなたが…」

メルサは、信じられない物を見たかの様な表情で、恐る恐る呟いた。

次回の話から大成が出ます。


もし宜しければ、次回もご覧下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
href="http://narou.dip.jp/rank/index_rank_in.php">
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ