それぞれの戦いとラプラス登場
人間と魔人の戦いが始まり、戦局は激化していく。
【魔人の国・パルシアの森】
森の魔物達は、物凄いスピードで森を駆け抜ける黒い影を見ていた。
その黒い影の正体はラプラスだった。
「はぁ~、まさか通りかかった町で迷子になっている女の子と出会い、親探しに時間が掛かってしまうとは予想外でしたね。とりあえず落ち込むよりも、急がないと誰か死んでしまいそうです。そうなったら、流星さんに怒られますね…」
シルクハットを押さえながら走っているラプラスは、思い出すたび何度も溜め息を吐き、更にスピードを上げて加速する。
暫く走っていると、遠くから膨大な魔力を感じた直後、上空に遠くからでも見えるほど巨大な魔法陣が出現した。
そして、すぐに消えたと思った瞬間、巨大な火球が流星群のごとく降り注ぐ光景が見えた。
「おお、凄い魔法ですね。流石、魔人ということですかな」
ジャンヌのメテオ・ダイブを見てたラプラスは、嬉々とした表情になった。
その後、更に進むと巨大化したニールとゴーレムと一体化し巨大化したユナールの姿が見えた。
「おお、これは面白いものが見れます」
相変わらず、呑気なラプラスだった。
【パルシアの荒野・マキネ、シリーダVSアエリカ】
魔人と人間の戦が始まり、あちらこちらで悲鳴や雄叫び、爆発音などが響き渡っていた。
その中、戦場の左側では砂埃が立ち、蒼白い稲妻と黄色の稲妻、そして白色の稲妻の3種類が交差したり追いかけたりして迸っていた。
マキネ、シリーダ、アエリカの3人が雷歩を使用していて、周りにいるお互いの騎士団は、3人の神速の速さについていけず、姿すら目に捕らえることができずにいた。
全身に雷を纏っているアエリカは、左右の手にライトニング・ブレードを握っており、鞭で中距離から攻撃しているシリーダに狙いを定める。
「私の動きについて来られるかい?」
左右のフェイントでマキネを抜いたアエリカは、ジグザグに走りながらシリーダの鞭を掻い潜って迫った。
「そうは、させないよ!」
抜かれたマキネは、短剣でアエリカの背後から攻撃をした。
「くっ」
アエリカは、咄嗟に頭を下げてマキネの攻撃を回避した。
その間に、マキネはシリーダとアエリカの間に立ち塞がる様に出て、シリーダは距離をとることができた。
「邪魔だよ。この裏切り者が!」
アエリカは、狙いをマキネに変更して左の剣で斬りかかる。
「私は、魔人だよ」
マキネは神速で後退して、アエリカの攻撃を避け、4枚の手裏剣を投擲した。
だが、目の前にいたアエリカの姿が消えており、手裏剣は岩に当たり放電した直後、アエリカの剣がマキネの首元に接近していた。
「くっ」
強引に体を捻って避けたマキネだったが、アエリカの剣が放電する。
マキネは完全には避けることができず、感電をし動きが少しだったが止まった。
だが、アエリカにとっては、その一瞬でも十分だった。
「まず、あんたからだよ」
右手の剣を振り上げて、トドメを刺そうとするアエリカ。
「させないわよ」
シリーダが鞭でアエリカを襲う。
「本当に、厄介な連携だね」
アエリカは、素早く離れて回避した。
シリーダとマキネは、マジック・ポーションを飲んで魔力の回復を怠らない。
こんなやり取りが、何度も繰り返していた。
「はぁ~、今回も倒せなかったわねぇ。何だか、私のプライドが傷付くよ」
あと一押しが足りないで、止めを刺すことができずにいるアエリカは溜め息を吐く。
アエリカの雷歩は、マキネ、シリーダの雷歩よりも熟練されており、元々の魔力値もアエリカの方が高かったので、同じ雷歩でもスピードや切れなどに差が出ていた。
しかし、それをマキネとシリーダは協力し合うことで差を埋め、ほぼ互角の戦いを繰り広げていた。
【パルシア荒野・ミリーナVS鷹】
「魔人の姫ジャンヌは、俺の獲物だ!お前達は、そこまでの道を開け!」
「「了解!」」
鷹は自分の部隊を連れて、ジャンヌが見えた中央に進撃していた。
「どけどけ~!」
先陣を切っている鷹は、両手にナイフを持ち、自身の能力【アクセラレータ】を使用して身体能力を上げ、立ち塞がる魔人の騎士団を次々に倒していく。
「ぐぁ」
魔人の騎士団は、鷹のスピードについていけず、うっすらと鷹の残像が見えるだけで、何もできずに倒されていった。
「アース・スピア」
ミリーナは土の槍を召喚し、迫ってくる鷹の動きを見極め、杖を振り下ろして土の槍を放つ。
「邪魔だ!どけ!」
鷹は、騎士団を倒していた時に、正面から物凄いスピードで土の槍が飛んで来た。
「うぉっ!」
タイミングは完璧で、正確で鋭い攻撃だったが、鷹は右手のナイフで弾くことができた。
「今のは良い攻撃だったが、俺様には通用しないぜ」
「そうみたいね。だけど、ここから先は行かせないわ」
鷹の前にミリーナが立ち塞がる様に前に出る。
「お前は、確か魔王の妃だったな」
「ええ、そうよ。私の名前はミリーナ・ラーバス。私の娘ジャンヌのところには行かせないわ」
ミリーナの両足がバチバチと青白くスパークする。
「先にカナリーダを殺したジャンヌを始末したかったが、俺様の前に立ち塞がるなら、先にお前を殺すまでだ。それに、お前は雷歩が使えるみたいだな。俺様のアクセラレータとお前の雷歩、どっちが速く、そして、強いか勝負だ」
鷹は魔力を高めて、先程よりもスピードを上げた。
ミリーナと鷹は距離は50mぐらい離れていたが、お互い姿がブレた様に見えた瞬間、真ん中辺りで衝突し、衝撃波が生まれた。
片手だった鷹は弾き飛ばされ、後ろにずり下がった。
ミリーナは、振り下ろした杖を横に構えて、鷹に迫る。
そして、体を捻りながら渾身の一撃を放った。
「糞がっ!」
バランスを崩している鷹は、受け止めることしかできず、ナイフをクロスに構えてミリーナの杖を受け止めた。
お互い、鍔迫り合いになる。
「「はぁぁ!!」」
ジワジワと押されていく鷹。
「なんて力だ。オラッ!」
鷹は左手のナイフを横に振り、ミリーナの首を狙った。
「ハッ!」
ミリーナは力で押して鷹を退けることで、ギリギリでナイフを回避して杖で叩きつける。
「ちぃ」
鷹は、再び攻撃を受け止めてズリ下がるが、今度は流れに逆らず、そのまま一旦後ろに下がり、すぐに左に移動する。
移動した直後、右側からミリーナが距離を詰めており、先程に居た場所に杖が空を切った。
今度は、鷹がミリーナの左側に一瞬で移動して右手のナイフを振る。
ミリーナは、攻撃を避けて距離を取ろうとしたが、鷹が追いかけてくる。
「オラッ!」
「ハァァ!」
鷹はミリーナの背後から襲うが、ミリーナは振り返りながら杖に遠心力をつけた。
再びナイフと杖が衝突して、鷹は後ろに吹っ飛ばされる。
「チィ、デタラメな力だ。仕方ない、こうなったらアレを使うか」
このままだと戦いが長引くと判断した鷹は、腰に掛けていた鎖鎌を取り出して振り回し始める。
昔、流星から鎖鎌を勧められていたが、鷹は流星をライバル視していたので素直になれず、今まで使用するのに躊躇っていた。
しかし、シルバー・スカイの事件で自分が自惚れていたことに気付いた鷹は、敵討ちをするためにプライドを捨て、毎日血が滲むほど鎖鎌の練習をしていた。
鷹は、鎖鎌を振り回しながら加速効果を付与し、回している鎖鎌は、どんどん回転が速くなっていく。
「オラッ!」
鷹は、鎖鎌を投擲した。
投擲された鎌は、物凄いスピードでミリーナに迫る。
ミリーナは雷歩を使用して神速で動いて避けようとするが、鷹は鎖を手足の様に操作して先端の鎌を生き物様に動かして追尾する。
シリーダの鞭は加速効果は付与されていないが、鷹の鎖鎌は加速効果が付与されおり、完全に別物だった。
鎖鎌を見極めることが困難と判断したミリーナは、鎖鎌の範囲外に逃れようとしたが、鷹が接近して間合いを詰めて来るので、範囲外に逃れることはできなかった。
「くっ、これは、避けきれないわ」
ミリーナは、迫ってくる鎖鎌を杖で払い除けようとしたが、鎌は杖をすり抜けてミリーナの左肩を斬りつける。
「うっ…」
ミリーナは、傷を負いながらも鎌を杖で弾いたことにより掠り傷で済んだ。
しかし、ミリーナの後ろに弾かれた鎌だったが、鷹は鎖を引き、鎌はミリーナの死角の背後から襲い掛かり、ミリーナの左脇腹を切り裂いた。
「ぐっ」
傷を負った脇腹を押さえたミリーナは、歯を食い縛り痛みを堪える。
「フッ、これなら実戦でも十分使えるな」
鷹は、一度鎌を手元に戻し、手元で鎌を回して獰猛な笑みを浮かべて再び投擲する。
ミリーナは、左脇腹を押さえながら必死に避けようとするが、襲いかかる鎌のスピードはミリーナの動きより速く、そして鋭かった。
「この鎌は厄介ね。避けるどころか、魔法を唱える隙すらないわ。でも、避けきれないなら接近するまでよ」
このままだとジリ貧になると判断したミリーナは覚悟して接近する。
「良い度胸だ!やはり、良い女は度胸もあるな!だが」
接近してくるミリーナを見ても、鷹は落ち着いて鎖鎌で攻撃をした。
ミリーナは、可能な限り鎌を弾くが、鎌の鋭い猛攻で身体中に切り傷を負っていく。
「うっ」
それでも、ミリーナはスピードは落とさずに接近する。
「まさか、ここまで接近してくるとはな。正直に驚いた。だが、この距離だと、この攻撃を避けることは不可能だ!」
鷹は、鎌の反対側についている分銅をミリーナの額に狙いを定めて投擲した。
「エア・アーマー、エア・ウォール」
ミリーナは風の鎧を纏い、更に正面に風の壁を作った。
しかし、無情にも分銅は一瞬で風の壁に貫通し、ミリーナが纏っている風の鎧も粉砕した。
だが、風の壁と鎧のお陰でミリーナは、分銅の軌跡を知ることができ、体を傾けて致命傷になる攻撃を掠り傷で済ませた。
「やるな。だがな、それは予想範囲内だ」
鷹は、鎖を掴んでいる右手を大きく左側に振った。
分銅はミリーナの体の周りを回り、鎖がミリーナの体に巻き付いた。
そして、鷹が鎖を引っ張ることでミリーナを締め上げる。
「十分、楽しめたぜ妃様。じゃあな」
鷹は、ミリーナに急接近し、右手を挙げて持っている鎌で、ミリーナの頭を切り裂こうとした。
「本当に厄介な武器と能力だわ。これほど相性が良いと苦戦を強いられるわね。だけど、本当に捕まえたのは、どちらかしら?」
「はぁ?お前は、一体何を言っているんだ?」
「どういうことか、教えてあげるわ。ライトニング」
鷹が怪訝な表情で質問した瞬間、ミリーナは雷魔法ライトニングを唱え、身体中から放電した。
放電したことにより、電撃は鎖鎌を通じて鷹に襲いかかる。
「ぐぁぁ」
鎖鎌を手放すのが遅れた鷹は感電し、それでも鎖鎌を手放そうとするが放すことができなかった。
ミリーナを締め付けていた鎖が緩くなり、その隙にミリーナは抜け出した。
「アクア・ミスト」
ミリーナは杖を掲げ、水魔法アクア・ミストを発動し、周囲を霧で覆い隠した。
「ぐぅ…。小癪な!」
鷹は、痺れている体で鎖鎌を回して霧を晴らしたが、正面にいたはずのミリーナの姿は、そこにはなかった。
霧が晴れる前に、ミリーナは上空に飛んでいた。
「貰ったわ。アース・ニードル・スパイラル」
ミリーナは杖を鷹に向けて、上空から土魔法禁術アース・ニードル・スパイラルを発動する。
「な、何だと!?」
鷹は、魔力感知でミリーナの居場所に気付き、上空を見た時には、既に高回転している巨大な土の針が放たれていた。
回避行動に移りたい鷹だったが、まだ感電しており、まともに動ける状態ではなかった。
かといって、流石に鎖鎌ではどうしようもないとも理解していた。
「糞~!!」
ただ、迫ってくる巨大な土の針を眺めることしかできずにいた鷹はあまりの悔しさに叫んだ。
間近まで土の針が迫った時、風でてきた巨大な大鷲が土の針に目掛けて羽ばたき、そして、衝突して目の前で相殺し、突風を巻き起こしながら土の針が粉々に飛び散った。
「嘘…。うっ…」
ミリーナは着地したが、傷だらけの体では上手く着地ができずに倒れる。
鷹は、大鷲が飛んで来た方角に視線を向けた。
そこには、風の鎧を纏ったカトリアが駆け足で向かってきている。
「大丈夫ですか?鷹さん。貴方は、こんな所で死んではいけません。心の底から愛した恋人の敵討ちするために、プライドまで捨て、私達に依頼したはずでしょう?」
「ああ、そうだな。助かった、カトリア」
カトリアの登場でホッとする鷹。
逆にミリーナは、カトリアの姿を見て苦しい表情に変わっていた。
(この状態では、勝利する以前に逃げることも厳しいわね)
「満身創痍なところ、すみませんが退場して貰います。エア・イーグル」
カトリアは手を上に挙げて、風魔法禁術エア・イーグルを唱え、頭上に風の鷲が現れた。
「さようなら、魔人の妃様」
挙げていた手を振り下ろしたカトリア。
大鷲は、身動きできないミリーナに襲い掛かる。
ミリーナは目を瞑ることなく、風の鷲を睨み付けた。
「ゴールド・ギャッチャレー・アイス・ドラゴン」
ウルシアの声と同時にミリーナの背後から氷の龍が通り抜て大鷲と衝突した。
「ウルシア!」
ミリーナは後ろを振り返ると、剣を肩に担いで歩み寄るウルシアの姿があった。
「あとは、私に任せてミリーナ」
「ええ、あなたに任せるなら、心配はないわ」
【パルシア荒野・マリーナVS虎】
戦場の左側では、爆発が何度も連続して起きていた。
「今だ!」
「おう!」
魔人の騎士団2人は、虎の背後から同時に襲いかかり剣を振り下ろした。
だが、剣は無防備の虎の後頭部や背中に命中したが、虎は全身に自身の能力【エクスプロージョン】を纏っていたので、剣が触れた瞬間に爆発が起き、振り下ろした剣が折れ、その剣先が騎士団の頬を掠めた。
「「なっ!?」」
騎士団は、驚愕して硬直する。
虎と比べて魔力が低い騎士団は、武器での攻撃や魔法などで、いくら攻撃しても虎にダメージを与えることができなかった。
「何処だ?俺様の恋人、サリーダを殺したウルミラという小娘は!?」
虎は後ろを振り返えりながら、右肘で背後にいる魔人の騎士団の頬に攻撃して1人を吹っ飛ばし、右手で背後いるもう1人の騎士団の頭を鷲掴みして持ち上げる。
「ぐっ」
鷲掴みされている騎士団は、両手で虎の手を剥がそうとするが、ビクともしない。
「おい!さっさと答えろ!何処にいるんだ?ああっ!」
「き、貴様らに教えることは何1つもない」
「ああ、そうかよ。だったら、お前にはもう用はないな。死ね」
「ぐはっ」
虎は掌に魔力を込めて爆発を起こし、騎士団の顔を真っ黒焦げにして手を離した。
「流石、聖剣だけのことはある。しかし、数で掛かれば勝てるぞ!行くぞ!」
「「オオォ!」」
「待ちなさい!」
「「マリーナ様!」」
ローケンス部隊の副隊長リガルダの指示により、騎士団は虎に突撃しようとしたが、マリーナの声で静止し声がした方に振り返る。
「あの方のお相手は、私がします。だから、あなた達は邪魔が入らない様にしなさい」
「「ハッ!」」
マリーナの指示で、騎士団はすぐに陣形を変えた。
「確か、お前は元ヘルレウスのメンバーのマリーナだったよな。ウォーミングアップには、丁度、良い相手だぜ」
「ウフフ…。間違っているから訂正するわ。私はヘルレウスメンバーに戻っているわ。それと、奇遇ね。私も、鍛冶屋に預けていた愛剣レイピアのシルフが、最近戻ってきたばかりなの。だから、私も丁度、シルフの感覚を試してみたいと思っていたところよ」
「そうかよ」
マリーナは美しい笑顔を浮かべ、対する虎は獰猛な笑みを浮かべている。
そして、2人の近くに流れ弾の炎の矢が着弾したと同時に2人は動き出す。
「エア・アーマー、エア・スラッシュ」
ワルキューレ戦とは違い、不意打ち狙いではないので、マリーナは風の鎧を纏ってレイピアを振り回し、8本の風の刃を放った。
「オラオラ!こんなもので、俺様は止められないぜ!」
虎は、左右の拳で風の刃を殴り付け、爆発させながら消していく。
「勿論、承知の上よ」
マリーナは、カトリアと同じく周囲の空気を操作して空気抵抗をなくし圧倒的なスピードで虎に接近した。
「エア・スクリュー・スピア!」
マリーナはスピードに乗ったまま、レイピアに風を巻き付けてスクリュー回転させた鋭い突きを放つ。
「!」
虎は、両手を握り締めてガンドレッドでマリーナの突きを挟み、レイピアを爆発させ受け止めた。
そして、虎は右拳で殴りにいく。
(何だか嫌な感じがするわね。ここは、大きく回避した方が良いかしら)
寒気がしたマリーナは、バックステップして必要以上に距離を取り、虎の拳を避けた。
虎の拳は空を切ったが、マリーナがいた場所が、突如、爆発した。
「よく気付いたな。最近、できる様になったばかりの技だったのによ」
マリーナの判断に感心する虎。
「恐ろしい技ね。まさか、魔力に触れなくても爆発するなんて」
「この力は、復讐するため死に物狂いで必死に訓練して手に入れた力だ。この力があれば、お前を倒すのは簡単だぜ。それに、お前の攻撃は、俺には通用しない」
「あら?それは、どうかしら?」
口元に手を当て笑顔を浮かべるマリーナは、指を鳴らす。
「何が可笑しい?痛っ!?」
マリーナのレイピアは、虎に触れた瞬間に爆発し受け止められたが、折られることはなく、虎の両手のガンドレッドを破壊し、両拳に切り傷をつけていた。
「俺様に傷を負わせるとは中々やるな。しかし、このくらいの傷しか負わせないなら問題な…」
虎が手傷を負った拳を舐めて話している時、マリーナは再び虎に接近する。
そして、マリーナはすぐに虎の左側に移動した直後、虎の正面が爆発した。
左に移動しなかったら爆発に巻き込まれていた。
マリーナは、気にせずにレイピアを振り下ろす。
「これも、避けるとはな。まぁ、その素早さは、認めるが決め手に欠け…くっ」
再び、手の甲で弾こうとした虎だったが、マリーナのレイピアが先程とは違うことに気付き、すぐに体を横に傾けて避ける。
「逃がさないわ」
マリーナは、体を捻り横にレイピアを横に振り抜いて追い打ちをする。
「チィッ」
虎は舌打ちをしながら、高くジャンプして回避する。
その時、足元の地面を爆発させ、目眩ましした。
「何なんだ!?あの切れ味は!?」
虎は、周りを見て驚愕する。
体を横に傾けて避けたマリーナの一撃は、大地を切り裂いており、2撃目は離れていた場所にあった岩が、真横に真っ二つに切断されて上部の岩が地面に滑り落ちていた。
一度、体勢を整えようと思った虎。
しかし、目眩ましで起こした爆発の中を、風の鎧を纏ったマリーナは無傷で通り抜け、まだ体勢が整っていない虎に接近して連撃をする。
「残念だけど、逃がさないわ」
マリーナの連撃は速く鋭く、虎では全て見極めることができない。
「糞~!」
虎は、魔力を全開にして両腕を合わせて防御に回る。
一瞬で、身体中が切り傷を負う虎。
「終わりよ!セブンズ・スピア!」
マリーナは、右手に握っているレイピアを後ろに引き、セブンズ・スピアを放とうとした時、虎の魔力が凝縮したことに気付いた。
「これは、不味いわね」
マリーナは、咄嗟に回避行動したかったが、セブンズ・スピアを放つ体勢になっており、体が硬直して回避ができなかった。
「嘗めるな!」
虎は合わせていた両腕を開くと共に凝縮した魔力を解き放ち、虎を中心に大爆発が起きた。
「うっ…」
間近で大爆発に巻き込まれたマリーナは、纏っていた風の鎧が一瞬で消え、吹き飛ばれて大地の上を転がる。
「ぐっ…」
全力の魔力を込めて大爆発を起こした虎自身も、制御が完璧ではなく体中に火傷を負い、その場に片膝をついた。
マリーナと虎は、すぐには立つことができず、ゆっくりと体を起こした。
「「ハァハァ…」」
2人は、肩を大きく上下するほど荒い呼吸をし、よろめきながら立ち上がる。
「お母様!」
「マリーナ、大丈夫か?」
イシリアとローケンスは、慌てた様子でマリーナに駆けつける。
「大丈夫と言いたいのだけど、正直に言うと少し休ませて欲しいわね」
夫・ローケンスと娘・イシリアから両側から支えて貰うマリーナ。
「わかった」
「お母様、これを飲んで下さい」
「ありがとう、イシリア」
イシリアは、ハイ・ポーションを取り出してマリーナに飲ませた。
マリーナの小さな掠り傷は癒え、火傷は少しずつだが癒えいく。
一方、虎の所にも、ヨーデルとニルバーナが駆けつけていた。
「おい!大丈夫か?」
「だ、誰にものを言っているんだ…。ぐっ…」
「ニルバーナ。すまないが、虎に回復魔法を」
ヨーデルは倒れそうになった虎の体を支え、ニルバーナに頼む。
「わかったわ。任せて、ヒーリング・オール」
ニルバーナは手を虎に当てて、回復魔法・最上級のヒーリング・オールを唱えた。
虎の体は、緑色の魔力に覆われ、傷を癒していき、激痛に耐えていた虎の表情が和らいだ。
「ニルバーナ、虎を任せるぞ。あとは、俺がやる」
ヨーデルは虎を寝かせて、背中に担いでいる槍を取り出して、ローケンス達に振り向く。
ヨーデルの姿を見たローケンスは、眉を潜めた。
「お互い痛み分けで、こちらは引くつもりだったが、向こうはやる気みたいだな。イシリア、すまないがマリーナを連れて、本拠地まで避難させてくれ。俺は、ここでヨーデルを止める」
ローケンスは、背中に担いでいる大剣を抜き、数歩前に出て大剣を両手で持ち構えた。
「わかりました、お父様。ご武運を」
「あなた、気を付けて」
「ああ、あとは任せろ」
ローケンスは後ろを振りかえずに返事をし、体勢を少し屈める。
イシリアはローケンスに一度お辞儀をして、母・マリーナを連れて、ゆっくりとその場を後にした。
「ヨーデル。戦う前に1つ聞いても良いか?」
「何だ?」
「お前達の今回の侵攻は、作戦も兵士達の準備も何もかもが中途半端で大雑把だ。まぁ、鷹虎兄弟やユナールは直情的だから、それでも実行したのはわかる。しかし、お前やアエリカ、それにニルバーナ、カトリアは、慎重だったはずだ。何故実行した?」
「そのことか。まぁ、教えても問題ないから教えてやろう。あのプライドの塊だった鷹虎兄弟が同胞や恋人の敵討ちするため、誠心誠意を込めて頭を下げた。そこまでされたら、手を貸したくなるだろう?」
「なるほど。だが、その敵討ちは失敗に終わる。なぜなら、ここで俺が止めるからだ」
「それは、やってみないとわからないことだ。いくぞ、ローケンス!」
ヨーデルは槍の矛先をローケンスに向ける。
「ああ」
頷いて返事をしたローケンス。
そして、2人は同時に動く。
「「ウォォォ!」」
ヨーデルは、両手で槍を持ったまま矛先を下げて全力で接近する。
一方、ローケンスは大剣を両手で握り、上段の構えをしたまま待ち構えた。
「セイント・ランス」
ヨーデルは走りながら、光魔法セイント・ランスを唱え、槍を光に包み込んで光速突きを放とうとする。
「ヘル・スラッシュ」
ローケンスは、大剣に全魔力を注ぎ込むと、大剣の刀身が10mぐらいに巨大化し、刀身の色が黒くなっていく。
その巨大化した大剣を振り下ろそうとした。
しかし、その時だった。
上空から、何かが物凄いスピードで2人の間に落下してきた。
2人は、攻撃を中断してバックステップをして回避する。
そして、落下してきた物が大地に衝突したことで砂埃が巻き起こり、砂埃はローケンスとヨーデルと周りにいた騎士団を飲み込んだ。
「何だ!?」
「何かが落下してきたぞ」
「新手か?」
「わからない。だが、人ではなかったぞ」
周りいたお互いの騎士団は混乱した。
「ウィンド」
ローケンスは、大剣を地面に突き刺して風魔法ウィンドを唱え、周囲の砂埃を払い除けた。
落下してきた箇所には直径3mぐらいのクレータができており、その中央には白いステッキが大地に突き刺さっていた。
そして、今まで膨大な魔力と殺意を出していたヨーデルの殺気が消え、魔力も急に小さくなったので、ローケンスは警戒しながらヨーデルを見る。
「あ、あ…」
ヨーデルは、見覚えのある白いステッキを見て、無防備にも身体強化を解除するほど、恐怖で小刻みに震えていた。
そんなヨーデルを見たローケンスは、怪訝な表情になった。
【パルシアの荒野・ニールVSユナール】
巨大化したニールとゴーレムと一体化したユナールは、お互い殴り合いをして、出血したり痣ができてボロボロだった。
しかし、ニールの魔力は時間が経つと共に高まってユナールを圧倒していく。
「ウォォォ!ニール様!」
魔人の騎士団は喜んでいた。
しかし、周りから優勢だと思われているニールだったが、実は逆に追い詰められていた。
(不味いです。早期決着をつけなければ、意識がなくなり暴走してしまいそうです)
ニールは左右の拳で連打をし、ユナールに反撃の隙を与えない。
「ハッ!」
右拳の渾身の一撃を放ったニール。
「ぐぁ」
ゴーレムと一体化しているユナールは、両手でクロスにしてガードしたが、腕にヒビが入り、後ろにズリ下がった。
「「ぎゃ」」
離れて戦っていた騎士団だったが、数十人がズリ下がったユナールに押し潰された。
「糞、このぉぉ!」
ユナールは魔力高めて腕を修復し、魔力を右拳に一点集中させて殴りにいく。
「ハァァ!」
ニールも右拳に魔力を注ぎ込み、真っ向勝負にでた。
拳同士がぶつかり合い、轟音と共に衝撃波が生まれ、拳を中心にクレーターができた。
「「オォォ!」」
「そこまでです!ユナール様」
ニールとユナールは、お互いに左拳で殴ろうとした時、間近からラプラスの声が聞こえ、咄嗟に距離をとった。
「両軍は直ちに剣を収め、武装解除をし、戦闘を中断しろ!」
ラプラスの声は戦場に響き、戦場にいた誰もが困惑した。
そこに、ラプラスの姿をいち早く見つけた魔王は、ラプラスがいる場所に駆けつけていた。
「それは、どういうことか?ラプラスよ。ウルシア達にお主との取引の話は聞いたぞ」
魔王は双剣を抜き、ラプラスに話しかけた。
その後ろには、ジャンヌとウルミラも歩み寄る。
「あなた様が魔王様ですか?」
首を傾げて尋ねるラプラス。
「如何にも」
魔王は小さく頷き肯定した。
周りは息を呑み、2人の会話に注目する。
圧倒的な魔力と威圧感を醸し出している魔王と、その魔王と真逆に幽霊みたいに魔力どころか気配が全く感じないラプラス。
「なるほど。他の皆様と少しだけですが、雰囲気が違いますね。あと、そのことなのですが、大変申し訳ないと思っております。僕、個人としては、この機会にこの愚か者達を抹殺して貰いたかったのですが、流星さん、いえ、【時の勇者】様から、この愚か者達でも戦力になるから死なすなとご命令を承ったので、止めに入らさせて貰いました」
説明をしたラプラスは、最後にシルクハットを脱ぎ、魔王に一礼をした。
ラプラスの話を聞いた人間側の騎士団は、聖剣最強と言われている流星にバレたことにゾッとしたが、ユナール、鷹虎兄弟の3人は殺気をラプラスに向ける。
「おい!よくも俺達を愚か者と言ってくれたな。確かに、お前や【時の勇者】の命令に反したが、それでも、聖剣でもないお前何かに、愚か者呼ばれされるのは気に入らない」
ラプラスの近くいたユナールは激怒して右拳を引いて、ラプラスの背後から渾身の一撃をお見舞しようとする。
「ユナールさん!」
カトリアはやめさせようと声を上げたが、ユナールは止まらなかった。
ラプラスは、左手を後ろ斜めに伸ばしてゴーレムと一体化しているユナールの巨大な右拳を難なく受け止めた。
「「なっ!?」」
ユナールだけでなく、その光景を見た者達は驚愕した。
「今、俺は魔王と会話している最中だ。少し黙ってろ!愚か者が!魔力発勁」
ラプラスの声音が低くなった瞬間、今まで幽霊みたいだったラプラスの魔力が一気に膨張し、ラプラスは魔力発勁をした。
ゴーレムと一体化したユナールの右拳にヒビが入り、ヒビ割れはそのまま右肩付近まで到達して粉々に砕け散った。
「くっ!?」
右肩を失ったユナールは、バランスを崩す。
「それより、何故、未だにゴーレムと一体化しているんだ?俺は武装解除しろと言ったはずだ」
ラプラスは右手に村雨を発動して、この場にいる者達には目に捉えることができない速さで横に凪ぎ払った。
ワンテンポ遅れて、ゴーレムの両足が切断された。
「一体何が起きたんだ!?それよりも、このままでは…」
両足を失ったユナールは、脱出するため魔法を解除しゴーレムから脱出して、左手を地面に付き、しゃがんで着地する。
しかし、無事に着地したユナールは、着地と同時に頭の上に、ラプラスから手を置かれて背筋が凍りついた。
「まだ、逆らうつもりか?ユナール」
まだ、殺気は出していないラプラスだったが、その圧倒的な威圧感は、ユナールと周囲にいる者達の動きを止め、黙らせるには十分だった。
「お、俺達が悪かった。心から謝罪をする。すまなかった」
冷や汗を流しながら謝罪をするユナール。
「姫様、あの技は…」
「ええ…」
ラプラスの技を見て驚いたジャンヌとウルミラは、目を大きく開き、大成と同じ技を使いこなすラプラスを訝しげに見つめた。
「もう、その辺で許してやれ、ラプラス。それよりも、その威圧感を抑えろ。メルサも来ているんだ」
遠くから流星の声が聞こえ、全員が声がした方角に振り向いた。
声がした方角から、流星がゆっくりと歩み寄ってくる。
流星の姿を見た誰もが息を呑む中、魔王、ジャンヌ、ウルミラの3人は、すぐに流星を睨み付けた。
「それは、失礼しました。流星さん」
ラプラスは謝罪して、今まで発していた圧倒的な威圧感が嘘の様に消え、再び幽霊みたいに気配も消えた。
「はぁ、そう睨むな。俺は戦いをしに来た訳ではない。でも、まぁ無理もないか。1度は魔人の国を壊滅寸前まで追い込み。そして、2度、魔王を倒したからな」
苦笑いを浮かべて話す流星。
「よく言うわね。大成の時は、弱ったところを狙った癖に!大成が万全な状態だったら、きっと、あなたに勝っていたわ」
ジャンヌは、怒りを含んだ声音で言い、剣先を流星に向ける。
「相変わらず、度胸ある魔人の姫様だ。フッ、1つ誤解しているから訂正してやろう。勝敗とは全て結果がものを言う。現にアイツは勝負に負けて倒れ、俺は勝利して今ここに立っている。これは、揺るがない事実だ」
流星は挑発する様に話し、ジャンヌとウルミラは言い返せずに歯を食い縛った。
「ジャンヌ、ウルミラ」
「魔王様!」
「流星、ここに居たのね」
イシリアやマキネ達、ヘルレウスメンバーとメルサが駆けつけた。
「すまない、メルサ。ラプラスに注意を促してから、迎えに行くつもりだったが、魔王達と遭遇して遅れた」
「気にしないで良いわ」
メルサは頭を左右に振り、流星の腕に抱きついた。
「それにしても、久しぶりね、マキネちゃん」
メルサは、マキネを見て小さく手を振る。
「そうだな。久しぶりだな、マキネ。どうだ?また、俺の下に戻らないか?」
流星は、手を差し伸べた。
周りの視線は、マキネに集まる。
「お久しぶり、メルサ姫、流星さん。相変わらずラブラブですね」
「あら、ありがとう。マキネちゃん」
メルサは、笑顔で流星の腕に更に密着した。
「で、どうだ?マキネ。戻ってくる気はあるか?」
「ごめんなさい。私を鍛えてくれたことには、心から感謝しているよ。だけど、流星さんは私を道具としか見ていなかった。でも、ここの皆は私を人として見てくれて、必要としてくれているんだよ。だから、恩を仇と返すことになるけど、私はこの国や皆を守りたい。それに、ダーリンを傷付けた流星さんが許せない」
マキネは、自分の胸に手を当て、最後に短剣の剣先を流星に向けた。
「そう…残念ね」
「そうだな」
メルサは悲しい表情になり、一方、流星はマキネの答えを予期していたので大きな変化はなかったが、一瞬だけ瞳は揺らいだ。
そして、暫くの間、沈黙が訪れた。
その沈黙を破ったのは、意外にも魔王の隣いたウルミラだった。
ウルミラは、オドオドしながら尋ねる。
「あのラプラスさんでしたよね?1つお願いがあるのですが良いですか?」
「はい?流星さんではなく、僕にお願いですか?」
予想外だったラプラスは、キョトンとした声で尋ねる。
「はい」
「そうですね、今回はこちらが一方的に悪いので、できる範囲のことなら良いですよ」
ラプラスはシルクハットを脱ぎ、一礼した。
「あ、ありがとうございます」
ウルミラもお辞儀をする。
「いえいえ、こちらが悪いので…」
再び、ラプラスがお辞儀をして、お互いに頭を下げ続ける。
周りにいた者達は、お互いに何度も頭を下げる2人を見て、張り詰めていた雰囲気から解放された。
「で、ウルミラ様。そのお願いと言うのは、何でしょう?」
「ラプラスさん。今、着けている仮面を外して素顔を見せて欲しいのですが」
「そんなことでしたか、もちろん良いですよ」
ラプラスは明るい声で即答し、仮面に手を掛ける。
周りは、緊張した面持ちで息を呑み、ラプラスに注目した。
「あっ、但し、1つ条件があります」
手を止めたラプラスは、人差し指を立てた。
「条件ですか?」
ウルミラは首を傾げる。
「はい、僕の民族には変わった仕来たりがありまして、その条件をクリアしないといけません。何、そんなに難しいことではありませんよ。どちらかと言えば簡単なことです。その条件というのは、ウルミラ様が僕の伴侶になることです。ねっ、簡単でしょう?」
当たり前の様に話すラプラス。
周りにいた者達は、「何処が簡単なんだ!人生が決まる大切なことだろうが!」と心の中で叫んだ。
特に、魔王、ジャンヌ、マキネ、イシリア、ウルミラの母であるウルシア、ミリーナの6人は、誰が見ても今にもラプラスに襲い掛かり殺そうと考えていると、わかるほど殺気を醸し出していた。
マリーナは笑顔だったが、その笑顔に影が射していた。
そんな緊迫した状況の中でも、ラプラスは特に気にしている様子は見受けられなかった。
「お断りします」
オドオドしていたウルミラだったが、今は鋭い眼光でラプラスの目を見て即答した。
「そうですか、とても残念です。あっ、そうだ!他の皆さんも可愛いのでどうですか?誰か、僕の伴侶になりませんか?」
一度は溜め息を吐いたラプラスだったが、ジャンヌ達を見て嬉々とした声で尋ねる。
ジャンヌ達は、冷たい視線でラプラスを一瞥した。
「やめろ、ラプラス。見ているこっちが恥ずかしくなる。それに、お姫様方は魔王修羅に好意を抱いているから無理だ。諦めろ」
ガッツンと1発ラプラスの頭を殴る流星。
「痛っだ!半分冗談ですよ。流星さん」
ラプラスは、両手で頭を擦りながら流星に振り返った、
「半分は本気だったのか?」
「えっと、そ、それよりも、その魔王修羅って言う人は、男の敵ですね。こんなに可愛い女の子達を独り占めするなんて、どうせ大した強さを待っていないというのに」
流星からジト目で見られて、慌てて話を反らすラプラス。
「大した強さもないですって!?」
ラプラスの発言にジャンヌ、ウルミラ、マキネ、イシリアが激怒した。
「ん?そのことについては、僕は何も間違ってないと思いますよ。おそらく、そこの魔王様と大差ない実力ですよね?」
ラプラスは、魔王を指差した。
「嘗めているのか?」
ラプラスを鋭い眼光で睨み付ける魔王。
「大成は、お父様より、比べ物にならないほど強いわ。あなた何か瞬殺よ!」
「おい!」
「そうです。大成さんは魔王様よりも強いです!」
「そうだよ!」
「そうよ!」
娘のジャンヌに断言された魔王は、突っ込みを入れるが、娘のウルミラ、マキネ、イシリアにも言われてプライド傷付いた。
「そうだぞ、ラプラス。魔人の姫様達の言う通りだ。魔王修羅は、お前と同等の力を保有していた」
更に追い打ちで敵の流星にも言われてしまう魔王。
「あなた…」
「魔王様…」
そんな気の毒な魔王に、妻・ミリーナやウルシア、ローケンスなど周りにいた者達は同情した。
「そんな、目で私を見るな!」
魔王は、周囲に忠告した。
「私も1つ聞きたいことがあるわ。良いかしら?ラプラスさん」
魔王を無視する様な感じで、イシリアが一歩前に出て尋ねる。
「良いですよ」
「あなたの右腕は義手なの?」
「いえ、違いますよ」
ラプラスは、右袖を捲りイシリア達に見せた。
腕を見たジャンヌ達は、ラプラスは大成ではないと確信した瞬間だった。
「見せてくれて、ありがとう。で、あなた達は、これからどうするの?」
イシリアはお礼を言い、これからのことを尋ねる。
「このまま撤退するつもりで…」
「いや、待てラプラス」
ラプラスが答えようとした時、流星が止めた。
誰もが緊迫した表情で流星を見る。
「本当は速やかに撤退するつもりだったが、今回は俺の監督不届きで、不意討ちみたいな形になったからな。そのお詫びとして、そちらが良ければチャンスをやろうと思う」
「チャンスだと?」
魔王は、訝しげな表情になる。
「ああ、今からラプラス1人でお前達全員の相手をするってのはどうだ?お前達は、先程のラプラスの戦いを見て、ラプラスの実力がわかったと思う。ここで、ラプラスを倒せば、そちらは有利になると思うが」
流星は、顎に手を当てながら提案した。
「良かろう。その提案を受け入れる」
即決する魔王。
「ええ!?ちょっと、流星さん。僕は聞いてませんよ、そんな話」
「それはそうだ。今、思いついたからな」
「ぼ、僕1人で皆さんを相手にするのですか?」
「そうだ。まぁ、お前だったら大丈夫だろ?それに、これは命令だ」
「はぁ~、わかりました。ご期待に添えるよう頑張ります」
諦めたラプラスは、溜め息を吐き承諾した。
「では、レディース&ジェントルメン。始める前に改めて自己紹介をしましょう。私は、此方に居られる聖剣【時の勇者】と呼ばれる流星様の半身であり、レッド・ナイツの総隊長を務めていますラプラスと申します。以後お見知り置きを」
ラプラスは、シルクハットを脱ぎ、片足を下げてお辞儀をした。
それと同時にマキネは、手裏剣を投擲する。
「わぁっ」
慌てて大袈裟に避けるラプラス。
「ちょっと、マキネ。何しているの?相手は、まだ…」
「ん?何って、もう戦いが始まったから先制攻撃しただけだよ」
イシリアの質問に、マキネはキョトンした表情で首を傾げながら当たり前の様に答えたのだった。
次回、ラプラスVS魔人達です。
連続で投稿したかったのですが、日が変わってしまい、申し訳ありません。
次回も、もし宜しければご覧頂けたら幸いです。




