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ワールド・クロックと開戦

ジャンヌ、ウルミラ、イシリア、ローケンスは、マキネの情報で大成がいると思われるヤーニガル村へ向かった。


一方、マキネ、ウルシア、マリーナの3人は、人間の国に派遣している偵察部隊が音信不通になっていたので、その調査として人間の国へ向かったが、要注意人物であるラプラスに見つかり、戦闘になるかと思われたが、意外なことに取引をすることになる。


そのラプラスが持ち掛けた取引とは、捕らえた偵察部隊を解放する代わりに、人間の国の最大戦力である聖剣の始末の依頼だった。

ウルシア達はその取引を承諾し、急いでラーバスへと帰還するのであった。

【魔人の国・パルシアの森】


一度ラーバス国に帰還するため、ウルシア達はパルシアの森の中を走っていた。


「ウルシア様。あの時、我々全員で襲い掛かればラプラスを倒せたのでは?」

ウルシア達の後ろを走っている偵察部隊の1人が尋ねた。


「あの子には、下手に手を出さない方が良いわ」


「そうね。私もウルちゃんの判断が正しいと思うわ。あの子を一目見た瞬間、ただらぬ雰囲気を感じて、久しぶりに体の芯から寒気がしたわね」


「私も、この判断に賛成だよ。簡単に倒せるとは思えなかった。倒す時間が掛かれば掛かるほど援軍が来るから、逃げることも難しくなっていたかもしれないよ。まぁ、ダーリンが居れば大丈夫だから安心して」


「そうね。大成君なら勝てそうね。ウフフ…」


「はぁ~。確かに、そうなのかも知れないけど…」

マキネの意見を聞いたマリーナは笑顔を浮かべ肯定し、ウルシアは他人任せと思い溜め息を吐いた。


「それほどの相手なのですか?」

不安な表情になる偵察部隊。


「ええ、あなた達も直に感じたでしょう?あの、ただらぬ雰囲気を」


「はい。ですが、言葉にできないものでした」


「その違和感の正体はね。目と鼻の先にいても、あのラプラスとか言う子からは、魔力どころか気配が全く感じられなかったことが原因よ。私達を含め、どんな達人でも魔力や気配を抑えたとしても、一定の距離まで接近されれば微弱だけど感じとられるの。それなのに、感じとることができなかった。あれほど完璧に制御ができるということは、とんでもない力量を持った達人。いえ、アレはもう化け物と言っても可笑しくないわね。もし、あの時、私達全員で襲い掛かっていたら返り討ちにされていた可能性もあるわ」

ウルシアの話で場が静まる。



それから、暫くの間は誰もが無言のまま森の中を走って帰還していると、陣形を取ってラーバス方角に進んでいる聖剣の鷹虎兄弟達とその騎士団の姿が離れた場所から見えた。


鷹虎兄弟達は、罠がないかを慎重に確認しながらゆっくりと進んでいた。



鷹虎兄弟達の後方にいるウルシア達は、すぐに茂みに入り隠れた。


「アレは、聖剣のアエリカにユナール。それに鷹虎兄弟とカトリアもいるみたいね」

「ええ、そうね」

ウルシアにマリーナが肯定する。


「ラプラスが言っていたことは、本当のことだったんだ」

ラプラスの話しを聞いていたマキネは、半信半疑だったので、意外そうな表情をした。


「一刻でも早く、ラーバスに戻りましょう」

「「了解」」

ウルシアの指示に皆は賛同し、一刻でも早くラーバスに帰還するため、最短ルートを選び、ウルシア達は切り開かれた道ではない木々が生い茂るルート選択して、鷹虎兄弟達に気付かれない様に駆け抜けて行った。




【魔人の国・ヤーニガル村・診療所】


「大成!」

「大成さん!」

「大成君!」

大成の名前を呼びながら扉を開いたジャンヌ、ウルミラ、イシリアの3人。


「「えっ!?」」

病室内を見渡したジャンヌ達は、呆然と立ち尽くした。


病室内には、3人分のベッドが置かれており、それぞれのベッドには見知らない青年の男性が上半身だけ起こしてジャンヌ達を見ていた。



最後に部屋に入ったローケンスは、トニーの背後から肩を掴んだ。

「おい!トニー。これは、どういうことだ?修羅様は何処だ?」

「えっ!?修羅様は、中央にいる御方なのでは?」

ローケンスに睨まれたトニーは、大成との面識がなく、訳がわからずに魔王修羅を名乗っている青年に指をさした。



中央のベッドにいる青年は立ち上がり、混乱しているトニーに歩み寄り声を掛ける。

「どうした?トニー。その子達は誰だ?」


「え?あの修羅様。こちらの御方はローケンス様ですよ。やはり、まだ記憶が混濁しているみたいですね」

混乱しているトニーは、疑問に思いながら答えた。


「そ、そうだったな…」

青年は誤魔化すように曖昧に答え、近くにいたジャンヌ達に目を向けた。


「ところで君達。とても可愛いね。まだ幼いけど、どうだい?俺の女にならないかい?これは、とても名誉なことだと思うけど、どうかな?」

青年は笑顔で、ジャンヌの顔の横に右手を前に出して壁に押し当てた。

所謂、壁ドンだ。


「あなた達は誰なの?」

ジャンヌは、訝しげな表情で尋ねる。


左右のベッドにいた他の男達2人も、ウルミラとイシリアに気付き、笑みを浮かべながら2人に歩み寄る。


「ん?俺達かい?俺達のことを知って、会いに来んじゃないの?まぁ良いや。まず、自己紹介をしようか。驚かないでくれよ。俺は、あの有名な魔王修羅と呼ばれている魔王さ。見たらわかるだろう?この世界の住人にはいない、闇の様な真っ黒な髪の毛と漆黒の瞳が証拠だ。あの2人は俺の護衛役だ。それよりも、俺は君達の名前や君達のことをもっと詳しく知りたいな。もし、時間があるなら君のお友達も一緒に、この病室で俺達と楽しく話をしたり、食事をしたり、色々と楽しまないかい?」

男は顔をジャンヌに近付け、左手でジャンヌの顎に触れようようとした時、ジャンヌの周囲の気温が一気に上昇した。


「熱っ!な、何だ!?」

男は驚きながら慌ててジャンヌから離れ、ジャンヌを見てゾッとした。


ジャンヌの体から陽炎が揺らいでいた。


ジャンヌは、ゆっくりと後ろ腰にクロスに掛けてある双剣の片方を右手で引き抜いて振り上げる。

振り上げた剣は、高熱を帯び紅蓮色に染まる。


隣にいる他の男達も、それぞれ驚愕する。

「冷たっ」

「何だ!?くっ、うぉぉ。痛ぇ」

ウルミラに近づいた男は冷気を浴びて服に霜がつき、イシリアに近づいた男は突然に発生した突風により弾き飛ばされて、煉瓦の床を転がりながら後の壁に衝突した。


ウルミラは身体中から冷気を放出し、周りにはダイアモンド・ダスト現象が発生しており、空気中の水分が凍りキラキラと輝き、太股のガーターベルトに掛けてある伸縮自在の矛を取り出した。


矛を取り出した時は、ナイフの大きさだったが、一瞬でウルミラの身長と同じぐらいの元の大きさになった。


そして、ウルミラの矛に冷気が収束していき、矛を逆手に持ち替え、銛で突く様な構えをして目の前で倒れている男を串刺しにしようとする。




イシリアは身体に突風を纏い、腰に掛けてあるレイピアを鞘から抜き、レイピアの刀身に風を纏わせ、まるでレイピアは小さな竜巻を発生した。


そして、レイピアを握っている右手を後ろに引きながら少し上半身を前屈みにして、いつでもファイブ・スピアを放てる様に構える。


「お、おいおい、嘘だろう…」

「待ってくれ」

「助けてくれ、命だけは…」

男達は恐怖に駆られ、必死に後ろにたじろぎながら涙目で呟く。



「「死になさい」」

「死んで下さい」

ジャンヌ達は、容赦なく攻撃をする。


「だ、駄目です!!」

ローケンスは、慌てて大きな声を出して止めようとする。


「「ヒィッ…」」

ジャンヌに攻撃された青年は、目を瞑り尻餅をついた。


そして、恐る恐る目をゆっくり開き状況を確認する。


自分の股間の手前に剣が振り下ろされていた。

剣に接触している煉瓦の床は、真っ赤に染まりドロドロに熔けて穴があいて蒸気がでている。



ウルミラに攻撃された男は、硬直して動かない体を必死に動かして真横に倒れてたが、顔の前に矛が突き立てられていた。


男の顔には霜がつき、矛に接触している煉瓦の床は、凍りついて砕かれており、周りに落ちている破片1つ1つも凍りついている。



イシリアに攻撃された男は、一瞬でイシリアに接近され、何かが身体の周りを通り過ぎたことしか感じとれず、呆けた表情で唖然と立ち尽くし、最後に腰を抜かして、その場にへたり込んでいた。


男の真後ろの壁には、男を囲うように直径20㎝ぐらいの大きさの穴が5箇所空いており、外の風景が見えている。



「な、な、何なんだよ。お前らは!?」

男達3人は、顔を強張らせて震えながら、床を這いずり1箇所に集まる。


「あの…ローケンス様。これは、一体どういうことなのですか?」

呆然と成り行きを見ていたトニーは、我に返り尋ねた。


「トニーよ。コイツらは偽物だ」


「え!?偽物ですか!?ですが、確かに黒い瞳に黒い髪の毛ですよ」


「その者達は誰かの手によって、異世界から召喚されたのだろう。以前、修羅様から聞いたことがある。修羅様がいた世界では、黒い瞳に黒い髪の毛の人間が多く、珍しくなかったそうだ。そうだろ?人間共」

ローケンスは、男達をギロッと鋭い視線で睨み付けた。


ジャンヌ達を止めたローケンスだったが、大成を心から慕っていたので、混み上がっている怒りを、どうにかギリギリのところで抑えていた。


「「ひぃ~」」

正体がバレてしまった男達は、ジャンヌ達に囲まれて表情が恐怖に染まり、お互いに抱き締め会う。



ローケンスは大剣を抜き、ゆっくりと男達の前まで歩み寄る。


「おい、人間共。まさかとは思うが、修羅様の顔に泥を塗るようなことはしていないだろうな?」

ローケンスは、握っている大剣を男達の間近の床に突き刺した。


「「は、はいっ。していません」」

恐怖で声が裏返りながら答えた男達。


「怪しいわね。今さっきは未遂に終わったけど、他の女性に淫らなことをしたことがあるんじゃないの?慣れている様な感じだったわよ」

ジャンヌは、魔王修羅を名乗っていた男に剣先を向けた。


「た、確かにナンパは数えきれないほどしました。ですが、全ての女…。いえ、全ての女性は、ジャンヌ様に悪いからと言って断り、俺達は全て空振りに終わってます。し、信じられないかと思いますが、本当のことです。信じて下さい」

男は涙目で答え、他の2人も何度も頷いた。


「よくも何もしていないと言えたわね!十分、大成の顔に泥を塗っているじゃない!!」

「「すみません!!」」

ジャンヌの怒りに、俺達はビクッと震え、すぐに謝罪をする。


「ジャンヌ、怒る気持ちはわかるけど、少し落ち着きなさい。それよりも、あなた達はこの世界に召喚されたはずよね?なら、あなた達は強いはずでしょう?なぜ、いつかバレるとわかっているのに魔王修羅の名前を語ったの?そんなことをするよりも魔物退治をしたり、武道大会などに出場して有名になれば、簡単にお金を稼げたはずでしょう?」

疑問に思ったイシリアは質問した。


「いえ、確かに俺達はこの世界に召喚されました。ですが、正しく言えば巻き込まれたと言った方があっています」


「どういうこと?」

ジャンヌは、首を傾げた。


「まず、俺の名前は柳川大志と言います。詳しく説明しますと。前の世界にいた時、児童施設で可愛い女の子を見つけたので、ナンパをしていたのですが、突然、その女の子の真下に魔法陣が浮かび、輝いたと思ったら、児童施設から見知らない草原に移動していまして、目の前にいたはずの女の子は居なくなっていました。それから、俺達は魔物と遭遇してしまい、必死に逃げ続けて、やっとの思いで町を見つけました。その後、町の住人達に詳しく聞いたことで、ここは異世界だと知り、更に魔法の存在を知って取得したのですが、俺達の魔力値はたったの1だったので、ゴブリン1匹を倒すのが精一杯で食費を稼ぐことがやっとの日々を過ごしていました。そんなある日、魔王修羅と言われ崇められている人間がいると耳にしたので、特徴を聞いたら同じ異世界の人間だと知り、魔王修羅を名乗ることにしたのです」


「そんなことが…」

不憫に思ったトニーは、涙を流した。


「確かに可哀想だと思います。でも、あなた達は本当に努力したのですか?魔法が使えなくても、体術や武術の基本ができていれば、身体強化だけでゴブリンぐらいの魔物なら倒すことができますよ」

いつも他人に対してオドオドしているウルミラだったが、この時は力強い眼差しで大志達を見て尋ねた。


「お前達みたいな強者が、俺達弱者のことを何でも知っているかのように言うな!相手は魔物だぞ。接近戦なんて怖くてできるか!」

イシリアをナンパしていた男・田中孝が、怒鳴る。


「おい、やめろ。孝」

「だってよ」

「孝、お前の気持ちもわかるが、今は我慢だ」

孝は、大志ともう1人の仲間の勇造に宥められる。


「あなた達の言いたいことはわかるわ。でもね、大成は召喚さればかりで、魔法どころか魔力が全く使えない時に、半日も関わってない村が凶悪な盗賊集団に襲われたことがあったの。その時、大成はその盗賊団に激怒して、1人で盗賊団の頭・シュゲールに挑んだわ。身体強化や魔法を使う相手に翻弄されて、身体中が傷だらけになっても諦めずに戦い、そして、長期戦の激闘を制して倒したわよ。あなた達は何も努力もせず、ただ弱者の地位に甘えているだけ。その証拠に、魔物退治の他にも皿洗いや溝掃除などで、お金を稼ぐことができたはずよ。それなのに、あなた達は何もしなかった」


「「くっ」」

的確なジャンヌの指摘に、歯を噛み締める大志達。


「ジャンヌ様の言う通りだ。あと、最後の質問だ。お前達、シルバー・スカイ事件以降、本物の修羅様の噂や姿を見たことはないか?」


「いえ、俺達は事件の日から今まで、ここでお世話になっていたので聞いてませんし、見ていません」


「そうか…」

大志達の話を聞いたローケンス達の表情に影が射した。


「あの…。これから、俺達はどうなるのでしょうか?」

気まずい雰囲気になったが、自分達の処遇が気になった大志は恐る恐る尋ねた。


「お前達をラーバスまで連行する」

「やはり、俺達は牢獄行きなのですか?それとも、死刑になるのでしょうか?」

「お前達を見逃すことはできんが、まぁ、死刑にはならないから安心するが良い」


「あの、ローケンス様」

トニーは、申し訳なさそうな態度でローケンスに話し掛けた。


「何だ?トニー」

「もし可能であれば、この人達を雇いたいのですが」

トニーの提案を聞いたローケンスは、ジャンヌに視線を向け、ジャンヌは無言で小さく頷いた。


「はぁ~、本当に優しいな、お前は。良いだろう、好きにするが良い」

ジャンヌに確認したローケンスは、トニーの提案に少し呆れていたが、口元に笑顔を浮かべて任せることにした。


「ありがとうございます。ジャンヌ様、ローケンス様」

「お、俺達、助かったのか?」

「おそらく…」

ローケンスに頭を下げ感謝するトニーの傍らで、大志達は信じられずに確かめ合う。


「お前達、トニーに感謝しろよ」

「「ありがとうございます、トニーさん。俺達、心を入れ替えて一生懸命働きます」」

ローケンスの言葉で理解した大志達は、土下座してトニーに感謝した。


「期待しているよ、君達」

トニーは、土下座している大志達の肩に手を置き、笑顔で話し掛けた。


「「はい!」」

大志達は顔を上げ、大きな声で返事をした。


「フッ、これで一件落着だな」

ローケンスは、トニーの肩に手を置いた。



話が終わりそうな時、イシリアはあることをフッと思い出した。

「あっ!そういえば…。ねぇ、あなた達」

「「~っ!」」

「大したことじゃないわ。ただ、ナドムの森で私達と同じ制服の学生に会わなかった?」


「はい?ナドムの森ですか?」

大志達は、イシリアに声を掛けられた時、一瞬ビックとしたが、質問の内容が大したものではなかったのでホッとし、顔をしかめながら思い出そうとする。


「ほら、少し前にゴブリン・ロードが出現した森よ」


「ああ、そういえば会ったことがあります。皆、俺達が偽物と知らず尊敬した眼差しで、質問とか色々されましたね。その後、俺達が立ち去った後、すぐにゴブリン・ロードが現れたと聞いた時は、とても驚きましたよ。それが、どうかされましたか?」

思い出した大志達は、イシリアに尋ねた瞬間、ジャンヌとウルミラから、とてつもない殺気を感じとり、恐る恐る振り向いた。


「「へぇ~」」

ジャンヌとウルミラは笑顔を浮かべていたが、その笑顔に影が差していた。


ジャンヌとウルミラを見たイシリアは面白そうな表情を浮かべて成り行きを見守り、ローケンスとトニーは2人の迫力にたじろぎ、一歩身を引いた。


「フフフ…。ねぇ?ウルミラ。そういえば、そんなこともあったわね?」

「はい、姫様。フフフ…」

ジャンヌとウルミラは、お互い低い声音で不気味な笑い声を出しながら笑顔で頷き合う。


「え、えっと…」

すぐに大志達は、自分達が地雷を踏んだことに気付いたが既に遅かった。


「ねぇ、あなた達が変なことを言ったせいで、私とウルミラは学園の皆から、痴女と勘違いされたのよねぇ~」

「あの時は、本当に誤解を解くのが大変でした」

「「あの…。大変、申し訳ありませんでした!」」

凄い勢いで土下座をして、頭を下げて謝罪をした大志達は、恐る恐る少し顔を上げて視線だけ動かし、ジャンヌとウルミラの様子を窺った。


「もちろん、許さないわよ」

「許しません」

ジャンヌは鞘がついたままの双剣を握り締め、ウルミラは矛の柄を伸ばして振り上げていた。


「「覚悟!!」」

「「ひぃ~」」

大志達は、ジャンヌとウルミラから滅多打ちにされ、大志達の断末魔は村中に響き渡った。


その光景を目の辺りにいたイシリアは面白そうに笑顔を浮かべていたが、ローケンスとトニーは息を呑み、心の中で大志達を心配した。


そして、滅多打ちにされた大志達は、全治3ヶ月の怪我を負うのであった。



「あの、ローケンス様。これからどうされます?もし宜しければ、せっかくですから、この村に2~3日泊まっていかれませんか?」

「それは、有難い話だが、今回は気持ちだけ貰っておこう。なんせ、今は人間の国が活発に動き出している。なるべく早く、ラーバスに帰還したい」

「それは失礼しました」

「いや、こちらこそ、すまない」

ローケンスは、トニーの肩に手を置いた。


「はぁ~。また、あの森を通らなければいけないのね」

すぐに帰還すると知ったイシリアは、森のことを思い出して溜め息を零した。


「あの、ここに到着するまで、どのくらいの日が掛かりましたか?」

「4日ですが」

「えっ!?たったの4日で来られたのですか!?」

ウルミラの答えに驚愕するトニーは、思わず大声を出す。


「あの、どうかされましたか?」

不味いことを言ってしまったのかと思ったウルミラは、オドオドしながら尋ねた。


「いえ、驚きました。てっきり、1週間ぐらい掛かっているかと思っていましたので…。それなら、取って置きな方法があります。これです」

トニーは、ポケットから取り出したのは、掌に収まるほど小さな懐中時計だった。


「「?」」

「ま、まさか、それは…!」

ただの懐中時計と思ったジャンヌ達は首を傾げたが、ローケンス、ただ1人は驚愕の表情を浮かべた。


「流石、ローケンス様。これをご存知でしたか」

「当たり前だ!それより、何故お前が、それを持っている?」

ローケンスは、問い詰める様に威圧感を醸し出す。


「それは、何なの?ローケンス」

話についていけなかったジャンヌは尋ねた。


「ジャンヌ様。これはですね。世界に7つしか存在しない…」

「まさか、ワールド・クロックなの!?ローケンス!」

ローケンスの説明の途中で、気付いたジャンヌは驚愕した表情になった。


「はい、その通りです…」

「「~っ!!」」

ローケンスが肯定したことで、ウルミラ、イシリアも驚愕した。


「でも、お父様。ありえません。だって、ワールド・クロックと言えば、召喚魔法陣の床に埋め込まれている物です。魔人の国、人間の国、獣人の国、エルフの国、巨人の国、人魚の国、竜人の国に1つずつあり、合計で7つです。ここに、その貴重な1つがあるとしたら、何処かの国の物が無くなっているはず…。そんなことになれば、大騒ぎになっています」

否定するイシリア。


「あ、あの勘違いしないで下さい。本当は8つ存在していたのです」

トニーは、皆の視線が自分に集中したので慌てた。


「どういうことだ?」


「姫様方なら少しだけ話しても大丈夫と思いますので、お話します。そもそも、このワールド・クロックは何からできていると思いますか?」


「そんなの簡単よ。この世界が誕生したと同時に誕生した物で、決して作ることができない特別な鉱石と学園で習ったわ」


「流石、姫様。よくご存じですね。確かに、どの種族の国も同じ共通した回答です。ですが、それは間違っています。本当は【時の番人】と言われた村の巫女達の魂の結晶なのです」


「「えっ!?」」

真実を知らなかったジャンヌ達は驚いた。


「それは、本当のことなのか?」

「本当です。文献が存在しています」

「なぜ、それを広めなかった?」

「その文献には、各種族の国を批判する内容が記載されており、先代から広めてはならないと伝えられているので、これ以上のことは申し訳ありませんが教えできません。そして、このワールド・クロックは、この村の近くに存在していた【時の番人】と言われていた村の巫女達の魂の結晶の1つです。俺の先祖は、その村と交流していたそうで、その時に信頼の証として頂いた物です。このことは、秘密にして下さい」


「わかった。このことは内心にとどめておくと誓おう。だが、ワールド・クロックは月が紫色の時にしか使えないはずだぞ」


「それは、少し間違った認識です。皆さんが知っている使い方は、異世界から条件を満たした者を召喚するための魔法として使用しているので、膨大な魔力が必要としているだけなのです。本当は色々使い方があります。そうですね、実際にお見せした方が良いですね。まず、このペンを床に落とします。すぐに俺の魔力を使いワールド・クロックを発動させます」

トニーは、胸ポケットに挿していたペンをポンっと落とし、すぐに握っているワールド・クロックに魔力を流し込むと、ワールド・クロックの秒針が数目盛り戻ると同時に、ペンが金色の魔力に包まれ、巻き戻しされたかの様にトニーの胸ポケットに戻った。


「どうです?信じて貰えましたか?」

「ああ…」

ジャンヌ達は唖然とし言葉が出ず、代わりにローケンスが驚愕した表情のまま答えた。


「もう、薄々と気付いているとは思いますが、時間を戻す対象の大きさや纏っている魔力が大きいほど、そして、戻す時間が長いほど魔力の消費が激しくなります。ペンぐらいなら俺1人の魔力でも戻せますが、今回は、流石に俺1人の魔力だけでは無理ですので、教会に移動しましょう」


「なぜ教会なの?」

ジャンヌ達は、先ほど大志達にナンパされたばかりなので疑うような目でトニーを見る。


「ご、誤解しないで下さい、ジャンヌ様。それには、きちんとした理由があります。教会の中にある十字架は魔鉱石でできており、今までの自然魔力は勿論のこと、特別な紫色に月が染まった時の魔力をも溜め込んでいますので膨大です。その魔力を利用します」

トニーは、慌てて両手を前に出して、勢いよく手を振った。


「それは、大切な魔力でしょう?私達が使用しても良いものなの?」


「はい、殆ど使い道がないので大丈夫です。それに、最小限の条件で行いますから、貯めていた魔力が尽きることはないと思います。なので、気にしないで下さい」


「それなら、お言葉に甘えるわ。ありがとう」

「感謝するぞ。トニー」

「「ありがとうございます。トニーさん」」

ジャンヌ達は。笑顔で感謝した。


「いえいえ、俺も命の恩人であるローケンス様方のお役に立てることができて光栄です」


「そうか…。しかし、何かお礼がしたいのだが…。そうだ、トニー。お礼に、これをやろう」

ローケンスは、持っていたリュックサックをトニーに渡した。


「お、重い…。すみません、ここで開けても良いですか?」


「別に構わない」


「一体、中身は何ですか?」


「邪魔にはならないだろう。どちらかと言えば、役に立つ物だ」


「こ、これは、解毒剤に栄養ドリンクではないですか!?しかも、貴重で高価な物ばかり!本当に、こんなに頂いても宜しいのですか?」

トニーは、リュックサックを開けて中身を見て驚いた。



「ああ、俺達には、もう必要なくなったからな。それに、お前がしてくれる方が価値があると思うぞ」


「ありがとうございます!」

トニーは満面の笑みを浮かべ、ジャンヌ達は教会へと向かった。




【ヤーニガル村・教会】


「ここです!」

トニーの案内で、ジャンヌ達は教会に辿り着いた。


ジャンヌ達の目の前の教会は、壁色が全体的に白色で金色の十字架の模様などが施されている。

建物の大きさは、何処でもある一般的な大きさで、屋根には大きな金色の鐘が取り付いていた。


トニーは、入り口の前にある3段ある幅広い階段を上り、教会の扉を開いて扉を支えた。

「どうぞ」


「ありがとう」

お礼を言いながら、ジャンヌ達は教会の中へ入る。


「「わぁ~!」」

教会の中へ入ったジャンヌ達は、内装に目を奪われ感嘆の声をあげた。


ジャンヌ達の目の前の光景は、両サイドには木製のベンチ椅子、中央には大きな十字架とその後ろには大きなステンドグラスがあった。


日の光がステンドグラスに当たって、大きな十字架を色鮮やかに照らしていた。


天井の所々も花の模様をしたステンドグラスだったので、入り口から十字架まで一直線に伸びている通路に花の模様が等間隔で映し出されている。


「どうです?美しいでしょう?ここで、ご結婚されたカップルは、永遠の愛を手に入れることができるとも言われるほど有名で自慢の教会です」

自信満々で胸を張るトニー。


「ええ、とても素敵だわ」

「そうですね、姫様」

「もし、式をあげるなら、ここであげたいわね」

「そうね」

「はい」

イシリアに賛同するジャンヌとウルミラ。


3人は、それぞれ妄想の中で大成が教壇で待っており、父親に手を引かれて教壇へ向かい、大成と誓いをして、そして、お互いに向き合って、ベールを優しく捲られて、誓いの口づけをしようとしている光景を思い浮かべてしまい、頬を赤く染めて悶え苦しむ。


「やはり、ジャンヌ様方は修羅様とご結婚するのでしょう?」

「「やだ~。もう、トニーさんたっら!」」

恥ずかしくなったジャンヌとイシリアは、赤く染まった顔を更に赤く染め、つい、照れ隠しでトニーの背中を平手打ちをした。


「ぐはっ」

ジャンヌとイシリアから背中を叩かれたトニーは、物凄い勢いで吹っ飛ばされ、ローケンスの真横を通り過ぎ、教会の扉を破壊して外の木に衝突した。


「うぅ~」

ウルミラは恥ずかしさのあまり、両手で顔を覆い隠していた。

隠した顔は、まるで湯気が出そうなほど赤く染まり、その場にしゃがみ込んだ。



「お、おい、トニー!しっかりしろ!大丈夫か!?」

後ろを振り返り、唖然としていたローケンスは、慌ててトニーに駆け寄る。


「うっ…。ど、どうにか…」

ローケンスの肩に掴まり、立ち上がるトニー。


ジャンヌとイシリアは、未だに妄想にふけており、「きゃ~」とか言いながら両手で顔を覆い隠しながら頭を振っていて、自分達がトニーを吹っ飛ばしたことに気付かないでいる。


「すまないが、ジャンヌ様達が少し落ち着くまで待ってくれないか?」

「そうですね…」

ジャンヌ達を見たローケンスとトニーは、待つことにした。



それから暫く経ち、落ち着いたジャンヌ達は十字架の前に立った。


「それでは、簡単な説明をします。まず、身体を覆っている魔力が抵抗となるので、なるべく最小限にして下さい」

「わかったわ」

トニーに言われて、できる限り魔力を抑えるジャンヌ達。


「これで良いかしら?」

「凄いです!流石、ジャンヌ様方だ。こんなに近くにいても、微量にしか感じ取れません」


「私達に驚いていたら、大成を間近で見たら腰抜かすわよ」


「言えてるわね」

イシリアは呆れた声で肯定し、ローケンス達は苦笑いを浮かべた。


「ハハハ…。その時は気を付けます。それで、今回はジャンヌ様方の居場所を戻すだけにします」


「あの、すみません。関係ない質問なのですが、今、居場所を戻すだけと仰られましたが、他にも何かできるのですか?」

小さく手を挙げて質問するウルミラ。


「はい。怪我をされた時、怪我をする前に戻したりもできます。その場合は怪我の大きさによって、魔力の消費が決まります。ですが、即死の怪我や寿命、病気は無理です」


「も、もし、もし仮にです。戦闘で片腕を失った場合は、元に戻すことができるのですか?それと、もう1つは過去にも行けますか?」


「過去に行くことは無理ですが、腕ならば可能です。ですが、どの効果も戻せる時間は最大1週間以内が限界です」


「そうですか…」

トニーの言葉を聞いたジャンヌ達は落ち込み、暗い表情になった。


「え、どうかされましたか?」

自分が何か不味いことを言ってしまったかと思ったトニーは慌てた。


「気にするな、トニー。それよりも、済まないが早速、始めてくれ」


「わかりました。では、行きます」

ローケンスに言われたトニーは頷き、ワールド・クロックを握っている両手を掲げた。



十字架に貯めている魔力が、復数の太い糸の様にワールド・クロックに流れていき、ワールド・クロックは黄金色に輝き始める。


そして、ジャンヌ達も足元から全身に掛けて黄金色の魔力に包まれていく。


「達者でな、トニー。これからも頑張れよ」

ローケンスの励ましの言葉と同時にジャンヌ達は、その場から姿を消した。


「はい、ローケンス様。そして、皆様、御武運を!」

トニーは、ジャンヌ達を転送した後も十字架に祈りを捧げるのであった。




【ラーバス国・屋敷・王室の間】


部屋にノックの音が響いた。


「魔王様、ウルシアです」

「お、ウルシアか?中に入れ」

ウルシアは、扉を開いて1度お辞儀して入る。


ウルシアの後に続くようにマリーナ、マキネ、そして、帰還したジャンヌ達も報告しに部屋に入った。


部屋の中には、魔王と妃がおり、ジャンヌ達は2人の前で片膝を床について敬礼をした。


「ジャンヌ達も帰還していたのか。その様子だと、あやつは居なかったみたいだな」

大成の姿がなかったので、魔王は把握して、娘のジャンヌ達が落ち込んでいると思い、様子を窺ったが、3人の瞳は力強く、落ち込んではいなかった。


「はい」

ジャンヌの代わりにローケンスが返事をする。


「そうか…」

魔王は手を顎に当て、一息吐いた。


「今回は空振りでしたが、大成は必ず何処かで生きてます」

ジャンヌはハッキリと言い、ウルミラ達は頷いた。


「そうね。あの子なら、きっと大丈夫よ。だって、あなた達の王子様なのですから」


「お、お母様っ!」

ミリーナ達はクスクスと笑い、真っ赤に顔を染まったジャンヌは声を荒あげ、ウルミラ、イシリアは恥ずかしくなって俯せた。


張り詰めていた場の雰囲気が和んだ。



「ゴッホン。それより魔王様。大事なお話があります」

わざと咳をしたウルシアは、話しを進める。


「そうだったな。それで、ウルシアよ。向こうで何があった?」


「要注意人物のラプラスに見つかってしまい、任務を中断しなければならず、帰還せざる得ませんでした。申し訳ありません」


「気にするな。それよりも、お前達が無事で何よりだ。やはり、ラプラスは油断できない人物だったみたいだな。お前達が、こうもすぐに見つかるとは思ってもみなかった」


「はい。警戒を怠ってはいませんでしたが、ラプラスに背後から声を掛けられるまで、全く気付きませんでした。そして、振り向いた時には、既に目と鼻の先まで接近されていました」


「何だと!?」


「事実です。それほど、魔力はおろか気配すら全く感じ取れません。そして、気付いた時も意識して見ていなければ見失いそうでした。どちらかと言いますと、底が見えず不気味でした」

ウルシアの報告を聞いた魔王は驚き、同行していたマリーナ、マキネに視線を向けたが、2人は真剣な表情のまま無言で頷いた。


「全く感じ取れないとは信じられがたいが、ウルシア達が言うならば誠なのだろう。そうだとしたら、ウルシアの言う通り不気味だな。いや、そんなことよりも、ちょっとした油断でも命取りになりかねん」

魔王の言葉に誰もが頷く。


「ウルシア。お前達から見て、ラプラスは神崎大成という可能性はあるか?」

魔王の質問にジャンヌ達は気になり、ウルシアに注目する。


「その可能性は、とても低いかと思われます」

ウルシアは口元に手を当て、少し考えてから答えた。


「ふむ。その根拠は?」


「修羅様は、【時の勇者】との戦いで右腕を失いましたが、ラプラスは右腕が健全でした」


「なるほど。失った腕は、ムーン・ハーブでも治すことができないからな。なら、迷わずに全力でラプラスを倒すことができるな」

魔王の意見に皆が頷く。


「他にも報告があります。ラプラスに見つかった際、彼と取引を致しました」

「「!?」」

偵察に行ったウルシア達以外の皆は驚愕した。


「取引だと!?」

「はい」

確かめるように、もう1度尋ねた魔王だったが、ウルシアは迷わずに肯定する。


そして、ウルシアは何があったのかを大間かに要点だけを説明をし、魔王は直ちに主力の者達を大広間に集合させるように指示を出した。




【ラーバス国・屋敷・大広間】


大広間には、魔王と妃、ジャンヌ、イシリア。

そして、ヘルレウスのメンバーが勢揃いしていた。


「集まって貰ったのは、ウルシア達がパルシアの森で人間共の軍団を見つけたらしい。ウルシアよ、皆に話せ」


「はい。私達が帰還する際、人間達がパルシアの森を進行しているところを発見し、現在、偵察部隊を向かわせております。おそらくですが、慎重に進行していたので、今はパルシアの森の中央付近だと思われます」


「ウルシアよ。その軍隊に【時の勇者】は居たのか?」

ローケンスが流星の名を出したことで、ジャンヌ、ウルミラ、マキネ、イシリアの4人の手に力が入り拳を握り締める。


「いえ、軍を引いていたのは、聖剣のアエリカ、ヨーデル、ニルバーナ、鷹虎兄弟、ユナール、カトリアの7名です。あとマテリアル・ストーンで1度見た聖剣候補3名を含め、およそ総勢300人ぐらいの軍隊です」


「我々は、直ちに迎撃に向かう。帰還したばかりでキツイとは思うが、ウルシア、マリーナ、マキネ、ローケンスにも参戦して貰う。ラプラスの何かしらの作戦かもしれん。各部隊は50人ずつ配置しろ。他は屋敷の警備だ。何かあるかもしれん。警戒をを疎かにするな」


「お父様!」

「「魔王様!」」

自分の名前を呼ばれなかったジャンヌ、ウルミラ、イシリアの3人は、抗議しようとした。


「あなた」

「しかし、ミリーナよ。うっ、わ、わかった。ジャンヌとウルミラ、それにイシリアも参戦して貰おう」

ミリーナとウルシアから睨まれ、マリーナとローケンスからも望む眼差しを受けた魔王は、2人の娘とイシリアの参戦を認めるしかなかった。


「「はい!」」

ジャンヌ、ウルミラ、イシリアは大きな声で返事をした。



「決戦は、パルシアの森の手前のパルシアの荒野だ。あそこならば、見晴らしも良い。ラプラスの何かしらの思惑も看破できるだろう。あと、【閃光】のアエリカの相手は、同じ雷歩が使えるシリーダとマキネ。【アクセラレータ】の鷹の相手は、同じく雷歩が使えるミリーナ。【ゴーレム・マスター】のユナールは、巨人化できるニール。お前達が相手にしろ。念のため、私とローケンスはラプラスに備える。良いな」


「「了解」」

シリーダ達は、敬礼したまま深々と頭を下げた。


「あの、お父様」

「何だ?ジャンヌ」

「先制攻撃は、私にさせて頂けませんか?」

「何か策はあるのか?」

「はい、取って置きなのがあります」

「……わかった、任せる。他は臨機応変で対応しろ!以上だ、良いな!」

魔王は悩んだが、聖剣のカナリーダを倒した実績がある愛娘を信じることにした。



「「ハッ!」」

ローケンス達は一斉に頭を下げ、その後、魔王達は準備を整えパルシアの荒野へと出陣した。




【魔人の国・パルシアの荒野】


パルシアの森を出た鷹虎兄弟達は、ホッとしていた。

「今回は、罠がなかったな」


「ああ、そうだな兄貴。こんなことなら、もう少し急いでも良かったぜ」


「まぁ、誰1人も被害を出さずに済んだから良いだろう。それに、奇襲よりも正々堂々と戦った方が後味も良いしな。なぁ、魔王」

鷹は大きな声を出しながら、待ち伏せしていた魔王達に視線を向ける。


「命令に背いてまで、ここまで攻めてくるとはな。やはり、お前達の目的は復讐か?」

魔王は腕を組んだまま、鷹虎兄弟達を一瞥する。


「そうだ。わかっているなら話は早い。しかし、お前達がここに陣を取っているということは、糞勇者か糞ガキが情報を漏らした様だな。いや、違うな。直接止めに入らなかったということは、情報を提供した犯人は糞ガキか。まぁ、良い。じゃあ、早速だが始めようぜ」

鷹の言葉で、この場にいる者達は魔力を解放し、戦闘体勢に入った。


大勢の魔力の波動により、周囲の空気が震えた。



「突撃~!!」

「「ウォォ」」

鷹の号令で、人間達は大きな声を出しながら、我先へと進行する。


その光景は、まるで波が押し寄せる様に見え、地響きが響き渡る。


一方、ジャンヌ達魔人側は、その真逆でその場から一歩足りとも動かずにいた。


ジャンヌは、隣にいる父・魔王に話し掛ける。

「お父様」

「ああ、頼んだぞ。ジャンヌ」

「はい。お任せ下さい」

魔王は小さく頷き、ジャンヌは左右の手でスカート両端の裾を軽く摘まんで一礼した。



ジャンヌは、後ろ腰にクロスに掛けている双剣を抜き、魔力を込めながら双剣の柄同士を当てた。


すると、双剣は炎を纏い、大きさ5mぐらいの巨大な弓に変化した。


ジャンヌは、弓を寝かしたように構え、手を離したが、弓は地面に落ちることなく宙に浮んだまま設置する。


「バリスタ」

ジャンヌは、掛け声と共に右手を挙げると、巨大な(バリスタ)の弦が大きく引かれ、それと同時に巨大な炎の矢が現れた。


士気が高かった人間の騎士団は、バリスタを見て恐怖を感じ、次第に足が止まって勢いもなくなっていった。


「ユナール!」

鷹がユナールの名を叫んだ。


「わかっている!ガイア・ジャイアント・ゴーレム」

ユナールは、叫びながらガイア・ジャイアント・ゴーレムを唱え発動させる。


周囲の大地は、ユナールに集まり体を覆い、巨大なゴーレムの形となり、ゴーレムと一体化したユナールは、炎の矢が放たれるのを阻止しようとジャンヌに向かって走る。



大きな音を立てながらユナールが迫る中、ジャンヌは気にせずに集中して魔力を更に高めていく。

「ハァァァ…」

バリスタの矢の先端に魔法陣が浮かび、更に離れた場所と雲の上にも魔法陣が描かれる。



発射(ファイヤー)

ユナールが、距離半分まで近づいた時、ジャンヌは挙げていた右手を振り下ろした。


バリスタは、ジャンヌが右手を振り下ろした瞬間、爆発した様な轟音を立てながら装填されていた炎の矢を発射する。


矢は、間近にあった最初の魔法陣を通り抜け、一回り巨大化し加速する。


そして、巨大化した炎の矢は、更に離れた場所に描かれている魔法陣も通り抜け、矢の形はフェニックスの姿に変わった。


「くっ、こうなったら受け止めてやる!」

間に合わなかったユナールは、巨大な腕を伸ばして目の前に迫ってくるフェニックスを受け止めようとする。


しかし、放たれたフェニックスは、まるで生き物の様に宙を自由に飛び回り、ユナールの腕をすり抜けて空を駆け抜ける。


そして、フェニックスは雲の上に描かれている魔法陣の真下を貫く様に接触し、魔法陣に吸い込まれた。

魔法陣は紅色に輝きを強め、更に外周に翼の様な魔法陣が展開する。



「メテオ・ダイブ」

ジャンヌは掛け声と共に指を鳴らした瞬間、魔法陣は砕け散り、巨大な火球が流星群のごとく人間達に降り注ぐ。



「おいおい…。嘘だろ…」

「何だこれは、悪夢か…」

人間の騎士団は、空から降ってくる無数の火球を呆然と見て呟いた。


「お前達、何をボサっとしているんだい。私の指示をよく聞きな。ヨーデルとニルバーナは右半分を、私とカトリアは左半分を守るよ。鷹虎兄弟とユナールは私達が撃ち損じたのを処理しな」


「「了解」」

「了解だ。アエリカ婆さん」

「婆さんは余計だよ、ユナール。私のことは、アエリカお姉さんと呼びな!わかったかい?」


「どこがお姉さん何だよ…。鏡で自分を見たことないのか?360°どこからどう見ても婆だろ…」

ユナールは、ボソッと呟いた。


「何か言ったかい?ユナール」

「い、いえ…」

(地獄耳だな…)

アエリカにギロッと睨まれたユナールは、押し黙り視線を逸らした。


他の聖剣達は、苦笑いを浮かべながらアエリカの指示で動き出す。



「久しぶりにアレをやるか」

「そうね」

ヨーデルとニルバーナは、お互い剣を抜いて斜め上に掲げてクロスに重ねる。


お互いに魔力を高めていき、ヨーデルは青色、ニルバーナは黄色の魔力を剣に注ぐ。

重ねている2本の剣が共鳴し、魔力は一気に膨大に膨れ上がった。


「「ライトニング・アイシング・レイン」」

2人は、ユニゾン複合魔法・ライトニング・アイシング・レインを発動した。


重ねている剣を中心に、雷を纏った巨大な氷柱が無数に宙に浮かんだ。


「「行けぇ~」」

2人の掛け声と共に雷を纏った巨大な氷柱は、上空から降り注ぐ巨大な火球に向かって物凄い速さで発射する。


氷柱と火球が衝突し、上空で水蒸気爆発があちらこちらで起きて大爆発した。

爆発により、発生した衝撃波が地上にいる者達を襲いかかる。


「「ぐぉ」」

地上にいる騎士団は立っていることができず、地面を転がったり、倒れたりする。




【パルシアの荒野・左側】


一方、左側にいるアエリカとカトリアは、お互い向き合い両手を斜め上に突き出した。


「周りにいる者は、離れなさい」

「早く避難しな」

カトリアとアエリカは、仲間の騎士団に注意を促した。


そして、アエリカは雷属性をカトリアは風属性の魔力を放出する。

2人の異なる魔力は、反発することなく混じり合い1つになった。


「「サンダー・ストーム」」

アエリカとカトリア合成魔法サンダー・ストームを発動した。


2人の手の中心から巨大な雷を纏った竜巻が発生し、上空の巨大な火球を消し飛ばしていく。

しかし、周りにいた騎士団も風圧に耐えきれず、吹っ飛ばされた。



「俺様達も負けていられないな。それじゃあ、行くぞ!弟よ」

「おう!」

鷹は、虎の背中に触れることで加速効果を虎に付与した。


次に鷹は、掌を大きく広げて腕を振り、発生した風圧に加速効果を付与する。


「風圧弾」

加速効果を付与された風は、徐々に加速して威力が高まっていき、風の塊ができた。

風の塊は巨大な火球とぶつかり、火球は一瞬だけ歪み風の塊を飲み込んだ。


「1発だけでは意味がないみたいだな。しかし…。ウォォォ」

今度は左右の手を使い、次々に


を霧散させる。


鷹は何度も左右の腕を振り、次々に火球を消し去っていく。



一方、虎は離れた場所に落ちてくる巨大な火球に向かって物凄いスピードで接近しジャンプする。


「うぉぉ!ビッグバン・エクスプロージョン!」

虎は、右手に魔力を一点集中して巨大な火球を殴る。


拳が火球と触れた瞬間、大爆発が起きて火球は跡形もなく消し去った。


完全には防ぐことはできなかったが、聖剣達の奮闘で、最小限の被害に抑えることができた。




魔王達は、初めて見るジャンヌの魔法に驚愕していた。


「……。」

魔法を放った張本人のジャンヌも、初めて使う魔法だったので、予想以上の威力に唖然としていた。


「これ程とは…。愛娘ながら、とんでもない魔法だな。しかし、あの魔法を最小限の被害に抑えるとは、流石は聖剣と言われるだけのことはある。だが、その分、魔力を消費したはずだ。この機会を見逃すな!全員突撃だ!」

すぐに我に帰った魔王は、指示を出した。


「「うぉぉ!」」

魔王の指示で、魔人軍は動き出した。


「ハァハァ…。お父様」


「ジャンヌよ。見事な魔法だった。お前は、とりあえず魔力を消費し過ぎている。マジック・ポーションを飲んで、一旦休め」


「はぁ、はい。お言葉に甘えさせて頂きます。この魔法は、予想以上に魔力の消費が激しいようです」

ジャンヌは、魔王の指示を素直に受け入れ、ポーションを飲み、後方に下がって休むことにした。




「お前達、何をボーっとしているんだい。早く突撃しな。敵は待ってくれないよ」

「「は、はい」」

アエリカの指示で、人間の騎士団は再び動き出す。


ゴーレムと一体化しているユナールは、先頭を切って接近する。


魔人達は、ユナールの進行を止めるため、魔法攻撃をするが、ユナールに対して魔法は大して効かず、足止めすらできないでいた。



「ここは、私にお任せを」

ニールは部隊から飛び出して、1人でユナールに立ち向かう。

そして、周りに誰も居ないことを確認して全身を巨大化する。


「あなたのお相手は、私です」

「やはり、俺の相手はお前か。ニール」

ニールとユナールは走り接近し、両手を前に突き出して互い手を力強く握り締める。


「「うぉぉ」」

2人は全力で全体重もかけて押し合い、足元の大地がひび割れが発生し、そして抉れていく。


2人の衝突で大地が揺れる中、両軍は怯むことなく、それぞれ衝突するのであった。

投稿が遅れて大変申し訳ありません。

色々と考えて書いていましたら、予定よりも話が進まず、大変申し訳ありません。


続けて、もう1話連続で投稿させて頂きますので、もし宜しければご覧下さい。


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