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それぞの動きと取引

死んだと思われた大成が、ヤーニガル村に入院しているとの朗報があった。

【魔人の国・ラーバス国・屋敷】


ジャンヌ達は、普段はどんな時でも人目がある場所では、人目を気にして優雅に立ち振る舞っていたが、今は姫様などの立場を忘れ、ジャンヌを先頭にウルミラ、イシリアもジャンヌの後ろに続き屋敷の中を猛スピードで走っていた。


目の前には、騎士団が廊下を歩いていたが、ジャンヌ達はスピードを落とさずにジグザグに走り、目の前の騎士団を避ける。


「わぉ!?」

「~っ!?ジャ、ジャンヌ様!?それに、ウルミラ様にイシリア様まで!?」

ギリギリにすれ違った騎士団は、驚いて尻餅ついた。


「「ごめんなさい!」」

「申し訳ありません!」

ジャンヌ達は、謝罪をしたが立ち止まらずに、その場を後にした。


そして、ジャンヌ達は、大広間に辿り着いた。




【魔人の国・ラーバス国・屋敷・大広間】


「お父様っ!お願いがあります。私達をヤーニガル村に行かせて下さい!」

ジャンヌは勢いよく扉を開けると共に、用件を伝えた。



大広間には、魔王と妃、護衛騎士団だけでなく、マキネやイシリアの母・マリーナ、ウルミラの母・ウルシアも集まっており、ジャンヌ達に振り返り注目する。


「フフフ…。そう言うと思っていたよ。ジャンヌ」

マキネは、クスクスと笑った。


「あなた達、朝から元気良いわね」

ミリーナは、口元に手を当て微笑み。


「はぁ~」

ウルシアは、礼儀を欠いているジャンヌ達に呆れていた。


「あらあら、マキネちゃんの言う通りになったわね」

相変わらずマイペースなマリーナは、にっこりと笑顔を浮かべた。


「あっ…」

「あの、これは…」

「そ、その…」

大成のことで頭いっぱいになっていたジャンヌ達は冷静になり、慌てて身嗜みを整え始める。


「失礼します」

入室したローケンスは、ウルシア達に歩み寄り、魔王に向けて敬礼をした。



「久しぶりだね」

「本当に久しぶりよ、マキネ。たまには、ゆっくり休みなさい。そんなに、根を詰めると体が持たないわよ」

イシリアは、心配した表情でマキネを気づかった。


「心配してくれてありがとう、イシリア。でもね、今回の件は、ダーリンのことだから嬉しいの。それに、これが終わったら、その分のんびりとダーリンとイチャイチャしながら甘える予定だよ」

マキネは自分の頬に人差し指を押し当て、ジャンヌ達に向かってウィンクをした。


「「へ、へぇ~」」

今回の情報を提供してくれたマキネに感謝しているので、ジャンヌ達は何も文句を言えず、口元が引きつりながら額に青筋を浮かべる。


そんなジャンヌ達の反応を見たマキネは、久しぶりに大成がいた頃みたいな雰囲気を感じて笑顔を浮かべた。


ジャンヌ達もマキネの笑顔を見て徐々に微笑む。


ジャンヌ達は、大成が消息不明になってから今まで、無意識だったがお互いに気遣ってギクシャクしていたが、今は大成の生存の可能性が高まり、久しぶりに以前の様に心から笑えたのだ。



「それで、お父様。私達をヤーニガル村に行かせて下さい」

ジャンヌは、再度魔王に懇願した。


「お前達のことだ、そう言うと思っていた。だが、今回は選りすぐりの騎士団に任せる予定だ」

「なぜですか!?お父様!」

「それはだな。ヤーニガル村は、とても危険な場所だからだ」

魔王は、腕を組み忠告した。


「私達なら、大丈夫です。もし、相手が盗賊団や殺人集団でも返り討ちできます。例え指定ランク5の魔物が相手でも遅れをとりません。ですから…」


「いや、そういうことではない。ジャンヌよ、1つ問う。なぜ、殆どの国はヤーニガル村と交友がないかを知っているか?」


「いえ、存じません」

首を左右に振るジャンヌ。

ジャンヌの後ろにいるウルミラとイシリアも知らなかったので、お互い顔を見合わせた。


「それはだな。ヤーニガル村の住民は優しく、村の治安は良いみたいだが、問題は村を覆っているヤーニガルの森だ。ヤーニガルの森は、猛毒を持った毒植物や昆虫が多く、魔物ですら住めないほどの過酷な環境なのだ。そのことから別名【猛毒の森】や【死の森】とも呼ばれておるほどだ。だから、商人も冒険者も訪れることは殆どない。だからこそ、指定危険立ち入り禁止エリアになっている。もう気付いたと思うが、お前達がいくら戦闘に長けていても、知識がなければ死にに行くようなものだ」

ジャンヌ達が諦めるように、魔王はわかりやすく説明をした。


「そ、それは…」

言い淀むジャンヌは、言い返すことができず歯を食い縛り、隣にいるウルミラ、イシリアも握っている拳に力が入る。


「それなら大丈夫だよ、ジャンヌ。私に任せて。何度か行ったことがあるから」

マキネは、自信に満ちた表情で胸を張った。


「ありがとう」

「ありがとうございます。マキネさん」

「ありがとう、マキネ。本当に助かるわ」

ジャンヌ達は、マキネに感謝した。


「それは、残念だが駄目だ」

魔王の言葉を聞いたジャンヌ達は、不安な表情に変わり魔王を見る。


「どうしてですか?お父様」

「マキネには悪いが、今回、戻って来て貰ったのは、別の件のことで依頼したいことがあったからだ」

ジャンヌの疑問に、魔王は真剣な面持ちで答えた。


「別の用件ですか?」

「ああ、魔王修羅の件とは別に、もう1件ある。その件は、絶対に見逃すことができんのだ」

マキネの質問に魔王は威圧感を醸し出して話す。


魔王の威圧感で、ジャンヌ達は深刻な事態が起きているのだと悟った。


「それで私達も呼ばれたのですね。大体の検討はつきます。人間の国の偵察の依頼ですか?」

魔王の話を聞いて大体のことを悟ったウルシアと無言で頷くマリーナ。


「ああ、相変わらず察しが良くて助かる。その件とは、今、ウルシアが言ったように人間の国を偵察して貰いたい。もう既に耳に入っているとは思うが、人間の国・バルビスタ国が、たったの一夜で他の3大国を攻め落とし、人間の国を統一したことは、もう知っているとは思う」


「はい、カルジア国は聖剣の鷹虎兄弟の率いる軍隊、ザダルカ国は同じく聖剣のマールイ、ケルンが率いる軍隊が制圧したと、夫のローケンスからお聞きしました」

マリーナは、敬礼したまま答えた。


「では、ボヤタニア国は誰が制圧したと思う?」


「お聞きしていませんが、おそらく【時の勇者】ではないでしょうか?あの者の実力なら1人でも制圧できると思います。流石に、新しく加わったばかりの聖剣の2人でも無理かと思います」

ウルシアは自身の考えを話し、皆もウルシアと同じ考えだった。


「うむ。私も、そう思っていた。しかし、偵察部隊からの報告は予想外だった。信じられぬと思うが、聖剣でもない1人の少年が、【閃光】のアエリカが在籍しているボヤタニア国を制圧したとのことだ。しかも、戦闘は1時間も掛からずに一国を制圧したらしい。その少年は、ナウバ族の者でウサギの仮面をかぶっており、ラプラスと名乗っているそうだ」


「信じられませんわ。ボヤタニア国と言えば聖剣3人が在籍しており、そのうちの1人は、【時の勇者】が現れるまで聖剣最強だった【閃光】のアエリカが居られますわ。あの【閃光】が倒されるなんて…」

魔王の話を聞いたシリーダは驚愕した表情で話し、魔王達は深刻な面持ちになった。


魔王達は、聖剣【閃光】のアエリカと交戦したことがあるので、その実力を知っていた。


アエリカの得意な神速歩法・雷歩に対応できたのは、魔王、ローケンス、ミリーナ、ウルシア、マリーナ、シリーダのたった5人だけ。

他のヘルレウスメンバーは、1人では太刀打ちできないので、2人以上のペアを組み協力し合い相対するほどだった。


「信じられないのは、私も同じだ。しかし、現実はそうなっている。とりあえず、始めに各聖剣達の戦いを見て貰おうか。マジック・ビジョン」

魔王は、懐からマテリアル・ストーンを2個取り出して、呪文を唱え魔力を込める。


このマテリアル・ストーン2個は、鷹虎兄弟の軍隊とマールイ、ケルンが率いる軍隊に偵察部隊がそれぞれ紛れ込み、密かにマテリアル・ストーンで録画した物だった。


魔王の魔力に反応して、2個のマテリアル・ストーンは輝き、映像を映し出す。




【過去・マテリアル・ストーン・人間の国・カルジア国】


マテリアル・ストーンの1つは、バルビスタ国の聖剣鷹虎兄弟とカルジア国の聖剣【疾風】のカトリア、聖剣候補だったゴンザレスの戦いを映し出していた。


鷹とカトリアは交戦し、鷹は自身のユニーク・スキル、アクセラレータで、自身と両手に持っているスロー・ダガーを加速効果を付与する。


「エア・アーマー」

カトリアも風魔法エア・アーマーを唱えて両足に風を纏い、更に精密に風を操ることで移動している時の空気抵抗を無くすことでスピードが増し、鷹のスピードについていく。


「はぁっ!」

素早く右に動きながら鷹は、両手に持っているスロー・ダガー8本を投擲する。


「ウィンド・ウォール」

鷹の投擲したスロー・ダガーは、音速でカトリアに襲いかかるが、カトリアの風魔法ウィンド・ウォールによる風の壁で防がれる。


「エア・スラッシュ」

カトリアは剣を振り、5本の風の刃を放つが、鷹の速さの前では役に立たなかった。


「「はぁぁっ!」」

2人は、一直線にお互いに接近して剣を振り下ろし、衝撃波が生まれる。


周りで戦っている騎士団は息を呑み、戦いを忘れるほど、2人の戦いに目を奪われていた。


「うぉぉぉ」

「はぁぁ」

2人は鍔り迫り合いになり、歯を食い縛り力を込めるが、両者は少し押したり押されていたりと互角だった。


そして、2人は同時にバックステップをして、後ろに後退した。


「流石、俺と同じ聖剣になっているだけのことはあるぜ。女だからって容赦しないぜ」

鷹は、獲物を見つけたような獰猛な笑みを浮かべる。


「望むところよ。私は貴方達を倒して、バルビスタ国王の馬鹿げた計画を阻止するわ」

カトリアは、剣先を鷹に向けて睨み付けた。

それから、2人は互角の戦いを繰り広げる。



一方、虎とゴンザレスの戦いは、あっという間に決着がつく。


お互いに接近し、殴り合いになったが、ゴンザレスは虎に触れるたび、虎のユニーク・スキル、エクスプロージョンが発動して爆発し火傷を負い、始めは痛みに耐えていたが、途中で耐えきれず怯んだ。

「ぐぁ」


「ここで、決めるぜ!」

その一瞬の隙を見逃さなかった虎は、一気に決めに行く。


「オラオラオラ!」

ギアを一段上げた虎は、更に動きが素早くなり、左拳のジャブを連打してゴンザレスに反撃の隙を与えず、一方的に殴り続ける。


「ぐっ、うっ」

両腕を縦にくっつけて体を丸くし、ひたすらガードするゴンザレス。


だが、虎の猛攻を受けたゴンザレスは、くっつけていた両腕が徐々に開く。


「喰らえ!ビッグバン・エクスプロージョン」

ゴンザレスのガード崩れたところに、虎は右手に魔力を一点集中し、渾身の一撃をゴンザレスの顔を殴り飛ばした。


吹っ飛ばされたゴンザレスは、直撃する瞬間、全魔力を顔に集中していた。

しかし、虎の威力に負けて顔に重度な火傷を負ったが一命を取り留め、気を失った。


その後、兄弟2人でカトリアを得意な連携プレイにより追い詰めて取り押さえた。

これにより、一気に流れは鷹虎兄弟に傾き、カルジア国を制圧した。




【過去・マテリアル・ストーン・人間の国・ザダルカ国】


もう1つのマテリアル・ストーンは、バルビスタ国の聖剣マールイ、聖剣ケルンとザダルカ国の聖剣ユナール、聖剣候補のアーインとの戦いを映し出した。


マールイは【ゴーレムマスター】ユナールと交戦していた。


「ホーリー・ランス」

マールイは、光魔法ホーリー・ランスを唱え、光の槍を20本召喚して飛ばして攻撃する。


「相変わらず、恐ろしいほど鋭いランスだな。だが、あまい!ガイア・ジャイアント・ゴーレム」

ユナールは、土魔法禁術、ガイア・ジャイアント・ゴーレムを発動し、足元の地面から約5mの岩男みたいな体型の巨大なゴーレムがユナールを取り込む様に出現した。


ユナールは、召喚した巨大なゴーレムと一体化し、ゴーレムの胸の中心に上半身だけ表に出ている状態の姿に変貌した。



マールイの光の槍をユナールは、ゴーレムの左腕で受け止め、浅く突き刺さった光の槍を腕を振ることで、払い除けた。


「「うわぁ」」

「「うぉ!?」」

払い除けた時、突風が発生し、周りにいた騎士団は、必死に耐えたり尻餅をついた。


「いくぞ!マールイ」

ユナールは、ゴーレムの右拳で殴りにいく。


「ハァァ!」

ジャンプしてゴーレムの拳を避けたマールイは、ゴーレムの腕の上を走り、ユナールに迫る。


「シャイニング・スラッシュ」

マールイは、光魔法、シャイニング・スラッシュを唱えて剣が光輝き、振り下ろした。


しかし、ユナールの周りから無数の手が出現して光の斬撃を受け止める。


そして、無数の手はマールイの体を掴もうと伸びるが、マールイは迫ってくる手を蹴り飛ばして、その反動を利用して離れる。


巨大なゴーレムと一体化したユナールは、パワーと防御力は格段に跳ね上がっているが、逆に小回りが利かなくなるのが欠点だった。



「今のは危なかった。それにしても、お前とこうして戦うと、あの頃を思い出す」

一度距離をとったマールイは、構えたまま懐かしい表情をする。


「そうだな…。懐かしい」

ユナールも同意して、懐かしい表情に変わった。


「あの時の決着をつけようとするか?」

「ああ、良いだろう!」

マールイは動き出す。



一方、ケルンと聖剣候補アーインとの戦いは、一方的にアーインが大剣で連撃を繰り出して押している様に見えたが、そのアーインの表情には焦りが見えていた。


「ウォォ…」

アーインは、自慢の大剣で攻撃の手を緩めずに連撃をしていた。


「良い斬撃だ。確かに聖剣候補に選ばれるだけの実力はある。しかし、相対してわかったが、お前はまだまだ経験が足らない」

ケルンは、普通にアーインの斬撃を受けた場合、剣ごと真二つに切断されると思い、細い剣でアーインの巨大な大剣の斬撃を受け流していた。



アーインは、今まで初撃か二撃目で相手を倒していただが、今回の相手は憧れの聖剣のメンバーなので、一筋縄ではいかないと予想していた。

もし、攻撃を防がれたり回避されても、攻撃を当てればどうにかなると思っていたが、実際はそれより深刻な状態に陥っていた。


攻撃を回避されることなく、一撃一撃は確実にケルンに届いて防がれている。

ただ、防がれているのなら未だしも、ケルンは全ての斬撃を受け流していたのだ。


アーインは斬撃を受け流された経験がなく、自慢の斬撃が全く通用しないと悟った瞬間、為す術がなく無惨に敗北するという恐怖が頭をよぎり、早期決着をつけようと焦りだしたのだ。


「糞。どうして、俺の斬撃が通用しないんだ!?俺の剛剣は全てを破壊するはずだ!なのに…。糞たれ!死ね、死ね、死ね~!」

アーインは、焦りから怯えの表情に変わり、今まで隙がなかった連撃だったが、次第に大振りになっていき、隙が生まれる。


「そこだ!」

ケルンは、振り下ろされる斬撃を身体を傾けて避け、一歩前に踏み込むと同時に剣の柄をアーインの鳩尾に入れた。


「ゴフッ、そんな…馬鹿な…」

アーインは気絶し、ケルンに凭れ掛かる様に倒れた。


その後、ケルンはマールイとユナールの戦いには参戦せず、騎士団と一緒にザダルカ国の騎士団の制圧に赴いた。


そして、マールイは激闘の末、ユナールに勝利を収めた。




【魔人の国・ラーバス国・屋敷・大広間】


「以上だ。見てわかったと思うが、聖剣達は誰しも油断できる相手ではない。だから、【時の勇者】だけを警戒していれば良いとは思わぬようにな。今度は、この聖剣達が協力し合い攻めてくるはずだ。いつでも対処できるように心掛けよ」


「「ハッ!」」

ローケンス達は一斉に返事をする。


「あと、話題にあがったラプラスは、残念ながら作戦上1人行動だったため、偵察部隊はついて行くことができずマテリアル・ストーンでの戦闘録画がない。しかし、今、映し出された聖剣達よりも【閃光】のアエリカの実力は確実に上だ。そのアエリカを倒し、他の聖剣2名も倒してボヤタニア国を1人で制圧したことを忘れるな。それと、マキネよ。元【時の勇者】の弟子だったお前なら、ラプラスの素性を知っているか?もし、知っているならば、情報を提供して欲しい」

魔王はマキネに視線を向け、皆もマキネに視線を向ける。



マキネは、大成が消息不明になった時、自分から流星の弟子であることを皆に打ち明けていた。


打ち明けた理由は、大成が消息不明になったことで、精神が不安定になり、全ての関係を壊して1人になりたいと思ったからであった。


しかし、ジャンヌ、ウルミラは以前からマキネのことを知っており、イシリアはマキネを信じていたので、3人は優しくマキネを抱き締め、ジャンヌ達4人は泣いたのであった。


大成は、マキネが流星の弟子であることは、はっきりとはわからなかったが、特殊部隊の誰かの弟子であることは、ラーバスの魔王決定戦で、マキネと戦った時に気付いた。


大成が気付いた理由は、マキネの体術はこの世界の体術ではなく、大成が召喚される前にいた世界の特殊部隊の体術だったからだ。


試合後、マキネは大成に付きまとい、大成は仕方なく、マキネに武器と練習メニューを書いた本を渡した。

その武器と本には、盗聴の術式を刻んでいたのだ。


大成は、そのことをジャンヌ達に話し、マキネを泳がして観察することにした。


しかし、マキネは本当に大成にベタ惚れしており、全くそんな気配はなかったことや、今までのマキネの行動は信頼するには十分だった。

そのことは、マキネは今も知らない。



「う~ん。私がいた時は、ラプラスとかいう男の子は居なかったと思うなぁ。だって、私の周りは皆大人だったし、そんな場所に近い年の子が居れば目立つはずだよ。それに、その話は未だに信じられないよ。だって、私はナウバ族に出会ったことがあるけど。あの人達は温厚で命を尊い、争い事は嫌いで戦闘は苦手、指定ランク3の魔物ですら大人5人で倒すのがやっとなほど弱かったんだよ」

マキネは、信じられないような表情で説明した。


「そうなの?」

ジャンヌは、ナウバ族と会ったことがないので、魔王とマキネの違いに首を傾げる。


「そうだよ、ジャンヌ。まぁ、その反面、積極的に暑苦しいほど熱烈にプロポーズする人達が多かったけどね。例えば、80歳ぐらいのおじいちゃんとかも、真顔で全財産あげるからっと何度もプロポーズしてきたし。あと知っていることは、親族、伴侶にしか素顔を見せてはいけない独特な変な仕来たりがあったり、悪趣味な仮面をかぶっていたけど。でも、誰もウサギや動物の仮面はかぶっていなかったよ。皆がかぶっていたのは不気味な顔が描かれてたから、尋ねてみたら魔除けの意味が込められているって言っていたよ」

思い出したマキネは苦笑いを浮かべ、話を聞いたジャンヌ達も苦笑いするしかなかった。


「ゴッホン、マキネが言っていることは間違っていない。私も2度ほど会ったことがある。しかし、現にその少年は実在しており、魔人の国の驚異になるのは間違いなかろう」

雰囲気を変えるため1度咳をした魔王は、真剣な面持ちで話しを進めた。



「他に悪い報告がもう1つある。人間の国に派遣している偵察部隊のことなんだが、ラプラスという謎の少年の報告とローケンスが偵察部隊から、このマテリアル・ストーンの預かったのを最後に、それ以後、偵察部隊との連絡が完全に途絶えているのだ。そこで、ウルシア、マリーナ、マキネの3人に頼みたいのだ。人選した理由は、ローケンスに匹敵するほどの実力のあるお前達なら大丈夫だと思ったからだ。そして、特にマキネは人間の国を詳しく知っている。かなりの危険な任務だが、引き受けてくれるか?お前達」

胸騒ぎがしている魔王は、ウルシアとマリーナ、それにマキネの3人に人間の国・バルビスタ国の偵察を依頼したのだった。


マリーナのことは、予め夫のローケンスに渋々だったが了承を得ていた。


魔王とマリーナは、ローケンスに確認するように視線を向けた。

2人の視線に気付いたローケンスは、力強く頷いた。


「「「了解!」」」

マキネ、ウルシア、マリーナは、深くお辞儀をした。


これで話は終わり、解散かと思ったジャンヌ達は暗い表情になる。


「ところで、あなた」

「何だ?ミリーナ」

「シルバー・スカイの時、ジャンヌ達の戦いを見ていたのだけど、あの子達は、もう十分に強いわ。だから、次のステップに行かせてあげたいの」

「ま、まさか、ミリーナよ」

ミリーナの言いたいことが伝わった魔王は、少し動揺しながら確認をする。


ミリーナの言葉の意味がわからなかったジャンヌ達はキョトンとした。


「ええ、ジャンヌ達をヤーニガル村に行かせましょう。もちろん、安全のため保護者としてローケンス。あなたに同行して貰いたいの。それなら文句ないでしょう?あなた」

ミリーナは、ジャンヌ達にウィンクする。

暗かったジャンヌ達の表情が、みるみる明るくなっていく。


「ハッ!」

ミリーナに頼まれたローケンスは、浅くお辞儀をし了承した。


「う、うむ…。しかし…。まぁ、ミリーナの言い分も一理はある。仕方あるまい。確かにローケンスが同行すれば問題なかろう。任せたぞ、ローケンス。本当に頼むぞ!」

始めは断るつもりだった魔王だったが、娘達の顔見て、渋々といった感じで納得する。


「お任せください!魔王様」

ローケンスは、力強い声を発しながら深々とお辞儀をした。



ローケンス達が退出して、最後に残ったジャンヌはスカートの両裾を軽く摘まみ、父・魔王と母・ミリーナにお辞儀をする。


「ありがとうございます。お父様、お母様」

「ジャンヌよ、決してローケンスの傍から離れることがないようにな。何かあったら、すぐに戻って来るんだぞ。いや、この際、私もついて行った方が良いのでは?ラーバスには、ミリーナもシリーダもニールもおるから大丈夫だな…」

顎に手を当て真剣に考える魔王。


「もう、あなた過保護過ぎです」

そんな夫の魔王を見て、呆れた表情になるミリーナ。


「そうか?普通だと思うが…。ゴッホン。とりあえず、本当に気を付けるのだぞ。ジャンヌ」

「大成君に会えると良いわね」

魔王は不安そうな表情で頷き、ミリーナは笑顔を浮かべたまま右手を小さく振るった。


「はい!」

笑顔で返事をしたジャンヌは、部屋から退出した。


こうして、マキネ、ウルシア、マリーナの3人は人間の国・バルビスタ国の偵察に、ジャンヌ、ウルミラ、イシリア、ローケンスの4人は大成がいるとの情報があったヤーニガル村へと向かった。




【人間の国・バルビスタ国・バルビスタ城内・大広間】


バルビスタ国王に挨拶するため、各国王達は聖剣や優秀な騎士団を連れて、バルビスタ国に集まっており、バルビスタ国王は歓迎の意味も含め、城内の大広間で宴会を開いていた。


会場には丸テーブルが沢山並べており、後方にはフレンチスタイル(コックが目の前で料理をする)で長方形のテーブルの上には色んな種類の料理やデザート、飲み物が置かれている。


各国王達は、前席の中央にある一番ゴージャスに装飾されている大きいテーブルに集まっていた。


「不覚だった。まさか、バルビスタ国が我々3大国を相手に争うとは思ってもみなかった」

カルジア国王は、片手にワインを持ちながら溜め息を吐く。


「確かに。普通は実行しようとは思わん。ボヤタニア国王よ、そう落ち込むな。落ち込む気持ちはわかるが気にするでない。あやつ、【時の勇者】の実力は我らも知っている。アレは最早、人間の強さはではない。天災だ」

ザダルカ国王は苦笑いをしながら、未だに一言発していないボヤタニア国王に同情する。


バルビスタ国は、ラプラスの実力の隠蔽目的とボヤタニア国の面子を考慮し、公では流星が1人でボヤタニア国を制圧したこととしていた。



「…ちが…う…の……だ…」

ラプラスの戦う姿を思い出したボヤタニア国王は、頭を抱え込みながら震え、小さく呟く。


「ん?何か言ったか?ボヤタニア国王よ」

微かに何か聞こえたザダルカは、首を傾げた。


「今は、そっとしておこう。まだ、ショックから立ち直れていないみたいだ」

カルジア国王は、ポンっとザダルカ国王の肩に手を置く。


「そうだな」

納得したザダルカ国王は頷いた。



会場の後方では、珍しい料理がいくつもあったので、聖剣のユナールは右手を口元に当て、どれにするか悩んでいた。

「美味そうな料理が並んで悩むな…。コック。それとこれ、それにアレも頂こう」

ユナールは、3種類の料理をコックに頼んだ。


「畏まりました。どうぞ。あと、新作の料理があります。もし良ければ、一口どうですか?」

「そうだな。せっかくだから頂こう」

コックは、フォークに一口サイズにカットした蜂蜜とバターの付いたホットケーキを刺して渡した。


「美味い!」

「お口に合って何よりです」

「これは、何ていう料理だ?」

「これは、ラプラス様が考案した。ホットケーキという料理です」

「是非、このホットケーキというものも頂こう」

料理を受け取ったユナールは、中央に並んでいる丸テーブルに移動した。


「ん?何だ?あのド派手な格好したウェイターは?ん?持っているのは、ワインか?」

食事をしていたユナールは、真横を通った全身左右が黒と白に分かれた衣装にウサギの仮面をかぶっているラプラスが気になった。



「すまないが、そこのウェイター。その持っている赤ワインを1つくれ」

「重め、軽め、どちらが良いですか?」

「重めだ」

「畏まりました。こちらフルボディのカベルネ・ソーヴィニヨンになります。どうぞ」

ラプラスは、お辞儀をしてワインを渡す。


「ありがとう」

「では、私はこれで」

「ああ」

再び、ラプラスはお辞儀をして、その場を後にした。


(それにしても、聞いたこともないワインだが、おそらくバルビスタ国限定産なのか?)

ワイン好きなユナールは、ワインを熟知しており、すぐに市販されていないワインだと気付いた。


ユナールは、ワイングラスを傾けてワインの色や不純物がないかを確かめる。

「良い色だ」

(あの日、マールイに負けた時は悔しかったが、正々堂々と戦かったことで、今は清々しい気分だ)

ふと思い出したユナールは、口元を緩めた。


スワリング(ワイングラスを反時計回りに回すこと)をし香りを嗅ぐユナール。

「良い香りだ。味はどうかな?」

ワインを少し口に含んだ。


「おぉ!これは美味いぞ!確か、カベルネ・ソーヴィニヨンとか言っていたよな。これは是非とも、帰国の際には大量に買って帰らないとな」

ワインを気に入ったユナールは、持ってきた料理を食べ始める。


「あら、ユナールさん。おはようございます」

ユナールに気付いたカトリアは、ユナールに歩み寄り、笑顔で挨拶をした。


「おはよう、カトリア。それにしても…。まさか、こんな日が訪れようとは思わなかったな」

「ええ、そうですね」

「俺達は、つい先日までいがみ合っていた仲だったが、これからは仲間だ。お互い協力して行こうではないか」

「はい。こちらこそ、宜しくお願いします」

お互い笑顔で握手をする。


「ところで、カトリア。どうだ?どの料理も美味いが、特にこのワインは格別だぞ」

「すみません。私は遠慮させて貰います。確かに美味しそうな香りがしていますが、まだバルビスタの国王様の挨拶も終わっていませんので。ユナールさんも程々に」

笑顔で断ったカトリア。


「そうか、それは残念。ん?あれは【閃光】の婆さん達じゃないか?」

残念そうな表情になるユナールだったが、視界にアエリカ達を見つけた。


「その様ですね。ですが、何だか何かに怯えているような雰囲気がします」

心配になるカトリア。


「まぁ、仕方ないだろ。あの【時の勇者】と戦ったんだ。あの事件(シルバー・スカイ)の日、覚えているか?」

「はい、私の国からも見えました。【時の勇者】の魔力が一気に膨張し、曇りで真っ黒な夜空を銀色に染めたところを。今まで、あれほど巨大な魔力は感じたことも見たこともありません」

「俺も初めてだった。まぁ、あんな膨大な魔力を保有している奴と戦ったんだ。恐怖を覚えても仕方ないし、トラウマにもなるだろうよ」

気の毒そうな表情になる2人。


ユナールとカトリアも、流星がボヤタニア国を制圧したのだと思っていた。



その直後、突然に後ろの扉の方から、流星の膨大な魔力が部屋を包むように発生して、会場の者達は一斉に振り向いた。

先ほどまで、賑やかだった会場は静寂に包まれる。


そして、後ろの扉がゆっくりと開き、国王と妃が現れた。


会場の皆は、一斉に片膝をつき頭を下げ敬礼をする。


国王と妃の後ろには、流星、メルサが続き、その後ろにはマールイ、ケルン、さらに後ろには鷹虎兄弟、そして、最後尾に奈々子とツカサが現れる。

流星達聖剣は、聖剣になった者しか与えられない蒼と白の装飾されている衣装を纏っていた。

羽織っている蒼のマントには、白色で剣が描かれている。


奥に置かれてある国王と妃の専用椅子の前に国王と妃が立ち振り向き、国王と妃を中心に、流星達は一歩後ろで左右に分かれて振り向いて待機した。


バルビスタ国王は、一歩前に出る。

「まず、集まってくれたことに感謝する。皆の者、顔を挙げよ。長い挨拶はしない。これからの方針だけを話す」

腕を横に出すバルビスタ国王。


皆は、敬礼したまま顔だけ上げて、バルビスタ国王に注目する。


「まず、各国の囚人をこの国に連れて参れ。そして、作戦と準備が整い次第、魔人の国を制圧する」

バルビスタ国王は、右手を前に出して掌を握りしめた。


「1つ質問がある。いえ、質問があります」

この場でただ1人、ユナールが挙手し言葉使いを改めた。


「何だ?ユナールよ」

「魔人の国を制圧するために、俺達、聖剣をかき集めたことはわかりますが、その作戦の総隊長は誰に一任するでしょうか?」

「総隊長は、我が国の【時の勇者】だ。副長にはラプラスを任命する」

迷うことなくバルビスタ国王は答えた。



バルビスタ国王の言葉から、ラプラスの名前が出た時、ラプラスを知らない者は、「誰だ?」と言った感じにざわめき出す。


しかし、ラプラスを知っているボヤタニア国の者達は体が震え出していた。


「2人共、前に」

バルビスタ国王から呼び出された流星は一歩前に出て国王の横に立ち、ラプラスは立ち上がり、敬礼している皆の間を堂々と歩き、流星の横に立った。


「なぁ?あの少年を知っているか?」

「いや…」

初めて、少年のラプラスを見た者達は、顔をしかめて呟く。


「紹介しよう。総隊長は、皆も知っているとは思うが聖剣12人の中の1人【時の勇者】の2つの名を持つ大和流星。そして、副長は勇者の半身の少年ラプラスだ」

流星は腕を組み堂々とし、ラプラスは軽く会釈をした。



「バルビスタの国王様、失礼だと存じますが、総隊長が【時の勇者】なのは我々も納得できます。ですが、こう言っては何ですが、副長の方は考え直した方が宜しいかと…。聖剣でもない、ただの少年には荷が重いかと思われます。他にも優秀な者達がおります。例えば、聖剣で2番目の実力者であり戦略、戦術も長けている【閃光】のアエリカ様や他の聖剣の者など」

カトリアは、考え直す様に変更を申し出た。


「フッ、心配することはない。ラプラスの実力は、ワシが保証する。それと、これからは勇者の指示に従って貰う。それで、よいか?」

「「ハッ!」」

全員は、一斉に頭を下げた。


流星は、皆に囚人をレッド・ナイツに変え終えるまで、待機する様に指示を出していた。

次の日から各国の囚人がバルビスタ国に移送され、流星は右手にエンチャント、ブレイン・コントロールを付与して、次々に囚人達の頭に触れ、囚人達を操り人形(レッド・ナイツ)に変えていった。



【バルビスタ国・バルビスタ城内・廊下】


鷹は総隊長は諦めていたが、2番目に部隊に指示を出せる副長の座を狙っていた。


そのため、鷹は全力でカルジア国の制圧作戦に取り組み、どの部隊よりも最速で制圧したという功績を立てる必要があった。


鷹は、彼女だったカナリーダやその妹サリーダ、部下達の敵討ちのため、プライドを捨て、カトリアとの戦いの途中で弟の虎にも手伝わせて制圧した。


しかし、そこまでしたが、予想外な事に作戦を失敗すると思っていたラプラスが1番早かった。


副長の座も叶わなかった鷹は、怒りの形相で右拳を握り締めて右腕を内側から外側に向けて壁を殴った。


「糞っ!」

「兄貴、どうするんだ?このままだと、(あね)さんやサリーダの敵討ちができないかもしれないぜ。かと言って、俺達2人だけじゃ流石に無理だ」

真剣な面持ちで虎が尋ねた。


「そんなことはわかっている。ん?…待てよ。フフフ…。その手があったか…。心配するな、弟よ。大丈夫だ」

手で顔を覆い隠して考える鷹は、良い考えが思い浮かび、不敵な笑みを浮かべた。


「何か良い考えが思い浮かんだみたいだな?兄貴」

鷹の表情を見た虎は、ハッタリではないことに確信した。


「ああ。任せろ」

鷹は力強く頷き、兄弟は他の聖剣達に会いに行った。




【人間の国・バルビスタ国・バルビスタ城内・中庭】


鷹虎兄弟は、聖剣のユナール、カトリア、ヨーデル、ニルバーナ、アエリカを中庭に呼び出していた。


「まず、よく集まってくれた。礼を言う」

プライドの高い鷹だったが、頭を下げるほどカナリーダとサリーダに対する想いが強かった。


「おいおい、あのプライドの塊みたいだった【アクセラレータ】が頭を下げるとは珍しいな」

ユナールは、珍しいものを見たかの様な表情になる。


「それほどの何かしらの決意があるのでしょう。それで、私達を呼び出して何の用ですか?」

一方、カトリアは怪訝な表情で尋ねた。


「ああ、そのことだが、ここにいる俺達だけで魔人の国を制圧しに行かないか?」

鷹は、真面目な面持ちで聖剣達の目を見て提案する。


「それは、【時の勇者】やラプラスっていう子の指示ではありませんよね?もし、指示ではないのなら、命令違反になりますよ」

カトリアは顎に手を当てたまま、キリッと鷹を睨み付けた。


「そうだ。これは、俺達兄弟の独断だ。だが、このままだと美味しいところは全部アイツらに取られてしまう。それだと面白くないだろう?どうだ?俺達と一緒に先に攻め落とし、アイツらを出し抜かないか?本当は考える時間をやりたいが、そんな時間はない。あの勇者は、やたらと鋭い奴だからバレる可能性が高い」

手を差し伸べるように左手を前に出す鷹。


「「……。」」

暫くの間、考えるユナール達。

場が静かになった。


「正直に言うと、(あね)さんやサリーダの敵討ちがしたい。だが、この前の戦いで、アイツらは一筋縄ではいかないことを思い知った。このまま勇者の指示で動いたら、自分の手で敵討ちできない可能性がある。命令違反なのはわかっている。それでも、俺達はどうしても自分の手で敵討ちがしたいんだ!頼む、無理を承知しているが力を貸してくれ!」

「頼む!」

虎は深く頭を下げ、兄・鷹も頭を下げた。


そして、鷹と虎の姿を見たユナール達は覚悟を決めた。


「わかった。確かに功績をとられるのは釈然としない。俺はその話に乗ることにしよう」

「フッ、本当は止めるべきなのでしょうが、貴方方の覚悟に負けました。私も手を貸しましょう」

ユナールとカトリアの2人は鷹に賛同した。


「アエリカ婆さん達はどうする?」

ユナールは、今も無言のボヤタニア国の聖剣アエリカ、ヨーデル、ニルバーナに尋ねる。



もし、アエリカ達が断った場合、戦力不足になり、この話は流れると思った鷹虎兄弟は息を呑み、返事を待った。


「アエリカ婆さん。今なら大丈夫だ。勇者は牢獄部屋で囚人達を人形化し、ラプラスはその人形を誘導している。今なら気付かれることはない。それに、事がうまく運べば、あの2人より俺達の立場も上がるはずだ。どうする?」

ユナールは、説得を試みた。


「わ、私は…」

「「頼む!」」

アエリカは断ろうとしたが、鷹虎兄弟の必死の姿を見て戸惑う。


「アエリカ様、我々も賛同しませんか?」

「俺もヨーデルに賛同します」

ヨーデルとニルバーナは互いに頷き、戸惑うアエリカの左右の肩に手を置いた。


「あなた達……。わかりました。我々ボヤタニア国も参加させて頂きます」

ビクッと震えたアエリカだったが、2人の表情を見て覚悟を決めた。


「「ありがとう!」」

鷹虎兄弟は、再び深く頭を下げた。




【魔人の国・ヤーニガルの森付近】


ジャンヌ達は、ラーバスを出発して3日が過ぎ、現在は目的地であるヤーニガル村の手前にあるヤーニガルの森の手前にいた。


ヤーニガルの森は、別名【猛毒の森】や【死の森】と言われているほど、恐れられている。


ヤーニガルの森は、高低差がなく林の様だが、湿気が高く蒸し暑く、日の光が森の中を照らすが、この森の特有の湿気によって、日の光が紫色に変色して、快晴でも森の中は薄暗かった。



「やっと、ここまで辿り着いたわね」

「はい、思っていたよりも距離がありました」

「そうね。でも、この森を超えた場所に大成君がいるのよね」

ジャンヌ、ウルミラ、イシリアは、ここまで殆ど休まず進んできたので疲労がたまっていた。


それでも、ジャンヌ達は先に進もうとする。


「ジャンヌ様、お待ち下さい」

「何?」

ローケンスは、森に入ろうとしたジャンヌ達を止めて、肩に掛けていたリュックを降ろし、あるものを探す。


「ねぇ、ローケンス。ヤーニガルの森って、これから入るこの森で間違っていないわよね?」

森を見たジャンヌはローケンスに尋ね、ジャンヌとウルミラは訝しげな表情になる。


「はい、この森です。ヤーニガルの森は、別名【猛毒の森】また【死の森】と言われています。まずは、これを飲んで下さい」

肯定したローケンスは、ジャンヌ達にリュックから取り出した栄養ドリンクを渡した。


「ありがとう」

「「ありがとうございます」」

ジャンヌ達は、渡された栄養ドリンクを飲んだ。


ジャンヌとウルミラが森を見た時、一瞬だったが2人の表情の変化に気付いたイシリアは、目に魔力を集中し視力を高めて、森を注意深く観察して気付いた。


「あの、お父様。遠くから見てわかったのですが、確かに毒植物は多いです。しかし、何処にでもある微弱な毒植物はあるもの、猛毒な植物は見受けられないのですが」

イシリアは、ジャンヌとウルミラが気になっことを尋ねた。


「そうだな、まず説明しよう。なぜ、この森は【猛毒の森】や【死の森】と言われているのかを。この森は、あらゆる物が毒を持っていると思った方が良い。例えば…」

大剣を握ったローケンスは歩きながら、木の影の前に立ち止まった。


その直後、木の根の近くにあったバスケットボールぐらいの大きさの石が、突如ローケンスに向かって飛び跳ねる。


ジャンヌ達は驚いていたが、ローケンスは平然としており、大剣を振り下ろして飛んできた石みたいなものを真っ二つに切断する。

「ハッ!」


両断された石みたいなものは地面に落下して、もがいて次第に動かなくなり、一瞬で表面が腐食して橙色の体液が流れた。

その体液が触れた木の根や植物は溶け気体が発生したが、紫色の湿気と混じり気体は茶色に変化する。


「一体、何だったの!?」

「姫様、よく見ましたら、これは石ではなく昆虫みたいです」

「見たこともない昆虫ね…」

ジャンヌ達は、ゆっくりと両断された謎の生物に近づこうとする。


「近寄らないで下さい、危険です。その気体は、神経麻痺や幻覚作用がありますので気を付けて下さい。他にも木の葉っぱに似た昆虫や木の根に変化している猛毒を持った昆虫などもいますので、警戒しながら魔力感知を怠らないようにして下さい。ラーバスにある同じ毒植物でも、ここの毒は猛毒です。下手すると死に至ります。それは、どうしてなのかは未だに解明されていません。ですから、修羅様に会いたい気持ちはわかりますが、今はその気持ちを抑えて、今日は森に入らず、休息をとって消耗した体力の回復に務めることにましょう。そして、明日の朝から森に入ることにしませんか?」


「「……。」」

「わかったわ」

「「わかりました」」

暫く考えたジャンヌ達だったが、ローケンスの提案を呑んだ。


「フッ、では、まだ早いですが、野宿の準備しましょうか」

「ええ!」

「「はい!」」

ローケンスを先頭にジャンヌ達は、野宿の準備を始める。



そして、朝になりジャンヌ達は、解毒剤の確認して準備を終えた。


(もうすぐよ、大成)

(無事でいて下さい、大成さん)

(待っていてね、大成君)

ジャンヌ達は、焦った様子は見受けられず、その瞳には力強い意志が宿っていた。


「ローケンス、どうしたの?行くわよ」

幼い頃のジャンヌ達を知っているローケンスは、成長したなと父親気分に浸っていた。


「はい」

ローケンスは、駆け足でジャンヌ達の傍まで歩み寄る。




【魔人の国・ヤーニガルの森】


ヤーニガルの森は、他の森と比べ地盤の高低差はなく、林みたいに平地の場所が多く、木々の本数も少ないが、この森の特有の湿気により日が当たても霧のように紫色に染まっており、不気味で見渡しの悪い森だった。


ジャンヌ達が通っている道は、馬車が通れるように幅広く切り開かれていたが、あまり使われおらず、草が生えて馬車の車輪の跡の部分だけが枯れていた。



「ジャンヌ様!イシリア!ウルミラ!」

慌てた声を出すローケンス。


「ええ、わかっているわ。ローケンス。ハッ!」

ジャンヌは右上を振り向きながら、右の剣で襲いかかってきた葉っぱに似た昆虫の胴体を真っ二つにし、更に流れるような動作で左の剣で昆虫の顔を真っ二つに切断した。



「ヤァッ!」

ジャンヌの隣にいるウルミラの足元の地面から、突如、昆虫が飛び出したが、ウルミラは冷静に矛を逆手に持ち変え、突き立て昆虫を串刺しにした。



ジャンヌ達が通りすぎた木の根に寄生虫が身を潜めていた。

寄生虫はタイミングを見計らい、複数の木の根を操り、それぞれの先端を槍の如く尖らせ、鞭のようにしならせながらウルミラの後ろにいたイシリアに狙いを定めて、イシリアの背後から襲いかかる。



「シックス・スピア」

イシリアは、軽やかに後ろに振り返りながら、超高速6段突きを放ち、複数の木の根を撃ち抜いて消滅させた。


「ハァァ!」

ローケンスは大剣を抜き、高くジャンプして木の根に接近し、着地と同時に木の根に寄生している寄生虫を叩き斬った。


ローケンスが寄生虫を倒したことで、木は元通りになり動きを止めた。


その後も、ジャンヌ達は何度か奇襲を受けたが無事に乗り越えていき、ヤーニガルの森を通り抜けることができた。




【魔人の国・ヤーニガル村】


ヤーニガル村に辿り着いたジャンヌ達。

ジャンヌ、ウルミラ、イシリアの3人は、駆け足で近くで畑仕事をしていた夫婦に駆け寄った。


「あの、すみません。この村に大成…。いえ、魔王修羅様が滞在しているとの情報がありましたので…」

不安と期待の混じり合った表情をしたジャンヌは、夫婦に尋ねた。


「これは、珍しい。この村を訪れる人が居るなんてな」

「そうね」

夫婦は、珍しい表情でジャンヌ達を見て会話をする。


「あの…」

「ごめんなさいね。本当に珍しかったから」

「いえ、それより…」

「ええ、いるわよ。あそこに赤い屋根の家が見えるでしょう?そこに魔王修羅様と部下の人達が入院しているわ」

奥さんは、一軒の家を指をさした。


「「ありがとうございます」」

「感謝する」

お辞儀をしたジャンヌ達は、歩いて向かっていた足が徐々に速くなっていき、いつの間にか駆け足になっていた。


後ろにいたローケンスは、そんなジャンヌ達の姿を見て、小さく微笑みながら自身も駆け足で後を追うのであった。




【魔人の国・ヤーニガル村・診療所】


教えて貰った赤い屋根の診療所に辿り着いたジャンヌ達は、扉を開いて中に入る。


診療所は、建物自体が小さく、薬品の臭いが充満しており、多くの患者が順番待ちをしていた。


「おお!!これはローケンス様。お久しぶりです」

受付にいた白衣を纏った男性から、突然に声を掛けられた。


「ん?ああ、トニーか?」

「はい!お久しぶりです。あの時、毒に侵された俺を助けて頂き感謝しています。お陰様で、今はこうして目指していた医師になることができました」


「それは、良かった。ところで、ここに魔王修羅様が入院していると聞いたのだが」

「はい。居ますよ。部屋まで案内を致しますので、ついてきて下さい」

ジャンヌ達はトニーについて行き、黒文字でA-9と書かれたプレートが取り付けられている青い扉の前で止まった。


「この部屋に、魔王修羅様一行がいます」

「先ほどから気になったが、その一行とは?」

「ええ、魔王修羅様と一緒に倒れていた方々です」

「そうなのか…」

(修羅様を助けてくれた恩人か?)

気になったローケンスは首を傾げた。


ジャンヌは、扉にノックした。

「開けるわよ」

「はい、どうぞ」

「大成!」

「大成さん!」

「大成君!」

知らない男性の声が返ってきたが、大成を助けてくれた恩人と思い、ジャンヌ達は気にせずに、大成の名前を呼びながら扉を開けるのであった。




【人間の国・バルビスタ国付近】


バルビスタ国は、人の出入りが多く、門の前には入国審査の順番を待つ人達で混みあっていた。


しかし、その人混みは商人や旅人、冒険者だけでなく、手枷をしたままの多くの囚人達も並んでいた。


そんな中、マキネは離れおり、ウルシア、マリーナの2人は、気配を消してバルビスタ国の門の近くの茂みに隠れていた。


3人は、半日でバルビスタ国に辿り着いていたが、マキネが数日の間、ここで待機することを提案したのでウルシアとマリーナは何も言わず承諾していた。



今日で、3日目の朝を迎えていた。

「あらあら、今日も朝から賑やかね」

他人事の様にマリーナは、口元に手を当て笑顔を浮かべていた。


「お待たせしました」

マキネが戻ってきた。


「これから、どうするの?マキネ」

ウルシアは真剣な表情でマキネに尋ねる。


「こっちへ来て下さい」

マキネは茂みの奥へと向かったので、ウルシアとマリーナはマキネの後を追った。



茂みを抜けたマキネ達。

目の前には湖があり、その表面はうっすらと凍っていた。

「なるほどね。マキネちゃんは、これを待っていたのね」

「納得だわ」

光景を見たマリーナとウルシアは、マキネが湖が凍るのを待っていたことに気付き、これからの作戦も検討がついた。


「夜になれば完全に凍るので、凍っている湖を渡り、左に行ったあの辺りの場所に地下の隠し通路がありますので、そこを通ってバルビスタ国に侵入できます」

マキネは、右手の人差し指で場所を示し、提案した。


「「わかったわ」」

ウルシアとマリーナは、マキネの作戦に同意した。


その後、夜になるまでウルシアとマリーナは、マキネに自分達の娘のウルミラとイシリアのことや娘達が思いを寄せる大成のことを尋ねて話が盛り上がった。


そして、マキネ達は闇に乗じて行動し、無事に湖を渡ることに成功し身を隠した。


「上手くいったわね」

「そうね。ウルちゃん」

「あとは、地下通路に向かいます」

「「わかったわ」」

マキネの指示にウルシアとマリーナは頷いた。


「あの、すみません」

マキネ達は身を隠したまま地下通路を目指そうとした時、突如、背後から声を掛けられた。


「「なっ!?」」

警戒を怠っていなかったマキネ達は驚愕したが、すぐに武器に手を掛けながら振り返る。


しかし、ウルシアとマリーナは腰に掛けてある剣を抜こうとしたが、相手に間近まで接近され、手を押さえられて武器を抜くことができなかった。


マキネは、振り返り様に手裏剣3枚を投擲したが、相手は頭を左右に傾けて避けた。


避けられた手裏剣2本は、後ろの木の幹に刺さり、最後の一本は木の葉を貫通して何処かに飛んでいった。



月明かりが相手を照らし、マキネ達は目を大きく開いて、更に警戒を強める。

目の前にいたのは、最も警戒していたウサギの仮面をかぶっているラプラスだった。


「あの、こちらに争う気はないのですが」

ラプラスは、小さな声で話す。


「そこに誰かいるのか!?」

警備をしていた警備員5人は、外れた手裏剣の音に気付いて、マキネ達の居場所に近づいてくる。


「「くっ」」

マキネ達は任務失敗したと悟り、心の中で舌打ちをした。



「あ、僕です。驚かせてすみません。散歩のついでに見回りをしていました」

ラプラスは、ウルシアとマリーナの手を離し、頭を掻きながら茂みから出て警備員に謝罪をした。


「ふぅ~、ラプラス様でしたか。驚かせないで下さい。あと、散歩は敷地内でお願いします。見張りは我々にお任せて下さい」

ホッとした表情になる警備員。


「わかりました。おや?茂みに、お気に入りのステッキを落としたみたいです。茂みの中を探さないと…」

「でしたら、我々も手伝いましょうか?」

「いえ、お気持ちだけで嬉しいです。警備の方が大事ですので、僕のことは気にしないで下さい」

「わかりました」

警備員達は、持ち場に戻って行った。



茂みからマキネ達が姿を現した。


「どういうつもりなの?」

警戒したままのウルシアは尋ねた。

ウルシアの両サイドには、マキネとマリーナが武器を持ち構えている。


ラプラスは目の前にいるのだが、魔力どころか気配が全くなく、まるで、そこに存在していない幽霊のようだった。


「まず、落ち着いて警戒を解いて頂けませんか?…そう言っても無理ですよね…」

「当たり前でしょう。あなた、何を企んでいるの?」

ウルシアは、剣先をラプラスに向けて睨み付ける。


「ハハハ…。単刀直入に用件を言いますと、僕と取引をしませんか?」

左手で頭を掻きながらラプラスは、右手の人差し指を顔の近くで立てて提案した。


「取引?」

マキネは、首を傾げながら尋ねる。


「そうです。その前に、ついてきて下さい」

ラプラスは、警戒しているマキネ達の真横を気にせずに素通りして案内する。


マキネ達はどうするか悩んだが、ラプラスが先ほど自分達を庇ってくれたので、信用することにした。

そして、マキネ達はラプラスについて行く。


「もう、知っていると思いますが、こちらです」

ラプラスは、マキネ達が通る予定だった隠されている地下通路の扉を開いた。


そのまま、気にせずに地下通路に入るラプラスとマキネ達。

地下通路の中は、ヒンヤリしており、壁に松明が一定間隔で置かれているが薄暗かった。


ラプラス達は、数分間歩いて地下通路を通り抜けた。

そして、目の前には住宅地が広がっていた。

すぐ手前にあるボロ小屋に、ラプラス達は向かった。




【人間の国・バルビスタ国・ボロ小屋】


ボロ小屋に辿り着いたラプラス達。


ボロ小屋は平屋で、壁にイタズラ書きされたり、劣化して所々壁が剥がれて中の鉄筋が剥き出しになっていた。


「こちらです」

ラプラスは、ボロ小屋の扉を開いて中に入った。


マキネ達は、警戒しながら武器を構えて家の中に入る。


家の中の奥には、ラーバスの偵察部隊全員が拘束されていた。


「ムグムグ…」

偵察部隊は、必死に何かマキネ達に伝えようとしているが、口を塞がれており何を言っているのかわからなかった。


「なるほどね。大体のことはわかったわ。で、あなたの用件は何?」

ウルシアは溜め息をしながら、ラプラスを睨み付ける。


「簡単な取引です。いえ、取引というより、あなた方に利益しかないと思います」

「それは、どういうことかしら?」

普段、笑顔を浮かべて淑やかなマリーナだったが、この時はラプラスの瞳を見つめて考えを読みとろうとした。


「そんなに警戒しないで下さい。こちらが提供する条件は、2つあります。まず1つは、ここにいるお仲間の解放。2つ目は、あなた方がここにいる間の身の安全の保証。この2つの条件を出しますので、あなた方に依頼したいことは1つあります。近日中に、愚かな聖剣達が無断でラーバス国に奇襲する予定みたいなので、あなた方には、この人達を連れてすぐに帰還して貰い、その愚かな聖剣達を迎撃をして始末して貰いたいのです。どうでしょう?」


「君は、聖剣になりたいの?」

疑問に思ったマキネは尋ねた。


「いえ、僕は聖剣には興味はありませんし、そもそも偉大な聖剣になれる器ではありません。今回、あなた方に依頼した理由は、尊敬している流星さんの指示を聞かずに自分勝手に行動しようとしていることに、僕は憤りを感じているのです。本来ならば、この自らの手で始末してやりたいのは山々なのですが、流星さんや他の大切な人達に手を出すなと予め言われているので、残念ながら手出しができません。そこで。その役をあなた方にお願いしているのです」

溜め息を吐きながら、ラプラスは極端に肩を落とす。


「あなたの言いたいことはわかったわ。でも、その情報が虚偽の可能性もあるわ」

マリーナは、ラプラスの瞳を見ながら話す。


「確かに、今の話は残念ながら確証もないです」

非を認めるラプラス。


「もし、私達が断ったら、君はどうするの?」

気になったマキネは、武器を構えたまま尋ねた。


「その時は、あなた方をここで、取り押さえるしかないですね」

魔力や威圧感、殺気も全く出さずに話すラプラス。


「「……。」」

今まで、数多くの敵と戦ったことのあるマキネ達だったが、ここまで幽霊のように何も感じない相手と合間見れたことがなく、ラプラスの存在が不気味に感じていた。


「どうしますか?大変、申し訳ないのですが、僕も忙しい身なので、あまり時間がありません」


マキネ達は、無言でお互いの目を見て頷いた。

「わかったわ。あなたと取引をしましょう」

ウルシアは承諾した。


「取引に応じてくれて、ありがとうございます」

胸元にシルクハットを当て、空いたもう片方の手を後ろに回して頭を下げるラプラス。


こうして、偵察部隊全員は解放され、マキネ達は急いでラーバス国に戻るのであった。




【人間の国・バルビスタ国の外・隠し地下通路の前】


「これで、愚かな聖剣の始末はできそうだな。何だか、今宵は良い夢が見られそうだ」

夜空に浮かぶ月と、その月を映し出している凍った湖を見て呟くラプラス。


ラプラスは、ステッキをクルクルと回しながら自分の部屋に戻ろうとした時、声を掛けられた。

「おい!ラプラス」

「何でしょう?流星さん」

背後から声を掛けられたので、ラプラスは後ろに振り返った。


「あれ?」

ラプラスは、流星を見てたじろいだ。


なぜなら、流星は表情には出していなかったが、その纏う威圧感が一目で激怒していると伝わるほどだった。

「確かに、馬鹿な聖剣(やつら)だが、そんな奴らでも貴重な戦力だ。奴らが倒されたら、俺が面倒になる。勿論、そのことをわかっていて、お前は行動したんだよな?もし、俺が行った時に奴らが全滅していたら、どうなるかわかっているよな?ラプラス」

流星は笑顔だったが、目だけが笑っていなかった。


「た、直ちに止めてきます!」

ラプラスは、左手でシルクハットを押さながら、その場から逃げるように走り去った。


この時、既に聖剣達は騎士団を連れてラーバスに向かっていたので、慌てて追いかけることなったラプラス。





【別話・過去・ラーバス代表決定戦】


大成はマキネと戦い、前にいた世界の特集部隊の体術を使うマキネをスパイと思い、ジャンヌ達に話した。


その後、ベッタリとマキネが迫るので、大成は盗聴の術式を刻んだ武器と練習メニューの本を渡した。


ジャンヌ達は、マキネを泳がせることにしたのだ。




【過去・魔人の国・ラーバス国・屋敷・大広間】


「では、早速、媒体の水晶玉持ってきます」

「私は、こういうのが好きではないので、遠慮させて貰います」

「わかりました」

大成は自分の部屋から水晶玉を取りに向かおうとした時、ニールはマキネの監視を断った。



その後、大成は水晶玉を持ってきて、その水晶玉を中心に囲うように集まった。


水晶玉は映像は映し出していないが、マキネに渡した武器と本を通して、マキネの声やその周りの音が聞こえていた。


「マキネの背後に、誰がいるんだろう?」

大成は、特殊部隊の顔を思い出しながら尋ねた。


「大成と同じ召喚された異世界の人間なら、おそらく【時の勇者】の可能性が高いわね」

真剣な面持ちで答えるジャンヌ。


「どんな人?」

「大成、あなたと同じく、理不尽に強い男の人だったわ。年齢は30歳ぐらいだと思う」

「そうなんだ…」

ジャンヌから聞いた特徴だけでは、大成は絞り込めなかった。


マキネは浸すら練習に没頭していた。


そして、休憩していると思われる時、マキネは何度も「ダーリン」と呟きながら、妄想に更けるほど大成にベタ惚れだった。


「ねぇ?修羅様。マキネちゃんは、本当に修羅様にベタ惚れみたいなのだけれど。修羅様はマキネちゃんとくっつくのかしら?」

シリーダは、口元に手を当てニヤついていた。


シリーダの言葉で、ジャンヌとウルミラから、冷たい視線で睨まれる大成。


「アハハ…」

(シリーダさん、あなた絶対に楽しんでいますよね?)

大成は、苦笑いを浮かべるしかできなかった。



そして、休憩が終わり、また暫くは練習に没頭するマキネ。

そして、日が沈み夕方になった。


「修羅様、この水晶玉は1つしかないのでしょうか?もし、あれば貸して頂けませんか?家に帰宅しても監視がしたいのですが」

「コレしかありませんので、コレを持ち帰って下さい」

これ以上この件に関わったら、シリーダから玩具(おもちゃ)にされると思った大成は、この気に水晶玉をローケンスに渡すことにした。


「ありがとうございます」

ローケンスは、水晶玉を持ち帰ることにした。




【過去・魔人の国・ローケンス家・1階リビング】


「ごちそうさま。今日も美味しかったぞ、マリーナよ」

「それは良かったわ、あなた。それと、お風呂はどうされます?」

「そうだな。入れるようになったら、教えてくれ」

「フフフ、わかったわ」

ローケンスは夕食が終わり、2階の寝室でマキネの監視を始めることにした。



そして、数分が経ち、お風呂に湯が入った。

「あなた、お風呂に入れますよ」

一階の階段からマリーナは、声を掛けただが夫のローケンスから返事がなかった。


「もう、仕方ないわね」

溜め息を吐いたマリーナは階段を登り、寝室に向かった。




【過去・魔人の国・ローケンス家・2階の寝室】


日課の食後のストレッチが終わったローケンスは、水晶玉に魔力を込めて監視を始めることにした。


「フフン、フン、フフフン」

水晶玉からマキネの鼻歌と衣服を脱ぐ時に発生する擦れる音が聞こえた同時に寝室の扉が開いた。


「あなたお風呂できたわよ」

扉を開けたのはマリーナだった。


マリーナを見たローケンスは、時が止まった様に固まる。


そして、水晶玉からチャプンというマキネが入浴している音が部屋に響いた。

「良いお湯だな~。ダーリンは、今どうしているかな?」

マキネの声が、続けて水晶玉から聞こえる。


「あなた、これはどういうことからしら?この声からすると、まだ幼い女の子ですよね?まさかと思いたいのだけど覗き、いえ盗聴していたのですか?」

マリーナは笑顔だったが目は笑っておらず、その背後には般若が見えるほど激怒していることをローケンスは感じた。

それと同時に、ローケンスの本能は危険だと最大限に警告を鳴らしていた。


ゆっくりと歩み寄る妻・マリーナ。

「ち、違うのだ。マリーナよ。ご、ご誤解なのだ。こ、これは監視だ。それにだ。この少女は、そんなに幼くない、イシリアと同い年ぐらいだ」

予想だにできなかった事態に遭遇したローケンスは、言わなくても良いことまで口を滑らして言葉にしてしまった。


「へぇ~、その子はイシリアと同い年なのね」

マリーナは冷たい瞳で、右手でローケンスの顔を鷲掴みし、アイアン・クローして片手で持ち上げる。


「ま、待てマリーナ。早まるな、れ、冷静になれ」

両足が宙に浮かんだローケンスは、顔を鷲掴みしているマリーナの手を両手で引き剥がそうと必死になるがビクともしない。


「あら、私は冷静ですよ。ただ、私は夫のロリコン体質を治そうとしているだけです」

マリーナは、笑顔を浮かべながら自分の左頬に左手を当て、頭を傾げた。


「ぐぉぉ、や、やめろマリーナ。ほ、本当に死ぬ。お、俺が悪かった」

必死に抵抗しているローケンスだが、どんどん締め付けられていき、堪えれなくなったので謝ってしまった。


「やはり、あなた。監視ではなく盗聴していたのね。あら、いやだわ。私、どうしましょう?愛している夫の頭をトマトの様に握り潰してしましそうだわ」

「なっ、ぐわわわ…やめろ~」

ローケンスは、マリーナの指の隙間から天使の様にマリーナが笑顔を浮かべている表情を最後に見て気絶したのだった。

話が思ったよりも全然進みませんでした。

大変、申し訳ありません。


次回は、話が盛り上がる予定です。

ジャンヌ達と大成の行方と、ヘルレウスと聖剣が遭遇し、更にそこにラプラスが登場します。


次回も、もし宜しければ、ご覧下さい。

失礼します。

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