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少年ラプラスと統一

大成が居なくなり、絶望に落ちていたジャンヌ達だったが、ジャンヌの母・ミリーナ、ウルミラな母・ウルシアによって、新たな一歩を踏み出す。

銀河の夜の事件(シルバー・スカイ)当日、人間の国の各大国は以前からバルビスタ国に送り込んでいた偵察部隊から驚きの報告が入る。


内容の中には魔人の国の征服失敗などがあり、その中でも衝撃が走ったのはその戦で聖剣【炎のバーサーカー】のカナリーダと同じく聖剣【鉄壁】のサリーダが一対一の戦いに敗れて戦死したことだった。


その情報が入った時は、誰もが信じられず言葉を失うほど驚愕が走った。


直ちに各大国の国王達は、その日、バルビスタ国を含めた四大国会談要請を申請した。




【バルビスタ国・バルビスタ城内・王座の間】


事件(シルバー・スカイ)から一日が経ち、各国の使者達が書状を持って来た。


国王は椅子に腰かけて、静かにそれぞの書状に目を通す。

国王の目の前には、3人の使者達が頭を下げ床に片膝を付けて敬礼したまま静かに返事を待っていた。


書状の内容は、どれも同じだった。


1)今回の事件(シルバー・スカイ)についての詳細。

2)空席になった聖剣について。

3)会談は3日以内。

4)会談場所はダーニスの草原。



「うむ、なるほどな。わかった、会談には応じよう。だが、空席になった聖剣のことは良いが、今回の事件(シルバー・スカイ)については次の機会にして貰おうか」

書状に目を通したバルビスタ国王は一度頷き、4つの内容のうち1つは断った。


「おそれながら、その訳をお聞きしても宜しいでしょうか?」

ボヤタニア国の使者が代表で質問する。


「それはな、事件に関わった勇者や鷹虎兄弟は未だに目を覚ましておらぬ。だから、こちらとしても、まだ詳細は把握出来ていないのだ。事件については、把握でき次第こちらから報告しよう」

国王は、最後に鋭い眼光で使者達を睨み付けた。


「「~っ!!」」

国王の鋭い眼光は、これ以上は応じないという無言の圧力があり、使者達は息を呑む。


「まぁ、()い。それで、会談の日時についてだが、2日後の正午と伝えよ」

国王は髭を触りながら答え、使者達はそれぞれの自国に帰還した。



事件(シルバー・スカイ)の日、流星の膨大な魔力が漆黒の夜空を銀色に染めるほど大規模に広がったのでバルビスタ国王は勝利を確信していた。


だが、先に帰還した鷹虎兄弟達から失敗したとの報告を聞き、信じられず一時の間、その場で呆然と立ち尽くすのだった。


そして、数時間が経ち、朝日が昇ろうとしていた時、最後まで戦場にいた流星、メルサ、ツカサの3人と重症を負っている少年が帰還した。


国王は、何があったのかを詳しく聞きたかったが、帰還した流星は激しく魔力を消費して魔力欠乏症に陥って衰弱していた。


メルサは衰弱している流星の肩を担いで医療室に運び、ツカサは重症を負っている少年を担いで奈々子がいる部屋に運んだ。


その日は、国王は詳しく聞くことはしなかった。


次の日、ツカサに尋ねてみたが大成の戦いに見とれていたため、(ツカサは体を動かして「こう、エイッ、ヤッとバタバタと倒していって凄かったよ」っと一生懸命に伝えようとしてくれているのは伝わるが表現が独特だった)全体の戦況を見ておらず参考にならなかった。


仕方なく、未だにベッドで眠り続けている流星を心配そうな表情で寝ずに看病をしているメルサにも尋ねてみたが、「今、それどころじゃないわ!」と今まで見たことがないほど機嫌が悪く、一蹴されて聞くことができず国王の心が深く傷ついたのだった。



他国の国王達は、使者が帰還してバルビスタ国王の返答を聞いた。

他国の国王達は、事件の日、偵察部隊から流星達に気づかれてしまったとの報告を受けていたので、今回はバルビスタ国王の言い分を素直に受け止めて聖剣の話題だけにすることにした。




【人間の国・ダーニスの草原・会談】


2日が経ち、約束の会談の日が訪れた。


ダーニスの草原は人間の国の中央にあり、魔物がいないので稀に開催される会談の場として使用されている。


現在、ダーニスの草原に人間の国の四大王国であるバルビスタ国、ボヤタニア国、カルジア国、ザダルカ国の各国王達が続々と騎士団を連れて現れた。


草原の中央付近には直径8mの巨大な切り株があり、その切り株をテーブルにし太く盛り上がった根を椅子の代わりにして、それぞれの国王達は席についた。


その国王達のすぐ後ろには腕の立つ護衛役2名と聖剣候補が立ち、そのテーブルから離れた場所には周りを囲むように各国の騎士団が陣を取って見守っている。


「はぁ、今回も派手にやったみたいだな。バルビスタ国の王よ」

頭を抱えながら、溜め息を吐くカルジア国王の一声で会談が始まる。


「ククク…。しかし、聞いた話だが、魔王は人間の子供だったというではないか。その魔王を討伐するのに代償が聖剣2人を失うとは、これは傑作だ」

ザダルカ国王は、口元に手を当てクスクスと笑った。


「ワハハハ…確かに…。それとだ、バルビスタ国王よ。あまり調子に乗って身勝手に動き回れると、こちらとしても困る。もし、これからも身勝手に動くならば…」

ボヤタニア国王は盛大に笑い、その後すぐに一転して、鋭い眼光でバルビスタ国王を睨み付ける。


「動くならば、何だ?」

バルビスタ国王も鋭い眼光でボヤタニア国王を睨み返し、バルビスタ国王の後ろに控えているマールイ、ケルンもボヤタニア国王を睨み付けた。



「「……。」」

ボヤタニア国王の護衛として後ろに控えている聖剣のアエリカと同じく聖剣のヨーデル、聖剣候補として控えている細身の青年の3人は威圧感を醸し出して険しい表情で今にも武器に手をかけようとしており、場の雰囲気が一触即発の状態になった。



場の空気が張り詰め、バルビスタ国王の後ろに控えていた奈々子とツカサは緊張した面持ちで息を呑み込む。


そんな中、ボヤタニア国王は右手を軽く挙げて後ろに控えているアエリカ達を静止させた。


「いや、すまぬ。忘れてくれ」

聖剣3人を保有しているボヤタニア国王は表情には出していないが、今回の銀河の(シルバー・スカイ)事件で改めて流星の異常な強さを再確認した。



隣の席にいたカルジア国王とザダルカ国王は無言で成り行きを見守っていた。


カルジア国王は安堵の溜め息を吐き、一方、ザダルカ国王は争いが勃発すると思い、楽しそうにニヤついていたのでバルビスタ国王は険しい表情で一瞥した。


ザダルカ国王は視線を逸らし、誰もがバルビスタ国王と顔を合わせることができず沈黙が場を支配し静寂に包まれた。



気まずくなった雰囲気の中、カルジア国王は話題を切り出す。

「ゴホン、今回の会談は書状で知らせた通りに戦死したバルビスタ国の聖剣【炎のバーサーカー】のカナリーダと同じく聖剣【鉄壁】のサリーダが戦死し、空席になった件についてだ。それと、バルビスタ国の王には申し訳ないが、勇者や鷹虎兄弟が目を覚ました時には事件のことを詳しく説明して貰うこととしよう」


「わかった」

バルビスタ国王は頷いた。


「そうだな…。本当は事件(シルバー・スカイ)のことも詳しく聞きたかったが、当事者の鷹虎兄弟や【時の勇者】が居らぬから仕方あるまい。それより、バルビスタ国王よ。大事なことだから先に言わせて貰うぞ。聖剣の空席のことだが、空席になった聖剣の一席には、我々三大国はそなたの所の奈々子を推薦する」

ボヤタニア国王は、溜め息を混じりに事件のことを諦め、最後に聖剣候補に奈々子を推薦した。


「えっ!?わ、私ですか!?」

突然のことだったが、バルビスタ国王は少しも動揺しなかった。


しかし、指名された奈々子は大きく目を見開き驚愕した。


「ああ、そなただ」

ボヤタニア国王は力強く頷き、カルジア国王、ザダルカ国王も笑みを浮かべながら無言で頷いて賛同する。


「うむ。感謝する」

「あ、ありがとうございます」

バルビスタ国王は軽く会釈し、奈々子は深くお辞儀をした。


「おめでとう!奈々子ちゃん」

「ありがとう!ツカサちゃん」

奈々子とツカサは、お互いの両手を握り合い喜んでいたが、周囲の反応はそれぞれだった。


各国王の背後にいる護衛役や聖剣候補達は目を瞑り納得していたが、バルビスタ国を含めた各国の騎士団は驚愕した表情のまま固まっていた。


それほど、他国の者を推薦すること自体が極めて異例で珍しかったからであった。

なぜなら、自国の者を聖剣にして自国の評価を上げるのが極自然なのだ。

しかも、推薦は1ヵ国だけではなく、前代未聞の3ヵ国も同意の上であったのが拍車をかけた。


しかし、これはある意味必然でもあった。

それは、上位の回復魔法が使えるようになった奈々子はメルサの提案で他国を訪れ、多くの人々を無償で治療を施していた。


その時に、奈々子の治療を受けた者、その光景を間近で見た誰もが奈々子の力量に驚愕した。


そして、奈々子はいつの間にか【慈愛の女神】と言われる様になり、その話が各国王達の耳に入り、各国王達は奈々子に好条件を提示して勧誘するほどだった。

しかし、奈々子はどんな破格な好条件でも全て断った。


今では予約の依頼が多く、数ヶ月待ちになっている状況になっている。


提案したメルサの思惑は、他国に恩を売りつけることが目的で、その目論見通りに事が運び、実際に入荷する品々が安く仕入れるようになっていた。



「では、問題は最後の空席を誰にするかだな」

バルビスタ国王は、各王国に尋ねた。


「ああ、そうだな。やはり、決め方は恒例通りに各国の候補を紹介して決めようではないか。まず、私から紹介させて貰う。私の国の候補は、こちらのゴンザレスだ。前に出てアピールしなさいゴンザレス」

「ウッス」

カルジア国王は決め方を提案し、ゴンザレスは一度お辞儀をして前に出る。


「紹介しよう。ゴンザレスは、身体強化だけであのオーガを素手で倒すほどの豪腕の持ち主だ」

カルジア国王は、今までの活躍を他の国王達に説明する。


「フンヌヌ…」

背が低く岩男のゴンザレスは、身体強化せずに持ち前の怪力で鉄でできた槍3本を重ねて両手で持って力ずくで0の字に曲げた。


「フフフ…。まだ、驚くのは早い。相手の頭を握り潰せるほどの握力もある」

「フン」

ゴンザレスは足元にある地面に埋もれているボーリングのボールぐらいの大きさの石を右手一本で掴み上げて引っこ抜き、各国王達に見せつけるように握り潰し粉々にした。

それと同時に、カルジア国王は自信に満ちた表情になる。



「なるほど。確かに、なかなかの逸材だ。だが、俺の国のアーインの方がもっと凄いぞ。前に出てアピールしろアーイン」

「はい」

ザダルカ国王は、アーインを呼んで紹介する。


長身で大男のアーインはスタスタと歩き、近くにある岩に近づいた。


「ウォォ!!オラッ!」

アーインは、背中に掛けている大剣をゆくっくり取り出して雄叫びをあげながら大剣で岩に連撃する。

岩は、あっという間に削れていき粉砕する。


「見たか!この剛剣。相手が攻撃を防ごうとしても武器や防具ごと粉砕する絶対的な強さ。かの魔人の国・ヘルレウス【剣王】ローケンスに匹敵すると思わないか?」

腕を組み、フンっと鼻を鳴らして勝ち誇るザダルカ国王。


「なるほど、強者だな。だが、冷静になって考えてみろ。どう考えても脳筋で力だけの奴が誉れ高き聖剣になれるはずがなかろう。そう思わないか?イカルダ」

笑みを浮かべるボヤタニア国王は、斜め後ろに控えている細身のイカルダに顔だけ向けた。


「そうですね。あんな脳まで筋肉の馬鹿共は、聖剣に相応しくないです。いえ、そもそも聖剣になれるはずがありません。なぜなら、この私が居ますから」

イカルダは、笑みを浮かべて答えた。



「「何だと!」」

「おっ?理解できたのか?これは失礼した。お前達は、頭の中まで筋肉でできているから、まさか言葉が通じるとは思わなかった。大変、申し訳ない」

嘲笑う表情で挑発するイカルダ。


「おい!モヤシの分際で、言ってくれるじゃないか!」

「殺す!」

顔を真っ赤になるほど激怒したゴンザレスとアーインの2人はイカルダに襲いかかった。


「遅い!」

イカルダは素早い動きで、2人の攻撃を掻い潜り翻弄する。


「「ちょこまかと!」」

激怒して叫ぶゴンザレスとアーインは攻撃の手を緩めないが、見ていた誰もが決して2人の攻撃がイカルダに当たらないと思うほどの実力の差があった。


そして、攻撃している2人に隙ができたので、イカルダは水面蹴りをして2人を転倒させた。



「フッ、これで決まりだな」

イカルダに決まったと確信したボヤタニア国王は、嘲笑う様な笑みを浮かべて他国の国王達を見渡した。


「くっ、仕方ない」

「認めるしかあるまい…」

ザダルカ国王とカルジア国王は、悔しい表情で渋々認める。



「何を勝手に決めている。まだ、ワシの国の推薦が終わってないぞ。ツカサよ。お主の力を皆にしらしめよ」

「は、はいっ!」

バルビスタ国王に呼ばれて、緊張するツカサは声が裏返った。


「ツカサちゃん、いつも通りにすれば大丈夫だよ。きっと」

「う、うん。緊張するなぁ」

奈々子の声援を聞いて、ツカサは大きく深呼吸をして一歩前に出た。


「宜しくね!」

ツカサは、イカルダ、アーイン、ゴンザレスに向けてウィンクをしてユニーク・スキル、誘惑(チャーム)を発動させた。


((可愛いな))

「な、何だ?」

「うっ」

「ん?」

ツカサを可愛いと思った聖剣候補3人とツカサを見た騎士団は、ツカサにウィンクされてドキッとときめき同時に得たいの知れない違和感を感じた。


「フッ…。どう見ても、そんな小娘が強いわけがなかろう」

ツカサを見たボヤタニア国王は嘲笑い、他の国王達も馬鹿にした様な笑みを浮かべる。



ツカサは、気にせずに号令をかける。

「お座り!」

「フッ、突然、何を言い出しておるんだ。あの小娘は」

ボヤタニア国王は呆れており、他の国王達もクスクスと笑っていた。


しかし、ツカサの号令でイカルダ達だけでなく、ツカサの目の前の騎士団達も一斉にその場で犬のようにお座りをする。


「「なっ!?」」

その光景に誰もが驚愕した。


「ツカサ様。もっと、私共にご命令をして下さい。それが、私共にとってのご褒美なのです。あなた様のためなら、この命惜しくはありません。どうか、ご命令を」

息を荒くしながらイカルダが懇願する。

他の者達も息を荒くして、ツカサの命令を待ち望むかの様にツカサを見つめる。


「そ、そうなの?じゃ、じゃあ…3回、回ってワン!と言って欲しいな」

驚愕する各国王達をよそに、頬引きつらせながらツカサは更に命令をする。


イカルダ達は歓喜しながら一斉にその場で回り、そして…。

「「ワン!」」

その光景を見たツカサは頬を引きつかせて苦笑いし、他の者達は畏怖を感じていた。



「どうだ?各国の国王達よ。ツカサの実力は」

バルビスタ国王は、口元だけ笑みを浮かべながら各王国達を見渡す。


「糞~っ!」

ボヤタニア国王は、怒りをぶつける様に切り株の机を叩き大きな音が響く。


「……。認めよう」

「そうだな…」

他の国王達は、目を瞑ったまま頷いた。


「ツカサちゃん、おめでとう!」

「ありがとう奈々子!」

奈々子とツカサは、あまりの嬉しさにお互いの両手を握り締めてジャンプした。


この日、奈々子とツカサは聖剣になり、奈々子は【慈愛の女神】、ツカサは【誘惑の魔女】の2つの名を得た。




【人間の国・バルビスタ国・バルビスタ城・玉座の間】


四大国会談から3日後。


魔力欠乏症に陥り眠っていた流星は魔力が完全に回復して目を覚まし、鷹虎兄弟も傷が癒えたので奈々子とツカサが新しく聖剣になったことなどの報告や銀河の(シルバー・スカイ)の事件を改めて詳しく聞くために招集した。


玉座の間の奥には国王と妃は椅子に座っており、目の前には流星、マールイ、ケルン、鷹虎兄弟、奈々子、ツカサが片膝を床に付き敬礼をして、隣でメルサが銀河の(シルバー・スカイ)の事件を詳細に説明をしていた。


「……という状況でした」

説明が終わったメルサは、両手でスカートの左右の裾を軽く摘まんでお辞儀をした。


「……うむ。そうか…」

胸元で腕を組み、目を閉じてメルサの説明を聞いていた国王は小さく頷いた。


「それで、勇者よ。何か言い分はあるか?」

国王はゆっくりと目を開き、流星に鋭い眼光を向ける。


「いえ、私からは特に何もありません。メルサ姫の御報告通りです。今回のレッド・ナイツ全滅、及びワルキューレの損失、そして魔王の解放などの失態は、全て私の怠慢が原因です。大変、申し訳ありません」

流星は、顔を上げて失態を認めて深々と頭を下げて謝罪をした。


「そうだぜ!今回の敗因は、お前にある!」

「そうだ!弟の言う通りだ!それよりも、なぜ始末したはずの魔王が生きているんだ?それに、なぜ追いかけて意識が戻ってない魔王を始末しなかった?これは、敗因以上の失態だ!」

謝罪をする流星を見た鷹虎兄弟は自分達の敗因を棚に上げて、この機に事件の失態を全て流星に擦り付けようとする。


「ちょっと!あなた達!」

「メルサ!」

メルサは、怒りを含んだ声をあげたが、流星に止められた。


「でも…」

「気持ちは嬉しいが、冷静さを保て」

「…そうね。熱くなっていたわ。ごめんなさい」

落ち着きを取り戻したメルサは口を閉じた。


「先ほどのことについてだが、確かにお前達の言う通りだ。しかし、お前達は、まず俺に感謝するべきだろう?」

「どういう意味だ?」

「お前達は、今回、出陣する前に楽勝とか言いながら、戦では何の戦果を挙げれずにほぼ壊滅しただけだろ?俺が修羅を止めていなければ、ただ戦力を減らしただけで終わり、大敗いや完敗していたことを忘れるな」

「「何だと!」」

鷹虎兄弟は、殺気と威圧感を顕にして、流星を睨み付けた。


「なぁ、兄貴。この機会に、俺達兄弟と【時の勇者】と呼ばれ、ちやほやされている色ボケ野郎と、どっちらが強いかハッキリさせようぜ」

「ああ、そうだな。確かに良い機会だ」

「お前達、馬鹿だろ。今、仲間割れをしている場合じゃないだろ」

「おいおい、【時の勇者】様とあろうともお方が、俺達兄弟が怖いのか?」

挑発する鷹は嘲笑い、隣にいる虎は挑発的な笑みを浮かべた。


それと同時に、鷹虎兄弟は殺気と威圧感を発し、混ざりあった攻撃的な圧力が周りを襲う。

圧力を受けた国王、妃、メルサ、奈々子、ツカサ、護衛の騎士団は、心臓を鷲掴みされたような圧迫感がして過呼吸に陥る。


「おい。その勝負を受けてやるから殺気や威圧感を抑えろ、周りに迷惑だろ」

「ああ、良いだろ」

鷹が返事をし、兄弟の圧力が消えた。


「そうだな…良い機会だ」

流星は、顎に手を当て考え閃く。


「何だ?」

訝しげな表情する鷹。


「折角だし、ゲームをしよう。もし俺が勝った場合、お前達兄弟は、今後、俺の指示に従って貰うというのはどうだ?」

「良いだろう。その代わり、俺達兄弟が勝った場合は、逆にお前が俺達兄弟の命令に従って貰うぞ」

「ハハハ、それは良いな!あいつを部下させて、ボロ雑巾のように働かせ続けてやるぜ」

「わかった、良いだろう。で、その勝負はこの後で良いのか?」

「「今からだ!」」

呆れ果てた流星は、溜め息を吐きながら尋ねた瞬間、兄弟は口元を緩めながら同時に行動に移る。


鷹は、右手でスロー・ダガー1本を流星に向けて投擲する。

その時に自身のユニーク・スキル、アクセラレーターでダガーに加速効果を付与して加速させた。


虎は身体強化をして、流星に接近しながら右手に魔力を集中させ、ユニーク・スキル、エクスプロージョンで爆発能力を付与し振りかぶる。


未だに、床に片膝を付いて敬礼をしている流星に2人は襲いかかった。


虎は首を傾げると、鷹が投擲したダガーが間近を通り抜ける。


流星は、突如、死角からダガーが迫り、そして目の前には虎が襲いかかっている状況に追い込まれた。


「「死ねぇ~!!」」

神業とも思える絶妙な連携を見せた鷹虎兄弟は勝利を確信し、獰猛な笑みを浮かべて襲い掛かる。


しかし、成り行きを見守っていた者達は、流星の姿が一瞬ブレたかの様に見えた瞬間、投擲したはずのダガーは消え、虎の拳は流星の残像を殴り、流星の顔をすり抜けた。


「「なっ!?」」

鷹虎兄弟が驚愕したと同時に、流星は虎の背後に回っており、左手で身体強化をしていない虎の右腕の部分を掴み、右手にはいつの間にか鷹が投擲したダガーを持ち、そのダガーを虎の首元に当てていた。


「おいおい、城を壊す気か?それに、今のやり取りで俺とお前達の力の差がわかっただろ?大人しく降参しろ、お前達では俺に勝つことはできない。絶対にだ」

流星は、冷酷な目で鷹虎兄弟を睨んだ。


「く、糞っ!兄貴、俺に構わず攻撃しろ!」

「しかし…」

「こんなことで、俺達兄弟が負けるか!ウォォ!」

躊躇う兄・鷹を見た虎は、掴まれている腕に魔力を込めて自身のユニーク・スキル、エクスプロージョンで流星の手を爆発させようとするが、流星はすぐに虎の腕を放して未然に防ぎ、ダガーを持っている右手で無防備になった虎の首筋に手刀を入れた。


「がはっ」

白目をむいて、虎は倒れる。


「貴様ぁ!よくも、よくも俺の弟をぉぉ!殺してやる!」

激怒した鷹は、左右の手にスロー・ダガーを4本ずつ持ち、投擲しようとする。


しかし、流星が足元に倒れている弟・虎を自分の方角に蹴り飛ばしたので、このまま投擲したら弟に当たってしまうと思い、投擲する寸前に中断して、弟の虎を両手で受け止める。


一瞬だったが、鷹は虎を受け止めるため流星から視線を外し、虎に視線を向けただけだが、気付いたら目の前に流星がいた。

「な、なぜ、糞っ、お前がそこにいるんだ!?」

驚愕した鷹は舌打ちする。

まるで、瞬間移動したかの様に目の前には流星がいたのだ。


流星は、驚愕して動きが止まっている鷹の顔を右手で掴んだ。


流星は、わざと虎を鷹に受け止めやすい様に正面に蹴り飛ばし、同時に自分から視線を外させ、自分は最短距離で接近をすることで、鷹に瞬間移動したかの様に錯覚させた。


「糞が~」

鷹は、虎を受け止めているので、両手が塞がっており何もできず叫ぶ。


「人の忠告を聞かないからこうなる。その身をもって知れ」

流星は小さな声で呟きながら鷹の後頭部を地面に叩きつけた。


「がはっ」

床はヒビが入り、大きな鈍い音と鷹の声が部屋に響く。


暫くの間、静寂が訪れた。


「おい…。聖剣2人を同時に相手をして無傷で勝ったぞ…」

「ああ…。これが、聖剣最強と噂されている【時の勇者】様の実力なのか…」

「あの噂は本当だったみたいだな…。同じ聖剣でも、その実力は天と地の差があるのか…」

騎士団達は、ざわめきだす。


そんな中、奈々子とツカサの2人は鷹虎兄弟を心配し、国王、妃、メルサ、マールイ、ケルンは、流星が勝利しても特に動揺はしていなかった。


「相手の力量ぐらい把握しろ、愚か者達が。そう思わないか?ケルン」

「そうですね。同じ聖剣として、彼らと同じだと思われたくないですね」

「だな」

気絶している鷹虎兄弟を見て、マールイとケルンは会話しながら溜め息を吐いた。



「ゴホン。で、勇者よ。今回の失態、どう責任をとるつもりなのだ?いや、それよりも、これからどうするつもりだ?」

国王は一度咳払いをして、慌ただしくなった雰囲気を鎮め、鋭い眼光で流星を見る。


「ハッ!それにつきましては、もう既に考えております。申し訳ありませんが、その前に気絶している鷹虎兄弟にも聞いて貰いたいので、目を覚まさせても宜しいですか?」

「良かろう」

「エンチャント・ライトニング、ライトニング・ボルト」

流星は国王の承諾を得て、ユニーク・スキル、ゴッド・エンチャントで右手に雷属性を付与し、右手は蒼白の魔力に覆われ、鷹虎兄弟に向けた直後、右手から電撃が迸る。


気絶して倒れている鷹虎兄弟にバチバチと迸る電撃が直撃し、兄弟は感電した。

「「ぐぁっ、な、何だ!?し、痺れる!」」

目を覚ました鷹虎兄弟だったが、未だに状況を把握できておらず、頭を押さえながら、ゆっくりと上半身を起こしながら周囲を見渡す。


「やっと、起きたか。これからのことを話すから、よく聞け」

鷹虎兄弟に視線だけ向けた流星は、溜め息を吐いた。


「「誰が…」」

「約束したばかりだろ。約束は守って貰うぞ」

流星は、殺気を込めて鷹虎兄弟を睨み付ける。


「「くっ」」

鷹虎兄弟は、苦虫を噛み潰した様な表情をする。


((手で揺さぶるか、バケツ一杯分の水で起こせば良いのに…))

見守っていた者達は、心の中で一致した。



「ゴッホン。で、勇者よ。再び問うが、これからどうするつもりだ?」

不憫な表情で鷹虎兄弟を見ていた国王は、再度、大きな咳をして問う。


「はい。まず一度、魔人の国の侵攻をやめ、先に武力を蓄えようかと思います」

「うむ、無難な提案だ。だが、数年は掛かりそうなプランだな…」

「いえ、そんなに掛かりません」

「どういうことだ?まさか、無関係な者達を操って、レッド・ナイツにするのか?」

国王の表情が一変し、怪訝な表情に変わる。


「いえ、そんなことは致しません」

「では、どうするのだ?」

「簡単なことです。まず、人間の国を制圧し統一して、武力をかき集めるのです」

あたかも当然のように話す流星。


「「なっ!?」」

流星の提案を聞いた者達は驚きの声をあげた。


「ま、まさか…ほ、他の3大王国と戦うというのか?」

誰もが驚愕して言葉が出ずにいる中、国王は震えている声で流星に確認をする。


「はい」

流星は、真剣な眼差しで迷うことなく答える。


「た、確かに、カナリーダ、サリーダを失う前だったら可能だったかもしれないが、今の戦力を考えれば聖剣が1人だけしかいないカルジア国とザダルカ国なら同時侵攻しても落とせるとは思う。しかし、そんなことをしたら聖剣3人を保有しているボヤタニア国が動くぞ」

流星の提案を聞いたマールイは立ち上がり、すぐに抗議した。


「勇者よ。ワシもマールイの意見が正しいと思う。もし仮に、始めにボヤタニア国を攻め落とそうとした場合、今度は逆にカルジア国とザダルカ国が黙っておらぬはず。結局、どのみち3ヵ国を同時に相手にすることになる。そうなれば、聖剣7人を保有している我が国でも勝機がない。それに、ボヤタニア国にはアエリカがおる。こう言っては失礼だが、マールイ、ケルン、鷹虎兄弟の聖剣4人をボヤタニア国に出陣させても、恐らく勝てないだろう。だが、勇者よ。お主なら一人でもボヤタニア国ぐらいなら落とせるとは思う。だが、その代わり、今度は防衛が困難になる」

国王もマールイの意見に賛同し、流星に考えを改めさせようとする。


「あなた達、落ち着きなさい。それに、勇者のことですから、きっと何かしらの勝算があるはずわよ。ねぇ?」

妃は流星の視線を促し、皆も流星に視線を向けた。


「はい、国王様達がそう思うのも仕方ありません。ですが、3ヵ国を同時に相手をしても十分に勝利を収めれます。なぜなら、私の半身とも呼べる者が一人いますので」

流星は、薄らと笑みを浮かべた。


「なんと!?それは、誠か?勇者よ。一体誰なのだ?」

「もし宜しければ、この機会に国王様にお目通りさせたいのですが」

「良かろう。ワシも其奴に興味がある」

「感謝します。入って来い、ラプラス」

国王の許可を得た流星は、後方にある出入口の扉に振り返り大きな声で呼んだ。


全員の視線がドアに集まる。

そして、扉は軋む音をたてながら、ゆっくりと開いた。


誰もが、屈強な男と思っていたが、開いたドアから現れたのは少年だった。


その少年の格好は、シルクハットにタキシード、左手には真っ白のステッキを持っており、そして、顔にはウサギの仮面を被っていた。


髪の毛も含め、全身が左半分が白色で右半分が黒色のツートンカラーで綺麗に分かれている。


ラプラスは、国王の御前なのだが、臆することなく堂々と部屋に一歩踏み入った。


そして、ラプラスは突然、予想外な行動にでる。

ラプラスは、持っているステッキを高く投げ、体操選手のみたいに側転、前宙、バク転など繰り返し、最後は高く飛び上がりムーサルトを決め、片足を床につき、左手で落ちてくるステッキをキャッチして、最後に顔と両手を上に挙げた。


ラプラスは、仮面を装着していて表情は見えないが、誰もがラプラスは満面の笑みを浮かべ、スポットライトはないが、まるで照らせれているかの様に見えた。


「「……。」」

殆ど者は唖然とし言葉が出ず、妃だけは「わぁ~、凄いわね」と言いながらパチパチと拍手をし、ラプラスを呼んだ流星は右手で自身の顔を覆い、頭を小さく左右に振りながら悩ませていた。


「おい、お前は普通に入って来れんのか?」

「えっ!?流星さんが以前、「堅苦しいのは、嫌いだからやめろ。お前は普段はユーモアに振る舞え」と仰ったので、この日のために、あまり使わない頭をフル回転させて、振り付けに丸1日を掛けて考えたのですが、お気に召さなかったですか?」

ラプラスは首を傾げる。


「馬鹿野郎。確かにそう言ったが、時と場所を考えろ。それに、日頃から頭を使わないからこうなるんだ」

「アハハハ…そう言われると痛いですね。まぁ、誰でも失敗はあります。ドンマイです」

苦笑いしながらラプラスは、右手で自分の後頭部を触る。


「あのな…。それは、俺が言うセリフだ!」

流星は、怒りでピクピクと額に青筋を浮かべ、ラプラスの頭に鉄槌を下す。


流星の放った鉄槌は容赦がなく、聖剣だったとしても気絶、もしくは騎士団と同じように即死するぐらいの威力が込められていた。


そして、その鉄槌がゴツンっとラプラスの頭に直撃し、大きな音が部屋に響いた。


誰もがラプラスは死んだかと思ったが、しかし、ラプラスは気絶どころか頭に大きなタンコブができだけだった。


「くぅ~っ、痛ぁ~。も、申し訳ありません」

ラプラスは、潰れたシルクハットを脱ぎ、片手でタンコブを擦りながら謝罪をした。


「はぁ、もう良い。それより早く挨拶しろ」

流星は溜め息を吐き、話を進めることにした。


「はい。わかりました」

ラプラスは、潰れたシルクハットの形を元に戻した。


「ゴッホン、初めまして国王様、妃様、それに皆様。私、ラプラスと申します。どうか、お見知りおき下されば幸いです。私は、こちらにいらっしゃる流星様からレッド・ナイツの総隊長の地位を承ってます。まぁ、現在部下は一人も居ませんけど」

一度咳払いをしたラプラスは、気を取り直して仮面をつけたまま、右手でシルクハットを取り胸元に当て片膝を床につき、頭を下げて自己紹介をして、最後に苦笑いをした。


ラプラスの前代未聞の登場で、唖然としていた殆んどの者は次第に我に返り、誰もがラプラスの声は変声器で声を変えていることに気付いた。



「申し訳ありません。一身上の都合により、どうしてもラプラスの声や顔は、お見せできませんので」

国王の表情が怪訝な表情に変わったことを、いち早く察知した流星は、すぐに説明をした。


「ん?一身上の都合だと?ああ、そうか…。あの幻の一族、ナウバ族の者か」

(はて?ナウバ族の仮面は、あんなのだったか?噂で聞いたのと随分と形が違うような。それに、声は関係なかった様な気がするが…。まぁ、よい)

国王は、髭を触りながら納得した様に頷いたが、それと同時に内心は疑問が湧いていた。

しかし、噂話を聞いたことがある程度なので、それ以上深く追求はしなかった。


ナウバ族とは、季節や天候によって移動する少数の遊牧民なので、滅多に遭遇しない一族。

そして、決して素顔を親族や家族、伴侶にしか見せることが許されない仕来たりがあった。




鷹虎兄弟、マールイ、ケルンの聖剣4人と護衛の騎士団は、怪訝な表情でラプラスを見ていた。


その理由は、ラプラスの実力が把握しにくかったからだ。

ラプラスは、魔力と威圧感を完全に抑えているというより、気配そのものも全く感じられず、ラプラスが話をしている時や派手に動いている時以外は、意識して見ないとわからないほどだった。


そして、何よりも一番の原因は、先程の流星の鉄槌を受けてもケロッとしているぐらいのタフさが、余計に拍車をかけて不気味な雰囲気を醸し出していた。


(ダメージ軽減能力のユニーク・スキルの持ち主なのか?それにしても、本当にこの少年が、あいつに半身と言わせるほどの実力を持っているのか?)

マールイが思っていることは、ここにいる誰もが思っていたことだった。



「勇者よ。本当に、その童がお主の半身なのか?」

国王も不安そうな表情で再度確認をする。


「はい。私に次ぐ強さを持ち合わせています」

「いや~、それほどでも」

ラプラスは流星に褒められ、頭を擦って照れた。


「う、うむ…」

迷いのない流星の回答に、国王は悩んだ。

国王は、流星に絶大な信頼を置いているが、今回は国の存亡が懸かっているので目の前にいるラプラスを見て判断が鈍る。


「これから行う作戦は、至って簡単なことです。聖剣1人を保有しているカルジア国、ザダルカ国には、同じく聖剣である鷹虎兄弟とマールイ、ケルン達の部隊に任せます」

流星は気にせずに話を進めた。


「じゃあ、一番の問題のボヤタニア国はどうするんだ?やはり、お前が行くのか?」

流星の説明中に、鷹が割り込んだ。


「話しは最後まで聞け。ボヤタニア国はラプラス1人に任せる。俺は、保険として国の防衛に徹する予定だ。もし仮に、ラプラスが失敗した場合は、お前達が2ヵ国を落として帰国した後で俺がボヤタニア国を落とせば問題ないだろ。まぁ、その必要はないがな」

流星は、口元に笑みを浮かべて答える。


「本当に大丈夫なのか?俺達の部隊は問題ないが、鷹虎兄弟とそこのラプラスという少年の所が正直不安だ。鷹虎兄弟の相手は聖剣1人しか居ないが、聖剣候補もいるし一国と争うのだ。総戦力を考えれば如何に聖剣である鷹虎兄弟でも、今回の事件(シルバー・スカイ)で隊は全滅を免れたが、人数が減り過ぎて心許ない。多少なら国の護衛の騎士団を補充すれば問題ないとは思う。しかし、ラプラスという少年の所には元々騎士団が足らない以前の問題だ。あのアエリカを含む、聖剣が3人もいるボヤタニア国を少年に任せること自体が無謀だと思うぞ。もし仮に同じ聖剣の奈々子、ツカサを連れて行ったとしても、2人は武闘派ではないから、どう考えても無理だ」


「俺の話を聞いていたか?ケルン。ラプラスは、俺の半身だ。たかが、聖剣3人しかいないボヤタニア国程度なら、ラプラス一人でも楽に落とせる。だから、そもそも騎士団の必要はないし、連れていく予定もない。その分、騎士団を鷹虎兄弟所に回す予定だ」


「会話中、失礼ですが流星さん。その聖剣3名の力量はどのくらいですか?」

「大したことはない。俺は以前、ボヤタニア国の聖剣3人とは、個人的に争ったことがある。3人のうち2人の名前は忘れたが、そこにいる鷹虎兄弟やマールイ、ケルンと同等ぐらいの強さだった。しかし、もう1人、アエリカという婆さんは、頭1つ出ていたな。見た目はただの喧しい婆さんだが、ただの婆さんと思って侮らない方が良い。婆さんは、雷歩の達人で年に似合わない素早い動きをする。まさに、あれは電光石火だったな。確か、2つの名は【閃光】のアエリカと呼ばれているはずだ。俺は【ジェット婆さん】と呼んでいるが」

「何だか強そうですね…」

「どうする?無理か?」

挑発的な表情でラプラスに尋ねる流星。


「わかりました流星さん。僕にお任せ下さい。必ずや、そのご期待に添えるよう尽力を尽くします」

ラプラスは、右手でシルクハットを持ったまま胸に当ててお辞儀をした。


「ああ、期待しているぞ」

力強く頷く流星。


「わかった。今後の作戦は勇者に任せる。だが、失敗は許さんぞ」

国王は、鋭い眼光で流星を睨み付けた。


「ハッ、承知しています」

深々とお辞儀をする流星。


こうして、流星達は一ヶ月間それぞれ作戦を考え、行動に移すのであった。




【ボヤタニア国・検問】


「ここみたいですね」

ラプラスは地図を広げて1人でボヤタニア国に辿り着いた。

目の前にはボヤタニア国に入る前に検問があり、旅人や取引の馬車などが一列に並んでいたのでラプラスもその列に並ぶ。


奇妙な服装をしているラプラスは、前後にいた人達から視線が集まったが特に気にせずにいた。


暫く経ったが、思ったよりも時間が掛かっていたのでラプラスは身体を傾けて少し顔を出し、様子を伺った。


検問をしているのは8人の騎士団で、1人1人の事情聴取をしたり荷物や貨物のチェックをして終わったかと思うと、今度は奥で武器や凶器になりそうな物は押収していた。


「とてもチェックが厳しい国みたいですね。それにしても…」

ラプラスは、前の行列を見て溜め息を吐いた。



そして、列に並ぶこと1時間。

やっとラプラスの順番が回ってきた。


奇妙な服装をしているラプラスを見て、検問している騎士団8人は警戒を強めた。

「小僧、ボヤタニア国に何の用だ?」

騎士団1人が、ラプラスの顔の位置に槍を構えて質問する。


ラプラスの後ろに並んでいた旅達は息を呑みながら見守る。


「私は、バルビスタ国の使者で参りました」

臆することなく、ラプラスは平然と答える。


「お前が使者だと?」

「はい。その証拠に、この刻印を確かめて頂きたいのですが」

ラプラスは、懐から1通の手紙を出して渡した。


「こ、これは、大変失礼しました」

「いえ、お気にせずに。では…」

小さく右手を挙げて立ち去ろうとするラプラス。


「申し訳ありませんが、簡単なボディチェックさせて頂きます。それと、その左手にお持ちになっているステッキはコチラで預からせて頂きます」

「わかりました」

ボディチェックが終わり、ラプラスは無事に入国できた。




【ボヤタニア国・ボヤタニア城内・王座の間】


ラプラスは、騎士団から王座の間に案内された。


部屋の奥にはボヤタニア国王が椅子に腰掛けたおり、その後ろには、聖剣のアエリカ、ヨーデル、ニルバーナの3人が控えていた。


「遥々ご苦労。それで、俺に何の用だ?」

ボヤタニア国王は、肘掛けに肘を置いて足をクロスに組んだまま尋ねる。


「国王様から書状を預かっています。これを」

ラプラスは、懐から書状を取り出して見せる。


騎士団はラプラスから書状を受け取り、ボヤタニア国王に渡した。


静かに書状に目を通すボヤタニア国王だったが、次第に怒りで顔が赤く染まっていった。


「おい!小僧、これは宣戦布告ととって良いのだな?」

怒気を含んだ声で確認するボヤタニア国王。


それと同時に聖剣3人、周囲にいる護衛騎士団20人は殺気を放ち、国王から命令が下さればすぐにラプラスを始末できる様に構える。


「はい、その認識であっています。我が国バルビスタ国に忠誠を誓うのであれば制圧致しません。ですが、誓わないというのであれば、武力行使をさせて貰い、このボヤタニア国を制圧します。返事は正午までお与えしますので、良く考えて頂きたい。良い返事を待ってます。では、私はこれで…」

ラプラスは、お辞儀をして立ち去ろうとしたが、騎士団に囲まれた。


「これは、どういうことですか?ボヤタニア国王様」

ラプラスは後ろに振り返り、ボヤタニア国王に確認する。


「わざわざ正午まで待たなくて良い。今すぐ、ここでお前を始末してバルビスタ国に攻めいる。小僧を殺せ!」

ボヤタニア国王は立ち上がり命令を下し、騎士団だけでなく、聖剣のアエリカ達もラプラスに襲い掛かった。




【魔人の国・ラーバス国・ラーバスの屋敷・裏庭】


ジャンヌ、ウルミラ、イシリアは、毎日朝と夕方に屋敷の裏庭にある花壇に囲まれる様に作った大成の墓の前で、両手を握り締め祈りを捧げている。


大成の墓は、石でできた十字架の形で、その十字架に花の冠と大成が使っていたボロボロになったポシェットが掛けられていた。


大成の遺体は、未だに見つかっていないので、墓は形だけであった。


そのためジャンヌ達は、今でも心の隅では大成は何処かで生きていると信じている。

しかし、他の者達は遺体が残らないほどの攻撃を受けて消滅したと思われていた。



今日も朝早く、3人で大成の墓を掃除をして祈りを捧げ終わり、ラーバス学園に向かおうとした時にマキネの部下のナタラが慌てた様子でジャンヌ達の方に走ってきている。


「ん?ねぇ、あれナタラじゃあない?」

ナタラに気付いたジャンヌは、ウルミラとイシリアに尋ねた。


「そうですね。ナタラさんです。何か急いでおられるみたいですね」

「何かあったのかしら?」

ウルミラとイシリアは、ナタラの慌てように首を傾げる。


息を切らせながら、ナタラはジャンヌ達の前に辿り着いた。


「どうしたの?ナタラ」

何か良くないことがあったのかと思ったジャンヌは、訝しげな表情になった。


「ジャ、ジャンヌ様っ!ハァハァ、ど、どうか…お、おど、驚かないで、く、下さい…ハァハァ…」

ナタラは、その場に片膝を付き敬礼する。


「わかったから、まず落ち着きなさい」

「は、はい…」

ジャンヌに言われて呼吸を整えるナタラは、呼吸が整った後、用件を話し始めた。


「あのですね。まだ、確認はされていないのですが、魔王修羅様が…」

「大成がどうしたの!?」

「大成さんがどうしましたか!?」

「大成君がどうしたの!?」

ナタラが魔王修羅と発言した瞬間、ジャンヌ達に迫られ、襟首を掴まれ首が絞まる。


「く、苦しいです…」

「「良いから答なさい!」」

「早く答えて下さい!」

ナタラはやめて欲しかったが、ジャンヌ達はお構い無しだった。


「ぐっ…」

限界が訪れて死にそうになり、ナタラの目から涙が溢れる。


「ちょ、何をなさっているのですか!?」

墓参りに来たローケンスが、ジャンヌ達を見つけて止めに入った。


「ゴホッゴホッ…。あ、ありがとうございます。ローケンス様」

ナタラは、首を擦りながら呼吸を整える。


「「ごめんなさい」」

「申し訳ありません」

ジャンヌ達は、ナタラに謝罪をした。


「いえ、私は大丈夫なので、お気にしないで下さい」

苦笑いを浮かべるナタラ。


「ところで、どうして此処にいるんだ?ナタラ」

ローケンスは尋ねた。


「はい、実は我々、マキネ様と一緒に今も修羅様の捜索を行っています。そして、昨日(さくじつ)のことです。いつも通りに、すれ違う商人に修羅様のことを尋ねたのですが、何とヤーニガル村にある病院に入院されているとの情報が入り…」


「ねぇ、それは本当なの!?」

「い、いえ、まだ確かめていないので、何とも言えません…」

ジャンヌの迫力に押し負けて、ナタラは後ろに一歩下がる。


「ヤーニガル村は、魔人の国にあるヤーニガル村のことですか?」

「は、はい…」

次にウルミラの迫力に押し負けたナタラは、身体を後ろに反る。


「大成君は、大丈夫なの!?」

「い、いえ、そこまでは…」

イシリアの迫力にも押し負けたナタラは、更に身体が後ろにのけ反る。


「おい!なぜ修羅様が真反対にあるヤーニガル村に居るのだ!?」

「わ、わかりません」

ナタラは、最後にローケンスのど迫力に押されて倒れた。


「行くわよ」

「はい」

「ええ、もちろんよ」

ジャンヌの掛け声に、賛同するウルミラとイシリア。


「いけません。一度、魔王様の指示を仰ぎましょう」

ローケンスは、慌ててジャンヌを止めた。


「何よ。こんな時に、ジッとなんてしていられないわ」

「それでもです。ヤーニガル村は、指定危険立ち入り禁止エリアです。それに、ジャンヌ様達は、これから学園に行かなくてはなりません」

ローケンスの真剣な目を見て、止まるジャンヌ達。


「そうね。一度、屋敷に戻ってお父様に頼むことにするわ」

ジャンヌが素直に意見を聞いてくれたのでローケンスはホッとした。


ナタラは、ジャンヌ達と一緒に屋敷について行った。




【人間の国・ボヤタニア国・ボヤタニア城内】


「な、何だと!?そ、そんな馬鹿な!?これは、悪夢か…」

ボヤタニア国王は目の前の光景を見て驚愕し、恐怖で身体が震えていた。


ボヤタニア国王の目の前の光景は、騎士団だけでなく聖剣候補だったイカルダや聖剣のヨーデル、ニルバーナの2人が倒れていた。


「ハハハ…凄いスピードですね。ここまで、雷歩を使いこなしているなんて凄いですよ」

「何様のつもりだ!私を嘗めるんじゃないよ!」

聖剣の【閃光】のアエリカは戦闘開始時から雷を身体に纏い、左右の手には雷大魔法・魔法剣ライトニング・ブレードを握り締めて雷歩で神速移動しながら何度もラプラスに襲い掛かっている。


しかし、ラプラスは遊んでいるかの様にアエリカを翻弄していた。


「申し訳ありませんが、そろそろボヤタニア国王様にご理解して頂けた様なので終わりにします」

ラプラスは宣言をした。


「ふざけるんじゃないよ!」

アエリカは、右手のライトニング・ブレードを横に凪ぎ払う。


ラプラスは、アエリカの右手首を両手で握り締めて捻り関節技を決めてアエリカを地面に倒した。


「お婆さんに攻撃はしたくはありませんが、これも任務なので」

ラプラスは、アエリカの首筋に手刀を入れ気絶させた。


「どうしますか?まだ続けられますか?ボヤタニア国王様。一応、此処にいる皆様は生きてますので、まだ抗うこともできますが」

ラプラスは、汚れていないがタキシードを叩きながらボヤタニア国王に振り返り尋ねた。


「いや、我々ボヤタニア国は、バルビスタに忠誠を誓おう」

完全な敗北だったので、ボヤタニア国王は素直に認めることしかできなかった。




鷹虎兄弟、マールイ、ケルンは夜中まで掛かったが無事に制圧し、この日を持って人間の国はバルビスタ国が統一した。

こんばんわ。

更新が遅れて、大変申し訳ありません。


次回、魔人の国と人間の国が動くところまで書きたいと思います。


次回からは勉強しながら書きますので、なるべく早く投稿できるかと思います。


次回も、もし宜しければ、御覧下さい。


少し前、勉強に嵌まりまして、適当に国家試験を申し込んだのですが、10月に2種類、11月に1つと重なるという最悪の事態が起きました。

試験日を確認しなかった自分が愚かでした。


本当に、ご迷惑お掛けして申し訳ありません。

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