戦いの果てと銀河の夜(シルバー・スカイ)
瀕死の大成は、ローケンス達を撤退させて、ただ一人でしんがりをする。
時の勇者のこと義兄の流星の提案で、ワルキューレ、レッド・ナイツ、そして流星と順番に戦うことになる。
【夜・パレシアの森・ラーバス側・入り口付近】
撤退中のジャンヌ達は、森の中を走っていた。
ジャンヌは、大成から渡されたマテリアル・ストーンに魔力を込めて、映される映像を見ながら走っている。
映像にはワルキューレとレッド・ナイツだけでなく、父・先代の魔王を倒した「時の勇者」流星が現れた。
「そんな…嘘…。大成…」
心配した表情から絶望の表情へと変わったジャンヌ。
「きゃっ」
ジャンヌは、木の根に足が引っ掛かり転び、マテリアル・ストーンが前方へと転がり映像が消えた。
すぐに立ち上がったジャンヌは、マテリアル・ストーンを拾い上げて、両手で大切そうに胸元で握り締め、再び魔力を込める。
「ジャンヌ、大丈夫?」
ジャンヌの前を走っていた母・ミリーナは、振り返った。
「はい、大丈夫です」
不安を悟られない様にジャンヌは、作り笑顔を浮かべて答えた。
「そう…。行くわよ」
ミリーナは、娘の作り笑顔に気付いたが気付いていないフリをした。
「はい」
再び2人は走り出した。
少し進んだ場所に、先に撤退していたウルミラ達が立ち止まっていた。
ウルミラ達の前には、マルコシアスとその娘サリアが居た。
「マルコシアス!お願い!大成を助け…」
マルコシアスに気付いたジャンヌは、ウルミラ達の前に出て頼もうとしたが、サリアを見て思い止まった。
「すまない…」
ジャンヌから視線を逸らすマルコシアス。
「これは、マルコシアス。来て下さったのですか?」
ジャンヌ達の後ろから先代の魔王を担いだローケンスが現れた。
「すまんが、様子を見に来ただけだ。無事で何よりだ」
マルコシアスは、先代の魔王や懐かしのメンツを見て安堵した表情を浮かべた。
「ここで話すよりも、ラーバスに向かいましょう」
ミリーナの提案で、ジャンヌ達はマルコシアス親子と一緒にラーバスへと向かった。
【夜・パルシアの森・ラーバス側】
大成の前にワルキューレがおり、その奥には流星がいる。
(ジャンヌには、ああ言ったが…。残りの魔力は大魔法2発分…。身体強化を考えれば1発分しかない。それに、この傷だとそう長くは持たないな)
背中の傷から血が滴り、呼吸が荒くなっている大成は、冷静に今の状態を把握した。
「さてと、そろそろ始めるか…。行け!ワルキューレ!」
「了解」
流星の指示で、ワルキューレは目を紅く輝かせ、大きな翼を広げて無数の羽を飛ばした。
視線を動かして羽を見渡す大成。
(数が多いな。魔力消費が激しいが仕方ない)
大成は、魔力を高めて魔力感知の範囲を広げ鋭敏にしたことで、周りのワルキューレの羽だけでなく、木々や岩、大地など自然の魔力も感じとれるようになった。
「ホーリー・ランス、ファイア・アロー、アイス・ミサイル、アース・スピア」
ワルキューレは、抑揚のない声で呪文を唱えたと同時に、大成を囲っている羽から光の槍、炎の矢、氷の矢、土の槍を次々に召喚し放つ。
「……」
大成は、無言のまま姿勢を低くし、ワルキューレに向かってダッシュした。
四方八方からの魔法攻撃が襲ってくる。
大成は頭を傾けたり、体を反らしたり、木を利用したりして最小限に回避しながら不規則に動き回る。
背後から氷の矢や炎の矢で狙われたが、大成は魔力感知を最大限にして戦っているので、囲っている羽が放った魔法の種類や速度などが手に取るように把握できており、難なく回避していく。
時折、氷の矢や土の槍など素手で掴むことが出来るものは、手に魔力を集中させて掴み取り、投擲して羽に当てることで魔法攻撃を反らしたり、羽に接近して殴ったり蹴ったりして破壊していく。
そして、殆どの羽を破壊して包囲網から脱出した。
迫ってくる大成に、ワルキューレはバックステップしながら魔法を唱える。
「フラッシュ、アース・ニードル」
ワルキューレは、羽が輝き目眩ましをすると同時に、大成の左右前後に土の針を作り出して攻撃した。
目を閉じた大成は、眩まなかったが、四方方向から一斉に土の針が迫ってくる。
大成は、前方の土の針の先端部に両手を置き、前宙をしてギリギリ回避して、そのまま右足を高く振り上げ、着地と同時に踵落としをしようとした。
「緊急回避」
魔法が間に合わないと判断したワルキューレは、自分の周りの羽を使って羽同士を魔力で結び、マリーナのシックス・スピアを弾いた魔力障壁を展開した。
「ぐっ」
大成は、障壁ごと砕こうとしたが、足を振りかぶっている最中に激痛が走り狙いが逸れる。
大成が放った踵落としは、障壁の手前の地面に炸裂し土煙が舞い上がった。
大成から振り切られたワルキューレの羽は、大成を攻撃しようと大成の周りに集まる。
「うっ、グリモア・ブック、アイシルク・レイン」
歯を食い縛りながら大成は、ワルキューレが攻撃をする前に、氷大魔法アイシルク・レインを唱え発動した。
グリモアは蒼く輝き、その光は上空へと伸びた。
そして、周囲の気温が一気に低下して、上空から大きさ2mぐらいの巨大な氷柱が次々と雨の様に降り注ぐ。
だが、巨大な氷柱は障壁に阻まれ、ワルキューレには届かなかった。
障壁を展開しているワルキューレは、大成の周りに配置している羽を動かして氷柱を回避させようとしたが、氷柱は巨大で数もあり、次々に氷柱の下敷きになっていった。
アイスシルク・レインは、ワルキューレだけでなく、離れていたレッド・ナイツや流星達にも襲いかかる。
レッド・ナイツ達は、動き回りながら剣を使って氷柱の軌道を変えて回避していくが、中には氷柱が倒れて押し潰れたり、逃げ道がなくなったりして突き刺さる者が続出する。
木の影に隠れていたメルサとツカサにも氷柱が降り注ぐ。
「くっ」
「きゃ~」
メルサは杖を構えて迎撃しようとし、ツカサはユニーク・スキル、チャームの能力で操っていた先代の魔王がいないので何もできずに悲鳴をあげた。
「チィッ」
流星は、すぐに2人の傍に駆けつけ、左右の腰に掛けてあるホルダーから2丁の拳銃SIG226とFN Five-seenを取り出した。
「エンチャント・シール」
流星は、2丁の拳銃に封印効果を寄与し、銃全体が紫色に染まり、上空の氷柱に向けて発砲する。
拳銃から放たれるのは鉄の弾丸ではなく、紫色の魔力弾だった。
魔力弾は、次々に降下してくる氷柱に、全て命中し氷柱を紫色に染めて封印し、跡形もなくかき消していく。
大成は、レッド・ナイツと流星達を巻き込んだのは倒すため以外にも理由があった。
レッド・ナイツを巻き込んだのは、倒すためだけでなく、どれほどの実力があるかの確認するため。
そして、流星やメルサ、ツカサを巻き込んだのは、メルサとツカサの2人はどんな魔法を使用するのかを知り、ジャンヌ達のためにマテリアル・ストーンに記録して役立てるためだったのだが、流星が銃で氷柱を迎撃したので失敗に終った。
しかし、ツカサは悲鳴をあげるだけだったので、能力はユニーク・スキルの可能性が高いと把握できた。
氷柱が降り注ぐ中、羽で作った半球状の魔力障壁の内側にいるワルキューレは、土煙と氷柱で大成が視認できなかったが、魔力感知を最大限にして警戒していた。
しかし、突如、足元の地面から大成の巨大化した村雨が飛び出してきた。
大成は土煙の中、グリモアの魔力を高めて器用に魔力を人形にし、自分は氷柱よりも小さく最小限の魔力で地面の中を移動していたのだ。
そのため、ワルキューレはグリモアが大成本人と誤認し、不意をつかれたのだった。
大成の村雨は、ワルキューレの頭を突き刺そうとした。
「緊急回避」
ワルキューレは右に移動しながら、行動範囲を制限している魔力障壁を解除を行う。
村雨は、狙っていたワルキューレの頭を外したが、ワルキューレの左肩に突き刺し切断した。
そして、同時に大成は右手に発動している村雨を前に出した姿で地面から跳びだし、左手にも村雨発動させてワルキューレの首を狙って凪ぎ払う。
ワルキューレは、距離をとり回避しようとするが、その時は、まだ魔力障壁は完全に解除できておらず、うっすらとまだ障壁が残っていた。
そのため、ワルキューレは自分の魔力障壁に阻まれ、逃げ道を失った。
「防御…」
ワルキューレは、右腕を上げて大成の村雨を受け止めようとしたが腕ごと首を斬られ、同時に魔力障壁が完全に消えて、ワルキューレの体は地面に倒れ、頭部は空高く飛んだ。
大成は、ジャンプして氷柱の上に立ち、左手を挙げた。
3秒後に大成の左掌の上にワルキューレの頭部が落ちてきた。
頭部をキャッチした大成は、冷や汗を流しながら頭部を握った左手を流星に向けた。
「まず、人形撃破…」
大成は宣言すると共に、目が紅く点滅しているワルキューレの頭部を握り潰した。
ワルキューレの頭部が破壊されたことで胴体は砂のようにサラサラと崩れ去った。
大成の強さを再確認した流星は、笑顔を浮かべて銃をホルダーに終い、ジャンプをして氷柱の上に立った。
「大成、お前の戦いを見ていると、お前は俺の義弟だなとつくづく思う。だが、残念だ。万全なお前と戦いたかったが。大成、お前達はやり過ぎた。次はレッド・ナイツがお前の相手をする。1つだけ助言をしてやる。今のゾーンでも、重傷を負っているその状態では死ぬ。生き延びたければ、魔王決定戦で見せたゾーンを超えた力、オーバー・ロードを使うことだ。まぁ、どのみち反動で死ぬかも知れないがな」
「ハァハァ…。確かに…。全滅させるつもりで図った先のアイスシルク・レインを回避したり、雰囲気からして、ただ者ではない集団だとわかった…。それに、まるで人形ように、完全に操られたかのように…自我がないみたいだ。ゴホッ。しかし、先代の魔王は自我があった…。ということは、コホッ…。流星義兄さんとは、別に操作系能力者がいる可能性が高い。ハァハァ…。例えば、そこの少女とか」
大成は、先ほど悲鳴をあげたツカサを指をさした。
「「~っ!!」」
大成に当てられたことで、メルサとツカサは小さく息を呑んだ。
「何のことだか」
「ハァハァ、当たりのようだ」
流星は完璧なポーカーフェイスをしたが、大成はメルサとツカサの小さな反応を見逃さず確信した。
「話しはこれで終いだ。もう十分呼吸を整えただろう?次、始めるぞ」
1度手を叩き、話を切り上げた流星。
「流石にバレていたか。ゴホッ…。相手は100人前後か…。まぁ、開始前の150人ぐらいと比べると、ゴホッ、楽になったな」
大成は、苦笑いを浮かべながら指を鳴らして邪魔になる周囲の氷柱を解除した。
氷柱は、大成が指を鳴らした瞬間、硝子が割れた様に無数にヒビが入り砕けて消滅したことで、氷柱の上に立っていた大成と流星は、足音を立てずに地面に着地した。
流星は、着地した瞬間に指示を出す。
「レッド・ナイツよ。大成を殺せ」
レッド・ナイツは、既に大成を取り囲んでおり、流星の号令とともに、大成に襲いかかる。
大成は、前方にダッシュして正面にいるレッド・ナイツに接近する。
レッド・ナイツは、右手の剣を横から凪ぎ払おうとしたが、大成は凪ぎ払われる前に左手でレッド・ナイツの右手首を掴んで受け止め、右足のハイキックでレッド・ナイツの側頭部を蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされたレッド・ナイツは、別のレッド・ナイツに当たり、両者は体勢を崩した。
大成は、体勢を崩したレッド・ナイツ達に狙いをつけて接近しようとしたが、別のレッド・ナイツが右側から襲いかかってくる。
レッド・ナイツは、接近しながら剣を振り下ろす。
「フン」
大成は、振り下ろされている最中に、レッド・ナイツの剣の刀身の側面を右手の甲で外側に弾いた。
大成は左拳で、レッド・ナイツの顔を殴り吹っ飛ばした。
レッド・ナイツ1人を倒したと同時に、別のレッド・ナイツが大成の背中を斬りつけた。
「ぐっ…」
(コイツら、まるで特殊部隊の同胞と戦っているみたいな感じだな)
大成は怯まず、右手で背中を斬ったレッド・ナイツの右手首を掴み、片手で一本背負いをして地面に叩きつけ、左拳でレッド・ナイツの顔面を殴りつけて潰した。
「はぁぁ」
大成は、すぐに左拳で顔面を潰したレッド・ナイツの襟を掴んで左側に振り回して、左側から襲ってきていたレッド・ナイツにぶつけて、レッド・ナイツの左頬に右フックを入れた。
大成は回転して、左肘で背後から剣を凪ぎ払おうとしているレッド・ナイツの剣を握っている右手に当て手を砕き、レッド・ナイツが手放した剣を空中で掴み、レッド・ナイツを斬った。
一瞬の判断ミスは勿論のこと、そして立ち止まれば死が待ち構えているという過酷な状況に、大成は立たされていた。
動く度に傷口から血が流血し、時折だが激痛が走り意識が薄れたりしていた。
「オラッ」
大成は、迫ってくるレッド・ナイツに持っている剣を投擲してダッシュする。
猛スピードで飛んでくる剣を、レッド・ナイツは剣を振るい弾こうとするが、剣と剣が衝突した時に、レッド・ナイツが握っている剣が真っ二つに折れ、飛んできた剣が胸に突き刺さり後ろに吹っ飛んだ。
その後ろにいた別のレッド・ナイツにも剣が刺さって2人は転倒した。
レッド・ナイツの1人は、気配を消して大成の近くの中央が裂けた木に登り、大成の隙を窺っている。
目の前のレッド・ナイツを蹴り飛ばした大成は、段々と疲れていき、背後にいた別のレッド・ナイツの対応が遅れ、レッド・ナイツの斬撃を魔力を集中した右手でかろうじて防いだが切り傷を負った。
「ぐっ」
木の上に隠れていたレッド・ナイツは、剣を逆手に持ち飛び降りる。
「うぉぉぉ」
大成は、斬撃をしたレッド・ナイツのベルトと剣を握っている右手を掴み、真上に投げ飛ばした。
そして、大成は近くの木を使って三角跳びをする。
真上に投げたレッド・ナイツは、剣を両手で逆手に持って木の上から飛び降りたレッド・ナイツの剣が背中に刺さった。
その2人の上に、三角跳びした大成が移動しており、大成は両足で木の上から跳び降りたレッド・ナイツの真上から後頭部を踏みつけ、そのまま地面に着地した。
後頭部を踏みつけられていたレッド・ナイツは、首の骨が折れ息絶えた。
大成は移動しようとしたが、大成に真上に投げられ仲間に刺されたレッド・ナイツは、まだ生きており左手で大成の左足首を掴んだ。
「くっ。ゴホッ…。まだ、生きていたのか。しぶとい、魔力発勁」
大成は、すぐに左足に魔力を集中して魔力発勁を発動して脱出したがワンテンポ遅く、前後からレッド・ナイツが剣で串刺ししにきていた。
大成は振り向かず右足を後ろに蹴り出し、背後のレッド・ナイツの鳩尾に蹴りを入れバランスを崩し、さらに振り返りながら右手の裏拳で、レッド・ナイツの顎を打ち抜いて倒した。
しかし、前から迫ってきたレッド・ナイツの突きは対応できず、左手で刀身を握り締め止めた。
体には刺さりはしなかったが、魔力強化が足りず、左手は切れて血が刀身に伝わり、ポトポトっと滴れる。
レッド・ナイツは、更に一歩前に踏み込み、力を込める。
「ぐっ」
動きが止まっている大成の背後からレッド・ナイツが襲い掛かる。
「ウォォォ」
大成は、雄叫びをあげながら強引に身体を右に移動させ、剣を握っている左手を放した。
大成が急激に放したことで、剣は勢いよく背後から襲い掛かろうとした仲間の心臓部に突き刺さった。
更に大成は右に移動しながら、右手でレッド・ナイツの頭を鷲掴みし、引寄せながら右膝でレッド・ナイツの顔を打ち抜いた。
しかし、膝で顔を打ち抜かれたレッド・ナイツは、倒れながら最後の力を振り絞り、左手で腰に掛けてある短剣を抜き、大成の右太股を突き刺した。
「ぐぁ、糞っ。ハァハァ…」
大成は舌打ちしながら、右手で刺さった短剣を抜き、左側から迫ってくるレッド・ナイツに対応しようと振り向こうとするが、右太股の傷は思ったより深く、激痛が走り力が入いずらく、対応が遅れた。
そんな大成に、レッド・ナイツは次々に容赦なく大成に襲い掛かる。
「オォォォ」
大成は雄叫びをあげ、その場で受け立つ。
最初に接近したレッド・ナイツの蹴りを、大成は体を傾けながら一歩前に踏み込み避け、カウンターでアッパーで顎を打ち抜き意識を刈り取る。
気絶させたレッド・ナイツの右手を左手で掴んで、左側へ移動させて、襲い掛かってきている別のレッド・ナイツにぶつけた。
「ハァハァ…。一人一人、確実に仕留めないと俺が殺られる」
疲労だけでなく、魔力の底を尽き始めた大成は、魔力感知の精度を落とし、右手に村雨を発動させて掴んでいるレッド・ナイツとぶつけて倒したレッド・ナイツの2人を纏めて切り裂いた。
確実に仕留めていく大成だったが、レッド・ナイツの連携と執念は想像以上で、倒していくと共に深手を負っていき、肉体と魔力の限界が訪れ、気力と感覚だけで戦っている。
観戦していた流星達は、それぞれ感じたことが違っていた。
「す、凄い…」
ツカサは、大成の戦いを間近で見て感動していた。
「やはり、あの子は異端だわ…。なぜ、あれほどの傷を負っているのに倒れないの?いえ、既に死んでいても可笑しくないのに…」
(できれば、このまま流星とは戦わずに済んで欲しいわ)
最後の想いは言葉にしなかったメルサ。
「……」
一方、流星は声を出さずにいたが、少しだけ悲しい眼差しで、倒されそうになる大成の姿を見ていた。
暫く経ち、ボロボロなって倒れそうで倒れない大成を見て、メルサは驚愕していた。
「う、嘘…、信じられない。レッド・ナイツ200人で、小国を制圧出来たのに。そのレッド・ナイツが100人ぐらい居たのに、もう30人しかいないなんて…」
「え、え~!?あの…国と言えば、私達や皆が住んだりしている。あの国ですか?」
あまりにも予想を越えた規模だったので、ツカサは驚愕し目を大きく開き、自分でも何を口走っているのか、わからなくなっていた。
「ウフフフ…。ええ、勿論よ。マルンセルって国を知っているでしょう?今は私達の領土になっているけど、元々あの国は独立国家だったのよ。ちょっとした事件を起こしてしまって、向こうから一方的に貿易を解除されたのよ。それでね」
ツカサの反応が可笑しく、メルサは口元に手を当て笑いながら説明をした。
「そうなのですか。あの、もし良ければ、もっと詳しくお聞きしたいのですが…」
「フフフ…。良いわよ。マルンセルは、魔人の国と交流をしていて友好関係だったの」
「あっ!」
メルサが何を言いたいかを察知したツカサは、自然と大きな声が出た。
「もう、わかったみたいね。そう、流星が魔王を倒したことが原因。それで、貿易を解除されただけなら、制圧しなかったのだけれど。威嚇されたから制圧したの。向こうには聖剣12人のうち1人が在籍していたからね」
「あの聖剣って何ですか?」
「ああ、それはね。人間の国の最強の12人。今は、流星、カナリーダ、サリーダ、鷹虎兄弟、マールイ、ケルン、カトリア、ユーナル、ニルバーナ、アエリカ、ヨーデル。残念だけど、今回の戦でカナリーダとサリーダが戦死したから2席空くわね。おそらく、その席に奈々子とツカサ、あなたが選ばれる可能性が高いわよ」
指を折りながら数えていくメルサ。
「ええ!!?私ですか?奈々子なら、わかりますけど」
「確かに、奈々子は治癒魔法の才能は秀でているわ。だけど、ツカサ。あなたの人を操る能力も、それに匹敵するわよ。敵を操れば、その分、敵は減り味方が増える。それに、相手からしてみれば仲間が洗脳されているかもという疑心暗鬼に陥り、精神的なダメージも与えれるわ。何より、スパイを育てて送らなくっても、操れば簡単に正確な情報が手に入るわね」
「ハハハ…。それより、その聖剣の1人はレッド・ナイツに殺されたのですか?それに、こっちらは5人も聖剣がいるのに挑むなんて…」
褒められているのだが、ツカサは複雑な気持ちになり苦笑いをしながら話題を戻した。
「ウフフフ…。その時、他の皆は出ていたから流星しか国にいなかったの。あと、その聖剣の人は生きているわ。1人でレッド・ナイツ4人を相手にして、死にかけていたところを流星がギリギリで止めたの。流星に尋ねたら、気に入ったとか言っていたわ。その戦で人間の国中に、レッド・ナイツの驚異が知れ渡ってね。レッド・ナイツ(紅騎士団)は、デッド・ナイツ(死者の騎士団)って言われるようになったのよ。まぁ、確かに完全に操られて、自我がないから死者と変わらないわね。でもね、流星は犯罪者か若しくは敵にしか操らないと断言しているから安心よ。そうそう、話していたマルンセルの聖剣の人はケルンなのよ」
「えええ!!!」
「驚いたでしょ?」
ツカサの驚いた反応を見て満足そうに微笑むメルサ。
呑気に2人の会話を聞いていた流星は、溜め息をした。
「はぁ~。そろそろ終わるぞ」
メルサとツカサが話している間に、最後のレッド・ナイツを倒した大成は、意識が朦朧としている中、片膝を曲げて月や星は雲に覆われ何も見えない暗闇の夜空を見上げていた。
大成の身体中には切り傷、刺し傷があちらこちらにでき、血塗れになっていた。
見るからに全身満身創痍で、その血は脱力した両手の指先や顎などに伝わり血が滴れている。
「……」
静寂の中、ひゅーひゅーっと大成の異常な呼吸音が小さく聞こえるだけであった。
「2人は、ここで待っていろ」
メルサとツカサに指示した流星は、ゆっくりと大成に歩み寄る。
「大成、大人しく投降しろ。今の状態のお前と戦っても面白くない」
「……」
流星が話し掛けるが、大成は返事をせず微動だにしなかった。
さらに、流星が近付いた時、大成は流星に気付いた。
「ハァハァ…、ん?次は…流星義兄さん…か。ゴホッ…」
「ああ、そうだな。戦うなら、手加減はしない。それとも、大人しく投降するか?」
苦笑いを浮かべながら流星は提案した。
「僕が、ハァハァ…。ここで流星義兄さんを倒さないと、コホッ。魔人の国はいずれ流星義兄さんに滅ぼされるだろ?」
「……。そうか残念だ」
大成と流星は、同じ構えをした。
「「っ!!」」
近くにいるメルサとツカサは、両手を胸元で握り締め、息を呑み見守った。
「来い!大成!」
「ハァハァ…。行くぞ、流星義兄さん。ゴホッ…」
大成は意識が朦朧する中、流星に向かって足を引きずりながら歩み寄る。
大成の姿を見た流星は構えを解き、その場から一歩も動かずに、ただ大成が接近するのを待つ。
大成が1歩また1歩と進むにつれ、地面に血の足跡がついていく。
「うっ…」
時折、ふらつき倒れそうになる大成。
「ゴホッゴホッ…」
大成は、左手を口に当てながら吐血し、溢れた血を左腕で拭った。
誰が見ても、大成の姿は瀕死だと一目瞭然だった。
「……。」
流星は、何も声をかけず表情を変えずに、接近した大成を見つめるだけだった。
「ハァハァ…。ウォォォ」
大成は、残りの全ての魔力を右手に集中させ、村雨を発動して流星に斬りかかる。
「流星~!」
「流星さ~ん!」
全く動こうとしない流星を見たメルサとツカサは、悲鳴に似た声をあげた。
大成の村雨が流星の首元に当たったが、当てた村雨の方が、ガラス細工の様にヒビが入り、パキッンと音を鳴らし砕け散った。
「やはり、もう既にイメージ力すら低下しているな」
流星も右手に村雨を発動して、大成の右肘辺りを切断し、大成の腕は宙を舞って地面に落ちた。
激痛と共に斬られた右腕から血が飛び散るが、大成は歯を食い縛り、怯まずに次の行動に移る。
「ぐっ、ハァァァ」
魔力を使い果たした大成は、左拳で流星の鳩尾を殴ったが、その拳に力がなく、ポスっと服を押す音が聞こえる程度だった。
そして、大成は流星にもたれ掛かるように倒れた。
流星は、瞳を閉じた。
「大成。流石のお前も、もう限界の様だな」
流星は、目を開き悲しい表情で大成を見詰め、体をずらした。
大成は、そのまま地面にうつ伏せに倒れた。
「ハァハァ…。コホッ…」
左手を使い立ち上がろうとする大成。
しかし、上手く体に力が入らず右側に倒れ、仰向けになった。
「お前は師匠と同じく、昔から俺の予想を超えて楽しませてくれた。その褒美に、お前を始末した後は魔人の国へは行かず、自国へ帰還しよう。そして、最後に俺のとっておきを見せてやる。ローケンス達よ、光栄に思え」
流星は話終えた瞬間、圧倒的で膨大な魔力を体から放出させた。
流星の銀色の魔力は、星も見えない真っ黒な夜空に舞い上がり、広大な森の全体を覆い尽すほど広がって染め上げた。
森は、流星の銀色の魔力で照らされ、昼間の様な明るさに照らされた。
「アハハハ…コホッ、コホッ。凄…いな。そして、とても綺麗だ…。まるで…銀河だな…」
大成は、吹っ切れた笑顔で銀色に輝く夜空を眺めた。
流星は、右手の銃を夜空に向けて上げた。
「ラスト・シューティング」
夜空に広がった銀色の魔力が、銃に集束していき、銃は銀色に輝きながら輝きを強めていく。
「すまない…、ジャンヌ。ゴホッ。約束を守れそうにない…」
大成は、血まみれの左手を挙げ、今までのことを思い出していく。
「ああ~、いろんなことがあったな…。異世界に来ても…。一般人とし…て…生きていけ…なかったな…。でも…、良い…人生だ…た…」
大成は意識を手放し気絶して、挙げていた左手は力なく地面に落ちると同時に、記憶するために使っていたマテリアル・ストーンは光を失い、黒く染まり地面に落ちた。
全ての魔力が銃に集束し終え、森は再び真っ黒な闇に覆われた。
流星が握っている銃は銀色に輝いたが、暫くの間、流星は引き金を引かなかった。
そして…。
「さらばだ、大成。シルバー・ブレッド」
流星は、引き金を引いた。
森中に銀色の閃光が輝いた。
【竜人の国・ドラゴニック城・神竜の間】
真夜中、魔人の国から一番遠い竜人の国・ドラゴニック城では、ただ一人、真っ暗な部屋に目を覚ました竜人がいた。
竜人は、ベッドから起き上がり窓を開けた。
「何だ?この凄まじい魔力は…。我と同等…。いや、この魔力を感じたことがある。確か、持ち主は…。」
竜人は鋭い眼光で、見えない魔人の国の方角を見詰めた。
【獣人の国】
魔人の国と人間の国に近い獣人の国は、国民全員が魔人の国と人間の国の境から放たれる銀色の夜空や閃光を見ていた。
他の国々もこの事件を知り、この事件は後に「銀河の夜」と言われるようになる。
次回、魔人の国と人間の国の変化です。
修正や仕事が忙しくなり、投稿が遅れて大変申し訳ありません。
もし、宜しければ次回もご覧下さい。




