ニール執念と代償
先代の魔王を気絶させた大成は、ジャンヌに報告した。
大成と別れたジャンヌ達は、ワルキューレの攻撃を回避しながら、ワルキューレを囲むように動いた。
「ジャンヌ様とウルミラ殿は、連戦で魔力があまり残っていらしゃらないようなので、ここは私達にお任せ下さいませ」
「気遣ってくれて、ありがとうニール。だけど、私達は大丈夫よ。ねぇ、ウルミラ」
「はい、私も大丈夫です」
「そうですか」
ニールは2人を気遣ったが、2人は一緒に戦うことを選んだ。
ニールは納得したので、それ以上は何も言わなかった。
「どうしますの?」
シリーダは、ワルキューレを倒すのか、または時間稼ぎをして凌ぐのか戦いの方針と作戦を尋ねた。
「そうだな。まず、あの厄介な羽をどうにかして接近し、接近戦に持ち込めれば、俺が斬り倒す」
「あなた。流石にその作戦は大雑把過ぎるわ」
シリーダの疑問に答えた夫のローケンスの作戦にマリーナは呆れた。
「うむ…」
ローケンスは、ばつが悪い表情になった。
「気付いたことと言えば、時々ですが、羽が本体に戻っています。もしかしますと、魔力の補充を行っている可能性が高いです」
「そうね。それに、羽が一斉に本体に戻ってはいないみたいだから、時間が関係しているよりも魔力消費に関係している可能性が高いわね」
ウルミラとジャンヌは、お互い気付いたことを述べた。
激しい魔法攻撃の嵐の中、クスクスとシリーダの笑い声が聞こえたので、ジャンヌ達は視線を向けた。
「何か間違っていた?シリーダ」
訝しげな表情をしながらジャンヌは、シリーダに尋ねた。
「いえ、申し訳ありません。ただ、お二人がまるで先代の魔王様や修羅様みたいだなっと思いましたので、つい…」
シリーダは、口元に手を当て答えた。
ジャンヌとウルミラ以外の皆も納得し笑顔で頷いていた。
「このぐらいのことは、シリーダ達も気付いていたでしょう?」
「そうですけど。でも、ジャンヌ様やウルミラと同い年頃でしたら、絶対に気づきませんでしたわ」
「そうだな」
シリーダに肯定したローケンス。
他の皆も頷き我が子のように嬉しがった。
「きゃっ。さ、作戦はどうしますか?」
褒められ恥ずかしくなったウルミラは、オドオドし、危うくワルキューレの攻撃に当たりそうなった。
「ウルミラ、大丈夫?作戦のことだけど。一番危険な役目をローケンスに任せたいの。良いかしら?」
「はい、任せて下さい」
「感謝するわ、ローケンス。では、ローケンスはワルキューレに近づいて接近戦に持ち込んで欲しいの。もちろん、私達が援護するわ。その際、隙があればマリーナさんも接近して下さい。そして、ワルキューレに隙ができたら一気に倒すって作戦なんだけど。どうかしら?」
「なるほど。いい作戦です」
「ええ、そうね」
ローケンスとマリーナが肯定し、他の皆も頷いた。
「では、この作戦でいくわよ。早く修羅様に合流し、先代の魔王様を解放するわよ」
「「了解!」」
ジャンヌを見たローケンス達は、目を大きく開いた。
ジャンヌの瞳には力強さが宿っており、体から発している覇気は、まるで先代の魔王を思わせるほどだったからだ。
ジャンヌの覇気を感じたローケンス達、誰もが歓喜し震え、体の内側から力が湧いてくる。
ローケンス達は、行動に移った。
先程とは比べ物にならないほど視界が広がり、相手の動きがよく見え、身体も軽くなったかのように素早く動けた。
所謂、ゾーンに入り、己の100%の力が引き出せていた。
「オォォ」
歓喜に震えているローケンスは、うっすらと笑顔を浮かべ大剣を両手で肩に担ぎ、多くのワルキューレの羽に囲まれていたが、気にせずに一直線に雄叫びをあげたなが、ワルキューレ本体に向かって走る。
無論、羽はローケンスに攻撃しようとする。
「させないわ。ファイア・ボール」
「させません。アイス・ボール」
「エア・ショット」
しかし、ローケンスを囲っている羽は、魔法を唱えようと輝いた時、ジャンヌ達の魔法やニールが投石、シリーダの鞭によって迎撃され発動できずに弾き飛ばされた。
ローケンスを囲っていた羽は1枚もなく、真正面にワルキューレ本体をはっきりと捉えたローケンス。
「警告。ホーリー・ランス」
ワルキューレは右手をあげ、目を紅く点滅させながら、自分の上空に光の槍を10本を召喚した。
そして、右手を振り下ろし放った。
それと同時に安全を考慮して、ジャンヌ達を襲わしていた羽を戻そうとしたワルキューレだったが、羽は、またしてもジャンヌ達に迎撃され、1枚も戻すことができなかった。
「とぉ、オラァァァ」
ローケンスは、ジャンプして回避し、そのまま斬りかかった。
さらに、ワルキューレの左側からマリーナも詰めていた。
「貰ったわ!」
「オォォ」
マリーナは全力疾走で勢いをつけたままワルキューレの心臓部を狙って突きを放ち、ローケンスは降下しながら大剣を振り下ろした。
「エア・ウォール」
ワルキューレは、自身を覆うように風の壁を球状に造りだし、ローケンスとマリーナを吹っ飛ばした。
「ぐぉ」
「きゃっ」
ニールはローケンスを、シリーダはマリーナを受け止めた。
ジャンヌとウルミラは、ワルキューレの攻撃からローケンス達を守ろうと警戒していたが、ワルキューレは予想外な行動に出る。
「ホーリー・メテオ・ノヴァ・バースト」
「「えっ!?」」
ワルキューレが禁術を唱えたのだが、ワルキューレからは魔力が感じとれなかったので、疑問が浮かび、ワンテンポ遅れジャンヌ達は、皆同時にすぐにあることに気付いた。
迎撃した無数のワルキューレの羽が1枚も見当たらなかったのだ。
「まさか…」
ワルキューレが放ったホーリー・メテオ・ノヴァ・バーストの光に大成が呑み込まれる姿が、一瞬頭に過ったジャンヌは、顔を青ざめながら恐る恐る呟いた。
そして、すぐに頭に過ったことが、訪れたかのように遠く離れた場所から轟音が鳴り響き、大爆発が起きた。
空は雲を貫き、夜空を照らす巨大な光の帆柱が発生した。
ジャンヌ達は、すぐに魔力感知をしたが大成の魔力を探るが感知できなかった。
「う、嘘…」
「た、大成さん…」
戦意喪失したジャンヌとウルミラは、その場にへたり込み、両手で口元を押さえた。
次第に、瞳から涙が溢れた。
ワルキューレは、戦意喪失して座り込んでいる2人を見逃さない。
「アース・ニードル・スパイラル」
両手を真上に挙げたワルキューレは、土魔法の禁術を発動させ、頭上に巨大な針を召喚した。
巨大な針は、その場で回転を始め、徐々に回転速度が増していく。
そして、ワルキューレがジャンヌ達に向けて手を振った瞬間、巨大な針はジャンヌ達へと放たれた。
巨大な針が迫ってきているが、ジャンヌとウルミラは、ただ呆然と他人のように、自分には全く関係ないような瞳で眺めていた。
「「ジャンヌ様!ウルミラ!」」
「ジャンヌ様!ウルミラ殿!」
ローケンス達は、2人の前に飛び出した。
「マリーナ!シリーダ!ニール!」
「ええ!」
「はい!」
「畏まりました!」
ローケンスは大剣を前に構えて、マリーナと一緒に大剣に魔力を込め、シリーダは大剣に雷属性を寄与し大剣が青白くスパークする。
ローケンスは、大剣を上に振りかざし叩きつける瞬間、ニールが大剣に触れ巨大化させた。
「でやぁぁぁ!」
巨大な大剣と巨大な高速でスピンしている針が激突した。
巨大な針は、一瞬でプリンの様に真二つに切り裂かれ回転が不安定になり、ジャンヌ達の両サイドギリギリの場所を通りすぎ、大地をえぐりながら土埃をたて遠くまで飛んだ。
ローケンスは、すぐに大剣を背中の鞘に納め、ワルキューレに視線を向けたまま提案する。
「すまないが、俺は少しの間、ここを離れ確認しに行く」
「あなた、確認って…あっ!まさか…」
ローケンスの話で、ある可能性にマリーナ達も気付いた。
「ああ、そうだ。気付いたみたいだな。あの修羅様がそうやすやすと簡単に死ぬはずがないからな」
「なるほどね。わかったわ。ここは私達に任せて、あなたは確認しに行って」
「ああ、すぐに戻るが、それまで頼んだぞ」
ローケンスは、大成がいる方角へと走った。
ローケンスは、走って数分もしないうちに、大成の魔力を感知した。
「やはり、ただ距離が離れ過ぎて感知できなかっただけだったか。無事でなによりだ。それにしても、何という魔力なんだ。これが魔王と呼ばれる者同士の戦いか……」
大成と先代の魔王の魔力を肌で感じたローケンスは生唾を飲み、一時だったが呆然と立ち尽くしていた。
「……いかん。俺としたことが、気を取られていた。一応、念のためにレゾナンス」
ローケンスは、大成と連絡をとる。
その頃、マリーナ達3人は、戦意を失ったジャンヌとウルミラを庇いながら、ワルキューレの猛攻を凌いでいた。
「アイス・ミサイル、ファイア・アロー、エア・カッター、シャドウ・ボール」
羽は、まだ戻って来ていないが、それでもワルキューレは、複数同時に魔法を発動させ、雨のように放つ。
「くっ、2人とも。いつまで、座り込んでいるの。早く立ち上がりなさい」
「マリーナ様の言う通りです。今はお辛いかもしれませんが、立ち上がって下さい。それに、あの修羅様のことです。きっとご無事のはずです。ただ、今は距離が離れ過ぎて、魔力感知できないだけですよ。きっと」
「「!!」」
ニールの言葉で、2人も気付いて俯いていた顔をあげた。
その時、ジャンヌ達の周りに魔力が集束し、レゾナンスが発動した。
相手はローケンスからだった。
「ジャンヌ様。修羅様はご無事です。あと修羅様からの伝言があります。もう少しワルキューレを惹き付けるか遠ざけるかして欲しいとのことです」
「そ、そう!無事なのね!わかったわ。ありがとうローケンス」
「いえいえ。それでは俺は、そちらに戻ります」
「ええ、そうして頂戴」
「畏まりました」
ローケンスの報告を受けたジャンヌ達の顔は明るくなった。
「うふふ…。修羅様が、ご無事で良かったですわね。ジャンヌ様、ウルミラ。ご無事だとわかれば、早くワルキューレを倒して、急いでお二人の王子様の所へ向かいましょう」
シリーダは口元に手を当て、悪巧みしているような表情で、ジャンヌとウルミラを見つめウィンクした。
「「~っ!!」」
泣いて真っ赤だった2人の顔が、徐々に違う赤みが加わり、更に真っ赤になった。
「お、お、王子様じゃないわ!勘違いしないでほ、欲しいわシリーダ」
「ふぇぇぇ」
2人は恥ずかしくなって、ジャンヌは早口になり、ウルミラは再び両手で顔を隠し悲鳴をあげた。
マリーナとニールは、ワルキューレの猛攻を必死に凌いでいる最中だったが、そんな2人を見てホッとした。
「ゴッホン。心配かけて、ごめんなさい。もう大丈夫よ。それより、羽が戻って来ないうちに倒しましょう。申し訳ないけどマリーナさん。もう1度、接近して貰えるかしら?」
ジャンヌは、わざとらしく咳払いをし、体裁を取り繕った。
「フフフ…なるほどね。わかったわ」
ジャンヌを見て、マリーナは微笑みながら了承した。
「助かります。では、他の皆は先程と同じで行くわよ」
「あの、姫様。申し訳ありません。それだと…」
先程と同じになると思ったウルミラは、ジャンヌの作戦に不安があり、申し訳なさそうな表情になった。
「大丈夫よ、ウルミラ。マリーナさんには申し訳ないけど囮になって貰うわ。防御壁が消えた瞬間をあなたと私が接近して討つのよ。わかりやすく言うと時間差攻撃をするの。いいわね?ウルミラ」
ジャンヌの言っている意味は理解したウルミラだったが、心配そうな目でマリーナを見た。
「ウフフ。私のことは心配要らないわ。ウルミラちゃん」
「そうですか…」
「では作戦開始!」
「「了解!」」
ジャンヌの掛け声と共に各自離れ、お互いがサポートできる距離をとった。
「ホーリー・ランス、ライトニング・ショット」
ワルキューレは、ジャンヌ達に均一に魔法攻撃をした。
「ヤァァ」
ジャンヌ達は無理に距離を詰めず援護する中、マリーナだけは全速力でジグザグに走り、ワルキューレの攻撃を回避しながら一気に距離を詰めていく。
シリーダとニールはずっと援護しているが、ジャンヌとウルミラは途中で援護を止めてタイミングを窺っていた。
「そろそろ来るわよ。ウルミラ」
「はい!」
ジャンヌとウルミラは、武器を握っている手に力が入る。
ガーディアンは基本、行動パターンが決まっているのが常識なのだが、この時ジャンヌ達は誰も、ワルキューレは違うとは思っていなかったのだ。
そのため、属性が変わるかもしれないがワルキューレは障壁を作り出すと思っていた。
「フラッシュ、アース・ニードル」
ワルキューレは、光魔法フラッシュ発動し体全体が発光し、続けて土魔法アース・ニードルを唱えた。
ジャンヌ達は、ワルキューレが防御壁を作ると思っていたので、目を庇うことができず、目が眩んだ。
「「くっ」」
「「うっ」」
ワルキューレは、今度は接近するマリーナだけでなく、接近していないジャンヌ達にも接近させないように、全員の足元付近に長さ1,5m土の針を1人につき5本ずつ作り出した。
大して接近していなかったジャンヌ達は、腕を目元に挙げ光から目を庇いながらバックステップして、土の針をどうにか回避できたが、マリーナはワルキューレの間近まで接近していたので、目を庇うことができず光を直視してしまった。
さらに、全力疾走中ので、ジャンヌ達みたいにバックステップおろか方向転換が間に合わない。
「マリーナさんっ!」
「「マリーナ様っ!」」
「アース・クラックッレ!間に合え!」
ジャンヌ達の悲鳴に似た叫び声をあげたと同時に、ローケンスが魔法を詠唱する声が聞こえた。
大地が揺れ地鳴りが響き、マリーナの真横から地面に地割れが発生した。
土の針はマリーナに届かず地割れに呑み込まれ、再び大地が揺れ地鳴りが響きかせながら地割れが閉じた。
「ありがとう、あなた。助かったわ」
マリーナは、お礼を言いながら、ワルキューレに一歩近づき捉えた。
だが、上空から大成のところに行っていたワルキューレの羽が本体の元へと戻ろうとしていた。
「遅いわ。シックス・スピア」
羽が本体に戻る前にマリーナは、超高速6段突きを放った。
6段突きは、6本の剣で同時に攻撃をしたかと思うほどのスピードと鋭さがあった。
マリーナは、ワルキューレに魔法を唱える隙を与えていなかったので、魔法で防ぐことや攻撃をして迎撃ができず決まったと誰もが思っていた。
しかし、ワルキューレ本体に戻りかけていた無数の羽は本体に戻らず、周りに一定の間隔の距離をとり魔力を放った。
魔力により羽同士が結び付き、半球状だがサッカーボールと同じ五角形と六角形の模様の魔力障壁を作り出したのだ。
「「えっ!?」」
マリーナは、放ったシックス・スピアが、ワルキューレが作り出した障壁に阻まれ、弾かれて全員は驚愕した。
「ホーリー・バースト」
羽は障壁を解除し本体に戻り、ワルキューレは障壁を解除と共に、右手をマリーナに向けて光魔法ホーリー・バーストを唱えた。
「っ!!」
弾かれた反動で体が硬直しているマリーナは、目を大きく開き息を呑んだ。
時間にすれば一瞬の時だったが、マリーナにとっては、永遠の時のように感じ、ワルキューレの右手に膨大な魔力が集束し、白く輝きを強めていくのを、ただ黙って見ていることしかできなかった。
そんな時だった。
「させませんわ」
発動間近で、シリーダは電撃を纏った鞭でワルキューレに攻撃した。
ワルキューレは、大きくバックステップして回避し距離をとった。
ジャンヌ達はマリーナに駆け寄った。
「大丈夫か?マリーナ」
「ごめんなさい。マリーナ」
「気にしないで下さいジャンヌ様。私達も、予想外だったわ。それに、シリーダのお陰で、なんとか無事に済んだから大丈夫よ。助けてくれてありがとう。シリーダ」
「お気になさらずに」
シリーダは、首を振りながら笑顔で答えた。
「ありがとう、シリーダ。まさか、あんなことも出来るなんて…」
ジャンヌは手を顎に当て深刻な表情で呟いた。
ワルキューレは、そこから動いてはいないが、体がうっすらと輝いていた。
「えっ!?アレは、もしかして自然の魔力を吸収して魔力を回復しているでわ!?」
「そのようですな。これだと、ワルキューレには隙が…」
ウルミラとニールの表情が暗くなった。
他の皆も、必死に対策を考えるが何も思い付かず、暗くなっている。
その時、ジャンヌ達にレゾナンスが発動した。
相手は大成だった。
「俺だ。大成だ。どうにか魔王を気絶させ無力化には成功したが、魔力が消費しすぎてサンライズが唱えなれない。気付いているとは思うが、1分もしないうちに、そちらに大軍が押し寄せてくる。できれば、魔力を回復に専念したい。そこで40分…いや30分で良い。時間稼ぎをして欲しい。だが、決して無理はするな」
「「……」」
大成の報告に驚愕したジャンヌ達は、目を大きく開き呆然とした。
「ん?どうした?」
「「了解!!」」
「うぉ!?」
突然にジャンヌ達が、大きな声で返事をしたので、大成は驚いた。
暗く重かった雰囲気が、大成の報告で一気に消し飛び、明るくなった。
「大成さん。心配には及びません。お母様やマキネさん達も、すぐにこちらに合流するので大丈夫です」
「そうよ。こっちは、安心して任せなさい。大成は魔力の回復に専念しなさい」
ウルミラとジャンヌの声は嬉しそうだった。
「ああ、頼むよ」
大成の声は、何も疑うことがなく、信頼しきっていると伝わったジャンヌ達は、心から嬉しく感じた。
そして、レゾナンスが解除された。
ジャンヌ達の瞳には力強さが戻っていた。
「聞いたわね。ここからが正念場よ。ローケンスとマリーナさん、それにシリーダはワルキューレを。私とウルミラ、ニールは大軍の相手をするわ。お母様達と合流次第、私達もローケンス達に手を貸すわ。もし、抜かれた場合は、私が追いかけて対処するわ。いいわね?」
ジャンヌは、右手の剣を夜空の月に掲げ、剣が月の光を反射させ、辺りを照らした。
「「ハッ!」」
ローケンス達が了承したとともに、森の四方向から次々とレッド・ナイツが現れる。
大軍なのだが、気配と足音を消しているため、場所や何人いるか全体の把握が困難だった。
「くっ、ウルミラ」
「は、はい!」
「「アース・ウォール」」
レッド・ナイツの全体の把握が困難なため、ジャンヌとウルミラは、レッド・ナイツの前に巨体な土の壁を作り出し行動範囲を絞ることにした。
「「……」」
レッド・ナイツ4つの部隊は、皆が無表情で、それぞれの先頭を走っている数十人が壁に背中を押し当て仲間の方へと向き、両手を伸ばした。
後ろから来た仲間が、次々に腕や肩などを踏み台にしてジャンプをし壁を飛び越える。
「ファイア・アロー」
「アイス・ミサイル」
「突破させませんよ」
ジャンプして壁を飛び越えてくるレッド・ナイツ達をジャンヌ達は、炎の矢や氷の矢、巨大な鉱石を飛ばして迎撃し、壁の外側に押し返した。
しかし、全員を迎撃はできず、3名が入ってきた。
「むっ!ジャンヌ様、ウルミラ殿」
「ええ、わかっているわ」
「はい、この部隊は危険です」
迎撃したジャンヌ達は、押し返すことが目的だけでなく、倒すために放った攻撃は、魔力を込めた剣で防がれたことを気付き、レッド・ナイツがただ者ではないと判断した。
レッド・ナイツは、繰り返し飛び越えようとし、ジャンヌ達は浸入してきたレッド・ナイツよりも、これ以上浸入を阻止しないと手がつけられなくなるため迎撃をするしかなかった。
だが、レッド・ナイツの背後から、追いかけていたミリーナとウルシア達が追い付き、マキネ、イシリア、マーケンス達の隊も続々と追い付く。
「お母様やマキネ達が、追いついたみたいわね」
「はい!そうですね」
「これで、一安心ですな」
ジャンヌ達は、壁の向こう側が見えないがミリーナ達の魔力を感知し、レッド・ナイツの進行も止まったので、ホッと胸をおろしていた。
「突撃!」
「「ウォォォ」」
ミリーナの号令と共に、騎士団とレッド・ナイツの戦闘が始まった。
「これで、どうにか時間を稼げそうね」
「そうですね」
「はい」
ジャンヌに笑顔で肯定するウルミラとニール。
だが、入ってきていたレッド・ナイツ3人は、そんなジャンヌ達を敵と見なし襲いかかる。
ジャンヌ達は警戒していたので、既に構えていた。
「申し訳ないけど、ここから先は行かせないわ。ハッ!」
ジャンヌは、接近してきたレッド・ナイツ1人に左手の剣を振り下ろした。
「……」
レッド・ナイツは、無言で右手の剣を斜めに構え、ジャンヌの斬撃を受け流し、左手で腰に掛けてある短剣を抜きながら、ジャンヌの首を狙い突きを放った。
「~っ、ヤァッ!」
ジャンヌは首を傾け、ギリギリでレッド・ナイツの突きを回避し、右手の剣でレッド・ナイツの胴体を凪ぎ払った。
「……」
斬られたレッド・ナイツは致命傷を負い、後ろに倒れていく中、右手の剣をジャンヌに向かって投擲した。
「えっ!?きゃっ」
反撃がくるとは思っていなかったジャンヌは、不意をつかれ悲鳴をあげながら、咄嗟に左手の剣を振るい、たまたま弾くことに成功した。
「な、なんなの…」
倒したレッド・ナイツの強さと執念を目の当たりにして、ジャンヌは背筋がゾッとした。
「あの、大人しく退いて頂けないでしょうか?」
「……」
ウルミラは、接近してくるレッド・ナイツに優しく話しかけたが、レッド・ナイツはスピードを落とさず接近する。
「残念です。仕方ありません。ハ~ッ!」
ウルミラは、接近してくるレッド・ナイツに向かって矛で横に凪ぎ払った。
「……」
レッド・ナイツは、ジャンプして回避し、そのまま剣を両手で持ち振り下ろした。
「ぐっ」
ウルミラは、両手で矛を上に持ち上げ防いだが、
レッド・ナイツの斬撃は、腕の力だけでなく、ジャンプしたことで体重などが加わっており、斬撃は重かった。
「……」
レッド・ナイツは、左手で腰に掛けてある短剣を抜き、連撃を繰り出す。
「くっ」
ウルミラは、矛を短くして短剣ぐらいの長さにし対応したが、斬撃を受け流されたりして、戦いづらく苦戦を強いられた。
「えいっ!やぁっ!」
鍔迫り合いになった時、力で押してレッド・ナイツの体勢を崩し、矛の長さを元に戻して一歩踏み出し、斜めに振り下ろして斬った。
「……」
「えっ!?」
終わったと思っていたウルミラ。
しかし、斬られたレッド・ナイツは倒れながら右手で矛を鷲掴みして引き寄せ、左手の短剣を振るった。
「くっ」
ウルミラは、矛から手を離して距離をとり、どうにか斬撃を避けることができた。
レッド・ナイツは口から吐血し、矛を握ったまま仰向けに倒れた。
「あ、危なかったです…」
レッド・ナイツは既に息途絶えていたが、ウルミラは警戒しながら近寄り、矛をとった。
ニールは、接近してくるレッド・ナイツに、自らもダッシュして接近した。
「申し訳ないですが、倒させて頂きます。ハッ、ハッ、ハッ!」
連続で蹴りを繰り出すニール。
「……」
レッド・ナイツは、2発を回避して、蹴りの速度を把握し、3発目を剣で迎撃しようとした。
「ほう、対応できるとは…。ですが、あまい」
ニールは、足を巨大化させ間合いをずらした。
レッド・ナイツは、避けることができないと判断し、両手をクロスに構え、バックステップして威力を殺したが、何度も地面をバウンドしながら転がる。
「見事な判断です」
ニールは、はなしかけ吹っ飛ばしたレッド・ナイツを追いかける。
「これで、終わりです」
「……」
回り込んだニールは終わりを宣言して殴ろうとした時、レッド・ナイツは転がっている最中、右手の剣を投擲した。
「おっと」
身体を傾け避けるニール。
レッド・ナイツは、ニールが剣に視線を向けている隙に、左手で腰に掛けてある短剣を抜き、転がっている勢いを利用して、ニールの喉仏を狙い短剣を振り抜く。
思いもよらない反撃にニールは驚愕した。
「な、なんとっ!?」
ニールは慌てて首を傾け、剣は頬を掠めた。
「あなたを侮っていました。申し訳ない」
ニールは、謝罪しながら拳を振り上げ、巨大化し鉄槌を下した。
「……」
轟音とともにレッド・ナイツは地面にめり込んだ。
ウルミラとニールの2人は、ジャンヌのところに集まった。
「皆、大丈夫?」
「はい」
「どうにか」
各自、レッド・ナイツを撃退したが、レッド・ナイツの異様な執念と強さを知り、状況が悪い方向へと向かっていることを感じていた。
「ローケンス達には悪いけど。ニール貴方はローケンスに行って欲しいわ。ウルミラは、私と一緒にお母様達の援護しに行くわよ」
「わかりました。私も嫌な感じがします。もし…あの大軍全員がこの人達と同じ強さだった場合、大変なことになります…」
「ええ、まるで大成やマキネみたいな戦い方だったわね」
「はい…」
「ですな…」
ジャンヌ達はミリーナ達、ニールはローケンスの元へと向かった。
ジャンヌ達の悪い予感が当たっていた。
「な、何なんだ!?コイツら。気を付けろ!強いぞ。うぁ~」
騎士団は攻撃するが、レッド・ナイツに受け流されて、もう片方の武器で反撃され、次々に倒されていく。
「嘗めるな!どうだ!ハハハ…」
騎士団は、レッド・ナイツの背後から剣で攻撃して斬りつけ高尚した。
「……」
「ハハハ……ハ!?な、何!?ぐぁ」
斬りつけられたレッド・ナイツは、倒れずに振り返り、斬りつけ高尚している騎士団を斬った。
「ほ、本当に、何なんだよ!お前ら~がはっ」
数で勝っているはずの騎士団だったが、レッド・ナイツの強さもあるが、それよりも執念に恐怖心を抱き、実力が出せなくなっていき次々に倒され押されていく。
そんな中、マキネは両手に沢山の手裏剣を持ち魔力を込めレッド・ナイツ達に放った。
しかし、全て弾かれる。
「流石、流星さんの隊だね。私も本気を出さないと危ないかも。ちょうど試したい物もあるんだよね」
苦戦を強いられている中、マキネは楽しそうな表情で、大成からヘルレウスになった祝に貰ったミサンガを足首につけていた。
ミサンガには魔鉱石が編み込めており、マキネはミサンガに魔力を込めた。
マキネの両足が青白くスパークし、笑みを浮かべた。
「君達は、私のスピードについて来れるかな?雷歩」
一瞬でレッド・ナイツに接近したマキネは、大成から貰った短剣で、対応できていないレッド・ナイツを斬り倒した。
レッド・ナイツは、斬られても反撃しようとしたが、すでに目の前にはマキネの姿がなくそのまま倒れた。
マキネは、次々に騎士団と交戦中のレッド・ナイツを優先的に斬り伏せて助けていく。
中には、対応できた者もいたが、マキネは短剣が防がれた瞬間、短剣に魔力を込めることで放電することにより感電させ、動きを封じた時に、斬っていった。
そして、マキネが通った跡には青白くバチバチとスパークしている。
雷歩は、雷属性を極めた者しか使えない技術をマキネは短時間で使いこなしていた。
「助けて頂き、ありがとうございます。助かりました」
助けて貰った騎士団達は、感謝した。
「ふぅ~。気にしないで良いよ。それにしても、僅か28秒が限界か…。それに魔力消費が激しいな~。でも、流石私のダーリン。私にピッタリに調整してくれている。きっと、心も体も相性もピッタリだったりして…ウフフ…」
あっという間に、視界にいた殆どのレッド・ナイツ達を倒し終えたマキネは一人妄想に浸り、両手を赤く染まった頬に当てながら、体を左右に振りモジモジした。
「くっ。あ、あの、マキネ様。お取り込み中、申し訳ありませんが助太刀を…。マキネ様~」
「もう、ダーリンったら、ウフフ…」
「ま、マキネ様~」
マキネの近くで戦っていた騎士団は、必死にマキネに助力を要請したが、マキネは妄想に浸っており、声が届かないでいた。
マキネから少し離れた場所では、イシリアとマーケンスが協力しながら戦っていた。
「やっ!気を付けなさいよ、マーケンス。倒したと思っても油断したらダメよ。この人達の執念は異常だわ」
「ハアッ!わかっているぜ」
イシリアとマーケンスは、お互い背中を合わせ、お互いをサポートして戦っていた。
「くっ、あっちが圧されているな。俺が助けに向かうぜ」
「わかったわ。だけど、大丈夫なの?マーケンス」
「何が?」
「一対一では心配していないけど。今回みたいな団体戦は、苦手でしょう?」
イシリアはマーケンスを心配した。
確かに、マーケンスは、大成から大剣の扱い方を教えて貰い、見違えるほど格段に大剣の扱い方が上手くなっている。
しかし、やはりマーケンスの身体では、大剣は大き過ぎて敏捷性にやや劣っていた。
一対一ならば、周りを気にせず一人に集中でき、ねじ伏せることができるが、大勢では嫌でも敏捷性が必要になるからだ。
「ああ、確かに前までは苦手だったけど、今は心配ないぜ!この大和から作って貰った大剣があるからな。これには、それを克服する能力が備わっているんだ。ただ、魔力消費が激しいと言われたけどな」
仕方ないと言いながらも、マーケンスの表情は嬉しそうだった。
「はぁ~、そうなの?なら、心配ないわね」
そんなマーケンスを横目で見たイシリアは、1度溜め息し、あっさりと了承した。
もし仮に大成以外の他人が作った武器なら止めるつもりだったが、一番信頼をしている大成が作った武器なら疑う余地がなかったので、あっさりと了承した。
「あ…ああ、そういうことだ。行ってくるぜ。イシリアも死ぬんじゃねぇぞ」
普段だと止められると思ったマーケンスは、一瞬呆けた表情になったが、すぐに元の表情に戻り、悪戯な表情で言った。
「あら、マーケンス。誰に物を言っているのかしら。って…」
頬をつり上げながらイシリアは、マーケンスに文句を言おうとしたが、既にマーケンスの姿が見えなくなっていた。
「もう!」
口を尖らせたイシリア。
「まぁ、良いわ。私もそろそろ、大成君が私のために作ってくれたこの剣の性能を試してみたかったのよ」
イシリアも先程のマーケンスと同じで、嬉しそうな表情になっており、クルクルと剣を回した。
「申し訳ありませんが、皆さん離れて下さい」
「「ハッ!」」
騎士団達は、大きくバックステップをし、レッド・ナイツ達から距離をとろうとしたが、レッド・ナイツ達は騎士団達を追いかける。
「エア・ショット」
左手を前に伸ばしたイシリアは、空気を圧縮した弾丸を放ち、レッド・ナイツ達を牽制し、接近を阻止した。
「よし、ふぅ~」
イシリアは、1度瞳を閉じ大きく深呼吸をして集中力を高め、自分の胸元に剣を掲げた。
ゆっくりと徐々に剣に魔力を込めると剣の刀身に魔法陣が浮かび上がり、緑色に輝いた。
イシリアは、ゆっくりと目を開き、呪文を唱える。
「デス・ストーム」
イシリアの背後左右に巨大な魔法陣が2つが現れ、その魔法陣から巨大な竜巻が2つ発生した。
「いくわよ」
イシリアが剣を横に振ったと同時に、竜巻はレッド・ナイツ達に襲いかかる。
レッド・ナイツ達は、各自最小限の動きで竜巻を避けた。
避けられた竜巻は地面をえぐり、すぐさま生き物ようにレッド・ナイツ達を再び追いかける。
まるで、その動きは生きた蛇のようだった。
そして、竜巻はレッド・ナイツを捉える。
竜巻が直撃したレッド・ナイツは、鎧が粉々になり、鎌鼬に全身が切り裂かれ、吹っ飛ばされた。
このデス・ストームは、マルコシアスが使っていた技で、マルコシアス以外誰も使えないと思われていた魔法だった。
大成は、マルコシアスと戦った時、デス・ストームを間近で見た。
デス・ストームはユニーク魔法ではなかったことで、グリモア・ブックに自動的に魔法陣が記載されたのだった。
竜巻は、次々にレッド・ナイツ達を飲み込み葬っていく最中、レッド・ナイツ数人が竜巻に向かって走りイシリアに襲いにかかる。
竜巻は一人、また一人とレッド・ナイツを呑み込んでいくが、イシリアのところに1人だけ辿り着く。
レッド・ナイツは、イシリアに接近しながら、腰に掛けてある短剣を左手で抜き、イシリアに迫る。
素早いスピードでレッド・ナイツが迫ってくるが、イシリアは落ち着いており、剣を構えてタイミングを見計っていた。
「今!」
イシリアは、一瞬だけ目を大きく開き、自らもダッシュして接近した。
「ファイブ・スピア」
イシリアが放った5段突きは、5本の剣を同時に突かれたと思うほど鋭く速かった。
イシリアの剣は魔力を込めると、剣の重さは鳥の羽1枚の重さに変化するので、今まで4段突きが限界だったのが、軽くなったことにより5段突きができるようになっていたのだ。
「……」
レッド・ナイツは、左右の剣と短剣で必死に防ごうとするが、全ての突きを防ぐことができず、突き2発が決まり倒れた。
「さ、流石、ローケンス様とマリーナ様のご息女だな」
「ああ、あの竜巻は凄まじかった。しかも、まるで生き物ように追尾していたよな」
「ああ。それに、最後の突きは、あと少しでマリーナ様の技に迫るほどに鋭く速かった」
「あの歳で、ここまでお強いとは…」
騎士団はヒソヒソと会話をした。
「はぁ~。ある程度片付いたわね」
一息ついたイシリアは、騎士団達の会話が聞こえていたが気にせず、剣を見つめていた。
今は気にしていないが、昔は親のことを持ち出され、何でも出来て当たり前の様に思われ言われるのが嫌いだったが、大成は自分を見てくれるので、心の底から嬉しかった。
「それにしても、剣が軽くなることは知っていたけど。まさか、ここまで軽くなるなんて、思ってもみなかったわ。それに、私があの神獣マルコシアスと同じ魔法が使えるようになるなんて、夢にも思わなかったわね。使用している自分でも、恐ろしく感じるほどの威力があるし。しかも、まるで自分の体の一部のように、意思で自由自在に操作できるなんて…。この武器は自分でも反則だと思えるわね」
イシリアは、苦笑いを浮かべた。
その頃、マーケンスは仲間の騎士団が圧されていたので、助けに向かっていた。
「うぉりゃ~」
マーケンスは、木の上から跳び降りながら、大剣を振り下ろした。
「……」
レッド・ナイツは、バックステップをして回避した。
「チッ、やはり当たらないか」
マーケンスが大剣で叩きつけた地面は大きく凹んだ。
騎士団達は、すぐにマーケンスを守るように周りを囲み、レッド・ナイツ達は、そんなマーケンス達を囲んだ。
「お逃げ下さい、マーケンス様」
「ナカルの言う通りです。お早く、ここから離脱してください。奴ら、今まで戦ってきた者達と違い、異常です。ここは私達が命を懸けて、お時間を稼ぎますので、その間に……」
騎士団達は、必死にマーケンスを逃がそうとした。
「気持ちはありがたいが、まずは落ち着け。俺は大丈夫だ。あまり、この力は魔力消費が激しく、使いたくなかったが。まぁ仕方ないな。安心して見てなよ」
言葉とは裏腹に使いたくって仕方ないという表情のマーケンスは、騎士団達を落ち着かせながら前と出る。
そして、大剣を片手で掲げ、大剣に魔力を込めた。
「ガーディアン・ナイト」
マーケンスが唱えたと同時に大剣がベージュ色に輝き、光はマーケンスの全身を覆った。
「うっ、な、何だ。あれは?」
騎士団の一人が、マーケンスを見て驚いた。
マーケンスは全身に鎧を纏い、その背後には、背丈1.5mの上半身しかない巨大なガーディアンが宙を浮かんでいた。
そのガーディアンは、右手には剣、左手には盾を握っていた。
「行くぞ!ウラァァ」
マーケンスは、正面にいたレッド・ナイツに接近した。
背後に召喚したガーディアンが剣を振り下ろし、レッド・ナイツに攻撃する。
レッド・ナイツは、左に移動して回避した。
「ここだ!」
レッド・ナイツが回避した瞬間、マーケンスは大剣を思いっきり真横に凪ぎ払った。
「……」
レッド・ナイツは、持っていた剣で防いだが、力負けをして後ろにズリ下がり、体勢が崩れた。
「とりゃっ!」
隙を見逃さなかったマーケンスは、距離を詰め大剣を振り下ろした。
レッド・ナイツは両手で剣を持ち防いだが、体勢を崩しており力が入らず、一瞬で地面にめり込み意識が途絶えた。
マーケンスが一人倒したと同時に、左右からレッド・ナイツ4人が襲いかかる。
「「マーケンス様!」」
騎士団達は、マーケンスに駆け寄ろうとしたが、他のレッド・ナイツ達に阻まれ、傍に駆けつけることができない。
レッド・ナイツ4人は、剣を振りかぶった。
「お前達、忘れてないか?こいつを」
マーケンスは、襲ってくるレッド・ナイツ達に振り向きもせず、細く笑った。
それと同時に背後にいるガーディアンが、掬い上げるように盾と剣を使って攻撃を弾き、レッド・ナイツ達を軽く空中に浮かばせた。
「そこだ!貰った」
弾かれたレッド・ナイツ全員は、胴体が隙ができていたので、マーケンスはその場で回転しながらレッド・ナイツ全員の胴体を凪ぎ払った。
「このガーディアンは、便利で強いのは良いんだけど。何というか…。勝った気にならないんだよな。やはり、ガーディアンの力を使わず、俺個人の力で勝ちたいぜ…」
どうしても納得できないマーケンスだったが、今の自分は力がないので、渋々といった感じで納得し倒していく。
このガーディアンは、他のガーディアンとは違い、気配と魔力感知の共有、意思での操作ができる。
だがその代わり、普通のガーディアンとは違う。
普通のガーディアンは召喚時だけの魔力消費で終わるが、このガーディアンは召喚時は勿論、維持している最中も、ずっと魔力が消費する。
ちなみに、このガーディアンには他の種類もある。
弓で攻撃するアーチャー。
大剣で攻撃するウォーリア。
双剣のシーフ。
魔法で攻撃するウィザード。
素手で攻撃するグラップラー。
槍で攻撃するランサー。
両手に盾を持ち厳守するディフェンダー。
盾と剣を持つナイト。
計8種類に変化できるようになっている。
種類が豊富で良いが、他にも欠点がある。
召喚したガーディアンを途中で変化させようとする場合、魔法陣が異なるため1度解除して再度召喚しなければならない。
よって、さらに魔力を消費する。
ミリーナとウルシアの周りには、レッド・ナイツ十数人が倒れていた。
2人はお互いをサポートしながら戦いながら、マキネやイシリア、マーケンスが心配で3人の戦いをチラチラと見ていた。
勝利したミリーナとウルシアだったが、呼吸を乱しており、あちらこちらに傷を負っていた。
「この部隊は、とても危険ね…」
ミリーナは、倒したレッド・ナイツを見詰めた。
「ええ、そうね…。特にチームワークが完璧だったわ。まるで、誰かが遠くで見ながら操作していると思わせるほどに。もし一人だったら、ここに倒れているのは私だったわ。私達がお互いサポートしても危なかった場面もあったわ」
ウルシアも真剣な表情で、レッド・ナイツを見詰めた。
「ねぇ、それよりウルシア。イシリアちゃんとマーケンス君2人共、見違えるほど逞しくなっていたわね」
ミリーナは、親友のマリーナの子供のイシリアとマーケンスを我が子のように褒めた。
「そうね、ミリーナ。あの2人は、もう私達と大差ないかもしれないわね。それ以上に驚いたのはマキネちゃんの雷歩だわ」
ウルシアも嬉しそうに始めは微笑んでいたが、マキネの話題に触れると再び真剣な表情に変わった。
「ええ、魔人の国で雷歩が使えるは、私と私達の夫、それにシリーダの3人しかいないわ。あの歳で使えるだけでも凄いのに、先程のマキネちゃんの動きみたでしょう?普通、あんなに急転向したら転倒するはず。いえ、私達でも必ず転倒し大惨事になるわ」
「ええ、普通はそうなるわね。だけどあの子は、ならなかった。一体、どんなボディーバランスをしているの……?それに、もっと気になるのは魔力が低いと言っても、あの体術と武術、戦術、それに戦闘センスは申し分ないし、これほどのボディーバランスがあれば有名になっても可笑しくないほどだわ。それなのに話どころか噂すら聞いたことがないわ。聞いたことある?ミリーナ」
「いいえ、いなわね」
ミリーナは、真剣な面持ちで首を振った。
「そう…。いったい、何者かしら?あの子」
「「……」」
答えが出るはずもないと知りつつも、2人はマキネが気になり、ミリーナは左手を左頬に当て、ウルシアは顎に手を当てて考えに耽た。
マキネとイシリア、マーケンスの3人は、レッド・ナイツに苦戦し、時折武器の力を使い凌いでいたが、やがて軽い魔力欠乏症に陥り、ジワジワと追い詰められ、気が付けばお互い背中を合わせ、固まっていた。
「はぁはぁ。ねぇ、この状況不味くない?」
息を切らせながらマキネは、周りを見渡して苦笑いした。
周りにはレッド・ナイツが囲っていた。
「ハァハァ、ええ。だけど私達なら、きっと乗り越えられるわ」
「イシリアの言う通りだぜ!マキネ姉。ふぅ。それに、俺達は、これだけ頑張っているんだ。大和から何か褒美が出るはずだぜ」
3人は、レッド・ナイツを警戒したまま会話をしていた。
「それも、そうだね。何にしようかな~。あっ!」
「決まったの?で、マキネは何を頼むの?」
「ひ、み、つ!」
マキネは、人差し指を顔の近くに立て、左右にリズム良く動かしウィンクした。
気になったイシリアは、視線だけマキネの方へと向けていた。
「へ、へぇ~」
イシリアはマキネを見て、すぐに良くないことだとわかり、笑顔を浮かべたが、その顔には青筋が浮かび、消耗しているはずの魔力が一気に倍増した。
「ひぃっ」
マーケンスは、イシリアの顔を見た瞬間、笑っていたイシリアの目がドスが利いた目つきに変わり、悲鳴をあげ、身が震えるほどの恐怖を感じた。
しかし、マキネは、イシリアの顔を見ても全く気にしておらず、にこにこしている。
レッド・ナイツ達が、様子を窺うようにジリジリと近付く。
「それより、2人共、敵さん達が動くみたいだよ」
「まぁ、良いわ」
「あ、ああ…」
マイペースのマキネに指摘されたイシリアは、毒気を抜かれ渋々といった感じで答え、マーケンスは呆けた感じで答え構えた。
レッド・ナイツ達が襲いかかろうとした時、マキネの前にいるレッド・ナイツ2人は、背後から何かくると感じとり左右に移動した。
それと同時に、2人の間に他のレッド・ナイツ1人が地面をバウンドしながら転がってきた。
「「!!」」
マキネを囲っていたレッド・ナイツ達は、襲いかかるのを止め、仲間が転がってきた方へと視線を向けた。
その視線の先には、双剣を持ったジャンヌと矛を振り抜いた姿のウルミラがいた。
「お取り込み中のところ、申し訳ないわ。私達も参戦させて貰うわよ」
ジャンヌは笑みを浮かべ、ゆっくりと歩み寄る。
ウルミラは慌てて駆け足で、ジャンヌのあとを追った。
「嘘、ジャンヌにウルミラ!?何でここにいるの!?」
「えっ!?ジャンヌ!ウルミラ!どうして?」
「ジャンヌ様!ウルミラ様!」
思わぬ助っ人にマキネ達は喜んだ。
「苦戦しているみたいね」
「そういう貴方達は、すでにボロボロじゃない?」
ジャンヌの言葉でムスっとしたイシリアは、笑顔で皮肉を込めて言った。
「知っているでしょう?私とウルミラは、幹部と一対一で戦ったのよ。それより、どうしたの?イシリア。そんなにつっかかって来るなんて、貴女らしくないわよ?」
溜め息したジャンヌ。
隣ではウルミラがオドオドしている。
「それには、訳がありまして…」
マーケンスが申し訳なさそうな表情になった。
「2人共、いいな~。私も戦いたかったな」
元凶のマキネは、人差し指を口元に当て、羨ましそうな表情をした。
レッド・ナイツ達は、ジャンヌ達に襲いかかる。
「とりあえず話は後にして、まずは片付けましょうか」
「そうですね」
「そうだね」
「仕方ないわね」
「はい!」
ジャンヌの掛け声と共に、戦闘が始まった。
ジャンヌ達は、レッド・ナイツと死闘を繰り広げ、どうにか誰も死なず勝利を納めた。
しかし、魔力を使い果たしたジャンヌ達は、マジック・ポーションを飲み、ジャンヌ、ウルミラ、マキネ、イシリアの4人はその場に座り込み、マーケンスは大の字に倒れていた。
ジャンヌは、マキネ達に大成から頼まれたことを伝えた。
「そ、そういうことだったんだ…。流石ダーリンだね…。先代の魔王様に勝つなんて…」
「ハァハァ。ええ、全く凄いわね…。で、あと何分なの?ジャンヌ」
「や、約束の時間まで残り20分ね…」
「そ、そうですね…」
「あと、少しだな…」
体に力が入らないほど疲弊しきっていたジャンヌ達だったが、もうすぐこの戦争が終戦すると思い、笑顔を浮かべていた。
だが、その時だった轟音が鳴り響くと共に絶望が襲う。
ジャンヌとウルミラが作った巨大な土の壁が、ワルキューレの魔法で崩壊したのだ。
「な、嘘だろ…」
「ぎゃ~」
「ぐはっ」
土の壁で戦っていたレッド・ナイツは回避に成功したが、騎士団は押し潰され悲鳴をあげた。
そして、崩壊した場所からレッド・ナイツが次々に抜けていく。
「嘘…そんな…」
「姫様…」
ジャンヌ達は、ただ呆然と崩壊した壁を見ていた。
ジャンヌ達に魔力が集束しレゾナンスが発動した。
相手はニールからだった。
「ニールです。大変、申し訳ありません。ワルキューレの狙いが、我々でなく壁だったとは思いもせず…」
「大丈夫よニール。抜け出した部隊は、私が追いかけるわ。だけど、間に合わないかもしれないから、少しだけ足止めをして欲しいの」
「畏まりました」
ニールは、申し訳なさそうな声だった。
「姫様、私もついていきます」
「ありがとう、助かるわウルミラ」
「私達もついていくよ。ねぇ?」
ジャンヌとウルミラが立ち上がり、追いかけようとした時、マキネも立ち上がりイシリアとマーケンスを見た。
「そうね」
「だな」
賛同しながらイシリアとマーケンスも立ち上がった。
気づけば、すでにボロボロになった騎士団も立ち上がり、無言で頷いた。
「皆、ありがとう」
ジャンヌ達は、崩壊した壁から抜け出したレッド・ナイツを追った。
ジャンヌ達は、森の中を暫く走っていると、離れた場所から背丈300mに巨人化したニールが現れた。
ニールの白髪は紅に染まっていき、真っ赤になった。
「こうなった私は、容赦できませんぞ!」
ニールは、腰を下ろして周りを殴り続けた。
大地は、轟音と共に噴水のように木や砂埃が舞いあがっている。
普段、ニールは1部分しか巨大化しないのには理由があった。
魔力と力が格段に上がるが、魔力の消費が激しく、体が大きくなった分だけ被弾しやすくなる。
そして、一番の問題は長い間、巨人化すると破壊衝動が抑えきれなくなり狂暴になる。
狂暴になったニールは、敵味方関係なく攻撃をするので、ニールは極力巨人化はしないことにしていた。
だが、レッド・ナイツが大勢向かってきていた今は、そんなことを気にしている状況ではなかったため、ローケンス達に伝え、了承得て巨人化したのだ。
ニールの事情をジャンヌ達は知っていた。
ニールの周りにワルキューレの羽が群がり、魔法攻撃をする。
ローケンス達は、ワルキューレの相手で背一杯だったため、ニールの援護はできないでいた。
そのことを承知のニールは、それでも自分を囲っている羽よりも、レッド・ナイツに狙いを定め攻撃をし、全身に被弾していく。
「ぐっ、まだまだです」
ニールは血を流し、血塗れになっても、レッド・ナイツの攻撃の手をやめなかった。
レッド・ナイツは、先に進むことができず、ニールに飛び掛かり、剣で斬りつけたり、突き刺すが膨大に魔力が上昇しているニールには歯が立たず、ニールに叩き落とされた。
((お願い、間に合って…))
(間に合って下さい…)
(間に合え)
((ニール様…))
ジャンヌ達は、ニールを心配しながら必死にニールの元へと向かう。
重傷を負っているニールは、とうと両膝をついた。
レッド・ナイツ達は、一斉に飛び掛かり剣を突き立てた。
レッド・ナイツ達は、突き立てたままニールの体を駆け巡る。
魔力を消耗したニールは、レッド・ナイツの攻撃で傷を負っていく。
「ぐぁぁぁ」
悲鳴をあげながらニールは手を使い振り払い、レッド・ナイツ数人を叩き落としたが、3人は跳びニールの顔面に迫る。
叩き落とされたレッド・ナイツも、すぐにニール飛び掛かかった。
「ファイア・アロー」
「アイス・ミサイル」
「エア・ショット」
「アース・ショット」
「えいっ!」
ジャンヌ達の声が響き、ニールの顔面に飛び掛かったレッド・ナイツ3人は、背中にマキネが放った手裏剣が刺さり、刺さった瞬間、電流が流れ感電した。
再び飛び掛かったレッド・ナイツ達は、背中に炎の矢、氷の矢、圧縮した空気の弾、土の弾を被弾し、地面に落下した。
落下直後、受け身をとり、ジャンヌ達の方へと向き構えた。
ジャンヌ達も武器を握り構えた。
「もう大丈夫よ、ニール。ありがとう」
ジャンヌは、目を潤めながら優しい表情でニールに話しかけた。
「ジャ、ジャンヌ様…」
意識が薄れ目が霞む中、ニールはジャンヌ達の姿を見て、ホッとして意識を手放した。
ニールの巨体は、ゆっくりと倒れながら縮んでいき元の背丈に戻り、うつ伏せで倒れた。
「本当にありがとう。ニール」
ジャンヌは目を閉じ、もう1度お礼を言った。
瞳から涙が流れた。
「皆さん、今度は私達の番。ニールの頑張りを無駄にしないためにも、何としてもここで食い止め、この戦争を終わらすわよ」
「「オオォ!」」
「戦闘開始」
「「ウォォ!!」」
ジャンヌの鼓舞で士気が上がり、戦闘が始まった。
「ここは、できる限り私共が止めますので、その間ジャンヌ様方々は、魔力と体力の回復に専念して下さいませ」
「お気遣い、ありがたいわ。でも、一気に決着をつけてたいの」
騎士団の一人から気遣われたが、ジャンヌ達は断った。
ジャンヌ達は疲弊していたが、自ら積極的にレッド・ナイツ討伐に参戦する。
この決断が運命を左右することを、この時ジャンヌ達は気付かなかった。
「そこ!」
「ヤァァ!」
「はっ!」
「えいっ!」
「オラァッ!」
ジャンヌ達は、レッド・ナイツを順調に倒していく。
レッド・ナイツを倒していく中、ジャンヌは違和感を感じた。
「あれ?」
「姫様…」
ウルミラも違和感に気付き、戦いながらジャンヌに話しかけた。
「ウルミラ。申し訳ないけど、少しの間私を庇ってくれないかしら?」
ジャンヌは、違和感が何なのかを知るため、集中して戦場を見渡したかった。
「わかりました」
ウルミラは、ジャンヌの前に立ち、襲ってくるレッド・ナイツを倒していく。
ジャンヌは木に登り、見渡した。
「嘘…」
そして、違和感の正体がわかり、みるみる表情が青ざめていった。
違和感の正体は、ジャンヌ達がレッド・ナイツを倒して減っているが、それ以上のペースで減っていたのだ。
ジャンヌが見たのは、奥にいるレッド・ナイツ達は、ジャンヌ達と戦わず、大成の元へと向かっていたのだ。
しかも、わかりにくするため、一気に全員ではなく、2人~3人ずつ順番に森の奥へと向かっていた。
「参戦するよりも、戦況を見て指示していたら…」
ジャンヌは後悔し呟き、頭を左右に振って、今やるべきことを考え、すぐに木の上から飛び降りた。
目の前にレッド・ナイツが立ちはだかるが、無視して先に進もうとするジャンヌ。
レッド・ナイツは、剣を振りかぶった。
「姫様っ!」
ウルミラは、慌てて後ろに振り返りながら、矛でジャンヌを攻撃しようとしているレッド・ナイツを凪ぎ払った。
「どうかしましたか?姫様」
ジャンヌの動揺が気になったウルミラは、不安になった。
「ええ、大変なことになったわ。ウルミラ、マキネ、イシリア、マーケンス。私は大成の元に行くから、道を拓いて欲しいの」
「わ、わかりました」
「わかった」
「わかったわ」
「お任せを」
ジャンヌの指示で、ウルミラ達は何が起きているのかを知り、ジャンヌの前に立ちはだかるレッド・ナイツ達を倒して道を拓いた。
「ありがとう」
「ここはお任せを下さい。姫様」
「ダーリンを守ってね」
「早く行きなさい」
「これぐらいのこと、お安いです」
ジャンヌは、1度後ろを振り返り、ウルミラ達の顔見て直ぐに大成の元へと走った。
大成は、手を握ったり開いたりし、自身の感覚を確かめていた。
「まだ、ベストな状態から程遠いか…。仕方ない、時間は掛かるけど。そろそろサンライズを唱えるか。グリモア・ブック」
大成はグリモアを出し、魔王の額に右手を置き、目を閉じて集中し、右手に魔力を集中させた。
「サンライズ」
目を開いて光魔法サンライズを唱えた大成。
ミリーナとウルシアの封印を解除した時、部屋を照らすほど輝いたが、今回の輝きは極端に微弱で、魔王の体を覆う様に、うっすらと輝いただけだった。
暫く立ち、大成はずっと魔法を維持しており、額に汗が浮かんでいた。
「流石に、この状態で精密な魔力コントロールは、しんどいな。だけど、あともう少しだ。ん?」
魔力コントロールに集中していた大成は、気付くのが遅れ、気付いた時には真後ろにある木の上に何者かがいた。
気付いた直後、レッド・ナイツ2人が両手で剣を逆手に持ち跳び降りてきた。
(どうする?)
大成は悩んだ。
サンライズを途中で中断し、攻撃を避けるのは可能だが、そうした場合、今の大成ではもうサンライズが唱えられないので、魔王を正気に戻すことができなくなる。
そして、もう1つの選択は、サンライズを優先すること。
そうした場合、避けることができず、剣が突き刺さる。
「糞っ!」
後者を選んだ大成は舌打ちし、サンライズを続行した。
そして、2つの刃が大成の背中に突き刺さった。
「ど…うに…か…間に…合った…」
突き刺さったと同時にサンライズが成功し、大成は吐血しながら笑顔を浮かべ、ゆっくりと体を傾ける。
レッド・ナイツを追っていたジャンヌは、大成を発見し、ホッと胸を下ろした時、目の前で2刀の剣が大成の背中を突き刺したところを見てしまった。
「えっ!?」
ジャンヌは、初め理解ができないでいた。
しかし、すぐに理解し糸が切れた人形のように、その場にへたり込んだ。
「う、嘘よね。た、大成…」
ジャンヌは腰を浮かせ前屈みになり、左手を地面につき右手を大成の方角へと伸ばした。
大成は、ゆっくりと魔王に寄り掛かるように倒れた。
「う、嘘…。た、た、大成…。い、い、い、嫌ぁぁ~~っ!!」
ジャンヌは、両手で頭を押さえ悲鳴をあげた。
ジャンヌの悲鳴は森に響いた。
本文が長くなってしまい、申し訳ありません。
次回のタイトルは、希望を繋ぐと戦いの果てです。
もし、宜しければ、次回作も御覧ください。




