サラマンドラ討伐と動き出す流星の企み
ジャンヌはカナリーダを、ウルミラはサリーダを撃退した。
しかし、サラマンドラを召喚した2人を倒しても、サラマンドラは消えず、そのサラマンドラは、膨大な魔力を口に集束していき、ジャンヌ達がいる森に放とうとしていた。
【パルシアの森・人間の国側・夜】
月は雲に覆われ、月光が届かない森の中、マミューラとダビルド、それにノルダンのメンバー達は、木々を跳び移ったり、地面を走っていた。
「チィッ、勇者が居ねぇな」
先頭を走っているマミューラは、舌打ちをする。
「あの団長、飛ばしすぎです。部下達との距離が開いていってます」
ダビルドは、マミューラのすぐ後ろを走りながら、後方にいる部下達を見た。
「そんなこと、知ったことか!遅い奴が悪い!それよりも、なぜ勇者が居ない?大和が、来ていると言っていたから、いるはずなんだが…。チッ、糞。こんなことなら居場所を聞いとければ良かったか…。仕方ない、とりあえず1度、高い場所から見渡してみるか」
マミューラは、崖の上にある大きな木に登り、手を額に当て周りを見渡した。
「居ねぇな…。ん?ほほう…行くぞ。ダビルド」
獲物を見つけた様な獰猛な笑みを浮かべたマミューラは、口の周りを舐める。
「勇者が居ましたか?」
木の下にいるダビルドは、レゾナンスで大成に連絡を取ろうとした。
「いや、残念だが見つからなかった。だが、代わりに、面白そうな奴らを見つけた。とりあえず、行くぞ」
「「ハッ!」」
マミューラは、笑みを浮かべたまま木から飛び降り、崖の急な斜面を、走りながら下って向かう。
ダビルド達も後を追った。
ボルガ、カダル、鷹虎兄弟の周りは、地面には小さなクレーターと、ウォーター・カッターで切り裂かれた跡が幾つもあり、周囲の木々は所々燃えたり、伐られ倒れていた。
ボルガと虎の戦いは、虎が押していた。
掠り傷しか負っていない虎は、笑みを浮かべながら跪いているボルガを見つめていた。
ボルガは身体中に無数の傷と火傷を負い、特に左肩には、重度な火傷を負っており、右手で左肩を押さえていた。
「すまないが、そろそろ終わりにするぞ。誰が、一番に魔王の首を取るか競争をしているからな」
虎は、獰猛な笑みを浮かべて、一直線にボルガに向かって走る。
「くっ、ファイア・アロー」
ボルガは、炎魔法ファイア・アローを唱えて、炎の矢18発を放ち、確実に当てているのだが虎は止まらず、爆煙の中から笑みを浮かべた虎が現れた。
「なっ!?糞っ、オラッ」
接近され驚愕したが、ボルガは腰に掛けてあった剣を抜刀し、虎の顔を目掛けて突きを放つ。
「あまい!」
虎は首を横に傾けて剣が頬を掠め回避ながら、右拳のカウンターでボルガの頬を殴った。
(先程から俺の魔法が大して効いてない。しかも、魔法を唱えてないのに爆発している。まさか、ユニーク…)
「がはっ」
ボルガは対応ができず、拳が頬に直撃した瞬間、拳が爆発し、地面をバウンドしながら吹っ飛んだ。
「ふぅ~。兄貴の方は、どうなっているんだ?まぁ、心配する必要はないが」
ボルガの突きが掠めたことで、虎の頬から出血しており、虎は左手の親指で頬から流れる血を拭いながら、兄・鷹の様子を窺う。
ボルガ達の近くで戦っているカダルと鷹の戦も、一方的な展開だった。
「ウォーター・ショット」
身体中に切り傷を負っているカダルは、走りながら横を向いて、左手を鷹に向け、水魔法ウォーター・ショットを唱える。
カダルの周りに、テニスボールの大きさの水の塊が23個ほど召喚し、鷹を目掛け放った。
「今度は、数で仕掛けてきたか。良い判断だが、まだ詰めが甘いぜ」
鷹は、更にスピードを上げて回避する。
カダルは、ウォーター・カッターなど操作系魔法やウォーター・ショットなどで数で攻めたりして、色々と試みているが、一発も鷹に当たらないどころか、掠りもしていなかった。
「くっ、これでも攻撃が当たらない…。しかし、これは、流石に避けれまい?ビッグ・アクア・ウェーブ」
鷹は両手を地面につき、水大魔法ビッグ・アクア・ウェーブ唱え発動する。
手元の地面から高さ5mぐらいの津波を発生させた。
今度は範囲で攻撃を試みる。
しかし、発生させたと同時に、目の前にいたはずの鷹の声が真後ろから聞こえ、カダルは驚愕する。
「これで、終わりか?」
「なっ!?」
「確かに凄いが、当たらなければ意味がないぜ」
津波が森を飲み込んでいく中、鷹は驚愕して固まっているカダルの横腹に蹴りを入れ、吹っ飛ばした。
「がはっ」
「うわ」
カダルは吹っ飛ばされ、近くにいるボルガにぶつかり、2人は倒れた。
「す、すまない、ボルガ。大丈夫か?」
「ぐっ、気にするな。それよりも、何なんだ?お前らの、その能力は?」
普段、相手のことを気にしないボルガだったが、初めて見る相手の能力が気になり、片膝をついたまま、虎を睨みつけ尋ねる。
「教えても良いほどの能力だからな。特別に教えてやろう。俺の能力はユニークスキル、エクスプロージョン。わかりやすく言えば、俺の魔力は爆発する。兄貴は、ユニークスキル、アクセラレータ。要するに加速だ」
虎は笑みを浮かべて説明し、鷹と一緒に、カダルとボルガの目の前まで、ゆっくりと歩み寄っていく。
会話中、ボルガとカダルの2人は、静かに魔力を溜めていた。
「馬鹿め!油断しすぎだ。インフェルノ」
「これなら、どうだ!アクア・ハイドロ・キャノン」
ボルガは、その場で両手で地面につき、ボルガは炎大魔法インフェルノ唱え、虎の足元から炎が噴き上げ、虎は炎に飲まれた。
カダルは両手を伸ばし、水大魔法アクア・ハイドロ・キャノンを唱え発動し、鷹の斜め上に、大きな水の塊を召喚し、勢いよく、鷹に向かって一斉に放水し、大地との衝突で轟音が響いた。
2人は魔力を溜めていたので、大魔法が直ぐに発動できた。
「殺ったか?」
「いや、わからない。だが、大魔法だ。重傷のはずだ。それに、今までのスピードなら、避けれないと思う」
魔力も体力も限界が訪れた2人は、立ち上がることすらできず、ただ倒したことを祈ることしかできなかった。
「ワハハ…油断だと?これは油断ではなく余裕だぜ」
「ワハハ…そうだな。弟よ」
炎の中から虎の盛大な笑い声が聞こえ、虎は炎の中から顔を出し、カダルとボルガ2人の前後から、鷹と虎の声が聞こえた。
「嘘だろ…大魔法だぞ。なぜ効いていないんだ…」
「ああ、それに鷹とかいう奴は、さっきまで、目の前にいたはずだ。どこまでスピードが上がるんだ?」
ボルガとカダルは、鷹虎兄弟の異常さに驚愕した。
「確かに、お前の魔法が直撃していたら、俺でも重症を負っていたぜ。だが、言っただろう。俺の魔力は爆発するとな。わりやすく言えば、お前の炎は、俺の体を纏っている魔力に触れ爆発し、拡散して威力が落ちていたというわけだ」
ボルガの前にいる虎は笑みを浮かべたまま、ボルガの頭を左手で掴み持ち上げ、ボルガの後ろに移動した鷹も笑みを浮かべながら、右手の小型ナイフを舐めながら、左手でベルトに掛けてあるスロー・ダガーを4本取り出した。
「2人共、今のが最後の攻撃だったみたいだな。もう、魔力も体力も残っていないみたいだ。まぁ、楽しめた方だ。誇って良いぞ。なぁ、兄貴」
「ワハハ…そうだな、弟よ。お前達は、俺達を楽しませてくれた。十分誇って死にな」
「糞…だが、お前らは、決して修羅様には勝てない」
ボルガは、苦しい表情で虎を睨みつけながら笑みを浮かべる。
「ワハハ…お前達は最高だな。頭、大丈夫か?ガキごときに、俺達が負けるはずないだろ。俺は、魔力値9だ。もし、仮に俺を止めれる可能性がある奴は、同じ魔力値9の兄貴かローケンスとかいう魔人だけだ」
「違うぞ、弟よ。前、マテリアル・ストーンで見ただろう。ローケンスとかいう奴も、大したことはなかっただろう。流星ごときに手も足も出なかった無様な姿だった。所詮、魔力値だけが無駄に高い、ただの木偶の坊だ」
「そうだったぜ、兄貴。ちげえねぇわ。ワハハ…」
兄弟は盛大に嘲笑い、ボルガとカダルは歯を食い縛りながら睨めつけることしかできなかった。
「そろそろ、終わらせるぞ」
「わかったぜ。兄貴」
鷹はスロー・ダガーをカダルに向けて投擲し、虎はボルガを殴りにかかる。
ボルガとカダルは目を瞑ったが、男性が唱える呪文と女性の声が聞こえた。
「エア・アーマー」
「オラッ!」
突如、カダルに風魔法エア・アーマをかけられ、カダルの体に風の鎧が纏い、スロー・ダガーを弾き飛ばして防ぎ、マミューラは身体強化バーサークを使用しており、頭、両手、両足を強化して、気付いていない虎に急接近し、虎の横腹に跳び蹴りを入れて吹っ飛ばした。
マミューラは、虎を蹴り飛ばした直後、触れた右足が爆発した。
「ぐぉ」
虎は耐えきれず地面を転がり、触れた木々や地面などを爆発しながら急勾配を下って、最後に岩に衝突し、岩が爆発によって粉砕して虎は止まった。
「誰だ!?」
バックステップをしながら鷹は、空中で左手でスロー・ダガーを取り出し、魔力を感じた方角に投擲した。
スロー・ダガーは木に刺さり、木の影から、ゆっくりとダビルドが姿を現した。
「俺は、魔王直属暗部組織ノルダンの頭主ダビルドだ。2人共、大丈夫か?」
ダビルドは、いつでも魔法を唱えて放てるように右手を前に出して、鷹に向けたまま、カダルの傍に歩み寄り、ボルガとカダルに訊ねる。
「「大丈夫です。ありがとうございます」」
倒れていたボルガとカダルだったが、すぐに片足を地面について敬礼し感謝した。
「なら、ここから離れろ」
「「はい」」
マミューラとダビルドが鷹虎兄弟を警戒している中、マミューラが指示し、カダルはボルガの肩を担いで、その場を離れた。
「オイオイ、痛てぇじゃねぇか。しかも、今度は女か。俺を蹴り飛ばして、足が何ともなってないとはな。全く、驚きだぜ」
虎は、ゆっくりと尻に付いた土を払いながら立ち上がって坂を登り、元の場所に戻った。
「あまりにも、お前が隙だらけだったからな。そんな奴を見つけたら、普通、蹴り飛ばしたくなるだろ?」
マミューラは腰に手を当て、嘲笑うような笑みを浮かべた。
「「ククク…ワハハ…」」
マミューラの言葉を聞いた鷹虎兄弟は盛大に笑い、ダビルドは苦笑いした。
「聞いたか、弟よ。こいつは、面白い奴が出てきたな」
「ワハハ…。そうだな、兄貴。しかも、色っぺぇ美人だぜ」
兄弟は厭らしい目で、マミューラを見詰める。
「兄貴、女は俺が相手をして良いか?」
「ああ、好きにして良いぞ。本当は、俺様が相手をしたかったが、お前に熱烈な攻撃したからな。今回は、お前に任せるぜ」
「サンキュー、兄貴」
「だが、その代わり、動けなくしたら、俺様が先だからな」
「チッ、仕方ないねぇな。わかったぜ、兄貴」
鷹は不気味な笑みを浮かべ、虎は舌打ちをする。
「はぁ。男は、どいつもコイツも。なぁ、そう思わないか?ダビルド」
呆れた表情でマミューラは溜め息をし、笑みを浮かべながら、ダビルドに話かけた。
「あ、え、ゴ、ゴッホン、け、怪しからん奴らですね。団長」
「ククク…アッハハハハ…」
話を振られたダビルドは、過去、自分と同じ境遇の捨てられた子供達を集め、生きるために盗賊団ウォール・フォースターを立ち上げ、その盗賊団の団長をしていた。
その頃、初めてマミューラと出会った時、鷹虎兄弟と同じ会話をしたことを思い出して挙動不審になり、話を振られてむせた。
そのことを、マミューラは覚えており、ダビルドの反応を見て、腹を抱えて笑った。
「そ、それよりも団長。早く敵を倒しましょう」
ダビルドは、話題を変えようとする。
「ククク…。ああ、そうだな…フフ…」
マミューラは、笑いを堪えるように口元を押さえながら肯定した。
「オイ!俺様達を無視するんじゃねぇ」
「しかも、早く倒すだぁ?言ってくれるじゃねぇか」
鷹虎兄弟は激怒し、顔を真っ赤にしてマミューラとダビルドに襲いかかる。
「俺様のスピードについて来れるか?死ねぇ!」
鷹は、ダビルドの周りを走りながらスロー・ダガーを投擲する。
投擲されたスロー・ダガーは、途中で不自然に一気に加速した。
「なるほど。動きだけでなく、ダガーも加速できるのか。しかも、全て的確に急所を狙ってくるとわ。相当な凄腕だな。そして、速さも自慢するだけのことはある。だが、エア・アーマー」
ダビルドは、風魔法エア・アーマーを唱え発動し、自身を風の鎧を纏い、全方位からのスロー・ダガーを全て弾いた。
「チッ、あれを弾くとはな。面倒だぜ。まぁ、前の世界では、プロのダーツプレイヤーだったからな。このくらいは朝飯前だ。そういえば、こっちの世界では競技名はアーツだったか」
舌打ちをしながら、鷹はスロー・ダガーをしまい、両手にナイフを握り、ダビルドを撹乱するために動き回りながら説明した。
「アース・ウォール」
風の鎧を纏ったままのダビルドは、地面に左手をつき、土魔法アース・ウォールを唱え発動し、自分の周りの地面を盛り上げて、壁や更に高低を作り、マジック・ポーションを飲んだ。
「猪口才な」
障害物が増え、身動きがしづらくなった状況に鷹は、舌打ちをした。
「ふぅ、下準備は完了した。始めるか、アース・ショット」
「そんな攻撃当たらないぜ」
ダビルドは30発の土の塊を放ったが、鷹は全て避けスロー・ダガーを投擲する。
ダビルドは、右側に作っていた壁に移動して、スロー・ダガーを回避した。
「エア・ボム」
壁の影から風魔法エア・ボムを唱え、圧縮した空気の地雷を12箇所設置した。
そのうち、鷹の周りの4箇所だけ大量の魔力を込めた。
そして、すぐに気配を消した。
「気配を消したか…基本はできているみたいだな。だが、俺様のスピードの前では、無意味だ」
鷹は笑いながら、ダビルドが隠れた壁へと移動しようと足を一歩踏み込んだ瞬間、地面が大爆発した。
「うぉ、あっぶねぇな!」
(こんなの食らったら、軽傷ではすまないな)
爆発する瞬間に、鷹は最大限の速さで回避しながら叫んだ。
辺りは障害物が多く、スピードが落ちる可能性が高かったので、初めの地雷の威力を見て、鷹は慎重に行動することにした。
ダビルドの思惑通りになった。
「エア・ボム。先程の威勢はどうした?アース・ショット」
更にダビルドは、地雷を追加で設置して、壁から姿を見せ、笑みを浮かべて挑発し、土の塊を24発放った。
先程、気配を消した意味は、鷹と虎は直情的な性格だと判断して、逃げれば追うと判断したからだ。
普通に姿を隠しても良かったのだが、気配を消した方が自信満々で追ってこさせ、大量の魔力を込めた地雷を踏ませるためだった。
「言ってくれるじゃねぇか!」
ダビルドの笑みを見た鷹は、顔を引きつらせながら激怒した。
目の前には左右に高さ3mの壁があり、更に土の塊が飛んできている。
(そのまま前に進むか?いや、高火力の地雷の罠があるかもしれん。だが、敢えて罠がない?それとも弱い地雷か?)
ダビルドが一度に罠の設置できる数や威力が高い地雷が少ないことに気付いた鷹は悩んだ。
そして、出した結果、土の塊を回避しながら真正面から突っ込んだ。
鷹が近くまで接近してきたが、ダビルドは自身の手前に地雷が設置しており、鷹が近づいたので再び大爆発が起きる。
大爆発により、左右の壁に仕掛けていた小規模の地雷も連鎖させ、鷹を生き埋めにしようとしたダビルド。
「糞っ!」
鷹は叫びながら、慌ててバックステップで後ろに跳び回避したが、今回は、後ろに跳ぶしかなかったので、スピードが失速し完全に回避できず、両腕を顔の前に「この字」にし爆風を受けてバランスを崩した。
「アース・スピア」
ダビルドは、その隙を見逃さず、土の槍12本を放ち、追い打ちをかける。
「くっ」
(認めたくはないが、コイツは今までの中で一番強い)
鷹は、すぐに左側に移動して回避した。
今まで、圧倒して相手を倒してきた鷹は、苦戦や死闘という経験をしたことがなかった。
今回、苦戦を強いられ、少しだったが内心動揺していた。
一方、事を優位に進ませているダビルドだったが、こちらも少し不安が過っていた。
(今ので仕留めきれなかったか…。挑発して地雷を踏ませ、しかもバランスまで崩させたが…。だが)
「アース・ショット」
ダビルドは、攻撃の手を緩めず、これから、どうするかなど作戦を思考しながら対応する。
【パルシアの森・中央・ラーバス側付近】
負傷して戦線離脱したボルガとカダルの2人は、ラーバスに戻らず、気配を消したまま少し離れた木に登り、遠くからダビルドと鷹の戦いを観戦していた。
残念ながら、マミューラと虎の戦いは、木々に阻まれ見えなかった。
「押しているぞ。やはり、ダビルド様だな」
「そうだな」
「次はカダルも、ああいう風に戦えば良いだろう」
「いや、悔しいが俺では、あそこまで戦えない。流石、ウォール・マジシャンと称賛すべきだ」
「それほどなのか?」
「ああ、ダビルド様は、相手の性格を読み取り、次の動作を予想して、予め仕掛けている罠の場所に誘導し嵌めている。俺には無理な芸当だ」
ダビルドと鷹の戦いは、2人を釘付けにしていた。
「なぁ、それにしても、ダビルド様がヘルレウスに入っていないのが、不思議だと思わないか?これほどの実力を持ち合わせているのにな」
「俺もそう思って、昨日、ミシナ副隊長とドトール副隊長に訊ねて聞いたんだが。修羅様は、ダビルド様をヘルレウスに勧誘したみたいなのだが、ダビルド様は断ったらしい」
「何故だ?ヘルレウスは、魔王の次に地位が高く、誰もが憧れているんだぞ」
「確かに、そうだな。だが、ダビルド様は、修羅様とマミューラ団長以外の者の下につく気は毛頭ないです。もし仮に、先代の魔王様であったとしても。と宣言したらしい」
「……。俺、ヘルレウスになるために頑張ってきたが、ダビルド様が率いるノルダンに入りたくなったぜ」
「俺も、その話を聞いた時、そう思った」
「一緒だな」
「ああ、そうだな」
2人は、笑みを浮かべながら、お互いの拳同士を軽く当て、静かにダビルドと鷹の戦いを見守った。
【パルシアの森・中央】
ダビルドと鷹の戦いは、お互い決め手に欠けており、長期戦になっていた。
鷹は、攻撃を避けながら、地雷を踏んでも速さで回避できる様に、壁のない場所のルートを選んでいる。
だが、回避することや地雷の警戒に意識を囚われて、ダビルドが通らせようとしたルートを通ってしまい、自分の速さに対応されていると勘違いして、接近戦に持ち込むことができなかった。
一方、ダビルドは、エア・ボムや攻撃魔法を唱え続けており、魔力の消費が激しく、マジック・ポーションの効果が切れそうになるたび、再び飲んでいるが、そろそろ魔力の限界が近づいていた。
(ここまで、長期戦になるとは計算外だった。そろそろ魔力が限界か…。仕方ない、次で決めるしかないか)
「おい、鷹。そういえば、お前達はローケンス様を馬鹿にしていたが、ローケンス様は、俺より強いぞ。なんせ、この傷はローケンス様につけられた傷だ。俺に手こずっている様じゃ、お前はローケンス様の足元にも及ばない」
ジャンプしたダビルドは、壁の上に立ち右袖を捲って、過去ローケンスと戦かった時に、つけられた傷を鷹に見せた。
「ア!!お前は、何が言いたいんだ!?」
「ようするに、お前は相手の力量が測れない愚か者だと言いたいんだが」
「い、言ってくれるじゃねぇか!」
鷹は、青筋を浮かべ叫びながら、右手でナイフを取り出して逆手に持ち、左手で最後の2本のスロー・ダガーを投擲した。
そして、地雷を無視して、ダビルドに一直線に向かい襲い掛かった。
アクセラレータの能力でスロー・ダガーを加速させれており、更に鷹が猛スピードで迫る。
設置した地雷はというと、鷹が通り過ぎた後に、地雷が爆発していた。
そんな状況でも、ダビルドは落ち着いており、右手の剣でスロー・ダガー2本を弾いたと同時に、剣を鷹に目掛けて投擲した。
「こんな攻撃、当たるかよ」
鷹は、少し減速したが、身体を傾けながら最小限の動きで避けた。
「ダウン・ホース」
その隙にダビルドは、右手を上に向けて魔力を高め、風大魔法ダウン・ホースを唱えた。
「遅い!」
魔法がくると判断した鷹は、左前にある壁を使って三角跳びをし、ダビルドの背後をとった。
(何だ?不発か?)
「死ねぇ!なっ!?ぐっ…」
先まで自分がいた場所に何も変化がなかったので、違和感あった鷹だったが、気にせずに振り向いたダビルドに、トドメを刺そうとナイフを横に振り抜こうとした時、突如、空が落ちてきたと思わせるほどの風圧に襲われ、地面に押し付けられた。
鷹が少し減速したことで、ダビルドはかろうじて鷹の姿を捉えて行動を読んでいたのだ。
「残念だが、これで終わりだ。潰れろぉぉぉ~っ!」
歯を食い縛りながらダビルドは、残りの魔力を全て出し尽くすように、全身全力で魔力を高めた。
「ぐぉぉ…」
鷹も歯を食い縛りながら、身体強化を最大限に高め、両腕に力を込めて徐々に上半身を上げていく。
「「ウォォォ…」」
お互い叫びながら、魔力を高める。
そして、ダビルドより魔力の高い鷹は、四つん這いになり次第に立ち上がっていく。
「くっ」
「オラァァ!」
とうとダビルドの魔力が底を尽き、霧が発散したかの様に、鷹を押し付けていた風圧が消え、鷹は雄叫びをあげながら立ち上がった。
だが、鷹も魔力が底を尽きていた。
ダビルドと交戦している時は、見えない地雷があったので、常に全力を出していた。
いや、出されていたのだった。
お互い、息が荒くなっており、肩を大きく上下に動かしながら、睨みつけ合う。
「「ぐっ」」
その時、上空から衝撃波が2人を襲い、2人は耐えることができず倒れた。
「痛てぇな」
「何が起きているんだ。修羅様は大丈夫なのか?」
「おいおい…」
「これは…」
2人は、そのまま空を見上げ、膨大な魔力を集束しているサラマンドラの姿を見て硬直した。
一方、マミューラと虎の戦いは、魔法は殆ど使用せず、殴り合いの打撃戦を繰り広げており、戦況は五分五分だった。
「フー。ここまで、やるとはな。いくぞ!」
一息ついた虎は、自分とマミューラの間にある木々を爆発させながら粉砕し、一直線にミューラに突進する。
「お前は猪か?」
そんな虎を見たマミューラは、呆れた表情で自身も虎に向かってダッシュする。
「「オラッ!」」
虎とマミューラは、お互い右拳同士がぶつかり、衝撃波が生まれ爆発が起き、お互いに後ろにズリ下がった。
2人は、片手を地面につけて踏ん張り、すぐさまダッシュし接近した。
「ワハハ…やはり強いな、女。威力もそうだが、俺の爆発に耐えるとは。俺と真正面から殴り会えたのは、兄貴とお前ぐらいなものだぜ。いろいろと楽しめそうだ」
「お前もな」
虎は右手で殴りにかかったが、慣れてきたマミューラは体を横に傾けて回避し、カウンターで左手で虎の顔面を目掛けて殴りにいく。
「うぉ」
左手で防いだ虎は、一旦距離をとり、左右の腕を前に出して構えた。
「こりゃ、俺も本気を出さないと危ないな」
虎は、その場でリズムよく一定のテンポで軽く跳びながらステップを踏む。
「何だ?何かの拳法か?」
「ああ、これは、前の世界ではボクシングといわれたスポーツ競技だ」
マミューラの質問に答えた虎は、両腕を前に出したまま接近する。
「シッ、シッシッ」
虎は、構えている位置から大きく振りかぶらず最短距離で、左手でジャブ攻撃を連打する。
「チィ、鋭いな」
マミューラは、舌打ちしながら顔を傾げて回避したり、掌や手の甲で弾いて防いだ。
鋭い攻撃に苦戦を強いられているのだが、その表情は笑っていた。
「おいおい、この状況で笑うのかよ。やはり、お前も俺達と同じバトルマニアだな」
虎も笑いながら、マミューラの顔面を目掛けて、左手でジャブ攻撃を連打して僅かな隙を窺っている。
「確かにな。お前の言う通り、私は戦いが好きで好きで堪らない。特に同属との戦いは格別だ」
(禁術は、隙ができるから、久しぶりにアレを使うか)
獰猛な笑みを浮かべたマミューラも、いつ切り札を出すかタイミングを見計らっていた。
それから暫くの間、お互い牽制しながら様子見をしていたが、先に虎が動く。
「シッシッ」
虎は、左手で今までより鋭いジャブ攻撃を2回繰り出し、マミューラの顔面を狙う。
「今までの中で、一番の鋭さだな」
マミューラは、顔を傾げ避け、最後の2撃目は右手の手の甲で、虎の左手首に当てながら内側から外側へと弾き、隙をつくり反撃しようとした。
だが、一つ予想外のことが起きた。
それは、今まで触れるたび爆発はしていたが、今回は今までより爆発が大きく、一瞬だったがマミューラの視界を遮った。
「貰ったぜ!これは避けれまい。食らえ!ビッグバン・エクスプロージョン!」
虎は、右拳に魔力を一気に高め、右フックでマミューラの横腹を狙った。
今まで虎は、しつこく顔面しか狙わなかったのは、隙ができた時や今回みたいに視界を遮った時、相手に今度も顔面に攻撃すると思い込ませるためだった。
そして、2人の中心からは爆音が鳴り響き、周りの木々が吹っ飛び、土埃が舞い上がった。
土埃の中から、マミューラの声が聞こえてきた。
「今の攻撃は強烈で、流石に危なかったな」
しかし、マミューラは視界を遮られた時、すぐに視認を棄て、自分の勘を信じたのだった。
そして、横腹にくると判断して、両手の掌で防ぐことができた。
「マジかよ。俺の本気のビッグバン・エクスプロージョンを真っ向から防いで生きているだと!?魔力値8の奴でも重傷や致命傷を負う筈だ。まさか…信じられないが女、俺と同じ魔力値9なのか?」
「いや、平気じゃないさ。この通り、酷い火傷を負った。あと、お前の言う通り、私も魔力値9だ」
左手を覆った右手は大丈夫だったが、直接、虎の拳に触れた左の掌は、赤くなり火傷を負い、皮膚が所々が切れており、出血をしてた。
「なるほどな。フ、フフフ…アッハハハ……。やはり、同等の魔力値の奴と戦うのは楽しいな。興奮するぜ。相手の魔力値が低い奴だと、一方的になってしまい、物足りなかったからな」
「まぁ、言いたいことはわかる。しかし、一つ間違っているから訂正する。確かに、魔力値は高ければ高いほど威力は増し強いが、強さは魔力値だけでは決まらないぞ」
「お前とは意見が合うと思ったんだがな。なら、勝った方が正しいということにしようぜ」
「ああ、そうだな。わかりやすくって良い」
お互い笑いながら、再び戦いを始めた。
バトルセンスが高いマミューラは、次第に虎の攻撃に慣れていき、押し始める。
「オラッ、オラッ!」
「フレイム・ランス」
虎の左右のワン・ツー攻撃をマミューラは受け流して、反撃に転じる。
マミューラは、左手で攻撃をしようとしたが、途中で止めフェイントし、炎魔法フレイム・ランス唱え発動しながら、右拳で虎の鳩尾を殴った。
右拳から炎の槍を召喚し、ゼロ距離で打撃と炎の槍を同時に直接虎に当てた。
「ぐぉ」
口から血を流しながら虎は、後ろにズリ下がり、右手で殴られた鳩尾を押さえた。
殴られた鳩尾は、服は焼け火傷を負い、皮膚は赤黒くなっていた。
「おいおい。お前、タフだな。直撃したら普通だと倒れているはずなんだが」
「ぐぅっ、女。お前は魔拳闘士だったのか。しかも、異常な使い手だな。普通は打撃と同時に放つ魔法は、初級魔法だが、中級魔法を放つことができるとは驚いたぜ」
虎が驚愕した理由は、殆どの魔拳闘士は、初級魔法しか使用できないのだ。
なぜなら、魔拳闘士は打撃と同時にゼロ距離で魔法を放つため、自分の魔法が自分にもダメージを与えるので、基本は初級魔法しか使用できなかった。
マミューラは、身体強化バーサークで、頭、両手足に魔力を維持し、他の箇所の魔力を上乗せしているため、攻撃力だけでなく防御力も高まっており、中級魔法までなら無傷で使用できるのだった。
だが、今回は誤算があった。
虎に攻撃した時、自分の魔法だけでなく、虎に触れたことで爆発が起きて、身体強化バーサークで魔力を上乗せしていた右拳でも耐えきれず火傷を負って腫れあがった。
「うっ。だが、これでもう、お前の両手は、使い物にならないぜ」
「どうかな?そういう、お前もその鳩尾の怪我では、まともに動けないだろう?」
「「フフフ…」」
虎は鳩尾、マミューラは両手を負傷したが、お互い笑った。
その時、上空から衝撃波が発生し、2人は上空を見上げ驚愕した。
「「な、何だ!?」」
上空には魔力を集束しているサラマンドラがおり、自分達がいる地上にブレスを放とうとしていた。
2人が死を感じらせるほど、ブレスには膨大な魔力が込められていく。
「団長!」
鷹との戦いを中断したダビルドは、冷や汗をかきながら声を荒らげ駆けつけてきた。
「ああ、一旦ここから離れるぞ」
マミューラは、自分は魔力は残っているが両手が使えないほど重傷を負い、ダビルドの方は軽傷だが魔力が尽きていたので、大成の邪魔にならないように退避することを即座に決断し、その場から離れる。
虎は、兄・鷹の方へと向かい、鷹の傍に歩み寄る。
「おいおい、やべぇぞ。兄貴。俺達も…。ん?兄貴?」
返事が返って来なかったので虎は、訝しげな表情で鷹の顔を伺った。
鷹は、ただ呆然と立ち尽くしており、虎は鷹の視線の先を見た。
そこには、重度な火傷を負い、瀕死の状態で倒れている兄・鷹の恋人カナリーダの姿があった。
「兄貴…」
状況を把握した虎は呟く。
「カナリーダ…」
「すまねぇ、兄貴。だが、ここから離れるのが先決だ」
鷹は、呟きふらつきながら、カナリーダの傍へ、一歩一歩と歩み寄ろうとしたが、虎が謝罪しながら鷹の腕を取り止めた。
(まさか、カナリーダの姉さんが殺られるとは…。そういえば、サリーダは!?サラマンドラに気付いている様だな。鎧も纏っているし、相手は子供か、なら大丈夫か。ひとまず兄貴を避難させないと)
恋人のサリーダを見付けた虎は、鉄壁のサリーダと有名になっている鎧を装着していたので大丈夫だと判断し、鷹を担いだまま、その場を立ち去った。
サラマンドラが、魔力を口に集束している最中、空を飛んでいた大成は、1度地上に降りた。
「術者を倒しても、存在し続けるか…。やはり、暴走しているみたいだな。魔力を温存したかったが仕方ない…。ガイア・グランド・スリーパ」
両手を地面についた大成は、両手に魔力を集束させ、土魔法禁術ガイア・グランド・スリーパを唱えた。
大地の鉱物が次々にとサラマンドラの覆うように集まっていく。
「グォォォ」
サラマンドラは、両手や大きな翼で振り払おうとしたが、振り払っても、すぐに再び、まとわりついていく。
そして、サラマンドラは鉱物に閉じ込られ、鉱物は球体になった。
大成の周りの大地は巨大なクレータができており、大成は表情を変えず、ただ閉じ込めたサラマンドラの様子を窺っていた。
【パルシアの森・東側】
マキネ隊と一緒に戦っていたイシリア、マーケンス、それにローケンス隊、マリーナ隊は、敵を圧倒し退却させており、大成とサラマンドラの戦いを見守っていた。
そして、大成の魔法でサラマンドラが鉱物の球体に包まれた。
「流石…大成君」
「ああ、大和は、いつも俺達の常識を軽く飛び超えていくな…」
「フフフ…そうだね。まぁ、私はダーリンを信じていたけど」
イシリアとマーケンスは驚愕していたが、マキネは驚愕しておらず、ただ惚惚し見とれていた。
「「修羅、修羅、修羅…」」
周りは修羅コールが鳴り響く。
修羅コールの中、マキネ達の近くに、イシリアとマーケンスの両親、父・ローケンスと母・マリーナも驚愕した表情で見上げていた。
「俺達が命懸けで、どうにかしようと思っていたのだが…」
非常識な大成の力を見たローケンスは、溜め息を吐き呆れた。
「そうね、あなた。フフフ…。イシリア達が好意を寄せるのもわかるわね」
一方、妻のマリーナは、口元に手を当て笑っていた。
「フッ、そうだな」
「あら?」
「どうした?マリーナ。新手か?」
「いえ、違うわ。ただ、いつもイシリアに「好きな男はできたのか?もし、できたのなら教えろ。殺しに行く」と言っていた親馬鹿のあなたが、素直に認めたから驚いたの」
「フン…俺が認めた男なら何も言わん」
両腕を組んでいたローケンスは、そっぽを向いた。
「あなたに、そこまで言わせるなんて、先代の魔王様以来ね」
そんな夫・ローケンスの態度を見て、マリーナは笑顔を浮かべる。
【パルシアの森・西側】
ローケンス達と反対側の森で戦っていたシリーダ隊とニール隊も、ある程度敵を倒しており、サラマンドラと大成の戦いを見ていた。
「シリーダ様。どうやら、我々の出番がなかったようですね」
「そうね、ニール」
この時、ヘルレウスのシリーダやニール、誰もがサラマンドラは倒せていないが、身動きを封じ無力化して終わったと思っていた。
しかし、突如、サラマンドラを覆っていた鉱物が、赤くなりドロドロと溶け落ちて剥がれていく。
「ん!?シリーダ様!」
「ええ、わかっているわ。ニール」
すぐに異変に気付いたシリーダとニールは、顔をしかめ、魔力を高めた。
周りの隊員達も遅れて異変に気付き、驚愕して修羅コールが止め、ただ呆然と見ていた。
【パルシアの森・西側】
森に静寂が訪れていた中…。
「グォォォ…」
鉱物の球体の中から、サラマンドラの雄叫びが聞こえた瞬間、赤くドロドロに溶けていく鉱物の球体は盛大に破裂して、巨大な炎の渦が巻き起こった。
「う、嘘だろ…。あの修羅様の拘束を打ち破り出てくるなんて…」
隊員達が動揺している中、マグマの様に熔けて弾け飛んだ鉱物が、森の中にいる隊員達を襲う。
「アイス・ミサイル」
「アイス・ボール」
「アクア・ショット」
「アイス・ウォール」
「アース・ウォール」
咄嗟に隊員達は、水や氷魔法で防ごうと呪文を唱える。
しかし、焼石に水のごとく、触れた瞬間、一瞬で蒸発し意味がなく、被弾していく。
「「ギャァ」」
「し、死ぬ」
「逃げろ!」
「「熱ぃ」」
「「うわぁ」」
蜘蛛の子を放らす様に、逃げ回る魔人族と人間の隊員達、もう敵見方関係がなくなるほど入り乱れて場は混乱する。
【パルシアの森・東側】
「「エア・スラッシュ」」
「「エア・ブロウ」」
ローケンス達は、熔岩みたいになっている鉱物を見て、消火は無理だと即判断し、小さく斬ったり、安全な場所に風で飛ばしたりした。
【パルシアの森・中央】
サラマンドラは、口元に集束した魔力を使用し、全身から灼熱の炎を巻き起こして脱出したのだった。
そのため、集束した魔力が減少していた。
「やはり、これでも無理だったか。アース・タワー」
残りの魔力が心もとない大成は、早期決着をつけようと思い、左手を地面につき、土魔法アース・タワーを唱える。
サラマンドラの周りに、石や土で出来たタワー6基が、正六角形の位置に反りたった。
大成は移動しながら、クナイに魔力を込め、ありったけの数を投擲する。
クナイの端には、頑丈な極細のワイヤーをイメージした魔力のワイヤーを、クナイ同士に付けていた。
クナイを石のタワーに突き刺して行き、普通はサラマンドラの動きを封じていくのだが、今回の相手サラマンドラは力や纏っている炎が異常なので、動きを封じる前に切断されたら意味がないと判断し、ある程度の距離を開けて設置した。
「グォォ」
大成を強敵と認識したサラマンドラは、周りの人達を無視して、大成だけを狙い、右手で攻撃したが、大成はジャンプして糸の上を走り、サラマンドラの攻撃を回避した。
サラマンドラは、左右の手で大成に殴ったり掴みにかかるが、大成は別の糸に移動して回避し続ける。
「グォォォ」
攻撃が大成に当たらないことで、激怒したサラマンドラは、周りのタワーを破壊しようとする。
「グォォォ」
サラマンドラは、両手や尻尾を使い、一瞬で周りのタワーを破壊して、大成が周りに張り巡らせていた糸を全て断ち切ったが、その時、一瞬だったが大成を見失っていた。
「判断するのが遅いぞ。トカゲ」
大成の声が聞こえ、サラマンドラが大成の姿を認識した時には、自身の首元の近くまで大成が接近しており、大成の右手には魔力でできた刀・村雨が5メートルぐらいの長さまで伸びていた。
恐怖と悪寒したサラマンドラは、慌てて離れようとしたが、体は硬直して反応が遅れる。
大成は、空中で身体を捻り、遠心力をつけながら右手の村雨をサラマンドラの首筋に狙いを定めて振り抜いた。
「グォォォ…」
サラマンドラは断末魔と共に、首と胴体がズレていき、2つは別々の場所に地上に落ちる。
首と胴体が落ちたことで轟音が響き、土埃が舞った。
そして、少しの間、森は静まり、ゆっくりと土埃も晴れていった。
「こ、今度こそ、修羅様がサラマンドラを倒したぞ」
「「ウォォォ!!」」
勝利を確信し歓喜に浸る魔人の隊員達は武器を片手で持ち、空に掲げながら雄叫びをあげた。
【パルシアの森・中央・人間の国側】
流星、メルサ、ツカサの3人は、遠くから様子を窺っており、メルサとツカサの2人は驚愕していた。
「嘘…」
「そんな…」
「カナリーダとサリーダは、戦死したみたいだな。そろそろ俺達の番だな」
流星は、仲間を失っても気にした様子を見せず、冷静なままだった。
「「……。」」
「おい、しっかりしろ2人共。メルサ、俺の部隊を突っ込ませろ。それと、ツカサはアレを使役しろ」
「わかったわ」
「わかりました」
流星の言葉で我に返った2人は、慌ててバタバタと動き出す。
「大成。これからが本番だ」
流星は、不気味な笑みを浮かべ呟いた。
【パルシアの森・中央】
大成は、サラマンドラの頭部の上に着地していた。
「はぁ、せっかく貯めていた魔力が、予想異常に消費したな…」
溜め息をした大成は、魔力が底を尽きそうになっていた。
すぐにマジック・ポーションを取り出し、飲んで回復に専念する。
そこに、ジャンヌとウルミラの2人が大成の傍に駆けつけた。
「大成!」
「大成さん!」
「ん?どうした?2人共」
「どうした?じゃないわよ」
「本当に心配しました」
「戦いを見ていたなら、わかると思うけど。俺は、この通り無事だ。それよりも、どう見ても2人の方が重症だと思うが?」
大成は苦笑いしながら、ジャンヌとウルミラに、持っていたハイ・ポーションをポシェットから取り出して、1つずつ渡した。
「ありがとう。大成」
「ありがとうございます。大成さん」
2人は、お互いの姿を見て、自分達が大成よりも酷い怪我をしていることに気付き、苦笑いした。
ジャンヌとウルミラは、お互い激しい戦いでポーションが割れてしまい、持っていなかった。
「ふー。悔しいけど。今回、勝てたのは大成のお陰ね」
「そうですね。姫様」
「ん?何で?」
意味がわからなかった大成は、首を傾げて尋ねた。
「何で?って、大成あなたの武器のお陰で勝ったと思ったからよ」
「私もです。大成さんの武器が無ければ、負けていたかもしれません」
「俺は、そうとは思わない。確かに武器が強力だったら、戦力は上がる。でも、2人は初めて実戦で使う武器。それに、強力な武器を持っていても、良策な作戦がなかったら、負けていた可能性もある。だから、自分達の力で勝ったと誇って良いと思う」
落ち込むジャンヌとウルミラを見て、大成は説明をした。
「「ありがと…」」
「~っ!!危ない!」
大成の言葉を聞いて嬉しなったジャンヌとウルミラは、涙目になっており、手で拭ってお礼を言おうとした時、大成は叫びながら2人の腕を掴み、左右に投げた。
「「きゃ…」」
ジャンヌとウルミラは、悲鳴をあげながら茂みの中へ飛ばされ転倒した。
それと同時に、木々の間から土の槍が30本近く飛んできたのだった。
「糞っ!」
大成も避けようとしたが、魔力を消費し過ぎて倦怠感があり、反応が遅れ、間に合わないと判断して舌打ちした。
咄嗟に大成は致命傷になる急所を守る。
次々に大成の周りに、外れた土の槍が降り注いぐ。
「ぐっ…」
大成は、歯を食い縛った。
土の槍の攻撃が収まった頃に、状況を把握したジャンヌとウルミラが慌てて起き上がり、茂みから出た。
「大成!」
「大成さん!」
悲鳴に似た声で、大成の名前を呼びながら駆けつける。
大成は口から吐血し、左腕と右の脇腹辺りに土の槍が刺さっており、血が流れ出ていた。
ジャンヌとウルミラは、大成の両側から大成を抱え、近くにあった大きな岩の陰に移動した。
大成の体に刺さっている土の槍は体を貫通し、途中で止まっていたので、大成を寝かせず、地面に座らせて岩に凭れかけさせた。
「くっ、2人共、大丈夫か?」
冷や汗を流しながら、大成は激痛が走っていたが、苦笑いで2人の心配をした。
「た、大成…。あ、あなた、何で、わ、私達を庇ったのよ…」
「そ、そうですよ、大成さん…。私達を、庇わなかったら…大怪我をしないで済んだ筈です。なぜ、なぜですか…」
自分達を庇って、怪我を負った大成の具合を見たジャンヌとウルミラは、大量の涙を溢しながら、大成の両肩にしがみついた。
「ご、ごめん。き、気付いたら、体が勝手に動いて庇っていたんだ…だから、気にすることは…ない…よ」
「ほ、本当に馬鹿なんだから…」
「そうですよ。お人好し過ぎです…」
2人は、大成の腕に顔を埋めて、小さい声で呟いた。
「それより、2人共…俺を置いて、ここから逃げろ。早く」
「そんなことできないわ」
「できません」
大成は、2人を逃がそうとしたが、ジャンヌとウルミラは顔を上げ、頑固拒否した。
「いいから、行けっ!うっ…」
「聞けないわ」
「私もです」
力強く言った大成は傷が広がった。
それでもジャンヌとウルミラは拒否した。
「糞、来たか…」
大成は、土の槍を放った人物の姿は見ていなかったが、その人物の魔力を知っていたので、誰なのかわかっていた。
木の影から、ゆっくりと1人ローブを纏った人物が現れた。
そのローブは、全体が白で、青の刺繍で人間の国の紋章が入っていた。
殺気も放たれており、あきらかに敵だとわかった。
そして、雲から月が現れ、月明かりがローブを纏った者を照らした。
「う、嘘…そんな…」
「え…そんな…」
ジャンヌとウルミラは、ローブを纏った者の顔を見て動揺した。
その顔は見たことある。
いや、知っている人物だった。
なぜなら……。
「お父様!」
「魔王様!」
2人は、その者の名前を叫んだ。
そう、ローブを纏った者は、先代の魔王だったのだ。
次回、魔王修羅VS先代の魔王です。
投稿が随分遅れて、申し訳ないです。
鷹虎兄弟と戦わせる人物を色々と考え、何度も書き直していました。
特に、マーケンスとイシリアとで兄弟同士で戦わせるか、ローケンスとマーケンス、マリーナとイシリアの親子同士、最近活躍してないシリーダとニールのヘルレウス、ヘルレウスになったマキネや、封印解除したミリーナとウルシア、マミューラとローケンスのいがみ合いながら、活躍させたりと色々と考え書き直したけど、今回はダビルドを戦わせてみました。




