増援と封印解除
裏切り者を退治し、マキネがヘルレウスに加わった。
【屋敷・廊下】
集い間での作戦会議が終わり、ジャンヌ達と別れた大成は、ダビルド達、ノルダンと作戦を綿密に打ち合うため、1人で大広間に向かっていた。
その時、エターヌとユピアが息を切らせながら駆けつけてきた。
「あっ、お兄ちゃん、いたぁ…」
「良かったぁ…」
2人は、大成達が会議していた集いの間を訪れたが、大成は居なかった。
しかも、大成は、その頃ジャンヌとウルミラに追われていたので、逃れるために気配と魔力を消しており、2人は大成が何処に居るのか補足できず、レゾナンスの使用ができず、屋敷中を息を切らせながら走り回って大成を捜していたのだ。
「2人共、どうした?そんなに慌てて。少し落ち着いて」
「うん…」
「はい…」
2人は、1度、大きく深呼吸をした。
「レゾナンス使用すれば良かっ…。あ、そういえば、先まで僕は気配を消していたか。ごめん」
「お兄ちゃん、気にしないで」
「修羅様、気にしないで下さい。それより、大変なのです。今回の件を国中に発表したことで、一緒に戦わせてくれという人達が、大勢集まってます」
「凄かったよね、ユピアちゃん」
「うん。エターヌちゃん」
「「ねぇ!」」
ユピアとエターヌは、お互いの顔を見合せ、笑顔で首を傾げた。
「それは、嬉しいことだな。それで、実力はどの程度だった?」
魔力感知した大成は、集まった者達の大体の強さを把握していたが、わざとエターヌとユピアに尋ねたのは、特訓させるためだった。
「う~ん。2人は強いけど。他の人達は、学園の先生達ぐらいの強さかな?ねぇ、ユピアちゃん」
「うん。2人以外は、ユピア達より弱いよ。ねぇ、エターヌちゃん」
「「ねぇ」」
2人は、人差し指を口元に当てながら考え、お互いの顔を見て首を傾げた。
「うん、正解だ。良くわかったね。2人とも偉いぞ」
大成は、笑みで2人の頭を撫でた。
「「エヘヘ…」」
2人は、気持ち良さそうに目を瞑り、笑みを浮かべた。
【大広間】
「……ということだ。だから、顔を出しに行こう」
「わかりました」
大成達は大広間に行き、ダビルドにこれからのことを話し、皆で屋敷の玄関へと向かった。
【屋敷の外】
屋敷の外では、300人を超えるほどの大勢が集まっていた。
「よう!お前も来ていたのかボルガ。一緒に魔人の国を死守しようじゃないか」
「久しぶりだな、カダル。それは、別に良いのだが。それよりも、噂では魔王修羅は、人間の小僧だと聞いたのだが、本当なのか?」
カダルとボルガは、お互いの拳を合わせた。
ボルガは、男性で長身の長髪で、左右の耳の上の辺りから角が生えている。
カダルは、背はそこまで高くなく、坊主頭の中年太りした男性。
「ああ、そうだ。合っているぞ。大会を観戦したが、見掛けは子供だが、化け物染みた強さを持っている。それに、他国のことも真剣にお考え下さっている」
笑みを浮かべながら、カダルは満足そうに頷いた。
「強さは知らないが、俺の国も景気が良くなったのは確かだな。しかし、魔王の座に就く者は、やはり強さも必要だ。第一、人間の子供は、魔力値1か2で良くて3だ。天才と言われている俺やお前、神童と言われているジャンヌ様とウルミラ様でも8だ。先代の魔王と互角の戦いを繰り広げたエヴィンは、魔力値9だぞ。そのエヴィンが、人間の小僧を相手に、負けるわけながない。考えられるのは、優勝候補のエヴィンを皆で狙い。運良く、たまたま生き残ったとしか、思えない。それなら、納得できる」
深刻な表情でボルガは、腕を組み頷いた。
「あぁ!!見てない奴が、あ~だこ~だ言うんじゃねぇよ」
ボルガの話が聞こえた隣にいた男は、怒鳴りながらボルガに突っ掛かった。
「まぁ、落ち着けよ2人共。今回は国の一大事だ。お互い味方同士、争いはせず、協力し合って人間達の侵攻を止めるぞ」
呆れた表情のカダルは、2人の肩に手を置いて宥めようとした。
だが…。
「フン。それは賛同するが、俺とカダルがいれば、お前達、雑魚の助力などいらん。俺達が、人間ごとき負けるはずがないからな。それに、お前達がいると逆に邪魔になるかもしれん」
「何だと!!そういうお前こそ、足手まといになるなよ」
「あぁ!貴様!この俺、焔のボルガを知らないのか?!」
「知るかっ!雑魚の名前なんて、いちいち覚えてねぇよ」
「殺るかぁ!?」
「上等だ!」
怒りで、顔を真っ赤にしたボルガと男は、お互いの胸ぐらを掴み合った。
「いい加減にしろ!2人共、落ち着け!」
カダルは、2人の胸元を強引に押して距離を離した。
屋敷の外では、こんな感じで、大会を観戦した者、しなかった者で、大成の評価に大きな差が生まれ、あちらこちらで騒動が始まっていた。
【屋敷・玄関】
一方、屋敷内は玄関の扉は閉まっているのだが、争っている声が聞こえてくる。
(嫌になるな。自分の力に自信がある奴は、我が強いというか、自己中というか、自意識過剰の奴らが多い。それにしても、一対一のタイマンならいざ知らず、戦は協力が大切なのに…本当に面倒な奴らが集まってしまったもんだな…。仕方ない)
「はぁ…とりあえず、挨拶でもするか…」
溜め息をした大成は、魔力と威圧感を出した。
場の空気が張りつめ、身体が重くなった感じがした。
「流石、修羅様だな」
満足そうにダビルドは頷く。
「そうですね、ダビルド様。敵対した時は絶望しかなかったけど。今は、こうして味方になれて、本当に心から良かったと思いますわ」
「そうだな」
ダビルドに肯定したミシナは口元に手を当て笑い、ドトールはフッと口元を歪めた。
他のノルダンのメンバー全員は、大成のプレッシャーを受け、気圧されており、冷や汗を流していた。
エターヌとユピアも大成のプレッシャーを受けたが、ダビルド達と同じで、特に気圧されておらず、普段通りだった。
「わかったよ。お兄ちゃん」
「わかりました。修羅様」
2人は、駆け足で玄関へ向かい、左右の扉を押した。
扉は重量感ある音をたてながら、ゆっくりと開く。
【屋敷の外】
一方、外では大成のプレッシャーを感じたことで騒動が一瞬で収まった。
そして、すぐに扉が開く音が響き、皆は扉に注目した。
「「~っ!!」」
開かれた扉から、今まで感じたこともない膨大な魔力と圧倒的な威圧感を感じて、皆は体が震え、腰が引き気味になり固唾を呑んだ。
最初に扉から現れたのは、魔王直属暗部組織ノルダンの当主ダビルドだった。
ダビルドは、堂々と歩を進める。
そのダビルドの後ろから左右に別れて副官のミシナとドトールが続き、更に、その後ろにはノルダンの幹部9名が出てきた。
ダビルド達は、扉の前を空け、左右に別れて横一列に並んだ。
そして、最後に、このプレッシャーを放っている人物、大成が堂々と魔王のローブを靡きかせながら、ゆっくりと姿を現した。
大成は横一列に並んでいるノルダンの前へと進み、立ち止まり目を細めて、ジッと周りを見渡す。
「「うっ」」
「「くっ」」
見渡された誰もが、ごく自然と片膝を地面につき、敬礼をして頭を垂れる。
全員は口の中は渇き、生唾を飲み込み、大成と目を合わせれないほど畏縮した。
(な、何だ!?この圧倒的な威圧感は!?)
(噂で聞いていたが、本当に子供なのか?いや…これは、もう子供の姿をした化け物だ)
(やはり、この御方には敵わないな)
(間近でお会いできるとは、何という光栄なことだ)
魔王を決める大会を観戦していない者は驚愕し、観戦した者は歓喜に浸る。
ただ一人だけ、すぐに立ち上がった者がいた。
「俺の名はボルガ。周りからは、焔のボルガと呼ばれている。お前の力量が知りたい。俺と一戦交えてくれないか?」
立ち上がったボルガは、大成に向かって右手を前に出し、その手には炎が迸った。
「お、おい!止めろ、ボルガ…」
ボルガのすぐ隣にいたカダルは、小さい声で慌てて止める。
「なぁ、まさか魔王様という御方が、逃げたりしないよな」
ボルガは、カダルの制止を振り切り、笑みを浮かべながら挑発する。
周りは興味津々になり、場がざわつきだす。
ダビルド達、ノルダンのメンバーとエターヌ、ユピアは、大成に対してのボルガの態度、言葉使いに憤りを感じ、キレそうになったが、大成の前だったので、無言で殺気を込めてボルガを睨んだ。
「それも、そうだな。良いだろう。ついて来い」
苦笑いしながら大成は、前へと進み、ボルガの横を通りすぎた。
大成は、庭にあるリングへと向かった。
「あ、ああ…」
ボルガと周りの皆は、大成の威圧感を受けたことで、体が硬直し、大成の後を追うのが遅れる。
【中庭・リング】
大成達は、リングに上がって勝敗を考えていた。
「そうだな…。勝敗は、敗けを認めさせるか、気絶または死んだら敗け。開始の合図はダビルドに任せて良いか?」
「ああ、それで構わない」
ボルガは了承し頷いた。
「では、このコインが地面に落ちたら開始ということで」
ポケットからコインを1枚取り出したダビルドは、人差し指と親指でコインを挟み、大成とボルガが見えるように左右に動かし説明した。
「「わかった」」
大成とボルガは、お互い15mぐらい離れる。
「では、コイントスします」
2人が無言で頷いたのを確認したダビルドは、コイントスした。
周りが息を飲む中、ゆっくりとコインが落下していく。
そして、コインがリングに落ちた瞬間、大成とボルガは、身体強化をした。
大成はその場から動かず、一方、ボルガはバックステップし大きく後退した。
ボルガは、魔力を一気に高め、両手を空に向けて挙げた。
そして、腰を落とし両手を振り下ろし、リングに両手をついた。
「くらえ!インフェルノ」
ボルガは、炎大魔法インフェルノを唱える。
ボルガの手元のリングの下から、高さ5mぐらいの炎が吹き荒れ、まるで炎の壁が、大成に迫るように見えるほど、横にも広かった。
「なるほど。自惚れるだけの力はあるな。グリモア・ブック、フリーズ」
大成は、一冊の本グリモアを召喚して左手で持ち、右手を地面につけ、氷魔法フリーズを唱え発動する。
大成を中心にリングが凍っていった。
「ふざけているのか!?俺の大魔法インフェルノを初級魔法のフリーズで防げると思っているのか!?馬鹿は焼け死ね!オォォ…」
馬鹿にされたと思ったボルガは激怒し、魔力を全力で放出して炎の勢いが上がる。
そして、大成のフリーズとボルガのインフェルノが衝突した。
水蒸爆発が起きて大爆発し、轟音と共に高熱の水蒸気が発生する。
「うぉぉ…。な、なぜだ!?」
水蒸気の湯気で真っ白に染まったリングから、驚愕したボルガの声と何かが落下する音が聞こえた。
「ウィンド」
大成は、左手を前に出して風魔法ウィンドを唱え、湯気を吹き飛ばした。
リングには、無傷の大成と、足から膝にかけて凍りつき、水蒸気で火傷を負ったボルガの姿が現れた。
先程の落下音は、ボルガが放ったインフェルノで舞い上がったリングの破片の音だった。
「これで、満足したか?ボルガ」
大成は、興味無さげな表情でボルガを見ながら、指を鳴らし氷を解除した。
「く、糞!これしきのことで認めるかぁ!ファイア・アロー!」
ボルガは、怒りを込めて叫びながら、腰にかけていた剣を抜き、炎魔法ファイア・アローを唱え発動する。
しかし…。
「う、嘘だろ…」
ボルガの周りに炎の矢25本召喚した瞬間、首筋に冷たい手が当てられ、血が少し流れた。
「どうする?」
大成は、一瞬でボルガの後ろに回わり、ボルガの首元に村雨を発動した右手を当て、左手は剣を握っているボルガの手首を掴み、顔を覗き込んで尋ねた。
「い、いつの間に…」
(それに、何だ…。その瞳は…まるで…)
大成を目を離さず見ていたボルガだったが、一瞬で見失ってしまった。
そして、覗き込んでいる大成の瞳を見た瞬間、怒りが一瞬で消えるほどの恐怖が襲った。
まだ、姿は子供だが、その瞳は、まるでベテランの騎士。
いや、どちらかというと暗殺者のように殺すことを躊躇しないとわかるほど冷たく冷酷で、人を殺すことに慣れていると伝わるほどだった。
「で、どうする?ボルガ」
「参りました。降参です。今までの御無礼、御許し下さい」
ボルガは炎の矢を消して、その場ですぐに片膝をつき、頭を下げ敬礼した。
「わかった。だが、これからは場の空気を乱さないように。そして、全力で助力を頼む。勿論、俺の指示が間違っていたら話を聞く」
「ハッ!」
「ボルガ、そこから動くなよ。ヒール」
大成は、ボルガに手を向け、光魔法ヒールを唱える。
白色の優しい光がボルガを包み、傷を癒していった。
「あ、ありがとうごさいます」
ボルガは大成に感謝し、カダルはボルガが無事だったのでホッと胸を下ろした。
こうして、大成を認めていた者、認めていなかった者で、別れていた皆の思いが1つになった。
((この御方と共に…))
大成とボルガの戦いを観戦したことで、誰もが大成を魔王と認め、共に戦いたい、この命を懸けても大成と一緒に魔人の国を守りたいと心から思った。
そして、皆は期待をしながら、大成の言葉を黙って静観していた。
「他に意見がある者は、居るか?」
大成は見渡したが、誰も無言で敬礼したまま、静寂が訪れる。
「居ないようだな。では…自らの意思で集まってくれた勇気のある諸君、心から感謝し、歓迎する。諸君らの役割は、先陣を切るの役割と民の防衛の役割がある。おそらく、諸君らは防衛は地味で嫌っているだろうと思う。だが、実際は防衛も十分に有名になれる。いや、有名になった場合は、防衛の方が名声が凄いことになるだろう。何故ならば、大勢の民が目撃者となるからだ。情報だけの目に見えない実績よりも、目の前で活躍をした者の方が称えられるのは常識だろう。どちらを選択するかは、諸君らに任せる。先陣を選ぶも良し、防衛を選ぶも良し。どちらにせよ、ヘルレウスのリーダーのローケンスに指示を仰ぎ。終わり次第、パルシアの森へ行って貰いたい。今、森に罠を設置している最中だ。ぜひ、手伝って欲しい」
静寂の中、ローブを靡きかせながら、大成は右手を前に出し横に振り、大声で話す。
「た、確かに…」
「言われてみたら、そうだよな…」
「ああ」
徐々に納得する者が増えていく。
「最後に、諸君らの活躍、そして健闘を祈る」
「「ウォォ」」
皆は一斉に立ち上がり、武器を空に掲げ、雄叫びをあげる。
「ふー。どうにかなりそうだな…」
集まった同胞達に気付かれないように、大成は溜め息をし呟いた。
「見事です。流石、修羅様」
笑顔を浮かべたダビルドは、小さく拍手した。
「それより、俺達は、これから作戦会議をするぞ」
大成はローブを大きく靡きかせながら、後ろに振り返り屋敷へと戻った。
「「ハッ!」」
ノルダンのメンバー全員は、右手を胸に当て頭を下げた後、大成の後を追った。
エターヌとユピアが、前に出たことで、皆は静まり返り注目した。
「ローケンス様は、間もなく此方に参りますので」
「「屋敷の前で、お待ち下さい」」
最後にユピアとエターヌは、ニッコリ笑顔を見せながら説明をして、お辞儀をして大成達を追う。
【屋敷の外・玄関前】
屋敷の玄関の前に大成達は着き、扉を開けようとした時、扉が開いた。
扉から出てきたのは、魔力を感じたジャンヌ達だった。
ジャンヌ達は、慌てて大成の傍へと駆けつけた。
「いったい、どうなされましたか?修羅様」
先頭を走って来たローケンスが尋ねる。
「あとは、任せた。ローケンス」
大成は、笑顔でローケンスの肩を軽く叩き屋敷に入った。
「了解!って、な、何をですか?」
つい、流れで返事をしてしまったローケンスは、大成の笑顔を見て嫌な予感がし、この場にいる誰もが同じだった。
「あれを見たら、わかる」
「ちょっ、お待ち下さい。修羅様」
ローケンスは大成に説明を求めようとしたが、大成は手を振りながら、そのまま歩を進め立ち去った。
「はぁ、いったい何だ?」
仕方なく、ローケンスは振り返った。
「あっ、ローケンス様!俺、先陣を切りたいです」
「私は、護衛に回りたいです」
雪崩のように押し寄せてくる人込みに、ローケンスは飲まれた。
ジャンヌ達は、慌てて扉を閉めた。
「なっ!?と、扉が!?うぉ、とりあえず、お、落ち着け、お前達!」
人込みに飲まれたローケンスは、揉みくちゃにされ、その後、忙しくなった。
【隠し部屋】
ミリーナとウルシアの封印を解除する日が訪れた。
大成、ジャンヌ、イシリア、マーケンス、マミューラ、それにヘルレウスメンバーは、ミリーナとウルシアの2人が封印されている隠し部屋に集まっていた。
大成以外の皆は、テンション上がり興奮気味になっており、特にジャンヌとウルミラは、自分の母親を救い出せるので、ソワソワしている。
「ローケンス様」
「何だ?ニール」
ニールは、ローケンスに近付き、耳打ちをした。
「そうか、わかった。修羅様、部隊の配置、罠の設置が完了致しました」
「わかった。よし、では封印の解除に移る。周りの者は、2人から少し離れろ。……良し、グリモア・ブック、聖なる光よ呪を浄化せよ!サンライズ」
皆がミリーナとウルシアから離れたのを確認した大成は、グリモアを召還して、膨大な魔力を込め、光魔法サンライズを唱え発動した。
グリモアから、眩しい光が解き放たれる。
光りは、次々に色が七色に変わり、その光はミリーナとウルシアを優しく包み込んでいき、部屋全体を包み込んだ。
「「うっ」」
「「くっ」」
光に飲まれたジャンヌ達は、手を目元の前に出し光を遮った。
「何だか、この光を浴びていると、疲れがとれていき、気持ちいいわ…」
「はい。それに、とても暖かくて…幼い頃、お母様から抱かれている様な…いえ、包まれているような居心地で、ホッとします…」
ジャンヌ達は、初めは手を目元の前に出して、光を遮っていたが、光を浴びると心地よくなり、自然と手を下げて体の力を抜いて、身を委ねた。
サンライズの効果は、傷を治すことが出来ないが、状態異常(魔法で掛けられた)を治すことできる。
更に、魔力を多目に消費することで、疲労回復が可能という魔法なのだ。
そして、光は次第に弱まっていった。
「ここは…?」
「確か…私達、勇者の攻撃を受けたはず…」
「それに、何故か、戦ってた時よりも、身体が軽いわ…」
「そうね…」
光の中、ジャンヌとウルミラは、懐かしく、ずっと前から聞きたかった母親の声が聞こえ、声がする方へと一歩ずつ、ゆっくりと歩を進めた。
光が収まり、ジャンヌ達の目の前には、ミリーナとウルシアの姿が見えた。
2人は、自身の体を見ながら、首を傾げていた。
「「お母様…」」
ジャンヌとウルミラは呟きながら、ゆっくりと歩いていた足が、次第に速くなり駆け足で、母親の元へと近づく。
「「お母様っ!!」」
2人は大きな声を出して、母親に飛び付き抱きしめた。
「ジャンヌ!?」
「ウルミラ!?」
封印されていた2人は、急成長した娘達の姿を見て驚いた。
「ゴッホン。驚くのも無理はない。だが、今は時間の猶予がない。大雑把だが、俺が説明しよう」
わざとらしく咳をしたローケンスは、ジャンヌ達の前に出た。
そして、今までの出来事を、大雑把だが説明をした。
説明を聞いた2人は、それぞれ表情が変わり、その表情は違った。
「あの時の男の子がねぇ…」
「そんなことがあったの。ううん…。今は、落ち込んでいる場合ではないわね。まず、お礼を言わせて貰うわ。皆と国を守ってくれて、ありがとう。大変だったでしょう?」
ウルシアは興味深げな表情になり、一方ミリーナは暗い表情だったが、頭を左右に振って、笑顔で頭を下げお礼を言った。
「無事で何よりです」
「頭を上げて下さいミリーナ様」
「そうです。お礼を言われることは、してませんわ。だって、国を守るのは当たり前ですから」
ローケンスは笑顔を見せ、ニールとシリーダは慌てた。
「フフフ…ところで、ジャンヌ。あなた達の王子さまは何処なの?お礼を言いたいのだけど」
「「お、王子さま!?」」
ミリーナの言葉で、ジャンヌとウルミラは顔を真っ赤になり、声が裏返った。
「そういえば、ダーリンは?」
「あれ?居ないわね」
マキネとイシリアは周りを見渡し首を傾げ、他の皆も周りを見渡したが、大成の姿は見当たらなかった。
【隠し部屋前付近・廊下】
その頃、大成は部屋の外に移動し、マジックポーションを飲んで、魔力の回復に専念し、壁に寄りかかっていた。
皆がサンライズの光に身を委ねている間に、気配を消して退出したのだ。
今回は、3年間も封印されていたミリーナとウルシアの2人に後遺症が残らないように必要以上の魔力を消費したので、目眩がしていた。
(皆、心配しているな。でも、今の姿を見せたら、戦に参戦できなくなりそうだ。申し訳ないけど、少し休んでから…。しかし、思った以上に、しんどいな…)
大成は、衰弱しきった姿を皆に見せないためだった。
「フフフ、流石の修羅様もお疲れのようですね。大丈夫ですか?」
口元に手を当てながらミシナは、笑顔を浮かべて尋ねる。
「ふー。大丈夫だ」
大成は息を吐き、壁から離れた。
「修羅様。言われていた物を持って参りました」
ミシナとドトールは、大成から持ってきてくれと頼まれた品物を複数持っていた。
品物は、黒い布で覆われおり、いろんな形状をしている。
「すまない。2人共、ありがとう。良し、行こうか」
「「ハッ!」」
ドトールとミシナに感謝した大成は、後ろに振り返り、ジャンヌ達のいる部屋の扉の前まで移動した。
2人は、大成についていった。
【隠し部屋】
部屋の中では、大成の姿がないことで混乱が巻き起こっていた。
「もう、戦場に行かれたのでは?」
顎に手を当てながらニールは、訝しげな表情をした。
「フン、ニール。流石に、それはないぞ」
「そうね。流石の修羅様でも、それはないと思うわ」
ローケンスは鼻で笑い、シリーダも首を傾げながら肯定した。
「でも、ダーリンならあり得るかも…」
マキネは手を口元に当て、深刻な表情で呟く。
「「そうね…」」
「ありそうですね…」
ジャンヌ、イシリア、ウルミラの3人もマキネと同じ深刻な表情で肯定した。
皆は、ざわめき出したが、その時、手を叩く音が部屋中に響いた。
ざわめきが一瞬で静まり、音をたてたミリーナに視線が集まる。
「落ち着きなさい。第一、悩むより先にレゾナンスで連絡をとれば、すぐにわかるわよ」
1度手を叩いたミリーナは、提案した。
「あと、今すぐに戦闘準備の支度をしなさい。もしもの場合に、備えなさい」
ウルシアは、左手を前に出して指示をした。
「ふっ、流石ミリーナとウルシアだ。的確な判断と指示だな。そう思わないか?マリーナ」
学生だった頃を思い出していたマミューラは、懐かしい雰囲気に口元が弛んだ。
「ウフフ…そうね、ミューちゃん。あの頃を思い出すわね」
「そのミューちゃんと呼ぶのは、昔から止めろと言っているだろ。マリーナ」
不機嫌な表情でマミューラは、マリーナに注意したが、マリーナはニコニコ笑顔のままだったので、溜め息をした。
「では、私が連絡をとりますね。レゾナ…」
ウルミラが、精神干渉魔法レゾナンスで、大成に連絡をとろうとした時、部屋の扉が開き、皆は注目した。
扉から大成が現れた。
「皆、心配をかけてすまない。武器を取りに行っていた」
「武器ですか?」
首を傾げながら、ウルミラは尋ねた。
「ああ、ジャンヌ、ウルミラ、イシリア、マーケンスにだ。預かっていた武器だ。やはり、修復は無理だった。すまない」
大成は謝り、後ろに居たドトールとミシナが大成の左右に移動し、片膝を地面につけ、持っている黒色の布に包まれている武器を掲げた。
「き、気にしないで下さい、大成さん。もともと、この国で有名な鍛冶屋さんから、修復は無理だと言われていたのですから」
「「そ、そうよ」」
「そ、そうだぜ」
慌ててウルミラが慰め、ジャンヌ達も慰めた。
「そう、言って貰えると助かる。一応、見掛けと重量は同じにして、強化を施した」
大成は、各武器を順番にジャンヌ達に手渡していく。
「「ありがとう」」
「「ありがとうございます」」
ジャンヌ達は、笑顔でお礼を言いながら武器を受け取った。
「それぞれの武器の説明をするから、覚えてくれ」
大成は、武器の説明を始めた。
武器の刀身には魔鉱石を混ぜており、魔力を込めるとその属性が発生する。
武器屋で販売している武器との違いは強度の他に、持ち手の属性の強化。
わかりやすく説明をすると、武器屋が販売しているのは、持ち手が炎属性の人の場合は、剣が炎を纏い対象に火傷を負わすだけだが、大成が作製した剣は、対象を火傷を負わすだけではなく、燃やしたり溶かすのだ。
大成が作製した武器の属性効果は以下の通りになる。
炎属性→対象を燃やしたり溶かす。
氷属性→対象を凍らす。
風属性→武器の重さを軽減、切れ味強化。
土属性→武器の強度アップ、もしくは重量を加重する。両立可能。
雷属性→武器に触れなくても、他の属性よりも攻撃範囲が広く、当たると感電する。
光属性→当てた対象を回復する。
闇属性→当てた箇所の感覚を鈍くする。
あと、各武器に魔法陣が刻んでいるので、魔力を込めて、魔法陣の魔法も発動もできる。
武器とは刀身が代われば、切れ味や重さ、感覚などが変わり、切れ味や重さ、見た目は同じでも感覚がやはり変わるので、鍛冶屋や大成は別の武器と思っている。
「はぁ、相変わらず本当に凄いわね、大成。あなたが造った武器は…」
説明を聞いたジャンヌは、呆れた表情で溜め息したが、前から欲しいと思っていた、大成が造った手作りの武器を初めて貰い、口元がにやけており、大切そうに両手で、ぎゅっと武器を抱きしめていた。
近くにいるウルミラ、イシリア、マーケンス達も自分の武器を嬉しそうに抱きしめたり、見たり、触ったり、振るったりしている。
「「ありがとう」」
「ありがとうごさいます」
「気に入ったみたいで良かった」
ジャンヌ達に感謝された大成は、表情には出さなかったが嬉しかった。
お礼を言った後、ウルミラは自分の武器の布を外した。
「あの…これは?」
自分の矛を見たウルミラは、困惑した。
なぜなら、ウルミラの矛には、工夫が施されていた。
「何なの?これは?」
ジャンヌは、ウルミラの武器を見て訝しげな表情になり、皆もウルミラの武器に注目した。
「フッ、説明をしよう」
大成は、不適に笑った。
【人間の国・バルビスタ国・バルビスタ城・大広間】
その頃、人間の国バルビスタでは、大広間に国王、妃、流星、カナリーダ、鷹虎兄弟が集まっており、流星は自分が施した封印が解けたことを国王達に報告した。
「ゆ、勇者よ。その話しは誠か?」
「はい、誠です。今、先ほど2人の封印が解除されました」
「うむ…そうか…。ついに、この日が来たか。これで、魔人の国は、我の物になるか。待ち遠しかった…」
流星の報告を聞いた国王は、目を瞑り感情に浸った。
「そうですね。あと、なぜ此処に鷹虎兄弟が?」
話を知らないはずの鷹虎兄弟が居たので、流星は気になった。
「あの後、鷹虎兄弟が訪れて…いや、あれは、もう問い詰めに来たという方が正しいな。とりあえず、カナリーダに聞いてくれと伝えた。結果、今回の件に参戦することになった」
思い出した国王は、身を震わした。
あの後、鷹虎兄弟が訪れた。
しかし、鷹虎兄弟は興奮しており、魔力と威圧感を抑えておらず、猛獣の様に迫ってきたのだ。
「……。なるほど」
想像できた流星は溜め息をし、視線だけカナリーダに向けた。
「し、仕方ないだろ!彼氏の頼みを断る女が、何処に居る?居るわけないだろが!」
頬赤く染めたカナリーダは立ち上がり、人差し指で流星を指差して大声をあげる。
「いや、どうでもいいが。それより、国王様の御前だということを忘れてないか?」
「あっ、も、申し訳ありません」
呆れた表情で流星は冷静に突っ込み、カナリーダは慌てて片膝を地面につき敬礼し、頭を下げて謝罪をした。
「良い。それより、カナリーダが此処まで取り乱すとはな」
「~っ」
国王の言葉で、カナリーダの顔が一気に赤く染まっていった。
「流星、俺達鷹虎兄弟も出陣するから、お前が出ることはない」
「だな。兄貴」
「「ワハハハ」」
鷹虎兄弟は盛大に笑い、カナリーダは笑い声は出さなかったが口元が笑っていた。
「では、カナリーダ、勇者、鷹虎兄弟よ。あとは頼んだぞ」
「「ハッ!」」
こうして、流星達は部屋から退出した。
【王宮の門・前】
流星、メルサ、ツカサの3人は戦の準備をし、カナリーダ達と出陣するため、王宮の門の前に集まった。
「これで、揃ったな。では行く。出陣!」
「「ウォォ!!」」
カナリーダが号令を掛け、皆は気合いを入れて出陣した。
あけまして、おめでとうございます。
今年も宜しくお願いします。
次回は、戦争が始まります。
投稿遅れ、ご迷惑をお掛けして、大変申し訳ありません。
31日まで仕事で、どうにか無事に間に合いました。
忘年会が終わりましたので、帰宅して少し睡眠とってから、次回作を書きますので、今日中に投稿できたら良いなと思ってます。
もし、宜しければ御覧ください。
では、失礼します。




