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マテリアル・ストーンと両剣

大成は、皆に義兄流星との関係を話した。

そして、ミリーナとウルシアの封印を解除できることを確認し、これからのことを話し合った。

最後にローケンスに、流星と魔王の映像を刻んでいるマテリアル・ストーンを見せて貰うことにした大成。

【隠し部屋】


マテリアル・ストーンは、使用(録画)していたは、ローケンスなので、ローケンスを中心に映された。

場所は大成達がいる、この隠し部屋だった。




【過去・マテリアル・ストーン】


部屋の中央に大きな長方形のテーブルと、そのテーブルの縦側の両サイドに椅子が7脚ずつと、横側に1脚と反対側に2脚が置かれ、横の立派な2脚には魔王と妃ミリーナが座っていた。


他の椅子の背凭れには、ナンバーが1~15書かれており、その椅子にウルミラ、ローケンス、シリーダ、ニール、ウルシアなどヘルレウスメンバーが10人が席に着いていた。

だが、5名の空席が所々ある。


場の空気は重く、ウルミラは椅子に15と書かれた椅子に座っており、オドオドしている。


「糞!今回の戦で、ヘルレウスメンバーのサガールとチドルの2人が、勇者1人に殺られたかっ!」

ただ唯一1席、魔王と妃の対面の席、ナンバー1と書かれている椅子に座っているローケンスは、苦渋の表情で右拳でテーブルを叩いた。


「魔王様。これから、どう致しますか?今回を含めて、勇者一人にヘルレウスメンバー4人が討伐されています」

魔王の近くの席にナンバー2と書かれている席に座っているウルシアは尋ねた。


「そうだな。まずは、情報が欲しい。タールよ、勇者達は何人で行動している?」

魔王は、腕を組みながら椅子に凭れ、険しい表情でタールに尋ねた。


タールは、ローケンスの妻マリーナの弟子で、マリーナが引退後、副長だったタールは後を継いでいた。

マリーナの時代よりナンバーは降格したが、ヘルレウスの隠密など諜報部として活躍している。


「ハッ、部下の話によると勇者と別に他10人。合計11人で行動しています。ですが、不自然なことに勇者以外は商人の服装をしており、一切手を出してきてません。それに、魔力がとても低いです」

ナンバー11に座っているタールは、右手を胸に当て答えた。


「そうか…。他の10人は、わざと弱者を演じている可能性もあるな。だが、このままではジリジリと戦力が削られる。今回の戦闘で確実にしとめるため、総員で打って出るぞ!」

魔王は腕を組んだまま瞳を閉じ、暫くして開け左手を前に出して宣言した。


「「了解!」」

オドオドしていたウルミラも、キリッとした表情でヘルレウスメンバー達と返事をした。


「待て!ウルミラとウルシア、それにミリーナの3人は、ラーバスで待機だ。り、理由は…そうだな。ゴッホン。理由は、我らが出ていっている間に何かあった場合に備えて、このラーバスにも戦力を残して置かねばならん。それにミリーナは、ジャンヌを守って欲しい」

3人に参加して欲しくなかった魔王は、明らかに後で理由を考えたと、皆がわかるほどだった。


なぜなら、妃・ミリーナと愛人・ウルシアに、その娘ウルミラだったからだ。

側室も作っても問題ないが、ウルシア本人が秘密にして欲しいとのことで秘密になっている。


他のヘルレウスはもちろん、娘のウルミラ本人も誰が父親なのかは知らない。

知っているのは、妃ミリーナだけだった。



「ごめんなさい、あなた。その話は聞けないわ。私達の心配よりも、このラーバス…。いえ、魔人の国の命運が懸かっているのよ。それに、今回の勇者は只者ではないのわ。だから、全勢力をぶつけるべきよ」

魔王の隣に座っている妃ミリーナは、魔王の瞳を見て話した。


「ミリーナ様の言う通りです、魔王様。只でさえ、裏切った美咲の席と勇者に倒されたヘルレウスメンバー4人。計5名、全体の3分の1の大きな戦力を失っています。これ以上、しとめれず戦力が減少するのは致命的です。それに、娘のウルミラも十分戦力になります。やれるわよね?ウルミラ」

ウルシアは、対面側に座っている娘のウルミラに尋ねた。


「は、はい。お母様」

緊張しており、返事に詰まったウルミラだったが、その瞳には力強さが宿っていた。



「そうだな。すまない。私としたことが…。では、各隊員50名を選び連れて行く。他はラーバスの警護だ。良いな?これより、即急に戦闘準備に取り掛かれ」

娘のウルミラの瞳を見た魔王は、気を取り直して立ち上がり、左手を前に出し命令を出す。


「「了解!」」

全員が立ち上がり、1歩左に移動して片膝をついて敬礼をした。

そして、続々と部屋から退出して行き、最後にローケンスが魔王にお辞儀をして退出した。


自分の部隊を集めたローケンスは、皆に会議のことを話して自分の部隊、上位50人を選別し、連れていくことにした。



3時間後、屋敷の前にヘルレウスメンバーの各隊50名ずつの暗部が集合した。


「忙しい中、よく集まってくれた。これより、我々は勇者討伐に向かう。タールよ。勇者の詳細は?」

「ハッ、魔王様。勇者一行は、現在パルキに居ります。で、ですが…」

魔王からタールは、1歩前に出て敬礼をして言い淀んだ。


「どうした?タール」

そんなタールを見た魔王は、訝しげな表情で尋ねる。


「そ、それが、申し訳ありません、魔王様。勇者は、始めから我々のことに気付いており、わざと泳がしていたそうで…」

小さい任務もミスは許されない。

それなのに、今回は大事な任務をミスしたタールは、自分の不甲斐なさを怒り声と体が震えた。


「気にすることはない。今回の勇者は別格だ。ヘルレウスメンバーを4人も倒している。しかも、最後の2人サガールとチドルは、2人掛かりで挑み討伐されているのだ。そんな強者が、気付いていないとは思えなかったからな。あえて、気付いていて放置したんだろう。で、勇者からの伝言か何かあるのだろう?」

腕を組みながら、魔王は右手を顎に当てた。


「はい、魔王様の言う通りです。勇者から伝言があります…。大変失礼だと思いますが、そのままのお言葉で伝えます。「ここで、待っていれば魔王に会えるのか?それとも移動した方が良いのか?どっちだ?早く出で来い、魔王。お前が望む場所で構わない」だそうです…」

タールは、歯を食いばりながら伝えた。


「何だとっ!勇者めっ、俺達を嘗めているのか!」

激怒したローケンスは、体を震わせながら自分の胸ぐら強く掴み歯を食い縛った。

ローケンスの魔力と威圧感が高まった。


「「ひっ」」

「「うっ」」

ローケンスの威圧に、暗部達は身を縮こませ、ヘルレウスメンバーさえも、少しだが怯むほどの威圧感が出ていた。


「落ち着けローケンス。今から、自惚れ勇者に制裁を下しに向かうのだ。その時に、地獄を見せてやれば良い」

普段と変わらない口調と雰囲気で話す魔王だったが、表情が怒りで満ちていた。


「落ち着きなさい、2人とも。向こうから、用件を呑んでくれるって言っているのだから、思う存分にいたぶれるわよ。自分が発言した言葉を後悔するほどに」

「そうです。ミリーナ様」

ミリーナは笑顔で提案し、ウルシアも笑顔で肯定した。


「「~っ!は、はいっ!」」

「~っ!あ、ああ…。そうだな…」

2人の笑顔を見た者は、圧倒的なプレッシャーを肌で感じ、声が裏返った。

そのプレッシャーは、魔王さえも冷や汗が出るほどだった。



「ご、ゴッホン、タール。部下を通して勇者に伝えよ。決戦の地は、ヤンマッハの林だ」

「了解」

咳払いをして体裁を取り繕った魔王は、タールに指示した。


「ん?魔王様。恐れながら、パルシアの森の方が近いのでわ?」

ヘルレウス・ナンバー9のジャコルは疑問に思い尋ねる。


「確かにそうですな。ですが、地形的にパルキの近くのパルシアの森よりも、ヤンマッハの林の方が連携が取りやすいことや先に我々が到着でき軍を配置が可能ということで、魔王様はお選ばれたかと思います」

「なるほど。流石、魔王様だ」

ニールは説明をし、ジャコルは顎に手を当て納得した。


「気付いておったか。流石、ニールだな。では、我らも行くぞ」

国中の住民の大歓声の中、魔王はローブを翻し、先頭を進んだ。


「「オオッ!」」

気合いを入れた皆は、魔王の後を着いていく。

こうして、ラーバスを出国した。




【ヤンマッハの林】


先にヤンマッハに辿り着いた魔王達は、作戦通りの配置に付き、息を潜めて勇者が来るのを待った。


「ここまでは、予定通りだな」

魔王は、隣にいるミリーナに振り返る。


「そうね、あなた。でも、油断は禁物よ」

「ああ、わかっておる。ミリーナも、くれぐれも無理はするなよ」

「心配は無用よ」

「そうか。なら、良い」

溜め息をした魔王は、再び頭の中で何度も作戦のシュミレーションを繰返す。


その時、魔王やヘルレウスメンバー、暗部達に魔力が収束して、レゾナンスが発動した。


「魔王様、他の者達、間もなく勇者が予定されていた位置から来ます」

レゾナンスを発動したタールは、皆に連絡した。


「わかった。皆の者、準備は良いか?」

「「ハッ」」

魔王は皆を確認し、タールはレゾナンスを解除した。



そして、魔王の真正面から流星がゆっくりと現れた。


流星の右手には、柄側にも刀身がついている両剣を持ち肩に掛けていた。



「お前が魔王か?」

「如何にも、そうだが」

腕を組んだまま魔王は、流星を睨めつけながら肯定した。


「そうか。なら、始めようか」

「その前に、2つ聞きたいことがある」

「何だ?」

「1つは、お主の後ろにいる者達は何だ?兵士か?」

「いや、この前、俺が魔物から助けた商人だ。本当は、1人で来るつもりだったが、俺のことが心配で命懸けで来たみたみたいだ」


「なるほどな、お主は人望があるのだな。では、2つ目だ。人間の王は貪欲で有名だ。だから、攻めて来たのはわかる。だが、何故お主は、わざわざ宣戦布告をしたのだ。普通なら宣戦布告などせず、不意打ちをするはずだ」

魔王は、手を顎に当て訝しげる。


「そのことか。俺は、国王からお前達魔人の国を攻め落として欲しいと言われた。だが、俺は戦争するなら、この世界で最強と言われている竜人の国と戦争がしたいと言ったんだが、国王が断固拒否してな。だから、条件を出した。もし、俺一人で魔人の国を落とせたら、竜人の国とも戦争をしても良いかをな。だから、不意打ちで勝っても意味がない」

「お主は、我ら魔人のことを嘗めているのか!」

激怒した魔王は、両手で腰の左右に掛けてある剣を抜き、魔力と殺気を放った。


魔王から放たれた魔力は、流星の髪や服、周りの木々を揺らす。



「ほう、魔王だけあって凄い魔力だな。楽しめそうだ」

流星は、未だに構えず左手を顎に当て、満足そうに頷いた。


「その喉を切り裂いて、二度と無駄口を叩けぬようにしてやろう!」

「「アイス・ミサイル・ニードル」」

「「アース・クラックレ」」

「「サンダー・スピア」」

「「エア・カッター」」

「「アース・スピア」」

魔王の言葉と同時に、隠れていたヘルレウスメンバーとその隊員が、一斉に殺気を出して流星に向かって魔法攻撃を放った。


「「流星さん!」」

流星の付き添いの商人は、悲鳴をあげた。


流星を囲む様に、攻撃魔法が放たれ迫ってくる。


「離れて下さい。ここに居たら巻き込まれます。マテリアル・ストーンを使用しているので、離れていても後で見れますから」

「「わ、わかりました。御武運を!」」

流星について来た商人は、流星を心配したが流星に言われ、その場から離れた。


「エンチャント・シール」

流星は、ユニーク・スキル、ゴット・エンチャントを発動し、両剣に封印の効果を寄与して刃が紫色に染まった。

迫ってくる魔法攻撃を、両剣で凪ぎ払ったり、地面に突き刺した。


流星に斬られた魔法攻撃や地割れなどが、紫色に染まり消滅し封印されていく。

その光景を見ていた魔王達は、怒りを忘れ呆然と流星を見つめていた。


「どうなっているんだ!?」

「な、何が起きたんだ!?」

「相殺されたのか?」

暗部は、見たことない得体のしれない現象を目の辺りにし、あまりにも不気味でざわつく。


「いや、違うぞ…。何と言えば良いか…。どちらかと言えば、相殺よりも、かき消された感じだ。だが落ち着け、魔法が効かぬなら武器で攻撃すれば良い」

魔王は、右手の剣を流星に向け、皆に指示を出した。


「「了解!、ウォォ」」

暗部達は愛用の武器を手に取り、一斉に飛びかかった。


「雑魚には用がない」

流星は、溜め息をしながら両剣に左手を添えた。


「「嘗めるな!」」

激怒した暗部達だったが、冷静に陣形や連携を取りながら、流星に襲いかかる。


「エンチャント・ウィンド、エンチャント・ライトニング」

流星は暗部達を引き付け、両剣の片方の刃に風属性を、もう片方の刃に雷属性を寄与して両剣の刃は緑色と蒼白く染まった。


「ん?何だ?」

「何かしら?」

両剣の変化が気になった魔王とミリーナは、訝しげな表情に変わった。


流星は両手で両剣を持ち、頭上で回し始める。


「「離れろ!!」」

「「離れなさい!!」」

「遅い、サンダー・ストーム」

嫌な感じがした魔王、妃ミリーナ、ヘルレウスメンバーは叫び、突撃した隊員達に注意を促す。

しかし、叫んだ瞬間、流星を中心に雷を纏った巨大な竜巻が発生した。


「ぐぁ」

先頭の暗部達は、既に手遅れで竜巻に触れ、身体中を刻まれ血塗れになり吹っ飛ばされ、後衛の暗部達は慌てて方向を変えて竜巻には触れなかったが、雷が暗部達の鎧や武器を追跡して襲った。


「ぐっ」

「なぜ、追ってくるんだ。ぎゃっ」

「ガハッ」

暗部達は、必死に逃げようとしたが雷に触れ、感電して真っ黒焦げになり絶命した。



「「アース・シールド」」

「「アイス・シールド」」

「「エア・シールド」」

「「ダーク・シールド」」

魔王達は、各魔法で防いだ。



暫くすると、荒れ狂った竜巻は収まり場が静まり返った。


魔法を解除した魔王達は、辺りを見渡して唖然とした。

辺りは木々はへし折れ焦げており、突撃した暗部達は血塗れになっていたり、焦げていたりして倒れていた。


「何ということだ…」

「突撃した暗部達が、ほぼ全滅なんて…」

光景を見たローケンスとシリーダは呟いた。

他の者達も、悲痛な面持ちで息を呑んだ。


「ほう、魔王含めて生き残った者は33人か。避けるのではなく、魔法で防いだのは正解だ。中途半端に腕に自信がある者は、回避しようとし失敗する。逆に腕に自信がない者は、魔法で防ぐが魔力が低かった場合、防げないけどな。要するに自惚れないで的確な判断ができ、生半可な魔力ではなく、高い魔力を保持している者しか生き残れない」

説明をしながら、流星は魔王達の実力を認め笑みを浮かべた。



((33人!?))

魔王と妃ミリーナに加え、ヘルレウスメンバー10人と暗部20人で計32人しか居ないはず、皆は流星の言葉に疑問が浮かんだが無視した。


「この戦闘狂が!」

「「死ねぇ!」」

ローケンスは大剣を持ち上げて激怒し、暗部達は流星に向かってダッシュする。



「ん?」

流星は笑っていたが、足元の異変に気付いた。


「もらった!」

突如、足元の地面が盛り上がり、ヘルレウスメンバーのナルヘルが右手で短剣を逆手に持ち、左手で柄の部分を添えながら、流星の心臓部を目掛けて飛び出した。


「反応できたのは称賛に値する。だが、俺達の連携からは逃れないぞ!」

さらに、近くにいたタールは、腰にクロスに掛けていたナイフを、左右の手で逆手になるように抜き、背後から流星を襲った。


「やるな。だが、そもそも避ける必要がない」

流星は話ながら、鋭く目に霞むほどの速さで、両剣の下刃でナルヘルの心臓を突き刺した。


「ぐぁ」

突き刺されたナルヘルの短剣は、流星に届かないまま絶命した。


流星は、ナルヘルに突き刺したと瞬間、しゃがんで、タールの凪ぎ払いを回避しながら、右足を軸に回転して両剣に遠心力をつけながら振り払った。


「何!?がっ」

バックステップで回避しようとしたタールだったが、間に合わず片方のナイフに魔力を纏わせて防御した。

しかし、ナイフは粉々になり、近くにいた暗部3人と一緒に斬られた。


「そこよ!」

シリーダは、雷を纏わせた鞭を横から振り、後ろを向いたままの流星を攻撃した。


「タイミングは良いが、あまいな」

「それは、どうかしら?ウルミラ!」

「はい!お母様」

「「アイス・ウォール」」

流星は、シリーダ達に振り向きながら、左に移動して避けようとしたが、ウルシアとウルミラが氷魔法アイス・ウォールを唱え発動し、氷の壁を作り出して流星の逃げ道を経った。


「流石、ウルシア様とウルミラね」

シリーダは、感心しながら手元を動かし鞭の軌道を修正し、流星を襲う。


「やるな。エンチャント・フレイム、エンチャント・シール」

左手で両剣の刃に炎属性と、もう片方の刃に封印を寄与し、両剣を凪ぎ払った。


まず、紅色に染まって炎属性が寄与されている刃を氷の壁に攻撃し蒸発させ、もう片方の刃に封印属性が寄与して紫色に染まっている刃で、シリーダの雷属性を纏っている鞭を防いだ。


両剣に触れた鞭は、紫色に染まり雷属性を封印され、切り落とされた。


「嘘…」

防がれるとは思っていなかったシリーダは動きを止め、唖然と立ち尽くした。


その隙に流星は、シリーダに向かってダッシュして接近する。


暗部2人が、シリーダに接近しようとする流星を止めようと、シリーダの前に出た。

「させるか!ぐぁ」

「行かせるか!がはっ」

たが、2人は一瞬で両剣で斬られ、足止めすらできなかった。


「しっかりして下され、シリーダ様!勇者よ。あなた様は潰れなさい」

ニールは、大きな声を出してシリーダの名を呼び、少しでも流星の注意を惹くため、右手を上げ巨大化させ、横を通る流星に目掛けて叩きつけた。


木々は潰し潰され、風圧で落ち葉と腐葉土が飛び散り、大地は轟音をたてながら窪んだ。


「やったか!?」

「いえ、手応えはあるのですが…」

ローケンスの問に、ニールは歯を食い縛りながら答え、叩きつけた右手が震え、徐々に上がっていく。


皆は、ニールの巨大な右手を凝視した。

そこには、片膝を付きながら左手で一本で押し上げていく流星の姿があった。


「ふー、驚いたな。ユニーク使いか。能力は巨大化か?」

流星は話ながら、立ち上がっていく。


「うぉぉ…。い、今のうちに…。皆さん、しとめて下さい…。は、早く!うぉぉぉ」

ニールは右手だけでなく、完全に巨大化して髪型赤く染まり、両手で押さえつけながら、さらに全体重もかける。

ローケンスを先頭に、ヘルレウスメンバーと隊員達が流星に接近する。


「おっ、凄い力だな」

ニールに押され、少し腰を下ろされた流星は感心しながら、右手に持っている両剣で、ニールの右手首を斬った。


「ぐっ」

手首を斬られたニールは、激痛に堪えながら、流星を押さえつける。

切り傷は浅かったが、力を込めるほど血は勢いよく滴れていき、あっという間に力が入らなく、感覚すらなくなっていく。


すぐにローケンス達は接近したが、その時、ニールはフッとある可能性に気付いた。

それは、負傷している自分が何故押さえられているか、もしかしたら、流星は、いつでも自分の手を押し退けれるのではないかと。


「と…」

嫌な予感がしたニールは、「止まって下さい」と言いたかったが、もう既に手遅れだった。



負傷したニールを見たヘルレウスメンバーと暗部達は、急いで接近し、攻撃モーションに入っていた。

しかし、急いでいたからなのか、いつもよりも少しだけだが攻撃モーションが大振りになった。



流星は、その隙を見逃さなかった。

ローケンスやヘルレウスメンバーよりも、先に暗部達5人が、自分の間合いに入った瞬間、一気に身体強化を高め、左手でニールの手を退かして、動きに無駄のない研ぎ澄まされた横一線に凪ぎ払った。


その速さは、目に霞むほどで、武器を振り下しようとしている暗部5人に、防御や避ける暇などの認識を与えず正確に喉を切った。


「「うっ」」

5人は武器を落とし、両手で自分の喉を押さえながら倒れた。


「よくも!仲間をっ!」

激怒したローケンスは、一撃に全力を込め、大剣を振り下ろす。


「ほう」

流星が感心するほど、ローケンスの一撃は見事だった。


流星は、片手で両剣を横に傾けて防いだだけだったが、それが両剣の特徴が生かせる対応だった。


それは、ローケンスの大剣を防いだ刃の方は押されたが、流星は力に逆らず、身体を横にずらし受け流しただけだが、逆に反対側の刃は、押された同じ速度でローケンスを襲ったのだ。

要するに、テコの原理だ。


「くっ」

ローケンスは、自分の首を目掛けて迫る流星の刃を上半身を反りギリギリで回避した。


「えっ!?ぐはっ」

隣にいたジャコルは、予想外の事態で反応が遅れて斬られた。


「ほう、あれを避けるとはな。エンチャント・ライトニング。ライトニング・タイガー」

流星は感心しながら、体勢を崩しているローケンスの横腹に回し蹴りを入れ吹っ飛ばし、続けて両剣に雷属性を寄与して魔力を込め、ローケンスに届かないがローケンスに向けて大きく振り抜く。


両剣から虎の形をした蒼白い雷が、ローケンス目掛けて林の中を駆ける。



「ぐぁ」

吹っ飛ばされたローケンスは、木々をへし折りながら大きな岩に叩きつけられて止まった。


しかし、目の前には虎の形をした雷が放電しており、周りを黒焦げに焦がしながら迫ってきているが、叩きつけられた激痛で身動きができないどころか呼吸すら回らなかった。



虎の周りにいた暗部達は、慌てて壁を作り防ごうとしたが、放電する雷の速度や威力に負けて、感電し真っ黒に焦げて倒れていく。


避けるのは無理だと判断したローケンスは、ただ直撃を待つだけしかできなかった。



「「アース・ウォール」」

「「アイス・ウォール」」

魔王、ミリーナ、ウルシア、ウルミラの4人は、身動きが取れないローケンスと虎の間に、巨大な土と氷の分厚い壁作ったが、虎は壁を破壊してローケンスを襲った。


「ガァァ…」

壁に激突したことで威力が弱まっており、虫の息だがローケンスは、かろうじて生きていた。



「「ローケンス様!」」

「ローケンスなら大丈夫わ。それより、今は勇者に集中しなさい!」

ウルミラや隊員の悲鳴に似た声で心配したが、ミリーナが忠告した。




「糞…」

気が遠くなるローケンス。

気絶すれば楽だが、気が遠くなりそうになっるたび舌を噛み、気絶しないようにしている。


今できることは、気絶しないで少しでも身体が動けるようになったら、一刻でも早く魔王の所へと赴くためだった。

それは、忠誠心…。

いや、絆がそうしていた。


ただ、今は同胞達の悲鳴が聞こえてくるだけだった。

(俺が回復するまで、魔王様を守ってくれ。頼むぞ、皆…)

その時、右側の茂みから落ち葉を踏みつける音が聞こえた。



「くっ」

ローケンスは、誰かが近付いて来ていることに気付いたが、振り返ることもできない。

もし、勇者の仲間や魔物に遭遇したら、何もできずに殺られてしまう。

ただ、味方であることを願うことしかできなかった。


「ロ、ローケンス!酷い怪我、生きているわよね?ハ、ハイポーション飲んで」

茂みから現れたのは、ジャンヌだった。


ジャンヌは、恐る恐るローケンスに近づき、ローケンスが瞬きしていることに気付き、ハイポーションをローケンスの口元に当て飲ませた。


その後も、定期的にハイポーションを飲ませて貰ったローケンスは、会話ができるまでに回復した。


「あ、ありがとうございます。ジャンヌ様。しかし、何故ここに居られるのですか?ここは、とても危険です」

岩に寄りかかったままの状態で、ローケンスは、わかっていたが質問をした。


「皆が心配で…。わ、私も力になりたかったの…。で、でも、勇者の力を目の辺りにしたら、こ、怖くなって…」

泣きながら、ジャンヌは素直に話した。


「今回の勇者は、今までとは比べ物にならないほど化け物です。ですので、怖いのは仕方ありません。だから、一刻も早く。ここからお逃げ下さい、ジャンヌ様。後は、俺が命を懸けてでも魔王様をお守り致しますので」

「……。いいえ、私は魔王の娘よ。私が勇者を倒すわ」

涙を袖で拭き、目元を赤く染めたジャンヌの瞳は力強さがあり、上辺だけの言葉だけでなく実行する目だった。


「駄目です、ジャンヌ様!お願いですから、お止め下さい」

「ローケンス、ごめんね。でも、私は行くわ。ハイポーションは、全部は置いていけないけど。ここに置いておくわ」

ローケンスは慌てて止めようとしたが、ジャンヌは残りの数本のハイポーションをローケンスの横に置いて、同胞達の悲鳴が聞こえてくる方角へ走って行く。


そして、ジャンヌの後ろ姿が見えなくなった。

「ジャンヌ様~!く、糞~!!」

ローケンスは、自分の不甲斐なさを激怒し叫んだ。

次回、過去編が終わります。

話が中途半端に終わり、誤字脱字が多く、申し訳ありません。

もし、宜しければ次回も御覧下さい。

では、失礼します。

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