開会式と勇者現れる
大成がゴブリン・ロードを討伐し、無事に終わった。
【魔人の国・ボルダ国・ボルダ城】
魔王決定戦の日が訪れ、大成達はボルダ国に来ていた。
ラーバスと違い、広大な草原に囲まれており、草原には所々に大きな岩がある。
ボルダ国は擁壁はあるが、中は幅広い道以外は外と同じ広大な草原のままで、そこに家や店などが建てていた。
城はというと、普通の城とは違い、あちらこちらに出入口が設けられており、商人が行き来している。
そう、ここボルダ国は、魔人の国の中で最大の貿易国なのだ。
そんな中、大成は擁壁の端に立ち、両腕を目一杯広げて背伸びをしていた。
「ぅ~ん。あれから来てなかったけど…。皆、生き生きしているな。良かった、良かった。上手くいって」
大成は、手を額に当てたまま周りを見渡した。
以前、来たときより断然に活気に溢れていたことに大成は、喜びに浸っていた。
大成がラゴウバルサを潰した後、シリーダがボルダ国にいるラゴウバルサの残党を退治した際に同盟を持ち掛けた。
ボルダ国の王であるベルジャは、快く承諾した。
ラーバスに帰国途中の大成は、精神干渉魔法レゾナンスでシリーダから報告を受けてボルダ国に寄って訪れていた。
だが、大成が訪問した時のボルダ国は、貿易の国で有名なはずたったが国は活気はなく廃れていたのだった。
原因は、先代の魔王が倒されたことにより、各国の魔王を名乗りだして独立が増えて孤立化が進むとともに、平等だった取引が次第に脅しに変わっていき、理不尽な取引は断っていったため徐々に廃れていったのだ。
大成がベルジャに出した条件は、ボルダ国の防衛をラーバスがする代わりに、貿易が盛んになった際、貿易の中心地として頑張って欲しいだけだった。
ベルジャは、涙を流しながら大成の手を両手で握り感謝した。
そして、感謝の形で貿易で得た利益3%を献上すると提案したが、その時は大成から断れた。
だが、気が済まなかったベルジャは、後にどうにか押し通すことができたのだ。
ベルジャは、兵士4人を連れて大成に歩み寄る。
「ここに居られましたか修羅様。お久しぶりです」
「お久しぶりです。ベルジャさん」
大成は、ベルジャに振り向いて端から降りて挨拶をした。
「修羅様のお陰様で、このボルダ国は先代の魔王様の時と変わらないか、それ以上に盛んになりました。本当に感謝しています」
「いえいえ、こちらこそ、ベルジャさんのお陰で貿易が上手くいってます」
2人は笑顔で握手をした。
「修羅様、お1つお聞きしたいのですが」
「何ですか?」
「護衛の方はどちらに?」
「大袈裟過ぎたから抜けてきました」
「は!?それは駄目です!危険です!修羅様の噂は、魔人の国中に広まってますので狙われます」
「だからか…」
「だからか、ですか?」
大成が溜め息をしたので、ベルジャは気になり尋ねた。
大成は、無言で親指を立て、自分の後ろを差した。
ベルジャと兵士達は、指先の方へ視線を向け驚愕した。
そこには、十数名が倒れていた。
「こ、これは…」
「向こうから襲ってきたので、返り討ちにしただけです。大丈夫ですよ、誰1人として殺してはいませんので、ただ今は気絶して寝ているだけです」
ベルジャが声を震るわせながら聞かれたので、大成は心配させないために説明をした。
「お、おい…。あそこに倒れている奴は、殺し屋のケテフルじゃないか?」
「いや、それだけじゃないぞ。その下敷きになっている奴は、最近、魔王として名を挙げているノーランとヌドフだぞ」
兵士達は、他にも倒れている人物の名を次々に出していく。
ベルジャは、大成の服装などを見たが、特に乱れてはいなかった。
「あの…修羅様。この方達を、お1人で倒したのですか?」
恐る恐る尋ねるベルジャ。
「ん?そうですけど?何か?」
それが、どうしたという感じに大成は頭を傾げる。
驚きを通り越したベルジャ達は、開いた口が塞がらなかった。
そこに、ジャンヌとウルミラがやって来た。
「大成、ここに居たのね。もう、探したんだから」
「大成さん、早く受付に行ってエントリーしないと」
両手を腰に当てて怒っているジャンヌと、オロオロしているウルミラ。
「あっ、そうだった。ごめん2人とも、心配させて。じゃあ、受付に行ってくるよ。そういうことで、ベルジャさん。今日は宜しくお願いします」
「あ、は、はい…。」
未だにフリーズしていたベルジャは、大成に話し掛けられたことで我に返り、慌てて返事をした。
「お久しぶりね。ベルジャ」
「お久しぶりです。ベルジャさん」
「お久しぶりです。姫様、ウルミラ様。それにしても、以前、お会いになった際は幼く可愛いかった御二人が、今はこんなにも大きくなられ、とても御綺麗になりまして」
「あ、ありがとう」
「あ、ありがとうございます」
ベルジャに褒められたジャンヌとウルミラは、頬を赤く染めた。
「それにしても、修羅様の強さに私達は驚愕致しました」
「まぁ、大成は規格外だから」
「アハハ、そうですね」
ジャンヌとウルミラは、大成が返り討ちにした輩達を見て苦笑いを浮かべた。
「ですが、今回は先代の魔王様が苦戦したお相手シャーマン・エヴィンもエントリーされています」
本題に入ったベルジャは、深刻な面持ちで忠告した。
「ええ…」
「はい、知ってます…」
ジャンヌとウルミラも笑顔が消え、深刻な表情で頷いた。
【ボルダ城内】
ボルダ城内は、馬車が行き交い、とても城とは思えない内装だった。
その城内で、大成は道に迷っていた。
「流石、貿易の国だな。えっと、受付は何処だろう?」
大成は、広い道を歩いていたら、すれ違う人々から注目された。
「ねぇ、あのローブってラーバスの紋章よね」
「嘘!あんな子供が、あの修羅様なの!?ローケンス様を倒したと聞いていたから、何というか岩男みたいなイメージだったから、わからなかったわ」
「でしょう?でも、実際はちょっとカッコいい年相応の男の子なのよ。せっかくだし、ちょっと声を掛けてみない?」
女性達の声が聞こえた大成は本能に従って、その場から走って離れた。
その後、どうにか受付に着いた大成は、無事にエントリーを済ました。
【ボルダ国・検問所】
ローブを纏いフードを被った流星とメルサは、検問を訪れていた。
「お前達、人間だな?それに、ボルダ国は初めてだろ?」
門番10人のうちの1人が尋ねる。
「ああ、魔王を決める大会を見に来た。親しい友人が出場するんでな」
流星は、会場のチケット(入場券)2枚を出して答えた。
このチケットは、流星とメルサが目立つことなく検問をどう潜り抜けるかを考えていた際に、2人の近くにいた男達が長い時間待たされてイライラしており、近くにいた流星達に絡んできたので、流星は殺気だけで男達を気絶させて、チケットとパンフレットを手に入れたのだった。
「お前達、人間なのに魔人の友人がいるんだな。しかし、そのチケットは一般人用だから、一番遠い正門側だぞ」
「後から友人が出場するって知った時には、これしかチケットが残ってなかったんだ。それに、確かに珍しいが、別に可笑しくはないだろう?争いが始まる前まで、お互いに手を取り合って支えてきた時期もあったんだ。そもそも仮にだ。もし、俺達が反逆者だとしても、流石に2人で強者達が勢揃いしている場所に侵入しないさ」
「それもそうだ。魔王候補だけでなく、あのヘルレウス様達も来ているしな」
「だろ?」
「わかった。入場を許可する」
「ありがとう」
メルサは、会釈しながら門番達にお礼を言って入国した。
「ウフフフ…。上手く入国できたわね、流星」
「ああ、そうだな」
ボルダ国の検問所を無事に通過し入国した流星とメルサは、お互いに顔を見合わせて笑顔を浮かべた。
「あれ?流星、どこに向かうの?会場は向こうよ」
流星が会場とは違う方向に行こうとしたので、メルサは疑問に思い尋ねた。
「先に賭博屋に向かおうと思う」
流星は、検問の順番が来るまでボルダ国のパンフレットを見ていた。
「賭博屋?」
「そうだ」
「なるほどね。わかったわ」
メルサは納得し、流星と一緒に賭博屋に向かうことにした。
【賭博屋】
流星とメルサは、賭博屋にいた。
賭博屋に来た理由は、もちろんあった。
今、誰が魔王になるかを賭をしているので、詳しい情報が簡単に手に入るからだ。
賭博屋の壁には、わかった範囲の選手の魔力値や得意な魔法、これまでの活躍などの詳細が紙に記載されて貼られていた。
その貼られた紙を必死に魔人の人達は、その情報を見ている。
流星とメルサは、机に置いてある魔王決戦に出る出場者名簿に目を通す。
「お前達、人間か?珍しいな」
賭博屋の店主は、流星とメルサに気付いて声を掛けた。
「なぁ、この魔王修羅の横に種族は人間と書いてあるが、本当に人間なのか?」
流星は、名簿を指差して店主に尋ねた。
「そうだ。人間の癖に、やたらと強い。しかも、子供だ。噂では、異世界から召喚されたとか。今回は、姫様が特別にお認めになって出場することになった」
店主は、胸元のポケットから手帳を取り出して、魔王修羅のページを開き、流星とメルサに見せた。
「へぇ~。そんなに強いのか?」
異世界という言葉に流星は、興味が湧いた。
「ああ、ここに書いてあるが。あのヘルレウスのローケンス様を倒して、ラーバス国の魔王代表になり、ラゴウバルサ国を1人で潰し、最近ではゴブリン・ロードを倒したそうだ」
ページを捲り、胸を張って自慢気に説明する店主は、どこか勝気だった。
「メルサ。今、持ち金の全部を魔王修羅に賭けても良いか?」
「良いわよ」
流星の隣にいるメルサは、躊躇わず持っているお金を出し始めた。
「ちょ、ちょっと!あんた、他の選手も強者揃いだぞ。特にシャーマン・エヴィンは、先代の魔王様と互角に戦った奴だ」
慌てて止めようと思い、必死に説明する店主。
「どうする?流星」
「いや、修羅に一点張りだ」
「わかったわ」
「じょ、嬢ちゃんも彼氏を止めなよ。俺は、破産しても知らないぞ」
「心配してくれて、ありがとう。でも、流星の言うことは絶対だから大丈夫よ」
「おいおい…。本当に知らないからな」
どんだけゾッコンなんだと呆れた店主は、お金を受け取りチケットを渡した。
「大会が終わったら、そのチケットをここに持ってきな。当たっていたら、換金してやる」
「わかった。行こうかメルサ」
「ええ」
流星達は店を出ようとしたが、3人の男達が行く手を塞ぎ、その中の1人の男が声を掛ける。
「待ちな」
「何の真似だ?」
流星は、不機嫌な表情で尋ねた。
「お前ら人間だろ?お嬢ちゃんを置いて、さっさと人間の国に帰りな」
「嬢ちゃんも、強い男の方が好きだろ?俺達と気持ち良いことしようぜ」
「キャハハ…。」
「フフフ…。」
男達は、下品な声で笑い始める。
「おい!お前達やめろ」
「旦那よ。やめて欲しければ止めてみな」
止めようとした店主だったが、男達が武器を取り出したので、それ以上は言えなくなった。
「はぁ~。おい、この場で死にたくなければ、そこをどけ」
1度、溜め息を吐いた流星は、殺気を出して睨みつけ威圧した。
「「うっ」」
流星の瞳を見た瞬間、男達は自分が殺される姿の幻想を見てしまい、その場で気絶して倒れる。
「じゃあ、会場に行くぞ、メルサ」
「ええ、あなたとなら何処までも」
守って貰ったことが嬉しかったメルサは、いつもよりも強く流星の腕を抱きしめた。
「あっ、そうだ店長。この大会が終わったら、大金を取りに来るから準備して置いてくれ」
流星は後ろに振り返らず、空いた手を挙げて振る。
「…ああ……」
「「……。」」
店主は呆然呟き、賭博屋にいた他の全員は呆然と立ち尽くしていた。
【ボルダ城内】
大成は、ジャンヌ、ヘルレウス達と合流していた。
「修羅様、お願いですから自由行動は控えて頂きたい」
「そうですわ」
「その通りです。もしものことが、起きたらどうするのですか」
ローケンスに続くシリーダとニール。
「はぁ…。僕の周りに護衛が何十人も居たら動きにくいし、第一、周りに迷惑をかけてしまいますよ」
大成は、溜め息をしながら答えた。
「そ、それは…」
大成に指摘されたローケンスは、やり過ぎたと気付き、皆も静まり返る。
「ところで、大会のルールって単純だけど、これだけで合っているのかな?」
少し気まずい雰囲気になったので、大成は雰囲気を変えるためにルールが記載されている紙を前に出して質問した。
「あ、はい。合ってます」
慌てて答えたウルミラ。
大会のルール。
各国、最大5人までの代表を出場させることができる。
形式は、バトルロイヤルで8人になるまで戦い続ける。
降参、気絶、死亡したら負けとなる。
武器、魔法の使用はあり(魔剣や禁術もあり)。
選ばれた8人は、後日トーナメント式で戦い、優勝した者が魔王となる。
「そろそろ、時間なので行ってくるよ」
「大成!シャーマン・エヴィンには気を付けなさいよ。まぁ、あなたが負けるなんて思えないけど。頑張りなさい」
「「頑張って下さい」」
「頑張ってお兄ちゃん」
「ダーリンなら、誰が相手でも余裕だよ」
「「ご武運を、修羅様」」
皆の応援を背にし大成は、ウォーミングアップしながら競技場に向かった。
【会場・観客席・正門側】
流星とメルサは、競技場の観客席に座って配られた出場者名簿を見ていた。
「ねぇ、流星。そろそろ教えて欲しいわ。何故、魔王修羅に賭けたの?あの魔王の片腕と言われているローケンスを倒したから選んだの?でも、その理由なら先代の魔王と互角にやり合ったエヴィンの方を選ぶはずよね…」
メルサは、流星に寄り添いながら尋ねる。
「そうだな。俺が選んだ理由は、店長が魔王修羅は人間の子供で異世界の人間と言っていたよな」
「ええ」
「普通の子供は、いや、人間の子供は、そんなに強くない」
「そうね」
「たが、俺は一人だけ心当りがある」
「えっ!?あっ、まさか…」
「そう、そのまさかだ。前に話した義弟の大成だ」
「なるほどね」
メルサは、驚いたが納得した。
【選手待機室】
闘技場の選手待機室では、選手の皆は大成とエヴィンの2人に注目をしていた。
「あれが、シャーマン・エヴィンか…。不気味な衣装だな」
「ああ…。だが、とても強いぞ。前回、俺は観客席で戦いを観戦した。戦闘スタイルは、死者の魂を利用して意思を持ったゴーレムを複数造りだして操る能力だった」
「複数同時とか、あいつとは戦いたくねぇな」
「同意するぜ」
選手達がエヴィンを見て、ヒソヒソと会話をする。
エヴィンの服装は、着物姿だが着物には文字がぎっしりと書き詰められており、目元は青色の布で目を隠しした状態だった。
一方、大成の近くにいる選手達は…。
「おいおい、あれが噂の魔王修羅か?」
「覇気がねぇな。ってか、普通のガキと変わらない感じがするぜ」
「だな。噂は偽情報じゃないのか?」
「かもな。噂の全てが、あり得ないほどの功績だからな。実際は弱いかもな、ハハハ」
「「ワハハハ」」
周りは笑い出した。
その中には暗殺者を雇って、大成の暗殺に失敗した輩も居たが、まさか、大成に返り討ちにされたとは思えず、ローケンス達に返り討ちにされたと思っていた。
そして、開会式が始まる。
【観客席・プレミアム席(各国の上位貴族の席)】
ジャンヌ達に近い観客席は、ざわついていた。
特に女性陣は、ローケンスとニールの話題、男性陣はジャンヌ、シリーダ、ウルミラの話題で盛り上がっていた。
「ねぇねぇ!ローケンス様が居るわ。相変わらず、カッコいいわね!」
「そうね。でも、紳士的なニール様も良いわよ」
女性達は、うっとりしながら会話をする。
「やはり、妖艶でスタイル抜群なシリーダ様が良いな」
「いや、俺は、ロリ巨乳のウルミラ様かな」
「そうか?俺は、時々、鋭い眼光するジャンヌ様だな。あの視線は堪らんぞ」
「お前らロリコンかよ」
「「あぁ!!悪いかよ!」」
「貴様!ロリコンを嘗めるなよ!」
「す、すまない。悪かった…」
ジャンヌ、ウルミラ派の男2人に凄まれて、シリーダ押しの男は謝罪をする。
「「……。」」
ジャンヌ達は、会話が聞こえていたが気にせずに黙って観客席に座って開始を待っている。
ジャンヌ達と離れた観客席も盛り上がっている。
「ねぇ、誰が優勝すると思う?」
「いや、そんなことよりもあそこを見ろ。ジャンヌ様、ローケンス様、シリーダ様、ニール様、ウルミラ様も居るぞ!ラーバスの最高戦力が勢揃いしている」
「そうね、壮観だわ」
「そうだな。出場者を一掃できそうな感じだな」
「フフフ、言えてる。でも、ラーバスの出場者って修羅様お一人なのよね?保険にローケンス様達も出場すれば良かったのに」
「信頼できるほど強いと言うことかもな」
「そうね。早く、エヴィンと修羅様の戦いが見たいわ」
「ああ」
観客は、ジャンヌ達からリングへと意識が向いた。
【リング】
ラーバス学園の女子生徒ミクが、リングに上がった。
ミクはベルジャの娘で、ミクが司会者がしたいと頼んだら即答でOKだったのだ。
「今回、実況させて頂きます、ミクです。今日から歴史に新たなる1ページを刻む、魔王決定戦が始まります。皆さんの目と心にも刻み込みましょう。さぁ、お待ちかねの選手の入場です」
次々に選手が入場し、紹介していくミク。
「次も大物、ナンバー44、ブラメウス国代表、シャーマン・エヴィン。皆さんもご存知、前回の大会で先代の魔王様と互角の戦いを繰り広げ、惜しくも魔王には届きませんでしたが。現在では、もっとも魔王に近い人物として有名です」
ミクの紹介で、会場は盛り上がった。
「フン、ローケンスが出てくると期待していたが。まさか、ガキを代表にするとはな。ラーバスも地に落ちたものだ」
エヴィンは、リングに上がり溜め息をする。
「次は、今、話題中の話題になっている。ナンバー45、ラーバス代表、魔王修羅。多くの噂や武勇伝を創っていってます。最近だと3日前、私の目の前でゴブリン・ロードを軽くあしらい討伐した。生きた伝説!そして、このボルダ国や他の国と同盟を結び、各国を救っています。ありがとうタイセイ君。優勝したら、キスしてあ・げ・る。きゃ~、言っちゃった~」
途中で顔を真っ赤にし、手をブンブン振りながら、実況するミク。
「ミクちゃんまで、手を出したら殺すぞ!コラッ!」
「人間の分際で!」
リングに向かう大成は、男達からブーイングと殺気を向けられた。
「何が、生きた伝説だ…。しかも、「言っちゃった~」って、恥ずかしいのなら、公で言わないで欲しい。あとが恐いんだ…あとが…。特にジャンヌ達が…」
「「……。」」
男達の殺気は何ともないが、無言のジャンヌとウルミラが放つ殺気に大成は身体の芯から震えた。
大成がリングに上がった瞬間、観客席から大成に向けて、ジャンヌ達とは違う強烈なプレッシャーが放たれた。
周りにいた観客やリングの上にいる選手達の中には、尻餅をつく者、気絶する者、嘔吐する者が現れた。
【観客席・正門側】
「やはり、大成…。お前だったか」
つい嬉しくなり、興奮してプレッシャーを放ってしまった流星だったが、すぐに抑えた。
「流星、あの子があなたの義弟さん?」
「ああ、そうだ」
「義弟さんは、魔王になるかもしれないというのに、嬉しそうね」
「これで、命懸けの戦いができるかもしれないからな」
流星は、瞳を大きく開いて嬉しそうに口元を緩めた。
「…そうね…」
命懸けの戦いをして欲しくないと心の中で思ったメルサは、悲しい表情になった。
【観客席・プレミアム席】
「今のプレッシャーは…。まさか…【時の勇者】か!?」
「ローケンス様、私もそう思います」
ローケンスがその場で立ち上がり、険しい表情でニールが肯定した。
1度戦ったことあるジャンヌ達は、すぐに流星だとわかった。
「すぐに、【時の勇者】を見つけなさい。但し、報告と監視だけよ。ここで、戦闘になったら被害が尋常じゃなくなるから良いわね?」
ジャンヌは、立ち上がり片手を前に出して、騎士団達に捜索するように指示を出した。
「「了解!」」
騎士団達は、了承して一斉に散った。
流星の顔は、魔王と流星との戦いの時に念のため録画したマテリアル・ストーンを使用していたので、それを騎士団達に見せていたので把握していた。
ジャンヌとウルミラ、イシリア、それにマーケンスは、ゴブリン・ロードとの戦で武器が破壊され、ラーバス国で一番の鍛冶屋に修理を依頼したのだが無理だと言われた。
そんな時に、大成が修理してみると言ったので渡している。
今、所持している武器は、魔人の国で一番と噂されている鍛冶屋で購入した仮の武器だ。
他の武器屋より精度は良いのだが、流星を相手には不安があった。
だが、ジャンヌとウルミラの瞳には、力強さが宿っていた。
(大成は、私が必ず守ってみせる!)
(大成さんは、この命にかえてでも守ります!)
ジャンヌとウルミラは、お互いの顔を見て頷き合った。
【リング】
(今さっきのは、間違いない流星義兄さんだ。何処だ?……居た。やはり、この世界に来ていたのか)
大成は、プレッシャーがした方角を凝視して、流星の姿を見つけた。
死んだと思っていた義兄の流星が生きていて嬉しい反面、これから戦う運命になるかもしれないと思うと悲しくなった。
そして、いよいよ大会が始まる。
次回、バトルロイヤルが始まります。




