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ゴブリン・ロード討伐と動き出す勇者

ゴブリン・ロードに追い込まれるジャンヌ達だったが、どうにか大成と連絡がとれた。

【合宿3日目の昼・ナドムの森・奥】


ゴブリン・ロードは、イシリアとマーケンスを探しに森の中へと入り、魔剣で木々を斬り倒して進み。


そして、2人を見つけて笑みを浮かべた。



「くっ、ウィンド」

イシリアは、すぐに風魔法ウィンドで風で砂煙を巻き起こした。


イシリアとマーケンスの2人は戦わず、さらに森の奥へ逃げて時間を稼ごうとする。

ゴブリン・ロードは、すぐに大きな翼を羽ばたき、突風で砂煙を吹き飛ばした。



イシリアとマーケンスの2人は、背後から突風に煽られた。

「きゃっ」

「うわっ」

イシリアは、バランスを崩し転がり倒れ、

マーケンスは、遠くへと飛ばされた。


「っ!!」

すぐに、起き上がろうとしたイシリアだったが、転がった際に足を捻ったことで立ち上がることすらできなかった。


「グガガ」

イシリアを追い詰めたゴブリン・ロードは、笑いながらゆっくりと歩み寄る。


「今よ!撃って!」

「わかったわ、イシリア。あとは任せなさい。あなたは早く、そこから離れなさい」

イシリアが大きな声出した瞬間、空からジャンヌの返事が帰ってきた。


ゴブリン・ロードは、声がした空を見上げる。


そこには、ジャンヌとウルミラが風魔法エア・バーストを唱え、空中で浮かんでおり、お互いの手を繋いで魔力を共鳴させていた。


「私のことは気にしないで、早く撃ちなさい!」

「そんな…」

「でも…」

ジャンヌとウルミラは、戸惑った。

なぜなら、このまま魔法を放つと間違いなくイシリアは、巻き込まれるからだ。



「グガ!?」

ゴブリン・ロードは、今までのジャンヌ達の攻撃は大したことないと感じて、追い込むことに夢中になり感知を怠っていたが、今2人から発せられる魔力に危機感を抱いた。


「早く!」

「そんな…お願いです、イシリアさん。早く、そこから離れて下さい。そこに居たら巻き込まれます」

「良いから!早く!」

「イシリア。あなた、まさか…」

ジャンヌは、イシリアが足を挫いて動けないことに気づいた。


「グガ?」

ジャンヌ達が会話していた時、ゴブリン・ロードは空を飛び、2人が魔法を放つ前に接近しようと思ったが、右側の木の影から稲妻を纏ったクナイ6本が均等に周りに刺さった。


「ペンタグラム・サンダー・スパーク」

マキネが唱えた瞬間、地面に刺さっているクナイから稲妻が走り、他のクナイへと移動していく。

そして、六芒星の魔法陣が描かれ、魔法陣の中が激しくスパークした。


「ギギギ…」

特にダメージはなかったが、感電したゴブリン・ロードは一瞬だが動きを止まった。


その隙に、木の影からエターヌとユピアが現れ、イシリアに駆け寄った。

「イシリアお姉ちゃん!」

「大丈夫?」

「エターヌ、ユピア。ありがとう」

2人は、イシリアの両側に移動し抱えてその場を離れた。

マキネも、すぐにイシリア達の後を追った。


ジャンヌとウルミラは、皆が退避したのを確認して空いている片方の手をゴブリン・ロードに向けた。

「皆、ありがとう」

「ありがとうございます」

「これで終わりよ」

「これで終わりです」

2人はお礼を言い、声を揃えてゴブリン・ロードに死刑宣告を言い渡した。


「グガ~!!」

雄叫びをあげながらゴブリン・ロードは、2人に襲い掛かる。


「「ユニゾン魔法ファイア・ストーム」」

ジャンヌとウルミラの掌から炎と風が混じり合い、灼熱の炎の嵐が燃え上がる。

そして、飛んで迫ってくるゴブリン・ロードに向けて放った。


ゴブリン・ロードは、魔剣に魔力を込めて迫ってくる炎の嵐を凪ぎ払ったが、掻き消すことは出来ず飲み込まれ大地に叩きつけられた。


「「はぁぁぁぁっ!」」

この機会を見逃したら、もう勝機がないと判断した2人は、魔力が尽きるまで全力を出し続けた。

炎の嵐は周りの全てを飲み込み焼き尽くし、空高くまで燃え盛った。



「「ハァ、ハァ…」」

やがてジャンヌとウルミラの魔力が尽き、炎の嵐も鎮火し発動していたエア・バーストの効果も消えて、2人はそのまま落下する。


森から飛び出したマキネ、エターヌ、ユピアの3人。


「ジャンヌ!」

「「ウルミラお姉ちゃん!」」

マキネはジャンヌを、エターヌとユピアはウルミラを空中で抱きしめ助けた。



遠くに飛ばされたマーケンスは、イシリアの肩を担ぎながらジャンヌ達のところへ歩み寄った。


「ありがとう、マキネ」

「ありがとうございます、エターヌちゃん、ユピアちゃん。ゴブリン・ロードはどうなりましたか?」

ウルミラの疑問に、皆はゴブリン・ロードを見つめた。



辺りは焦げ臭いと焼けた臭いがし、蒸気が覆っていてゴブリン・ロードや周囲が見えなかった。


しかし、今まで体が震えるほどのプレッシャーを放っていたゴブリン・ロードのプレッシャーは、今は感じとれなかった。


そして、真っ白く周囲を覆っている蒸気を撫でるかの様に風が吹き薄れていく。

次第に見えていき、辺り一面、地面が赤黒く焼けておりゴブリン・ロードの姿が見えた。


ゴブリン・ロードは、全身重度なやけどを負っており、仰向けに倒れていた。

だが、死んではいなかった。


「うっ、は、早く、とどめを刺さないと…」

「任せて!」

ジャンヌの意見に承諾したマキネは、ジャンヌを近くの木の幹に寄り掛け、後腰にかけている短剣抜き、ゴブリン・ロードにとどめを刺そうと近づこうとした。



「グガ…」

しかし、ゴブリン・ロードが小さく鳴き声を出した瞬間、森から目を紅く光らせているゴブリン集団が現れた。


「糞、またかよ…」

舌打ちをしたマーケンス。


ジャンヌとウルミラは魔力の消耗し過ぎて魔力欠乏に陥って動けず、イシリアは足を挫き動けなかった。

エターヌ達は、支えていたウルミラとイシリアをジャンヌに寄り添うような形に降ろした。


「周りのゴブリンは無視して、先にゴブリン・ロードだけを倒すのよ。そうしないと、またソウル・ブラッド・ソードの能力で強くなるわよ」

「わかったよ、イシリア。後は任せて!」

イシリアの助言を聞いたマキネは頷いた。


マキネ達は、ジャンヌ達の前に出て横に並んだ。

「早く、終わらせてダーリンの元に行こうよ」

「「うん!」」

マキネの意見に、エターヌとユピアは賛同して武器を取り出した。


「じゃあ、言われた通りに皆で先にゴブリン・ロードを狙って倒して、最後に残りのゴブリン達を殲滅するぞ!」

大剣を失ったマーケンスは、手をポキポキ鳴らしながらゴブリン達に向かってダッシュした。

マキネ達もマーケンスの後を追った。


だが、ゴブリン・ロードは、ジャンヌ達が思いもよらない行動を起こした。


ジャンヌ達は、ゴブリン・ロードがゴブリン集団を呼んだのは、身を守るための盾、もしくは手負いの自分達を殺すためだと思っていた。



「グガ!」

ゴブリン・ロードは、残りの僅かな魔力を刀に込め、地面に突き刺して再び影を出した。

しかし、今回は瀕死の状態なので、込めた魔力が少く、影の範囲は狭かったが呼んだゴブリン達の足元に届いた。


影は手の形に変化し、ゴブリン達の身体を絡みつくように拘束していく。

ゴブリン達は必死に抵抗しているが、びくともしないまま、無理やり口を開かされ、ゴブリン達の口から青色の魂が煙の様に出てくる。

やがて、煙だった魂は安定した人魂の形に変わり、影は人魂を吸収していく。


ゴブリン・ロードの傷がシューっと蒸気を出しながら、徐々に癒えていく。


続けて影は、今度は針の形に変化して魂を抜いたゴブリン達を突き刺し、血を吸っていく。


マキネ達は、阻止しようとしたが、接近したら自分達も影の餌食になると思って立ち止まり、遠距離から魔法攻撃しても影で捕まえているゴブリン達を盾にして、やり過ごされると判断し、警戒するだけに留まった。


ゴブリン・ロードが動けない間に逃げようとも考えたが、ゴブリン・ロードの回復速度が異常に早く、手負いのジャンヌ達を担いで移動しても、すぐに追い付かれるとわかるほどだった。



「私達を置いて、うっ…。あなた達だけでも逃げなさい!」

「逃げて下さい」

「逃げて」

ジャンヌが咄嗟に判断し、ウルミラとイシリアも賛同した。


エターヌ達が心配した表情で、ジャンヌ達の方に振り返った。

「でも、ジャンヌ達が…」

「大丈夫よ。私達は、すぐには殺されないわ」

「そうね」

「そうですね」

マキネが心配したが、イシリアの意見にジャンヌとウルミラが肯定した。


ジャンヌ達の言っていることは、エターヌ達は理解している。


確かに負傷しているジャンヌ達は、女性なので、すぐに殺されないとわかる。

だが、繁殖のため犯されるのは目に見えていた。


しかも、ジャンヌ達は魔力が高く、スタイルも抜群。

苗床になる女性の魔力が高いほど、強い子孫が産まれる。

なので、そんなジャンヌ達をゴブリン・ロードが見逃すわけがなかった。


ゴブリン・ロードの戦い方は、それを物語っていた。

ゴブリン・ロードは、ジャンヌ達を掴もうとしたり、わざと峰打ちしたりして誤っても殺さないよういた。

そのことにジャンヌ達は気付いている。



「しかし、ジャンヌ様達が…」

「グガガ!」

マーケンスが言いかけた時、とうとゴブリン・ロードが完全に回復して立ち上がる。


ゴブリン・ロードは、回復しただけではなく、さらに強化され一回り大きくなっていた。


「グガグガ!」

エターヌ達が増えたことで喜んだゴブリン・ロードは、厭らしい目でエターヌ達を見詰めた。


「この変態ゴブリン!」

罵りながらマキネは、クナイ2本を投擲した。

2本のクナイは、ゴブリン・ロードの左右の腕の内側の関節に当たったが、強固な肉体に阻まれ刺さらなかった。


「固いね」

続けてクナイ7本をゴブリン・ロードの周りに等間隔で投擲し、先ほど弾かれたクナイ1本を利用して、合計8本のクナイがゴブリン・ロードを囲んだ。


そして、クナイからクナイへと稲妻が走り、八芒星の魔法陣ができあがった。


「グガ!」

ゴブリン・ロードは、同じ手に引っ掛からない様に上空へと飛んだ。


「賢いね。でも、無駄だよ。オクタ・グラム・サンダー・スパーク」

マキネは、両手で短剣を逆さに持ち、魔力を込めて地面に突き刺した。

短剣から稲妻が走り、クナイに向かった。

クナイに稲妻が当たり、八芒星がさらに光輝き発動した。


六芒星とは、比べ物にならないほどの轟音をたてながら、高さ10mぐらいまで稲妻が激しく駆け登り、空中に逃げたゴブリン・ロードを飲み込んだ。


マキネが使える最大級の魔法陣。

八芒星を発動させるには、魔力を倍増するクナイだけでは魔力が足らないので、同じく魔力を倍増する短剣を利用し増幅することで、やっと発動できるほど強力な魔法。


指定ランク5の魔物でも、一撃で倒すことができる可能性があり、最低でも重傷を負わすことができるほどの威力。


「グガ~」

稲妻に飲み込まれたゴブリン・ロードは、雄叫びあげた。


「「うっ」」

「「きゃっ」」

マキネ以外の皆は、轟音よりも稲妻の発光が眩しく、腕を目の前に出した。


ゴブリン・ロードは、地面に落ちて大きな音が響いた。


「はぁはぁ…。どう?驚いた?ジャンヌ達が合宿へ行った後、練習して出来るようになったんだよ」

マキネは魔力を使いきり、その場にへたり込んだ。


「あ、相変わらず、凄いわね。マキネ」

「フフフ…。ありがとう、イシリア」

マキネの八芒星の威力を初めて見たジャンヌ、ウルミラ、イシリア、マーケンスはたじろいだ。


「流石だね。マキネお姉ちゃん」

「起き上がらないね。倒したかな?」

練習で見たことあるエターヌとユピアは、全く動じてなかった。



「グガ…」

ゴブリン・ロードは外傷はなく小さく呻いたが、マキネのオクタ・グラムによって感電し、体が痺れて動けない状態だった。


「やはり、これでも死なないのか…」

ジャンヌとウルミラのユニゾン魔法ファイア・ストームでも死ななかったので、マーケンスは予想はしていたが、そのタフさに呆れていた。


「マーケンス、アース・ウォールを唱えて」

「わかった。アース・ウォール」

マーケンスは、イシリアの意図に気づき、ゴブリン・ロードの周囲に土の壁を作った。


これ以上、他のゴブリン達が近寄れないようにして、ゴブリン・ロードの回復や強化を阻止する。



一度、皆はジャンヌの所に集まった。


「私達の攻撃では倒せそうもありませんので、ここから離れませんか?それに、そろそろ大成さんが来てくれるはずです」

「「そうね」」

「「うん」」

「はい」

ウルミラの提案に、皆は賛成した。


だが、ゴブリン・ロードの回復力は、ジャンヌ達の想像を超えていた。


「グガ~!」

ゴブリン・ロードは、動けるようになった瞬間、一気にジャンヌ達に接近して左手でマキネを掴もうとする。


「「後ろよ!」」

「後ろです!」

ジャンヌ、イシリア、ウルミラは慌てて叫んだ。


マキネは、魔力を使い果たしていたので、体が思うように動かなかった。


「糞!」

マーケンスは、マキネを助けようとしたが、今まで戦ってきた疲れが出て反応が遅れ舌打ちした。



「「マキネお姉ちゃん!」」

エターヌとユピアの2人は、マキネとゴブリン・ロードの間に入り、大成から貰った魔鉱石でできたネックレスを手で握りしめ魔力を込めた。


2人のネックレスは光り輝き、2人の目の前に巨大な魔法陣が展開され魔力防壁ができた。

魔力防壁はゴブリン・ロードの左手を弾き返した。


「グガガ!」

ゴブリン・ロードは、激怒し魔剣を翻し峰で防壁を叩きつけて破壊した。


「ユピアちゃん!」

「エターヌちゃん!」

エターヌとユピアの2人は、お互いの名前を呼び合い、すぐに魔力防壁を発動する。


「グガ!」

再び、ゴブリン・ロードが魔剣で防壁を破壊したが、すぐに防壁を造り出すエターヌとユピア。

それが、幾度も続いた。



2人の魔力も底を尽き始めた。

「「はぁはぁ」」

2人は、大きく肩を上下に動かしながら防壁を張る。


そして、とうと2人の魔力が尽き、魔力防壁が壊された。

「「きゃ~」」

「グガガ」

ゴブリン・ロードは笑いながら、ゆっくりと近づいて左手を伸ばそうとした時、右側から膨大な魔力を感知して、慌てて振り向いた。


ゴブリン・ロードが伸ばした左手は、エターヌの目の前で止まり、笑みを浮かべていた表情が真剣な面持ちに変わった。


「「もしかして!?」」

ゴブリン・ロードに少し遅れて、ジャンヌ達も気付いた。


ゴブリン・ロードは、相手の魔力の強さを感じとり、苦戦すると判断した。

そして、すぐさま大きな翼を羽ばたき、その場から離れた。


追い付かれる前に、もっと、さらに力を得るため、同胞のゴブリンよりも強い獲物の方が効率が良いと判断して行き先を決めた。

先ほどから戦っている最中、ずっと宿屋がある方角に魔力が集まっているのを感じていた。



ゴブリン・ロードが飛びだった後、大成が現れた。


「遅くなって、ごめん。皆、大丈夫?」

「「ええ」」

「「はい」」

「「うん」」

「かろうじて何とか」

皆、それぞれ返事をした。


大成は皆の怪我を見て、怪我を負わしたゴブリン・ロードに激怒した大成は、殺意が湧き、黒い瞳は輝きを失って冷酷になり、その瞳を見ていたら闇に飲み込まれそうになるほどだった。


ジャンヌとウルミラは、何度か見たことあるので、すぐに視線を外したが、他の皆は知らないので、凝視してしまい背筋がぞっと凍った。


「「うっ」」

「くっ」

エターヌ、イシリア、マーケンスは、怯えて息を飲み込み。


「ダーリン素敵…」

「修羅様~」

マキネとユピアは、頬を赤く染めながら見とれていた。


ジャンヌとウルミラは、マキネとユピアの反応を見て苦笑いした。



そんな中、全く気付いてない大成は話を進めた。

「すまないが、俺はゴブリン・ロードを追って始末する。だから、皆を守ることはできない。許してくれ。グリモア・ブック、ワイド・ヒール」

怒りで言葉使いが変わった大成は、グリモアを召喚し光魔法ワイド・ヒールを唱え発動して、ジャンヌ達の怪我を癒した。


怪我は癒せても、魔力は回復できない。

大成は、ジャンヌ達の怪我を見て、どれほど苦戦を強いられたのか想像できた。


強敵を相手に逃げずに必死に耐えてながら、自分を待っていてくれたことを思うと胸一杯になる。


それなのに、助けに来た自分はゴブリン・ロードを追わないと大変な事態に陥るので、すぐにジャンヌ達から離れることになる。

そのことに、謝ることしかできなかった。


「大成あなた、何を気にしているのよ」

「そうですよ。大成さん、気にしないで下さい」

「お兄ちゃん、エターヌ達は大丈夫だよ」

「ダーリンのためなら、これぐらい何ともないよ」

「大成君。気にするなら、さっさと倒してよね」

「イシリアの言う通りだぜ。大和」

「修羅様、ここはユピア達に任せて」

「ああ、そうだな…。さっさと終わらせてくる」

ジャンヌ達はそれぞれ言い、大成を見送った。




【ナドムの森・宿屋付近】


宿屋にいる教師と生徒達は、教師を中心に連携してゴブリンを討伐していた。


「何あれ?」

「ま、まさか魔物!?」

「せ、先生!大きな魔物が、凄いスピードで飛んできてます」

後衛の生徒達が見つけて指を差した。


「何だと!?あ、あんな魔物見たことがないぞ!」

「し、しかも、な、何ですか!?この恐ろしいほどの魔力は」

「残念だが、ここまでだ。撤退する」

「ですが、バルコル先生。あの速さから逃げれないですよ」

「なら、どうするんだ?まさか、あんな化物と戦うのか?ラファシア先生。あんたも気付いているはずだ。戦っても勝ち目がないと」

「わかっています。だからこそ、教師の私達が少しでも足止めをして、生徒達が避難できる時間を稼ぎましょう」

「何を馬鹿なことを言っているんだ」

教師達はゴブリン・ロードを気付き、相談しているが意見がまとまらなかった。

その間も接近してくる。




そして、言い争っている間に、すぐ側までゴブリン・ロードに接近された。


「こうなったら、戦うしかないわよ…」

「そうだな…」

「こんな時に、大和とマミューラがいない…か…」

教師達は戦う前から、既にお通夜みたいな雰囲気を醸し出していた時、森から人影が物凄い速さで飛び出した。


ゴブリン・ロードは人影を目で追い、真上を見た時には、そこに大成が右足を高く振り上げていた姿だった。


「落ちろ!」

大成は、ゴブリン・ロードの額に踵落としを決めた。


ゴブリン・ロードは、威力に耐えきれず、生徒達の近くに真っ逆さまに墜落して地面に激突した。

大地が揺れ轟音が轟き、そのあと衝撃波と砂埃が舞った。


「「うぁっ」」

「「きゃ~っ」」

近くにいた生徒、教師達に砂埃と衝撃波が襲いかかり悲鳴をあげた。


ゆっくり目を開けて見ると、ゴブリン・ロードの姿が見えないほど深いクレーターができていた。


「な、何事だ!?」

バルコルが呟き、皆は驚愕し唖然とした。



「エア・インパクト」

ゴブリン・ロードを叩き落とした大成は、空中で続けてエア・インパクトを唱え発動して、左右の手に圧縮した空気の玉を2つ作り出して空中に置き、体を反転して両足で踏んだ。


空気の玉を踏んだことにより、空気の玉は破裂し突風が吹き上がり、大成は急加速した。


大成は、急降下しながら右手で拳を握り、俯せの状態でクレーターの中央に倒れているゴブリン・ロードの首筋に攻撃し、再び轟音と砂煙が撒き起こる。


「グガッ」

ゴブリン・ロードは、さらに深くめり込んだ。


「ちっ」

大成は、追い討ちがしたかったが、クレーターの周りに他のゴブリンが、集まってきていたので、舌打ちしながらゴブリン・ロードの上から、すぐさまジャンプして、クレーターから出て学園の皆の前に移動した。


離れた理由は、大成が魔力全快で身体強化しているので、ゴブリンの攻撃は効かないが、上から覆い被された場合、穴の中だと、もしかしたら身動きができなくなると判断したからだ。



魔力を感知したので、大成は空を一瞬だけチラッと見た。

空からマルコシアスの親子が大成の横に舞い降りた。


「マルコシアス。先生や同級生を守ってくれて、ありがとう」

「…ほう」

レゾナンスを使用しているマルコシアスは、大成の冷酷な瞳を見て感嘆な声を出した。


一度、大成と戦ったマルコシアスは、確かに大成は魔力もあり、武術も達人の領域で強者と認めているが、精神面は正直あまいと感じて、魔王としては、まだまだと判断していた。


なぜなら、マーケンスを問い詰める時、確かに強い殺気を込めていたが、マルコシアスだけは、その殺気は本気ではなく形だけだと見破っていた。


その証拠に、始めから嘘がつけない様、自分の娘に真否を確かめさせると伝えていた。


それに、前の時比べ、今の方が数倍以上に殺気が強い。

しかも、今、大成の瞳を見た時、神獣と恐れられている自分ですら、一瞬だが背筋がゾッとするほど冷酷だった。


大成の瞳を見れば、殺すことに何の躊躇もなく殺すだろうとわかる。

特に自分の行動を邪魔する輩は、容赦しないと思わせるほどに。



「ん?どうした?」

「いや、何でもない。助けたのは、先代の魔王との約束でもあったからな。気にする必要はない。それに、娘の命を助けて貰ったお礼もある」

今の大成を見て、マルコシアスは魔王として認めた。


「そっか…」

マルコシアスは見た目は狼なのだが、苦笑いしたように見えた大成だったが、これ以上は踏み込まなかった。


「ここで、皆を守って欲しいんだが…」

「別に構わないが、ゴブリン・ロードの討伐に手を貸さなくても大丈夫か?」

「大丈夫だ。特に問題ない。サンダー・ウィップ」

大成は雷魔法サンダー・ウィップを唱え発動して、右手を前に出して握り締めた。


右手にバチバチと蒼くスパークし、長さ1mぐらいの短い鞭を召喚した。


距離的に届かないゴブリン達に向かって、鞭を振る大成。

鞭は突如10mぐらいまで一気に伸び、ゴブリン達に次々に当てた。


鞭に当たったゴブリン達は、感電して煙を出しながら真っ黒に焦げ、何もできないまま倒れていく。


この鞭の良いところは、雷でできており、ゴブリンに当たっても、貫通して近くのゴブリンにも当てることができるので、一振りで多くのゴブリンを倒せる。


そして、長さも自由に操作ができ、倒したゴブリンの血も残さないほどの丸焦げにできるので、ソウル・ブラッド・ソードの対策にもなる。



「まだ、子供だというのに、本当に恐ろしいバトルセンスだな…」

大成の戦いを眺めているマルコシアスは呟いた。


大成の強さを知ったことやマルコシアスが来たことで、唖然としていた皆は、マルコシアスの独り言で我に返った。


「あれが、噂の森の守り神マルコシアスなのか!?」

「噂の通り、段違いの威圧感ですね…」

「ああ…。それに堂々としている姿は、まるで神だな」

皆は近くにいるマルコシアスを見て感嘆した。



「いや、それよりも…。何だあの魔力は…膨大で、とても冷たい。あの生徒は…、本当に大和君なのか?」

「合っているわ。だって、私はこの目で見ましたから、大和君がグリモア・ブックを出す姿を。大和君の正体は修羅様ですよ」

「や、大和君が修羅様!?」

「大和は魔王修羅様だったのか!?」

「確かにラファシア先生と一緒に、俺もグリモアを出すところを見たぞ…」

「それに、クラスマッチでの活躍。そして、今の放っている魔力と威圧感は本物だ…」

大成が魔王修羅という話題になり騒ぎが起こったが、大成の無駄のない戦いを見て、次第に見とれて静かになっていった。



すぐに地響きをたてながら、ゴブリン・ロードが地面に手を付き、クレータから出てきた。


「グガ~!」

ゴブリン・ロードは雄叫びをあげ、一直線に大成に向かってダッシュして魔剣を振り下ろす。


「グッォ…」

大成は左に一歩前に出て回避して、右拳でゴブリン・ロードの鳩尾を殴り、ゴブリン・ロードは前屈みになった。


前屈みのゴブリン・ロードの頭を両手で掴み、ジャンプして右膝でゴブリン・ロードの顔に打ち込んだ。


「グガッ…」

ゴブリン・ロードは、左手で折れた鼻を押さえながら後退った。


「おい、痛がっている暇はないぞ」

大成は再びジャンプして、無防備になっているゴブリン・ロードの首に回し蹴りを入れた。


ゴブリン・ロードは、何度も地面を跳ねながら吹き飛んだ。


「グガ~!」

よろけながら立ち上がったゴブリン・ロードは、雄叫びをあげた。


その雄叫びで、ゴブリン集団が現れた。

大成は、サンダー・ウィップで次々に倒していき、何も変わらなかった。


しかし、ゴブリン・ロードは、こうなることを計算していた。

本当の狙いは、既に仕掛けていた。

同胞を呼んだ時に、魔剣の影を細くして気付かれないように大成に向けていたのだ。



「大成!危ない!そこから離れて!」

「大成さん!」

大成を心配し、先に森から出てきたジャンヌとウルミラは、影に気付いて慌てて注意をしたが、影は大成の体に巻き付いた。


そして、一気に影を拡大させ、あっという間に大成の首の下まで覆い拘束した。



「大成!」

「大成さん!」

「来るな!問題ない」

急いで大成を救出しようと向かおうとしたジャンヌとウルミラだったが、大成に止められた。


「グガガガ…」

ゴブリン・ロードは、作戦通りにいき、影で拘束した大成を見て盛大に笑った。


大成を拘束した影は、大成の口を開らこうと這い上がろうとするが…。


「おい、いつまで俺に、まとわりついているんだ?」

大成は呟き、魔力を一気に放出させて影の拘束を吹き飛ばした。


「グガ!」

目の前で起きたことが信じられない様子のゴブリン・ロードは、その場に立ち尽くしている。


「せっかく、お前の作戦に嵌まってやったのにガッカリだ」

大成は、ゴブリン・ロードをただ殺すだけでは気が収まらず、追い詰めて殺すことにしていたのだ。


「これで、終わりか?なら、もう死ね」

「グガ~!」

大成が動こうとした時、ゴブリン・ロードは、雄叫びをあげながら魔剣を振り下ろしたが、大成は左手で受け止めた。


「しかし、面白い魔剣だな」

大成は言いながら、魔剣を握りしめ破壊した。


ゴブリン・ロードは、慌ててバックステップして空を飛んで逃げようとする。


「おい、逃げるなよ」

大成は、右手に魔力を込め村雨を発動して、ゴブリン・ロードの翼を斬りつけ落下させて近づく。


「グガ~!」

尻餅ついたゴブリン・ロードは、右手で大成を殴ったが左手で防がれた。


「そうこなくてはな。だが、もう終わりだ。まぁ、少しは楽しめたぜ」

大成はゴブリン・ロードの右手を握り潰し、そして、村雨を発動させ首を切り落とした。



暫く静寂が訪れた。

「お、終わったの?」

「そうですよ。ラファシア先生、終わりましたよ…」

「た、助かったぞ!」

「「やったー!」」

「「ウォォォ!」」

持っていた武器を高らかと上げ、盛大に盛り上がった。


「ふー。終わったよ」

大成は深呼吸し殺気を収め、ジャンヌ達の方に振り向いた。


ジャンヌとウルミラの2人だけではなく、イシリア達も戻ってきていた。


「相変わらず、大成。あなたの強さは非常識だわ」

「そうですよ。力ずくで影の束縛から逃れる人なんて聞いたこともないですよ」

「お兄ちゃんは、誰よりも強いとエターヌは知っているもん」

「フフフ…。ダーリンが負ける姿なんて、想像できないもんね」

「大成君のお陰で皆を救えたわ。ありがとう」

「ユピアは、修羅様のメイドなのに役に立てなかった…」

「そうでもないと思うぞ。なぁ、大和」

「マーケンスの言う通りだユピア。今回は皆が時間稼ぎをしてくれたお陰で、被害が最小に納まったと思うよ。皆、ありがとう」

ジャンヌ達は、それぞれ言いながら大成に向かって歩み寄り、その速度が徐々に速くなり、そして走った。


その場に立ち止まったマーケンスの呼び掛けに答えた大成は、ジャンヌ達に抱きつかれ押し倒された。


「わぁ!?ちょっと」

「「お疲れ様!」」

「「お疲れ様です!」」

「皆、お疲れ様」

大成は、ジャンヌ達から笑顔で言われたので、笑顔で言い返した。


「ん?皆、あれ見て」

仰向けに倒れた大成は驚愕し、目を大きく開いて空を指差した。


「どうしたの?」

「「うわぁ~!」」

ジャンヌ達は、大成の指先を見て感嘆の声をあげた。


そこには、どんよりしていた空は晴れ、虹が二重に架かっていた。

暫くの間、その要因に浸っていた。




「せっかくの雰囲気を壊してすまないが…」

申し訳なさそうに言いながらマルコシアスは、大成達に歩み寄った。


ジャンヌ達は顔を赤く染めて慌てて離れ、まだ大成に引っ付いているエターヌ、マキネ、ユピアの3人を引き離す。


「気にしないでくれ。これから破壊した森を復元するために木の苗を植えさせていく。すまないが、木が大きくなるのに時間が掛かるが」

大成は上半身を起し、片膝を立てた状態で座って話した。


「木を植えてくれるだけでも助かる。それと、話しは変わるが大成よ。3日後、報告を楽しみにしているぞ。ククク…」

「3日後?」

マルコシアスの言っている意味がわからなかった大成は、首を傾げた。


「ん?大成よ。お前は出場しないのか?」

「何に?」

「おいおい、魔人の国の代表を決める大会だ。わかりやすく言えば魔王決める大会。まさか、知らなかったのか?」

「え!?」

大成はマルコシアスに教えて貰い、ジャンヌに振り向いた。


「大成、あなた忘れたの?合宿前に、ウルミラがちゃんと説明したわよ」

「んー。ああ、思い出した。確か場所はボルダっていう国だったかな」

「そうよ」

大成に呆れた皆は、溜め息をした。


「大成よ。そんなんで大丈夫なのか?そうだな…。ゴブリン・ロードを倒してくれたお礼に1つ忠告してやる。決して油断はするな。出場する中には…。いや、1人は確実に強いぞ。何と言っても先代の魔王が苦戦した奴が出場するはずだからな。そろそろ、私はこれで失礼する。この度は感謝する」

一方的に言ってマルコシアスは、娘と一緒に森の中へと消えていった。



学園の皆が、大成達に近づいた。

「大和君…。いや、修羅様、ジャンヌ様、ウルミラ様ありがとうござます」

「「ありがとうござます。助かりました」」

ラファシアがお礼を言って、皆も後から言った。


「今まで通りに接して欲しいのですが」

「そ、そう。わかったわ」

「それより、魔王の大会の時は、俺達応援しに行きま…。いや、行くからな」

「私も」

「絶対、魔王になってなってくれ」

「ああ、期待に答えられるよう頑張るや」

言葉を言い直したりしている人が多く、大成は笑いを堪え答えた。


そのあと、ゴブリンと激しい戦闘を繰り広げたので、全員はライセンスは試験を受けずに貰えた。




【人間の国・バルビスタ城】


その頃、人間の国の首都バルビスタでは、大臣はバタバタし、廊下を走っていた。

「た、大変だ!一大事だ!」

「どうしたんだ?そんなに慌てて」

そんな大臣を、時の勇者と呼ばれる流星が止めた。


「勇者様、3日後に魔人の国で魔王を決める大会がボルダという国で行われるという情報が入ってきました」

「ほう…」

手を顎に当てて考える流星。

その表情は生き生きしていた。


「流星。楽しそうだから、2人で見に行かない?」

流星の背後から、バルビスタの姫メルサが出てきた。


「そうだな。興味があるな」

流星は頷いた。


「ひ、姫様。駄目です。危険です」

大臣は、慌ててメルサを止めようと腕を掴もうとしたが避けられた。


「大丈夫よ。それより、流星。今から行きましょう。善は急げっていうでしょう」

「ふっ、そうだな」

メルサは、流星の腕に抱きつき引っ張る。


「大臣、お父様に宜しく伝えといて!」

「メルサ、抱き抱えるぞ」

「ええ」

流星は、メルサをお姫様だっこをして2階のベランダから飛び下りた。


「ひ、姫様!お待ちを!私は、国王に何とお伝えすれば良いのですか~!」

大臣はベランダから顔を出して叫び、その場に膝をついて頭を抱えた。


こうして、流星とメルサの2人は、魔人の国ボルダへと向かうのであった。

次回、魔人の国、ボルダで魔王決定戦が始まります。

マルコシアスが忠告した強者や時の勇者・流星も現れ、波乱の予感。



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