ゴブリン・ロードと魔剣ソウル・ブラッド・ソード
ゴブリン・ロードがジャンヌ達の前に姿を現した。
【合宿3日目の昼・ナドムの森・奥】
ジャンヌの風魔法エア・ショットで、ゴブリン・ロードの前にいるゴブリン達を倒していく。
次にイシリアとマーケンスが風魔法エア・スラッシュを唱え、剣や大剣を振って風の刃を放ちゴブリン・ロードを狙った。
「ギャギャ」
ゴブリン・ロードは、雄叫びをあげた。
「「ギャ…。」」
周りのゴブリン達がより紅く目を光らせ、自らゴブリン・ロードの盾になるべく、風の刃に飛び掛かり切断され絶命した。
攻撃は届かず、ゴブリン・ロードは無傷だった。
ウルミラは、時間差攻撃で氷魔法アイス・ミサイル・ニードル唱え発動して、ゴブリン・ロードとその周りに狙いを定めて氷の矢を放った。
先に、わざと外した氷の矢が木や地面に着弾し、氷柱のように尖った。
尖った氷柱は、直接狙った氷の矢と同時に、ゴブリン・ロードに迫ったが、後ろにいたゴブリン達が再び身を呈して串刺しになり死守する。
ゴブリン・ロードは、首を左右に振り音を鳴らしながら、厭らしい視線をジャンヌ達に向ける。
ゴブリンの生体は、雌が生まれることはなく、常に雄しか誕生しない。
そのため、他種族の雌を拐い、苗床にして繁殖する。
つまり、雌のウルフや人間の女の子など、今回はジャンヌ、ウルミラ、イシリアを苗床にしようと思っているのだ。
そんな厭らしい視線は、常日頃から大抵の男性が向けてくるのでジャンヌ達は慣れていた。
((やはり、男って…))
心の中で、3人は呆れていた。
「くそ、身を呈して守るのか。だけど、このまま攻撃すれば、いずれ陣形が壊れて隙ができるな」
舌打ちしたマーケンスは、気軽に考えていた。
「馬鹿!そんな簡単なことじゃないわよ!」
「そうですね。数は減らせますが、まだ数えきれないほどいますし、今さっきの攻撃でも陣形は崩れていませんので、そう簡単にはいかないかと思います」
イシリアがマーケンスを叱り、ウルミラが解りやすく説明をした。
「それだけではないわね。おそらく、ゴブリン・ロードが他のゴブリンを操っている気がするわ」
ジャンヌの意見に誰も異議を唱えなかった。
それと、もう1つ気になることがあった。
ジャンヌ達は大成と別れる前に、大成からゴブリン・ロードの情報を聞いていた。
話によるとゴブリン・ロードは単体では、そこまで強くはないが頭がとても良く、他のゴブリンと緻密な連携を取り、苦戦するだろうとのことだった。
(確かに連携を実際に目の辺りにして、苦戦しそうね。でも、今までの経験から負けることはないと感じるわ。それに、第一頭が良いのなら、自分よりも強い私やウルミラがいるのに、自ら現れること自体が可笑しな話。向こうが数で勝っていても、ゴブリン・ロードには及ばないけど、こちらには他のゴブリンよりも圧倒的に勝っているイシリアやマーケンスもいるのに…。私達を嘗めているのかしら?)
余裕に満ちたゴブリン・ロードを見て、ジャンヌは違和感を感じていた。
「一筋縄ではいかないわね」
「「ですね」」
「ええ」
ジャンヌが言い、皆も肯定した。
「ウィンド」
ジャンヌは風魔法ウィンドで、砂煙を起こす。
「フリーズ」
すぐに、ウルミラは右手を地面につき、氷魔法フリーズを唱えて地面を凍らした。
「「ギィ…」」
前衛にいたゴブリンは、砂煙で状況がわからないまま足元から凍っていく。
前衛が凍ったことに気付いた他のゴブリン達は、足に魔力を纏い、氷漬けを回避した。
「「エア・スラッシュ」」
フリーズとほぼ同時に、イシリアとマーケンスは、再び風の刃を放った。
だが、ゴブリン達は、これにも対応して自ら身を呈してゴブリン・ロードを守った。
ジャンヌ達は砂煙の中、動いていた。
先に左右から、双剣を持ったジャンヌと矛を持ったウルミラは、ゴブリン・ロードに接近し斬りかかった。
しかし、またしても後ろからゴブリンが盾になるべく、前に出てきた。
「ハッ」
ジャンヌは、片方の剣でゴブリンを斬り、もう片方でゴブリン・ロードを攻撃する。
「ヤッ」
ウルミラは、全力で矛を真横に凪ぎ払い、ゴブリンの胴体を真二つにして、その勢いのままゴブリン・ロードに攻撃をした。
盾になるゴブリンが居なくなっても、慌てた様子を見せないゴブリン・ロードは、バックステップして回避した。
そのバックステップ中に、イシリアが飛び出して正面から突撃した。
「トリプル・スピア」
イシリアは、自分の特技の高速3段突きを放った。
3つの突きは、まるで3本の剣で同時に攻撃したかのように思わせるほど速く鋭く、3つ同時に突き刺さると思わせるほどだ。
「グガ!」
その突きを目の辺りにしたゴブリン・ロードは、目を見開き、後ろ腰にぶら下げていた刀を抜いて、3つの突きの内、1つは左肩に刺さり負傷したが、残りの2つは防ぎ、すぐに剣で横に凪ぎ払った。
「きゃ」
イシリアは、受け流そうとしたが完璧とはいかず、弾き飛ばされた。
「オラァァ!」
ゴブリン・ロードに隙ができたので、マーケンスはゴブリン・ロードに飛び掛かり大剣を振り下ろした。
だが、ゴブリン・ロードは、左手を刀の峰を支えるようにして両手で刀を持ち、マーケンスの全力の一撃を受け止めた。
マーケンスとゴブリン・ロードの衝突により、ゴブリン・ロードの足元の地面は凹み、衝撃波が周囲を襲う。
衝撃波で周囲の砂煙は消し飛び、近くにいたゴブリンは、その場で踏ん張った。
「「くっ」」
ジャンヌとウルミラは、平気だったが、ゴブリン・ロードに弾かれたイシリアは、着地した時だったので、バランスを崩し片手を地面につき、ずり下がった。
「グガガ」
マーケンスの一撃を耐えたゴブリン・ロードは、笑いながら押し返した。
「糞っ」
飛び掛かり空中だったマーケンスは、踏ん張りが利かず、イシリアより遠くまで弾き飛ばされたが、空中で体勢を整え、両足で木の幹に着地し、その反動を利用してジャンヌ達の近くに飛び降りた。
「ジャンヌ様。仕留めることができず、申し訳ありません」
「「……。」」
謝罪するマーケンスだったが、誰も反応しなかったので首を傾げながら皆を見渡した。
ジャンヌ達は、ゴブリン・ロードの刀を見て驚愕していた。
ゴブリン・ロードが握っている刀は峰の部分が黒く、刃の部分が紅色で生々しい威圧感が漂っていた。
「あ、あの剣は…。まさか…。」
「はい…。ランドニー先生が、いつも自慢していた剣ですね…。」
「ソウル・ブラッド・ソード…。」
イシリアが尋ね、ウルミラが所有者を言い、ジャンヌが剣の名称を呟いた。
ソウル・ブラッド・ソードは、魔剣の中の魔剣。
その名の通りに魂や血を代償にすれば、するほど強くなる特殊武器。
過去に他種族との大戦争で活躍した複数ある魔剣の中の一刀だ。
しかし、あまりにも代償が大きく危険視され、戦争終結後、封印が施し厳重に保管していたが、マミューラが盗賊時代に盗んで、闇市場で売り捌いたことで行方がわからなくなっていた。
だが、刀には封印が施しており、封印を解除するには莫大な資金が掛かるので、魔王達は大丈夫だと思っていた。
しかし、後に刀の所有者がランドニーと判明した時には、もう既に封印が解除されていた。
魔王達は取り戻そうとしたが、ランドニーは貴族の中でも上層なので強制回収はできず、交渉を試みたが馬鹿みたいな額を要求をしてきたので、結局は諦めざる終えなかった。
救いは、ランドニーは魔法にしか興味がなく、武器に殆ど興味がないということだった。
その証拠に刀の効果も知らない上、聞こうともしなかった。
ただ、魔剣という珍しいアクセサリーを所持していたかったのだ。
ジャンヌ達の周りには、討伐したゴブリンの死体が散らばっている。
そして、ソウル・ブラッド・ソードの能力。
追い込んでいたと思っていたが、いつの間にか逆に追い込まれていた現状。
自分達よりも頭も良く、魔剣で手に負えなくなるほど強くなると理解したジャンヌ達は、顔が青く染まっていった。
「姫様…。この状況は、大変危険です。一旦、退却した方が宜しいかと思いますが?」
ウルミラも刀の性能を知っていたので忠告した。
「そうしたいけど、あの効果は数日まで続くわ。仮に、ここで退却できても、もし…宿屋まで攻めに来られたら大変なことになるわ」
「そうね。せめて、大成君が来るまで耐えないと」
ジャンヌもイシリアも、刀の性能を知っている。
問題なのは、ゴブリン・ロードならば、ここから宿屋まであっという間に到着してしまうので、退却はできないと判断した。
「そうですね。わかりました」
ウルミラは、握っている矛に力を込めて身を引き締めた。
大剣のことしか興味がないマーケンスは、ソウル・ブラッド・ソードを知らなかったので、なぜジャンヌ達が怯えているのかが理解できていなかった。
マルコシアスに比べ、ゴブリン・ロードは圧倒的に弱く感じたマーケンスは、一人でゴブリン・ロードに接近した。
「一人ではダメよ!」
「危ないです!」
「戻りなさい!マーケンス!」
ジャンヌ達はマーケンスに止まるように言ったが、マーケンスは止まらなかった。
「ん?」
マーケンスは、走りながら怪訝な表情になった。
後ろにいるゴブリンが盾になるかと思っていたが、前に出てくる気配がなかったからだ。
代わりに、ゴブリン・ロードの口元がニヤついていた。
ゴブリン・ロードは、ソウル・ブラッド・ソードを両手で逆手に持ち地面に突き刺した。
刀から発生した影にゴブリン・ロードは飲まれ、突き刺した地面からも、影が辺りに広がった。
「何だ!?」
接近していたマーケンスはジャンプし木の上に避難し、ジャンヌ達も木の上に避難した。
影は、針の形になり、周りのゴブリンの死体を突き刺して血を吸い付くしていく。
やがて、死体は干物みたいに萎れていき、徐々にゴブリン・ロードの影が膨れ上がっていった。
ゴブリン・ロードが影に覆われた時に支配が解除され、その光景を見たゴブリンは、蜘蛛の子を散らす様に逃げ出した。
次第にゴブリン・ロードを覆っている影が薄れていき、現れたのは先程まで戦っていたゴブリン・ロードの姿ではなかった。
2mだった身長が3mに巨大化しており、筋肉は盛り上がって肌が灰色に変色し、そして大きな角が生えて、顔は安全に鬼になっていた。
さらに黒い翼まで生え、まるでその姿は鬼神だった。
「な、何だ…。これは…」
「「~っ!」」
一変したゴブリン・ロードの姿と膨大な魔力とプレッシャーを肌で感じたジャンヌ達は怯んだ。
今まで指定ランク4後半から5ぐらいの魔力だったゴブリン・ロードが、今ではマルコシアスと同じ指定ランク5の更に上の神獣に迫るほどだった。
再び厭らしい視線をジャンヌ達に向け、ゆっくりと近づくゴブリン・ロード。
今まで平気だった視線が、今は相手の威圧感が強くなり、本能が逃げることも抗うことができないと悟ったジャンヌ達は、身体の芯から震えた。
「くっそー、だぁっ!」
「ダメ~!」
ゴブリン・ロードの近くにいたマーケンスは、イシリアの停止を振り切り、木の上から飛び降りながら大剣を振り下し全力の一撃をゴブリン・ロードの頭に叩き込んだ。
だが、ゴブリン・ロードは、防ぐ仕草もせず直撃したが、何もダメージを受けてない様子で巨大になった刀でマーケンスを斬りにかかった。
「ぐっ。う、嘘だろ」
大剣を盾にして防ごうと思ったマーケンスだったが、大剣がバターみたいに切り落とされ、そのままマーケンスに迫る。
そして、刀がマーケンスに直撃する直前にイシリアが走ってきていた。
「トリプル・スピア」
イシリアは、ゴブリン・ロードの刀の側面に3段突きを放って軌道をずらしたが、イシリアの剣先が凹み剣身にヒビが入って砕けた。
「グガガ」
ゴブリン・ロードは、始めからこうなることを狙っており、上手くいったことで笑った。
すぐさま、左手でイシリアを掴もうとしたが、ウルミラも接近しており、イシリアに飛びついて距離をとる。
「ガァァ!」
最後の最後で上手くいかず、激怒したゴブリン・ロードは、ウルミラとイシリアに振り向いた。
「エア・インパクト」
ジャンヌは風魔法エア・インパクトを唱え、周囲の空気を圧縮した空気弾を、隙だらけのゴブリン・ロードに目掛け飛ばした。
ゴブリン・ロードがジャンヌに気付き、振り向いた瞬間に直撃して圧縮した空気弾が破裂した。
圧縮した空気が破裂したことにより、突風が発生し周囲を襲った。
周囲の木は弓の弦みたいに反り、周囲のゴブリン達は吹っ飛んだ。
「アース・ウォール」
マーケンスは、ウルミラとイシリア2人の前に移動して、左手を地面につき、土魔法アース・ウォールを唱え、土の壁を作り出し突風を防いだ。
「ありがとうございます」
「助かったわ。ウルミラ、マーケンス」
ウルミラとイシリアは、お礼を言いながら立ち上がった。
「フン、貸しは返しただけだ」
頬赤く染めたマーケンスは、そっぽ向く。
すぐにウルミラ達は、その場から移動しようとした時、突如、ゴブリン・ロードの左手が土の壁を破壊して、イシリアに迫ってきた。
「エア・ショット」
武器が破損したイシリアは、咄嗟にエア・ショット唱え、15発の空気弾を放ったが、ゴブリン・ロードの左手は怯まない。
イシリアが掴まりそうになり、ウルミラは思いっきりゴブリン・ロードの左手を目掛け、矛を振り下ろし斬り付けた。
ゴブリン・ロードの左手は出血して手を引いた。
イシリアを助けることができたが、ウルミラの武器も破損した。
「ありがとう。ウルミラ、でも…」
「いえ、気にしないで下さい」
ウルミラ達は逃げる時、空いた壁の向こうから、突風が吹き上げた。
「姫様!」
「ジャンヌ!」
「ジャンヌ様!」
今度は、ジャンヌを助けるために向かう。
ジャンヌは、ウルミラ達を助けるために自ら囮になり、ゴブリン・ロードを惹きつけていた。
イシリアとマーケンスの戦いを見たジャンヌは、接近戦に持ち込まれたら勝てないと判断し、ある程度の距離を維持しながら、風魔法で攻撃していた。
得意な炎魔法は、森が火事になる恐れがあるため使用せずにいたが、風魔法だとダメージを与えられないとジャンヌは判断した。
「くっ、ファイア・アロー」
炎魔法ファイア・アローを唱え、炎の矢を16発を作り出し放った。
ゴブリン・ロードは、大きく息を吸い込み、炎の矢に向かって息を吐いた。
息は、まるで突風ように強烈で、炎の矢は掻き消されたり、軌道をずらされて地面や木など着弾し木が燃えた。
ゴブリン・ロードが吐いた息は、ジャンヌを襲う。
ジャンヌは、ただの息で防がれたことにショックを受けて反応が遅れた。
「うっ、嘘…」
片手を目の前に出して、顔を守りながら踏ん張ったジャンヌ。
(息だけでアローが防がれたことはショックだったけど。目的は達したわ)
すぐに気を取り直したジャンヌは、ゴブリン・ロードからウルミラ達の意識を逸らして、救えたことだけでも良しとした。
ゴブリン・ロードは、すぐにウルミラ達の方を向いたが、そこにはウルミラ達の姿はなかった。
「ガアァァ!」
まんまと出し抜かれたことに激怒したゴブリン・ロードは、空を見上げ雄叫びをあげ、大地が震えた。
「「~っ!」」
雄叫びが、あまりにも大きくゴブリン・ロードの近くにいたジャンヌは勿論だが、離れていたウルミラ達も両手で耳を塞いだ。
ゴブリン・ロードは目を血走らせ、ジャンヌに向かって走り迫る。
今まで手加減していた時とは違い、ゴブリン・ロードは体格に見会わないほど速く、一瞬で間合いを詰めて殺さないように峰打ちで横に凪ぎ払う。
「くっ…」
予想以上の速さで接近されジャンヌは驚愕したが、どうにかジャンプしながら後方に跳び回避した。
だが、ゴブリン・ロードは、続けて左拳で殴りにかかった。
「きゃっ、うっ」
ジャンヌは、空中で双剣をクロスにしてガードしたが、弾き飛ばされて木に背中を強く打ち、息が詰まった。
ゴブリン・ロードは、ゆっくり歩み寄り、ジャンヌを見据えた。
「グガガガ…」
動けない姿を見て笑い、左手で木に凭れ掛かっているジャンヌを掴まえようとする。
「姫様!」
ウルミラは叫びながら、ジャンヌに飛びつき回避した。
しかし、ゴブリン・ロードは、そのまま大きな左手をジャンヌとウルミラに目掛け動かして甲で叩いた。
「「きゃ」」
2人は、地面をバウンドしながら転がっていく。
「ジャンヌ!ウルミラ!」
「ジャンヌ様!ウルミラ様!」
イシリアとマーケンスは叫び、お互いアイコンタクトした。
「「エア・ブロー」」
2人は、殺傷力の高いエア・スラッシュでも、ダメージを与えれないと判断し、ジャンヌ達からゴブリン・ロードを離すために突風のエア・ブローを選択した。
合成魔法でユニゾン魔法ではないが、2人の突風が重なって一つになり、巨大な風の塊でゴブリン・ロードに攻撃した。
合成魔法とユニゾン魔法の違いは、合成魔法はお互いの魔力を合わせるが、ユニゾン魔法はお互いの魔力を共鳴させ、お互いの限界を超えて合わせる魔法。
合成魔法とユニゾン魔法は、似て非になるもの。
突風は、大地と周りを削りながらゴブリン・ロードに迫る。
「ガァァ!」
魔力を感じたゴブリン・ロードは、振り向いて大きな翼で羽ばたかせて突風を巻き起こした。
お互いの突風が激突し、左右の大地が深く抉れ、遠くに離れていた木や岩も何も無かったように吹き飛んだ。
イシリアとマーケンスは、ジャンヌ達が隠れたことを確認して、すぐに近くの森の中へ入り、姿を眩ました。
「くっ…ウルミラ大丈夫?」
「はい、ただ左腕の骨にヒビが入った感じです。姫様は?」
ウルミラは、右手で左腕を握り絞めていた。
「あばら骨を何本か折れた感じがするわ。くっ…。でも、私も大丈夫よ。そ、それより、大成達に連絡をとらないと…。うっ、悔しいけど、私達だけでは、足止めすることも倒すこともできないわ」
ジャンヌは右手で胸の辺りを押さえて、これからのことを話した。
「そうですね。私が連絡しますので、姫様は安静にしていて下さい。レゾナンス」
傷ついたジャンヌとウルミラは気配を消して、ゴブリン・ロードがイシリア達に振り向いている隙に距離を取り、その後ウルミラは精神干渉魔法レゾナンスを発動した。
【ナドムの森・中央と宿屋の間】
大成達は、魔力を使い果たしたマイク達を護衛しながら、ゆっくりと宿屋へ戻っていた最中、ゴブリンの集団と交戦していた。
大成とマミューラが、魔力を感知した。
相手はウルミラだった。
「大成さん、マミューラ先生、聞こえますか?」
「ああ」
「聞こえるよ、ウルミラ。そっちは、苦戦しているみたいだけど大丈夫?」
ゴブリン・ロードの気配を感じた時から大成は、襲ってくるゴブリンを退治しながら、ずっとジャンヌ達を心配し意識をジャンヌ達の方へと向けていた。
「それが、ゴブリン・ロードがソウル・ブラッド・ソードの能力を解放し、魔法攻撃や武器での攻撃も全く効かず、手も足も出ない状況です。私も含め皆さんが負傷して助けて欲しいのですが、すぐに来て頂けませんか?」
「ごめん。こっちも、ちょっとゴブリンの集団と交戦中なんだ。少し時間が掛かる。ダビルドが、こっちに来たら交代して、すぐ向かうよ。それまで、逃げるなりして持ち堪えて欲しい」
「そうですか…」
ウルミラが落ち込んでいるとわかる声音だった。
「ソウル・ブラッド・ソードか…。なら、あいつは死んだのか?」
「いえ、ランドニー先生の遺体は見つけておりません。でも、マミューラ先生の考えが正しいと思います」
「はぁ~。あいつは、最後の最後まで迷惑をかける奴だな」
ウルミラの話を聞き、マミューラは溜め息をした。
「とりあえず、それまで無理はするなよ。それに、グリモア・ブック、レゾナンス。エターヌ、マキネ、ユピア、近くまで来ているだろう?」
会話の途中で、大成はレゾナンスを唱え、ジャンヌ達とエターヌ達それにダビルド達に繋げた。
先程から、うっすらとエターヌ達の気配も感じていた。
「「えっ!?」」
大成の口から、ここにいる筈のない意外な名前が出たので、驚いたジャンヌ、ウルミラ、イシリア。
「誰だ?」
エターヌ達と面識のないマーケンスは、学園の同級生かなっと認識した。
「凄いよ!お兄ちゃん。エターヌ達は、気配を消していたのに気付くなんて!」
「流石だね、ダーリン。惚惚するよ」
「何と言っても、修羅様は完璧ですからね!」
エターヌは尊敬しているような声だが、マキネとユピアは妖艶な声音だった。
大成が居なくなり、淋しくなったエターヌ達は、大成に会いに来ていたのだ。
「ま、まぁ、エターヌ達も無理はするなよ。相手は噂になるほど強い、ゴブリン・ロードだ。しかも、さらに強くなっているから気を付けて」
「「はい!」」
「任せて、ダーリン!」
返事をしたエターヌ達は、レゾナンスを解除した。
「ダビルド。あと、どのくらい掛かるか?」
「すみません。あと、15分ぐらい掛かります。ゴブリンを引き連れたままの状態で合流しても大丈夫でしたら、5分ぐらいで着きます」
申し訳なく答えるダビルド。
「流石に引き連れて来て貰っては困るな。こちらには、まともに戦えるのが、俺とマミューラ先生しかいないんだ。しかも、同級生を庇って戦っている状況だ」
今も数匹ゴブリン・メイジがおり魔法攻撃してくる。
達が悪いことに、大成やマミューラを無視し、マルス達を狙ってくるので、マイク達は中央で大成とマミューラは、前後に別れて護衛している。
そのため、マイク達から離れることができない。
ゴブリン・メイジは、遠距離なので魔法で倒すしかできず、前衛に普通のゴブリンがいるので先に倒すか、もしくは、魔力消費が激しい威力の高い魔法で纏めて倒すかだった。
なので、これ以上増えると、優先して倒しているゴブリン・メイジも増えそうなので断った。
「私達なら大丈夫です。ダビルド様は、修羅様のところへ向かって下さい」
「ミシナに同意だ、ボス。ここは、俺達にお任せを」
会話の途中でミシカとドトールが会話に参加した。
「久しぶりだな。ミシカ、ドトール。だけど、大丈夫か?」
「「お久しぶりです。修羅様」」
「大丈夫です」
「任せて下さい」
大成の質問に力強く答えたミシカとドトール。
「俺的には嬉しいが、一応ダビルドの許可を得てからだ」
「……」
ダビルドは沈黙したままだった。
「ダビルド様!」
「ボス!」
「……。わかった。ここは任せる。だが、絶対に無理はするなよ。修羅様、今すぐ向かいます」
「助かるよ」
2人を信じたダビルドは、大成の元へと向かう。
次回、ゴブリン・ロードの話は終わります。




